focus on!ネクストガール
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女優・山田杏奈のプライベートにフォーカス!ハマっているのは料理とサウナ
#11 山田杏奈(後編) 旬まっ盛りな女優やタレントにアプローチする連載「focus on!ネクストガール」。 山田杏奈(やまだ・あんな)。2011年『ちゃおガール☆2011オーディション』でグランプリを受賞。『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(2016年)で映画初出演、『ミスミソウ』(2018年)にて映画初主演を果たす。その後も映画『ひらいて』(2021年)や『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレビ朝日/2021年)など、数々の映画やドラマへ出演を重ね、現在放送中の連続ドラマ『未来への10カウント』(テレビ朝日/毎週木曜よる9時~OA)では、ボクシング部員・水野あかり役を演じている。この後編では、役作りやプライベートな話題を中心に。 【インタビュー前編】 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 初めて役の心情に引っ張られた、映画『ひらいて』 ──一昨年あたりから、山田杏奈さんを映画などで拝見する機会がすごく増えたと思うんですけど、ご自分の中で印象に残っている作品はありますか? 山田 そうですね。最近だと、映画の『ひらいて』になるんですけど、今までやったことのないような役だったし、私の中でも新しい挑戦をした作品だったので、すごく印象に残っています。 ──『ひらいて』の中での難しかったシーンや、自分で演じていて手応えがあったシーンはありますか? 山田 そうですね、役がものすごく自分勝手で利己的な子だったので、理解できないところから始まりました。印象に残ったのは……絡みが多かった(同級生役の)芋生悠ちゃんとのシーンで、そういうところは、見せ方だったりを監督と一緒に作っていった感じだったので……。私もまだ1回しか観ることができていないので、見返したいなと思っています。 ──役作りに関してお伺いします。たとえば、綿矢りささんの『ひらいて』や、行成薫さんの『名も無き世界のエンドロール』など、出演する映画作品に原作小説がある場合、原作を読んでから撮影に入ったりするんですか? 山田 読みます。監督から読まないでくださいと言われた時は読まないんですけど、その2作品はどちらもかなり読み込んで……話の流れや人物もそのままなので、原作が小説の場合、特に心情とかは全部書いてありますよね。そういうところはけっこう参考にして演じています。 ──なるほど。現場に行ってから、小説を読んで思い描いてた部分をちょっと修正するみたいな……。 山田 そうですね。あくまで一番元になるのは台本ではあるんですけど、原作小説はその補填的な感じです。たとえば監督と話してみて、ちょっと想像していたものとズレているなと感じたら、そこを修正してという感じですね。 ──今までの撮影で、すごく大変だった経験はありますか? 山田 なんだろう……いろいろあるんですけど、『ひらいて』のときはしんどかったです。初めて病みそうになりました。(役に)引っ張られて。 ──気持ちの持っていき方的にですか? 山田 普段は(役に)あまり引っ張られないんですけど……ずっと地方でやっていたので、それがけっこうしんどくて。休みの日とかも、ずっと部屋にこもっていようって思うんですけど、部屋にこもっていたらおかしくなると思って、ひとり、足利の河川敷をレンタル自転車でバーって漕いでいました(笑)。 ──あれは、難しい役でしたよね。 山田 そうですね。あのときは本当に戦いだなっていう感じでしたね。 役で挑戦できるなら歌もやってみたい ──逆に楽しい経験もいっぱいあったと思うんですけど、今までの映画で何か思い出に残っている作品はありますか? 山田 『小さな恋のうた』(2019年)という映画です。高校生でバンドをやるという、MONGOL800の曲の「小さな恋のうた」が元になっている映画なんですけど……そのときに半年ぐらいバンドの練習をして、撮影を1カ月半、沖縄でやって。同世代の子ばかりで、めちゃめちゃ楽しかったです! まだ全然つたなかったんですけど、ギターの音源には自分たちが弾いたギター音源を使ってくれて、そういうのもすごく楽しかったなあって……。 ──普段は歌も歌われたり……? 山田 カラオケは好きで、よく行きますね。 ──とすると、そのうちどこかで歌なんていうのも……? 山田 どこかで、できたらいいですけどね……でも需要があるのかな?って思っちゃう(笑)。歌がうまい人っていっぱいいるじゃないですか。私が歌う意味ってあるのかな?と思うから……役で歌えるのならやりたいです! すごく。 ──なるほど。役で歌うのであれば、いっそ楽器を弾きながらでも。 山田 がんばって練習します。ふふふ。 ──好きなアーティストはいらっしゃいますか? 山田 本当にいろんな人を聴きます。解散しちゃったけど、カラオケでよく歌うのは、きのこ帝国です。海外の人だと、ジェームズ・ブレイクとかは好きです。 ──きのこ帝国とジェームズ・ブレイクって、全然違いますね(笑)。 山田 全然違いますね(笑)。つい、カラオケに引っ張られちゃって……聴くのは、ジェームズ・ブレイクとか、そっち系が多いですね。 ──きのこ帝国だと……。 山田 『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)の主題歌とかです。 料理とサウナにハマる山田杏奈さん。「これが“整う”か!」 ──女優業のほかに何かやってみたい仕事ってあります? 山田 やってみたい仕事? あ~、おもしろい! 違う仕事、いいですね。なんだろうな……違う仕事をできるとしたら、料理をちゃんと勉強したいです。それで、ご飯を作る人になりたいですね、ちゃんと勉強して資格も取って。めっちゃ憧れます、お店で料理をするとか。 ──たとえば、何料理とか? 山田 難しいな……なんですかね、和食が好きなのかもしれないです。この間すごくおいしいお弁当を食べて。野菜1個1個に違う味つけがされているみたいな。すごくきれいに切ってあって、そういうのをできる人ってすごいなって。 ──普段ご自分でも料理をします? 山田 実家にいたときは全然やっていなくて、気が向いたときにやるくらいだったんですけど。今は、時間のあるとき……本当に撮影で疲れていて、とてもじゃないけど作れないっていう日以外は作るようにしています。 ──得意料理はあったりします……? 山田 ナスの揚げ浸しです。和食が多いですね。 ──和食なんですね。食べることも好きですか? 山田 食べるのはめっちゃ好きです。 ──何系が好きとかあります? 山田 味の濃いやつが好きですね。おつまみみたいなやつが好きです。家で食べるやつとかじゃないんですけど、白子ポン酢とかあん肝とか、そういうのが好きです。 ──気持ち悪くて食べられないっていう人もいますよね(笑)。 山田 いますよね。私、肝系はめっちゃ好きです(笑)。 ──料理人の役とかも将来的にできそうですよね。 山田 できますかね(笑)。役でやるのと仕事にするのは、ちょっと違うかもしれない。でも役だったら、ちょっと体験できたような感じになるから、いいかもしれないですね。 ──それこそ、木村拓哉さんの『グランメゾン東京』(TBS/2019年)なんかもそうですよね。少し話題は変わりますが、今、興味があるものは何かありますか? 山田 サウナ行へきます。サウナへ行ったり岩盤浴へ行ったりしますね。 ──サウナに行くのは、最近、巷で流行り始めてからですか? 山田 友達に昔から(サウナへ)行っている人がいて、その人に教えてもらって、一緒に行ったりとか、ですかね。 ──ちゃんと整います? 山田 整います! もう大丈夫、外でもいけます。1回教えてもらって、そのときから全然入れて……「これが整うか!」と思って。そこからは、もうひとりでいけますね。 ──おすすめのサウナはあります? 山田 私はそんなに遠くへ行ったりとかはできないんですけど。男の人だったらけっこういろいろありますよね。女の人は入れないところもけっこう多いので。 ──そうですよね。 山田 私は本当に近くの大きい銭湯みたいなところで、温度高めのところを探して行って……みたいな感じです。 ──熱いのを我慢するのは嫌いではない? 山田 もう、そういうものだって思っちゃっているので。あ! テレビがあるところだとうれしいです(笑)。 焦らず、自分に与えられた役を精一杯取り組んでいきたい ──最後に、今後やってみたい役はありますか? 山田 やっぱり学生の役が多いので、社会人の役をやってみたいなって。学生って、1個2個のことに、すごくのめり込んでいる役が多いんですけど、そのぶんパワフルじゃないですか? リアルな高校生って。よっこいしょ!って、ひとつギアを上げなきゃいけない感じがあって。 たぶん今後も学生の役はあると思うんですけど(リアルな学生の感覚は)どんどん忘れていっちゃうじゃないですか。そういうものだと思いつつ……社会人としての役もやってみて、そうしたらまたどう変わるんだろう?というのを、試してみたいなと思います。 ──山田さんが思う「社会人」のイメージは……? 山田 社会人の役ですよね。OLみたいな……。私は社会人をやったことがないので、そこはちょっと難しいなと思うんですけど。今まわりの同い年の子がみんな就活の時期なんですよね。各々が就職したら、みんなの話を聞きたいなって思います。 ──10年後には、どんな自分になっていると思います? 山田 10年後も続けられていたらいいなって思いますね。たとえば今やっている人が同じように30代でもやっていることって、けっこう少なくなると思っているので。そこはちゃんと力をつけていって、そこまで続けていくというのと、あとは30代になったら、どうですかね……結婚しているのかな? わからないですけど、そういう自分自身の幸せみたいなものも、いいバランスで動いていたらいいなって思いますね。 まわりの人と比べて焦ることってどうしてもあると思うんですけど、焦るだけでもしょうがないと思うので、そこは変に比べるというよりは、今の私に与えられている役を精一杯1個1個やっていったら次につながると思ってやるしかないなと思います。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 編集=龍見咲希、中野 潤 ************ 山田杏奈(やまだ・あんな) 2001年1月8日生まれ。埼玉県出身。『ちゃおガール☆2011オーディション』でグランプリを受賞。『ミスミソウ』(2018年)にて映画初主演を果たす。その後も映画『ひらいて』(2021年)や『HOMESTAY』(Amazon/2022年)など、数々の映画やドラマへの出演を重ね、この先も『17才の帝国』(NHK/2022年5月)の放送や、舞台『夏の砂の上』(2022年11月)への出演を控えている。 現在、連続ドラマ『未来への10カウント』(テレビ朝日、毎週木曜よる9時~OA)にて、ボクシング部員・水野あかり役を演じている。 ▼おうち時間の過ごし方を聞いてみたところ「家にいる時間はけっこう好きです……冬は編み物をしたり。編み物は昔、母がやっていて、道具一式を借りて教えてもらいました」
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女優・山田杏奈「木村拓哉さんや満島ひかりさんから学びも多く、刺激的な撮影の日々です」
#11 山田杏奈(前編) 旬まっ盛りな女優やタレントにアプローチする連載「focus on!ネクストガール」。 山田杏奈(やまだ・あんな)。2011年『ちゃおガール☆2011オーディション』でグランプリを受賞。『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(2016年)で映画初出演、『ミスミソウ』(2018年)にて映画初主演を果たす。その後も映画『ひらいて』『彼女が好きなものは』(2021年)や『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレビ朝日/2021年)など、数々の映画やドラマへ出演を重ね、現在放送中の連続ドラマ『未来への10カウント』(テレビ朝日/毎週木曜よる9時~OA)では、ボクシング部員・水野あかり役を演じている。まずはそのドラマの話題から……。 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 初挑戦のボクシング ──『未来への10カウント』の撮影現場はどんな感じですか? 山田 クランクインして3週間経ったくらいなんですけど、すごく和気あいあいとしています。私は高校生チームで、ボクシング部の部室だったり、学校とか家とか、そういうところで撮影しています。木村(拓哉)さんにもすごく引っ張ってもらっていて、楽しくやっています。 ──ボクシングを実際にするシーンも撮ったりしています? 山田 はい。まだ試合形式ではやっていないんですけど、サンドバックを打ったり、シャドーボクシングをやったり、そういうところは撮影しています。 ──今までボクシングのような格闘技をやった経験は……? 山田 今回が初めてで……。10月くらいから、ちょっとずつ練習に入らせてもらったんですけど、やっぱりめちゃめちゃ疲れます。1時間の練習で「もう無理!」って感じになっていたんですけど、今はもうちょっと長くできるようになってきました。私自身は運動をまったくしないので、本当に今までで一番ちゃんと運動しているかもしれません。最初のころよりは体力もついてきました。 ──今後、もっと激しく動くシーンが出てくる可能性もありますよね? 山田 あります……ね(笑)。 「木村拓哉さんのおかげで、和やかだけどダルっとしすぎない撮影現場です」 ──実際に出演者の皆さんと顔合わせをしてみて、どうですか? 山田 そうですね、初めましての人が多かったんですけど、現場の雰囲気は、チームで作っているっていう感じです。それこそお芝居に対しても、こうしたらどうでしょうか?みたいな話が飛び交っているような現場です。 ──ご自分でも何かアイデアを出されたりします? 山田 私は、どうですかね……「役として考えるとこのセリフはこうなんですけど」のようなことだったりとか。あとは、高校のボクシング部員のみんなと、余白の部分……始まる前やあとはどうしてるんだろうね?みたいな話はしています。 ──福田(靖)さんの脚本を演じるということでは、昨年のドラマ『書けないッ!?』(テレビ朝日)以来だと思うのですが、どうですか? 山田 そうですね。福田さん脚本のドラマにまた出演させてもらうのはすごく嬉しくて、やっぱりテンポ感がすごくいいなという印象です。今回も、熱い話でもありつつ、テンポ感もあるストーリーなので、福田さんの脚本だなあと感じながら、日々撮っています。 ──撮影していて、仲よくなった俳優さんはいらっしゃいますか? 山田 そうですね、みんなけっこう仲がいいです。ボクシング部は、坂東(龍汰)くんが元から知り合いだったんですけど、初めて一緒になったのは3、4年前くらいで。今回、久しぶりに現場で一緒になって「ここはこうするからこうしようよ!」みたいなことをすごく話してくれるようになっていました。そのほかの人も、友達の友達みたいな感じの人がお互いいたりして。 先生チームで関わりが多いのは、やっぱり木村さんと満島(ひかり)さんなんですけど、おふたりもボクシングのことを教えてくださったりとか、芝居に関しても「ここをこうしたらどうかな?」みたいな提案をして頂いたりとか。撮影の合間もみんなで話していることが多く、すごくいい雰囲気で撮っています。 ──山田さんの、現場でのテンションはどんな感じですか? 山田 今回、私は役的にそんなにわいわい騒げるタイプじゃないので、そこが難しくて。ちょっと難しいんですよね。一緒に騒げる感じだったらいいんですけど……。 ──騒いじゃうと、撮影に入ったときにその関係を引きずっちゃう。 山田 そうなんですよね。だから(役の)あかりとしているときは、あまりわいわい行き過ぎない人でいようと思っているので。 ──主演の木村さんとは、一緒にやってみてどうですか? 山田 初めて今回お会いしたんですけど、やっぱりすごくプロだなって思います。現場でも本当にいろんなところを見てらっしゃるし、ボクシングのことに関してもいろいろ教えてくださったりとか、お芝居のことを教えてくださったりとか。すごくリーダーシップのある方だなって思いました。 現場も木村さんのおかげで、和やかだけどダルっとしすぎずというか。そういうバランスがすごくよくて……それもたぶん木村さんが統率を取っていらっしゃるからだと思います。 ──木村さんの作品で好きな作品はなんですか? 山田 『ロングバケーション』です! スーパーボールをキャッチするシーンが好きです。 ──『ロンバケ』(フジテレビ/1996年)! スーパーボールですね(笑)。 山田 『ロンバケ』は、2年前くらいに全部観ました。『HERO』(フジテレビ/2001年・2014年)も好きです。 芝居を楽しいと思えるようになるまでは時間がかかった ──演じるということを意識し始めた、演じることをやりたいということを思い始めたのは、いつくらいですか? 山田 私がこの仕事を始めたのは10年くらい前なんですけど、最初は女優さんになりたくて入ったわけじゃないんです。オーディションだったんですけど、(ニンテンドー)3DSが欲しくて応募して受かって、そのままこの世界に入ったという感じだったので。 お芝居が楽しそうとまでは思っていなかった時期が何年もあって、芝居が楽しいと思えるようになったのは、実際に現場で演じるようになってからで……“演じる”っていうのは、ほかの人をやるわけだし、変な仕事だなと思うときもあるんですけど、やっぱりその他人をやれるおもしろさみたいなのがわかってきたときに、楽しいなと思い始めた気がします。 ──最初にやった演技を覚えていますか? 山田 最初にやった演技は、オーディションで初めて受かったドラマです。でも、そのときは演技というより、病室に寝ているだけで。本当にそういうちょっとだけみたいなところから始まりました。最後に何かひと言だけしゃべるセリフがあったんですけど、それがもう難しくて言えなくて、どうしよう……となっていた記憶はあります。 ──ドラマで演技するときと映画の現場とでは、何か違ったりしますか? 山田 そうですね。けっこう違うなと思うことも多くて。やっぱり映画のほうが時間をかけて撮れるんですよね。なので、1個1個向き合って、作っていく時間っていうのは、たぶん映画のほうが多くて。ドラマの場合は、逆に1日で何個もいっぱいやるので、そこはまた違った集中力がいるなという感じがしますね。 ──今までいろいろなジャンルでの演技をしてきたなかで、まわりの方から、山田さん自身と感じが似ているねとか、逆に、違っているねと言われる作品はあったりします? 山田 どうですかね……役の感じですよね? ──たとえば『書けないッ!?』で演じた吉丸絵里花役は、どうですか? 山田 『書けないッ!?』での役は、けっこう自分に近いほうだと思います。というのは、私自身にも弟がいて、両親ともフランクに仲がよくてという家庭だったので、そこは絵里花という役に近くなっていたんじゃないかなって思います。でも、話しているトーンとかは『ひらいて』で演じた(木村愛)役が私本人に近いです。取る行動は全然違いますけど(笑)。 ──映画『彼女が好きなものは』で演じた三浦紗枝役は……? 山田 あれはけっこう作っています。監督と話して、もっと私よりフワフワしているというか。明るくて、最後の方ではけっこう自分と近いところもあるんですけど、見え方的にはちょっと違うかな?と思います。 憧れの女優・満島ひかりさんから学ぶこと ──この人みたいになりたいなとか、すごいなと感じる女優さんはいらっしゃいます? 山田 私、こういう質問をされたときには、もう5、6年ずっと満島さんと答えていて。今回のドラマで初めてご一緒したんですけど、やっぱり間近で見ていても本当に満島さんのお芝居が好きで……この間もご本人に「大好きなんです」って言ったんですけど(笑)。本当に今回ご一緒できて、毎日がすごく刺激的な撮影ですね。 ──満島さんの作品で好きな作品はなんですか? 山田 『川の底からこんにちは』(2009年)は好きです。『愛のむきだし』(2008年)も好きですし、あとは『カルテット』(TBS/2017年)も好きです。 ──満島さんとは、今回の(あかり)役について何か話したりしましたか? 山田 私の演じるあかりは、サンドバックを殴るシーンがあるんですけど、その見せ方のアドバイスをいただいて。アドバイスをいただいた上で、1日撮り終わったあとに「今日の演技は、すごく素敵でした」と言ってくださって……「わーっ!」てなりました(笑)。すごくうれしかったです。 ──山田さんが演じる、あかりさんがフィーチャーされる回が第3話とお聞きしていますが、見どころはどのあたりでしょうか? 山田 はい。あかりの強くなりたいという思いにはどのような背景があるのかが明らかになる回です。木村さんが演じる桐沢(祥吾)コーチ、満島さんが演じる折原(葵)先生と、より深く関わるなかで、彼女の持つ強さを大切に演じさせていただいてます。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 編集=龍見咲希、中野 潤 ************ 山田杏奈(やまだ・あんな) 2001年1月8日生まれ。埼玉県出身。『ちゃおガール☆2011オーディション』でグランプリを受賞。映画『ミスミソウ』(2018年)にて映画初主演を果たす。その後も映画『ひらいて』(2021年)や『HOMESTAY』(Amazon/2022年)など、数々の映画やドラマへの出演を重ね、この先も『17才の帝国』(NHK/2022年5月)の放送や、舞台『夏の砂の上』(2022年11月)への出演を控えている。 ▼ドラマ『未来への10カウント』第3話(テレビ朝日4月28日・木よる9時~) 2カ月後のインターハイ予選で、強豪校を倒すという目標に向かって走り出したボクシング部。そんな中、ボクシング部のコーチ桐沢祥吾(木村拓哉)に、唯一の女子部員・水野あかり(山田杏奈)が「喧嘩で勝てるボクシングを教えて下さい」と、思い詰めた表情で訴えてくる……。 【インタビュー後編】
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女優・小野莉奈「ダークヒーローのような嫌われる役にも挑戦してみたい」
#10 小野莉奈(後編) 旬まっ盛りな女優やタレントにアプローチする連載「focus on!ネクストガール」。 小野莉奈(おの・りな)。事務所オーディションを経て、ドラマ『セシルのもくろみ』(フジテレビ/2017年)のスピンオフドラマ『セシルボーイズ』(フジテレビ/同年)で女優デビュー。その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)、映画『アンナとアンリの影送り』(2019年)などへ出演を重ね、話題を集めた高校演劇のリメイク作品『アルプススタンドのはしの方』では初舞台(2019年)を踏むとともに、同作の映画(2020年)への出演も果たした。記憶に新しいところでは、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK/2021年)にて渋沢栄一の娘「うた」役を好演、現在はドラマ『部長と社畜の恋はもどかしい』(テレビ東京/2022年)へ出演している。“女優”としての歩みを中心に話を伺った「前編」、この「後編」では、プライベートを含めた“素”の彼女にフォーカスしてみた。 【インタビュー前編】 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 YOASOBI・ikuraとの共演は夢のような時間だった ──たぶん今まですごく聞かれていると思うんですけど……同級生だったYOASOBIのikuraさんと、女優になりたいという話をしたりしていましたか? 小野 そうですね、話したりはしていました。 ──ikuraさんと最初に会ったときのことは覚えています? 小野 中学校でクラスが一緒になって、中3のときかな? いつもふたりで行動していたという時期があったんです。そこでいろいろと話した記憶はありますね。 ──ikuraさんの、音楽をやりたいというような話を聞いたりも……。 小野 はい。もともと彼女のほうが、私よりも先に(音楽)活動をしていたので。 ──YOASOBIが世に出てきたのを見て、どうでしたか? 小野 すごくがんばっている姿もずっと見てきたので、私もがんばらなきゃという気持ちになりました。 ──実際に、YOASOBIの楽曲がテーマソングになっている映画『たぶん』(2020年)では、小野さんが役を演じたりも……。 小野 そうですね。でも「いつか一緒にお仕事できたらいいね」とも言っていたので(『たぶん』の撮影は)現実なのに、あり得ないくらい夢みたいな時間だったなと思います。 ──同級生の、一方はミュージシャンとしてデビューをして、もう一方は女優としてデビューするというのはなかなかないですよね。 小野 そうですね。 自分にないものを持っている役を演じるのは楽しい ──最新のドラマ『部長と社畜の恋はもどかしい』について、お聞きします。小野さんは、中村ゆりかさんの、会社での後輩「三森さとみ」役を演じていますが、実際に演じてみてどうですか? 小野 OLという役は初めてなんです。今までは学生役が多かったので、役で自分の年齢をちょっと感じたというか。私も、もう大人の役をやるようになったんだという気持ちになって。役自体は、うらやましいなと思いながら演じていました。 ──その場合のうらやましいは……。 小野 (私生活では“推し活”をしながら働いているという)役に対していいなって。自分じゃない人を応援しながら、それを生きがいに仕事をできるというのが。 ──なるほど。 小野 すごくいいなって思う。なんだかすごく生き生きしていて。自分にはない何かを、この役のコは持っているのがいいなと思いながら、演じていましたね。 「雑誌を見るときも、必ずうしろにある占いのページを確認しちゃいます」 ──“推し活”がうらやましいということですが、小野さん自身、最近ハマっていることはないんですか? 小野 あー! ハマっていることか。そうだなあ……なんだろう。 ──好きなもの。逆に嫌いなものでもいいですけど……(笑)。 小野 ちょっと待ってくださいね、いっぱいあるので(笑)。えー……「占い」! これはね、行きたいんです。すごく行きたいんだけど、家族に「占いに行ってきたんだ」と言うと心配されるんですよ(笑)。 以前は3カ月に1回くらい行っていたんですけど、当たりすぎてすごく興奮して、家族に占いに行ってきたことを話しちゃうんです。そうすると心配される……「大丈夫?」って言われるんですけど(笑)。単純にすごく好きなだけで。知らない人に自分のことを話すのも楽しいし、わからないけど、もしかしたら当たるかもしれないという未来の予想図を聞くのもすごく楽しい。 そういうときって、自分に都合のいいことしか回収していないから。だからすごく楽しいし、そのときの1時間って、本当に10分くらいに感じるんですよ。もうすっごく落ち込んだときは占いに行っちゃいます。助けを求めるというよりはアイデアをいただくというか。その感覚に近いのかな? 解決策というか。 ──占いって、いろいろな占いがあるじゃないですか。占い師さんによっても違うと思うんですけど……。 小野 全部好きです! 占い番組があるじゃないですか。あれ、本当におもしろそうだなって。いつかゲッターズ飯田さんに占っていただきたいなと……というか今、占っていただきたいなと(笑)。本当に好きですね。人の占いを見るのも好きなんですよ。雑誌を見るときも、必ずうしろにある占いのページを確認しちゃいます。 ──ということは『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ)へも、いつか……。 小野 (笑)。でも公開されているとちょっと恥ずかしいですよね。当てられたときとか、全部が顔に出ちゃうから。 ──『突然ですが占ってもいいですか?』に出演している占い師の星ひとみさん、いらっしゃるじゃないですか、僕も視てもらったことがあるんですけど、めちゃめちゃ当たりますよ。 小野 まじっすか! ──もう驚くほど当たりますよ。 (※このあと、小1時間、占いと占い師さんについての具体的なトークが、テンション高く繰り広げられ……) ──占いは、カウンセリングみたいなものですよね。 小野 そうなんですよ、楽しいんです、普通に。 ──それを、今後の演技に活かせたら……占い師の役とか、あれば。 小野 それもいいですけど(笑)。普通に会いたいです、占い師さんに。 ──きっといつかは、当たる占い師さんに……(笑)。 狂気的な役にも挑戦してみたい ──ちょっと占いからは離れますが、今、憧れている女優さん、目標にしている役者さんはいますか? 小野 (目標になる)役者さんは本当にいっぱいいすぎて……各現場でやっぱり皆さんすごいなって思っちゃうんですよ。毎回、劣等感を感じるくらい……なんだろう? 憧れというよりは、ちょっと自分の実力の足りなさにショックを受けるくらいの感覚なんですよね。だから、あまりそういうことは考えないようにしていて。あと、ジャンルは違うんですけど、すごい!と感じた監督さんはいますね。 ──どなたですか? 小野 大河ドラマで演出していただいた黒崎博監督です。人としても、仕事の向き合い方にしても、すごく尊敬していて、こういう熱量を持った人に私もなりたいと心から思った方で。 ──もしかすると、小野さん自身、将来作り手側の方にも興味が出てきそうな感じもしますね。 小野 どうですかね……でも作品じゃなくても、わりと自分で作るという工程が好きなので。絵を描くとか、黙々とやる作業は好きですね。 ──最後に、今後やってみたい役はあります? OL役のオファーを受けて初めて、そんな年齢になったのか……と、さっき言っていましたけど。 小野 なんか狂気的な役がやりたいです……なんだろう? 何かに取り憑かれているとか、私がそういう作品に出て、視聴者の方が私のことをバラエティで観たときに「あっ、怖い」って思わせるぐらいの役。嫌われてもいいから、人の感じる「怖い」とか、そういう印象に残る役をやってみたいですね。すごくヒステリックな役とか、物を投げつけるとか、急に壁に穴を開け始めるとか……。 ──それ、見てみたいですね。 小野 たとえば挑戦的ではあるけど、ヒーローとは逆の、ダークな。そんな嫌われる役もやってみたいです。楽しいなだろうなと思います(笑)。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 ヘアメイク=寺沢ルミ 編集=龍見咲希、中野 潤 ************ 小野莉奈(おの・りな) 2000年5月8日生まれ。東京都出身。スピンオフドラマ『セシルボーイズ』(フジテレビ/2017年)で女優デビュー。その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)、『コントが始まる』(日本テレビ/2021年)などへ出演を重ね、話題となった高校演劇のリメイク作品『アルプススタンドのはしの方』では初舞台(2019年)を踏むとともに、同作の映画(2020年)への出演も果たす。映画『POP!』(2021年)で、『MOOSIC LAB[JOINT]2020-2021』最優秀主演女優賞を受賞。OL役を演じているドラマ『部長と社畜の恋はもどかしい』(テレビ東京/2022年)が現在、放送中。 ▼「占い」の話になったとたん、一気に目が輝き出した小野さんは、「メッチャ当たる占いありますか?」「ズバズバ言うみたいな感じですか?」「ええええ、めっちゃ行きたい!」と、しばらくの間、事細かに聞き出そうとするインタビュアーモードに。
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小野莉奈が女優を志したきっかけ「誰に何を言われようと、この楽しいという感覚は本物だった」
#10 小野莉奈(前編) 旬まっ盛りな女優やタレントにアプローチする連載「focus on!ネクストガール」。 小野莉奈(おの・りな)。事務所オーディションを経て、ドラマ『セシルのもくろみ』(フジテレビ/2017年)のスピンオフドラマ『セシルボーイズ』(フジテレビ/同年)で女優デビュー。その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)、映画『アンナとアンリの影送り』(2019年)などへ出演を重ね、話題を集めた高校演劇のリメイク作品『アルプススタンドのはしの方』では初舞台(2019年)を踏むとともに、同作の映画(2020年)への出演も果たした。記憶に新しいところでは、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK/2021年)にて渋沢栄一の娘「うた」役を好演、現在はドラマ『部長と社畜の恋はもどかしい』(テレビ東京/2022年)に出演している。インディーズ映画界で注目の主演映画『POP!』(2021年)も公開中と、着実にキャリアを積み上げている彼女へ“女優”としての歩みを聞いてみた。 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 女優を目指したきっかけは小学校の学芸会 ──女優を目指すきっかけは人それぞれだと思うのですが、小野さんが“女優”を意識したタイミングはいつごろですか? 小野 女優を目指すことになったきっかけは、小学6年生のときの学芸会なんです。『ライオンキング』をやることになったのですが、その主役から端役までを「クラスメイトの票数」プラス「先生の票数」で決めるという、本格的なオーディションが行われて。小学校での最後の行事だったし、せっかくだから挑戦してみたいという気持ちが湧いてきて、シンバ役に立候補したんです。 オーディションへは、自分なりにすごく準備をして挑みました。学校から帰ってきたら、ひとりで芝居の練習をするような期間が2週間くらいあって、初めて意識して“がんばる”ということをしたな、と。 結果的にシンバ役をいただくことができたのですが、そのときの、挑戦することが楽しかったという感覚はいまだにすごく残っていて。もちろん、人前で披露する本番のときに、準備してきたものを出しきるというのも楽しくて、小学生ながらに忘れられなかったんです。きっかけは、たぶんこの学芸会だろうなと思います。 それまでは、テレビドラマを観るとき、役者さんのお芝居を視聴者目線で観ていたのですが、学芸会のあとは、お芝居をする目線で観るようになったり、セリフをまねてみたりとかするようになって、私は女優になりたいんだなと思うようになりました。 ──憧れの人がいてというよりは、いきなり演じてみてその魅力に気づいて、それからどんどん気持ちが傾いていった……。 小野 そうですね。 ──実際に学芸会でやった手応えは、どんな感じだったんですか? 小野 お芝居を観ていた親戚のおじさんが、すごくよかったと言ってくれて……身近な人がひとりでもよかったと言ってくれたことがすごく自分の自信になったというのもあるし、自分の中でもすごく楽しかったという感覚が強かったんですよね。 誰に何を言われようと、この楽しいという感覚は本物だったというか。役に向けて自分が準備してきた過程と、実際に表現しきったというすべての過程がすごく楽しくて。そこへ向けて精一杯努力したということ自体も自信になりました。 ──なるほど。そこからデビューするまでは、どんな過程が……。 小野 女優になりたいと思いながらも人には言えない、言うのが恥ずかしいという気持ちが、中学生のころはまだ強くて……。高1のときかな? すごく焦り始めたんですよ。勉強もスポーツも何か特化してできるようなことがなかったので、どうやって生きていこう?と考え始めて。ずっと女優になりたいと思っているのに、私は何も変わってないなみたいな。 そんな自分に焦ったこともあって、高校1年、2年くらいのときにいろいろな事務所のオーディションを受け始めたんです。自分で事務所を調べて。その事務所の雰囲気とか、方針とか、すごく現実的な話になるんですけど、お金がかかるとか(笑)……莫大な費用がかかったらちょっと怖いなと。そういうことをしながらいろいろな事務所を受けて、今の事務所に入ることになりました。 ──将来の進路を決めて事務所に入るとき、まわりの人は、がんばって!という感じでした? 小野 進路については、人に本当に言いたくなくて……。学校でもそのまま誰にも言わずに卒業したいなと思っていたんですけど、この仕事を始めて何カ月かしたころにはもう広まっていて。でもまわりも気づいたものの、私になんて言っていいのかわからない。けっこうだいぶ経ってから「応援してるよ」みたいな感じで言われたんです。 家族も、すごく応援してくれました。それまでは、たぶん私の将来が心配だったんじゃないかな? どうやって生きていくんだろうって。そんなに勉強もできなかったので(笑)。だからたぶん私が自分の道を見つけたことがうれしかったんだろうと思います。 「最近はまわりから『大人になったね』って言われます」 ──最初の仕事って覚えていますか? 小野 覚えてます!……ん、あれ? どっちだっけな? 初めての映画とか、初めてのオーディションとか、各分野での初めての仕事は覚えているんですけど(笑)……一番初めては、スピンオフドラマだと思います。そのとき(撮影中の音声を拾う)マイクを、お芝居中に見ちゃうというミスはありましたね。つい気になって見ちゃう。すごく初心者的なミス(笑)。 ──その後どんどんドラマや映画への出演を重ねて……実年齢に近い高校生役が多かったですよね。演じた役の中で、一番自分に近いなと思ったのは、どの役でした? 小野 こう言っちゃうと少し変なんですけど、あんまり自分がわからないんですよね……自分がどんな人間なのかよくわからなくて。演じている役の中で、ここが自分にすごく似ているなというのは絶対に何かしらあるのですが、結局「自分」となると、よくわからないんです。 ──なるほど。たとえば、役作りをするときに、そういう自分に似ているところを見つけて広げていくようなことはしません? 小野 そうですね……磁石みたいに、自分の要素と逆の要素をつなげるような感覚。えーと、S極とN極……? 自分に寄せるとか役に寄せるというよりは、どちらの要素も細かくしてつなげていくという感覚が近いのかもしれないです。 ──相反する要素をつなげる、なるほど。たとえば『アルプススタンドのはしの方』は、まず舞台があって、そのあと映画にもなりましたよね。浅草九劇で観劇させていただきました。ひとつの作品を舞台と映画の両方で演じてみて、自分の中で違うことってありましたか? 小野 舞台のほうがすごく力んでいたような、緊張していた気がしますね。感覚的な部分でいうと。映画のほうがもっと力を抜いていたというか。舞台のほうでは、けっこう自分のことを追い込んでいたので……精神的にもあまり余裕がなかったし、でもだからこそ自分の本当の必死な感じと、役のもがいている感じがうまくリンクしたというのもあって。 映画のほうでは、すごく脱力していました。一緒に演じているほかの役者さんたちも(舞台のときと)同じということもあって安心感もあったし、舞台のときに稽古を積み重ねてセリフを入れていたから、セリフへの心配もなかった。あと、舞台ではひとりでもがいて演じているという感覚だったんですけど、映画のほうは仲間と一緒みたいな……すでに自分のことを仲間も知っているからこそ、素の自分でいられたという、そういう違いはあったかもしれないですね。 ──この作品に限らずだと思うんですけど、一緒にやった役者さんと別の作品で会ったりしますよね。たとえば、『アルプススタンドのはしの方』だと“藤野”役を演じた平井亜門さんとか。 小野 そうですね。 ──映画『シチュエーション ラヴ』(2021年)で、その平井亜門さんとまた共演をしたり……2回目の共演は、雰囲気が変わったりします? 小野 たしかに(『シチュエーション ラヴ』の)撮影中は、平井亜門くんに恋をしているという役だったので、ちょっと『アルプススタンドのはしの方』のときとは違う感覚、気持ちだったんですけど。撮影が終わった途端に(『アルプススタンドのはしの方』のときの)平井亜門くんとの雰囲気に戻るという……そういう感じがありましたね。 ──逆に、平井亜門さんからでもいいですし、まわりから、何か変わったねとか、違ってきたね、と言われることはありますか? 小野 「しっかりしたね」って言われます(笑)。 ──なるほど。 小野 「大人になったね」って言われます。たぶん『アルプススタンドのはしの方』のときは、まだ学生感が抜けていないということがあったのかもしれない。大人に任せているところは任せていたし、自分の気持ちのコントロールもできていなかったというか、本当に余裕がない感じだったんですけど。最近は特に、「大人になったね」って言われますね。 役を通して成長できた ──大人になっていくという意味では、最近、主演した映画の『POP!』。この作品では、特殊とまではいかないけれど独特な役を演じているなと思って観ていたんですけど。どうですか? この役を、今の自分に合わせてみた場合……。 小野 たしかに、あの役を演じてから変わったような気はします。でも(柏倉)リンちゃんという役は、監督の小村昌士さんが私のことについていろいろ知った上で作り上げた役だったので。だからこそ、すごく共通する部分があって、リンちゃんという役が大人に変わったときに、自分自身も変わる部分があった。役を通しながら成長できたなという……役を演じながら、ちょっと自分を客観視できたのかもしれないですね。 ──監督は、当て書きに近いような書き方をした……。 小野 そうですね。本当にありがたいことに『POP!』ではそういう役をいただけて。 ──なるほど。少し作品から離れますが、仲のいい女優さん、気になる女優さんはいらっしゃいますか? 小野 友達、あんまりいない……んですよね(笑)。でも役者さんたちと話すことはすごく好きだから、友達になりたい!という気持ちはあるんです。あ! でも『アルプススタンドのはしの方』の仲間とは、打ち上げに行ったりしました。 (それ以外の作品だと)やっぱり現場で会う役者さんたちが自分よりも年上の方が多いということもあって、自分から友達になるのはちょっとハードルが高いというか(笑)。現場では、いろいろな方とお話しをするタイプではあるんですけど。 ──話してみて、この人の話はおもしろかったなとか、感銘を受けた方はいましたか? 小野 大河ドラマで共演した、橋本愛さんと話したときは、すごく笑っていた記憶がありますね。本当にくだらないことで。役者さんと話していると常に何か笑っていて……でも何を話したのかはよくわからない(笑)。とはいえ、すごく楽しかった記憶はあるんです。そのまま自分から連絡先までを聞けたらいいなとは思うのですが、まだちょっとそこまではいけていないんです。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 ヘアメイク=寺沢ルミ 編集=龍見咲希、中野 潤 ************ 小野莉奈(おの・りな) 2000年5月8日生まれ。東京都出身。スピンオフドラマ『セシルボーイズ』(フジテレビ/2017年)で女優デビュー。その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)、『コントが始まる』(日本テレビ/2021年)などへ出演を重ね、話題となった高校演劇のリメイク作品『アルプススタンドのはしの方』では初舞台(2019年)を踏むとともに、同作の映画(2020年)への出演も果たす。映画『POP!』(2021年)で、『MOOSIC LAB[JOINT]2020-2021』最優秀主演女優賞を受賞。OL役を演じているドラマ『部長と社畜の恋はもどかしい』(テレビ東京/2022年)が現在、放送中。 ▼「よろしくお願いします。まずはお決まりの……」とインタビューを始めようとした瞬間、「え! ちょっと待って待って! 当てますね! えーと……きっかけ!ですよね?(笑)」と満面の笑顔。 【インタビュー後編】
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女優・志田彩良「ひと言では説明できないような映画をいつか撮ってみたい」
