野菜の養生、政治の養生
2024年11月11日

 「猫の額ほど」とは言うが、コタローをはじめ、ウチのネコたちの額は狭い。そしてその小さなオデコをなでてあげると、ことのほか喜ぶ。

①

 ところが、僕が大事にしてきた、それこそ「猫の額ほど」の家庭菜園は、雑草が生い茂りひどいさまになっていた。壁を這っていたゴーヤは、蔓に枯れ葉が無残にぶら下がっている。葉が散って茎だけとなったモロヘイヤは自重に耐えきれず倒れ、その周りを雑草が旺盛に侵食している。
 好きな野菜作りも忘れてしまうほど、この秋は忙しかった。

 立憲民主党、次いで自民党の新しい党首選び、そのあとにやって来た衆議院選挙、そしてアメリカ大統領選挙。ニュースの水先案内人としては、舵をとるにあたってそれなりの準備がいる。
 党首選びでは候補たちの主張や性格をある程度つかんでおきたい。衆院選では、北から南まで、全選挙区の情勢に目を配る。長時間の特番を乗り切るには必要な作業なのである。
 次に、選挙取材は太平洋を越えてアメリカに飛んだ。大統領選のカギを握る州をキャンピングカーで回り、選挙民の声を聴く。これはトランプ氏に勢いがありそうだ、しかし世論調査は拮抗している…そうして日本に戻って選挙戦当日を迎えた。結果は、トランプ前大統領の返り咲きとなった。激動の1か月あまりだった。

 「夏草や 兵(つわもの)どもが 夢の跡」と詠んだのは松尾芭蕉だが、荒れ果てた晩秋の菜園は、いくさを経た日米の政治のこれからをどこか予感させるものがある。
 自民・公明の与党は衆院の過半数を割った。石破首相は辞任をするつもりはさらさらないが、少数与党の政権運営は不安定となる。
 一方、アメリカではトランプ氏の勝利に加え、議会上院も下院も共和党が過半数を押さえそうで、来るべきトランプ政権の基盤は強固に見える。傍若無人なスタイルを取るリーダーであり、各所との摩擦は避けられないだろう。少なくとも野党となる民主党側がストッパーとなるには力不足だし、与党の中もイエスマンが増え、もはやトランプ氏の「独裁政権」になるのでは、という懸念の声は上がっている。
 同盟国日本にとっては、またも予測不能な指導者との対峙に神経をすり減らすことになる。

 だが、僕はこう思うことにしている。ピンチとはすなわちチャンスなのだと。少数与党、結構じゃないか。自民党一強のこれまでは、野党との建設的な議論ができなかった。いや、する必要にほとんど迫られなかった。ところが、与党だけで採決に持ち込むことはできなくなった。野党の主張をある程度取り入れないと、使命である国家予算の成立もおぼつかない。だがそれこそ、形骸化ではない、熟議の国会の入り口になるではないかと考えたい。

 僕が「ほほう」と思ったのは、自民党の国会対策委員会が、立憲民主党に対し、衆院予算委員長のポストを明け渡すと提案したことだ。予算案の審議をつかさどる予算委員長は、正式な国会の役職では最重要ポストのひとつに数えられる。自民党の覚悟の表れか、それともいきなりカードを切らざるを得なかったか。立憲民主はここに与野党の駆け引きに長けた安住前国対委員長を充てるという。

 衆院選では、庶民の手取りの増加という「ツボを押さえた」主張を展開した国民民主党が躍進し、所得のいわゆる103万円の壁の撤廃を与党が受け入れるかどうかがニュースの焦点となっている。玉木代表はあちこちのマスコミに引っ張りだこである種の「モテ期」を迎えている(モテすぎて女性スキャンダルまで明らかになってしまったが)。
 だが、僕はこの予算案の駆け引きの中で、野党第一党の立憲民主が、どこかでカギを握る存在として浮上する場面があるのではないかと思っている。安住予算委員長がどんな差配を見せるかが注目だ。

 不確定要素ばかりしか見えない、次期トランプ政権との向き合い方だって、まだまだこれからである。政治評論家たちの中には、故安倍晋三元首相を成功例として引き合いに出す人が多い。8年前にトランプ氏が当選したとき、いち早くトランプ・タワーに駆け付けて会談する柔軟性を見せ、その後も象徴的なゴルフ外交で、トランプ氏との首脳同士の親交を深めたとされるからだ。生まじめ一本でゴルフもしない石破首相ではいかにも心もとないと語る人もいる。

 しかし、そんな悲観論を今からばらまいても、何の意味もない。
 これからはオールジャパンで行こうじゃないか。無批判に石破政権を応援するつもりはないが、少なくとも、ドナルド・トランプという、ディール(取引)を好む政治家にどう対峙するか、万全の対策を練る必要がある。
 オールジャパンである以上、もちろん野党の知恵も欲しい所だ。政府・与党の対応を批判するだけでは国民の支持はもう集まらない。彼らもまた責任と自覚を求められているのだ。

 ピンチをチャンスに変えるとか勇ましいことを言う以上、僕も足元から実践することにした。

②

 荒れ果てた家庭菜園の雑草を這いつくばって引っこ抜いた。腰が痛いが負けてはいられない。肥料を撒き、ブロッコリーの苗を植え、水菜やサヤエンドウのタネをまいた。少し時期は遅れたが、今なら何とか間に合うかもしれない。ようやく休みも取れるようになってきたから、これからは愛する野菜たちを養生しながら、政治が養生していく姿を重ねていければと願っている。

(2024年11月11日)

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