

報道ステーションのキャスターに就任してからちょうど5年が経ちました。この間、番組をご覧いただいた視聴者の皆さんと、一緒に汗を流して取材や制作・演出に取り組んでくれたスタッフの皆さんに、心から感謝を申し上げます。
5年前はコロナ禍の出口がようやく見え始めた時期でした。閉ざされ、停滞していた社会が目覚めるように、多彩な花が咲き出すことを期待していました。
ところが、世界は別の方向に大きく激動しました。
その引き金となったのが、2022年2月の、ロシアによるウクライナ侵攻です。大国が隣国を平然と武力侵攻するということが、現実に起きてしまったことに驚きました。この一件以来、法と秩序によってかろうじて保たれてきた、あるいは保とうとしてきた世界の姿は変わり、力による支配が横行するようになったのです。
キャスターとしての覚悟も問われました。そしてプーチン大統領の行為を強い批判とともに伝えました。決して許されない行為だからです。
そうした時代背景の中で、パレスチナ自治区ガザの惨劇は起きました。ガザを支配するイスラム組織ハマスによる、イスラエルに対する大規模攻撃と殺戮に端を発したものですが、ネタニヤフ政権によるガザ地区への攻撃は残酷を極めました。番組でイスラエル政府高官にインタビューした時の言葉が忘れられません。それは、ハマスの戦闘員をせん滅する目的のもとでは、罪のない多数の市民を巻き添えにするのはやむを得ないというものでした。平和な戦後日本に育った僕にとって、それは衝撃でした。
私はウクライナに飛び、イスラエルとパレスチナにも足を運びました。
ウクライナの首都・キーウに向かう列車の中で出会ったカップルは、男性がこれから兵役に就くとのことで、別れを惜しむ旅のさなかでした。男性はもともと、私たちと同じジャーナリストだそうです。しかし彼は言いました。「僕は今、兵士です。ロシアと闘う兵士です」と。
イスラエルの「キブツ」近くのガソリンスタンドでは、ミサイルが頭上を飛んでいきました。警報がけたたましく鳴り、車にいた僕は床に、外にいたスタッフはコンクリートの地面に身体を伏せました。毎日をこうした緊張感の中で過ごす人々の現実を、垣間見ることとなりました。
現場に行きたい。そういう思いで5年間を過ごしてきました。ウクライナでの取材で見た戦争の現実、イスラエルやパレスチナで出会った人たちの本音。それらは私のコメントの血肉となりました。
私は自分なりのコメントを工夫して紡ぎ出すことで、視聴者の皆さんにとっての、良きニュースの水先案内人になりたいと考えています。そのためには現場をできるだけ知ることが欠かせません。現場に行くことで言葉は熱を帯び、説得力を持つことになるからです。
プーチン大統領の暴挙によって瓶のフタが取れてしまったように、今や世界は強権的な政治が大手を振ってまかり通るようになりました。民主主義の盟主として世界を引っ張って来たアメリカにトランプ大統領という異端のリーダーが再登場。国際社会を振り回しています。勝算なきイランへの攻撃は長期化し、石油の調達が困難な状況が続きます。物価高が世界を揺るがし、人々の不満が充満し、偏狭なナショナリズムが広がりやすい環境が生まれています。事実、ヨーロッパなどでは再び、排他的なポピュリズム政党が勢力を伸ばしています。
日本もまた大きな波の中にあります。私の報道ステーションのキャスター初陣となったその日、岸田首相が就任しました。しかし政権は安定せず、その後、石破首相、高市首相と続きます。私は3代の首相就任を伝えてきたことになります。
しかし今、最大の懸案である物価高を改善する妙手は見つからず、円安ドル高は収まる気配がありません。高市首相は食料品の消費税を実質ゼロにすることを打ち出し、今の国会に法案を提出する方針です。しかし打ち出の小槌のように財源が出てくるわけではありません。2年限定の減税は2年後の増税と同義だという認識も広まり、効果のほどは疑問視されています。高市首相の支持率は高い状態で推移していますが、政権が安定しているとは、とても言える状況ではないのです。
そして、この5年間で最も急激な変化を見せているひとつがテクノロジーです。あくなき学習を重ね、発達を続けるAI(人工知能)は、もはや人間の手を離れつつあるのかもしれません。サイバー攻撃によって、厳重だったはずのセキュリティを次々と突破される現実は、私たちが新たな危機のフェーズにあることを示しています。個人情報がさらされ、悪用される可能性があるばかりでなく、国単位のインフラが大きなダメージを受け、機能マヒに陥る事態も予想できます。その立役者となるのが、人間の簡単な指令によって、いや人間の指令に先立って自律的に動くAIであることはほぼ間違いありません。
これからのニュースの現場はどこになるのでしょうか。紛争が続き、疲弊した人々の暮らしの場かもしれません。あるいは最先端のテクノロジーの「脳内」なのかもしれません。しかし、いずれにしても私はこれからも、可能な限り現場におもむくことを心掛けたいと思います。
そのためには自分がタフでなければなりません。臍下丹田(せいかたんでん)に力を入れていきます。丹田とは様々な説明の仕方がありますが、おへその数センチ下の方(臍下)、そこから背骨の方向に進んだところにあるエリア、という説明が私には一番しっくりきます。
丹田を意識することで体幹が安定し、それによってあらゆる身体の動きがしなやかに統御される。そんな意味合いがあります。かつては宮本武蔵も剣術の秘訣としていたという話もありますし、今もスポーツの世界ではよく使われます。
今は木曜日の午後7時。本番はもうすぐです。これから最後の打ち合わせに向かいます。生放送はまさにニュースの現場。何が起きるか分かりません。臍下丹田に力を入れ、あらゆる出来事に対応したい。キャスター就任6年目の決意です。
(2026年10月8日)


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