#9 志田彩良(後編) “今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。 志田彩良(しだ・さら)。『ピチレモン』専属モデルとして活動後、映画『ひかりのたび』(2017年)で女優として長編映画初主演を果たす。その後、映画『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018年)、『mellow』(2020年)や、ドラマ『だから私はメイクする』(テレビ東京/2020年)などへの出演を重ね、大ヒットドラマ『ドラゴン桜』(TBS/2021年)では印象に残る「小杉麻里」役を演じた。数多く出演している今泉力哉監督作品を中心に話を伺った「前編」に続き、この「後編」では、映画以外のことなどを聞いてみた。 【インタビュー前編】 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 エチュードで稽古を続けた印象的な初舞台 ──志田さんと今泉監督との関わりでいうと、映画以外に舞台もありますよね。志田さんの初舞台になる、「今泉力哉と玉田企画」として、こまばアゴラ劇場で上演した『街の下で』(2019年)。上演時に舞台を拝見したんですが、話の展開が、すごく意表を突くというか複雑な構造だったじゃないですか? 虚構と現実がごちゃごちゃになるみたいな……あの内容を、台本で最初に見たときどうでしたか? 志田 あの舞台は本番の数日前まで台本が完成していなくて、ギリギリまでエチュードで稽古をしていたんです。その中で生まれたことを、台本に入れ込まれていたりしていました。 稽古をしていくなかで「どんな台本になっていくんだろう?」という不安もありましたが……完成した台本がすごくおもしろく、演じている側としても本当に楽しくて、毎回新鮮な気持ちでできました。あの台本だったからこそ舞台が本当に楽しいって思えたので、初めての舞台があの台本ですごくよかったなと思います。 ──どこまでが劇中劇でどこまでが本編なのかわからないみたいな感じで、意表を突かれて……。 志田 そうですよね(笑)。毎回違う内容になっていたりするので、楽しかったです。 『ドラゴン桜』撮影現場で開催された「ジュースじゃんけん」 ──劇場で、初めてお客さんの前で演じた感想はどうでした? 志田 (観客の)生の反応というのは、今まで経験したことがなかったので……笑い声が聞こえるとホッとするのですが、「そこを気にしてお芝居をするな」と言われていたので、なるべく反応は気にしないようにしていました。 ──なるほど。たしかに芝居中、舞台の前っつらで体育座りをしていた志田さんは、泰然としていた印象が。演じるにあたって、憧れている俳優さんはいらっしゃいますか? 志田 『ドラゴン桜』で共演させていただいた阿部寛さんと長澤まさみさんです。お芝居はもちろんのことですが、作品を真ん中で引っ張っていくとはこうあるべきだなというのを、間近で勉強させていただきました。 ──具体的に、ここがすごかったなというのはあります? 志田 おふたりをテレビで拝見していて、きっと実際にお会いしたら緊張で話しかけられないだろうなという想像を勝手にしていましたが……まったくそんなことはなくて。私たちと同じ目線でお話ししてくださいました。 たとえば、共演者の仲を深めるために長澤さん発信で「みんなでジュースじゃんけんしようよ」っておっしゃってくださって、全員でジュースじゃんけんしたり。しかも、そのジュースじゃんけんを誰よりも長澤さんが一番楽しんでいらっしゃいました……。そういう同じ目線でいてくださることは、すごく素敵だなと思いましたし、私もこういう先輩になりたいなと思いました。 ──あとテレビでは、最近『しゃべくり007』(日本テレビ)に出られていましたが、バラエティへの出演はどんな感じでしたか? 志田 バラエティ番組はもともと好きでよく観ていて、その中でも『しゃべくり007』は特に出演したい番組でした。まさか自分の初めてのバラエティ番組の仕事が、憧れの『しゃべくり007』だとは思わなくて……すごくうれしかったのですが、今までの仕事で一番緊張したっていうくらい緊張してしまって。 でも、それを一番最初に乗り越えたというのは自分の中で大きかったかなと思って(笑)。そのあとに出演させていただいたバラエティ番組は肩の力を抜いて楽しむことができました。 ──OAを観ていて、しゃべくりメンバーの振りにも負けず、すごく振り切れていたような感じでしたけど(笑)。 志田 はい。本当に楽しかったです(笑)。 ひと言では説明できないような映画をいつか撮りたい ──少しプライベートなことも伺います。志田さんが、最近ハマっていることはありますか? 志田 ポケモン(『ポケットモンスター』)が好きで、ゲームはもちろんのこと、ポケモンのグッズを集めることにハマっています。そして、『Apex(Legends)』というゲームにハマっていて、友人とオンラインでプレイしています。 ──Apex! みんなやってますよね! チームを組んで。「e-sports」も流行ってますし。あと音楽面で、好きなアーティストさんとかはいらっしゃいます? 『かそけきサンカヨウ』のエンディングテーマは、崎山蒼志さんの楽曲でしたね。 志田 はい、音楽はすごく好きで、家にいるときもずっと流しています。好きなアーティストの方はたくさんいるのですが、マカロニえんぴつさん、ユアネスさん、Hump Backさん、TETORAさんなどのバンドも好きで……あと! 最近は奥田民生さんにすごくハマっていて。 ──奥田民生さん、世代ではないですよね? 志田 そうですね。動画を観たりして、めちゃくちゃかっこいいなと思って聴いています。 ──なるほど。奥田民生さん、あのまんまの人ですよね。ボクが『Mステ(ミュージックステーション/テレビ朝日)』の打ち合わせで会ったときとか、まさにあのとおりの人でした。 志田 本当ですか。より好きになりますね(笑)。 ──志田さんが、これからやってみたいことは何かありますか? 志田 いつか映画を撮ってみたいと思っています。『ドラゴン桜』で共演した細田佳央太くんと鈴鹿央士くんと、3人で監督をして3人で脚本を書いて映画を撮りたいねというのをよく話していて……日常生活でちょっとしたことで笑った出来事など、この経験は映画の中に入れたいよねっていう瞬間をメモして、それを定期的にみんなで伝え合ったりして「いつか映画撮りたいね」と。 ──映画! たとえば、こんなテイストが好きというような作品はあったりします? 志田 『きみの鳥はうたえる』(2018年)や『リバーズ・エッジ』(2018年)が好きです。ひと言で感想を言えないような、ひとりで浸れる作品がすごく好きです。 ──たしかに『きみの鳥はうたえる』なんかは、そうですね。 志田 「どんな映画なの?」って聞かれても「ひと言じゃ説明できないから観て!」って思うような作品がすごく好きです。 ──ということは、志田さんも含めた3人で脚本を書いて撮る映画も、そういうイメージになったり……。 志田 そうですね。そういうテイストで撮りたいですね。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 編集=龍見咲希、中野 潤(BLOCKBUSTER) ************ 志田彩良(しだ・さら) 1999年7月28日生まれ。神奈川県出身。映画『ひかりのたび』(2017年)で女優として長編映画初主演を果たし、その後、映画『パンとバスと2度目の初恋』(2018年)、『mellow』(2020年)や、ドラマ『his~恋するつもりなんてなかった~』(メ〜テレ/2019年)、『だから私はメイクする』(テレビ東京/2020年)、『ドラゴン桜』(TBS/2021年)などへ出演。10月15日に公開する主演映画『かそけきサンカヨウ』では、複雑な家庭環境で生活する高校生「陽」役を演じる。 ▼『かそけきサンカヨウ』10月15日より、テアトル新宿ほか、全国公開 STORY:高校生の陽(志田彩良)は、幼い頃に母・佐千代(石田ひかり)が家を出て、父・直(井浦新)とふたり暮らしをしていたが、ふたり暮らしは終わりを告げ、父の再婚相手である美子(菊池亜希子)とその連れ子の4歳のひなたと4人家族の新たな暮らしが始まった。そんな新しい暮らしへの戸惑いを、陽と同じ美術部に所属する陸(鈴鹿央士)に打ち明ける。実の母・佐千代への想いを募らせていた陽は、絵描きである佐千代の個展に陸と一緒に行く約束をする。
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女優・志田彩良「今泉力哉監督の映画作品で主演をするのが目標のひとつでした」
#9 志田彩良(前編) “今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。 志田彩良(しだ・さら)。『ピチレモン』専属モデルとして活動後、映画『ひかりのたび』(2017年)で女優として長編映画初主演を果たす。その後、映画『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018年)、『mellow』(2020年)や、ドラマ『だから私はメイクする』(テレビ東京/2020年)などへの出演を重ね、大ヒットドラマ『ドラゴン桜』(TBS/2021年)では印象に残る「小杉麻里」役を演じた。今泉力哉監督映画作品への3作目の出演にして主演を務める映画『かそけきサンカヨウ』(10月15日公開)の公開を控える彼女へ、まずは今泉監督作品での来歴を中心に聞いてみた。 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 まさかこんなに早く目標が叶うなんて ──今泉力哉監督作品を中心に、お話を伺います。映画『かそけきサンカヨウ』は、今泉監督映画作品としては3作目ですが、最初に話が来たときはどうでしたか? 志田 初めて今泉さんの作品に出演させていただいた『パンとバスと2度目のハツコイ』のクランクアップ後に、今泉さんから「いつか志田さんで主演作を撮りたいと思っているのでよろしくお願いします」とおっしゃっていただいて、そこから私の中でも「いつか今泉さんの作品で主演をする」ということがひとつの目標になっていました。 まさかこんなにも早く実現させていただけるとは思っていなかったので、とてもありがたかったですしうれしかったです! ──主演ということで、撮影中にチカラが入ったりしました? 志田 現場に入っている間は、あまりプレッシャーは感じていませんでしたが、クランクアップのときに一気に肩の荷が降りる感覚を初めて経験して……そのとき、自分でも気づかないうちにプレッシャーを感じていたんだなと思いました。 ──前の2作品の現場と比べると、感じが違うという……。 志田 そうですね。『パンとバスと2度目のハツコイ』と『mellow』のときは、ただただ楽しんでやらせていただいたので。 ──なるほど。『かそけきサンカヨウ』で演じた「陽」は、すごく気丈な子という感じの役だと思うのですが……役作りをするにあたって、今泉監督からアドバイスや演技プランに関する話はあったりしましたか? 志田 特に話していなかったと思います。今までの2作品では、こういうふうにやりましょうという話し合いをする機会が多かったのですが、今回の『かそけきサンカヨウ』の現場では、今泉さんと話をした記憶がありません。 少し不安もあったのですが……「今泉さんがOKっておっしゃるなら、絶対大丈夫だろうな」と思い始めてきて、安心してお芝居をすることができました。 井浦新さんの言葉で、肩の力が抜けて楽しく演じられた ──撮影現場に入る前に(窪美澄さんの)原作小説を読まれたりはしたんですか? 志田 はい。読みました。 ──原作を読んでみていかがでした? 志田 原作を読んで、なんとなく作品全体のイメージも、(演じる)「陽」のイメージも自然と浮かんできて……すごく温かい温度を感じる作品だなと思いました。 ──父親役を演じる(井浦)新さんとの共演はどうでしたか? 志田 撮影の前半で家族とのシーンを撮って、後半では友人たちとのシーンを撮影したのですが、友人たちとのシーンに入る前日に、新さんから「ここまでの撮影で陽の芯の部分だったり、強さや弱さなど、いろんな面が見られたと思うから、明日からのシーンは純粋に楽しんでおいで」とおっしゃっていただいて。 それまでは「明日からどう演じようかな」、「友達の前での陽って、どんな感じだろうな」って、すごく悩んでいましたが……新さんのお言葉をいただいて、学生らしく楽しめばいいんだなって吹っ切れました。おかげで肩の力が抜けてみんなと楽しくお芝居ができました。 ──友人の中では、鈴鹿(央士)さんの演じる「陸」との微妙な関係性は、演じるにあたって難しかったんじゃないかと思ったんですけど、そのあたりはどうでしたか? 志田 央士くんとは『かそけきサンカヨウ』が初めての共演だったのですが、お互いに人見知りをしていて、なかなかコミュニケーションを取ることができませんでした(笑)。ですが、その関係性が「陽」と「陸」の絶妙な距離感につながったのかなと思っています。 この『かそけきサンカヨウ』のあとに(同じく共演した)『ドラゴン桜』の撮影をして、もし『かそけきサンカヨウ』が『ドラゴン桜』の撮影のあとだったら、また少し違う距離感になっていたのかなとも思っています。 ──なるほど、撮影は『ドラゴン桜』があとだったんですね。今泉監督作品への初出演となった『パンとバスと2度目のハツコイ』の撮影時に、監督と会った第一印象はどうでしたか? 志田 すごくオシャレなホテルのカフェで、初めてお会いしたのですが、独特の雰囲気を持っていて不思議な方だなという印象でした(笑)。 ──その後、演出を受けてみて、その印象はそんなに変わらず……。 志田 現場に入ると今泉さんのいろいろな面を見て、監督としてはもちろんですが、人としてもすごく素敵で尊敬しています。 撮影のとき、スタッフさんが少し失敗をして現場がピリっとなってしまったことがあって、そのときに今泉さんが「大丈夫、大丈夫! 気にしないで!」みたいな優しい声を率先してかけているのを見て、なんて素敵な監督なんだ!と。そんな温かい今泉さんだからこそ、作品自体の温度感も、あったかいんだなあって感じました。 “伝えること”と“思いやること”の大切さ ──『パンとバスと2度目のハツコイ』でも、今回の『かそけきサンカヨウ』でも劇中で「絵画」というファクターがあったと思うんですけど、プライベートで絵画を観たりはしますか? 志田 美術館に行ったりするのが好きで、ひとりでも行きますし、友人と一緒に観に行ったりもよくしています。自分で絵を描くことはないのですが、観るのは好きです。 ──今回、役として、キャンバスに向かってみてどうでした? 志田 とても難しかったです。炭で描く絵をクランクインの前に練習させていただいたのですが、1本でも何回も重ねるとどんどん濃くなったり、色の光の加減など、色の出し方を表現することってこんなに難しいんだと思いました。 ──あと今泉監督作品では、2作目となる『mellow』も、『かそけきサンカヨウ』も「告白すること」に向き合うシーンが印象的な気がするんですけど、『mellow』と今回とでは、演じるにあたって違いがあったりしましたか? 告白する相手も(『mellow』で田中圭さん演じる)年上の男性と、今回の同級生とで、少し違いますが……。 志田 どちらにも共通していることは「応え」を求めていないところで……ですが、伝えるけれど相手からの「応え」が欲しいというわけではなくて、相手に自分の気持ちを知ってほしかっただけみたいな部分は、すごく私も共感できます。 ──『かそけきサンカヨウ』の現場で、ほかに何か印象に残っていることってありますか? 志田 妹役の「ひなた」ちゃんがパンを食べているシーンがあるのですが、カットがかかったときに新しいパンにスタッフさんが変えてくださって……ですが、その食べていたパンの形がひなたちゃんのお気に入りだったらしく「同じパンじゃないとヤダ!」と。劇中と同じように、かわいい怪獣で(笑)。「そのパンじゃないとヤダ!」って言うから、大人たちが総出で「同じパンを探そう!」って。 ですが、何カットも撮影していたので、どのパンかわからなくなってしまっていて、みんなで「あのパンはどこだ!」と大捜索して撮影がストップしたり……本当に、ほっこりしました(笑)。 ──(笑)。では『かそけきサンカヨウ』を観る方へ、改めてメッセージをいただければと。 志田 コロナ禍ということもあり、メールやSNSを通してのコミュニケーションが増えてきて、直接相手に気持ちを言葉にして伝えるということが減ってきてしまっていると思うのですが、この作品を通じて、伝えることの大切さ、思いやることの大切さ、誰かに優しくしたいなという気持ちを、改めて思い出していただけたらうれしいです。 ──ありがとうございます。引き続き、映画以外のことなど、いろいろと伺わせてください。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 編集=龍見咲希、中野 潤(BLOCKBUSTER) ************ 志田彩良(しだ・さら) 1999年7月28日生まれ。神奈川県出身。映画『ひかりのたび』(2017年)で女優として長編映画初主演を果たし、その後、映画『パンとバスと2度目の初恋』(2018年)、『mellow』(2020年)や、ドラマ『his~恋するつもりなんてなかった~』(メ〜テレ/2019年)、『だから私はメイクする』(テレビ東京/2020年)、『ドラゴン桜』(TBS/2021年)などへ出演。10月15日に公開する主演映画『かそけきサンカヨウ』では、複雑な家庭環境で生活する高校生「陽」役を演じる。 ▼『かそけきサンカヨウ』10月15日より、テアトル新宿ほか、全国公開 STORY:高校生の陽(志田彩良)は、幼い頃に母・佐千代(石田ひかり)が家を出て、父・直(井浦新)とふたり暮らしをしていたが、ふたり暮らしは終わりを告げ、父の再婚相手である美子(菊池亜希子)とその連れ子の4歳のひなたと4人家族の新たな暮らしが始まった。そんな新しい暮らしへの戸惑いを、陽と同じ美術部に所属する陸(鈴鹿央士)に打ち明ける。実の母・佐千代への想いを募らせていた陽は、絵描きである佐千代の個展に陸と一緒に行く約束をする。 【インタビュー後編】
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女優・中田青渚「役を通しての経験や新しい自分にワクワクする」
#8 中田青渚(後編) “今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。 中田青渚(なかた・せいな)。『第5回Sho-comiプリンセスオーディション2014』でグランプリを受賞。ドラマ『ラーメン大好き小泉さん2016新春SP』(フジテレビ/2016年)で女優デビューを果たし、その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)、映画『君が世界のはじまり』(2020年)『街の上で』(2021年)をはじめ、数多くの作品へ出演を重ねる。主人公の友人役を演じている映画『うみべの女の子』(2021年)が、現在公開中。後編も『うみべの女の子』を中心に、最近の作品について聞いていく。 【インタビュー前編】 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 配役の再現度に驚いた映画『うみべの女の子』 ──現場に入って、最初のころは緊張していると思うんですけど、撮影のどのあたりから自然に入れるようになりますか? 中田 作品にもよりますね。最近だと『君が世界のはじまり』とかは、けっこうエネルギーのある役だったし(松本穂香が演じる)縁との関係性もすごく重要で……ちょっと間違えると、縁との関係がもっと恋愛的に見えすぎちゃうとか、そういうものがあってすごく緊張しました。たぶん演じる上での緊張は、ずっとしてますね。 ──『うみべの女の子』では、どうでしたか? 中田 私が演じる小林桂子が出ているところは、陰と陽だと「陽」の役割が大きいところだったので、ほかの作品と比べて緊張というのは少なかったかもしれないです。 ──意外と構えずに入れたっていう……。 中田 そうですね。 ──でき上がった作品を観てどうでしたか? 中田 すごくいいなあって……自分で言うのもあれなんですけど。原作のマンガも読んでいて。『うみべの女の子』の前に実写化した浅野いにおさんの作品『ソラニン』(2010年)もすごく好きだったので、そのぶん最初は、やっぱりいろんな声が出るんじゃないかなとか、不安はあったんですけど。(青木柚と石川瑠華が演じる)磯辺恵介と佐藤小梅が“まんま”というか……わー、すごいなあと思って。あのふたりありきで成り立った作品だと思います。 ──マンガの、再現度がすごい。 中田 本当に、本当にすごいですよね。 ──まんま再現しているなって思いました。撮影中に記憶に残っているエピソードは何かありますか? 中田 ひとり1台ずつ「写ルンです」が配られて、写真をずっとみんなで撮り合っていたんです。写真を通してのコミュニケーションをけっこうしていて……そういうの、初めてだったので、すごく印象的でした。 ──普段、写真を撮ることはないんですか。 中田 普段はまったく撮らなくて。カメラも、iPhoneでも、撮ることが全然ないんですよ。 ──でも、映画『写真甲子園 0.5秒の夏』(2017年)では写真部員の役を……。 中田 そうですよね(笑)。あのときはカメラを渡されて「撮れ」みたいな感じだったんで、ずっと撮っていたんですけど。そのとき以降、まったく撮っていませんでした。だから今回、楽しくて……。 ──みんなで見せ合ったり? 中田 その場では見ることができないので、現像してもらってデータにして送ってもらって、ようやく見ることができるという。 ──なるほど。そうか「写ルンです」ですよね。『うみべの女の子』では、ウエダアツシ監督から演じるにあたっての具体的な指示などありましたか? 中田 パーンと突き抜けたキャラでいてほしいというのは言われました。磯辺と小梅に引っ張られすぎちゃうと全部がちょっと暗い雰囲気になっちゃうし。桂子は、そんなのをあまり気にしないで、と。どちらかというとお笑い好きだったりとか(前田旺志郎が演じる)鹿島翔太との掛け合いをヒートアップさせるような演出が多かったです。 ──あのあと鹿島とコンビを組んで……という話も出てきますけど、実生活ではお笑いを観たりします? 中田 そこまで観るほうではなくて……(笑)。 ──話を伺っていると、そっちじゃないかもなあとは思っていたんですが(笑)。逆に、お笑い好きの役をやるときに、どんなふうにやろうと考えました? 中田 でも、なんかその……観たりとかはしました。 ──なるほど、誰のですか? 中田 ジャルジャルさん。 ──どうでしたか?……って、おもしろくないとは言えないですよね(笑)。実際、ジャルジャルさん、おもしろいですし。 中田 はい、おもしろかったです(笑)。 ──なんとなく関西の人はお笑いが好きだという先入観があって……。 中田 そうですね。(テレビが)点いていたら観るんですけど、自分から探してお笑いを観たりとかはあんまりしないかもです。 役を通しての経験がワクワクする ──今後、中田さんがやってみたい役はありますか? 中田 学生の役は年齢的にも限られてきたりするので、続けたいなっていうのもある反面、ちょっと仕事を持つ役なんかも……。 ──やってみたいなと。 中田 はい。 ──ご自分では、何才くらいまで学生役がいけそうだと思います? 中田 何才までセーフだと思いますか?(笑) ──人によっては30才くらいになっても、やる人いたりしますよね。 中田 そうですよね。私も、見て大丈夫な程度だったら(笑)。 ──それこそ『街の上で』のイハ役は、おそらく撮影時点では、学生さんというより年齢的に背伸びした役ですよね? 居酒屋に行ったりもしているし。 中田 そうですね、当時は未成年だったので。 ──そうですよね。大変だったろうなと思うんですけど。 中田 でもなんかちょっとワクワクしました。まだお酒を飲んだことないのに。 ──飲んだフリができるって。 中田 はい。そういうのは楽しいです(笑)。 ──あと、ヒロインとして出演したドラマ『ホメられたい僕の妄想ごはん』(テレビ大阪、BSテレ東)が放送されますよね。まだ拝見できてはいなんですが、どんな役柄を演じているんですか? 中田 おしゃれ雑貨屋の店員さん役です。私は高杉真宙さん演じる主人公の理生(まさお)の妄想の中に出てくる、けっこうあざとキャラというか……そういうキャピキャピという感じの女の子です。 ──雑貨屋さんというと、ヴィレヴァン的な? 中田 そうです、下北沢のヴィレッジヴァンガードで撮りました。 ──そうなんだ。前に映画(『街の上で』)を撮ったことがあるエリアで、また撮影するという感じだったんですね。 中田 そうです。久々に下北沢に行きました! ──演じてみてどうでしたか? 中田 楽しかったです。けっこうテンポのある掛け合いとかがあって、妄想の中なので何をしてもいいと言ったらあれですけど……本当にけっこうキャピキャピするのも楽しくて。 ちょっとのんびりしている街が好き ──東京に来て好きになった街はあります? 中田 この、下北沢も好きです。なんかいかにも都会らしい街だと、ちょっと「おおっ」となるんですけど、下北沢はあんまり……田舎者でもなじめるというのがあるので。 ──なるほど、下北沢のテンポ感が。 中田 ちょっとのんびりしている街かな。 ──渋谷とか新宿とかは? 中田 行けますけど……長時間居座るのは難しいかもしれないです。 ──もしかして、わりとおうち時間を過ごすことも多い? 中田 そうですね、ほぼ外に出ないです(笑)。 ──演じているいろいろな役柄から受ける勝手な印象だと、活発なのかなあと……。 中田 全然活発じゃないです(笑)。一日中ベッドでゴロゴロみたいな。 ──家でのんびりするときの自分なりの工夫とかありますか? 中田 一日家にいるときはエアコンをつけて……あとは、最近テレビにYouTubeがつながるようになったので、妹とずっと観ています。できるだけ大画面で観ようと思って。 ──プライベートで何かやってみたいこととかありますか。 中田 最近思っているのは、バンジージャンプとか。ジェットコースターとかが好きなんですけど、今あんまり遊園地とか行けないじゃないですか。そろそろ、そのキューッていう感じを味わいたいです。 ──なるほど、バンジージャンプはまだ……。 中田 やったことないです。 ──怖くはない? 中田 飛べるんじゃないかな?って、勝手に思っています(笑)。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 ヘアメイク=内山多加子 編集=龍見咲希、中野 潤(BLOCKBUSTER) ************ 中田青渚(なかた・せいな) 2000年1月6日生まれ。兵庫県出身。2014年『第5回Sho-comiプリンセスオーディション2014』のグランプリを受賞。ドラマ『ラーメン大好き小泉さん2016新春SP』(フジテレビ/2016年)で女優としてデビュー。その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)や『アノニマス〜警視庁“指殺人”対策室〜』(テレビ東京/2021年)、『ここは今から倫理です。』(NHK/2021年)、映画『見えない目撃者』(2019年)『君が世界のはじまり』(2020年)『街の上で』(2021年)をはじめ、数多くの作品へ出演を重ねる。 主人公の友人役を演じている映画『うみべの女の子』(2021年)が新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで現在公開中。 ドラマ『ホメられたい僕の妄想ごはん』(テレビ大阪:毎週土曜深夜0時56分~1時26分、BSテレ東:毎週土曜深夜0時00分~0時30分)の第10話に出演予定。 ▼最近ハマっていることを聞くと「Netflixで韓国ドラマを観たり、流行っているアニメを観たりすることが多いです。アニメだと『東京リベンジャーズ』とか、好きなキャラは三ツ谷(隆)!」
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自然に囲まれて育った女優・中田青渚。芸能界のきっかけは“図書カード”
#8 中田青渚(前編) “今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。 中田青渚(なかた・せいな)。『第5回Sho-comiプリンセスオーディション2014』でグランプリを受賞。ドラマ『ラーメン大好き小泉さん2016新春SP』(フジテレビ/2016年)で女優デビューを果たし、その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)、映画『君が世界のはじまり』(2020年)『街の上で』(2021年)をはじめ、数多くの作品へ出演を重ねる。主人公の友人役を演じている映画『うみべの女の子』(2021年)が、現在公開中。スクリーンで観ていた印象とはどことなく違い、ふんわりした雰囲気を漂わせる彼女へ、まずは名前に関する質問から。 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 オーディションのきっかけは“図書カード” ──お名前が、パッと見、読めないと思うんですけど……由来はなんですか? 中田 よく言われます(笑)。お母さんが青色が好きで……きょうだいが4人いるんですけど、みんな青がついていて。それで、青に合いそうな感じの……。 ──「渚」をつけて……。 中田 はい。それで「せいな」。 ──なるほど。今まで、一発で読まれたことはあります? 中田 あんまりないですね。聞かれることが多いです。 ──ご自身はお好きな名前ですよね、きっと。 中田 はい! 気に入っています。 ──中田さんが、この世界に入ったきっかけを教えてもらえますか? 中田 『Sho-comi』(小学館)という漫画雑誌のオーディションでグランプリになって、それがきっかけで事務所に入りました。 ──応募は自分で、ですか? 中田 はい、賞品の図書カードが欲しくて(笑)、応募しました。 ──賞品が図書カードだったんですね。 中田 そうです! 3万円分! それで応募しました。 ──何か、買いたいマンガがあったんですか? 中田 『メイちゃんの執事』(宮城理子/集英社)という少女漫画を集めていて。集まりました! ──普段からマンガはけっこう読まれるんですか? 中田 読みます。中学時代は少女漫画を読むことが多かったんですけど、最近は流行っているマンガをわりと。 ──好きなマンガとかあります? 漫画家さんでもいいですけど。 中田 好きなマンガ、好きなマンガ……パッと出てこないんですけど、これが好きとかこだわりがそこまでなくて、おすすめされたら読む、みたいな。 ──なるほど、『Sho-comi』の賞を獲ったときのまわりの反応はどうでした? 中田 反応はほぼなかったです。友達に受けたことを言ったりしていなくて……ただ本当に、図書カードが欲しくて、です(笑)。 ──なるほど。それをきっかけに事務所に入られて、その後、東京へ上京してきた? 中田 はい、中学3年生のときにオーディションを受けて、高校1年生のときに東京へ来ました。 川遊びでびしょ濡れになったあのころ ──東京へ出てくるにあたっては、どんな気持ちでしたか? 中田 そんな大ごとに考えてなかったですね。東京に行くという選択肢もあるんだなと思って……じゃあ行こっかなあって。 ──地元との違いは感じました? 中田 そうですね。地元にいるときは、あまり地元のよさがわからなかったというか……けっこう田舎だったので、ちょっと不便なところもあったりして。でも東京に来てみて、地元もなんかやっぱりいいよなあ、と思うようになりました。 ──東京の第一印象はどうでしたか? 中田 みんなの足が速いな、と。横断歩道でみんな止まっていて、一緒にスタートしても私が置いていかれる……みたいなことが、けっこうありました。 ──ボクは逆で、関西で、みんな歩くの速いなあって思いました(笑)。 中田 そうなんですか! でも、私の地元は関西でもけっこう田舎のほうなので、みんなのんびりしているんですよ。 ──自然がいっぱいあるみたいな? 中田 もう本当に、自然です! 山とかに囲まれています、山の中っていう……。 ──海というよりは、山? 中田 山です。山側です。 ──なるほど、山。公開中の『うみべの女の子』の映画に寄せて、少しお聞きしたいんですけど、ご自分では、山と海どちらのほうが好きですか? 中田 地元も山だったのでやっぱり山ですかね。海も好きですけど……小さいときは毎年、海に行って、はしゃいでいたりしたんですけど、年齢を重ねるにつれ、なんかちょっと潮気が……。 ──なるほどね。 中田 (海に)入ったあとのことを考えると。 ──そこまで、はしゃげない(笑)。 中田 そうですね。なので、山かなっていう。 ──海は、須磨海岸……? 中田 行ってました。あと、山口県に、ひいおじいちゃんの家があって、そのあたりの海に行ったりもしてました。 ──自然と、街中だと、どちらのほうがしっくりきますか? 中田 ……自然のほうが、やっぱり解放的になるので、好きですね。 ──自然に関して、印象的な思い出はありますか? 中田 中学時代の夏休みなんですけど、近所の山の中に、プールみたいに水が溜まっているところがあって、すごく深いので岩から飛び込んで遊んだりとか、けっこうしていました。わんぱくな川遊びとか。海だと塩があるじゃないですか、でも川だと、びしょびしょのまま帰っても、田舎なので大丈夫だし。 ──それはすごい。 中田 もう、びしょびしょで帰ってました(笑)。 関西弁が印象的な役たち ──そんな地元から上京して、最初の仕事はなんでしたか? 中田 たしか初めて出たドラマは、深夜の『ラーメン大好き小泉さん』という……。 ──あー(早見)あかりちゃんの……。 中田 そうです! そのドラマに出させていただいたのが、最初です。 ──現場の感じは、どうでしたか? 独特なテイストのドラマですけど。 中田 そうですね。そのときは、けっこういっぱいいっぱいというか……楽しい!というのもあったんですけど、それよりも言われたことをちゃんとしなきゃみたいなものが大きかったです。 ──その後、どんどん映画やドラマに出られるようになって、ここ数年は、本当に拝見する機会が増えましたが……最近で言うと、公開が1年延期になってこの春に公開された映画『街の上で』はどうでした? ポイントになる、印象的な役でしたよね。 中田 そうですね。あまり芸能関係の友達は多くなくて、普段そんなに連絡も取らないんですけど「観たよー」っていう連絡が来たり。あと、オーディションで会った全然知らない俳優さんから「よかったです」と言われたりとか……人に感想を言ってもらえる機会が増えました。 ──『街の上で』の城定イハ役、『君が世界のはじまり』の琴子役……どちらもなんですけど、関西弁の印象が強くて。普段もあれくらいの感じの関西弁を話すんですか? 中田 続きましたね。関西弁が。普段もけっこう、あんな……きついですよね? ちょっと(笑)。 ──ボクは標準語なのでよくわからないんですけど、関西弁の中でも強弱をつけたりするものなんですか? 中田 そうですね。特に関東で関西弁をしゃべるときは、そんなにきつくならないように、語尾に気をつけたりとかはしています。 ──セリフを、自分流に言い回しを変えたりすることもあります? 中田 そうですね。『君が世界のはじまり』の琴子のときは、逆にきつく聞こえるようにしたりとか、『街の上で』のイハは琴子ほどの強さではないけど、友達と話す感じにしてみたり。琴子のセリフはどらちかというと、家族に話すみたいなきつさが感じられるような言い回しです。 「あと先考えずに行動しちゃうんです」 ──『うみべの女の子』もそうなんですけど、友人といるときの女の子の役を演じることが多いですよね。琴子もそうですし、映画『あの頃。』(2021年)で演じた靖子も……ああいう、役としての友達同士の距離の取り方は、実生活を参考に演じてみたりするんですか? 中田 実生活での友達はそんなに多いほうではなくて……(笑)。なので、たとえば『うみべの女の子』では(佐藤小梅役を演じる)石川瑠華さんと普段からコミュニケーションを取ったりとか、そういうふうにして。 ──なるほど。いろいろな役を演じてきた中で、どの子の性格が自分に一番近いと思います? 中田 『街の上で』のイハとか……? けっこう何を考えているのかわからない、あと先考えずに行動する感じが、ちょっと私みたいなところがあるかもしれません。私も注意されることがあるので、親に。 ──あと先考えずに、感覚で行っちゃう……。 中田 なんか何も考えずに行動しちゃう、みたいな。 ──たとえば、こんなことをやっちゃいましたみたいな出来事はあります? 中田 やりすぎていて、ちょっとあれなんですけど(笑)。たとえば何かの準備をしていても、時間が迫ってきているのに急がない、とか。 ──なるほど。マイペースなんですかね? 中田 そうですね。あとは、ちょっと考えればこうなるってわかるのに事前に防がない、やっちゃう!みたいなのはあります。 ──なるほど。あと、演じている役では、本当に印象的な役が多いなあと思うんです。先日放送されたドラマ『初情事まであと1時間』(MBS/2021年)も、なんかすごいミステリアスな役柄というか……。 中田 そうですね。ちょっとなんかホラー的な要素があるんですけど、怖さもあって。あれも関西弁でしたね(笑)。たしかに多いですね、そう考えると。 ──ほぼ、関西弁。 中田 でも『うみべの女の子』では標準語なので(笑)。 ──ですね(笑)。姉妹の妹を演じた『初情事まであと1時間』での、望月歩さん演じる芳樹の相手が姉なのか? 妹なのか?の解釈を視聴者に委ねるストーリーの結末、ご自分ではどんなふうに捉えていますか? 中田 あー、でも最後の脚のカットあったじゃないですか……観ている人は「姉妹のどっちだろう?」ってなると思うんですけど、私からしたらもう××××の脚だなって(笑)。 ──そうか! なるほど。演じているからこそですね。観ていても、最後が、ホラーというかミステリーというか……すごいなあ。 中田 はい、ゾクッとする終わり方ですよね(笑)。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 ヘアメイク=内山多加子 編集=龍見咲希、中野 潤(BLOCKBUSTER) ************ 中田青渚(なかた・せいな) 2000年1月6日生まれ。兵庫県出身。2014年『第5回Sho-comiプリンセスオーディション2014』のグランプリを受賞。ドラマ『ラーメン大好き小泉さん2016新春SP』(フジテレビ/2016年)で女優としてデビュー。その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)や『アノニマス〜警視庁“指殺人”対策室〜』(テレビ東京/2021年)、『ここは今から倫理です。』(NHK/2021年)、映画『見えない目撃者』(2019年)『君が世界のはじまり』(2020年)『街の上で』(2021年)をはじめ、数多くの作品へ出演を重ねる。 主人公の友人役を演じている映画『うみべの女の子』(2021年)が新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで現在公開中。 ドラマ『ホメられたい僕の妄想ごはん』(テレビ大阪:毎週土曜深夜0時56分~1時26分、BSテレ東:毎週土曜深夜0時00分~0時30分)の第10話に出演予定。 ▼『うみべの女の子』の見どころを聞くと「ヒリヒリする感じというか、原作の淡く儚い空気感がそのまま映画に出ている作品です。劇中の小梅と磯辺が、本当に原作漫画の小梅と磯辺なので、ぜひご覧ください」 【インタビュー後編】
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女優・見上愛「生活にも軸を置いていろいろな表現をしていきたい」
#7 見上 愛(後編) “今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。 見上愛(みかみ・あい)ワタナベエンターテインメントのスクールへ通ったことをきっかけに芸能活動をスタート。2019年に女優デビュー後、映画『星の子』(2020年)、『恋はつづくよどこまでも』(TBS/2020年)、『ガールガンレディ』(MBS/2021年)、『きれいのくに』(NHK/2021年)など数々のドラマや映画、MV、CMに出演。今後も、『プリテンダーズ』(10月16日公開予定)、W主演『衝動』などの公開が控えている。前編でも垣間見られた、彼女の「舞台への思い」や普段の生活の話を中心に聞いていく。 【インタビュー前編】 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 高校時代、同世代に演劇を広める活動をしていた ──見上さんが憧れている女優さん、好きな女優さんはいますか? 見上 好きという意味では、寺山修司さんがずっとあるんですけど……女優さんだとあまりいないかも……あ、でも舞台を観てすごいなと思ったのは寺島しのぶさん! 芸劇(東京芸術劇場)で唐十郎さんのお芝居(『秘密の花園』2018年)をやられているのを観て、すごいなあと思いましたね。全部脱いで、水で溺れてみたいな演技とか。自分がそうなりたいかというとまたちょっと違うんですけど……でもそこまでさらけ出せるのってすごいなという意味でも、尊敬してます。 ──見上さんのインスタを拝見すると、お芝居をすごくたくさん観ていますよね。最近観た中で印象に残っている舞台はありますか? 見上 最近だと「NODA・MAP」! 「NODA・MAP」の『フェイクスピア』(2021年)を2回観たんですけど、やっぱりおもしろいなあ、ずるいなあ、そう来るかみたいな……もう敵わないなみたいな。ほかに、好きな劇団で言うと「マームとジプシー」さん。(主宰の)藤田貴大さんが大好きで……そうですね、基本は好きな劇団をけっこう追いかけたりします。(「ナイロン100℃」主宰の)ケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんは『百年の秘密』(2018年)という作品以降は、全作品を観ていますね。けっこう王道系も行くし、テント芝居なんかも行きます。それと、友達の芝居や先輩の芝居は基本、全部観に行きます。大学の友達の芝居は基本、全部行こうと思って。 ──「NODA・MAP」の『フェイクスピア』(2021年)の最後の展開で出てくるモチーフは、世代的には、見上さんよりかなり上のような気がするんですが、あれって実感できます? 見上 そうですね、ニュースとして観ていたり本として読んでいたり、母の友達がそれで亡くなったりという話を聞いていたりしたので、実感として「あのときの」とまではならないんですけど、出来事として知っているものではあるので。 ──なるほど、たとえば野田秀樹さんの芝居だと、テーマ、セリフ、動き……どの要素が一番刺さりますか? 見上 全部が総合芸術としてやっぱり素晴らしいなとは思うんですけど、役者が作った感じとかそういうものを超えた身体性でもって、それを超えた感情というか言葉が出てきてしまう感じがすごく好きで……藤田貴大さんにもそれが当てはまるなあという気がしていて、そういうものを観た瞬間が「演劇を観ているー!」という感じがして好きですね。 ──「マームとジプシー」だと『cocoon』とかですか? 見上 『cocoon』は、生では観られていなくて。去年の7月にやる予定だったのを楽しみにしていたんですけど観られなくて……藤田さん演出の『ねじまき鳥クロニクル』(2020年)とか「ひび」みたいな「マームとジプシー」から派生したワークショップ系のものをけっこう観ています。 ──野田秀樹さんの作品を藤田さんが芸劇でやった『小指の思い出』(2014年)とか。 見上 あー! 観られていないんですよ、それ。でも、寺山修司さんの芝居を演出した『書を捨てよ町へ出よう』(2018年)は観たりとか。そういえば学生のときに、東京都主催の同世代に演劇を広める活動みたいなものに入っていたんです。そこで、藤田貴大さん作演の『BOAT』(2018年)を観たあとに「演劇カフェ」といって、いろいろな人と感想を言い合ったりとか。ほかにも(演劇ジャーナリストの)徳永京子さんをお呼びしたりという活動の運営をしていて。そういうことで興味を持ったりとか……劇場へもずっと通っていました、高3時代とか。自分でも忘れていました、今日思い出しました(笑)。リポートなんかも書いていました、今思い出しました! ──ホントすごいですね。ちなみに、ケラさんだと……? 見上 ケラさんの作品は会話劇の最高潮だなって。よけいなことをしなくても、もう台本ですでにおもしろいし、演出も的確だし。けっこう不条理系の劇も好きで、終わったあとに「だから何?」とか「結局何も変わっていない」とかそういうのがけっこう好きなんです。ケラさんだと、すごくおもしろい飛んだ作品も好きですし、何も起きないじっとりとした不条理劇も好きですね。 ──『百年の秘密』以降だと、一番刺さったケラさんの作品は何になります? 見上 何が好きだったかな……『百年の秘密』以降ですよね? ──この3、4年ぐらいの間に。 見上 そうですよね! ありすぎて……けっこうな数(舞台を)打ってますもんね。奥さんの緒川たまきさんとやられていた「ケムリ研究室」の公演なんかは、おもしろさが新しいところへいったなあと。 ──会話劇系の。 見上 そうですね、あれはおもしろかったですね。あとは学生闘争の時代を描いた『睾丸』(2018年)……なんかなかなか言えない公演名ですけど(苦笑)とかも、おもしろかったなあ。 ──安井(順平)さんや、ねもしゅー(根本宗子)さんが出ていた……。 見上 はい、それです。すごくおもしろかったです。 「職業:寺山修司」と言えるおもしろさに惹かれて ──この先、ご自身で、たとえば作演でもいいですし、自分で出るでもいいんですけど……もし舞台に関わるとしたら、どんなものをやりたいですか? 見上 どんなの、やりたいかなあ……? そうですね、作演はしれーっと打っておきたい(笑)。その、名前も出さずにしれーっとやっておきたいなというのが実はあって。名前を変えて、とか。本名で芸能活動を始めてしまったので、なんとなく切り替えがひとつあるとおもしろいのかなと思うんです。あと、出るとしたらどんな作品に出たいかなあ……。その、劇場としてKAAT(KAAT神奈川芸術劇場)とか芸劇(東京芸術劇場)がけっこう好きなので、そこでのお芝居とかも気になりますし、そういうところで。 ──舞台での姿を、すごく観てみたい気がします。 見上 いやー、もう好きなだけで(笑)。観劇はただの趣味なので、何も考えずに観られるんですよ。演技がどうこうとか、演出がどうこうとかも、何も考えずに。 ──一番ハマっていたという寺山修司さんは、どのあたりが魅力だったんですか? 見上 最初は『犬神』を観て、調べてみたら「なんでもやってるじゃん!」みたいな、そこのおもしろさです。「職業:寺山修司」と言えちゃうおもしろさにめっちゃ惹かれて。私もやりたいことが多かったので……あ、いろいろやるのってOKなんだ!みたいなことを感じました。映画は、『田園に死す』(1974年)とかからまず観ていって、それこそわけわからないんですけど……でもそれまでは何かをわかりやすく伝える映画ばかり観ていたので。たとえば、それまで日本の映画やドラマでは、メッセージ性とかセリフなんかを観ていたから……。そうじゃなくて、やんわりじんわり受け取れーみたいな感じで映画を作ってもいいんだみたいな。演劇では、なんとなくそういう感じが成立しているんだなということは、戯曲を読んだりしてわかってたんですけど。映像でもこんな感じでOKなんだ、って。それまで映画をあまり観ていなかったっていうのもあると思うんですけど、なんかそういう切り取り方とかがおもしろかったですね。 ──ムービーで演技をするときに、こんなことを活かしているという点はありますか? お芝居を観てきた経験が、こんなところで活きているみたいな。 見上 脚本を読んだときに想像がつきやすいかもしれないです。演劇での戯曲の読み方のクセがついていて、まず全体で何を言いたいか、次にそのシーンが何で、その役は何をどんな役割としてやって……という読み方が基礎にあるので、なんとなく普通より読みやすさはあるのかもしれないですね。 ──たしかに、戯曲で……わかる気がします。今後やってみたい役はありますか? 見上 それ、ずっと悩んでいて、今までは「なんでもやってみたいです!」とか言っていたんですけど、最近コメディに挑戦してみたいという気持ちがすごく強くなってきて……。実はやったことないなあっていうのと、けっこうおちゃらけて中高ふわーっと過ごしてきたので、本気でお笑いをするというか、本気でやるからおもしろいという意味でのコメディって触れ合っていなかったなと思って。それは挑戦として、すごくやってみたいです。 ──どちらかというとガチなほうの……ナンセンスコメディではなくて。 見上 そうですね。そういう意味では、ケラさんみたいなシリアスなブラックコメディみたいなものを将来的にできたらうれしいんですけど。まずは王道コメディみたいなものをやってみたいです。 日記的な意味も込めて脚本を書いています ──ちょっと仕事の話から外れるんですけど、趣味として観劇はあると思うんですが、それ以外に普段ハマっていることや最近始めたことはあります? 見上 あ、バレエに4年ぶりに通い始めました。運動があまりにも続かないのと、今ジムも閉じたりしちゃっているので、バレエならレッスンだし続くんじゃないかと思って、週1くらいで行き始めました。あとはなんだろう……脚本を、ちょっと書いたり。なんとなく課題という面もありつつ、書いておいて損はないかなという。その時々で書けるものは違っていて、もう書けなくなっちゃうものもあるだろうから、今思うことを書いておこうという、ちょっと日記的な意味も込めて書いています。記録みたいな感じです。 ──日記代わりに脚本というのはすごい……バレエ歴は、どれくらいなんですか? 見上 年数だけでいうと3歳から17、8歳までやっていたので、すごく長いんですけど、前屈がずっとつかなかったレベルのバレエなんですよ(笑)。すごくゆるーいバレエで、教室の先生も優しい人だったので。「楽しくやりましょう」というのが前提だったから、すごく身体も硬いままで。トゥシューズも履いてはいたけど「立ててるのか、それ?」みたいな(笑)。 ──そのバレエを今、あらためて始めて……。 見上 そうなんですよね。ちょっとリフレッシュするかなとは思っていたんですけど、超リフレッシュできますね! なんにも考えずに済むみたいな。 ──バレエの魅力はどんなところですか? 見上 舞台に立つということを置いておいてレッスンだけでいうと……あの心地よい音楽で、こう、酔いながら動くっていうだけで気持ちいいです。背骨1本1本を指示されるんですよね。なんか「この背骨のここがちょっと、どうこう」みたいな話になってくるので。この動きをすると、ここが……それをずっと考えていると、ほかの考え事ができなくて。なんか悩んでいることがあっても一回全部リセットされるという気持ちよさとか、普段しない動きができる気持ちよさみたいなのもちょっとあります。舞台に立つと、それはそれで人に観られながら踊るという高揚感もあったりするんですけど。 ──もちろん全部が全部ではないですけど、なんとなくバレエはどちらかというと身体表現じゃないですか、それと対局にある、脚本を書いていますという行為。すごく対になっているなあと思うし、そこがおもしろいなあとも思うんですけど……。 見上 ホントいろいろと興味があって、手を出しすぎちゃうんですよね(笑)。 ──(笑)。書かれる脚本は、ムービーの脚本、ステージ用、どちらのイメージですか? 見上 ステージです! ムービーはたぶん書けない。何もない状態で書けるほどの才能は全然なくて、いろいろなものを観て吸収して、ちょっとずつ要素として入ってくるという感覚をもとに、今は舞台をイメージして書いてます。 ──なるほど、いつかそれを実際に演じる姿を観たいですね。なかなか想像できないかもですが……3年後5年後、自分がどんな感じになっている? あるいは、どうなっていたいなあみたいなイメージはあります? 見上 いい意味で今と変わっていなかったらいいなと思います。今後、がんばって露出が増えたとして、大学も卒業して仕事だけというふうにどんどんなっていくと思うんですけど……そうなったときに生活にも軸を持つというか、いい意味で仕事だけにならないように。それだけの人になっちゃうのが怖いなと思っているので。普通の感覚というか、生活に主軸を置きながらいろいろな表現ができていたらいいなという理想はあります。 ──今の学生生活との両立が大変というより、2軸があるから逆に今がいいという……。 見上 そうなんです。わりと学生の友達も多いので、そこにちょっと軸を置きつつ、なんとなく普通の大学生の感覚みたいなものも常に持ったまま行動できているのが、今の自分にはちょうどいいのかなというのがあって。今、本当にバランスが取れていますね。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=大塚素久(SYASYA) ヘアメイク=ムロゾノケイト 編集協力=千葉由知(ribelo visualworks) 編集=中野 潤、龍見咲希(BLOCKBUSTER) ************ 見上 愛(みかみ・あい) 2000年10月26日生まれ。東京都出身。2019年デビュー。その後、CMやMV、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS/2020年)、『ガールガンレディ』(MBS/2021年)、『きれいのくに』(NHK/2021)、映画『星の子』(2020年)、『キャラクター』(2021年)などへ出演を重ね、今後も数々の主演映画の公開が控えている。 『GIRLS STREAM 04』発売中。 ▼同世代の女優さんの中で、ミーハー系じゃない、こんなに多くの舞台を観ている人はいないですよね?の問いには「ミーハーなのも大好きですよ! ちゃんと2.5次元とかも観ますから(笑)。『刀剣乱舞』なんかも観に行っているので。ショーとしても大好きです」
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演出家志望だった見上愛。女優としての転機と葛藤
#7 見上 愛(前編) “今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。 見上愛(みかみ・あい)ワタナベエンターテインメントのスクールへ通ったことをきっかけに芸能活動をスタート。2019年に女優デビュー後、映画『星の子』(2020年)、『恋はつづくよどこまでも』(TBS/2020年)、『ガールガンレディ』(MBS/2021年)、『きれいのくに』(NHK/2021年)など数々のドラマや映画、MV、CMに出演。今後も、『プリテンダーズ』(10月16日公開予定)、W主演『衝動』などの公開が控えている。なんでも聞いてください!とでもいうような明るい表情の彼女へ「その歩みを聞く」質問からインタビューは始まった。 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 演劇の世界を志したきっかけは“トガった”演劇部 ──この世界に入ろうと思ったきっかけはなんですか? 見上 きっかけ……女優になろうと思ったきっかけ自体は、未だになくて。中学2年生のときに観劇に連れて行ってもらい、そこで観劇にハマりました。中高一貫校に通っていたんですけど、演劇関係の仕事に就きたいと思い始めて、高校1年生の途中で部活を演劇部に変えたんです。そこで舞台の演出や脚本をやるなかで演出家になろうと思い、今の大学に入ることを決めました。演出家になるとしても演技もやったほうがいいよと言われていたりもしたので、ワタナベエンターテインメントの養成所へ入って、そこで事務所から声をかけていただいたという流れです。 ──なるほど、一番最初に観た劇って覚えていますか? 見上 はい、『私のホストちゃん』(2014年)ていう2.5次元の舞台だったんですよ。 ──あ、鈴木おさむさんの舞台だ。 見上 そうです、そうです! 観劇中は「なんでホスト? ……役者? ……えっ?」みたいなパニック状態だったんですけど(笑)。劇場のお客さんたちを見ていると、すごく楽しそうで「なんか演劇ってすごいなあ」って。 ──生で観ると違うなと? 見上 そうですね。みんなにパワーを与えて、こんなふうにみんなが笑顔で帰れるんだ、というのが……。 ──その後、演劇部ということですね? 見上 そうですね。トガった演劇部に(笑)。 ──“トガった”演劇部? 見上 寺山修司さん、別役実さん、野田秀樹さんしかやらない。それ以外はオリジナルっていう演劇部に。 ──肌に合いましたか? 見上 合いました! そこから、本当に演劇に興味を持ち始めたという感じです。 ──その演劇部で、演出もやっていた? 見上 そうですね。これも本当に巡り合わせなんですけど、私が中高一貫校の部活の途中から入ったから、その時点で、なんとなく部活のメンバーの役割が……この子は照明をやっているとか、(女子校だったので)男役はこの子がやっているとか、もう決まっていて。ぽっかり空いていたのが、演出と脚本だったんですよね。そこしかやるところがなかったので、じゃあせっかくだし演出をやろうかなと思って。 ──ということは、役者として出るよりも先に、脚本とか演出を? 見上 一番初は、寺山修司さんの作品に出演しました。演劇部に入った日が、たまたま次の大会に向けての出演者オーディションの日だったので、とりあえず受けて、人数も足りなかったから出演することになりました。そのあとは、脚本とか演出をやりましたね。 ──その寺山修司さんの作品は、なんだったんですか? 見上 『犬神』という作品です。けっこう海外公演とかで打っていた作品なんですけど、全然わかってなかったです、やっているときは。 ──たとえば演技は、小さいころからテレビで観ているので、なんとなくイメージもできそうですけど……脚本や演出は、身近に見本も手本もないので、大変だと思うんです。 見上 たしかに。でも、顧問の先生が本当に演劇が好きで「年に100本以上観ています」みたいな方だったので、いろいろとご指導をいただいたり。それと私も舞台をすごく観に行っていたので、それで得た知識とかを合わせて……あと、とにかく戯曲を読んでいましたね。 ──その戯曲も、さっき言っていたような別役実さんとか寺山修司さん……? 見上 そうですね。あと、チェーホフとか。けっこう王道の古典系を読んでいましたね。 ──その後、大学へ入って……。 見上 はい、大学に入って、それから事務所へ入りました。 自分にとって転機となったドラマ『きれいのくに』 ──仕事をやってきたなかで印象に残っていることってありますか? 見上 なんだろう……そうですね、3つ印象に残っているものがあって。ひとつ目は、『プリテンダーズ』(10月16日公開予定)という映画です。初めての映画撮影で、それこそ何もわかっていない状態で。監督が、脚本に捉われずその場での自分の感情や思いを大事に、一緒に作っていこうという考えの方だったので……心が本当に動いて演技をするとか、自分の頭の中でこうしようと思った感じじゃなく身体が動いちゃうとか、泣きたくもないのに泣いちゃうとか、そういう経験を初めてしました。それはすごく記憶にも残っているし、演技の出来がいいかどうかはわからないんですけど、すごくいい経験をしたなと思っています。 ──監督の演出方法が合ったんですね。 見上 そうですね。もう私自身のいろいろなものを引き出してくれて。相手役も小野花梨ちゃんだったので……本当にうまいんですよ! いろいろと優しく教えてくれたりとかして。演技するってこういうことなのかなっていうことに触れた瞬間だったかもしれないですね。ふたつ目は『衝動』という、これもまだ公開されていない映画で、私の初めての主演映画です。倉悠貴くんとのW主演。私は声が出ない役なので、基本的にセリフがない状態なんです。その場その場で演技をするというのとはまた違う感じで……言葉を出さずに表現していかなきゃいけなかったりとか。それに、現場での主演としてのあり方みたいなものも考えていくうちに、今まで、主演の方や年上の方々が、すごく気を遣ってくださっていたんだろうなということに気づいて。そんなふうに「演技すること以外」の女優としての仕事に気づいたのが『衝動』です。 ──いわゆる、座長的な? 見上 そうですね。倉悠貴くんとのお互いの役割……役としての役割もあるし、現場でのあり方の役割もあったりとかして、互いにバランスを見て考えていくっていうことが、そうでしたね。 ──では、3つ目は? 見上 3つ目は、この前のNHKのドラマ『きれいのくに』(2021年)です。レギュラードラマで初めてメインの役をやったことに加えて、作り方や脚本がおもしろかったんです。ドラマなのに稽古期間が3週間くらいあって、きっちり作っていくというか……もちろんその場の感情とかも大事なんですけど、どちらかというと、なんでこうしてこうやってというのを一個一個読み解いて、ちゃんと目的と衝動を持って演技をするみたいなことが、すごく難しくて。それは勉強にもなったし、同世代の子たちとガッツリずっと一緒にやって、仲よくもなれてとか。脚本・演出の加藤拓也さんも、年齢的には私とそこまで遠くないのに、こんなことが書けてこんな演出までできるとか……作り手目線としても、このレベルにならなきゃいけないんだなというか。そういうのを感じました。 ──ホント、天才ですよね。加藤拓也さん。 見上 そうですよね。そういう感じで『きれいのくに』は、転機になっていますね。 ──この『きれいのくに』でもそうですけど、若手俳優の方々と仕事をしていて、仲よくなった方っていらっしゃいますか? 見上 『きれいのくに』の(自分を入れて)5人……岡本夏美ちゃん、青木柚くん、山脇辰哉くん、秋元龍太朗くんは、もうめっちゃ仲いいです。LINEもよくするし、みんなで大富豪したりとかもするし、そういう仲です。あと河合優実ちゃんは、大学が一緒でそこで知り合って。私がナンパしたんですよ(笑)、優実を! あまりにもかわいい子がいるから「すいません、めっちゃかわいいです。友達になってくれませんか?」って言ったら「あ、いいですよ」みたいな(笑)。そのとき、優実はもう女優をやっていたけど、私はまだ女優をやっていなくて「あ、女優さんなんですか」と。 ──ナンパと言うと、井桁弘恵さんが、やっぱり大学が一緒の小川紗良さんをナンパした……って(笑)。 見上 えー、同じだ! ──あるんですね。井桁さんは試験会場でナンパしたって言ってました。 見上 えー! 私は道でナンパしました(笑)。 役の見え方と役としての気持ちで揺れたジレンマ ──『きれいのくに』での見上さんの演じた“凛”役って……自分の顔が嫌い、顔に自信がないという、なんとなくすごくやりづらい役のような気がするんですけど、どうでしたか? 見上 正直、私、自己肯定感がめちゃ高くて、自分の顔に、そもそも興味を持ったことがなかったんですよ。好きも嫌いも、自分の顔だし、自分の顔が好きと思ったことも嫌いと思ったこともなくて。だから脚本をもらったときは、あまり実感が伴っていなくて。でもそういう子がまわりにもたくさんいるから、そういう考えがあるっていうこと自体は理解してて……ただそこに実感が伴っていないという状態だったんですけど。稽古をしていくうちに、なんか顔じゃなくても本当は嫌だけど見て見ぬふりしているところがあるなとか、そういうことに気づいていって、そこを取っかかりにしてやっていましたね。あと、友達にも、めっちゃ話を聞いたりして。 ──自分に近い役や遠い役があると思うんですけど……たとえば『箱庭のレミング』(ABEMA/2021年)での、承認欲求の強いモデルの“白石未映子”役はどうでした? 見上 私、TikTokも入れたことすらなくて(笑)……急いで入れて監督に使い方を習ったら、打ち合わせで急にめっちゃ音とか鳴っちゃって……急に開いたら「わーっ!」みたいな、大騒ぎだったんですけど(笑)。あの役自体は、すごく自分とは遠くて。あまり人から注目されてどうこうとかも今までなかったんですけど、でもああいうことが社会問題になっていることに興味は持ってて「やっぱり、そういうのって作品になるんだな」という印象でした。だから知らないワードではなかったというか、そこを切り抜いていくんだみたいなのは感じたんですけど、ただそれこそ最初は実感を伴っていなかったですね。 ──なるほど。実際に役を演じていくなかで、どう感じました? 見上 かわいい子としか友達にならない友達がいたんですよ。一緒に写るのならかわいい子がいいって言っている子がいて。私にはそんな発想はなかったんですけど、でもそういうことなんだろうなと思いながら演じていたら、ちょっとずつ見えてきたっていう感じはありましたね。 ──『箱庭のレミング』の衝撃のラスト……あれを最初からわかった上で演技するわけですよね、特に後半とか。視聴者を騙すようにやることって大変でしたか? 見上 そこは、めっちゃ難しくて。たとえば、役の気持ち優先で進んでいったらラストで悲しんではいなくて、本当は「よっしゃあ、やってやるぜ」と思っているところで悲しんでいるように見えなきゃいけないとか。役の見え方と、役としての気持ちがまったく追いつかない点が出てきちゃって、そこはけっこう監督と話し合って何パターンか撮りました。本当に申し訳ないんですけど、初めて監督に意見を言ってみたかも。「私はこう思うので、まずやってみます」と言ってやってみて、次に監督から出た「やっぱり見え方としては泣いてほしい、落ちてほしい」みたいなパターンを、正直気持ちが伴わないかもしれないですけどやってみます、という感じで撮って……最終的には、ちょうどいいバランスのところを編集してくださったんですけど。 ──そういう話を伺っていると、やっぱり演出家気質ですよね。 見上 たしかに、そうかもですね。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=大塚素久(SYASYA) ヘアメイク=ムロゾノケイト 編集協力=千葉由知(ribelo visualworks) 編集=中野 潤、龍見咲希(BLOCKBUSTER) ************ 見上 愛(みかみ・あい) 2000年10月26日生まれ。東京都出身。2019年デビュー。その後、CMやMV、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS/2020年)、『ガールガンレディ』(MBS/2021年)、『きれいのくに』(NHK/2021)、映画『星の子』(2020年)、『キャラクター』(2021年)などへ出演を重ね、今後も数々の主演映画の公開が控えている。 『GIRLS STREAM 04』発売中。 ▼加藤拓也さんが主宰する「劇団た組」の芝居について聞くと「公演をまだ観れていなくて……映像とかでは観たんですけど、今後に控えている公演を観に行くのが、めちゃ楽しみです!」 【インタビュー後編】
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女優・関水渚「王道な恋愛ドラマにもチャレンジしてみたい」
#6 関水 渚(後編) 映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(2020年)、ドラマ『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(テレビ東京/2021年)などの作品で印象的な役柄を好演し、今夏放送の連続ドラマ『八月は夜のバッティングセンターで。』(テレビ東京)ではドラマ初主演を果たす女優・関水渚。 前編に続き、初主演ドラマの撮影中のエピソードや、普段の様子、今後目指していきたい姿を聞いていく。 【インタビュー前編】 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 仲村トオルさんには『関水』と呼ばれています ──共演者の仲村トオルさんと撮影中に話していて、印象に残ったことはありますか? 関水 いっぱいあるなあ。仲村さんは本当にすごく穏やかなので。一度話し始めると、すごくいろいろな話をしてくれるんです。私のことを「関水」って呼ぶんですけど、「関水」と呼ぶのを決めるのに2週間弱かかったらしく「なんて呼ぶかをすごく悩んだ結果、『関水』って呼ぶことにした」って言われて(笑)。あるとき、現場でふたりで横に並んで立っていたんですね。そうしたら「関水、座っていいぞ」って言われて。「いや、先輩が立っていらっしゃるし」と言ったら「俺は座らなくていいんだ」と。「なんでですか!?」と聞いたら「立っていると、アンチエイジング効果がある」って……らしいです(笑)。 ──(笑)。仲村トオルさんは、役に入るとバシッと変わる感じですか? 関水 全然変わりますね。全然変わる、すごい……いやあ素敵です。お芝居も優しいですね、やっぱり。 ──ほかの共演者の方とはどんな感じですか? 関水 ゲストで来る野球選手の方はみんな前向きなパワーがあって、いらっしゃると現場がすごく明るくなるんです。毎回(別な方が)出てくださるヒロインの方々も、深川麻衣ちゃんとは『アノニマス〜警視庁“指殺人”対策室〜』でも共演していて(前の撮影から)けっこうすぐに会えて楽しかったですね。麻衣ちゃんは、前のドラマのときはネットの誹謗中傷に苦しむ役で、今回もあんまり本音を言えないという役。そして私はどちらもズバズバ言う役なのが、デジャヴみたいでおもしろかったです。あと山下リオちゃんも、共演するのは初めてだったんですけど、本当に優しいしすごく気さくに接してくれる。テレビでは何度も観ていた女優さんだったんですけど、お芝居がまっすぐでキラキラしていて感動しちゃいました。本当に素敵でしたね。「この方、こんなに魅力的なお芝居をされるんだ」と、改めて思って。もちろんテレビや映画で伝わるものもあるけど、生で演技を見ると迫力がすごくて。一緒にドラマをやれてよかったなあと思いました。 ──第1話の撮影で、実際に岡島秀樹さんが来たときはどうでしたか。 関水 岡島さんがいらっしゃったらすごく空気が明るくなって。雨が降ってたんですよ、その日。ずっと曇りがちで、あまり天気がよくなかったんですけど、岡島選手がいらっしゃったら気持ちが晴れましたね! めちゃくちゃ晴れました。優しいし、楽しかったです。野球選手の方と撮影する経験は初めてだったので貴重な体験でした。 ──関水さんが、仲村トオルさん演じる伊藤智弘さんに悩みを相談をするとしたら、どんなことを相談しますか? 関水 最近悩んでること、あるかなあ。最近そんなに悩むことがなく……あるかもしれないんですけど、パッと思いつかないなあ。でも、そういうのも見透かされるんでしょうね。そう言っていても「これで悩んでいるだろう?」って、伊藤さんには言われるんでしょうね(笑)。 ──ですね(笑)。『八月は夜のバッティングセンターで。』の見どころを教えてください。 関水 ひとつだけを切り取るのはすごく難しいんですけど、野球選手の方が毎回出るドラマってすごく新しいと思うし、野球好きの人は絶対このドラマを好きだと思うんですよ。あとはヒロインの方たち8人それぞれ8つの悩みがあって、それは野球を知らない女性でも重なる部分があったりするんじゃないかなと思います。共感もできたり、深夜にホッとしたりもするんじゃないかなと思うので、そういうあたり、おすすめです。それと、伊藤さんの言葉が本当にすごく響くんですね。なんか「これでいいのかも」って思えるときもあるし、逆に「このままじゃいけないんだ」って思うこともあって、人生においても勉強になる言葉がすごく多かったので、そういう部分にも注目してもらえたらなと思います。 王道の恋愛ドラマもやってみたい ──今後やってみたい役柄はありますか? 関水 恋愛ドラマを全然やったことがなくて、やりたいですね。それこそ石原さとみさんがやられていたような『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ/2012年)みたいな、ああいうドラマ。韓国ドラマもすごく観るんですけど、ベタベタな恋愛モノも、いつかやってみたいですね。 ──今までのドラマの中で、ちょこっとはあるけど。 関水 そうですね、あんまりないですね。ああいうガッツリした恋愛モノは。 ──恋愛系の役どころがあまり今までなかったという、同世代の女優さんだと珍しいパターンだと思うんですけど、もちろんそれが強みだとも思うのですが……。 関水 恋愛の役柄を求められると言えるほど存在価値があるって言い切るのはまだ難しいんですけど、今回のドラマ(『八月は夜のバッティングセンターで。』)をやってすごく感じたのが『町田くんの世界』と重なる役をやらせてもらうことが多いなと。今回の役も、境遇は違いますけど、どこかしら似ているんですよ。 ──『町田くんの世界』が、かなり印象的だったんですかね。 関水 けっこう、クセのある女の子でしたから。今回の夏葉舞も(『町田くんの世界』の)猪原奈々さんも「ヤダ」とか「無理」とかすごく言っているんです。高校生の女の子はこういう子が多いのかもしれないですね。少し似てるなあと思って。 ──夏葉さんも猪原さんも、ストレートに感情を出すところが似ている? 関水 猪原さんのほうは、ストレートというか……たぶん不器用だからそうなってしまうみたいな。「ヤダ」とか「無理」とか、そんな言葉をストレートに言ってもあんまり意味がないじゃないですか。意味がないというか、いい言葉じゃないし。でも不器用すぎて、それを言わずにはいられないんでしょうね。舞は、まわりに男の子が多い環境だったから言葉が少し男の子っぽくて、それがストレートに聞こえるのかも。本当は女の子っぽいところもあるんだけど、過去に悩んでることとかもあって気持ちの出し方が不器用。それぞれ似ているようで個性がありますね。 夏になると、海に行きたくなってしまう ──プライベートについても聞かせてください。最近ハマっていることはあります? 関水 全然初心者なんですけど、去年からウインドサーフィンをちょっとやっていて、楽しいですね。こういう天気だと本当に行きたくなっちゃう。 ──ウインドサーフィンをやるきっかけは? 関水 父がずっとウインドサーフィンをやっていて……それで私は「渚」という名前なんですけど。父は忙しいとか面倒くさいとか言って、あんまり教えてくれないんです。でも楽しそうにやっていたので、いいなあと思って、それで始めました。いつか一緒にできたら楽しいなと思っています。 ──自前のボードとかも。 関水 (ボードは)まだ持っていません。悩んでます……すごく悩んでいます。置く場所が……湘南に一軒家とか持っている人なら、家の前にボーンと置けるけど。なかなかね……悩んでおります。 ──ということは、休みの日はもっぱらウインドサーフィンを? 関水 そうですね……ウインドサーフィンをやる前からなんですけど、夏になると、泳がないにしても、すごく海に行きたくなってしまうので。海にはいるかもしれないですね、頻繁に。 プライベートでは、揚げ物に挑戦してみたい ──6月5日に誕生日を迎えて23歳になられて、大卒だと社会人1年目の年になりますが、どうですか? 関水 自分としては全然、気分は変わっていなくて。いつもどおり、ただの23歳っていう感じなんですけど。今年社会人になった子は、なんだか自分より若い感じがする。初々しいし、新鮮な感じがあるんですけど、少し早めに仕事をしてきたぶん、今の自分にそれはないかもと思いました。 ──友達からは、どんな子と言われます? 関水 すごく意志があるタイプだと思われています。 ──仕事以外でやってみたいことやチャレンジしてみたいことはありますか? 関水 料理、うまくなりたいですね。今日ちょっとInstagramに載せたんですけど。がんばりたいですね。 ──今まではそこまで料理は……。 関水 やってはいたんですけど、そんなに凝ってなくて。 ──コロナ禍というのも影響してますか? 関水 あー、あるかもですね。お店もやっていないし、テイクアウトもとんでもなく早く営業が終わるじゃないですか。作るしかないというときに、雑じゃなくて丁寧なものを作れるようになりたいです。 ──具体的にこんなものを作りたいってありますか? 関水 揚げ物! 揚げ物を全然やっていなくて。揚げ物鍋がないので、買わないと。買います! ──少し仕事関連の話に戻りますが、全然違うジャンル……たとえばバラエティの印象はどんな感じですか? 関水 バラエティが得意かと言われれば、全然だめなんですけど(笑)。でもバラエティは、けっこう観ていて好きなんですよね。大食いのロシアン佐藤さんがすごく好きなので、いつかバラエティ番組でロシアン佐藤さんと共演するという夢のために、バラエティもがんばりたいと思ってます(笑)。 ──仕事を重ねていろいろな方に会ったりするなかで、憧れや目標にしたい女優さん、タレントさんができたりもしました? 関水 『コンフィデンスマンJP プリンセス編』で、長澤まさみさんと1カ月ぐらいずっと一緒に撮影させていただいて。まさみちゃんがいると、それこそ空気が明るくなるというか……まさみちゃんには、そのあとも何回か相談とか会ったり遊んだりしてもらったんですけど、いつも前向きになれて、今まで思っていたこととか、全部どうでもよくなるんですよ。すごく小さい悩みに思えたり、すごく素敵な言葉をかけてくださるし。お芝居も、本当に年々どんどん魅力的になられているじゃないですか。まさみちゃんが「渚ちゃん、もっといい女優さんになれるよ。私もこれからまだまだがんばるからね」と言ってて。「すごい素敵!」と思って、私もがんばろうと思いました! (長澤さんは)あんなにできるのに、まだまだって思ってらっしゃるんだって。 ──素敵な関係ですね。石原さとみさんには、お会いしましたか? 関水 事務所で偶然お会いしたのと、舞台を鑑賞しに行ったときにご挨拶させていただいたことがあります。 ──この世界に入る前の、自分の思いは伝えました? 関水 伝えました。憧れです、ということを。 ──どんな反応でした? 関水 優しいですね。「ありがとう」と言ってくださって。 ──共演、あるといいですね。 関水 そうですね、いつか。 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 ヘアメイク=MAFUYU 編集=龍見咲希、中野 潤 ************ 関水 渚(せきみず・なぎさ) 1998年6月5日生まれ。神奈川県出身。映画『町田くんの世界』(2019年)で1000人以上のオーディションからヒロインに選ばれ女優デビュー。その後、映画『カイジ ファイナルゲーム』(2020年)『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(2020年)、ドラマ『キワドい2人-K2-池袋署刑事課 神崎・黒木』(2020年/TBS)『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(2021年/テレビ東京)などへ出演を重ね、女優として躍進。今夏放送の連続ドラマ、水ドラ25『八月は夜のバッティングセンターで。』(テレビ東京:7月7日スタート:毎週水曜深夜1時10分〜1時40分放送)でドラマ初主演を果たす。
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女優・関水渚「演じる役を一番好きなのが自分でありたい」
#6 関水 渚(前編) “今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。今回より『日刊SPA!』から『logirl(ロガール)』へとFA移籍しました。変わらず、素敵な方に迫っていきます! 関水渚(せきみず・なぎさ)「ホリプロタレントスカウトキャラバン」をきっかけに芸能界入りした彼女は、映画『町田くんの世界』(2019年)のヒロインとして女優デビュー。ブルーリボン賞新人賞をはじめ、多くの新人賞を受賞。その後、映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(2020年)、ドラマ『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(テレビ東京/2021年)などの作品で印象的な役柄を好演し、今夏放送の連続ドラマ『八月は夜のバッティングセンターで。』(テレビ東京)ではドラマ初主演を果たす。そんな彼女の、女優としての歩みや思い、プライベートを聞いてみた。 「focus on!ネクストガール」 今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。 石原さとみさんに憧れ、芸能界へ ──デビューのきっかけはなんですか? 関水 高校2年生のとき、石原さとみさんに憧れて「ホリプロスカウトキャラバン」を受けたんです。そのとき、ファイナリストに残ったことで事務所に入ることになって、18歳のときにデビューしました。 ──ホリプロスカウトキャラバンを受けようと思ったのは? 関水 石原さとみさん主演の『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ/2012年)を中学生のときに観て、自分も石原さとみさんみたいな女優になりたいなと思い「ホリプロスカウトキャラバン」を受けたんです。 ──石原さとみさんのどんなところに憧れました? 関水 ドラマに出ている石原さとみさんがすごくかわいくて、キラキラしていたので! ──なるほど。今の事務所に入って、一番最初の仕事はなんですか? 関水 アクエリアスのCMです。 ──CMが決まったときはどんな気持ちでした? 関水 初めて受けたオーディションで「まわりの人たちはすごく上手にやっているのに自分は全然できないんだけど……何これ」と思って、すごく落ち込んで帰ったので、CMをやらせていただけるということを聞いてびっくりしました。 ──CMが決まって、まわりの反応はどうでしたか? 関水 そうですね、「観たよ!」と友達からたくさん連絡をもらいました。電車の吊り広告になっていたりもしたので。 ──関水さん自身が初めてCMを観たときは……? 関水 うれしかったです! 演じる役を一番好きで楽しんでいるのが自分でありたい ──CMを経て、一番最初の演技の仕事は何になります? 関水 19歳のときに『町田くんの世界』という石井裕也監督の映画のオーディションを受けて、20歳の夏に撮影、そこから1年後くらいに公開されました。 ──演技をしたのは『町田くんの世界』が初めてだと思うのですが、役作りはどうでしたか? 関水 何をしたらいいのか全然わからなかったです。なんとなく言われたことをやっているという感じでした。 ──映画を観る限りでは、すごく自然体に見えましたけど。 関水 それは、石井裕也監督の演出が一番大きいと思います。監督の演出が「素の自分でいろ」というか……私に何か色をつけるんじゃなくて、私の中にすでにあるモノから演出していくという感じだったので。だから、あれは自分自身という感じでもあって、自然といえば自然な。でも今はもう、あれはできないかもしれない。 ──最初だから、なんですね。その後、いろいろなドラマや映画をやってきて、役作りに関して自分の中で考えるようになったことはありますか? 関水 撮影では、大変だったり、追い込まれたり、「がんばらなきゃいけない」という気持ちが強すぎて「楽しむ」という気持ちを忘れつつあったりもしたんですけど……まず「楽しい仕事なんだよな」ということを、改めて考えて。自分が楽しんでやらないと、作品を観ている人たちも楽しいとは絶対に思わないから。たまたま明るい内容のドラマがふたつ続いたんです。そのときに、そう思うようになって。共演した人が優しかったとか監督が楽しい人だったとか、理由はなんでもいいんですけど、まずは自分が楽しまなきゃ!と思うようになって。今は、演じさせていただく役を一番好きで楽しんでいるのが自分であったらいいなあ、と考えています。 プレッシャーを乗り越えたドラマ初主演 ──今までやってきた役の中で、一番印象に残っているものは? 関水 やっぱり直前にやった役を、一番覚えているので……今だったら『八月は夜のバッティングセンターで。』それが印象に残っていますね。 ──ドラマ初主演というのは、やはり気持ちがどこか変わるものですか? 関水 そうですね(共演者の)仲村トオルさんが本当に優しい方で、人の心を受け入れる大きな器を持ってらっしゃるし、お芝居でも私の心に何度も訴えかけてくださって。しかもそれがブレないんですよね。一緒にお芝居をしていても楽しかったし、監督やスタッフさんもすごく優しいアットホームな現場で。主演というのは、自分にとってはまだ大きすぎるし責任もあったんですけど、でも撮影自体は本当に楽しくて、終わってほしくないと思っていました。 ──第1話の脚本を読ませていただいたんですけど、少しコミカルな感じですよね。素を出した感じですか? それとも演技のほうが濃い? 関水 そうですね……人間は誰しも悩みがあると思うんです。私が演じる役も高校生らしい悩みがあって(仲村トオルさん演じる)伊藤智弘さんがその悩みを見透かすようなことを、劇中で何度も言ってくるんですね。そういうふうに見透かされているような気がしてしまうことが何度かあって、そのときに高校生時代の不器用な自分とも重なったり、自分が出てしまった部分も多少はあったかなあという感じがします。 野球は観ていて一番楽しいスポーツ ──高校生のころはどんな感じだったんですか? 関水 すごく狭い世界で生きていたので、あまり多くのことを知らなかったと思います。悩んだときの打開策も今ほどはわからなかったし、人に気持ちを伝えたりするのもすごく下手で……今でも上手かと言われると、全然そうではないんですけど。今より、自分の気持ちを伝えたりするのは下手だった。素直に生きるのが難しかったなあという感じです。 ──その高校生のときに野球部のマネージャーをしていたということですが、今回の撮影に役立ったり、何か思い出したりすることはありましたか。 関水 野球のプレイ自体はやっていなかったんですけど、ルールはわかっているし、観ていて一番楽しいと思うスポーツなので、そこはよかったなあと思っています。 ──今回の撮影中にバッティングセンターで打ったりしました? 関水 撮影中には1回も打たなかったですね……あ、うそうそ! 1回も、は嘘です(笑)。劇中で打つことがあったので、そのときにちょっとだけ打ちました。 ──どうでした、けっこうミートしました? 関水 やっと当たって飛ばせるという感じなんですけど……でも楽しいですね! ──東京ドームでの始球式(※)もありますが。 関水 そうなんですよ! ちょっとがんばらないと。もうすぐ……迫ってきてる! (※6月18日に行われたプロ野球「DeNA-広島戦」の始球式では、バッターを務める仲村トオルさんを相手に、ワンバウンドながらもキャッチャーまで届くピッチングを披露した) 取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 ヘアメイク=MAFUYU 編集=龍見咲希、中野 潤 ************ 関水 渚(せきみず・なぎさ) 1998年6月5日生まれ。神奈川県出身。映画『町田くんの世界』(2019年)で1000人以上のオーディションからヒロインに選ばれ女優デビュー。その後、映画『カイジ ファイナルゲーム』(2020年)『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(2020年)、ドラマ『キワドい2人-K2-池袋署刑事課 神崎・黒木』(TBS/2020年)『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(テレビ東京/2021年)などへ出演を重ね、女優として躍進。今夏放送の連続ドラマ、水ドラ25『八月は夜のバッティングセンターで。』(テレビ東京:7月7日スタート:毎週水曜深夜1時10分〜1時40分放送)でドラマ初主演を果たす。 ▼好きな作品は?の問いには、「洋画がすごく好きです。レオナルド・ディカプリオが、大好きで。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』とか。作品を観ると、ハリウッドいいなあって思いますね」 【インタビュー後編】
Daily logirl
撮り下ろし写真を、月曜〜金曜日に1枚ずつ公開
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山﨑玲奈(Daily logirl #156)
山﨑玲奈(やまさき・れな)2007年1月28日生まれ。愛媛県出身 X:@RenaYamasaki Instagram:renayamasaki07 主演ミュージカル『ピーター・パン』7月24日より上演 撮影=石垣星児 編集=中野 潤 【「Daily logirl」とは】 テレビ朝日の動画配信サービス「logirl」による私服グラビア。毎週ひとりをピックアップし、撮り下ろし写真を月曜〜金曜日に1枚ずつ公開します。
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石田莉子(Daily logirl #155)
石田莉子(いしだ・りこ)2006年3月28日生まれ。千葉県出身 X:@dariko_official Instagram:rk_io0328 撮影=石垣星児 ヘアメイク=渋谷紗矢香 編集=中野 潤 【「Daily logirl」とは】 テレビ朝日の動画配信サービス「logirl」による私服グラビア。毎週ひとりをピックアップし、撮り下ろし写真を月曜〜金曜日に1枚ずつ公開します。
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西川実花(Daily logirl #154)
西川実花(にしかわ・みか)2008年10月3日生まれ。東京都出身 X:@mika_nishikawa_ Instagram:mika_nishikawa_ 撮影=大靏 円 ヘアメイク=渋谷紗矢香 編集協力=千葉由知(ribelo visualworks) 編集=中野 潤 【「Daily logirl」とは】 テレビ朝日の動画配信サービス「logirl」による私服グラビア。毎週ひとりをピックアップし、撮り下ろし写真を月曜〜金曜日に1枚ずつ公開します。
Dig for Enta!
注目を集める、さまざまなエンタメを“ディグ”!
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NewJeans、『Olive』、『シティポップ短篇集』──小説家・平中悠一の気づき
平中悠一。高校在学中に執筆した小説『She’s Rain』(1985年/河出書房新社)が「文藝賞」を受賞、1984年に作家デビュー。その後『Go!Go!Girls(⇔swing-out Boys)』(1995年/幻冬舎)、『アイム・イン・ブルー』(1997年/幻冬舎)、『僕とみづきとせつない宇宙』(2000年/河出書房新社)などの著作を重ねてきたが、デビューから約40年の間に、エッセイや翻訳なども含め出版された単行本が計15冊という寡作な作家。その平中が、今春『シティポップ短篇集』(2024年/田畑書店)、『「細雪」の詩学 比較ナラティヴ理論の試み』(2024年/田畑書店)という2冊の書籍を上梓した。しかも『「細雪」の詩学』に至っては、東京大学大学院にて執筆した博士論文がもとになっている学術書だという。 現在『logirl』のプロデューサーを務めている私自身、デビュー作から追っている作家のひとりで、2作品の同時出版というニュースを知ったときはテンションが上がった。 今回、平中に近著の2作品に関する話を聞くことになったのだが、作品内容だけにとどまらず、本人のスタンスの変遷(=変わらなさ)に関する見解にまで話が及んだ。そこにはタイムリーな「NewJeans」(2022年7月にデビューした、韓国の5人組ガールズグループ)の話題なども加わることに。 ──『シティポップ短篇集』を編纂するにあたっての企図をお伺いできればと思います。 平中 本書のライナーノーツ(解説)にも詳しく書いていますけど、近年シティポップが流行ったから選集を考えたというわけじゃなくて、もともと1980年代にはこのシティポップという言い方はあまり使われてなかったんですが、僕のデビュー作『She’s Rain』が出版されたのは1985年なので、結果的には、僕自身がちょうどいわゆるシティポップの時代に重なるんですよね。 デビュー作の中では、ドビュッシーとかラヴェルとかも書いていますが、実は一番いい場面では登場人物たちは山下達郎を聴いているんですよ、あの小説って。まさにシティポップの真ん中の時代で、シティポップ小説という考え方はなかったけれど、今、回顧的にシティポップと呼ばれているような音楽が出てきていたように、当時すごく都会的な小説もいっぱい出てきていたから、それをまとめたらいいんじゃないかと思っていたんです。 「こういうのをまとめたら、いいものできるよ」って、当時、編集者に言ってはいたんだけど……僕がまとめるという考えはなかった。それを、今ならまとめられるんじゃないかなと思って、作ったんですよ。 「シティポップ時代の日本の短篇集」というのが本当のタイトルで、『シティポップ短篇集』というのは、僕が企画を提案したときの仮タイトルがそのまま残っちゃってるだけなんです。いわば“シティポップ短篇集のようなもの”ということなんですよね。 僕自身、もともとシティポップ音楽も好きで、シュガー・ベイブや大貫妙子、ティン・パン・アレー系とか大瀧詠一、そういうのを好きで聴いていて、近年のシティポップの流行はアジアからの逆輸入ともいわれていますけど、、日本の1980年代の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代の空気感が、経済発展してきた今のアジアの空気にピタッとはまったんだと思うんです。 だから日本のシティポップがオリジナルだからすごいということと同時に、アジアの全体が元気になって、前向きになってきて、1980年代の日本のポジティブで都会的なセンスが共有されるようなってきた。インドネシアにしろタイにしろフィリピンにしろ、最近すごくいいですよね、ポップスがね。 シティポップの話題から、アジア全体のポップスの話へと。平中とアジアンポップスとの邂逅についての話が続く…… 平中 僕は1990年代に入って、ほとんどJ-POPを聴かなくなっていたんだけど、たまたまスカパーをつけたら韓国のチャートをやっていて、すごくおもしろくてびっくりしたんです。それが1998年くらい。そこからK-POPを聴き始めることに。 2、3年後には韓国語もだいたい話せるようになるくらいハマったんですけど、これには自分でも驚きました。最初にトランジットで韓国へ行ったとき、キンポ(国際)空港でソバンチャの3人が歌っているのをテレビで観て、強烈な印象を受けていましたから。それがわずか10年で、ここまでかっこいいポップスをやるようになるとは想像もしませんでした。 1988年のソウルオリンピックのころまでは、韓国は今の北朝鮮のような感じで閉じられていて、日本語も英語も全部放送禁止だった。その後、解放が始まって……最初にキム・ゴンモあたりがレゲエから入ったんですよね。冷戦時代の西側・東側的な政治性から少し離れてるじゃないじゃないですか、レゲエって。だから外国のポップスでもレゲエならいいでしょということで。 僕が一番聴いていた2000年……BoAが出てきたころでもまだ、韓国ではポップスで一番過激なのはロックとヒップホップだといわれていたんですよ。 ヒップホップはメッセージ性もあるし、まだわかるんです。でもなんでロック?なのかというと……ロックはアメリカ文化の典型なので、一番厳しかったみたいなんです。最も反体制的、という感覚があったみたい。 その後、キム・デジュン(大統領/当時)のころから、日本は「侍の、武士の国、武力の武の国」であるけれど、韓国は「文人の国、文の国、文化の国」であるという自己規定をして、カルチャーへ予算をドンと入れていくんですが、2003、4年くらいからK-POPもあんまり僕はおもしろくなくなっていくんです。 なぜかというと、そこまでは、キム・ゴンモからあとも、たとえばパク・ジニョンとか、R&Bというのはこういう音楽ですみたいな……本物志向がすごく強かった。ミュージシャン自身が自分で一番いいと思う音楽をやろうとしてたから……ちょうど日本の1980年前後のシティポップ黎明期のようにね。すごくおもしろかったんです。 それが2003、4年くらいになってくると、もうちょっと売れる感じ……韓国の伝統歌謡、歌謡曲のちょっと下世話な感じまでを取り入れる……ちょっとお色気も入れて、みたいな感じになってきて、ポップな感じとズレていくんですね。結果、どれを聴いても全部おもしろい、というそれ以前のようなよさはなくなってきて。 結局、そのころ、僕自身、ちょっと日本を離れてしまったので……そのあと、日本で韓国の子たちが売れたでしょ? KARAとか少女時代とか、いっぱい。そういう話自体は聞いてたんだけど、あのあたりは全然、僕は知らなくて。だからK-POPファンをやっていて、一番日本で盛り上がっておもしろかっただろうなというあのころは全然知らないんです(※2005〜2015年、平中はパリに住んでいた)。 とまあ、そんな感じだったんですけど……昨年の暮れぐらいからNewJeansを、最初はInstagramのリールか何かでアメリカ人がカバーしているのを聴いて「誰これ? カッコいいじゃん!」と思って調べたらK-POPだっていうから、びっくり!して、原曲を聴いてみたらすごくよかった。 最初に気がついたときは年末くらいだったから、もう『Ditto』が出ていたころだったかな? まずは『Ditto』をすごくいいと思ったんだけど、その前の曲も、『Attention』とかすごくコード進行がジャジーでおもしろいなと思ったりもしたんです。 『Ditto』のときから「あれ? けっこうすごい!」と思っていたんだけど、やっぱり2枚目のEPが出たときに『ASAP』のMVとかを観ると、もう完全に雑誌『Olive』の世界なので……改めてびっくりして、これ『Olive』じゃん!と思って。 マガジンハウスから刊行されていた人気雑誌『Olive』(1982年〜2003年)。その独特な世界観をベースにした編集から根強いファンを持ち、休刊から時が経った現在でも、いまだに回顧系の関連書籍などが出版されている。平中も、かつてこの『Olive』で連載を持っていた 平中 僕は、もともと『Olive』が好きで、デビュー作も『Olive』の読者が想定読者だったんです。デビュー後には『Olive』で声をかけてもらい、結果、連載までやらせてもらいました。もちろん今のNewJeansを作っている人たちは『Olive』には気がついていないだろうと思うんですよね。勝手にやっていると思うんです。自分たちのオリジナルとして。 だけど日本では1980年代のバブルのころに『Olive』みたいなものが出てきていて……当時の読者だった女性からは『Olive』が出てきてどんなに救われたかっていう話を、今でもよく聞くんです。僕自身が『Olive』で書いていたから。 当時の赤文字系雑誌の『JJ』(光文社)や『CanCam』(小学館)は、あくまでいかに男の子にウケるかを考えるということをやっていたんだけど、『Olive』は男の子がどうとかとは関係ないんだ、自分たちがかわいいと思うものがかわいい、かわいいものは全部つけちゃう!みたいな雑誌だった。僕はそれを見ていて、かわいいなぁと思ったわけです。 だから実際に今、NewJeansを見て、あの子たちが自分の好きなものを「ほら、これもこれも!」「これかわいいでしょ、これもかわいいでしょ!」っていうようなあの感じ……あれは当時『Olive』を見ていた感じに、すごく近い。 なるほど、『Olive』とNewJeansの親和性、その世界の中で自律的に自己完結しているというような。その場合、『Olive』読者もBunnies(NewJeansのファンネーム)も、等しくその世界を見つめることに終始することになる。話は、その眼差しに及んでいく…… 平中 1980年代はそういう意味でいうと、ポストモダンの時代でもあったのね。パフォーマティブとかディスクール、コミュニケーションとかそういうものが、すごくプロモートされていた。パフォーマティブでコミュニカティブでないものはだめだ!と否定されてしまうくらい……。でも、すごく豊かな時代というか、多様性が許容できた時代だったということもあると思うんだけど、『Olive』みたいな真逆のものも実はあった……要するにパフォーマティブとかコミュニケーションの基本って、相手に影響を与えようという意図を持って働きかけることで、それが『Olive』の場合、自分がかわいいと思えば、もうそれでいいわけです。人がどう思うかなんて、どうでもいい。そういうものも、パフォーマティブの時代だと思われていた1980年代にちゃんと日本に出てきていた。 そう考えると、シティポップみたいなものがアジアでウケてきている今、NewJeansのようなものが出てくるということは、日本の1980年代を重ねてみると、ひとつ読み解けるんだよな、と。 NewJeans『How Sweet』 日本デビュー曲の「Supernatural」では1980年代に生まれ大ヒットしたニュージャックスイングのスタイルを採用。完全に狙ってる? さらにここから「ノン・コミュニケーション理論」が主体を成す『「細雪」の詩学』へと話が進んでいく。平中の感覚の中でそれぞれの要素がきれいにリゾりながら展開していくさまは、まるで魔法にでもかけられているような気持ちになる。 平中 NewJeansを見ていてなるほどと思ったのは……ちょっと前提から話すと、僕も1980年代に仕事をしていたので、そもそもコミュニケーションが一番大事だと思っていたんだけど、その後、フランスへ行って「ノン・コミュニケーション理論」という、小説はコミュニケーションじゃないという考え方を知ったんです。 ところが日本語というのは、実はコミュニケーションじゃない言葉遣いを失っている。すべてが“言文一致”……話すように書くことで、書き言葉とコミュニケーションの口語を一致させるようになっているので、コミュニケーションじゃない言葉が見えなくなっている。なので、特にわかりにくくなっていると思うんだけど……もともとは“物語”ってコミュニケーションではなくて、別世界なんですよね。たとえば子供に「おじいさんとおばあさんがいました……」というのは、全然別の世界の話なわけです。物語には、そういうところがそもそもあって、これはコミュニケーションでもなんでもないはずなんです。そういうところが今は全然捉えられなくなっています。 ドキュメンタリー番組での「今日は村人たちのお祭りだ」みたいなやつ……ああいうのはフランス語なら、コミュニケーションではなく“物語”なわけです。でも日本のアナウンサーの人たちってそれを一生懸命コミュニカティブに伝えようとしますよね。真逆のことをやっているんです。文章自体は、すっと人から離れたひとつの物語になろうとしているのに、それをコミュニカティブにしようということをやっているので、すごく無理があるんですよね。 フランス語だったら、パッセコンポゼ(複合過去)という日常の会話と、パッセサンプル(単純過去)という、文章でしか使わなくなっている古文のような書き方があって……で、フランス人って、子供におとぎ話を語るときはパッセサンプルなんです。それですっと物語の世界に入っていける。言葉にはコミュニカティブな面とそうでもない面があるということに気がついたのはエミール・バンヴェニストなんだけど、それが本になるのは1960年代以降です。 日本で“言文一致”運動が始まったころにはフランスでもまだ周知されてなかったことなので、現代の日本語に“物語”の言語が確立されていないのは仕方がないところもある。そんななかで、日本の小説家たちはいろいろ工夫してがんばったと思います。 小説というのも“私とあなた”の間のコミュニケーションとは違うところにある“世界”を見せてくれるところが、実はすごくおもしろい。 『細雪』(谷崎潤一郎/1943年〜1948年)なんかはその典型なのだけれど、自分の人生とは別のラインで4年半の時間が流れていて、読んでいると自分の人生がそこのところだけ二股に分かれるみたいな感じがある、別次元のような。なぜそれができるのかというと、別の世界がそこにあって、読者はその世界をのぞき込むように経験するから。 僕の『「細雪」の詩学』では、アン・バンフィールドの「ノン・コミュニケーション理論」に関係して、ヴァージニア・ウルフを紹介しているのだけれど、ヴァージニア・ウルフは意識的にノン・コミュニケーションの小説を書こうと思ってすごく苦しんだ人なんですね。 文章の中にノン・コミュニケーションの部分があるというのはいえるとしても、それだけで1章、2章……と作っていくのは難しいんです。ウルフは『灯台へ』(1927年)でまったく人称性のない章を書いていますけど(第2章)、実はあれはすごく大変で、彼女の日記を見ると、ものすごく苦しんでいるのがわかる。 僕自身の話でいうと『She’s Rain』を書いたときに江藤淳先生から「街の情景の部分が新しいので、あれをもうちょっと発展なさったらいいと思いますね」と言われたので(『She’s Rain』の前日譚になる)次作の『EARLY AUTUMN アーリィ・オータム』(1986年/河出書房新社)のときに、意識的に街の情景を描いてみたんです。カメラアイを用いて街の情景を書いて……ずっと街の情景が続いている中に、人物のセリフがぽっと入る。 映像的にいうと……人物たちが遊んでいるようなシーンに、その画とは関係なしに人物たちの声でナレーションが入るかたちがあるじゃないですか……あれをやりたかった、文章で。 文章でぎっしり4ページくらいはいきたいなと思って書いていたんだけど、全然無理、続かない。やっぱりカメラアイでずっと書くことはすごく大変なんだなと思ったことがあって……ウルフのそういう日記を見て、ああそうだ、これって難しいんだよなと。 ウルフの書いたエッセイには、バンフィールドも取り上げている『The Cinema』(1926年)というのがあって……映画って“中の人たち”は見られていることに気づいていないわけです。こちらを見ない、“こちら”があるとも思っていない。見ていることに気づかれることもない状況でこそ、初めて何か真実の姿が現れる、と言うんですね。 たとえば、映像の中で波が来ても自分の足が濡れることはないし、馬が暴れても蹴られることはない、結局のところ自分たちとは別の世界、逆にこちらの手も届かない世界で起こっている出来事がそこには捉えられている。だからこそ自分たちの日常を離れて、客観的に何か真実が見えてくるというのを『The Cinema』では“映画の美学”として考えている。 そういうものを、ウルフは自分の小説でなんとかやろうとしたんだと思うんです。「ノン・コミュニケーションの美学」はそこにあって、NewJeansの「Bubble Gum」(2024年)とか「ASAP」(2023年)のMVを観ていると感じるのは、そういうもの。こっちで見る者のことを全然意識していない世界が強調的に描かれている。ステージでの「Bubble Gum」のイントロで演じられる小芝居なんか、典型的です(カメラを鏡ということにして、誰にも見られていないていでメンバー同士の内輪の会話が演じられる)。 「ノン・コミュニケーション理論」とNewJeans……コンテンツへの私たちの接し方を考えると、それもあり得る話に思えはするものの、接し方ではなくコミュニケーションという視点に変えることで、モノではなく人、世界になっていく。NewJeansから、話はさらに進む。 平中 若い女の子を眼差しによって消費するのではなく、少女たちに眼差されることがない自分を儚む、みたいな捉え方もあると思うけど、僕はちょっと違って、少女たちがこちらを見返してくれる必要を僕はまったく感じないので……見返されても困るし、持て余しちゃう。あの子たちがああやって遊んでいるのを見て、みんながおもしろいと言って……たぶんそこにはいろいろな楽しみ方があるし、彼女たちの仲間になれる人もいるし、彼女たちに共感したり自分を投影する人もいるだろうし、僕みたいに全然別の“楽しそうだなぁ”と思って見ているだけで自分も楽しくなっちゃう人もいる。そこはやっぱり人によって違うと思う。 ただ僕は、NewJeansを見たときに、これって『Olive』だよね。で、これが『Olive』だということは、NewJeansのこういうノン・コミュニケーション的なところを考えると『Olive』って「ノン・コミュニケーション理論」だったんだよねと思って。 『Olive』からのNewJeans、「ノン・コミュニケーション理論」からのNewJeans、そして『Olive』と「ノン・コミュニケーション理論」、一見すると単なる三段論法のようにも思えるが、深く聞いていくと同じ地平でつながっているのは間違いないことに気づかされる。そしてNewJeansを橋頭堡として、そこへ「シティポップ」もつながってくる。 これはまさに今起こっていること……ここへさらに平中自身の縦軸、デビュー作『She’s Rain』がたどり着いた場所(それは換言すると“普遍性”でもあるのだけれど)の話が続く。 『She’sRain』 装丁はオサムグッズの原田治 平中 僕はずっとこれをやっているんだって、実は最初(デビュー作)から。結局そこで、僕はその子たちに見つめ返されたくない。見つめ返されない自分を悲しむとかはないわけです。なぜかというと、本当に高校生のときから僕はこの子を汚さないというのが僕の考えなわけだから。もう全然、けっこうなわけです。 だから、くるっときれいにつながってくるので、『Olive』と「ノン・コミュニケーション理論」がNewJeansを介して通じたときに、自分がやっていたことが、くるっときれいにつながった感じがしたんです。だからバラバラないろいろなことをやっているようだけど、最終的に僕はそういうことがやりたいんだと思って。 デビュー作『She’s Rain』では、ユーイチとレイコというふたりの高校生の恋物語が描かれる。今風にいうなら“煮え切らない”ように見えるユーイチが抱いているレイコへの思い「僕は、ほんとに好きになったら口説かないでおく。そのコのこと大切に思うから。(中略)そのコをずっと素的なままでいさせてあげる自信なんて、ない」「素的な、一人で歩いて行ける女のコのままでいて欲しい」「束縛したくないんだ(中略)つまんない女のコにしたくないんだ」(『She’sRain』より抜粋)この言葉が、まさにスタンスを体現している。 約40年が経って、改めて変わっていないことに気づかされる、それは自分の志向性が間違っていなかったという自己肯定でもあるのだろう。 取材・文=鈴木さちひろ 平中悠一(ひらなか・ゆういち) 1965年生まれ、兵庫県出身。小説『She’s Rain』で1984年度・第21回「文藝賞」を受賞しデビュー。『それでも君を好きになる』(トレヴィル)、『アイム・イン・ブルー』(幻冬舎)、『僕とみづきとせつない宇宙』(河出書房新社)などの小説、『ギンガム・チェック Boy in his GINGHAM-CHECK』(角川書店)などのエッセイの出版のほか、『失われた時のカフェで/パトリック・モディアノ』(作品社)等の翻訳も手がける。 2024年4月『シティポップ短篇集』(編著)、『「細雪」の詩学 比較ナラティヴ理論の試み』の2冊の書籍を田畑書店から上梓。HP:http://yuichihiranaka.com 『シティポップ短篇集/平中悠一編』(田畑書店) 「1980年代、シティポップの時代」を彩った7人の作家による9つの物語を、自らも小説家である平中悠一が編纂。 (収録作家:片岡義男・川西蘭・銀色夏生・沢野ひとし・平中悠一・原田宗典・山川健一) 平中「読んだあと味がいい……希望が持てる感じかな。1980年代の感覚ってひと言でいうと、大貫妙子さんのアルバムタイトルにもあった『Comin’ Soon』。今にいいことが……一番いいものはこれから来るよみたいな感覚。それがなんだったの?と言ったら何もないまま終わっちゃった、巨大な予告編のようなところもあるのだけど。もっといいものが来るよと思いながら生きていく感じ。そういうあのころの気分のある小説、なにかしら夢が持てる、希望が持てる感じの作品を選びました。 これを僕がまとめなかったら、たぶんまとめられないまま終わっちゃう。ここでいっぺん、こういうものも80年代にはありましたよということをまとめておいたら、いつか誰か拾ってくれるかもしれない。そのときにまた、日本の状況がもうちょっとよくなっていたりしたら……そういう“壜(びん)の中のメッセージ”、タイム・カプセルでもあるんです」 『「細雪」の詩学 比較ナラティヴ理論の試み/平中悠一』(田畑書店) 谷崎潤一郎の「細雪」を、日本では初の試みとなる「ノン・コミュニケーション理論」を用いて解析。三人称小説の在り方、文学作品の客観的な読み解き方を考察する。小説家である平中悠一の、東京大学大学院での博士論文を書籍化。 平中「三人称の小説を自分ではうまく書けないっていうのがまずあって。三人称の小説が一番本格的であるという話もよく聞くし、でも日本語で書かれた三人称の小説は、どうもどれもしっくりこないというか……どうも読んでて三人称ごっこみたいに見えちゃう感じがあるのに『細雪』だけは違和感が何もなくスーッと読めるので、なんでだろう?と。どこが違うんだろう?って、ずっと謎だった。『細雪』という小説自体、どうやって書いたんだろう?というのが全然わからなくて。それが『細雪』を研究のモチーフにしたきっかけです。そこから「ノン・コミュニケーション理論」の勉強を始めて……もしこの理論が使えるようになったら絶対おもしろいことになるぞ、と思ったんです」
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K-POPの名MC・古家正亨「透明な存在でありたい」韓国カルチャー伝道師の“譲れない哲学”
古家正亨(ふるや・まさゆき) 1974年生まれ、北海道出身。上智大学大学院文学研究科新聞学専攻博士前期課程修了。ラジオDJ、テレビVJ、韓国大衆文化ジャーナリスト。年間200本以上の韓国アーティスト・俳優イベントのMCを務める。NHK R1『古家正亨のPOP★A』、ニッポン放送『古家正亨 K TRACKS』、テレビ愛知『古家正亨の韓流クラス』などのレギュラー番組でも活躍中 K-POPが好きな人なら、一度は「古家正亨」の名を耳にしたことがあるだろう。数々の韓国アーティスト・俳優による来日イベントなどでMCを務める古家は、ラジオDJそしてジャーナリストとして、長年、韓国大衆文化と併走してきた。 今回は、そのたしかな知識とカルチャーへのリスペクトを感じさせるトークで、ファンそしてスターたちからも厚い信頼を集める彼の職業観を聞いた。 現地での実体験でしか得られないものがある 『BEATS of KOREA いま伝えたいヒットメイカーの言葉たち』 ──2024年4月に新著『BEATS of KOREA いま伝えたいヒットメイカーの言葉たち』(KADOKAWA)を刊行されました。本書ではK-POPの最新シーンはもちろんのこと、韓国芸能が国外へ受容されるまでの道のりもわかりやすく綴られていますが、なぜこうした内容を発信したいと思ったのですか。 古家正亨(以下、古家) まず、僕の中では日本におけるK-POPの展開って、KARAや少女時代が日本に進出した2010年前後である程度広がりきったと思っているんですね。逆にいうとそこまでのプロセスが大事で、それ以降はひとつのムーブメントとして定着していったといえる。 その一方、最近のK-POPシーンについては多くの方がご存じですし、記録としてもいろんなかたちで残っているけれど、当時の細かい事象についてはあまり知られていないように感じるんです。 ──“細かい事象”というと、どのようなものが挙げられますか? 古家 たとえばCDショップのK-POPコーナーに行くと、アルバムパッケージの形がすごく多様だと気づかされます。正方形のスタンダードな形態だけでなく、すごく大きいものや細長いもの、本型もあれば箱型もある。 なぜこうなったのかという背景にはさまざまな要因がありますが、よくいわれているのは「韓国では芸能事務所が作品プロデュースを徹底していて、アルバムのデザインワークにもこだわっているから」ということですよね。 でも僕の目には、別の理由もあるように映っているわけです。というのも、CDの売り上げが下降していった時期に、韓国ではCDケースのメーカーが次々に倒産してしまい、国内生産が難しくなっていたんです。そこで仕方なく、代わりにDVDのパッケージが使われ始めたんです。 それ以降、CDの形態が画一ではなく、いろいろなものが出始めて、見た目の自由度も増していった……というのがそもそもの経緯なんですね。 ──そんな事情があったんですね! 古家 もともと僕は大学卒業後にカナダへ留学して、そのときに韓国人留学生の友人から聴かせてもらったK-POPがきっかけで韓国の音楽に傾倒していったんです。 ラジオDJとして活動しながら「自分の好きな韓国の音楽についてもっとみんなに知ってもらいたい!」と流行歌を紹介したりしていたわけですが、今とは違って当時はインターネットも普及しておらず、現地のトレンドを把握するのがすごく大変だった。なので自ら韓国のCDショップへ足を運んで、音源をチェックするしかなかったんです。 その時代の日本は、ほかのアジア諸国を軽視するような風潮がありましたし、韓国カルチャーの発信に積極的なメディアも少なかったので、僕の活動を認めてくれる人も少なかったですし、渡韓費用もCD代もすべて自腹でした。 そんな時代、韓国のCDショップへ行くたびに、個性的な形のCDが少しずつ増えていき、知らず知らずに(ショップ内で)やたら足を(CDに)ぶつけるようになっていったわけです(笑)。 さらに時が経つと、今度は三角形のアルバムパッケージなんかも登場して(miss Aの『Bad But Good』)。日本ではそんなケースが少なかったので「なぜだろう?」と思い、関係者に聞いてみると、先ほどお話ししたことがわかったんです。 miss A『Bad But Good』 ……話が少し長くなってしまいましたが、あるムーブメントを捉えるにおいて、実体験を通じて新鮮に感じたことや疑問に思ったことを調べる、ということの繰り返しでしか見えてこないことってあるんですよね。なのでそういう経験を通じて、この目で見てきた“細かい事象”を伝えたいという気持ちがあるんです。 ──どこにいながらも世界中の最新曲がチェックでき、現地メディアのレポートが即日多言語でアップされるようになって久しい今も、その考えに変化はありませんか? 古家 そうですね。昔は「若者の間で流行っている音楽を知るには、明洞(ソウルの繁華街)を歩け」といわれていましたが、最近は好みや音楽ジャンルが多様化して、そうはいかなくなりました。 ソウルの若者の遊び場も、かつては一極集中だったのが、今ではいろいろなところに広がっています。それぞれの場所で流れている音楽も、たとえば芸術系大学エリアの弘大はインディーズミュージックの中心地ですし、名門大学エリアの梨大や新村では日本のシティポップが流れていたりする。 日本で「韓国の音楽」といえばアイドルが中心ですけど、韓国本国では2010年以降音楽の多様化が一気に進み、さまざまなジャンルのアーティストが音楽界で支持されています。 日本でヒットチャートだけを見ていては「アイドルが流行っている」という情報しか得られず、わかったような気になってしまうので、現地の実情を理解するには、ネットでなんでも調べられる今だからこそフィールドワークが大切だと思うんです。きっと大学院でジャーナリズムを専攻していたこともあり、その思いが強いのかもしれません。 MCで大事なのは「透明な存在になること」と「入念なリサーチ」 古家正亨 ──古家さんはK-POPのイベントMCを数多く務められていますが、それぞれのアーティストに関する知識の深さにファンから驚きの声が上がることもよくあります。その根本にはジャーナリズムの精神があったのですね。 古家 大学で専攻していた臨床心理学によって培われたものも大きいと思います。心理学って要は、“人の心”を数値化する学問じゃないですか。見えないものを“見える化”する作業は、今僕がMCやラジオDJをするにあたって、非常に役立っているんです。 それから、当時の恩師から教えていただいた「カウンセラーは自ら答えを提供するのではなく、あくまで困っている人の話を聞き、気づきを与える職業」という言葉に大きな影響を受けました。「真の話し上手は、最高の聞き上手である」という先輩からのアドバイスも、今の僕の成長の糧になりました。 ですから今の仕事をするなかで常に念頭に置いているのは、できるだけ“透明な存在”になって、主人公のスターとファンをつなぐパイプ役に徹したいということ。必要なタイミングにだけ、なるべく短い言葉を発することでスターとファンとの橋渡しができたらというのが、仕事をするにあたっての哲学です。 ただ、その「必要なタイミング」というのはいつやってくるかわからないので、どんな状況にも対応できるように、やはり事前の入念なリサーチが重要になるわけです。 ──逆にいうと、どれだけリサーチしても「必要なタイミング」が来ない限りは、せっかく準備した情報の出番はないということですよね。 古家 そうです! 昔、マラソンの実況をやっていた先輩から「ランナー全員のバックグラウンドや趣味まで調べ上げても、それが少しも役に立たないことが多い。それでも1000リサーチしたうち1や2が活かされるときのため、我々は準備している」という話を聞いて、すごく感動したんです。 だから常にスターの動向をチェックして、現地の記事を読んで、時にはファンのSNSを見て……。家族には「いつもネットばかり見て、楽しそう」と思われていますけど(笑)。 ──本当に大変なお仕事だということがわかります……。 古家 最近は年間200本ほどイベントに出演しているのですが、その中で「今日は満足できた」と思えるイベントって、正直10本あるかないかなんです。 MCという立場上、自分がどれだけ準備をしても、すべてをコントロールできるわけではないし、韓国と日本という文化や習慣が違う、異なる民族の者が混在する現場が多いので、価値観や目的にもズレが生じるわけです。 とはいえ、表に立って進行しているのはMCですから、もしもイベントがイマイチだったときは僕の責任になってしまうんです。 たまに「なりたい職業は古家さんです」と言っていただくことがあるんですけど、はっきりいってオススメできません。想像できないかもしれませんが、心労は計り知れません。 韓国カルチャーの「スポットが当てられていない部分」も伝えたい ──とはいえそんな古家さんだからこそできる仕事、伝えられることが多いぶん、活動のフィールドを広げていらっしゃるのだと思います。今後新たに挑戦したいことってありますか? 古家 たくさんあります。たまに「古家さん主催のフェスをやってほしい」と言われるので、いつか実現できればと思っています。ただ、K-POPアイドルのフェスにしてしまうと、どうしてもお金が莫大にかかってしまいますし、すでに多くのイベントが日本で行われているので、僕がする意味はもはやないと思います。 自分のキャリアの原点って、もともと韓国のインディーズ音楽を聴いてハマったということもありますし、あまり日本では知られていなくても、実力のあるアーティストを呼ぶというかたちでなら可能かもしれません。 それと、昔からずっとやりたいと思っているのは、韓国音楽についてのドキュメンタリー制作です。取り上げたいテーマはいろいろあって、1970~80年代に日韓の音楽交流の架け橋として尽力してきた歌謡界の重鎮の半生だったり、日本における韓国エンタメの定着の過程だったり……。K-POPが日本でここまで受容されるようになった背景については、もっと掘り下げられるべきだと思うんです。 今でこそ注目されるようになった韓国カルチャーですが、スポットライトが当てられているのはまだまだほんの一部なので、それ以外のところを“古家目線”で記録として残したい、というのが僕の希望ですね。 文=菅原史稀 編集=高橋千里 INFORMATION 『BEATS of KOREA いま伝えたいヒットメイカーの言葉たち』(KADOKAWA) 著者:古家正亨 定価:1,600円(税別) 古家正亨が韓国カルチャーの過去・今・未来を、ラジオ番組仕立てで届ける https://www.kadokawa.co.jp/product/322111001104/
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春アニメを遡り考える“アニメのこれから” ──DJ・KO KIMURA×アニメ評論家・藤津亮太
KO KIMURA 木村コウ(きむら・こう) 国内ダンスミュージック・シーンのトップDJ。クラブ創成期から現在までシーンをリードし、ナイトクラブでの活動のみならず、さまざまなアーティストのプロデュース、リミックス、J-WAVE『TOKYO M.A.A.D SPIN』(毎月第1金曜日27:00〜29:00)にてラジオDJとしてなど、国内外で活躍中。 藤津亮太(ふじつ・りょうた) アニメ評論家。地方紙記者、週刊誌編集を経てフリーのライターとなる。主な著書として『「アニメ評論家」宣言』(2003年/扶桑社、2022年/ちくま文庫)、『アニメと戦争』(2021年/日本評論社)、『アニメの輪郭』(2021年/青土社)などを出版。 昨年11月に実現したアニメ好きで知られるDJ・KO KIMURAとアニメ評論家・藤津亮太の対談。今回は、春アニメをテーマにふたりのアニメ対談第2弾を敢行した。人気作『鬼滅の刃』や『僕のヒーローアカデミア』の続編をはじめ、『忘却バッテリー』や『怪獣8号』など話題作が盛りだくさんの今期。過去〜現代の春アニメ作品を比較しながら、トレンドやアニメ業界の変化などについて語ってもらった。 目次“春アニメ”で思い出すあの作品過去〜現在でよくできたアニソンとは?春アニメから見る業界のこれから “春アニメ”で思い出すあの作品 ──アニメ対談第2弾ということで、今回はビッグタイトルが並ぶ春アニメについてです。毎年、春アニメはどこも気合いが入っているようですが、20年前、10年前、現在放送の春アニメを比較しながらお話を伺えたらと思い、2004年、2014年、2024年の春アニメ作品リストを持ってきました。 藤津 2004年の春アニメもそこそこ数がありますが、『アニメ産業レポート』(日本動画協会)によると、2004年は年間放送されたアニメが203本ぐらいあったんです。2022年の段階でテレビアニメは年300本を超えているので、2004年は現在の3分の2ぐらいだったころで。 木村 今は毎クール50番組を超えていますから、もう全部をチェックするのは不可能に近いですよね。こう見てみると、昔は一般には広く流行らなくても、アニメシーンの中では話題になる作品が多かった気がしますかね。 藤津 2006年に『涼宮ハルヒの憂鬱』の放送があるんですけど、そのあとからラノベ(※ライトノベル)のアニメ化がまた増えるんですよね。1990年代以来ですね。2004年はその直前なんで、意外とラノベアニメは少ないかなって。 木村 マンガ原作が多いからか、全部が似たような作品にならない時代でしたよね。 藤津 今だと異世界転生モノがたくさんあるので(笑)。ベースが似ている──たとえると、でき上がっているラーメンは別ものなんだけど、基本の出汁は同じみたいなところがありますよね。個人的に春アニメの記憶をたどると、『機動戦士ガンダム』(1979年)がすぐ浮かびますね。 木村 ガンダムは春の放送だったんですね。 藤津 そうなんです。4月7日放送開始で。小学校高学年ぐらいのときで、事細かに春の記憶と結びついているわけではないんですけど。そのあと『機動戦士Ζガンダム』が1985年3月放送開始で、高校2年生になった4月に、友達と登校中に会って「(Zガンダム)どうよ?」という話をしたのを覚えています。 木村 『Ζガンダム』になって、だいぶストーリーが暗くなりましたよね。富野由悠季監督のネガティブなところがいっぱい出ている気がしました。 藤津 重苦しい感じがありましたよね。キャラクターを追い詰めていくところがある作品ですからね。 木村 10年おきに見てみると、異世界転生モノのような今っぽいアニメはまだないですね。2004年は『忘却の旋律』でLiSAさんの歌(OPテーマ「Will」)を思い出しました。あと、『頭文字D Fourth Stage』はCGが少しよくなっている時代ですね。 藤津 『頭文字D』は2023年秋に『MFゴースト』(※『頭文字D』と同じ世界の近未来が舞台という設定)をやっていて、今年もシーズン2をやると言っているし。『ケロロ軍曹』や『キン肉マン』は今年新シリーズ発表をしていて、2004年を見ていると、意外と20年後の今と重なるものがあっておもしろいです。 木村 20年経っても観ている方はけっこういそうですよね。あと、アニメファン初期の人たちも多く見ていそうです。ちょうど『風の谷のナウシカ』(1984年)で映画館に並んでいたような人たちなのかな。 藤津 『風の谷のナウシカ』も春の映画でしたね。ちょうど中学3年から高校に上がる春休みの公開だったので、映画館に観に行きましたね。約束もしてないのに友達も観に来ていて、映画館でばったり隣り合わせるみたいな(笑)。 木村 「やっぱり来るよね!」って言ってね(笑)。90年代になると今でいう深夜アニメ的なものはOVAになっていったじゃないですか。だんだん夕方6時のアニメもなくなってしまうし。自分が子供のころ、ジャンプアニメは19時からやっているみたいな。それが今になると夕方はニュースばっかりで。あと土曜と日曜の朝にやるアニメが増えましたよね。 藤津 結局はアニメそのものの視聴率が90年代の終わりごろからジリ貧の状態だったんです。その結果として、たとえば『ONE PIECE』(1999年〜)がゴールデンタイム放送じゃなくなるのが2006年で、『名探偵コナン』(1996年〜)もずっと月曜19時台でやっていたのが、2009年以降は土曜夕方枠に移っていて。そんなふうに、ちょっとずつ視聴率的にゴールデンタイムからアニメ枠が押し出されていって、逆に深夜にアニメ枠が増えていくことになった感じですね。 木村 なるほど。『交響詩篇エウレカセブン』(2005〜2006年)は朝7時とかにやっていて、京田知己監督や脚本家の佐藤大さんが「ナイトクラブで踊ったあとに見てもらいたい」と言っていたんですよ。そういう狙いもあるのかなって。僕もそのころは『マリア様がみてる』(2004年)を観るために、DJ終わったあとすぐ帰っていたから。最近は日曜朝のアニメって、大人向けのものが少なくなってきましたよね。 藤津 かっちり棲み分けされていますよね。土日の朝は、玩具やカードがセットになっている番組が中心で。 木村 たしかに多いですね。カードバトルものとかね。僕は朝6〜7時ぐらいまでDJをしていたりするので、日曜の朝に好きなアニメを観られるのは、DJ中もテンションが上がっちゃって。あと、土曜朝の『家庭教師ヒットマンREBORN!』(2006年)とかも好きでした。 過去〜現在でよくできたアニソンとは? ──その時代のトレンドはあるのでしょうか? 木村 2004年はやっぱりマンガ原作が多かったですよね。『GANTZ』(2004年)はアニメを観るときに少しフレッシュさがなくなってしまうから、原作は読まないようにした思い出があります。 藤津 あと、現代は “なろう系”(※小説投稿サイト『小説家になろう』発の原作の作品)という言葉に代表される、WEB投稿発の小説が企画のスタート地点のものがめちゃくちゃ多くなっているので、そこが一番違うところですよね。 木村 『サムライチャンプルー』も2004年春なんですね。少しサブカルっぽい雰囲気が伝わってきていて、アニメでヒップホップの音楽が流れることはなかったから。 藤津 そういう意味では『サムライチャンプルー』は、かなり目立っていましたよね。 木村 そういえば当時は野球中継があると、最終回までテレビでやらないとかありましたよね。 藤津 ありましたね(笑)。『GAD GUARD』(2003年)も地上波放送が途中で終わってて。そのあたりは、アニメ制作会社は局と連携があまりよくなくて、過渡期といえば過渡期だったんですよね。深夜アニメが始まって10年弱ぐらいで、改めてアニメに力を入れようとなったけれど、その体制が2004年はまだ固まりきってないんですよ。 木村 そうなんですね。『GAD GUARD』とかも「え、これどうなるの?」で終わっているから。今だと次のクールの最終話の持ち越しとかありますから。最終話を見るために、OVAを買ったり、レンタルしたりしなきゃいけなくなるという。 藤津 あとBSだけで全部やります、みたいなケースもありますからね。 木村 なかなか懐かしいですね。『サムライチャンプルー』も最後あれ?ってなりました(笑)。『GAD GUARD』はカッコよかったですよね。 藤津 ちょっとトガったビジュアルセンスのある作品だったので。 木村 最近は“なろう系”ばっかりで……。 藤津 すごく量が多いですからね。あと、2004年春の作品リストを見ると『DANDOH!!』があるんですよ。ということは、2004年も今年も両方ともゴルフアニメが入っています。そもそもゴルフアニメなんて、めちゃくちゃ少ないのに。両方にあるのはすごいなと(笑)。今年放送の『オーイ! とんぼ』は、ゴルフ雑誌『週刊ゴルフダイジェスト』(ゴルフダイジェスト社)の長期連載マンガですね。 木村 10年周期でゴルフアニメが出てくるのかもですね(笑)。ゴルフアニメはおもしろいですけど、数が少ないからいいのかもしれないですね。サッカーとか野球とか多いから、そうすると、どれか埋もれちゃう。 藤津 ただゴルフというスポーツの欠点は1試合が長いということですね(笑)。省略しすぎるとゴルフらしさが減っちゃうし、そこが実際にアニメで描くときには難しいところだなと思いますね。マンガだと延々とできるんですが、アニメだと区切りのいいところで収めないといけないから。 木村 箱根を自転車でずっと走っている『弱虫ペダル』(2013年〜)も同じですよね。 藤津 あれも走り出すと長いですからね。 木村 1クール全部、箱根を走っているみたいな。バスケットボールとか野球は、春や夏の甲子園とかね、終わらすタイミングがありますけど。 ──こう並べて見てみても、記憶に新しい作品が多いですよね。 木村 え、『ハイキュー!!』は2014年!? 藤津 そうなんですよ。テレビで第3期までやって、今年は映画です。映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』(2024年2月)は、すでに興行収入100億円と勢いがすごいんです。今は人気が出ると、作品寿命がかなり長くなるんですよね。『ラブライブ!』も最初のシリーズの第2期が2014年ですけど、シリーズは今も継続中ですからね。今度NHKで一番新しいシリーズをやるし。さらにほかのシリーズも展開しますと予告しているし。 木村 『ラブライブ!』といえば、作中に出てくる“穂むら”(※神田にある和菓子屋“竹むら”)。僕は90年代からずっと甘味好きなのもあって通っていたんですが、『ラブライブ!』人気でやばいことになっていて。作品ファンらしき人たちがグワーって並んでいて、当時全然行けなくなってしまって。店内での撮影もダメになり、アニメって影響力は強いんだなって(笑)。もちろん僕も、『らき☆すた』(2007年)の聖地巡礼もしていましたけど。みんなが聖地巡礼をやり出したのは、どのあたりなんですかね? 藤津 どこで線を引くか難しいんですけれど、もとから映画のロケ地探訪というのがファンの中ではあったんですよね。70年代〜80年代前後だと『ベルサイユのばら』ファンがフランス旅行へ行くというのもあったりして。当時はまだ聖地巡礼という名前がついていたわけではなかったけれど、アニメの舞台を訪れるという意識は昔からあったんです。“聖地巡礼”といわれたり、新聞記事になるようになったりしたのが、『おねがい☆ティーチャー』(2002年)あたりからだと思います。作中に長野県・木崎湖が出てくるんですけど、木崎湖に年1回ファンが集まるみたいなことが自然発生的に起きるようになって。それがさらに大きく話題になったのは『らき☆すた』ですよね。そのあと、さらに『ガールズ&パンツァー』(2012年)で茨城県・大洗町がフィーチャーされた感じです。ほかにもいっぱいあるけど、節目でいうとそこですかね。 木村 なるほど。今期の『変人のサラダボウル』は岐阜県を舞台にしていて、僕が岐阜県出身なのでうれしくなって。その土地と組んでアニメを作ることも増えましたよね。 藤津 フィルム・コミッションにロケ地を挙げてもらったりしているみたいですね。『となりの妖怪さん』(2024年)は静岡県西部の山のほうが舞台になっているのと、『ゆるキャン△ SEASON3』(2024年)は原作どおり、このあと静岡の山間地も登場する流れです。僕は静岡県出身なので、いろいろな地名が出てくると懐かしいなと思って観ています。 木村 実際に行ってアニメの場所が現実世界でそこにあるとうれしいですよね。僕も、長崎や函館に行ったときは、仕事ついでに1日余分に取って聖地を訪れています。 藤津 長崎に住んでいる知り合いの方が、長崎舞台のアニメはいくつかあるけれど、逆に住んでいるぶんだけ楽しみにくいみたいなことを言っていて。現地のリアルな情報があるから、「こういう感じじゃないんだけどな……」と気になってしょうがないと。素直に作品を観られなくなっちゃうらしくて。そういう、実際に住んでいるからこその感想はちょっとおもしろいなと思いました。 木村 アニメを観た人に来られても困る場所とかありますもんね。 藤津 舞台にはしたけど、私有地だから「入ってはいけないですよ」みたいな場所だったり。 ──地元が盛り上がるのはうれしいですが、難しい問題もありますよね。ほか、気になる作品はありますか? 藤津 『シドニアの騎士』(2014年)は、ひとつ分岐点っぽい作品で。国内で地上波放送をする前に、当時はまだ日本でサービスインしていなかったNetflixで先にかけたので、海外のほうが先に見られる作品だったんです。そのあと2015年に日本でNetflixのサービスがスタートしたんです。『シドニアの騎士』は日本のアニメが配信を舞台に海外で戦えているよ、というごく初期の例で。そういう意味で興味深い作品です。今は配信サービスがめちゃめちゃありますけど、10年前はまだ黎明期だったよなって。 木村 配信で最新のものを観たいけど、いずれ人気なのはテレビでやるだろうって思いながら。同じ業界の知り合いのTOWA TEIさんが音楽を手がける『スーパー・クルックス』(2021年)を観ようかなって思ったけど、テレビだけでも追われているのに、Netflixまで追い出すと大変。 ──同じ業界の人、知り合いの方が関わっている作品は気になりますよね。 木村 『BANANA FISH』(2018年)は気になって観たんですけど、結局音楽ばかり気になって、作品のほうに入っていけなくなったり。そういうのもおもしろいんですけどね。音楽でいえば、僕はアニソンはやっぱり、アニソンらしいほうが好きで。最近だと、YOASOBIさんとかはうまく作品にリンクしていますよね。 藤津 この間『AnimeJapan 2024』で、YOASOBIのレーベルプロデューサーに公開取材をするイベントがあったんです。そのときおっしゃっていたのが、YOASOBIは小説を歌にするユニットなので、どのアニメタイアップも小説を必ず書いてもらうんですって。最初にやった『BEASTARS』(2019年)も原作の板垣巴留先生に「書いてみてください」と言って書いてもらったみたいです。小説を書いてもらって、そこから世界観を抽出しているので、作品とのマッチ具合がいいんでしょうね。 木村 そのやり方を崩してないのは合ってる気がしますね。あと、ボカロPっぽい感じの曲の作り方も。 藤津 アニメのオープニングは89秒ですから、その中に詰め込む力がないと物足りなくなってしまいますからね。 ──アニメタイアップ曲は印象に残りますし、何年経っても色褪せないというか。数十年経って聴いてもいい曲が多いですよね。 藤津 2014年の『ピンポン』は、牛尾憲輔(うしお・けんすけ/作曲家)さんが初めてアニメの劇版をやった作品で。牛尾さんはもともとアニメ好きで知られている方ですが、当時は依頼が来たことにテンションが上がって、監督などと打ち合わせをする前に、まず曲を書いて渡してたっておっしゃってました。 木村 『ピンポン』の音楽も作品に合っていましたよね。子供のころは直球アニソンが多かったけど、『サムライチャンプルー』とか、2000年代から全然違う曲調が増えてきたなという印象ですね。そのころから、海外のDJでもリクエストが増えてきて、海外でもアニメが流行っているなって。 藤津 2005〜2006年に北米で日本のアニメのDVDが売れているんですよね。ただ当時は、DVDベースなので、ローカライズして輸出することができる作品は限られていた。向こうのファンも渇望しているというか、飢えている度合いが高かったんです。それがYouTubeのサービスが始まったあたりから海賊版が大量に発生して、DVDが売れなくなり、さらにリーマンショックもあって、その影響で日本のアニメ産業がシュリンクする時期があるんですよ。なので、作られているテレビアニメのタイトル数は、今お話しした海賊版やリーマンショックの影響で2010年で少し減っているんです。その後、徐々に持ち直していくのですが。そして2015年ごろから配信サービスの普及で当たり前になって、今やほぼタイムラグなしで日本のアニメが観られるようになっているんですよね。それによって業界も売り上げが増えていますし。 木村 アニメファンはおもしろい作品には課金してみようかな、というマインドがありますよね。DVDも自分用、友達への布教用、あとは保管用で買ったりして。 春アニメから見る業界のこれから ──今期の春アニメについてはどうでしょうか? 全体的には“なろう系”からの作品が多いですが。 藤津 『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』は「つむぎ秋田アニメLab」という秋田のアニメスタジオが作っているんです。同社は、少人数で作るための体制やワークフローを整えて、同作を作っているそうです。東京だとスタッフが足りないという話も多いですが、そういった状況に対するカウンターですね。時代の先端のやり方だと思いました。興味深いです。作品自体も気軽に楽しめる魅力があります。木村さんは、何か気になるアニメありますか? 木村 とりあえずこれまでの続きの2〜3期ものは押さえつつ、『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』、『LV2からチートだった元勇者候補のまったり異世界ライフ』、『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』、『Unnamed Memory』、『Re:Monster』、『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』、『WIND BREAKER』、『喧嘩独学』、『となりの妖怪さん』はおもしろいですね。『変人のサラダボウル』、『忘却バッテリー』とかも。 藤津 『忘却バッテリー』は、おもしろいほうの宮野真守さんを堪能できる作品ですよね。 木村 あと、僕はまだCGアニメ系についていけてなくて……。 藤津 ああ、そうですか。実は今期だと『ガールズバンドクライ』は、イラストレーターさんの絵を3DCGで動かすという、変わったアプローチをしていて。視聴者や業界が「どうやっているの?」って思うであろう、すごく攻めたルックで、独特の雰囲気を持っています。あれは3DCGのインパクトがある作品です。 木村 あと僕は昭和世代なので『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』も気になります。再構築じゃないですけど、ちょっとは新しく、変わっているんですか? 藤津 『宇宙戦艦ヤマト2199』(2013年/※リメイク版シリーズ)からの続きですね。旧シリーズの『新たなる旅立ち』に相当する位置づけの作品ですね。『2199』以降のリメイクシリーズは、科学的なアイデアやミリタリー的な要素も大幅にアップデートされていて、旧作よりもリアリティは増しています。だから旧作を知っている世代は「そうきたか」とおもしろがれると思います。 木村 そういう話を聞くと、おもしろさが増しますよね。前からそういうことを指摘する人っていたじゃないですか、「こんなことできないよ」って。 藤津 『怪獣8号』はご覧になられました? 木村 観てます! これからおもしろくなっていきますね。 藤津 ギャグシーンも含めて、このあとも緩急含めていい感じに仕上がっていますよね。 ──さすがジャンプ作品ですね。5月からは『「鬼滅の刃」柱稽古編』や『僕のヒーローアカデミア 第7期』などビッグタイトルのシリーズが始まります。2期、3期と続くのは定番化されているのでしょうか? 藤津 確認したことはないんですけど、配信になると、今観た作品の続きが“おすすめ”の欄に出てくるじゃないですか。そうなると、“おかわり”がしやすいんですよね。ヒットしたら続きを作ったほうが、配信サービスにも売りやすいのかなって想像しています。配信って、新しい作品を観るのもいいけど、続きがあるならとりあえず続きを観てみるか、となりやすいサービスなので。そういう意味で、ここ10年、シリーズものが増えているのかなと。 木村 自分的には、間に半年とか空くと忘れてしまうので続けて放送してほしいんですけど(笑)。あと気になるのは『じいさんばあさん若返る』。 藤津 『じいさんばあさん若返る』は、たわいのない話なんですけど、三木眞一郎さんがおじいさんをやっていて。『アストロノオト』に出てくるおじいさんも三木さんなんですよ。三木さんがおじいちゃんをやるようになるんだ……といろいろ思いましたね。 木村 やっぱりおじいちゃんキャラがうまいんですね。『終末トレインどこへいく?』も観てますが、本当に「どこへ行く?」というストーリーで(笑)。 藤津 本当にそう! どうなるんだろうなって。おもしろいより先に不思議、という感想になりますね。これを観ていると、自分はどんな気持ちになるのか予想がつかないです(笑)。 木村 おもしろくなるのかどうなるのか。不思議な感じですよね。『ダンジョン飯』もちゃんと続いていますよね。ご飯のお話で、ストーリー持つのかな?と思っていましたけど、第2期になって、ご飯の話じゃなくなってきて。 藤津 アニメは最初すごく飯推しで宣伝していたのでね(笑)。原作の九井諒子さんは短編のうまい方で、長編をどう描くのだろうと?と思っていたら、飯推しから始まって、だんだんハードなファンタジーになっていって、さすがだなと。そういう意味ではアニメも安心できるなと。 木村 ちゃんとダンジョンのお話になっていきましたよね。 藤津 あと、『転生したらスライムだった件』は第3期で、これが終わると1期から数えて70話を超えることになります。かなり長いシリーズになっていて、話数的に昔のOVA『銀河英雄伝説』(本伝全110話)に近づいてきてるんです。これは実はなかなかすごいことだと思います。 木村 『転スラ』は会議のシーン多いし、キャラも多い。キャラも一つひとつ立っているからいいですね。 藤津 時々ちゃんとバトルもありますからね。 木村 魔法のバトルなり、剣のバトルなり、戦闘機のバトルなり──やっぱりアニメにバトルシーンを取り入れると、それで人気が出るのはあるんですかね? 子供のころのアニメとかはそういうので話題になっていたから。今の時代もそうなのかなって。 藤津 やっぱり華になるシーンですし、SNSで戦闘がカッコよかったって、動画を上げる人もいますからね。目を引くし、人を呼び込む力はありますよね。 ──今期のアニメで、おふたりがアニメ好きに限らず、ライト層にもおすすめするならどの作品ですか? 木村 『怪獣8号』や『戦隊大失格』は見やすいかなと思います。『ダンジョン飯』も見やすいかな。異世界転生モノは、もう少しアニメに慣れてからかな。 藤津 『転スラ』は3期ですしね。やっぱり『怪獣8号』はおすすめしやすいですね。バトルもクスッと笑えるところもありますから。あと、深夜にゆったりとした気持ちで観るなら『となりの妖怪さん』。田舎暮らし的なお話なので。 ──ここまで春アニメを振り返ってみましたけど、今後のアニメ全体はどんなシーンになりますかね? 木村 異世界転生モノはもう原作がなくなってきたんじゃないですか? そのジャンルが今後どうなるのかは心配になってきています。 藤津 少しでも人気があるやつはすぐアニメ化されていますからね。あとは改編期が配信ベースになると、どうなっていくのかなって。配信だけだと広がりが出ないとわかっているので、テレビアニメがなくなることはないと思うんですけど。テレビと配信のどっちが主になるのか。テレビ局もアニメにもっとコミットして放送外収入を得ましょう、という流れもあって。ここからテレビ局とアニメ業界の綱引きで、どういう未来を目指すかということが将来のテレビアニメ、春アニメに関わってくるのかなと。 木村 見逃したアニメを観るために、Netflix、Hulu、dアニメストアに加入しているんですけど、減らしてもいいのかなって(笑)。 藤津 dアニメは新作アニメリストがあるから便利ですよね。HuluはDisney+がセットになりましたしね。 木村 これ以上観ないといけないアニメの数が増えると困っちゃいますね(笑)。 撮影=Jumpei Yamada 取材・文・編集=宇田川佳奈枝
BOY meets logirl
今注目の「BOY」をピックアップし、撮り下ろし写真を公開
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金田 昇(BOY meets logirl #042)
金田 昇(かねた・しょう)2000年1月9日生まれ。北海道出身 Instagram:sho_kaneta_ X:@Sho_Kaneta 新番組『ウルトラマンアーク』7月6日(土)朝9時スタート(テレ東系列6局ネットほか)石堂シュウ役 撮影=矢島泰輔 編集=高橋千里 【「BOY meets logirl」とは】 今、注目の「BOY」をピックアップし、撮り下ろし写真を公開します。
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橋本祥平(BOY meets logirl #041)
橋本祥平(はしもと・しょうへい)1993年12月31日生まれ。神奈川県出身 X:@hashimotoshohey 主演舞台『「野球」飛行機雲のホームラン ~ Homerun of Contrail』(2024年6月22日~6月30日公演) 撮影=Jumpei Yamada 編集=宇田川佳奈枝 【「BOY meets logirl」とは】 今、注目の「BOY」をピックアップし、撮り下ろし写真を公開します。
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伊藤あさひ(BOY meets logirl #040)
伊藤あさひ(いとう・あさひ)2000年1月19日生まれ。東京都出身 Instagram:asahi_ito_official X:@asahi_ito_0119 ドラマ『絶対BLになる世界VS絶対BLになりたくない男 2024』(Lemino/独占配信中)菊池役で出演 ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(5月16日〜新国立劇場 中劇場にて)マーキューシオ役で出演 撮影=大嶋千尋 編集=高橋千里 【「BOY meets logirl」とは】 今、注目の「BOY」をピックアップし、撮り下ろし写真を公開します。
若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>
「初舞台の日」をテーマに、当時の期待感や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語る、インタビュー連載
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コントシーンで注目を集めるトリオ・破壊ありがとうのネクストステージ|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#28(後編)
東京のコントシーンで、今最も注目されている若手のひと組が「破壊ありがとう」だ。大学時代に結成してまだ3年。2024年4月にフリーながらプロとしての活動をスタートさせたが、すでに単独ライブを打てば、お笑い好きがこぞって集まる人気のトリオだ。 このインタビューでは、彼らが作るコントの独自性の秘密に迫る。リアルでありながら発想が飛躍していき、観る者を一瞬たりとも飽きさせないのは、破壊ありがとうのコントが孕むミステリー性とワクワク感に理由があるようだ。 【インタビュー前編】 プロの道へと歩み出した話題の若手トリオ・破壊ありがとうの初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#28(前編) 目次他人同士の3人だから生まれるリアルなコント「卒業後の進路はどうするんですか?」笑えるだけじゃなく、ワクワクするコントを人間を超えたい健康に、純粋に、コントを続けるために 他人同士の3人だから生まれるリアルなコント 左から:木下もくめ、田中机、森もり ──前編では2021年に踏んだ初舞台について伺いました。そのときにはすでに「この先も3人でやっていくだろうな」という予感はありましたか。 田中 いや、まったく考えてなかったです。ネタを考える方向性もバラバラだし、キャラクターも全然違うから、台本もすごく書きづらいんですよ。演技の方向性もちょっとずつ違うし。 森もり 僕がアニメとかマンガっぽくて、木下は演劇っぽくて、田中は自然な人の演技。 田中 まったくチグハグな3人で、どうやって辻褄を合わせようか、最初のころは苦戦してました。でも、そこをうまくクリアできたら、3人にしかできないネタになったような気がしました。この3人に合うネタを考えてると、オリジナルのものができるんだっていう手応えを、徐々に得ていったっていう感じです。 木下 破壊ありがとうのコントは「他人同士が巡り合って、どうなるか」を描いていておもしろいってたまに言っていただくんですけど、そういうコントが自然とできていくのは、そもそもメンバーがみんなバックボーンも好きなものも全然違う「他人同士」だからっていうのがあると思うんです。 田中 そうですね。台本を書いていって、ふたりに実際に読んでもらうと「この人たちは、こういうふうに読むんだ」って毎回気づかされることが多いんです。「このキャラクターはこんなこと言わない」とか、「一人称が合ってない」とか、「このセリフはお客さんを意識しすぎてる」とか。そういう感覚を全部反映して、台本を書き直します。 森もり 読む段階で、キャラクターの言動が不自然だなと思ったら、それは全部話すようにしてます。そこの感覚を全部大切にするのが、僕たちのやり方だなって。 木下 そこは細かく相談してるよね。 田中 登場人物を自然にするってことはかなり意識していますね。僕らには、徹底的にバカバカしいコントよりも、自然なコントのほうが合っているから。お客さんが「あり得ないよ」って白けてしまわないように、自然な設定とセリフは意識しています。 「卒業後の進路はどうするんですか?」 ──今年の4月にプロとして活動することを発表されました。破壊ありがとうで今後も行こうって思ったのはいつごろですか? 森もり それこそ前編でもお話しした『テアトロコント』の出演が決まったときなんで、2023年の8月です。テアトロコントのキュレーターをされている小西(朝子)さんが声をかけてくれたタイミングで「卒業後の進路はどうされるんですか?」と聞いてくれて。 田中 そこで初めてプロになるかどうか話し合いました。それまではあえて言わないでやってきたんですよね。手応えはあったけど、プロとしてやっていくのは難しいんじゃないかと思っていたので。 木下 お笑い芸人を職業にできるっていう考えがまったくなかった。 森もり でも、テアトロコント出してもらうなら「プロになります」って言わないと失礼だなと。 木下 大学生でお笑いやってて、その先にプロの道がつながってるだなんて思ってなかったから、びっくりしました。大学1年生のときに所属していたミュージカルサークルでは、公演を打ってもプロのミュージカル関係者が来るわけじゃない。でもお笑いサークルは、そうやってプロの方が観に来てくれて、引き上げてくれる。 田中 でも、小西さんみたいな方はやっぱり珍しい。「ただただ、おもしろいものを観たい」っていう小西さんの好奇心のおかげで、見つけてもらえたんです。 笑えるだけじゃなく、ワクワクするコントを ──今年の3月にはテアトロコントの会場でもあるユーロライブで単独ライブを行い、大盛況でした。急きょ追加公演が決まって、300人以上の集客があったようで驚きました。 田中 ありがたかったですね。手応えのあるネタもできたので、よかったです。特に『砂』と『クイズ』は気に入ってますね。 ──『砂』は、新入社員が、砂の山から粒をひとつずつ分けて、数えていくネタでした。設定は不条理だけど、妙なリアリティがあって笑えました。 田中 まだちょっと足りない部分はあるんですけど、あれは自分たちでもワクワクしました。最初は単純に「砂を数える行為が大きな笑いになったらワクワクするな」ってところからスタートしてて。「これってこうやって見せたら実は笑えるよね」ってみんなに共有するのが好きなんです。 ──『クイズ』のネタは、旧友の葬式に行く前にカラオケに集まったんだけど、ひとりだけこのあとに葬式があることも、そもそも誰が死んだのかも知らない、という設定のコントでした。葬式コントは定番ですが、『クイズ』は葬式に行く前が舞台で、しかも誰が死んだかわからないというミステリー仕立てなのが新鮮でおもしろかったです。 森もり ありがとうございます。あれは本番の2日前にようやくかたちになって、「これはけっこうワクワクするネタになりそうだね」って興奮しましたね。 田中 うんうん。その前日までは、どうやっても不謹慎な感じが拭えなくて、「今回はやめとく?」って相談してたくらいなんです。でも、その2日前のネタ合わせがうまくいって、これはただ笑えるだけじゃなくて、ワクワクもあるネタになるぞって確信しました。このテーマが笑いになったらすごくワクワクするっていうところは、原動力になっていますね。 森もり 一番大切にしてるのは、そこだね。ワクワクするかどうか。 ──破壊ありがとうのネタは、観客が予想するエンディングの、その先まで見せてくれるので驚きと満足感もあります。『砂』の場合は数え終わったところから、またストーリーがうねっていく。そこまででもじゅうぶんおもしろいのに、その先を考え抜いてコントにするところが、好きです。 田中 お客さんだけでなく、僕ら自身もどこに向かっているのか、わからないように見える。そういうミステリー感のあるコントが好きなんですよね。僕はもともとミステリーというジャンルが好きなんですけど、お笑いにおいても、ミステリーがあるとすごくワクワクする。演者ですら、どこに行くのかわかってないように思えるコントを作りたいです。 木下 コント自体は何度も練習してるんで、もちろん「どこに行くのかわからない」なんてことはないんですけど、でも、その日の会場の雰囲気を捉えて、ちょっとした演技のさじ加減で、空気が変わるっていう緊張感はいつもあるんです。だから演者の私たちがそこでハラハラしている感じも、お客さんにとってはワクワクする要素になるかもなって思います。 ──コントといっても、ナマモノなんですね。 木下 そうですね。でもたぶん、漫才とはまた違って、お客さんのほうに意識が向かうとダメになっちゃう。 田中 僕らの場合、コントのキャラクターから降りたツッコミもないようにしてるので、舞台上と客席の間に明確な線引きはあるんですよね。 木下 コントをしているときは、意識は内側にありつつも、俯瞰でも見ていますね。 人間を超えたい ──今はライブシーンで活躍されていますが、これからはテレビにも出ていきたいですか。 田中 呼んでいただけたら、もちろん出たいです。 森もり 僕はめっちゃ出たいです! 『(千原ジュニアの)座王』(関西テレビ)とか出たいです。 田中 森もりは大喜利が大好きだから向いてそう。僕らは一人ひとり得意なことがまったく違うので、それぞれが一番活躍できる場所に行けたらいいですね。 木下 私は、ピンでの活動は破壊ありがとうの広報活動っていうイメージです。舞台に出たり、イラストとかマンガを描くのも好きなので、そっちも何かできたらいいな。 田中 木下はもともとミュージカルやってたのもあって、歌って踊れるから、いろんな活躍の方法があると思う。 木下 好きなことや、やってみたいことが多いので、それを一つひとつ伸ばしていけたらいいなと思います。私個人の人生の目標は、「人間を超えること」なので……(笑)。 森もり これ怖いんだよなぁ。 木下 へへ(笑)。コントが好きで、絵描くのも好きだし、歌って踊るのも好き。そうやって好きな部分を全部伸ばしたら、どうなっちゃうんだろうって。観に来てくれたお客さんたちをビックリさせたいんです。「人間ってこうなれるんだ……」って思わせたいんです(笑)。 森もり 怖いよ……。 木下 『進撃の巨人』のミュージカル公演がすごかったんです。ミュージカルだから当然歌って踊るし、アクションシーンではワイヤーで跳びながら戦ってて。その役者さんができるすべての能力を使いきって人が人間の限界を超えてるように見えて感動したんです。 その場では物語という嘘が本当になっていたというか。自分の好きなことを伸ばしていけば、そういう嘘を本当に見せられる力を身につけられるんじゃないかと思ってるんです。もちろん心は人間なのでね、「うー、ツラい……」って落ち込むこともあるんですけど、そこは信じてます。 森もり 木下は弱虫だから。 木下 すぐ泣いちゃう(笑)。人すぎるからこそ、人を超えたいって思ってます。 健康に、純粋に、コントを続けるために ──木下さんの壮大な目標を聞かせてもらいましたが、破壊ありがとうとしての目標を最後に教えてください。 森もり 単独ライブをしっかり打って、それだけでごはんを食べられるようになりたいです。 田中 まずは3日間4公演とか埋められるようになりたいです。学生からおじいちゃんおばあちゃんまで、極力前提知識なく観られるものをがんばって作っていくので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。 森もり あとは、もちろん全国ツアーもやりたいね。 木下 そうだね。昨年行われた、三谷幸喜さんの『笑の大学』の再演を観に、3人で仙台の電力ホールに行ったんです。内野聖陽さんと瀬戸康史さん、ふたりの会話劇を観るためだけに、1000人くらいのお客さんが集まっているのに感動しちゃって。 田中 僕らも3人で完結するコントで「どうだ!」と言えるようになりたいです。 ──コント師として『キングオブコント』という賞レースも見据えているとは思うのですが、いかがですか? 田中 もちろん決勝に行けたら、優勝できたら、とは思いますが、ガッツリそこを目指すのとはまた違っていて。 木下 私たちの場合は、そっちを目指すと体力が持たなくなっちゃう気がしてます。 田中 賞レースに挑戦しながら、自分たちのお笑いもやり続けてる人は本当すごいから。 森もり 僕らもバトルジャンキーではあるんですよ。だからこそ、ガッツリ戦おうとすると、すり減っていっちゃうだろうなって。 木下 そこのバランスは大事だよね。健康に続けたい。 田中 これまでもコントの尺も気にせず、おもしろいと思えるネタを作ってきたので、これからも賞レースで優勝するためのコントを仕上げようっていう感じにはならないかもしれないです。自分たちがおもしろいと思えて、笑えてワクワクできるコントを作りたい。その純粋な気持ちを忘れたくないですね。 文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平 破壊ありがとう 田中机(1999年6月26日、神奈川県出身)、森もり(1998年8月4日、東京都出身)、木下もくめ(2000年9月3日、埼玉県出身)のトリオ。2020年末、結成。2023年には、ユーロライブで開催された渋谷コントセンター月例公演『テアトロコント Vol.63』 に出演。2024年、同会場で単独ライブ『洒落臭い』を開催。チケットソールドアウトで、2回公演となった。YouTubeチャンネルでも、ネタ動画をアップしている。 テレビ朝日『ももクロちゃんと!』出演決定!! <出演情報> テレビ朝日『ももクロちゃんと!』 6/22(土)6/29(土)2週連続 深夜3:20~3:40 ※詳しくは、番組ホームページで 【後編アザーカット】
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プロの道へと歩み出した話題の若手トリオ・破壊ありがとうの初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#28(前編)
コロナ禍にお笑いを始めた芸人たちが、台頭してきた。結成3年で、この4月からプロとして活動をスタートした「破壊ありがとう」は、次世代のコント師として、にわかに注目を浴びている。 物騒なトリオ名とは裏腹に、彼らは繊細な手つきで、身近なシーンから種を見つけ、新鮮な笑いを生み出している。 2020年末の結成ながら、東京のコントシーンの隆盛にひと役買う「ユーロライブ」での単独ライブも成功させた「破壊ありがとう」に、いまだ記憶に新しい初舞台の話や、お笑いを始めたキッカケを聞いた。 若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage> 注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。 目次初舞台のネタは“実話”「普通の大学生活」と「バンザイ同盟」への違和感破壊ありがとうの指針は『笑の大学』何者でもない3人を見出した恩人 初舞台のネタは“実話” 左から:森もり、田中机、木下もくめ ──3月にユーロライブで開催した単独ライブ『洒落臭い』は大盛況で、急きょ追加公演も行われました。芸歴1年目にしてキャパ200弱の会場で2回公演を打てるのは破格かと思います。破壊ありがとうの初舞台はいつですか? 田中 2021年の2月です。結成は2020年の年末。 ──最近のことですね。 森もり 初舞台は中野twlでしたね。地下の靴を脱がないといけない劇場。 木下 バトルライブで、1位をもらえました。 田中 30組くらいは出てたかな。基本的にみんな初舞台だから、まずウケない。そもそもお客さんも学生が3〜4人ぐらい。 森もり 俺らのときは5〜6人はいたんじゃない? 田中 そんな誤差を強調しても恥ずかしいので、やめましょう。 ──どんなネタをやったんですか。 田中 森もりが、真冬もタンクトップで過ごす小学生役で、学校でのあだ名も「タンクトップ」なんです。タンクトップが自分のキャラクターになってしまった彼は、母親に「寒くないの?」と聞かれても「大丈夫だよ」と、やせ我慢してる。 木下 そしたら児童相談所から人がやってきて「真冬にタンクトップなんて虐待じゃないですか」という話になるんです。お母さんが「大丈夫なんだよね?」と聞いたタイミングで、子供のお腹からポロってホッカイロが落ちる。 森もり しかもホッカイロでヤケドになってて、児童相談所の人がさらに疑うというコントでした。 ──子供とお母さんと児童相談所の思惑が絶妙にすれ違っていて、初舞台とは思えないほど巧みなネタですね。ネタは誰が書いたんですか? 田中 アイデアはみんなで出して、僕が台本にしました。真冬にタンクトップっていうアイデアは木下が持ってきたんですよ。 木下 友達から聞いた実話なんです。真冬に半袖着てたら、本当に児童相談所が尋ねてきたっていう知人がいるって。 田中 そのエピソードを、半袖がアイデンティティになっちゃった子の話にしたらおもしろそうってことで、自分なりにはだいぶ自信持って台本書けたんですけど、ボケとかツッコミとかも明確じゃないから、ほかの人が台本だけ読んでも全然おもしろく見えなかったんです。最初は森もりもどこが笑えるポイントなのかわからないって言ってたよね。 森もり でも実際にやってみたら手応えあった。 田中 僕らは性格も好みもバラバラだから、3人の意見をまとめていくのはけっこう大変です。今は基本的には僕がネタを考えて、ふたりからGOが出たら台本を書き出していくって感じです。実際に3人でネタ合わせをしながらふたりからアイデアとか「このキャラクターはこんな言い方はしない」とかの意見をもらって、3人で話し合って詰めていくって感じですね。 「普通の大学生活」と「バンザイ同盟」への違和感 ──3人は、2020年にお笑いサークル「早稲田大学お笑い工房LUDO」で出会ったそうですが、3人とも年齢が違うんですよね? 森もり そうです。僕が25歳、田中が24歳、木下が23歳。僕は大学4年のときに入りました。 ──大学4年までは何をしていたんですか? 森もり いわゆる「大学生」っぽい生活を謳歌してました。サーフィンしてみたり、バーベキューしてみたり(笑)。でもなんか心の底からなじめてはいないなっていう感じがしてて。しかも途中で休学して、大学に6年いなきゃいけないことが確定したんですよ。それで残りの3年間どうしようかな、なんかもっと自分でおもしろいことできる場所ないかな、と思っているときに、『大喜利プラス』という大喜利サイトを見つけて遊び始めたんです。 もともとお笑いは好きだったけど見るだけだったので、自分でおもしろい回答を作ってウケるという体験が新鮮でどハマりしてしまって。ちょうどそのタイミングでコロナ禍になり、いろんな制限があってうっぷんが溜まるうちに、笑いをスマホの中だけじゃなくて、実際に自分の体を動かしてやってみたいなと思いました。 ──それでLUDOに入った。 森もり そうですね。いきなりお笑いをやるなんて無理かな、とも思ったんですけど、芸人をやっている友達に話したら「とりあえずやってみればいいじゃん」って言われて「お笑いってやろうと思った日からできるじゃん」と気づかされました。 ──田中さんはどういう経緯でLUDOに? 田中 僕は、高校では演劇部に入ってて、脚本と演出をやってたんです。自分で物語を書いて、それをかたちにするっていうことへの感動はけっこう自分の中に残ってて、大学でもまた何か書きたいなと思っていました。 で、映画サークルに入ってみたんですけど、ノリが合わず。かといって、小説を書くみたいに、ひとりで創作をするのも性格に合ってなくて。気づいたころには、早稲田大学の「バンザイ同盟」に入ってました。 森もり 書くことから目を背けたんだよね。 田中 完全に血迷ってたね。バンザイ同盟っていう、100種類以上のさまざまなバンザイを人前で披露するっていうサークルに入ってたんです。結婚式とかに呼んでもらって、ただただバンザイをしてました。それをひたすら1年間。でも、バンザイ同盟には現実から目を背けてる人しかいなくて、みんな空虚なカラ元気でバンザイしてました。でも、コロナになって、バンザイすらさせてもらえなくなったんです。 木下 バンザイをさせてもらうって発想が怖いよ(笑)。 田中 ようやく「俺、こんなとこにいちゃダメだ」と気づいたちょうどそのときに、二浪して大学に入った友達から「お笑いやりたいんだよね」と言われ、一緒にLUDOに入りました。その友達はすぐに辞めちゃったんですけど、あそこで誘われてなかったら、僕がお笑いをやるなんてことはあり得なかったですね。 破壊ありがとうの指針は『笑の大学』 ──田中さんは高校で演劇をやってたのに、早稲田で演劇にいかなかったんですね。 田中 やってきたのになんですけど、演劇がめちゃくちゃおもしろいとは思えなかったし、観客としても観てこなかったんです。 ただ、三谷幸喜さんの『笑の大学』を高校生のときにDVDで観て、こんなのやってみたいなと思ってました。二人芝居というシンプルな作りで、舞台上には至って真剣な登場人物しかいないのに、お客さんにはその真剣なセリフが笑えるものに見えるっていうのがすごくて。 木下 去年、3人で観に行ったよね。前日に行くこと決めて、深夜バスに乗って。 田中 ちょうど再演してたんで「これ本当におもしろいから」ってふたりを誘って仙台公演に行きました。「俺たちの指針にもなる気がするから」って。 森もり 初演ともまた違ってて、めちゃめちゃおもしろかった。 木下 すごかった。終わったあと、立てなくなっちゃった。 私は大学のときはお笑いサークルと並行してミュージカルをやってたんです。照明や音楽を使って盛り上げようとするミュージカルとも違って、演技と言葉のおもしろさだけで満足させる『笑の大学』はまた違うよさがあって、感銘を受けました。 ──そもそも木下さんは、なんでミュージカルからお笑いに転身したんですか。 木下 高校2年生からお笑いは好きだったんですよね。でもまさか、自分がお笑いをやる立場になるとは思っていなかったんです。 大学2年生のときにコロナ禍が始まり、ミュージカルの公演ができなくなってしまって。ヒマだったのでZoomで友人とコントみたいなおふざけをやっていたら、それがすごく楽しかったんです。そんなときにLUDOでスタッフをやっていた高校の同級生が「入ってみない?」と誘ってくれて。コントをやってみたい気持ちも高まっていたので勇気を出して入りました。 ──LUDOで出会った3人はすぐ「破壊ありがとう」を結成した? 田中 いや、最初は3人とも別のコンビだったんですけど、僕は一緒に入った友達と最初は組んでました。それからピンでやってたら、森もりが「一緒にやろうよ」と言ってくれて。ちょうど同じ時期に、木下もピンになりそうだから誘いました。 木下 そのとき組んでいたコンビは主に漫才をやっていたんです。時々コントもやったんですが、あまりうまくいかなくて。 田中 すっごい変なコントやってたよな。木下が化粧水を飲んで、内側からキレイにするみたいな。 木下 美しくなるための努力って滑稽だよね、みたいなネタだったんです。小顔にするためのマッサージで変な顔になるとか。 田中 すごい変なネタだったんですけど、木下がすごい輝いて見えたんです。この人はスターだなって思って。 森もり 俺もすげぇと思った。変顔もおもしろかったもんね。表現力がすごかった。 何者でもない3人を見出した恩人 ──そして2020年末に結成し、冒頭の初舞台に至ったんですね。今年、LUDOでは大学お笑いの大会『NOROSHI』で優勝も飾っています。 森もり 同期の友田オレと放電っていうコンビと一緒に出たんですけど……。 田中 サークルの活動にはほとんど関わってこなかったから、最初はちょっと気まずかったですね(笑)。最後は仲よくなれましたけど。在学中は自主ライブばかりやっていて、LUDOのライブに出たのは5回あるかないかぐらいだったから。 ──なぜLUDOで活動しなかったんですか? 森もり 僕らがLUDOに入った年に、コロナが始まって、それまでのライブ活動ができなくなったんです。サークル主宰のライブが打てなくなったり、バトルライブが中止になったり。そうすると、自分たちでライブを打つしかなくて、自然とサークルから離れていきました。 田中 僕らはネタ時間の長いコントが多いんですけど、それもコロナ禍のせいというか、おかげというか。自分たちのライブだから、尺をあんまり気にせず作ってこられたんです。 木下 ライブとか大会のネタ尺って基本的には3分なんです。でもコロナのせいで、そこを通ってこなかったから、短い尺で収めなきゃという気持ちはあまりなくて。やりたいことを、やりたい尺でやろうってなってました。 森もり 僕らの世代は、自分たちでライブを打つことを覚えていった世代だと思いますね。 ──そうやって自主ライブを重ねた末に、2023年にはユーロライブで行われているコントと演劇のライブ『テアトロコント』に出演されました。 木下 テアトロコントはずっと目標だったのでうれしかったです。破壊ありがとうは、こういう場所を主戦場にしていくんだって気づかせてくれた場所で。 田中 テアトロコントを教えてくれたのは、木下なんですよ。 木下 私が大学1年生のときに、お客さんとして観に行ったんです。高校時代に演劇もやってたから、コント師と演劇の人たちが合同でやるライブはおもしろいなと思ってました。 田中 僕も高校時代に演劇をやっていたので「テアトロコントっていうのがあるよ」って木下に聞いたとき、それに出られたら最高だなと思ってました。そしたら2023年の3月にお誘いがあって。 ──テアトロコントのキュレーターである小西朝子さんに売り込んだんですか? 田中 いや、何もしてないんです。 森もり 小西さんは、新宿バティオスっていう小さい会場でやった、最初の単独ライブにも観に来てくれたんですよ。 木下 YouTubeの動画も2本くらいしか上げてなかった時期なんですけど、たぶんそれを見てくださったみたいで。 森もり 最初の単独ライブ『おととい』って、2022年の4月だからね。 木下 小西さんと実際にお会いして、Instagramの過去の投稿を見たら、本当に2022年の4月に私たちのフライヤーの写真を上げて「おもしろかった」って書いてくださってて。あんなに早く見つけていただいたのを知って、すごくうれしかったですね。 田中 常におもしろいものを見つけようとしてる小西さんがいなかったら、僕らもプロになろうとは思わなかったです。 文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平 破壊ありがとう 田中机(1999年6月26日、神奈川県出身)、森もり(1998年8月4日、東京都出身)、木下もくめ(2000年9月3日、埼玉県出身)のトリオ。2020年末、結成。2023年には、ユーロライブで開催された渋谷コントセンター月例公演『テアトロコント Vol.63』に出演。2024年、同会場で単独ライブ『洒落臭い』を開催。チケットソールドアウトで、2回公演となった。YouTubeチャンネルでも、ネタ動画をアップしている。 テレビ朝日『ももクロちゃんと!』出演決定!! <出演情報> テレビ朝日『ももクロちゃんと!』 6/22(土)6/29(土)2週連続 深夜3:20~3:40 ※詳しくは、番組ホームページで 【前編アザーカット】 【インタビュー後編】 プロの道へと歩み出した話題の若手トリオ・破壊ありがとうの初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#28(前編)
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目標に捉われず“今”を楽しむ?ぱーてぃーちゃんのネクストステージ|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#27(後編)
コロナ禍のテレビに突如として現れ、ノーテンキなギャル漫才でブレイクしたぱーてぃーちゃん。 そんな彼らが、一介のお笑い好きから芸人になった初舞台について、聞いていく。前編ではリーダー的存在であるすがちゃん最高No.1がまさかの大遅刻で、信子と金子きょんちぃのみの展開に。 さて、すがちゃんは無事インタビュー現場にたどり着くのか? ぱーてぃーちゃんの現在地はいったいどこだ。 【インタビュー前編】 ぱーてぃーちゃん結成前夜、ギャルふたりがコンビで立った初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#27(前編) 目次すがちゃん、未だ到着せず遅れてきた男が説明する、ぱーてぃーちゃん結成話アオハルだったブレイク前夜賞レースは一回休み……?自信満々でスベった初舞台アイツらのこと嫌いになりそうだった すがちゃん、未だ到着せず 左から:信子、金子きょんちぃ、(撮影には間に合った)すがちゃん最高No.1 ──前編に続き、すがちゃんさんがまだ到着されていません。なので、もう少しおふたりに話を聞きたいんですが、そもそもすがさんとの関係はどんな感じだったのでしょうか。 信子 もともと(信子&きょんちぃのコンビ)「エンぷレス」のネタを書いてもらってたんです。私が「こんなことやりたいんだよね」って伝えて、おしゃべりしながら95%くらい作ってもらってた。 きょんちぃ アイツのシェアハウスに居座って「ネタ書かないんなら、ウチらは帰らないぞ!」って脅してた。 信子 面倒見いいんだよね。ワタナベに所属して最初にごはん連れてってくれたのもすがちゃんだし。それからは「月一すがの会」でごはん連れてってもらった。 ──そんな3人が、すがちゃんの元のコンビ解散をきっかけに合流するわけですけど、初舞台って覚えてますか? 信子 それが2020年の11月かな? すがちゃんが解散したのが10月なんで。その時期って解散する芸人が多くて。 きょんちぃ 毎年、賞レースの予選で負けて、解散する芸人が多い時期。でも、あの年はコロナだったから特に多かった。 信子 そうそう。で、そういう解散してこれからどうしようって芸人を集めて、即席ユニットを作るライブがあった。そこで初めて3人でやったんだよね。あの日がぱーてぃーちゃん史上一番スベったけど、なんか遊びでやっただけだから、あんまり思い出はないかも。 遅れてきた男が説明する、ぱーてぃーちゃん結成話 ──そこからどうやって正式に組むことになったんですか? 信子 えっと……。 きょんちぃ あれ? アイツ来たんじゃね? すが 本当に申し訳ございません……! 今、地球で一番申し訳ないと思ってる男です。 信子 遅すぎ〜(笑)。てか急に入ってくるなし。何しゃべろうとしてたか忘れたじゃん! きょんちぃ 正式に組んだのはいつかって話。 すが わかりました、全部私が説明いたします。正式に組んだのは2021年の4月ですね。その前は2〜3回一緒にライブ出たり、ネタ番組のオーディション動画を送ったりするだけだったんですが、そのタイミングでぱーてぃーちゃんのポーズ漫才ができて、それがハマって北海道放送の『知らなくて委員会』の「芸人ショートネタ選手権」に出られることになったんです。そこで初めて人生で一度もがんばったことなかった我々が本気で準備しました。 信子 めっちゃがんばったよね! ──今のすがさんって分析家なイメージがありますが、当時はノリでぶつかるタイプだったんですね。 すが 人がいいって言うことは全部やらないっていう、ちょっとトガッた感じでした。でも『知らなくて』のときは、ちゃんとハマるためにめちゃめちゃシミュレーションして備えたんです。結果的に本番の出来がめちゃくちゃよくて優勝させてもらって、その日のうちに、APさんから「ほかの番組にも出てくれない?」って言われましたね。テレビって、ハネたらほかにつながるって本当なんだなって実感した。 ──『知らなくて委員会』をきっかけに、正式にぱーてぃーちゃんを結成した? すが 端的に言うとそうですね。僕ら、きょんちぃのバイト先のバーでネタ合わせをすることが多かったんですけど、ある日ふたりがそこに僕を呼び出したんです。これは「組もう」って誘われるなっていうのは察してたんですよ。っていうのも、僕のシェアハウスの同居人がテレビマンなんですけど、そいつは僕らが組むのを勧めてて。ギャルたちにも「後輩のお前らから一緒にやろうって言ったほうがいい」って言ってたらしい。 信子 そうだね。 すが だから僕もそういう心づもりだったんだけど、店に入ったらコイツらタバコ吸いながら白々しく「おはよ〜」って言ってて。いつまで経っても言い出さないから結局僕が折れて「いったんやってみるか?」って言ったら「ナオトがそう言うんだったらいいよ〜」とか言ってきやがった。こいつらマジ、シャバかったですよ。 きょんちぃ もう遅刻反省モード終わってんじゃん。 すが くっ……申し訳ありません。 アオハルだったブレイク前夜 ──正式に組んだ2021年の終わりに出た『おもしろ荘』でブレイクしますが、その前に売れると確信したタイミングはありましたか。 すが ぱーてぃーちゃんのポーズができて、K-PROのライブで初めて披露したときは初めてイケるかもって思いましたね。 信子 耳がキーンってするくらいウケたもんね。 きょんちぃ 私たちがポーズ取った2秒後に笑いが来た。 すが あの笑いは「おもしろい」だけじゃなくて「新しいものを見た!」っていう興奮も入ってたな。 ──『おもしろ荘』の出演ってどうやって決まるんですか? すが 秋くらいにオーディションが始まるんですよ。だから4月に組んでからはそこを目がけてがんばってました。一次審査は通ったんですけど、二次から総合演出の名物おじさんが出てきて、「ガチャガチャやりすぎだな。シンプルなギャルとチャラ男の漫才が見たかった」って反応が悪かった。たしかにそのときは、とにかくブチかませばいいと思ってたんですよね。で、今回は落ちたかなって思ってたら、たまたま若手のスタッフが僕らを好きって言ってくれて、なんとか最終まで残った。それで次が最終。日テレの会議室にお客さん入れてやるんですよ。 信子 めちゃめちゃ緊張した! きょんちぃ 空気が重いっていうか、変な感じだった。お客さんも審査員みたいな顔してるから。 すが ははは(笑)。 きょんちぃ ちゃんぴおんず、ぱーてぃーちゃんの順だったんだけど、ちゃんぴおんずがあり得ないくらいスベってて。 すが 「ちょんってすなよ」を見つける前だから。僕らはまぁスベってないくらいで、結果的に受かった。それで翌日また日テレに呼ばれるんですけど、そこからがまた地獄だった。 すが しっくりこなくて結局ネタ全部作り直したりとか。たまたましんどいロケが重なったりライブ詰め込みすぎたりしたせいで死ぬほど忙しかった。 きょんちぃ すがちゃん、めっちゃじんましん出てたよね。 信子 ヤバかった。一瞬、目を離してまた見たらプツプツプツって出てた。あのころはすがちゃんを労ってジュース買ってあげたりしてた。懐かしすぎる! すが でもなんか青春っぽかったよな。 信子 うん、マジでアオハルだった。 賞レースは一回休み……? ──もうお時間もそろそろなんですが、最後に3人はこの先どうなっていきたいのか聞かせてください。 きょんちぃ 私はM-1(グランプリ)チャンピオン。 信子 賞レースは勝ちたいね。来年は『R-1(グランプリ)』決勝行くから! 『THE W』(女芸人No.1決定戦 THE W)もがんばる! ──賞レースも出られるものは全部出て、決勝の舞台を狙っていく。 すが いや、うーん……それも悩みどころですねぇ。 きょんちぃ はぁ? 早くM-1獲ろうよ。 信子 『キングオブコント』も! すが いや、真剣な話、テレビに出ながら賞レースのネタを仕上げるってめちゃめちゃ難しいなって痛感してるんだよ。俺らくらいの露出度だと一回のテレビ出演で世間のイメージもガラッと変わるから、そこを微調整しながらネタに落とし込むのが難しい。実際、テレビにたくさん出ながら、賞レースに挑戦してる人は異常ですよ。 僕らは今後、タレント活動がメインとなるタイプの芸人だと思うんで、タレントとして成長しながらネタも作ってライブで仕上げていくやり方は、正直見えてない。 ──今年は賞レースに出ない選択もあり得る? すが どうしよっかな……。 信子 ぱーてぃーちゃんは違うよ! きょんちぃ ウチらが休んだら終わりだよ。コイツら芸人辞めたんだって思われるから。 すが もうニン(漫才における“人柄”)は出せたし、のびのび自分らのよさを出すところはクリアできた。新たなシステムが必要で。そこさえ思いつけば準決勝、決勝も見えてくるとは思うんですけど。 信子 えー、どんなかたちであれ、絶対出続けるべきだよ。 すが 要検討ですね。 ──過渡期にあるぱーてぃーちゃん、興味深いです。今日はありがとうございました。ここでお時間が来てしまったので、撮影に移りましょう。 信子 すがちゃんは後日、補習だから! ──そうですね。少しリモートで追加取材お願いします。 すが 全然なんでもやります! 自信満々でスベった初舞台 ──(後日)改めまして、すがさん。今日は取材お願いします。ご自宅ですか? すが そうですね。確定申告してました。 ──年度末の忙しいタイミングで追加取材ありがとうございます。今日はすがさんが芸人としてどんな初舞台を踏んだのかを聞かせてください。そもそも芸人になろうと思ったきっかけはなんだったんですか? すが もともとテレビ番組のADをやってたんです。そこでキャリアアップを図ろうとしたんだけど、採用試験に落ちちゃって。そのタイミングで専門学校時代の同級生に呼び出されて「芸人にならねぇか?」と誘われたんです。 自分が表に出る仕事なんて無理だって最初は言ったんですけど、即興で一回やろうと言われるがままに深夜のカラオケでネタのまね事したら「イケるんじゃね?」と勘違いしてしまった。満員のお客さんの前で爆笑を取る自分たちが浮かんだんです。 でも、芸人になろうと思ったタイミングが5月とか中途半端な時期で。NSCに入るには1年待たなきゃいけないから他事務所を探して、最初はマセキ(芸能社)に行きました。だから芸人としての初舞台はマセキのオーディションですね。「俺ら絶対ウケるっしょ」って自信満々だったけど、あり得ないくらいスベリましたね。 ──どんなネタをやったんですか。 すが 相方が書いたネタだったんですけど、くまのプーさんのマラソン大会みたいなテーマの漫才でした。プーさんってかわいらしいけど、実際はクマだからヤバいぞ、みたいな。僕はツッコミでしたね。それで結局マセキはあきらめて、半年後に秋入学でワタナベ(エンターテインメント)に入りました。「君たちは天才だ。第二のハライチになれるよ」ってめっちゃ褒められて天狗になって行ったら、第二のハライチが100人ぐらいいた。 ──全員に同じことを言ってたと(笑)。 すが 騙されたなとは思ったけど、まぁ事務所入んないと仕事はなかなか来ないだろうなと思ったんで、そのまま入りましたね。 次々と後輩に抜かされたコンビ時代 ──2013年秋に入学したワタナベの養成所はどうでしたか? すが めっちゃ調子よかったです。当時僕らが養成所ライブで作った連勝記録は、10年経った今でも破られてないんですよ。1回だけ、“Why Japanese people!?”を産みたての厚切りジェイソンに負けましたけど、それ以外は全勝。でもあっという間にジェイソンに抜かれましたね。 ──とはいえ、養成所時代にそれだけ活躍すると将来を嘱望されるんじゃないですか。 すが 「第二のキングコングが来るらしいぞ」って言われてたみたいで、お笑いちょろいなって調子乗ってました。結局、所属してからは事務所ライブでは勝てるものの、テレビのオーディションに受からなくて。後輩のブルゾンちえみ、四千頭身、丸山礼が売れて、先輩でもサンシャイン池崎さん、平野ノラさん、クマムシさんがブレイクして、自分らはさんざんでしたね。 ──鳴かず飛ばずで、数年後に一緒に事務所に入った相方とのコンビを解散します。 すが 5年目ぐらいまでは同じ方向見て歩いてたんですけどね。第7世代が出てきたタイミングで、僕がそろそろ売れなきゃなと思って、「まだ迎合しないぞ」ってトガッてた相方と考え方がズレていきました。 ──それでぱーてぃーちゃんを組むことになると。 すが そうですね。個人的にはピンで10年目までは本気でがんばってみようかなって思ったときに、軽い気持ちでギャルたちとネタやったらこんなことになりました。 ──もともとふたりには芸人としての魅力を感じていて組んだんですか? すが 芸人としておもしろいと思ったことはなかったですね。人としてはめちゃめちゃおもしろかったけど。アイツら、本当どうしようもないチンピラだったんですよ。芸人界に初めて舞い降りた養殖じゃない天然のギャルだったから、そりゃ合わないですよね ──ギャルでありながら、お笑いへの愛も人一倍強いふたりですよね。 すが 当時はそこがまた厄介でした。お笑い憧れが強烈なぶん、舞台に上がると芸人っぽく振る舞わなきゃいけないって気持ちが前面に出ちゃって身動き取れないみたいな。アイツらは本当にテレビに鍛えてもらった感じです。 アイツらのこと嫌いになりそうだった ──この間、3人インタビューした際に、賞レースに消極的な発言をしてたじゃないですか。ちょっと前までのすがさんは、年間計画をきっちり立てて、賞レースの目標もしっかり決めていましたが、今はそういうモードじゃないんですか? すが そうですね。前は本当に細かくビジョンを決めて、どういう見え方をすればテレビ出演やCMがゲットできるか考えて動いてたんですけど……3人ともストレスが溜まりすぎたんで、去年の夏前くらいから綿密に計画を立てるのはやめたんです。ちょっと売れるスピードがゆるやかになっても、なんか楽しいほうがいいかなって僕も思うようになりました。 ──ブレイクの波に乗ってるときに、シフトダウンするのは勇気がいりませんか。 すが たしかに勇気いりましたけど、でもそのまま行くほうがしんどかったっすね。正直、毎日アイツらのこと嫌いになりそうだったし。組んでから3年近くになりますけど、4回ぐらい解散しようと思ったこともある。でもそれは僕が立てた目標や、ふたりを急かす感じが原因だったなって気づいたんです。ぱーてぃーちゃんにおいて一番大事なのは、自分らが楽しくやれること。未来のためじゃなくて今が楽しいってほうを選んでるので、今は全然愉快にやってますね。 ──前はきょんちぃさんが急に髪色変えたとかでバトルしてましたもんね。 すが もうそういうの疲れちゃったんです。俺、別に生活指導じゃねぇんだからさって(笑)。もうみんな好きにして、楽しくやろう、それでいいんだと。アイツらもそっちのほうが性に合ってるんですよ。見てるほうもストイックな僕らより、バカみたいに楽しそうなぱーてぃーちゃんのほうが好きだろうし。とりあえず愉快な感じで続けてれば、俺らはおもしろいんじゃないかなって今は思ってます。 文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平 ぱーてぃーちゃん すがちゃん最高No.1(1991年8月21日、山形県出身)、信子(1992年8月1日、大分県出身)、金子きょんちぃ(1993年9月19日、神奈川県出身)のトリオ。2021年、コンビを組んでいた信子ときょんちぃに、すがちゃんが合流して結成。同年末の『ぐるナイおもしろ荘』(日本テレビ)への出演をきっかけにブレイク。賞レースに挑戦しながら、個人としても活躍する。YouTubeチャンネル『ぱーてぃーちゃんの今夜はなにパ?』は、“ガチガチに決めちゃうとイヤになっちゃうから”不定期更新中。 テレビ朝日『ももクロちゃんと!』出演アーカイブ ももクロちゃんとぱーてぃーちゃん ももクロちゃんとぱーてぃーちゃん~ぱーてぃーちゃんが裁判!?~ 【後編アザーカット】
サボリスト〜あの人のサボり方〜
クリエイターの「サボり」に焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載
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「自分の中の衝動と向き合い、うまく付き合う」越智康貴のサボり方
クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト~あの人のサボり方~」。 フローリストの越智康貴さんは、ショップを経営するほか、イベントや広告などでフラワーアレンジメントを手がけている。花の美しさを引き出す作品だけでなく、写真や文章でも注目を集める越智さんに、フローリストとしての考え方や、サボることの難しさについて聞いた。 越智康貴 おち・やすたか フローリスト/「ディリジェンスパーラー」代表。文化服装学院にてファッションを学んだのち、フローリストの道へ。2011年、ディリジェンスパーラーを開業。ショップ運営のほか、イベントや店舗、雑誌、広告などのフラワーアレンジメントを手がける。また、写真や文章の分野でも活躍している。 「向いてるな」という直感で花の道へ ──服飾系の学校を卒業されたのに、なぜフローリストの道を選ばれたのでしょうか? 越智 服飾の学校を卒業したら資格の専門学校に入学する予定だったんですけど、そのときに花屋でアルバイトをしていたんです。それで、「こっちのほうが向いてるな」と思って、すぐに独立しちゃいました。 当時は「手に職をつけなければ」という焦りがあって。それで、アパレル関係の会社に就職した友達などが、展示会やポップアップストアをやる際に「花を生けてよ」って頼んでくれるようになったこともあり、とにかく失敗してもいいから独立してやってみようと。そのまま10年以上が経ったという感じですね。 ──それでなんとかなるものなんですか? 越智 でも、最初の1年は本当に仕事がなかったし、請求書の作り方とかも何もわからなかったので、とにかく手探りのままなんとか生きてきました。4年ぐらいはショップの一部を間借りして花を売っていたんですけど、外に出る仕事が多くなってきたころに、「表参道ヒルズのコンペに参加しないか」とお声がけいただいて。そのコンペに参加して店を出すことになり、会社化したあたりからちょっと流れが変わってきました。 でも、会社を作ってからの1〜2年も大変でしたけどね。店の固定費が跳ね上がって、人も雇うことになって。人間と働くのがイヤで独立したのに、あれよあれよと人間、人間……ってなっちゃって(笑)。 「花で表現はしない。花は花でいい」 ──外でも花の装飾などをたくさんやられてきたとのことですが、お仕事としてのターニングポイントなどはありますか? 越智 手応えのある仕事をひとつやったというよりは、グラデーションのように変わっていった感じですね。僕、スタイルがどんどん変わっていくんですよ、会社の経営スタイルでも、外から来る仕事でも。だから、いろんな仕事が連鎖していって、実力もついていったし、評価していただけるようにもなっていったと思います。 ──経営スタイルはどう変わっていったのでしょうか。 越智 僕は既存のやり方に則らない方向でしか物事を考えられなくて。インディペンデントな花屋なのに商業施設に入ったのも、そういう店がほとんどなかったからなんです。インディペンデントな小規模の花屋さんって、センスのいいフローリストさんがオーナーで、隠れ家的にやっていることが多かったんですよね。 でも、自分はそういう方法だと長く続かない気がして、店舗に立つ頻度なども減らしていき、店と自分を分離するようになりました。やっぱり店ってお客様が作っていくものというか、自分がいなくてもお客様のニーズに合わせて物事を展開していけば、それがいつの間にかブランドになっていくと思うので。 ──越智さんらしさにこだわらないんですね。 越智 もちろん僕のアイデアもありますが、ルールを壊していく発想が多いので、どうしても定着するのに時間がかかるんですよ。透明の取っ手がついた花を入れるためのバッグがシグネチャー的に有名になったんですけど、それも最初はみんな「何これ?」みたいな反応でしたし。 あと、花屋の特徴として、花を買いに来てくださる方+それを受け取られる方、ふたりのお客様がいるんです。買いに来てくださるお客様は花を贈るお相手のことをわかっているようでわからない場合も多いので、「お相手に合うものを花で用意するとしたら何がいいだろう?」と考えたり、わりと翻訳的な仕事が求められる。それによって自分たちも助けられ、店として成長していったところもあります。 ──外で装飾のお仕事をされる場合、依頼内容や目的などはありますが、もう少し表現する要素が強いかと思います。そこの違いはあるのでしょうか。 越智 それもあまり自分の個性みたいなことは考えてなくて。花で表現したいことも特にないというか、表現媒介として花を使うっていうことをなるべく避けようと思ってるんです。花は花でいい。だから、花屋の場合と同じで、頼んでくれた方が言っていることを翻訳していくイメージですね。 もちろん、それでも自分の視点が反映されて、どうしてもスタイルみたいなものはできてしまいますが、本当はそれも避けたい。自分の持ち味みたいなものには興味がないので、仕入れなんかもスタッフに任せたりします。 「なんか違う」言葉にできない感覚をどう生み出すか ──ひとつのスタイルや自分にこだわらないとのことですが、ずっと花と向き合ってきたことで、植物に対する考えや捉え方などは変わってきていますか? 越智 そうですね。生花もやってるんですけど、その影響は強いです。花の個別性や、「そこにある見えないもの」を重視するようになりました。その場に花が一輪あることで雰囲気が変わる、その雰囲気をそのままパッケージしたいと思ったりするというか。すごく感覚的な話なんですけど、そういった人の感覚的なものに頼るようになってきました。「なんか違う」ことをやっていると、見た人も「この花屋さんはなんか違う」と思ってくれる。そういう言語化できないことを徹底的にやっています。 ──「なんか違う」を生み出せたかどうかが、越智さんの中でOKかどうかの基準になっているとか。 越智 なんか違わないとヤバいっていうか、そこに驚きとか喜びがないとつまらないなと思っていて。一見何も気にならないのに、大きく見ると今までにない印象が生まれるとか、目に見えないものをそこに生じさせるとか、そういうことができないかずっと考えています。まだ全然成功してないんですけど。すごくめんどくさい話してますよね(笑)。 ──いやいや(笑)。でも、なぜそういう考えなのかは気になります。 越智 自分の中に3方向くらいの衝動があって、それぞれが緊張状態にあるんですよ。まずルールに縛られず自由でいること。同時に博愛的であること。そこが自分にとっての喜びにつながっているんですけど、一方で物事を持続したり変えなかったりすることにも安心を感じる。独立したいけど、博愛的でいたい。新しいことをやりたいけど、変化したくない。そういう方向性の違う衝動が自分の中でぐるぐるしてるんですよね。 ──それが仕事や表現にも影響している。 越智 そうですね。サイコロの出目みたいにどんどん変わるので、スタッフも困ってるんですけど、みんな慣れてきて無視するようになりました(笑)。文章や写真の仕事をやっているのも、そういう自分の中のさまざまな衝動を逃すためなんです。花では自分を表現していないし、それだけだと過集中しちゃうので。だから、自分らしさは文章で表現すると決めています。 ──文章ではどんな活動をされているんですか? 越智 仕事として短い話やエッセイを書いたりすることもありますし、個人的な制作として小説を書くこともあります。花や写真では自分を表現したいと思っていないにもかかわらず、そのことにストレスも感じてるんですよね。頼まれた仕事だけが世に出ることで、それが自分らしさだと思われてしまうから。 ──自分を正しく理解してほしい、といった気持ちもあるんですか? 越智 理解してほしいとはあんまり思ってないですね。ただ、愛してほしい。「こんなことを考えてるよ」「こんなことをしたよ」「こんなところに行ったよ」って、愛してほしくて書いてるんだと思います。あと、文章では「こういうことってあるよね」「こういうのはわかるかもしれない」っていう、言葉にできていなかった体験を人と共有したい気持ちもあります。 ──文章について、何かやってみたいことなどはありますか。 越智 いくつか話が溜まってきていて、ちょっとずつ人に読んでもらったりしてるんです。それがもうちょっと溜まったら、本にできるといいですね。 猫は神様が作った最高傑作 ──頭の中も仕事も忙しいと、サボりたくなったりはしませんか? 越智 サボってると安心できない状態になってしまうので、本当にサボれないんですよ。そういうものが必要な人もいることは理解できるんですけど、自分にはちょっと当てはまらないというか。純粋に趣味といえるものもほとんど存在しなくて。美術を観るのも、映画を観るのも、本を読むのも好きなんですけど、全部「自分だったらこうする」とか、何か制作したい気持ちと切り離せないものなので。 ──仕事や制作と関係のない時間がほとんどない。 越智 でも、猫を飼い始めたんですよ。対象を決めて、そのために時間を使っているぶんには大丈夫なので、猫と遊んだり、猫の世話をしたりしている時間が、自分にとってはサボるということなのかもしれないです。本当に時間貧乏性なので、何かしてないとダメで。 ──猫と戯れている時間だけは、そこから解き放たれているんですね。 越智 友達と遊んでいても、頭の中はめちゃくちゃぐるぐるしてるんです。でも、猫は思考を追う必要がない。猫の性質や動いていることから受け取るものもありますし、めちゃくちゃ猫のことを文章にしたりもしてるんですけど、仕事が絡んでないというか、「かわいい、OK」みたいな感じで。だから、「猫は神様が今まで作ったもので一番完成度が高い」「猫がもたらすものは世界平和だ」と本気で思ってます。 あと、文章を書くこともけっこうリフレッシュになりますね。そのときだけは考えていることが外に出ていくから、デトックス的な感じかもしれないです。しかも、最終的に人に見せることができるのも、自分としてはうれしい。 ──コーヒーを飲むとホッとするとか、そういう些細なレベルのものはないですか? 越智 食べ物も全然興味がないんですよね。先日、京都に5日間いたんですけど、ずっと朝はベローチェでサンドイッチ、昼はベローチェでホットドッグ、夜はカロリーメイトでした。友達とごはんに行くと、ちょっとしたビストロとかに入るじゃないですか。そういうのも一切興味ないんですよ。お酒も飲みますけど、けっこう強いからあまり酔わないし、リラックスすることもなくて。 「動いてるほうがサボれるんです」 ──安らいだり楽しんだりする時間も広くサボりとして伺っているのですが、基本的に活動していたいということなんですかね? 越智 僕の場合、安心、安全みたいなものがエネルギーや闘争心とくっついてしまっていて、活動的であることに安心するんです。だから、物事の持続や、発展・拡大を実感することでリラックスしてる。動いてるほうがサボれるんです。喜びを感じるのはまた別の領域なんですけど。 ──仕事と趣味の境目がなくて、結果としてサボりを必要としていない方もいますが、それともまた違いますね。 越智 母親の影響もあるかもしれません。母子家庭で、母親がずーっと働いてる家だったんですよ。それが安心のかたちを作ってしまったと思いますね。ただ、経理の人が「休むのも仕事だから、本当に休めるときに休んでください」ってすごく言ってくれるので、「なるほど、仕事か」と物理的に休むようにはなりました。 ──ちなみに、睡眠はしっかり取るタイプですか? 越智 睡眠もヤバくて。寝たり起きたりみたいなことが多いですね。猫も平気で起こしてくるから。睡眠にアプローチするアロマオイルにハマったり、いろいろトライしてますけど、なかなか難しい。夜中に目覚めたら、夢で見たものを全部メモしようとしたり、「こういうふうに編集すればいいんだ!」っていきなり動画編集を始めたりしちゃう。「どうせしばらく眠れないから、無理に眠ろうとせずに仕事しよう」って。本当にヤバい(笑)。 ──やっぱり猫と遊ぶしかないですね。 越智 でも、つい「いつか死ぬんだよな……」ってなっちゃう。2匹いるので、今は夜中に追いかけっこ始めて走り回ったりするから「ええ加減にせえ」ってなるんですけど、それだけが心配ですね。 撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平
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「前例に捉われず、自分たちが楽しめるかを考える」サリngROCKのサボり方
クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト~あの人のサボり方~」。 ちょっと不気味で不思議な作風で、関西の演劇シーンで活躍している劇団「突劇金魚」のサリngROCKさん。最近では映画『BAD LANDS』での怪演も話題になった彼女に、劇団独自のスタイルやルーツ、サボりマインドについて聞いた。 サリngROCK さりんぐろっく 劇作家/演出家。2002年、劇団「突劇金魚」を旗揚げし、大阪を拠点に活動。2008年に第15回OMS戯曲賞大賞、2009年に第9回AAF戯曲賞大賞、2013年に若手演出家コンクール2012優秀賞を受賞。2023年には映画『BAD LANDS』にて俳優として映画デビューし、第78回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞した。 就活がイヤで劇団旗揚げ…? ──演劇と出合ったのは、高校時代に所属されていたという演劇部ですか? サリngROCK(以下、サリ) そうなんですけど、高校のときはあまり演劇を知らなくて。大学に入学するころに、演劇好きの先輩に連れて行ってもらった「惑星ピスタチオ」を観て衝撃を受けて、小劇場の作品を観るようになったんです。 惑星ピスタチオの舞台って、オブジェみたいな抽象的な舞台美術で、その中で宇宙を表現したりしてたんですよ。体ひとつで人物や物語を想像させられるのがすごいなって。演劇で想像力を掻き立てられるという体験が初めてだったので、すごくびっくりしたのを覚えてます。 ──そこから大学で劇団を立ち上げるようになったきっかけは? サリ 当時の演劇サークルでは、先輩たちが卒業のタイミングで劇団を作っていたので、前例があったんですね。もうちょっと演劇をやりたかったのと、なにより就職活動がめちゃめちゃイヤやったんで(笑)、だったら先輩たちみたいに同級生と劇団をやってみようと。私は演出がやりたかったんですけど、脚本を書く人が誰もいなかったので、自分で脚本も書いたのが最初の公演でしたね。 ──立ち上げ当初から、劇団としてのコンセプトやイメージなどは決まっていたのでしょうか。 サリ 子供のころからかわいいキャラクターより幽霊が好きだったり、ティム・バートン監督の映画が好きだったり、ちょっと不気味だったり、痛々しかったりするものに惹かれるんですよ。だから、そういうドロドロとしたものを入れた、ひと筋縄ではいかない舞台にしようとは思っていました。 ──実際に公演をやってみて、手応えはありましたか? サリ とにかくやりきれたというのが大きくて。やりきることを続ける、初期はそれだけやったと思いますね。若手のための演劇祭にもとにかく出場していたんですけど、そしたら、劇場のスタッフさんが選ぶ賞をもらえて、劇場が使える権利をもらったんです。それが人から認められたほぼ初めての経験だったので、「この方向でいいんや、間違ってなかった」みたいに思えた気がします。 ──そこから公演を打ち続けるなかで、ターニングポイントなどはあったのでしょうか。 サリ 28歳のときに、OMS戯曲賞という関西の劇作家が欲しがる戯曲賞で大賞をいただいたんですよ。そこから観に来る人もガラッと変わって、「どんなもんやねん」って批評的に観られるようになり、「脚本は独特でおもしろいけど、演出と俳優がめちゃめちゃダメや」といったことを言われるようになりました。特に演劇の勉強をしてきたわけではなかったので、やっぱり未熟やったんだと思います。 それで、「何がダメなの?」と思うようになったころ、今も一緒に突劇金魚をやってる山田蟲男くんが劇団に関わるようになったんです。山田くんのほうがわりとロジカルに技術的なことも考えているタイプで、だんだん「だったら、こうしたほうがいいんじゃない?」って提案してくれるようになって。彼の言うことに応えようと、薦められた本を読んだり、作品を観たりしながら技術を身につけていったことで、徐々にできることも増えてきた。そう思えるようになってきたのは、ここ最近の話なんですけど。 活動の軸は「楽しく生きていくこと」 ──劇団を続けることは簡単なことではないと思いますが、ひたすら試行錯誤を続けるうちにここまで来た、という感覚なんですかね? サリ それに近いと思います。技術を身につけて客観的にわかりやすくなった作品は評判もいいんですけど、私独特のヘンテコな要素が薄まると、それはそれで「前のほうがよかった」と言われたりもする。でも、そこは絶対両立できるはずなので、今もヘンテコだけど伝わりやすいラインを探してます。そういう目の前の課題をただやり続けてきたというか。 あと、今は劇団も山田くんとふたりでやってる状態なので、ふたりが納得すればいい。だから続けられてるところもあります。それを「劇団」って言っていいのかよくわからないんですけど。 ──1公演で俳優2チームのWキャストにするといった独自のスタイルも、その結果のひとつなのでしょうか。 サリ 山田くんがけっこう前例に捉われないアイデアを出してくるんです。大人数のキャストを2チームにするのもそうで、私が「そんなんやってる人おらんけど大丈夫なん?」って聞いても、「論理的に考えたら、このほうがうまくいくんや」みたいな。 結果的に、俳優さんがケガや病気になっても中止にしなくて済みますし、関係者が増えれば公演の宣伝をしてくれる人も増えるので、そういう意味でも助かっています。それに2チームあるだけで、俳優さんたちがそれぞれ勝手にがんばってくれるんですよ(笑)。 ──切磋琢磨する状況が生まれるんですね。関西の小劇場というシーンなどはあまり意識されていないんですか? サリ 同世代とは友達感覚はありますけど、横のつながりを意識するようなことはあまりないかもしれません。「アイツら、なんかヘンなことやってんな」って思われてるんじゃないですかね。前例や風習に捉われないという意味では、裏方の仕事など、当たり前に人に頼んでいた仕事についても一から検討して、自分たちでできることはやろうとするから、まわりから変わった目で見られている気がします。 ──劇団としてのあり方にも捉われていない印象ですが、活動のイメージも変わってきているのでしょうか。 サリ ふたりとも40歳を過ぎたので、劇団の核になるものについて改めて話し合うようになったんです。それで、劇団を続けるとか売れるとかじゃなくて、我々ふたりが楽しく生きていくことを軸にしようと話していて。 次はどこどこの劇場でやろうとか、東京にも行かないといけないんじゃないかとか、そういうことは無視しようと。できるだけしんどいことは無理してやらんとこうというか。「自分たちの人生のためになっているか」が基準としてはっきりしてきたので、結果として、私が全然演劇をやらなくなる可能性だってある。そうやって縛られずに考えられるようになったのはいいことやなと思いますね。 映画初出演で感じた、演劇との違い ──最近では映画『BAD LANDS』への出演の話題になりましたね。ただ、最初は監督からのオファーを断られていたそうですが……。 サリ でも、映画の現場はめちゃくちゃ楽しかったです。演劇では、お客さんにちゃんと声を届けるとか、顔が見えるように立つとか、役者+お客さんで演じるんですよ。そこが楽しみのひとつでもあるんですけど、映画では目の前の俳優さんと演技すればいいだけなのがめっちゃ楽しくて。もちろん、映画でもカメラの位置やいろんなことを意識しなければいけないんでしょうけど、初めての映画出演だったんで、そこは今回は無視させていただいて。 ──裏社会に生きる林田というキャラクターを演じる上で意識したことなどはありますか? サリ かたちから入ることってめっちゃ大事だと思うんです。かたちを心がけてたら、中身も寄っていくというか。それで、なるべく瞬きをしないようにしたり、口を半開きにしたり、ちょこまか動かないようにしていました。あとは基本的に演出どおりにやれば成立するものなので、ヘンなことをやろうとしたり、「ちゃんと演じたろう」みたいな欲は出さないようにしました。そういうのって、バレるんですよね。 ──こうした経験をきっかけに、演劇でも自ら演じる機会が増えるような可能性もあるのでしょうか。 サリ あるかもしれないですね。演出をやりながらだと難しいところもあるし、外部の作品に役者として出ることにもあまり興味がないので、どういうかたちかはわかりませんけど。ただ、山田くんとは「二人芝居やりたいね」といった話もしているので、役者としてのウェイトが大きい公演を、ふたりで演出しながらやってみたいとは思ってます。 時間が許すなら、イヤになるまでサボり続ける ──サリngROCKさんは、「サボりたいな」と思ったりすることはありますか? サリ 私の仕事の場合、みんなで仕事してる最中にひとりだけサボって抜け駆けするようなことはないんですけど、やらなきゃいけないことがあるのになかなかできない、みたいなことならめっちゃあります。でも、結局締め切りに間に合うんだったら、それも必要な時間というか。 「スマホを見なきゃもっと仕事が進んだのに」って思うよりも、「私はそこでスマホを見る人間だし、この作品はそんな人間が作ったものなんだ」って思っちゃうというか。そういう達観みたいなものはあるかもしれない。 ──やっぱりサボるときはスマホを見てしまうことが多いんですかね。 サリ そうですね。SNSとか、YouTubeとか。そういうときはもう飽きるまで見続けます。逆にそっちがイヤになるまでやっちゃったほうがいいんじゃないかなって。結局、スマホを見続けられてるってことは、その時間が許されてるってことなんで。ほんまにやんなきゃいけなかったら、やるじゃないですか。 ──そのほうがすっきり切り替えられそうですね。もうちょっとポジティブなサボりというか、アイデアにつながるリフレッシュとしてやっていることはありますか? サリ お風呂に入ってリラックスしたら新しいアイデアが湧く、みたいなことがあまりないので、映画を観たり、偉人たちの戯曲を読んだりしますね。インスピレーションを受けようと思って観たり読んだりするわけじゃないんですけど、人のアイデアに触れることで何か考えたり、受け取ったりすることが多い気がします。 ──より趣味に近いかたちで楽しんでいるものもあるのでしょうか。 サリ これも創作ではありますけど、絵を描くことですかね。時間ができたら絵を描きたい。でき上がったものがパッと一瞬で目に入るのが好きなんですよ。脚本は「完」って書くのが気持ちよくても、一瞬で全部は見られないので。ただ、もうちょっと本格的にやろうとしたら、絵を描く手が止まってしまいそうな気もするんですけど。 ──では、より仕事に関係なくリラックスしたり、楽しんだりできる時間は? サリ スーパーに行って野菜を選んでるときです。別に料理好きなわけじゃないんですけど、「今日は自炊する余裕があるんだ」とか「普通の日を過ごせている」って思えるのがうれしくて。だから掃除でもよくて、余裕を感じられることがうれしいというか。 あと、最近はユニクロのお店に行ったり、サイトを見たりするのがめっちゃ好きで(笑)。新商品が次々出るので、チェックするのが楽しい。好きなブランドと似合う服って違うんだということがようやくわかってきたので、ユニクロでいろいろな服を試してて……ってどうでもいいか(笑)。 ──いやいや(笑)、そういうささやかな楽しみも聞きたいんです。 サリ コラボものとかは大きい店舗にしかないので、わざわざ発売日に自転車で遠い店まで行ってるんですよ。発売日がいっぱいあるっていいですよねぇ。 撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平
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「サボりたくなる人間だから、短歌を書いているのかもしれない」伊藤紺のサボり方
クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト~あの人のサボり方~」。 歌人の伊藤紺さんは、心のどこかにある感情、情景が呼び起こされるような歌で多くの共感や支持を集めている。3作目となる歌集『気がする朝』も反響を呼んでいる伊藤さんに、短歌との出合いや、歌が生まれる過程、サボりと創作などについて聞いた。 伊藤 紺 いとう・こん 歌人。2016年に作歌を始め、2019年に『肌に流れる透明な気持ち』、2020年に『満ちる腕』を私家版で刊行する。2022年には、両作を短歌研究社より新装版として同時刊行。最新刊は2023年に発売された第3歌集『気がする朝』(ナナロク社)。 短歌と出合って、すぐに投稿を始めた ──短歌と出合ったのは、大学生のときだそうですね。 伊藤 最初は小学生か中学生のときに教科書で見た俵万智さんの歌だと思うんですけど、そのときは特にすごいと思ったりはしなかったんです。でも、大学4年生の年末に突然俵さんの歌を思い出して、「あれ? なんかわかるかも、いい歌かも」と思って、そのまま本屋さんで俵さんの『サラダ記念日』(河出書房新社)と、あと穂村弘さんの『ラインマーカーズ』(小学館)という歌集を買いました。 ──読んでみてどうでしたか? 伊藤 歌集って400首くらいの歌が載っているので、よくわからないものもあったんですけど、繰り返し読みたくなるほど「いいな」と思える歌もあって。それから短歌や歌人についてネットで調べて、佐藤真由美さんの『プライベート』(集英社)という歌集と出合いました。とっつきやすい言葉でリアルなことが書かれていて、すごくおもしろくて。そのあとすぐ、2016年元旦に短歌を始めました。 ──「おもしろい」から「やってみよう」までが早いですね。なんとなく詠み方などもつかめたのでしょうか。 伊藤 いや、何も考えてなかったです。かわいいイラストを見て自分でも描いてみたくなるのと同じような、軽い感じでしたね。なんでもすぐにやってみるタイプではあったので、なんとなく1首書いてみて。それが2首、3首と書くうちに「いいかも」と思えてきて、母に読んでもらったりしていました。 ──人に見せるのも早いですね(笑)。 伊藤 書いたその日には当時のTwitterにアカウントを作って、短歌を投稿し始めてましたから。ただ、当時は短歌そのものに愛を感じていたというよりは、「わかる/わからない」という基準で判断しているところが大きかったし、まだ趣味にも満たないマイブームっていう感じでしたね。 でも、歌人の枡野浩一(※)さんが早い段階で「いいね」してくださって、「あれ、才能ある……?」みたいな(笑)。枡野さんは特別うれしかったけど、そうでなくても反応をもらえること自体が当時のモチベーションの一部だったと思います。 (※)簡単な現代語で表現されているのに思わず読者が感嘆してしまう「かんたん短歌」を提唱するなど、若い世代の短歌ブームを牽引した歌人。 「若い女性の恋心」を詠んでいるわけではない ──歌人として活動していくようになったのは、どんなタイミングだったのでしょうか。 伊藤 短歌を真剣に書き続けている人はみんな歌人だと思いますし、「歌人になる」というタイミングはほぼ存在しないと思うんですけど、肩書を「歌人」だけにしたタイミングはなんとなくありました。それまではライターやコピーライターとしても活動していて、特に短歌では食べていけない気がしていたし、そもそも作家は精神的に苦しいだろうから、あんまりなりたいとは思ってなかったんです。 だけど、どんどん短歌だけが調子づいてきて、ほかの仕事とは違う早さでいろんなことが進んでしまって、「これなのか……?」って。今でもたまにコピーを書くことはありますが、「歌人・伊藤紺」として、自分の言葉で書くものだけ、ということにしています。 ──手応えのある歌ができた、といったことでもなく? 伊藤 その時々で「書けてよかったな」と思える歌はちょこちょこあるんですけど、あとから思うとそうでもなかったような気がすることもありますし、これといった歌があったわけではないと思います。ただ、最近はいいと思える打率が上がってきたというか、外さなくなってきたような感覚はありますね。 ──では、周囲の反響による手応えはあったのでしょうか。2019年には私家版(自主制作の書籍)というかたちで最初の歌集『肌に流れる透明な気持ち』を作られていますよね。 伊藤 第1歌集は300冊作ったらすぐ増刷になり、(私家版も扱う)書店にも置いてもらえて、思ったよりも反響があってうれしかったですね。読者の方の解釈を聞いたりするのも新鮮で楽しかった。でも同時に「若い女性の揺れる恋心」みたいなよくある言葉がひとり歩きすることがあって、抵抗もありました。自分はそういうつもりじゃなかったので。 ──ご自身の中ではどんな作品、作風だと認識されていたんですか? 伊藤 当時はあんまりわかってなかったですね。「なんか違う気がするな」っていうだけで。少し成長してある程度見えてきたのは、作品内での他者への特別な感情について、恋とか愛とか友情とかっていう仕分けをあんまり重視していないということです。「情」って言葉が近いのかな。人間でなくてもよくて、動物や植物に胸がきゅうっと動くのも全部一緒でいい。登場人物の設定などを詳細に書かなくてもいいから短歌がおもしろかったのに、「若い女性の恋」だけになっていくことに違和感があったんだと思います。 でもやっぱり「きみ」とか「あなた」って入っていたら恋の歌に見えやすいし、事実、私は「若い女性」だったし、今の話を聞いても「恋だ」と思う人もいるはずで、それはそれでもちろんいいんです。自分にできることは、そういう違和感に向き合って、描きたいものを明確にしていくことなのかなって。 ──そういった変化は第3歌集の『気がする朝』にも反映されているのでしょうか。 伊藤 そうですね。歌を作るにしても、本当に書きたいことか、立ち止まることが増えたように思います。歌の並べ方もそうで、編集の村井(光男)さんがいわゆる恋っぽい歌をひいおじいちゃんの歌の近くに置く案をくれたとき、すごく見え方が変わることに気づいて。それは大きな発見でした。 歌になるのは、自分にとって「真実らしきもの」 ──伊藤さんの場合、短歌はどういう流れで作られているんですか? 伊藤 自分にとっての真実らしいものが見つかると、それが歌になると思うんです。自分にとってはそれが情とか自由、命みたいなものだと思うんですけど。生活しているなかで、そういう真実のかけらみたいなものを見つけたらメモしておきます。短歌を書こうと思ってパソコンに向かったときは、そのメモから広げていくことが多いですね。 まずは短歌にしてみて、それを読んで「こういうことじゃないな」とかって思いながら、改行しては書き直していく。ちょっとずつ軌道を変えていったり、突然思いついた方向にガラッと変えていったりしながら、いいと思えるかたちになるまで書き続けています。 ──考えてみれば当たり前なんですけど、やっぱりパソコンで作るんですね。 伊藤 申し訳ない(笑)。 ──いえいえ、さすがに短冊に筆で書いたりしていないと思いますが、なんとなくアナログなイメージというか思い込みがあったので。改行しながら書き連ねていくことは、思考の痕跡を残すためでもあるのでしょうか。 伊藤 そうですね。行き詰まったら過去に書いたものやメモを見返して、いいと思えた要素を取り込んだりすることもあるので。けっこうしょうもないことも書いたまま残しているから、あとで見るとひどいなって思うこともあるんですけど、いいものだけ残そうとするとカッコつけちゃうんですよね。なんでもいいから書き続けることが大事というか。 ──以前は完成までたどり着けなかったメモが、時を経てかたちになる、といったこともありますか? 伊藤 ありますね。時間が経って自分が成長したことで書けるようになる場合もありますし、時間が空いたことで客観的に見直せるようになる場合もあります。たとえば、「机と宇宙」という言葉の感じが気に入っていても、何がいいのかわかっていないと、下の句にたどり着けなかったりする。でも、時間を置いてから見直すと、そのよさや言葉の結びつきがわかることがあるんです。 ──何かを感じたときにメモしておく習慣があると、自分の感動や感情に意識的になるし、その気持ちを思い出すこともできるんでしょうね。 伊藤 そう思います。なるべく新鮮な状態で言葉にしておくと、言葉を解凍したときに食べられる、みたいな。メモせずにあとから思い出して書こうとしても、感動が言葉にたどり着かなくなることもあるので。 今は小石のような真実が、いつか世間の真実になるかもしれない ──『気がする朝』のあとがきに、短歌を書くことは「日常の些細な喜び」ではなく、「100%の満足」だとあったのが印象的でした。日常の中で「真実らしいもの」を見つけていくこと自体が生きることだという意味でもあるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか。 伊藤 そうですね。でも、真実らしいことでなくても「お茶がおいしい」とか「木漏れ日がきれい」とかで心が大きく動くこともあるし、そういうふうに楽しく生きてはいける気もする。短歌と生きることがイコールではないです。 『気がする朝』は「このところ鏡に出会うたびそっと髪の長さに満足してる」という歌で始まるのですが、この歌もひとつの真実らしいものが基盤になっていて、その発見が歌になっています。その真実は私がそのへんで拾ってきた小石のような真実なので、きっと理解しない人もいる、というかそっちが多数派でしょうね。逆に自分が多数派だったら書こうとも思わないのかもしれない。 ──そういった気づきから、「自分」というものを発見していく感覚はあるんですか? 伊藤 あまり自分で意識したり実感したりしたことはないんですけど、あるかもしれません。自分の言いたかったことや思ったことを短歌にして、それを何度も読んだりするのって、自己理解にもつながりますしね。 でも、その小石のような真実を「みんなも本当はこうなんじゃない?」ってどこかで思ってるんですよね。100年後、1000年後、世間一般の真実になっているかもしれないって。だから、「自分」を発見するということにもつながっているけど、自分の特異性というよりは、いつかどこかで誰かと共有でき得るものだと思っているかも。 ──みんなが気づいていないだけかもしれない。そんなふうに、伊藤さんの歌によって自分では意識していなかった感情に気づいた、という経験をした読者も多いのではないでしょうか。それって作家としてはうれしいことですよね。 伊藤 よく言われます。すごくうれしいですね。ただ、そう感じてもらうことが短歌を作る目的ではないので、自分にとっての山頂を目指して歩いていたら、給水スポットの人がすごく優しかった、みたいな感じというか。 ──なるほど。では、伊藤さんの中で今後目指したい山のイメージなどはあったりするのでしょうか。 伊藤 書きたいと思ったものを短歌にするという意味では、毎回山頂に登ったような気持ちで作品を作っていて、登りきったところでまだ山頂ではないことに気づいたり、別の山に登ってみたくなったりする感じなんですね。 それで今、ちょっと登りたい山があって、「5・7・5・7・7」ぴったりの定型に帰ってみようかなと思ってるんです。作品作りを積み重ねていくなかで、どんどん定型から外れてきたんですけど、『気がする朝』で自分のやりたいことがすごくできたので、勉強がてら定型に戻ってみたいなって。いざやってみるとどうしても外れてしまうので、今は難しいと思いながら向き合っているところです。 「ずっとサボってゲームしてます」 ──伊藤さんは、作業をしなくてはいけないと思いつつ、サボってしまうようなことはありますか? 伊藤 ずっとサボってますね。ゲームしちゃうんです。最近は、落ちてくる数字を小さくまとめていくゲームとか、ブロックをそろえて王様を助けてあげるゲームとか。サボりっていうか、気がつくと8時間くらいやっちゃうこともあります。作品を作ったり、本にしているときが一番逃げやすいので、『気がする朝』を出したあとはそんなにやらなくなったんですけど。 ──やっぱり、やらなきゃいけないことがあるからこそ、サボりも発生するんですよね。 伊藤 そうですね。ゲームをやることが楽しいわけじゃないのに、サボってる間は楽しくなるんですよ。でも、もうちょっとちゃんとしたサボりというか、スーパーで買い物するついでに散歩したり、喫茶店で本を読んだりしてリフレッシュすることもあります。 ──リフレッシュを挟むことで、作業が進展するようなこともありますか? 伊藤 けっこうあります。散歩から帰ったときにメモしたいようなことが出てきたり、行き詰まっていた原稿がはかどるようになったり。5日くらい外出しないこともあるんですけど、そんなときも家事をしたり、お風呂に入ったり、何か食べたり、そういうことをちょこちょこ挟んだほうが調子は出やすいですね。 ──ずっと家にいられるタイプなんですね。1時間おきとかにできそうな、気軽な息抜きもあったりしますか? 伊藤 詩集を読んだりしますね。好きな1節とか1ページだけ読んで本を閉じると、「いかんいかん」って書きたい気持ちが戻ってくることがあります。小説だと戻れなくなっちゃうので、つまみ読みできるような詩集がいいんです。Instagramとかも見ますけど、猫の動画をずっと見ちゃったりして、「いかんいかん」を20回くらい繰り返すことになるので……。 ──戻れない感じ、すごくわかります。そういうブレを断ち切って、ストイックに作品に向き合いたいと思ったりすることはあるのでしょうか。 伊藤 うーん……ありますけど、たぶんそういうことができる人間だったら、短歌を書いてないんじゃないかなって思います。もっとお金がいっぱいもらえる仕事に就いたほうがよさそうじゃないですか。もちろん、芸術や文化を愛している人の中にもストイックに動き続けられる人は山ほどいるわけですけど、自分の場合は短歌と出合う前にやりたかったことが本当はたくさんあった気がするので、そのうちのどれかをしているんじゃないかな。そうじゃないからここに来てしまった感じがします。 撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平
エッセイアンソロジー「Night Piece」
気持ちが高ぶった夢のような夜や、涙で顔がぐしゃぐしゃになった夜。そんな「忘れられない一夜」のエピソードを、オムニバス形式で届けるエッセイ連載
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人生が変わりかけた眩しい夏の夜(やーこ)
エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」 「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。 やーこ 日常に転がるちょっとしたトラブルを、ドライブ感あふれる筆致でユーモアたっぷりに書き、Xやnote、ブログで配信中。2023年5月に『猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました』(KADOKAWA)でデビュー。また、2024年4月に2冊目となる著書『電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました』 (KADOKAWA)を発売。 X:@yalalalalalala ブログ『やーこばなし』:https://yalalalalalala.livedoor.blog 初夏の夜。 私は蛍を見に行けなかったことを偲び、ボタン式のナイトライトを臀部に装着し、自宅で蛍の気分を味わっていた。 すると友人から、今から我が家に「お土産を渡しに行ってもよいか」との連絡が入った。 せっかくなので草陰に止まる蛍のように家の門の陰に潜み、友人が我が家のインターホン近辺に到達した瞬間に姿を現すことによって、私という名の蛍の光を披露することにした。 タイミングを見計らい、私は光を見せつけるように尻を構えた。 門から道へ蛍が浮遊する様をイメージし舞うと、若干低めの叫び声が響いた。 友人にしては声が低すぎると、不審に思い振り向くと、友人は我が家からまだ2メートルほど遠くにおり、代わりに私の近くには春物のコートを羽織り、下半身に何も装着していないオヤジが佇んでいた。 友人ではなく、半裸の男に発光する尻を見せつけてしまった。 蛍ならばメスの蛍が寄ってくるが、私が人間であったために蛍も人類も寄ってこぬ、孤独な尻光野郎となった。 友人だと信じて疑わなかったところに半裸のオヤジが出てくるという、予想と現実のあまりの振り幅に私は脳の処理が追いつかなかった。 露出狂のほうも突然民家から尻を発光させる不気味な人間が現れるなどとは思っておらず、我々は出会ったポージングのまま静止した。 夏の訪れを想わせる夜風が草花の香りを我々に届けるなか、私は露出狂に尻の光をお届けしている。 露出狂は自身も不審者であるくせに、まるで自分だけが不審者に出会ったかのような顔をしていた。 ハイジャック犯が、別のハイジャック犯と同じ飛行機に乗り合わせる確率は極めて低いという。 では、我々の出会いは何%の確率で舞い降りたのだろうか。 私と露出狂は運命的な出会いを果たした。 すると、コンビニの袋を下げた近所の男子大学生が通りかかり 「うわっ……」 と、小さく声を漏らした。 しかし、大学生はコートを羽織る露出狂の背後から声を発しているため、明らかに露出狂の局部ではなく、私の臀部に対し声を上げている。 声を上げる相手が違うのではないだろうか。 あちらは局部に対し布がないが、こちらは臀部に対し布がある。さらにライトで装甲されている。 間違っても人様の網膜に私の生肌が直撃することはない、するのは尻の光だけである。 なによりも、布がなく出ている者と、布があり光っている者とでは、明らかに前者のほうが重罪である。 赤子が他人と母親に名を呼ばれれば、母親のもとへ向かうことが必然であるように、警官も露出狂と私の間では露出狂のほうへ足を進めることであろう。 しかし、角度的に私の尻の発光しか見えていないこの現状は非常に分が悪いものであった。 せめて、佇まいだけでも正そうと、私は尻を少々突き出したポージングから態勢を立て直した。 その際、布と尻に圧迫されてライトが押され、 カチッという小気味よい音とともに私の尻の光が白から紫に変色した。 何度か押すと色が変わる仕様であった。 友人は私の尻の変色がツボに触れ、苦しんでいた。 このままでは、露出狂というわかりやすい変質者がいるにもかかわらず、私こそが変色する尻を持つ変質者となってしまう。 (※当時の再現写真) この男が露出狂であることをまず知っていただきたい。 あわよくば、それで私の印象を薄めたい。 考えた末 「この人、露出狂なんですよ」 と言葉を発したが、どこか言い訳がましい雰囲気が漂った。 こうなれば、論より証拠である。 私は不審者認定されたくない一心で 「ちょっと、うしろに振り返ってもらえますか?」 と、露出狂に申し入れた。 露出狂はこちらを見つめ、何を言われているのか理解が追いつかないといった表情をして停止した。 なんでもいいからとりあえずうしろへ振り返ってほしい。 しかし数秒したのち、露出狂は私を避けるように大きく迂回し、走り出した。 この半裸の男は、この中で一番どこに出しても間違いのない変質者であるというのに、背後の者たちからの己の印象だけを穢れなきままに走り去る気である。 そんな生半可な気持ちで露出狂など務まるのであろうか。 そこはかとなく裏切られた気持ちさえ生じている。 お前は明らかにこちら側である。 私は反射的に「捕まえて大学生に証拠を見せなければ」という謎の使命感に駆られ走り出した。 露出狂の背中を追いかける私の臀部で、ライトが何度か押されるような感触があった。 おそらく走ったことで再び布に圧迫され、尻の色が変色していたことだろう。 しかし、よく考えれば、捕まえたところで大学生も露出狂の露出という景観を害するものは見たくもなければ、私のほうも漁師が釣り上げた大魚の感覚で露出狂を見せつければ、なんらかの罪に問われそうである。 冷静になりすぐさま帰ろうと振り向くと、家の前で友人が待っていた。 大学生は友人に 「この地域、本当に変な人多いんで、気をつけてくださいね」 と、言葉を残し去っていったという。 その変人の中に自分が入っていないことを祈るばかりである。 露出狂の証明が叶わなかった今、通報などされれば警官と長く会話をすることになったのは私であったことだろう。 私は見に行けなかった蛍たちに思いを馳せた。 蛍は淡い光で、今年も命をつないでいるのだろう。 私は尻の光で、首の皮一枚でつながっている。 私の忘れられぬ夜のひとつとなった。 文・写真=やーこ 編集=宇田川佳奈枝
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思いを馳せるふるさとの夜(山根千佳)
エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」 「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。 山根千佳(やまね・ちか) 1995年12月12日生まれ、島取県出身。「第37回ホリプロタレントスカウトキャラバン」ファイナリストとなり、デビュー。両親の影響で幼少期から相撲を見て育ち、自身も相撲好きとなる。相撲好き女性「スー女」の第一人者として、相撲関連の番組やイベントにも多数出演。また、相撲への愛と知識が詰まったコラムの連載や、音声配信なども精力的に行う。相撲を筆頭に駅伝、競馬、アイドル、怪獣などさまざまなカルチャーにも精通。5月9日に自身初となる書籍『山根千佳の大相撲の歩き方』(マイクロマガジン社)を発売。 Instagram:@ yamane_chika X:@yamane_chika 芸能のお仕事を始めて12年目。 東京での生活にもだいぶ慣れ、楽しく生活する毎日。 けれど、時折思い出すのは、やっぱりふるさとの鳥取のこと。 数えきれないくらい、たくさんの思い出が詰まっている場所。 中でも忘れられないのが、鳥取のレギュラー番組のMCをさせていただくことになり、新番組がスタートした、2年前のあの夜。 その日の夜は、共演者の方、スタッフさんたちと懇親会があった。 芸能を始めたころからの目標だった、ふるさとでのレギュラー番組が始まったこと(しかも私がMCで!)が、本当に、本当に、うれしくて、そして感慨深く、忘れられない一夜となった。 私も、まわりの人たちも、世界中の多くの人たちを苦しめたコロナ禍が、ようやく落ち着いていたこともあり、お酒も解禁! デビュー当時から二人三脚でがんばってきた、同郷のスタイリストさんとも喜びを分かち合いながら乾杯をすることができた。 しかも地元のおいしいお酒で! 飲まずにはいられない(笑)。 番組のスタッフさんも、山陰(鳥取、島根)出身の方がほとんどで、方言で話せることがとてもうれしかったー! 標準語とはまた違う、懐かしいイントネーションから、「〜けん」、「〜だがん」、「〜だへん」など語尾が変わっとったり。 上京してから、苦労して直した方言を、当たり前に使える喜びが込み上げてきて、ほわっと温かい気持ちになる。 そして、注文した山陰の海鮮はどれも本当においしい〜! 改めて日本海側に生まれて幸せだと噛みしめる。海鮮のみならず、全国的に有名な大山鶏の料理も絶品。東京でも大山鶏の料理を見かけては食べるようにしているが、ふるさとに帰ってきて、地のもの、ソウルフードを食べられることがなによりうれしい(しかも圧倒的に安い!)。 ブランド鶏なのできっと同じものなのに、食べる場所が違うだけで、一緒に食べる人が違うだけで、こんなにも味がおいしく変わるとは。 飛び交う方言とおいしいお酒とソウルフード。 これで地元トークに花が咲かないというのは無理がある。「同窓会はどこでやった?」「あのホテル会場か! 同じだ!」などなど。 私も学生時代は「あそこのイオンにいつも遊びに行ってたなぁ」などと思いを馳せてみると、プリクラはみんな同じ場所で撮ってたり、フードコートに行くと必ず同じ学校の人に出くわしたり、細かい地元あるあるが次々とあふれ出てきて……。 それから、鳥取で開催される「がいな祭」という大きなお祭りの話に。地元の人たちは必ず誰でも一度は行ったことのある、歴史ある大きな規模のお祭り。私も毎年行くのが恒例だった。 幼いころは、祖母が浴衣の着つけをしてくれて、母にかわいい髪型にしてもらい、特別な気持ちで打ち上げ花火を見に行って、はぐれないようにと父が手をつないでくれたのも鮮やかに思い出すことができる。 小学生からは、ジャズヒップホップダンスを習い始めていた私。この「がいな祭」ではかなり気合いの入った特設ステージが設けられ、たくさんのダンスチームが出演する。小学生から芸能活動を始める高校生までの数年間は、幼なじみと同じ教室に通い、ダンスに熱中していた。 いまだにダンスを発表したステージのある場所を通ると、楽しく踊っていたあのころの思い出が一気によみがえってくる。このお仕事をしていても、ダンスを習っていてよかったなぁと思うことが多い。たとえば人前で何かを発表したり、ステージに立ったりを堂々とできること。表現するということがなんとなく体験できたこと。習わせてくれた両親に感謝したい。 少し話はそれてしまいましたが、このレギュラー番組がきっかけとなり、地元でのほかのお仕事もさせていただく機会が増えてきた。 鳥取県は夜空に輝く星がとてもキレイで、「星取県」ともいわれている。その夜空とともにムービーの撮影ができたこと。これも忘れられない夜となり、とっても印象に残っている。 そうだ! 先日は高校のときの同級生と飲みに繰り出し、3軒ほど(!)ハシゴ酒した夜も強烈だった(笑)。 もう卒業して10年ほど経ちますが、出会ったころと何も変わっていない気がするんだよなぁ。時が止まった感じというのだろうか? みんなそれぞれお仕事をがんばっていたり、子育てしていたり、県外に出ていたり。今の生活環境はバラバラなはずなのに、いったん集まってしまうと、あの当時と同じ空気感に巻き戻っていく。 高校1年生でたまたま同じクラスになって、10年経ってもこうして当時のまま気軽に集まれる友人がいるって素敵なことだな。なんの気を遣うこともなく、大人になってもなんでも話せる人って貴重だなとつくづく思う。過去にすがりつくようなことはせず、自分の意見をしっかり持っていて、ポジティブな子しかいないので、本当に恵まれている。毎回集まる夜は楽しくって、時間があっという間に過ぎていく。 うれしいことに最近は、お店の中やみんなで歩いている帰り道、私に気づいて話しかけてくださる方もいらっしゃって。とーーっても温かい言葉をかけてくださる方ばかりで心がホッとする。そんなやりとりを誇らしそうにしながら見守ってくれる友人の表情にもまた心が温まる。 なんて素敵な地元なんだろう。 こうして声をかけてくださる方がいることで、またがんばろう!と思えてくる。 そして、そうこうしていると、そんなに大きな街ではないので、当時の学校の先生方にもばったり会ったりもして。 「ふるさとのみんなが応援してくれているんだ!」と帰るたびにパワーアップした気持ちで東京に戻ってこられる。 地元でのレギュラー番組が始まる前までは、年末年始やお盆のタイミングの、年に1、2回しか帰る機会がなく、こうして定期的に帰省もできて、本当にありがたい気持ちでいっぱいになる。 両親や愛犬とだらだら実家で過ごす何気ない夜も大好き。みんなで夜ご飯を食べながら、テレビで大相撲中継を観て、あーだこーだ言う時間。ごひいき力士が勝つとみんなで喜び、負けるとみんなでがっかり。私の家族はみんな相撲に詳しく、話していて本当に楽しいし、学びにもなる。 相撲を観終わるころには、夏は虫の声がよく聴こえてくる。東京では聴けない、極上のBGMだ。テレビを消して、素敵なBGMを楽しみながら、蚊取り線香をつけて、スイカを頬張るのも毎年恒例。いつも扇風機の前は愛犬の「むさしまる」が陣取っている。夏の夜に扇風機と柴犬、なんとも微笑ましい光景です。「これが"チルアウト"ということか」と、ひとりほくそ笑む。普段はひとり暮らしなので、地元で過ごす夜は最高の時間。 充実した時間を過ごし、また東京に戻る日々。 鳥取はまだ新幹線が通っていないから飛行機移動が基本なのだが、人生で初めて飛行機に乗ったのも、このお仕事を始めるきっかけとなったホリプロタレントスカウトキャラバンの合宿審査に向かうとき。何年経っても空港に着き、飛行機に乗り、窓から空を見ると「よし! 東京に行ってがんばろう!」と気合いが入る。 どんどん小さくなっていくふるさとを眺めては、最初は心細くなったときもあったけれど、今では飛行機の窓から見える夜空は、私の心を強く昂らせ、わくわくさせてくれる宝物だ。実はもともと飛行機は大の苦手なんですが(笑)、12年も経つと人は慣れるものなんだなぁ。 よし……! またがんばるか! 文・写真=山根千佳 編集=宇田川佳奈枝
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自分の好きな場所にいたかった。小さな書店で過ごす夜(石山蓮華)
エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」 「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。 石山蓮華(いしやま・れんげ) 1992年、埼玉県出身。電線愛好家・文筆家・俳優。日本電線工業会公認・電線アンバサダー。テレビ番組『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)や、映画、舞台に出演。著書に『犬もどき読書日記』(晶文社)、『電線の恋人』(平凡社)。TBSラジオで毎週月曜〜木曜14時から放送中の『こねくと』にメインパーソナリティとして出演中。 早稲田にある小さな書店の閉店時間は24時だった。 算数のできない私がレジ締めの係になると、同じシフトの人はいつまでも帰れない。 バイトの先輩である学生さんに「石山さん、そろそろできましたかー?」と言われ、「できてる気がするんですが……ちょっとエラーが出てしまって……」と、まじめにやっている感だけでも受け取ってほしく、もごもご言った。私だって帰りたかった。 20代半ばのころ、同棲相手に家賃を払ってもらっていた。レギュラーのお仕事でもらえるギャラを所属事務所と分配し、手元に入る金額をロケの拘束時間で時給換算してみると、最低賃金は豪快に割っている。行き倒れにはならないが、ひとり暮らしは見込めない私の稼ぎ。それでも外で酒を飲み、悩んで悩んで服を買い、収支の合わない暮らしをしていた。 同じ番組に出演している華のある女の子たちはテレビに出ているときもそうでないときも小綺麗な格好をして、デパートで売っている化粧品をそろえ、カフェでは1500円のプレートに700円のスムージーをためらわず頼んだ。 私は借り物の衣装を着ていないときは、古着屋で買った服をよく着ていた。テレビに出るときにしか使わない化粧下地を買うのが面倒だったので、テレビ局のメイク室でいつも同じ下地を借りていた。カフェでブレンドコーヒーを頼むのは、おかわり無料だからだった。マネージャーさんからは、苦学生のようだと言われていた。 同じ仕事をしているはずなのに、まわりの人はなぜ優雅なのか、私にも優しいのか、こんなにキレイなのか、近くで見ても不思議でうらやましく、どうしたって同化できない。 「れんちゃんは個性的だね」と言われても、私が選べるものを選んだらこうなっていた。 本が好きな人は、本も書店も書店員のこともかっこいいと思っていると、私は思っている。 この本が欲しいんですと在庫を聞くと、その本がある棚まで案内してくれる。こんなにたくさん本が並んでいるのに、どこにどの本があるかすぐわかる。きっと新刊本も名作本もちゃんと読んでいるのだろう。優雅な女の子になるのは、仕事で頼りになる先輩の実家が田園調布にあると聞いたときからあきらめていたが、私もできる範囲でかっこいい人になりたい。それに、アルバイトでいいから自分が好きな場所にいたかった。 近所の書店でバイト募集の貼り紙を見つけ、いそいそと電話をかけ、面接を受けた。夜遅いシフトに入ればちょっと時給が上がるし、日中はロケやオーディションにも行ける。店に入ってすぐ右隅に設置されたレジの前に立ち、本に挟まれた短冊形の売上スリップの整理をしたり、レジ打ちをしたり、棚の整理をしたりする書店員さんにずっと憧れていた。バイトを辞めて何年も経つ今だって、書店員さんに憧れがある。 店長もバイトの同僚もみな親切で、少しずつ仕事も覚え、自信を持って店に立てるようになった。お客さんがいないときは、文庫やハードカバーなどにかける紙製のブックカバーを折る。レジ横の黒いペン立てにはブックカバーを折るときに使うためのマーカーペンが差してあった。このマーカーを麺棒のようにスライドさせると、不器用な私もまっすぐな折り目をつけられる。そのカバーには赤いインクで象の絵が印刷されていて、店に並んだ深緑色の棚と補色になっているのがおしゃれで気に入っていた。 月に何時間かのささやかなシフトではあったが、そのバイト代によって店で本を買い、近所の喫茶店でコーヒーを飲むというささやかな貴族暮らしが楽しめた。この貴族は、鳥貴族にいる貴族である。 調子に乗って口座のお金をすべて使い、奨学金の引き落としができずに催促の電話がかかってくることもあった。今年やっと返済できたけれど、借金をせずに大学まで行ける国でやっていきたかった。 木曜の夜、いつもひとりでしゃべりながら雑誌のコーナーを眺めていく人、マンガの新刊を発売日に買っていく人、親と一緒に付録いっぱいの雑誌を持ってくる子、私が読んだことのない翻訳小説を買っていく人。街の本屋にはいろいろな人が来る。本屋が好きだし、本屋に来る人も好きだった。お客さんが買った本を見て「私もこの小説、好きですよ」と思う。口に出すのはやりすぎなので、教わったとおり接客する。 ある日、お客さんにささいなことで怒鳴られた。ほとんど同い年くらいに見えるその人は、私が謝っても「謝り方が悪い」とスマホのレンズを向け、さらに謝罪を要求した。私は頭を下げながら、顔が熱くなり、手は冷たく、足は震えた。内線で呼び出された店長と深々謝り、その人は帰っていった。 涙が出てもシフトは続く。そのままレジに立っていたら、店中のお客さんが本やボールペンなどを買って「大変だったね」と次々に声をかけてくれ、私はまた深々と頭を下げた。「私は池袋のジュンク堂で働いているのでわかります。いろんな人がいますから」と伝えてくれた人は本を買ったあとにすぐまた店に来て、「プレゼントです」と包装紙に包まれた分厚い本をくれた。聖書をもらったのは、あとにも先にもこの一度きりだ。 閉店時間の少し前に、同じシフトのバイトさんが有線放送を「蛍の光」に変える。 黒いノートパソコンの画面に、レジ締め用のエクセルが表示されている。その日の売り上げを記入する大事な作業。まさに帳尻合わせだ。 私は算数が苦手だ。年下の先輩バイトさんは人並みの計算能力があり、私より早く正答が出せる。代わりにやってくれればいいのにと思ってはいるが、口には出せない。私がレジ締め係になってしまっているので、これはやるまで帰れない。それに、この作業自体はもう何度も教えてもらっていて、覚えられない私がいけないのだという申し訳なさがある。 その日の閉店時にレジにあるお札や硬貨の枚数を数えることそのものは案外難しくはない。細長いコインサイズのくぼみに硬貨をはめ込んでいくだけで、何枚分重なっているかを教えてくれる親切な道具があるからだ。 並んだ表のコマをにらみ、数を数え、電卓で計算し、これっぽい、きっとかなりの確率でこれだという数字を入れ、エラーが出て、計算し直し、また数字を入れてみて、エラーが出なければよしとして帰る。 バックヤードで待っている先輩に「遅くなってすみません」と謝りながら、店の電気を消し、鍵を閉め、閉じかけたシャッターの隙間をくぐって外へ出る。この時間、開いている店はあまりない。お疲れ様でしたと声をかけ、坂道をのぼって家へ帰った。 文・写真=石山蓮華 編集=宇田川佳奈枝
文野紋のドキュメンタリー日記 ~現実(リアル)を求めて~
人生を変えた一本、退屈な日々に刺激をくれる一本、さまざまな愛に気づく一本など──漫画家・文野紋によるリアルな視点、世界観で紹介するドキュメンタリー映画日記
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ファッションが持つ力を信じる、最前線の美しさに込めたメッセージ──関根光才『燃えるドレスを紡いで』
文野紋のドキュメンタリー日記 ~現実(リアル)を求めて~ 人生を変えた一本、退屈な日々に刺激をくれる一本、さまざまな愛に気づく一本など── 漫画家・文野紋によるリアルな視点、世界観で紹介するドキュメンタリー映画日記 服を作ることは罪でしょうか? 本作はその疑問に真っ向からぶつかる日本人デザイナーを追った作品だ。 『パリ・オートクチュール・コレクション』。 オートクチュールとは「高級仕立服」という意味のフランス語で、『パリ・オートクチュール・コレクション』は、パリ・クチュール組合に加盟する限られたブランド、または招待されたブランドしか参加できない格式高いコレクションである。 本映画は、同コレクションに日本から唯一参加するブランド「YUIMA NAKAZATO(ユイマ ナカザト)」のデザイナーである中里唯馬に密着したリアル・ファッション・ドキュメンタリーである。 映画『燃えるドレスを紡いで』 唯馬は国内外で活躍する日本のトップデザイナーのひとりだ。ベルギーの名門アントワープ王立芸術アカデミー出身である彼の卒業コレクションは、インターネット上で回り回って世界的ヒップホップグループであるThe Black Eyed Peasのスタイリストの目に留まった。同グループの世界ツアー衣装のデザインを手がけたことをきっかけに、唯馬は対話から服を作っていけるオートクチュールに惹かれていった。 その後、唯馬は2009年に前述のブランド「YUIMA NAKAZATO」を設立。日本人では森英恵以来ふたり目となる『パリ・オートクチュール・コレクション』のゲストデザイナーに選ばれている。そんな輝かしい経験を持ち、ファッション業界の最前線を走る唯馬にはひとつの関心事があった。 「衣服の最終到達地点を見たい」 映画は、唯馬がアフリカ・ケニアへ旅立つシーンから始まる。アフリカ・ケニアのギコンバはメディアを通してしばしば「服の墓場」と表現されることがある。 映画『燃えるドレスを紡いで』 チャリティ団体や回収ボックスに寄付された古着がその後どのような道をたどるかご存じだろうか。昨今ファストファッションの流行などにより先進国での衣類の生産量や購入料は実際に必要とされている分よりも遥かに多いとされる。流行のデザインの安価な服をワンシーズンのみ着用するために購入する、ということも珍しくないだろう。そういった服を善意から、廃棄ではなく前述のような手段で寄付というかたちで手放すこともあるだろう。しかし現実には、回収量が必要量を上回っていたり、質などの問題で再利用できなかったり、ニーズに合っていなかったりと問題が多く、運ばれてくる古着のうちそのまま売り物になるのは20%ほどで、ゴミ同然のものも多いという。 ケニアの街の人々は口々に言った。 「服はじゅうぶんにある。もう作らないでほしい」 そうして弾かれたり売れ残ったりしたゴミ同然の古着は「服の墓場」である集積場に廃棄される。ケニアには焼却炉はない。集積場には生ゴミなども廃棄されており、プラスチックゴミの自然発火も相まって、街に入った瞬間から腐敗臭が立ち込めるという。 色とりどりの衣類等のゴミが地平線まで積み重なり、その中を子供たちが歩く様子は我々が想像すらしたことのないような光景でまさに圧巻。37年間、このゴミ山で暮らしているという女性の姿も映し出される。風でゴミたちが巻き上がる。 唯馬は、服の墓場を見て「美しい」とつぶやいた。 唯馬は『さんデジオリジナル』(山陽新聞)のインタビューでそのときのことを振り返り「不快だという思いもあるんですけど、それだけではない何かがあるな……と」、「適切な言葉が思いつきませんでした」と述べている。この「美しい」という言葉には我々には想像もつかないくらいたくさんの感情が込められているのだろう。 安価な服はポリエステルを主としている上、さまざまな原料が混ぜられているので、そう簡単にリサイクルすることはできない。 新しい服を作ることに魅力を感じ、生業としている唯馬にとってケニアでの光景は大きな葛藤を産むものだった。唯馬は「なぜ自分は服を作るのか」と自問自答した。唯馬の動揺がスクリーン越しに強く伝わってくる。 このとき、すでに次のパリコレクションまでの猶予は2カ月ほどしかなかった。この現実を知り、強い落ち込みを感じているのに、それを無視してまったく別のコレクションを発表することなどできない。 その後、唯馬たちはケニア北部のマルサビット地方を訪れる。マルサビット地方ではひどい干ばつが続いており、家畜が死に、食糧危機にも悩まされていた。そんな場所で唯馬が出会ったのは、羊の皮を縫い合わせた服や色とりどりにビーズを使った装飾品を身につけておしゃれを楽しむ現地の女性たちの姿であった。深刻な食糧危機に悩まされるこの地域でも、人々はおしゃれを楽しんでいたのだ。 映画『燃えるドレスを紡いで』 唯馬は彼女らから人が装うことの根源的な意味を考えるヒントを得て帰国し、パリコレクションに向けての制作に入る。 映画の後半では、帰国からパリコレクションまで約2カ月間の奮闘が描かれている。ケニアで売られていた古着の塊を持ち帰った唯馬は、さまざまなハプニング──SDGsとも関係のないものも含めた本当にさまざまなハプニングに見舞われながらも、より美しいコレクションを作るために妥協なしで服作りを進める。 この後半の物語によって、本作はSDGsに関する啓蒙映画という枠にとどまらず、むしろ中里唯馬というひとりの人間の生き様を映した映画になっていると思う。 服の過剰生産に対する問題提議を新しい服を作るという方法で行うのは、一歩間違えたら矛盾と捉えかねられない難しい活動だ。実際、唯馬も社内ミーティングで「(パリコレクションのような消費を促すことが目的の場に)関わっている以上、すでに加担してしまっている」、「そういう中で何を言っても、言い訳にしか聞こえないだろう」と言葉にしている場面があった。しかし、唯馬は方向性を固めてからは、ただひたすら美しさに重点を置き、ストイックにそれを追求していく。 唯馬はきっと芸術、特に美しい衣服の持つ力を心の底から信頼しているのだろう。 唯馬は「オートクチュールはF1レースみたいなもの」だという。技術を集結させ最も美しいものを発表する場だ、と。しかしF1レースで培われた技術は10年後には公道を走る車に応用される。かつては男性のものだったパンツスーツが今は女性の装いとして当たり前のものになっているように。最前線で美しいものを発表することが、人々の装いを、そして価値観までを変えることができる、服の持つ美しさにはその力があると信じているのだろう。 趣味程度だが、私は美術館やギャラリーで絵画や現代アートを見ることが好きだ。それらの作品の中には、戦争や政治、環境問題などに対するメッセージや主張が込められたものが多い。そして、それらはただ単純に文字や言葉での主張ではなく、絵画や彫刻などの美しく心が惹かれるようなかたちに昇華されている。 なぜ人は、理路整然とした言葉や理屈ではなく、美しさを通じて何かを主張しようとするのだろうか。その答えは簡単にわかることではないが、パリコレクションという大きな舞台の本番の直前まで美しさにこだわり、追求し、微調整を続ける唯馬を見ていると、我々もまた美しさの持つ可能性を信じずにはいられなくなる。美しさは時に言葉よりも鮮明に、そして強く物事を主張することができる。 映画『燃えるドレスを紡いで』 「デザイナーにはこれだという主張が必要だけど、彼(唯馬)は常に何か言いたいことがあった」 作中で唯馬について述べられていることのひとつだ。 何かどうしても言いたいことがある人が、美しさの持つ力を圧倒的に信じることで、世の中のデザインや芸術というものはでき上がっているのかもしれない。 『燃えるドレスを紡いで』は環境問題やファッション業界について知ることができるのはもちろんのこと、中里唯馬という人間のかっこいい生き様をのぞける貴重な作品だ。 文野 紋(ふみの・あや) 漫画家。2020年『月刊!スピリッツ』(小学館)にて商業誌デビュー。2021年1月に初単行本『呪いと性春 文野紋短編集』(小学館)を刊行。同年9月から『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)で連載していた『ミューズの真髄』は2023年に単行本全3巻で完結。2024年7月18日、WEBコミック配信サイト『サイコミ』連載の『感受点』(原作:いつまちゃん)の単行本が発売予定。 映画『燃えるドレスを紡いで』 出演:中里唯馬 監督:関根光才 プロデューサー:鎌田雄介 撮影監督:アンジェ・ラズ 音楽:立石従寛 編集:井手麻里子 特別協力:セイコーエプソン株式会社 Spiber
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バカにされても突き進む、カッコいい男の“生き様”を描く──湊寛『無理しない ケガしない 明日も仕事! 新根室プロレス物語』
文野紋のドキュメンタリー日記 ~現実(リアル)を求めて~ 人生を変えた一本、退屈な日々に刺激をくれる一本、さまざまな愛に気づく一本など── 漫画家・文野紋によるリアルな視点、世界観で紹介するドキュメンタリー映画日記 “新根室プロレスは競技を見せているのではなく生き様を見せている” 『無理しない ケガしない 明日も仕事! 新根室プロレス物語』は、北海道文化放送によって制作されたドキュメンタリー映画で、北海道根室市で活動する「新根室プロレス」を追った作品だ。 新根室プロレスは、おもちゃ屋を営むサムソン宮本を中心に地元のプロレス愛好家たちが集まって2006年に旗揚げされたアマチュアプロレス団体だ。所属メンバーは地元の会社員、漁師、酪農家、派遣社員など日々を生きる社会人ばかり。 創設者であるサムソン宮本は「無理しない ケガしない 明日も仕事!」を、モットーに掲げている。 本映画では新根室プロレスの活動の軌跡と、創設者であるサムソン宮本が平滑筋肉腫(※癌の一種)と診断され、55歳の若さでこの世を去るまでの生き様を主軸として描いている。 プロレスといわれて世の中の人は何を思い浮かべるのだろうか。私は恥ずかしながらプロレスという文化に疎く、バラエティ番組で目にしたことがある毒霧やパイプ椅子の映像から「なんかよくわからないけど痛そうだから見たくない」とさえ思っていた。しかし安心してほしい。新根室プロレスは“エンタテインメント全振り”だ。サムソン宮本が「老若男女誰でも楽しめるプロレスを目指す」と発言しているように、新根室プロレスは思わず笑顔になってしまうようなおもしろさを売りにしている。 所属するメンバーも、レジェンドプロレスラーの「アンドレ・ザ・ジャイアント」にちなんだ、身長3メートルの「アンドレザ・ジャイアントパンダ」、同じくレジェンドプロレスラーの「ハルク・ホーガン」にちなんだ豊満な体型の「ハルク豊満」など、くすりと笑えるものばかり。 サムソン宮本は、ロープ渡りを失敗してお股にロープが直撃……なんていう、コミカルな動きで観客を笑わせる。必殺技も“相手の頭をパンツの中に突っ込む”とか“カンチョー”とか、とても上品とはいえないものばかり。サムソン宮本の娘も「(最初は)恥ずかしかった」と語っている。 そんな新根室プロレスのメンバーたちには、ある共通点がある。 それは“学生時代イケてなかった”ことだ。たしかに作中に登場するメンバーは優しそうな、悪くいうと気弱そうな、一見格闘技などしなそうに見える面々だ。最年少であるTOMOYAの異名も「メガネのプリンス」、「ラブライバー」(※メディアミックス作品『ラブライブ!』ファンの総称)といったとおり。 所属メンバーにとって新根室プロレスがどういう存在であったのかは、映画パンフレットに記載されている新根室プロレス選手名鑑を見ると、ひと目で理解できる。職業や得意技と合わせて、「新根室プロレスとは?」という項目があるのだ。 「家族」「恩人」「居場所」「遅れてきた青春」。「自立支援団体」や「精神安定剤」と回答しているメンバーもいる。 サムソン宮本の弟である「オッサンタイガー」は次のように語る。 「ズレている人ばっかでしたね。マトモな人は入れないです。(中略)いかにイケてないかとか、ダサいとか、ちょっと社会に適合していないとかが基準なんですよね。そういう人たちに惹かれるんですよ、サムソンは」(※「新根室プロレス映画化記念メンバー座談会」より引用) かくいう私も、いわゆる“イケてない”、“ダサい”、“社会に適合していない”と言われるような人たちに惹かれる性分だ。自分自身がそうだから、というのももちろんあるし、そういう人たちにスポットライトが当たりづらい世間の風潮に対する反骨精神もある。これは私が今、漫画家として仕事をしている理念の部分になっているし、きっとドキュメンタリー映画が好きな人にはそういう性分の人間が多いのではないだろうか。普段スポットライトが当たりづらい人たちにカメラを向け、誤解されやすい、理解されづらい彼らの生き様をまざまざと描く。これは私がドキュメンタリーというものに感じているよさの、最も大きい部分と言っても過言ではない。 普段はイケてない人たちが仮面を被って別の名前を名乗ることで「カッコよく」変身するというのもよい。冴えないオタクがヒーローに変身して活躍するのは、マンガやアニメの王道だ。 まあ、つまり、ひと言で言うと私は『新根室プロレス』のような物語が好きでたまらないのだ。 映画としての編集もニクい。本作では「サムソン宮本として死にたい」という本人の発言を尊重し、最後までサムソン宮本の素顔を映さないように編集している。若いころの写真にも闘病中の家族との写真にも、たとえ家族の素顔が映っている場面でも、サムソン宮本に対しては徹底してマスクを合成する編集がされている。制作陣のサムソン宮本への多大なリスペクトが感じられる。 2019年9月。根室・三吉神社のお祭り興行でサムソン宮本から衝撃の告白が飛び出す。「難病・平滑筋肉腫と診断され……新根室プロレスを解散します」 平滑筋肉腫は10万人に3人の難病で、治療法も確立されていないという。 2019年10月。東京・新木場1stRINGにて、新根室プロレス最初で最後の興行が開かれた。1stRINGはインディ興行の聖地ともいわれる場所。約300人のファンが詰めかけ、会場は超満員となった。 次々とメンバーたちの試合が進み、第二部。場内スクリーンには「生か死か サムソン宮本13番勝負」の文字、サムソン宮本が新根室の面々と13番勝負をするという企画だ。本映画の編集マン・堀威の取材日記によると、大会当日のサムソンは「本当につらそう」だったという。また、13番勝負12戦目のセクシーエンジェル・ねね様戦でサムソン宮本が助骨を骨折していたということも明かしている。身体がボロボロになりながらも「プロレスラー・サムソン宮本」として戦う姿に、私は涙が止まらなかった。サムソン宮本は必ずまた新木場のリングに戻ってくると宣言するが、翌年9月、55歳の若さでこの世を去ってしまう。 制作した北海道文化放送の吉岡史幸プロデューサーは北海道新聞の取材に対し「(サムソン宮本は)自分の死すらもエンタテインメントにするほど徹底したプロデューサー」であると語った。 サムソン宮本は、うつ病や仕事の悩みを抱えるメンバーたちの悩み事を魅力にして人気者にし、観客たちを楽しませたように、自らの病気や死も観客を楽しませるためのネタにする男なのだ。 「新根室プロレスにおいて重要なのは、強さ、うまさではなく、観ている人の感情を揺さぶれるかどうか。それが本当の勝者」 新根室プロレス結成当時のサムソン宮本の言葉だ。 この映画はドキュメンタリーとしてはもちろん、題名どおり物語として非常によくできている。 というのも、プロレス自体、競技とエンタテインメントの両方の特性を併せ持つものであるし、登場人物たちもまた本人と、それとは別にプロレスラーとしてのキャラクターも持っている。自分の人生さえもさらけ出して「サムソン宮本として死にたい」とまで言っていた彼を追った映画なのだから、“物語”になるのは必然なのかもしれない。 本映画の後半では、残されたメンバーたちで新根室プロレスを再結成し、復活させる様子が描かれている。 先頭に立ったのは、小学3年生のときに新根室プロレスに魅了され、一度は入門を断られながらもメンバーとなった最年少のTOMOYAだ。サムソン宮本を敬愛していたメンバーの中には、TOMOYAだけで大丈夫なのだろうかと心配するメンバーもいたが、支え合いながら復活に向けて動いていく。 みんなの大黒柱だったサムソン宮本が亡くなって解散してしまった新根室プロレスが、メンバーの中でいわば末っ子であるTOMOYAの強い気持ちで再び集まっていく様子は、胸が熱くなるものがある。 「人生一度きり。やりたいことをやれ。カッコ悪くてもいい。バカにされてもいい。いつかわかってくれる。Don’t give up! Do your best!」 サムソン宮本の最後の言葉だ。 上映が終わったあと、映画館には涙を啜る音が響いていた。少なくとも映画を観た人たちの中に、サムソン宮本をカッコ悪いだとかダサいとかいう人間はいないだろう。 これは、北海道根室市に新しい文化を作ったカッコいい男の物語だ。 文野 紋(ふみの・あや) 漫画家。2020年『月刊!スピリッツ』(小学館)にて商業誌デビュー。2021年1月に初単行本『呪いと性春 文野紋短編集』(小学館)を刊行。同年9月から『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)で連載していた『ミューズの真髄』は2023年に単行本全3巻で完結。2023年9月より、ウェブコミック配信サイト『サイコミ』にて『感受点』(原作:いつまちゃん)連載中。さらに、2024年3月、『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて読切『下北哀歌。』を掲載。 配給:太秦 (C)北海道文化放送
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偶然で必然の出会い、渋谷に響くひとつの歌声──島田隆一『ドコニモイケナイ』
文野紋のドキュメンタリー日記 ~現実(リアル)を求めて~ 人生を変えた一本、退屈な日々に刺激をくれる一本、さまざまな愛に気づく一本など── 漫画家・文野紋によるリアルな視点、世界観で紹介するドキュメンタリー映画日記 『ドコニモイケナイ』は2012年に公開され、第53回日本映画監督協会新人賞を受賞したドキュメンタリー映画である。 物語は2001年の渋谷から始まる。1996年生まれの自分には当時の渋谷の空気は想像でしかわからないが、ギャルブームやメディアの注目もあり若者のファッション・トレンドの街だったという。本作のパンフレットによるとゼロ年代初期の渋谷は「行き場のない若者が集まっては、ただひたすらにたむろしている場所」であったと書いてある。今でいう「トー横(※新宿の歌舞伎町にある東宝ビル横のこと)」のような位置づけだったのだろうか。 監督の島田隆一は2001年当時、映画専門学校に通う学生だった。本作は当初、専門学校の実習課題として撮影され始めたものだった。ほかの学生より大人しく、課題を探しあぐねていた島田に講師が「渋谷へでも行ってみたら?」と提案したことがきっかけだった。 2001年10月23日、ひしめく若者たちの中で島田とスタッフたちはひとりの女性と出会う。あまり上手とはいえない声で歌う彼女は、佐賀からヒッチハイクでやってきたストリートミュージシャンの吉村妃里(よしむら・ひさと/当時19歳)であった。 「元気で行こう 精一杯の力を出して 元気で行こう 無理しなくて いい 元気で行こう 気楽な気持ちでリラックスして」 そう歌う彼女に惹かれた島田とスタッフたちは彼女を追いかけて撮影をすることに決める。 (C)JyaJya Films 妃里は、新宿で出会った芸能事務所の社長という人間からスカウトをされ、事務所が借りたウィークリーマンションに住むようになる(最終的には妃里は「貧血」を理由にわずか1カ月ほどで切り捨てられ、住む場所を失ってしまう)。そのあと路上で知り合った友人・幸香の家に居候したりと妃里を取り巻く環境が不安定に変わっていくなか、2001年12月13日、島田らスタッフの元に幸香から連絡が届く。 「妃里の様子がおかしい」 妃里は統合失調症を発症していた。 翌々日の12月15日には妃里は都内の病院に緊急入院し、翌年3月には故郷である佐賀の病院に転院することとなる。こうして映画の撮影は中断され、妃里を映したテープは放置されたまま、島田らスタッフは映画専門学校を卒業してしまう。 私個人の話で恐縮だが、私の祖母は私が物心ついたころ、すでに統合失調症を患っていた(母から聞いた話だと、母が小学生のころにはすでに発症していたという)。 当時はまだ統合失調症という病名に改称されて日も浅かったからか、母からは「ばーちゃんは精神分裂病だから」と言われて育った。家族で帰省したときには祖母が私を罵倒することもあったようだから、「精神分裂病だから、ばーちゃんの言うことは気にしなくていいよ」という母から子への思いやりから出ていた言葉だと思う。私の中の祖母の記憶は、誰かに怒っているか、上のほうの何もない一点を見つめて何かぶつぶつと話している姿しかない。 母には「神様と話してるらしいよ」と教えられた。祖母は歩くことも難しかったので、母は祖母を風呂に入れることにすごく苦労していたような記憶がある。もちろん、統合失調症の症状はさまざまで、これは私の祖母の話でしかないので主語を大きくするつもりはない。 私は、発症する前の祖母を知らないので祖母とはそういうものだと思っていたし、祖母の話す言葉は方言がきつかったこともあり罵倒されても特別傷つくということはなかったが、母が「母さんも発症したらどうしよう」、「遺伝かもだから」とひどく心配していたのは今でも強く印象に残っている(実際、遺伝的要素は示唆されているものの、未だ解明はされていないようだ)。 母は発症前の祖母を知っている。母にとって統合失調症は「突然、自分にも起こってしまうかもしれないこと」なのだと思う。私もそうなんだろうな、と思う。人間は現実に物語性を見出したくなってしまうが、それは必ずしも正しくない。 本作のパンフレットでも精神科医の春日武彦は統合失調症の発症について「率直に述べるなら、運が悪かったとしか表現できない」(『ドコニモイケナイ』パンフレットより引用)と述べている。 監督である島田は語る。 「吉村妃里を統合失調症にまで追い込んだのは、カメラを回し続けた自分の責任ではないだろうか」 (C)JyaJya Films 以前、『監督失格』について書いた記事でも引用したが『ゆきゆきて、神軍』の監督である原一男は「ドキュメンタリーをやる人間は畳の上で死ねない」と述べている。 『監督失格』の監督である平野勝之も「人の死で金儲けしていると言われるかもしれない」と心配していた。 (文野紋のドキュメンタリー日記 ~現実(リアル)を求めて~ #1:https://tvablog.tv-asahi.co.jp/reading/logirl/2894/) 『監督失格』も『ドコニモイケナイ』も不安定な、美しい女性とそれに惹かれた監督がカメラを通してコミュニケーションを取る、カメラを通してしかコミュニケーションを取れない、という構造で物語が進む。もちろん取り巻く状況や彼女らのキャラクターはまったく違うものなので単純に比較はできないが『監督失格』の被写体である林由美香は売れっ子のAV女優だ。どんな激しい場面でも撮りなさいと平野に言った。監督である平野もプロのAV監督であるから、悩みながらも彼女の言葉に従った。しかし『ドコニモイケナイ』の被写体である吉村妃里は歌手志望の19歳の若者でしかない。監督である島田も、当時20歳そこらの映画学校の学生だ。 本作の後半では、撮影を中断してから9年後、佐賀で暮らす妃里が描かれている。 妃里が佐賀に渡り撮影を中断してから島田やスタッフはそれぞれの道を歩んでいた。島田も起業用のPR映像の制作に携わるなど映画業界で仕事をするようになる。ただ、そうしている間にも島田の胸にはしこりのように妃里さんを映した映像のことが残っており、細々と編集作業もしていたという。2007年、冒頭で島田に「渋谷へでも行ってみたら?」と提案した映画学校の講師から「あれをまとめてみないか」と電話を受ける。講師から「現在の吉村妃里を描くべきだ」という言葉もあり、悩みながらも島田はカメラを持って現在の妃里に会いにいく。 (C)JyaJya Films そこでは、母とふたりで暮らしながらNPO法人・鹿陽会チャレンジド支援センター「ザ・鹿島」に通っている妃里の姿があった。そこで軽作業(服をたたんでビニール袋に詰めるなどの単純作業)にも取り組んでいる。 2001年との渋谷とはあまりにも正反対の妃里の故郷の風景は、一種のやるせなさというか切なさのようなものを感じさせる。そして同時に映画を完成させるために、その対比を映さなければならないというドキュメンタリー監督という職業の業も感じさせられる。物語の終盤、彼女が博多の駅で再び「元気で行こう」を歌うシーンがある。道ゆく人は誰も彼女とコミュニケーションを取ろうとしない。 ただ、切なく感じてしまうというのも現実に物語性を求めてしまう鑑賞者である私たちの悪癖でしかなく、妃里の人生も島田の人生も続いているのだ。妃里は本作についてこう語る。 「50歳くらいになったら、この作品を持って講演をしたいな」 島田がこの作品を撮ることができたのはある意味“偶然”なのだろうと思う。当時の島田にとっては悪い偶然だったのだろうと思うし、自責の念を抱えていたことも窺える。だが、その映像を『ドコニモイケナイ』という一本の映画にまとめるに至ったのは、島田のドキュメンタリー監督としての性なのだと思う。 デリケートな題材であるがゆえ、すべての人が観るべきだとは思わない。だが、少なくとも私はこの映画を観ることができてよかったと思う。公開10周年を記念して再上映をしてくれたポレポレ東中野にも感謝でいっぱいだ。 この映画を必要とする人に届いてくれたらいいなと思う。そして願わくば、ふたりにとってもいいものであったらいいな、と思う。 文野 紋(ふみの・あや) 漫画家。2020年『月刊!スピリッツ』(小学館)にて商業誌デビュー。2021年1月に初単行本『呪いと性春 文野紋短編集』(小学館)を刊行。同年9月から『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)で連載していた『ミューズの真髄』は2023年に単行本全3巻で完結。2023年9月より、ウェブコミック配信サイト『サイコミ』にて『感受点』(原作:いつまちゃん)の新連載がスタート。 (C)JyaJya Films 出演 吉村妃里 吉村はる子 撮影・録音 朝妻雅裕 島田隆一 城阪雄一郎 佐賀編撮影 山内大堂 編集 辻井潔 音楽 AMADORI モリヒデオミ 宣伝 酒井慧 配給 JyaJya Films 製作 JyaJya Films 監督 島田隆一
マンガ『テレビドラマのつくり方』筧昌也
もっとドラマが楽しめる? 映画・ドラマ監督/脚本家の筧昌也が描く、テレビドラマづくりの裏側、こだわり、人間模様——
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#19スピンオフ「ドラマ監督あるある」|マンガ『テレビドラマのつくり方』筧昌也
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マンガ『ぺろりん日記』鹿目凛
でんぱ組.incの「ぺろりん」こと鹿目凛がゆる〜く描く、人生の悲喜こもごも——
林 美桜のK-POP沼ガール
K-POPガチオタク・林美桜テレビ朝日アナウンサーの沼落ちコラム
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n.SSign日本ファンミで公開収録!現場で感じたメンバーの絆とファンの優しさ|「林美桜のK-POP沼ガール」第17回
「林 美桜のK-POP沼ガール」 K-POPガチオタク・林美桜テレビ朝日アナウンサーの沼落ちコラム 『動画、はじめてみました』というテレビ朝日公式YouTubeチャンネルの中で、K-POP評論家の古家正亨さんと私が、K-POPに関するさまざまな内容をお届けしている『動はじK-POP部』。 今年1月に『動はじK-POP学校』に進化し、 今回、なんとn.SSign(エンサイン/*1)さんのファンミーティングにおじゃまして 公開収録させていただきました!! こんな日が来るとは…… イベントが終わっても「現実だったのかな」と思ってしまうほど、夢のような時間でした。 思い出しながらテンションが高ぶって、いろいろすっ飛ばして書いてしまいそうなので まずはn.SSignさんのことを簡単に紹介させていただきます。 こちらをご覧ください‼︎ 実は、n.SSignのみなさんには今年1月にも『動はじK-POP学校』に出演いただきました。 この自己紹介動画、メンバー一人ひとりの個性が光っていて、何回も観られてしまう沼動画です。 (私の母はこの動画ですっかりn.SSignさんにハマりました) 放送後、COSMO(*2)の皆様からの温かくて大きな反響もあって、今回の出張収録が決まりました。 ありがとうございます! 全瞬間が見どころ!ファン必見のお気に入りポイント 公開収録当日。 アナウンサーを7年間続けているものの、たくさんの方の目の前で司会する機会にあまり恵まれなかった私。 『ワイド!スクランブル』とナレーションの仕事を終えて やっと現場に到着した本番1時間半前から、 心臓が身体中にあるのかと疑うほどドキドキ。 そんななか開催された第1部は、こちら。 第2部は、こちら。 なんと、舞台裏も緊急配信! 僭越ながら、私のお気に入りポイントを挙げさせていただきますと…… 第1部 ・ぐるぐるバッドでよろよろ、ニコニコ笑顔が癒やし効果抜群のエディさん ・本当は虎なのに猫にもなれるシャイボーイ、ハンジュンさん ・会場を妖精のように駆け抜けるフェアリー、ロレンスさん ・お菓子箱からお菓子が落ちないように、クールにさっと手を貸す気遣い王子、ロビンさん 第2部 ・トップバッター、カントリーマアムにも動揺せず華麗に! みんなの頼れる伝説の優等生、カズタさん ・メロンパンに動揺して赤髪と同じくらい赤くなってしまった猫、ジュニョクさん ・つけ襟を頭に。誰よりも演技に熱が入る、縦割れ腹筋のヒウォンさん ・壁になり「壁だよ」と親切につぶやく、ムキムキ王子ソンユンさん(壁の表情にご注目) 全瞬間が見どころなので選びきれないですが…… COSMOの皆様、ぜひお気に入りポイントを教えてください。 n.SSignの心の絆 一生忘れられない大切な思い出になりました。 私のムチャブリにも応じてくださったn.SSignのみなさん。 いつも私たち番組側が想像する何万倍も全力で、前向きに、楽しく取り組んでくださる姿には 尊敬や感激の思いが入り混じって、ぐっと感情がこみ上げてきます。 いつも目がキラキラしていて、今という瞬間にワクワクしているのを感じて…… 心が本当にまっすぐで、きれいなんですよね。 カメラが回っていないときや舞台裏でも、ステージ上と変わらないわちゃわちゃ感で メンバー同士で楽しくお話しされているのが、微笑ましくて。 目線の合い方や距離感に、家族のような信頼関係、心の絆を感じました。 MC古家さんに助けられた、ドキドキの公開収録! ちょっと脱線して、私の話なんですが、 ファンミ前日、台本の時間割を確認しながら、ふと「時計が必要なんじゃないか?」と。 普段はスタジオにあるカメラ映像の画面に時間が表示されていたり、スタッフの指示で進行したりと、あまり時計は必要ではないので、持っておらず。 よくよく考えたら持ってないとまずいかもしれないぞと、前日、急きょ電器店に走り、購入した時計。 しかし当日、1ミリも時計を見ることはありませんでした。 現場では、MCの古家さんに全力でおんぶにだっこ状態。 古家さんの仕事ぶり、もうそれはそれは神でした。 決められた進行時間と闘いながら、通訳さんと息を合わせて、おもしろいと思ったところは広げて、ファンの方が知りたいパーソナルな情報を引き出して、ツッコミを入れて……。 目が回るほど忙しい。目の前にお客さんがいらっしゃるので、失敗が許されないわけです。 テレビ収録のように、スタッフからたくさんの指示が飛んでくるわけではなく、自分ですべてを進めなきゃいけないという、極限の生放送。 古家さんがたくさんの俳優さん、K-POPアーティストに信頼される理由が、横からビシビシ感じられました。 一方で、普段から“あとから編集される”のが前提で司会進行をしている私。 もっとピリッと緊張感を持って仕事しなくては。 COSMOの皆様、ありがとうございます! 最後に…… 舞台に立って感じたんですが、n.SSignのみなさんに初めて会ったときの印象と、COSMOの皆様から感じていた印象が同じだったんです。 ポジティブなエネルギーに満ちていて、穏やかで優しい。 双方が似ていることを、一瞬で体感して感動しました。 COSMOの皆様、いつも温かいメッセージをありがとうございます! 私も、そして携わっているスタッフさんも、いつも本当に励まされています。 またいつか『動はじK-POP学校』、開校されますように。 林美桜のチョアチョア♡メモ *1/n.SSign グループ名は“net of Star Sign”の略語で、“星座の連結(星のつながり)”という意味が込められています。 *2/COSMO n.SSignさんのファンダムネーム。星座をつなげると宇宙ができるように、n.SSignさんとCOSMOさんがつながれば“無限の力を発揮できる”という意味が込められています。 文=林 美桜 編集=高橋千里
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夢の“韓国留学”が実現!漢陽大学で得た「意欲的に学ぶことの大切さ」|「林美桜のK-POP沼ガール」第16回
「林 美桜のK-POP沼ガール」 K-POPガチオタク・林美桜テレビ朝日アナウンサーの沼落ちコラム 絶賛、鬱々とした毎日を送ってます(前回から変わらず)。 気持ちが上向きになるのに時間かかりすぎるタイプです。 特にバラエティの収録のあとがダメなんですよね……すぐ放送されたらいいのに、収録から放送まで時間がかかるのは、とってもメンタルを食い散らかされちゃう。悩んでも変わらないのにね! ですが、これからコンサートやファンミの予定があるので、それを楽しみにがんばっている今日このごろです。 大学時代からの夢「韓国留学」がついに実現! 3月の末、1週間の休みを取り 韓国の大学に4日間の超短期留学をしに行ってきました! まず、留学したきっかけなんですが 普段からお世話になっているキム・スノク先生が中心となって企画されたプログラムであることに運命を感じたから そして、大学時代から抱いていた「韓国に留学して韓国語を学んでみたい」という夢に、ようやく向き合って実現してみようと思ったからです。 当時からこの夢は、頭の中でふんわり浮遊していたり、全速力でよぎったりしてはいたのですが 大学生活が楽しかったし、コンサートなど推し活で忙しかったし……全部言い訳ですね。 なんといっても勉強が苦手だからという理由で、いつだって怠惰な自分との戦いに負けて、常に優先順位の下位に送られていたわけです。 韓国語の勉強が日本でもできていないのに、留学するのはまだ早い。そう思って忘れていました。 ところがどうしたことでしょう。 社会人になり、韓国語を学び始めると、あんなに暇だった学生時代に留学すればよかった……と頭を抱えるわけです。大矛盾。 正直、悩んでいる暇はないので、運命と感じた己の直感を信じて……えいっと決めました。 まるで韓ドラ? 現地で韓国語を学んだ4日間のキャンパスライフ 今回はひとりぼっちで渡韓。しかも大学に通うということでドキドキ。 ソウル唯一、駅直結の漢陽(ハニャン)大学(*1)。 通学路で大学のスカジャンを着ている学生がたくさん。なんだかほっこり。 4日間、語学堂で毎日10時から17時まで韓国人の先生の授業を受けて、発表などをする内容でした。 ただ、久しぶりすぎる学生生活のカムバック。 歳を取ったからといって昔の学習態度がアップデートされているわけではなく、集中力を保ち続けるのが昔と変わらず大変でした(笑)。がんばって勉強している学生さんを尊敬します。 なによりも、頭に流れ込んでくる韓国語の量に圧倒されちゃいました。 日本で韓国語を勉強していると、文法や単語は日本語で説明してもらえるので、その部分まで韓国語だともう大混乱。 初めのほうは言われていることもわからない、話したいことがまったく韓国語で浮かばない、浮かんだとしても声に出せない。これぞお先真っ暗。 心温かいまわりの生徒さんに助けてもらうことで、やっと生きられるといった感じでした。トホホ。 そしてこの超短期留学は、ただ学ぶだけではなく、プログラムが工夫されていて、漢陽大学の生徒さんとお話しできる機会がありました。 鍋を囲みながら こちらが拙い韓国語で話しても、ニコニコお話ししてくれて、学生生活だったり、おすすめスポットだったり、ちょっとした日々の愚痴だったり(笑)。 学生ならではの他愛もない話の内容や雰囲気がすごく懐かしくて、でも韓国語だから新鮮に感じて……不思議な感覚だったなぁ。 後日、学生さんが「日本語を学び始めた」とSNSに掲載していたのがすごくすごくうれしかったです。 昼食は学食で食べました! 韓国の大学で学食を食べるなんて……夢かな。 韓国ドラマかな。ヒロインかな(え?)。 石鍋で提供されるのが韓国っぽいなと感じたんですが、いかがですか? おいしかったです とてつもなく広く自然豊かなキャンパス内を散策していたら、 この鳥、カラスではないんです。 韓国の国鳥「カッチ」です。 見かけたら幸運が訪れるらしい……。 やっと慣れてきて、前より少し韓国語を理解できたり話せたりするかも……? で、あっという間に最終日。 最後には修了証までいただきました。 4日間講義をしてくださったチェ先生 キム・スノク先生、カムサハムニダ たった4日間ではありましたが、ぎゅっと濃い時間で、きっとこのあともずっと記憶される日々です。 帰り道は達成感と寂しさと……まるで卒業式の帰り道のような気持ちでした。 アン・ボヒョンのファンミでも「韓国語が聞き取れた…!」 あと、実はこの学習期間にちゃっかり、ファンミーティングに参加する予定を入れていました。 俳優のアン・ボヒョン(*2)さんです。 韓国開催なので、もちろんオール韓国語。 ファンミはゲームなどもあるので、韓国語がわからなかったら……と不安もありましたが 学習の成果なのか、もちろんすべてではないですが聞き取れたり、頭の中で訳するスピードもギリギリ間に合ったりと、楽しめました! 現地で学んだという実感を得ることができて、すごくうれしかったです。 そして、アン・ボヒョンさんは韓国で会っても日本で会っても、素晴らしく素敵。 「学びたい」意欲が、勉強が苦手だった自分を変えた 今回は書きたい気持ちが前のめりで、長くなってしまいました……。 ところどころ大変だった感じに書いていますが、やっぱり好きなことなので、つらいといった感情はまったくなかったです。 あと、勉強をやらされているわけではなく、自分の意思で学びに来ているので、自分でも驚くほど意欲的に勉強できたように感じました。これが社会人になって勉強することの醍醐味なのかもしれません。 今回のメンバーには、私より年上の方もいらっしゃって、学習への前向きな姿勢や、韓国語における美しい言葉の選び方、知的で深みのある文章の作り方に触れ、この先を照らされたような感じがして感銘を覚えました。 私も長く韓国語を学び続けたいな、と。 大学のキャラクターと 久しぶりの学生生活に疲れて、ほぼ観光らしい観光はできなかったのですが、訪れてよかった場所などは今度ご紹介させてください。 超短期留学から帰ってきて、今後の日本での学習プランを考え直し、最近は韓国語の会話授業に参加しています! もっと語彙を増やして、ナチュラルに話せるようになりたいです! 林美桜のチョアチョア♡メモ *1/漢陽大学 漢陽大駅直結という、立地条件も魅力的なキャンパス。今流行りの聖水(ソンス)にも近いので観光も楽しめました。語学堂の先生、スタッフの皆様がとても温かくて、アットホームで過ごしやすかったです。広いキャンパスはなんでもそろっていて、困ることがありませんでした! 規模が小さい女子大に通っていた私は、短期間でしたが大きい大学に通えたのがめちゃくちゃうれしかったです。これぞキャンパスライフという感じでした *2/アン・ボヒョン 『梨泰院クラス』や『ユミの細胞たち』、『生まれ変わってもよろしく』など、このほかにも代表作はたくさん。どんな役もハマる天才的な俳優さんです。えくぼが素敵 文=林 美桜 編集=高橋千里
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RIIZEが登場『M:ZINE』と一緒に成長したい!MC・林美桜の新たな決意|「林美桜のK-POP沼ガール」第15回
「林 美桜のK-POP沼ガール」 K-POPガチオタク・林美桜テレビ朝日アナウンサーの沼落ちコラム お久しぶりです。最近、誕生日を迎えまして、30歳になりました。 なんだか文字にすると急に実感が湧くのが不思議。K-POPファン歴はこれで人生の半分くらいになるのか……! ファン歴がどんどん伸びていくんだと思えば、歳を取るのも悪くないかもしれないです(笑)。 季節の変わり目で忙しく、なかなかライブに行けない日々が続いていますが…… 私がMCを務める新番組『M:ZINE』が始まりました! 『M:ZINE』とは…… アーティストの方、芸人さん、私が、「ZINE」(同人雑誌)の編集スタッフとして ひと組のアーティストの特集記事を作っていくというコンセプトの音楽バラエティです。 記念すべき第1回のゲストには、今大注目のボーイズグループ「RIIZE」(ライズ)(*1)をお迎えしています。 そして編集スタッフには、韓国語がお得意なMrs. GREEN APPLEの若井滉斗さん、マヂカルラブリーの村上さん! 豪華すぎます!! まさか私が!? 新番組へのプレッシャーと下準備 今回、この番組の企画の話を聞いたときは、 K-POPと初めて出会った高校時代から、今までの推し活の記憶が脳内に降り注いで、思い出再生以外のすべての機能が停止。 ああ、あのときの……ハイタッチ…… K-POPで哲学した卒論…… 韓国でJ.Y.Parkさんに手を振ったあの日…… 一気に巡って、一瞬窒息するくらい驚きました。 うれしかったのも束の間、襲ってきたのは、全身が埋め尽くされるほどの不安。 私なんかに務まるのか。だけど、やるからには精いっぱいがんばって番組に貢献したい! 収録までに、日本の地上波番組、公式YouTube、音楽番組、SNSのファンの声を集めるなど、今の自分にできる限りの下準備をしました。 ミセス若井×RIIZEの特別コラボに感動! 迎えた収録当日。 RIIZEのみなさん、目が覚めるほどのキラキラしたオーラをまとわれていて、心が洗われるほど礼儀正しくて……(泣)。 収録の序盤は、私をはじめ番組スタッフの緊張感が半端なかったのですが、 RIIZEのみなさんのあたたかい存在、丁寧な受け答えに早い段階で緊張がほぐれ、 終始和やかなムードでした。 すべてがおすすめのシーンなんですが、 中でも若井さんとRIIZEの特別コラボ『Get A Guitar』が最高でした!! 若井さんのギター演奏に合わせて、ショウタロウさん・ウォンビンさんがキレッキレのパフォーマンス。 初めて合わせたと思えないほど息ピッタリでした。 若井さんの弾き姿と音色、軽やかに舞うおふたりに、村上さんと一緒にうっとり。 「私は今、ものすごい瞬間を目撃している」と直感しました。 全K-POPファンに観ていただきたいシーンです。 「見たい・知りたい・聞きたい」を叶えられる番組に 収録後、私はナレーションも担当しているので、 放送の少し前に、ナレーションをつけながら内容を観ることができるんですが、 センスが光るパワーワードの数々、表情一つひとつに 時折ナレーションをつけ忘れるくらい見入っちゃう。 ただ一方で、自分に着目すると、 なんでもっとうまい返しができないのか、あの質問はもっとこうすべきだったよね、何回同じリアクションを……。 弱々しいワードの連発に、完全に自分の中の“陰モード”に引きずり込まれ……。 脳内大反省会。 でも、こんなふうになってしまうのも、K-POPが大好きで、番組を楽しみにご覧になる視聴者の皆様と同じく、私自身も推し活に命を注いでいるからだと思います。 初めて聞く推しのエピソード、見たことのないリアクション、出演者とのかけ合い。 そんなものが見られた日には、元気に学校へ行けたり、仕事がつらくても踏ん張れたあのときの私を思い出して…… 観てくださる皆様の「見たい・知りたい・聞きたい」を叶えられる番組にしたい、その中で少しでも役に立ちたいと思ったんです。 下調べ、話の聞き方、話し方、タイミング。 アナウンサーの原点に立ち帰って精進。 反省は必ず次に活かす。 番組と一緒になるべく早く、成長していきたいです! 林美桜のチョアチョア♡メモ *1/RIIZE 2023年9月にデビュー。デビュー曲「Get A Guitar」が1週間でミリオンセラーを突破するなど、世界が注目するアーティストです! 抜群のパフォーマンス力、圧巻です。ぜひMVを観てから『M:ZINE』をご覧ください。ギャップがたまりません INFORMATION テレビ朝日『M:ZINE』 毎週金曜深夜1:30〜放送CSテレ朝チャンネル1(有料放送) 『M:ZINE 完全版~K-POPアーティストRIIZEの魅力大全開SP』 4月28日(日)12:00~13:30放送 ※3回にわたって放送された地上波回に、未公開を加えた番組 文=林 美桜 編集=高橋千里
奥森皐月の喫茶礼賛
喫茶店巡りが趣味の奥森皐月。今気になるお店を訪れ、その魅力と味わいをレポート
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あんみつコーヒーのおいしさに震える!マジシャン店主の想いを継ぐ「世田谷邪宗門」|「奥森皐月の喫茶礼賛」第7杯
「奥森皐月の喫茶礼賛」 喫茶店巡りが趣味の奥森皐月。今気になるお店を訪れ、その魅力と味わいをレポート 雨はあまり好きではないが、街に人が少なくなるところは好きだ。 傘をさしながら散歩をして、長靴を履いてこなかった自分を呪いながら飲むコーヒーはとてもおいしい。平日で雨の日の喫茶店なんて、一番静かで落ち着く。 濡れることや疲れることのマイナスを、雨の日にしか味わえない空気から得られる楽しさが上回ることのほうが多い。 だから雨のときは思いきって外に出ることにしている。たまに、雨だし、行こうと思っていた喫茶店も閉まっていたし、のようなさんざんな日もあるけれど。 ちなみに、今の時期こそ行きたいお店といえば、高円寺の名曲喫茶ネルケンだろう。先日久しぶりに一杯コーヒーを飲みに行ったが、店先の紫陽花は今年もきれいだった。 まるで資料館? 凄まじい骨董品の数々 さて、今回訪れたのは、下北沢と三軒茶屋のちょうど間あたりの住宅街にある喫茶店。1965年創業の老舗「世田谷邪宗門(じゃしゅうもん)」さんだ。 閑静な通りで、レンガの壁が目印のこのお店。扉を開けお店に入った瞬間、思わず息を呑んだ。一歩足を踏み入れると、アンティークの品々が所狭しと並んでいる。 喫茶店で見るアンティーク調のランプが私は大好きなのだが、この「世田谷邪宗門」は天井から数えきれないほどのランプが吊り下げられている。見ているだけで胸が高鳴る。 メニューはシンプルで、バリエーション豊かなコーヒーと、紅茶やココアやジュースなどのドリンク。ライトミールとして3種類のトースト、ケーキがある。 その中で唯一見たことのない「あんみつコーヒー」というメニューがあった。これは世田谷邪宗門名物で、あんみつコーヒー目当てで訪れるお客さんや取材も多いとのこと。味の想像ができなかったので、楽しみにしながら注文した。 それにしても、店内の骨董品が凄まじい。古いカメラがたくさんあったり、古い電話機があったり、壁には火縄銃がたくさんかかっている。 これは、喫茶店の内装のアンティーク品の範疇を大きく超えている。どちらかといえば資料館のようだ。 これまでいろいろな喫茶店を巡ってきたが、過去一番くらいにキョロキョロあたりを見回した。どこもかしこも気になる代物ばかり。 世田谷邪宗門名物「あんみつコーヒー」が絶品! あんみつコーヒーが登場した。たっぷりの寒天の上に、あんことバニラアイスが乗っている。別の器に入っているのが冷たいコーヒーで、生クリームもついている。 このあんみつコーヒーは、黒蜜の代わりにコーヒーをかけるというスイーツ。まずはコーヒーを全部かけて、あんこを少し溶かしてかき混ぜてからアイスクリームと合わせて食べるのがおすすめとのことだ。 あんことバニラアイスの甘さにコーヒーのいい香りと苦味が相まって、ひと口食べただけで震えるようなおいしさ。寒天なので、コーヒーゼリーよりももっと弾力があるのもよい。 あんことコーヒーの相性のよさに舌鼓を打った。これから暑くなるのにピッタリのメニュー。 アイスクリームが溶けてきたころに生クリームも加えて混ぜると、よりまろやかな味わいになる。寒天を食べきったあとに、お椀に残ったクリーム入りのコーヒーも飲み干した。 クリームあんみつはたまに最後のほうで甘みが強く感じられてしまうことがあると思っていたのだが、このあんみつコーヒーは最後の最後までおいしくいただける。 絶対にこの夏はもう一度、なんならもっと食べたいと感じた。 全国5店舗、暖簾分けの条件は「店主がマジシャンであること」 今回お話を聞かせていただいたのは、店主の息子さん。店主さんは今年90歳とのことで、お体のこともあり、今は息子さんがお店にいらっしゃることが多いそうだ。 「邪宗門」というかなり印象的な店名だが、実はこの名前の喫茶店は全国に5店舗ある。そのうち「荻窪邪宗門」は私も何度も行っているお気に入りのお店だ。 世田谷にもあるということを知って、いつか行ってみたいと思っていたので、今回訪れることができてうれしい。 ちなみにほか3店舗は、静岡県の下田、新潟県の石打、富山県の高岡で営業しているそうだ。邪宗門巡りの旅をいつかしてみたい。 邪宗門の始まりは東京の国立で、おいしいコーヒーと骨董品のある、多くの人に愛された喫茶店だったそうだ。創業者の名和孝年さんはマジシャンでもあり、そのコーヒーとマジックに心を奪われた人も多数。 いつからか、その常連客が暖簾(のれん)分けというかたちで、各地に「邪宗門」と名のつく喫茶店を開いたそう。「邪宗門を名乗るには、店主がマジシャンであること」という特殊な条件がついていたとのことだ。 最大で8店舗あった邪宗門は、店主8人が全員マジシャン。なんだかマンガや物語のようだが、実際に、世田谷邪宗門の主人もマジシャンだという。以前はお店でマジックを披露することもしばしばあったそう。 ちなみに邪宗門の店主は「門主」というらしく、昔は1カ月に一度ほど「門主会」という集まりも開かれていたらしい。 その話を聞いて、「マジックができる邪宗門の門主たち」という響きから、秘密結社のようなものを想像してしまった。実際はみんなで楽しく遊んでいたとのことだ。 現在営業している邪宗門は、門主のご夫人やご子息などがお店を切り盛りしているところが多いので、なかなかマジックをお目にかかれる機会はなさそう。それでもワクワクする響きのお話だと思った。 西荻窪の「物豆奇」は、世田谷邪宗門の姉妹店! 店主の息子さんと喫茶店についてお話ししていたとき、私は西荻窪の「物豆奇」(ものずき)というお店が好きだと何気なく言った。すると、「物豆奇はここの姉妹店なんだよ」という衝撃の事実を教えてくださった。 たしかにそこも店内にアンティークが置いてあり、壁にもたくさんかかっている雰囲気がどことなく似ているのだが、私はまったく知らなかったので驚いた。 物豆奇の店主と世田谷邪宗門の店主は、今でも交流があるそうだ。最近少しずつわかってきたのだが、喫茶店は意外と横のつながりがあるらしく、それもおもしろい。 物豆奇の店主もまた国立邪宗門のファンだったそう。そこで邪宗門という喫茶店を開こうとしたが、その方はマジシャンではなかったため邪宗門は名乗れなかったらしい。ここまでおもしろいエピソードが聞けるとは思っていなかったので、思わず笑ってしまった。 ただ、国立邪宗門の雰囲気を強く受け継いでいるのは物豆奇とのこと。国立はもう閉店してしまっていて行くことができないので、今度西荻窪に行ったら物豆奇にまた必ず行こうと思った。 歴史あるインテリアで、半世紀前にタイムスリップ? 昔は今ほど骨董品が高価ではなかったそうで、そのころに店主は次々に買いそろえてお店に置いていったそうだ。 店の奥には奥様の趣味の音楽のものも並んでいる。ジュークボックスが置いてある場所も、今はなかなかないと思うので、貴重で見ていて楽しい。 扇風機は半世紀ほど前からあるもので、いまだに動くそう。きちんと稼働していて、古くからのものが大切に使われ続けているのは本当に素敵だと思った。 ピンクの電話も現役だそうで、世田谷邪宗門に電話をかけると、ここにかかってくるらしい。私の世代はダイヤル式の使い方も知らない。かくいう私も実際にダイヤル式の電話機で電話をしたことはない。タイムスリップしたような体験ができるかも。 世田谷邪宗門はアニメの聖地にもなっていて、そのアニメのファンや海外からもお客さんが訪れるそう。 それでも常連さんが来られることを大切にしているとのことで、この取材の日も常連さんがいらした。お店の人かと思うくらいに、邪宗門や喫茶店のお話をしてくださって、とても楽しい時間だった。 “好き”を貫く精神が、居心地のよさの理由 そういえば、邪宗門の暖簾分けの条件はもうひとつだけあったそうだ。それは「お金儲けに走らないこと」。 “好き”を貫いてお店を営業している精神が邪宗門からは感じられる。だからこそ味わえる居心地のよさがきっとある。 街の中の一枚の扉を開くだけで、こんなにも素敵な世界が広がっているということがなんだか幸せ。ひと休みにも、ちょっとした現実逃避にもいいかもしれない。 下北沢や三軒茶屋から歩いて世田谷の街を楽しみ、このお店まで行ってみてはいかがだろうか。 次回もまたどこかの喫茶店で。ごちそうさまでした。 世田谷邪宗門 平日:9時〜17時、土日:9時〜18時、水木:定休日 東京都世田谷区代田1-31-1 世田谷代田駅から徒歩11分 文・写真=奥森皐月 編集=高橋千里
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“談話室中毒”になりそう!具だくさんナポリタンが人気の「談話室 ニュートーキョー」|「奥森皐月の喫茶礼賛」第6杯
「奥森皐月の喫茶礼賛」 喫茶店巡りが趣味の奥森皐月。今気になるお店を訪れ、その魅力と味わいをレポート 喫茶店での過ごし方は無限にあると思う。以前までの私は「喫茶店に行く」ということ自体が楽しく、反対にいえば足を運んだ時点で目的が達成されてしまっていた。最近になってようやく「どう過ごすか」ということを考えるようになってきた。 音楽喫茶であれば、ひとりでゆったりと音楽を楽しむ時間を過ごすということが目的になる。モーニングで新聞を読んでみたり、昼下がりに読書してみたり、店内でうっすら流れるラジオを聴きながら人を待ってみたり。 喫茶店というのは10人いれば10通りの過ごし方があるからおもしろいのかもしれないと思い始めた。 エスカレーターで2階に上がる「談話室 ニュートーキョー」 今回はJR日暮里駅東口から徒歩1分、駅前のロータリーの前にある「カフェ&レストラン談話室 ニュートーキョー」さんを訪れた。 通り沿いのショーケースに並ぶメニューがどれもおいしそうで、お店に入る前から何を食べようかとワクワクする。 お店がある2階へはエスカレーターに乗っていく。過去に数えるほどしか見たことがないが、2階にある喫茶室へ向かうためだけのエスカレーターはかわいらしさがある。昭和の時代からあるビルに多い印象だ。レトロモダンを感じられてよい。 店内に入るとその幽玄な景色に圧倒される。ビルの2階のワンフロアは丸々この「談話室 ニュートーキョー」で、なんと客席は160席。平日の昼時もとうに過ぎたころだったが、店内では食事やお茶をしているお客さんで賑わっていた。 大理石の壁や赤い絨毯(じゅうたん)、各テーブル席の間の木製の柵に、ゴージャスなシャンデリア。欲しいものが全部詰まっているような、喫茶店らしさであふれる店内。 そしてなにより、木をベースに柄のある赤いベルベット調の生地が張られた椅子がすべての席にある。ひとりがけもソファ席もすべてこの素材。 昭和の雰囲気は感じられるが、清潔感がありピカピカとしている、とても過ごしやすい店内だ。 具だくさんのナポリタンをペロリと完食! 午前11時から午後2時まではランチタイム。 私が訪れたときはランチの時間は過ぎていたが、午後2時からラストオーダーの午後8時25分まで、「サービスメニュー」としてハンバーグやロースカツの定食セットがいただける。プラス110円でドリンクをつけることも可能。 夜ご飯の時間にも食べられることも含めて、とても良心的だ。ちなみに平日は7時から11時まで、土日祝日は8時から11時まで、モーニングの営業もある。 私はグランドメニューの「下町のエビ入りナポリタン」を注文した。銀のお皿がたまらない。 ナポリタンにエビが入っているのは初めてだったが、これがとてもおいしかった。定番のウインナーももちろん入っており、具だくさん。さらにゆで卵が上に乗せられているのがよい。かわいらしくてキュンとしてしまう。 ソースの味も絶妙で、最初に見たときはかなりボリューミーに感じたが、あっという間にペロリと完食してしまった。 これはナポリタンの特集でも紹介されるほどの名品だそうで、お客さんからの人気も高いメニューとのこと。ちなみにテイクアウトもできる。 アイスコーヒーはすっきりとした苦味のある味わい。ひと口飲むと落ち着いた気持ちになり、談話室の空気に溶け込むような感覚があった。コースターもお店のオリジナルで素敵だ。 店内にある絵をぼんやりと眺めたり、店内の音楽に耳を傾けたりして、食後のひとときを過ごした。いつまでもいたくなるような空間だ。 ほぼ毎日来店する“談話室中毒”のお客さんも このお店について、店長さんにお話を伺った。 「談話室 ニュートーキョー」としての営業は45年近く続いており、店長さんも30年ほどお仕事されているとのこと。 談話室は地元の人に愛され続けている喫茶店で、常連さんも多いそうだ。365日のうち340日ほど来店する“談話室中毒”といってもいいお客さんもいるとのこと。 年中無休で朝から夜まで営業しているから、どんなシーンでも訪れることができる。仕事に行く前のモーニングや、誰かと会うときにお茶をするなど、日常の一部になる喫茶店だ。 「ニュートーキョー」というのは会社の名前で、もともとはこの日暮里駅前のビルの1階でパチンコ店を営んでいたそうだ。そしてその2階は喫茶室として営業していた。さらに上の階には宿泊施設があったらしい。 昔はそのような形態で営業しているところが多かったと店長さんがおっしゃっていた。たしかに、先に記した「エスカレーターで行く2階の喫茶室」は、ほかもまったく同じように、下がパチンコ店で上が宿泊施設だったことを思い出して、なんだかスッキリした。 時代が流れていくうちにパチンコ店などはなくなってしまったそうなのだが、この談話室だけは残り続けて、令和の今もたくさんの人が訪れるお店として営業している。 日暮里駅や駅前も開発で変わっていったらしい。そのなかで、この談話室は変わらず存在しているというのが歴史を味わえて素敵だと感じた。 駅前ロータリーが見える大きな窓は“談話室の顔” 店内は何度か改装はしていて、席の生地の張り替えなどもしているそう。しかし、壁やシャンデリアや銅のテーブルは開店当初からずっと使い続けているとのこと。 長持ちするものが大切に守られているというのは、喫茶店のよいところだと思う。そのような細やかなことが空間全体の温かみにつながっているのではないだろうか。 駅前を見渡せる大きな窓。やはりこの窓際の席は人気らしく、「あそこに座りたい」というお客さんも多いそう。 お店の端にいても窓がちらりと見えて、光が差し込んでいることがわかる。この大きな窓は“談話室の顔”ともいえるかもしれない。 日暮里散策と談話室がセットで楽しめる 日暮里という土地に、正直私はなじみがなかったのだが、店長さんいわく谷中霊園や繊維街に訪れる人が多いとのこと。そのため、霊園や繊維街の帰りにこの談話室に立ち寄るお客さんもいる。 日暮里という街に訪れることと、談話室に寄ることがセットになっている人がたくさんいるのも、やはりこのお店が何度も行きたくなる落ち着きのある空間だからなのではないかと思う。 街や時代が移り変わるなかで、試行錯誤を重ねながら続いてきた「カフェ&レストラン談話室 ニュートーキョー」。最近ではコロナ禍での営業など大きな困難もあったが、談話室は街の人をはじめ多くの人に愛されている。 朝も昼も夜も、お茶もお食事も。いつどんなときもお客さんを温かく受け入れる。近くに行った際はぜひ訪れてほしいし、談話室に行くついでに日暮里を散策してみてもいいだろう。 私も帰りがけに初めて繊維街を訪れたが、なかなか楽しかった。谷中もまた違った趣がある。一度この街とお店に足を運んでみてはいかがだろうか。 次回もまたどこかの喫茶店で。ごちそうさまでした。 カフェ&レストラン談話室 ニュートーキョー 平日:7時〜21時、土日祝:8時〜21時 東京都荒川区西日暮里2-19-4 ニュートーキョービル2階 日暮里駅から徒歩1分 文・写真=奥森皐月 編集=高橋千里
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地下で出会った“想像以上のオムライス”とは? 44年の歴史に新しさを取り入れる「カフェレストラン 泥人形」|「奥森皐月の喫茶礼賛」第5杯
「奥森皐月の喫茶礼賛」 喫茶店巡りが趣味の奥森皐月。今気になるお店を訪れ、その魅力と味わいをレポート “喫茶店巡り”という趣味をとても気に入っている。手軽に始められて、場所にも時間にも縛られず、好きなようにできるからだ。 仕事や旅行で普段は行かない遠い土地を訪れたときに、そこで喫茶店を探して入るのも楽しい。店員さんが何かを教えてくれたり、地元の人と話せたりと、人との触れ合いが生まれるところも魅力だと思う。 唯一難しいのは、お店がなくなってしまうこと。行こうと思っていた店がさまざまな事情で閉店していく。行きたいなぁと思うだけでは仕方ないので、いつも少し焦りながらあちこちを巡る日々だ。 新しいものは次々と増えるが、古いものが急に増えることはない。それも魅力ではある。 地下にひっそり佇む、レンガ壁の「泥人形」 今回訪れたのは千駄ヶ谷駅と北参道駅どちらからも徒歩5分以内の、通りに面したお店。「カフェレストラン 泥人形」さんだ。 「泥人形」と大きく描かれた看板が目につく。レンガ壁の階段を下り、お店のある地下1階へと向かう。 お店に入ってすぐ、その雰囲気に圧倒された。木製のテーブルと椅子に、レンガが積まれた壁、ほどよい明るさで包まれた空間は落ち着きと安心を感じられる。 お昼時も過ぎた時間ではあったが、店内は談笑するグループやひとりでくつろぐお客さんなどで賑わっていた。 なによりお店の中央天井にあるステンドグラスが目につく。人物やバラなどが描かれたステンドグラスは温かな光で照らされており、引き込まれるような魅力があった。 ボリューム満点!フワトロオムライスの風味にびっくり 席に着く。星座のマークが刻まれたおしゃれな椅子は、背面と座面がグレーとも茶色ともいえない絶妙な色のベルベット調生地。素敵な椅子に座るとそれだけで気分が上がる。 ランチが注文できるとのことで、人気だというオムライスとアイスコーヒーをセットで注文。ほかにもナポリタンと日替わりランチが人気とのこと。どれもおいしそうで、近くで働いていたら毎日好きなメニューを頼みたいなぁ、なんて思った。 オムライスはフワトロタイプの卵にたっぷりのケチャップ。どう写真を撮ってもなかなか伝わりきらなさそうだったのだが、想像以上にボリューム満点。腹ペコのときに食べに行くのがよさそうだ。お味噌汁がついてくるのもうれしい。 ひと口食べるととろけるような卵がとてもおいしい。ケチャップライスに少し変わった風味を感じたので、もうひと口食べてみて驚いた。イカやエビが入っている。シーフードのケチャップライスだ。 ベーコンなども入っていて具だくさんで最高。お腹いっぱいになるまで食べられて大満足だった。 コーヒーはすっきりとしていながらも苦味を感じられて、食後にピッタリ。もうアイスの季節だ。銅のタンブラーは春の訪れ。 楽しくおしゃべりをしているお客さんたちの雰囲気がよく、つい長居したくなってしまうような居心地のよさがある。 歴史ある喫茶店だが、Wi-Fi使用OK! ご夫婦で営まれているとのことで、おかみさんにお話を伺った。 1980年にオープンした泥人形は今年で44周年。当時20代だったご夫婦は、それ以前のお仕事を辞めて喫茶店を始めることにしたそう。 ずっと喫茶店をやりたいと思っていたのかと尋ねると「別にやりたかったわけではない、私は美術系のことをしていたし」と意外な返答をいただいた。それでも、なんとなく喫茶店をやるといいのではないかとピンときて始めたとのことだ。 それで半世紀近く、たくさんの人に愛されるお店になっているのだから、おかみさんの鋭い勘に圧倒された。 美術系の経験があったことを活かし、内装などのプロデュースはすべてオープン時におかみさんがしたとのこと。壁から床板から家具まで統一感があり、世界観がしっかりとしている印象だったのだが、これらはおかみさんの細やかなこだわりだった。 家具などは、ほとんどがオープン当初から変わらないとのこと。唯一電話ボックスだけ撤去されたそうだが、「TELEPHONE」と書かれたガラスにその名残が感じられる。 ひとつ驚いたのは、お店の中でWi-Fiが使えること。なかなか喫茶店でWi-Fiを使えるところはなく、パソコンなどの利用を禁止としているお店もよく見かけるのでかなりびっくりした。 「サクサクインターネット見られるほうがいいでしょ、パソコンで仕事している人もよく来るのよ」とおっしゃっていて、新しさを取り入れたり変化したりすることを拒まないその姿がかっこいいと感じた。 愛され続ける「泥人形」店名の由来 泥人形は、ドラマや映画などの撮影やロケでもよく使われているとのこと。取材NGだったり、一般のお客さんの写真撮影を禁止したりしている喫茶店も少なくないが、このお店はそれらも積極的に受け入れているようだ。 また、雰囲気のいいお店ではあるが、お子さんも大歓迎だという。おかみさんがお孫さんのお世話をしていた時期が長かったそうで、小さな子やその家族も安心して過ごせる喫茶店でありたいという優しい心遣いを知ることができた。 お店のすぐ隣に能楽堂があるため、その関係者の方や著名人も多く訪れるそう。どんな人でも温かく迎え入れるところも、長きにわたってお店が愛される秘訣であろう。 インパクトの強い「泥人形」という名前も、おかみさんがつけたそう。初めはご主人が反対していたとのことだが、お客さんから「どろんこ」などと呼ばれ、愛され続けている名前のようだ。 “泥”というと少しマイナスなイメージがあるが、土から生まれ土に還るように中に入ってみると落ち着く場所。お店が地下なこともあり、一歩踏み入れると安心できる空間だという意味もあるそうだ。 昔は店内に人形も置いていたとのことだが、今は特に置かれていなかった。 「やりたいことがあったら今やらないと」おかみさんの若きポテンシャル お店のメニューも、おかみさんがイチからパソコンで作ったものらしい。人に頼むより、自分で学んで、思い描くとおりのものを作っているようだ。 全部自分で作っていてこだわりがすごいですね、と言ったところ「だって自分の店だもん」とおっしゃっていた。 こだわりを持ちながらも常にアンテナを張り、何が必要で何が不要かを吟味して取捨選択しながら進化していく。なかなかまねはできない。本当に素敵な方だと感じた。 時代の流れは早いから、やりたいことがあったら今やらないと。置いていかれる前にまず行動する、そこから考えてみればいい。というようなことを話していただいた。 見た目も中身も若々しくアグレッシブなおかみさんからは学ぶことがたくさんあり、またお話をしてみたいと感じた。 偶然にも私と誕生日が同じだということがわかって、それも盛り上がった。魅力的な方が営んでいる店はやはり魅力にあふれている。 半世紀近く続く愛にあふれた都会のオアシス。誰かとランチをしに行くときにも、ひとりで何かに集中したいときにも立ち寄れる「カフェレストラン 泥人形」。 ぜひ一度は足を運んでみてほしい。次回もまたどこかの喫茶店で。ごちそうさまでした。 カフェレストラン 泥人形 10時〜19時 日曜日は定休日 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-20-2 地下1階 千駄ヶ谷駅から徒歩5分 北参道駅から徒歩5分 文・写真=奥森皐月 編集=高橋千里
奥森皐月の公私混同<収録後記>
「logirl」で毎週配信中の『奥森皐月の公私混同』。そのスピンオフのテキスト版として、MCの奥森皐月が自ら執筆する連載コラム
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涙の最終回!? 2年半の思い出を振り返る|『奥森皐月の公私混同<収録後記>』第30回
転んでも泣きません、大人です。奥森皐月です。 この記事では私がMCを務める番組『奥森皐月の公私混同』の収録後記として、番組収録のウラ話や収録を通して感じたことを毎月書いています。今回の記事で最終回。 『奥森皐月の公私混同〜ソレ、私に教えてください!〜』の9月に配信された第41回から最終回までの振り返りです。 月額990円ですが、logirlに加入すれば最新回までのエピソードがすべて視聴できます。過去回でおもしろいものは数えきれぬほどあるので、興味がある方はぜひ観ていただきたいです。 「見せたい景色がある」展望タワーの存在意義 (写真:奥森皐月の公私混同 第41回「タワー、私に教えてください!」) 第41回のテーマは「タワー、教えてください!」。ゲストに展望タワー・展望台マニアのかねだひろさんにお越しいただきました。 タワーと聞いてやはり思い浮かべるのは、東京タワーやスカイツリー。建築のすごさや造形美を楽しんでいるのだろうかとなんとなく考えていました。ところが、お話を聞いてみるとタワーという概念自体が覆されました。 かねださんご自身のタワーとの出会いのお話が本当におもしろかったです。20代で国内を旅行するようになり、新潟県で偶然バス停として見つけた「日本海タワー」に興味を持って行ってみたとのこと。 実際の画像を私も見ましたが、思っているタワーとはまったく違う建物。細長くて高い、あのタワーではありません。ただ、ここで見た景色をきっかけにまた別のタワーに行き、タワーの魅力にハマっていったそうです。 その土地を見渡したときに初めてその土地をわかったような気がした、というお話がとても素敵だと感じました。 たとえば京都旅行に行ったとして、金閣寺や清水寺など名所を回ることはあります。ただ、それはあくまでも京都の中の観光地に行っただけであって「京都府」を楽しんだとはいえないと、前から少し思っていました。 そこでタワーのよさが刺さった。たしかに、その地域や都市を広く見渡すことができれば気づきがたくさんあると思います。 もちろん造形的な楽しみ方もされているようでしたが、展望タワーからの景色というものはほかでは味わえない魅力があります。 かねださんが「そこに展望タワーがあるということは、見せたい景色がある」というようなことをお話しされていたのにも感銘を受けました。 いわゆる“高さのあるタワー”ではないところの展望台などは少し盛り上がりに欠けるのではないか、なんて思ってしまっていたけれど、その施設がある時点でその景色を見せたいという意思がありますね。 有効期限がたった1年の、全国の19タワーを巡るスタンプラリーを毎年されているという話も興味深かったです。最初の印象としては、一度訪れたところに何度も行くことの楽しみがよくわからなかったです。 でも、天気や季節、建物が壊されたり新しく建築されたりと常に変化していて「一度として同じ景色はない」というお話を聞いて納得しました。タワーはずっと同じ場所にあるのだから、まさに定点観測ですよね。 今後旅行に行くときはその近くのタワーに行ってみようと思いましたし、足を運んだことのある東京タワーやスカイツリーにもまた行こうと思いました。 収録後、速攻でかねださんの著書『日本展望タワー大全』を購入しました。最近も、小規模ではありますが2度、展望台に行きました。展望タワーの世界に着々と引き込まれています。 究極のパフェは、もはや芸術作品!? (写真:奥森皐月の公私混同 第42回「パフェ、私に教えてください!」) 第42回は、ゲストにパフェ愛好家の東雲郁さんにお越しいただき「パフェ、教えてください!」のテーマでお送りしました。 ここ数年パフェがブームになっている印象でしたが、流行りのパフェについてはあまり知識がありませんでした。 このような記事を書くときはたいていファミレスに行くので、そこでパフェを食べることがしばしばあります。あとは、純喫茶でどうしても気になったときだけは頼みます。ただ、重たいので本当にたまにしか食べないものという存在です。 東雲さんはもともとアイス好きとのことで、なんとアイスのメーカーに勤めていた経験もあるとのこと。〇〇好きの範疇を超えています。 そのころにパフェ用のアイスの開発などに携わり、そこからパフェのほうに関心が向いたそうです。お仕事がキッカケという意外な入口でした。それと同時に、パフェ専用のアイスというものがあるのも、意識したことがなかったので少し驚かされました。 最近のこだわり抜かれたパフェは“構成表”なるものがついてくるそう。パフェの写真やイラストに線が引かれていて、一つひとつのパーツがなんなのか説明が書かれているのです。 昔ながらの、チョコソース、バニラソフトクリーム、コーンフレークのように、見てわかるもので作られていない。野菜のソルベやスパイスのソースなど、本当に複雑なパーツが何十種も組み合わさってひとつのパフェになっている。 実際の構成表を見せていただきましたが、もはや読んでもなんなのかわからなかったです。「桃のアイス」とかならわかるのですが、「〇〇の〇〇」で上の句も下の句もわからないやつがありました。 ビスキュイとかクランブルとか、それは食べられるやつですか?と思ってしまいます。難しい世界だ。難しいのにおいしいのでしょうね。 ランキングのコーナーでは「パフェの概念が変わる東京パフェベスト3」をご紹介いただきました。どのお店も本当においしそうでしたが、写真で見ても圧倒される美しさ。もはや芸術作品の域で、ほかのスイーツにはない見た目の豪華さも魅力だよなと感じさせられました。 予約が取れないどころか普段は営業していないお店まであるそうで、究極のパフェのすごさを感じるランキングでした。何かを成し遂げたらごほうびとして行きたいです。 マニアだからとはいえ、東雲さんは1日に何軒もハシゴすることもあるとのこと。破産しない程度に、私も贅沢なパフェを食べられたらと思います。 1年間を振り返ったベスト3を作成! (写真:奥森皐月の公私混同 第43回「1年間を振り返り 〇〇ベスト3」) 第43回のテーマは「1年間を振り返り 〇〇ベスト3」ということで、久しぶりのラジオ回。昨年の10月からゲストをお招きして、あるテーマについて教えてもらうスタイルになったので、まるまる1年分あれこれ話しながら振り返りました。 リスナーからも「ソレ、私に教えてください!」というテーマで1年の感想や思い出などを送ってもらいましたが、印象的な回がわりと被っていて、みんな同じような気持ちだったのだなとうれしい気持ちになりました。 スタートして4回のうち2回が可児正さんと高木払いさんだったという“都トムコンプリート早すぎ事件”にもきちんと指摘のメールが来ました。 また、過去回の中で複雑だったお話からクイズが出るという、習熟度テストのようなメールもいただいて楽しかったです。みなさんは答えがわかるでしょうか。 この回では、私もこの1年での出来事をランキング形式で紹介しました。いつもはゲストさんにベスト3を作ってもらってきましたが、今度はそれを振り返りベスト3にするという、ベスト3のウロボロス。マトリョーシカ。果たしてこのたとえは正しいのでしょうか。 印象がガラリと変わったり、まったく興味のなかったところから興味が湧いたりしたものを紹介する「1時間で大きく心が動いた回ベスト3」、情報番組や教育番組として成立してしまうとすら思った「シンプルに!情報として役立つ回ベスト3」、本当に独特だと思った方をまとめた「アクの強かったゲストベスト3」、意表を突かれた「ソコ!?と思ったランキングタイトルベスト3」の4テーマを用意しました。 各ランキングを見た上で、ぜひ過去回を観直していただきたいです。我ながらいいランキングを作れたと思っています。 ハプニングと感動に包まれた『公私混同』最終回 (写真:奥森皐月の公私混同最終回!奥森皐月一問一答!) 9月最後は生配信で最終回をお届けしました。 2年半続いた『奥森皐月の公私混同』ですが、通常回の生配信は2回目。視聴者のみなさんと同じ時間を共有することができて本当に楽しかったです。 最終回だというのに、冒頭から「マイクの電源が入っていない」「配信のURLを告知できていなくて誰も観られていない」という恐ろしいハプニングが続いてすごかったです。こういうのを「持っている」というのでしょうか。 リアルタイムでX(旧Twitter)のリアクションを確認し、届いたメールをチェックしながら読み、進行をし、フリートークをして、ムチャ振りにも応える。 ハイパーマルチタスクパーソナリティとしての本領を発揮いたしました。かなりすごいことをしている。こういうことを自分で言っていきます。 最近メールが送られてきていなかった方から久々に届いたのもうれしかった。きちんと覚えてくれていてありがとうという気持ちでした。 事前にいただいたメールも、どれもうれしくて幸せを噛みしめました。みなさんそれぞれにこの番組の思い出や記憶があることを誇らしく思います。 配信内でも話しましたが、この番組をきっかけにお友達がたくさん増えました。番組開始時点では友達がいなすぎてひとりで行動している話をよくしていたのですが、今では友達が多い部類に入ってもいいくらいには人に恵まれている。 『公私混同』でお会いしたのをきっかけに仲よくなった方も、ひとりふたりではなく何人もいて、それだけでもこの番組があってよかったと思えるくらいです。 番組後半でのビデオレターもうれしかったです。豪華なみなさんにお越しいただいていたことを再確認できました。帰ってからもう一度ゆっくり見直しました。ありがたい限り。 この2年半は本当に楽しい日々でした。会いたい人にたくさん会えて、挑戦したいことにはすべて挑戦して、普通じゃあり得ない体験を何度もして、幅広いジャンルを学んで。 単独ライブも大喜利も地上波の冠ラジオもテレ朝のイベントも『公私混同』をきっかけにできました。それ以外にも挙げたらキリがないくらいには特別な経験ができました。 スタートしたときは16歳だったのがなんだか笑える。お世辞でも比喩でもなくきちんと成長したと思えています。テレビ朝日さん、logirlさん、スタッフのみなさんに本当に感謝です。 そしてなにより、リスナーの皆様には毎週助けていただきました。ラジオ形式での配信のころはもちろんのこと、ゲスト形式になってからも毎週大喜利コーナーでたくさん投稿をいただき、みなさんとのつながりを感じられていました。 メールを読んで涙が出るくらい笑ったことも何度もあります。毎回新鮮にうれしかったし、みなさんのことが大好きになりました。 #奥森皐月の公私混同 最終回でした。2021年3月から約2年半の間、応援してくださった皆様本当にありがとうございます。メールや投稿もたくさん嬉しかったです。また必ずどこかの場所で会いましょうね、大喜利の準備だけ頼みます。冠ラジオは絶対にやりますし、馬鹿デカくなるので見ていてください。 pic.twitter.com/8Z5F60tuMK — 奥森皐月 (@okumoris) September 28, 2023 『奥森皐月の公私混同』が終了してしまうことは本当に残念です。もっと続けたかったですし、もっともっと楽しいことができたような気もしています。でも、そんなことを言っても仕方がないので、素直にありがとうございましたと言います。 奥森皐月自体は今後も加速し続けながら進んで行く予定です。いや進みます。必ず約束します。毎日「今日売れるぞ」と思って生活しています。 それから、死ぬまで今の好きな仕事をしようと思っています。人生初の冠番組は幕を下ろしましたが、また必ずどこかで楽しい番組をするので、そのときはまた一緒に遊んでください。 私は全員のことを忘れないので覚悟していてください。脅迫めいた終わり方であと味が悪いですね。最終回も泣いたフリをするという絶妙に気味の悪い終わり方だったので、それも私らしいのかなと思います。 この連載もかれこれ2年半がんばりました。1カ月ごとに振り返ることで記憶が定着して、まるで学習内容を復習しているようで楽しかったです。 思い出すことと書くことが大好きなので、この場所がなくなってしまうのもとても寂しい。今後はそのへんの紙の切れ端に、思い出したことを殴り書きしていこうと思います。違う連載ができるのが一番理想ですけれども。 貴重な時間を割いてここまで読んでくださったあなた、ありがとうございます。また会えることをお約束しますね。また。
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W杯で話題のラグビーを学ぼう!破壊力抜群なベスト3|『奥森皐月の公私混同<収録後記>』第29回
季節の和菓子が食べたくなります、大人です。奥森皐月です。 私がMCを務める番組『奥森皐月の公私混同』が毎週木曜日18時にlogirlで公開されています。 このブログでは収録後記として、番組収録のウラ話や収録を通して感じたことを奥森の目線で書いています。 今回は『奥森皐月の公私混同〜ソレ、私に教えてください!〜』の8月に配信された第36回から第40回までの振り返りです。 月額990円ですが、logirlに加入すれば最新回までのエピソードがたくさん視聴できます。『奥森皐月の公私混同』以外のさまざまな番組も、もちろん観られます。 「おすすめの海外旅行先」に意外な国が登場! (写真:奥森皐月の公私混同 第36回「旅行、私に教えてください!」) 第36回のテーマは「旅行、教えてください!」。ゲストに、元JTB芸人・こじま観光さんにお越しいただきました。 仕事で地方へ行くことはたまにありますが、それ以外で旅行に行くことはめったにありません。興味がないわけではないけれど、旅行ってすぐにできないし、習慣というか行き慣れていないとなかなか気軽にできないですよね。 それに加え、私は海外にも行ったことがないので、海外旅行は自分にとってかなり遠い出来事。そのため、どういったお話が聞けるのか楽しみでした。 こじま観光さんはもともとJTBの社員として働かれていたという、「旅行好き」では済まないほど旅行・観光に詳しいお方。パッケージツアーの中身を考えるお仕事などをされていたそうです。 食事、宿泊、観光名所、などすべてがそろって初めて旅行か、と当たり前のことに気づかされました。 旅行が好きになったきっかけのお話が印象的でした。小学生のころ、お父様に「飛行機に乗ったことないよな」と言われて、ふたりでハワイに行ったとのこと。 そこから始まって、海外への興味などが湧いたとのことで、子供のころの経験が今につながっているのは素敵だと感じました。 ベスト3のコーナーでは「奥森さんに今行ってほしい国ベスト3」をご紹介いただきました。海外旅行と聞いて思いつく国はいくつかありましたが、第3位でいきなりアイルランドが出てきて驚きました。 国名としては知っているけれど、どんな国なのかは想像できないような、あまり知らない国が登場するランキングで、各地を巡られているからこそのベスト3だとよく伝わりました。 1位の国もかなり意外な場所でした。「奥森さんに」というタイトルですが、皆さんも参考になると思うので、ぜひチェックしていただきたいです。 11種類もの「釣り方」をレクチャー! (写真:奥森皐月の公私混同 第37回「釣り、私に教えてください!」) 第37回は、ゲストに釣り大好き芸人・ハッピーマックスみしまさんにお越しいただき「釣り、教えてください!」のテーマでお送りしました。 以前「魚、教えてください!」のテーマで一度配信があり、その際に少し釣りについてのパートもありましたが、今回は1時間まるまる釣りについて。 魚回のとき釣りに少し興味が湧いたのですが、やはり始め方や初心者は何からすればいいかがわからないので、そういった点も詳しく聞きたく思い、お招きしました。 大まかに海釣りや川釣りなどに分かれることはさすがにわかるのですが、釣り方には細かくさまざまな種類があることをまず教えていただきました。11種類くらいあるとのことで、知らないものもたくさんありました。釣りって幅広いですね。 みしまさんは特にルアー釣りが好きということで、スタジオに実際にルアーをお持ちいただきました。見たことないくらい大きなものもあるし、カラフルでかわいらしいものもあるし、それぞれのルアーにエピソードがあってよかったです。 また、みしまさんがご自身で○と×のボタンを持ってきてくださって、定期的にクイズを出してくれたのもおもしろかった。全体的な空気感が明るかったです。 「思い出の釣り」のベスト3は、それぞれずっしりとしたエピソードがあり、いいランキングでした。それぞれ写真も見ながら当時の状況を教えてくださったので、釣りを知らない私でも楽しむことができました。 まずは初心者におすすめだという「管理釣り場」から挑戦したいです。 鉄道好きが知る「秘境駅」は唯一無二の景色! (写真:奥森皐月の公私混同 第38回「鉄道、私に教えてください!」) 第38回のテーマは「鉄道、教えてください!」。ゲストに鉄道芸人・レッスン祐輝さんをお招きしました。 鉄道自体に興味がないわけではなく、詳しくはありませんが、好きです。移動手段で電車を使っているのはもちろん、普段乗らない電車に乗って知らない土地に行くのも楽しいと思います。 ただ、鉄道好きが多く規模が大きいことで、楽しみ方が無限にありそう。そのため、あまりのめり込んで鉄道ファンになる機会はありませんでした。 この回のゲストのレッスン祐輝さん、いい意味でめちゃくちゃに「鉄道オタク」でした。あふれ出る情報量と熱量が凄まじかった。 全国各地の鉄道を巡っているとのことで、1日に1本しか走っていない列車や、秘境を走る鉄道にも足を運んでいるそうです。 「秘境駅」というものに魅了されたとのことでしたが、たしかに写真を見ると唯一無二の景色で美しかったです。山奥で、車ですら行けない場所などもあるようで、死ぬまでに一度は行ってみたいなと思いました。 ベスト3では「癖が強すぎる終電」について紹介していただきました。レッスン祐輝さんは鉄道好きの中でも珍しい「終電鉄」らしく、これまでに見た変わった終電のお話が続々と。 終電に乗るせいで家に帰れないこともあるとおっしゃっていて、終電なんて帰るためのものだと思っていたので、なんだかおもしろかったです。 あのインドカレーは「混ぜて食べてもOK」!? (写真:奥森皐月の公私混同 第39回「カレー、私に教えてください!」) 第39回は、ゲストにカレー芸人・桑原和也さんにお越しいただき「カレー、教えてください!」をお送りしました。 私もカレーは大好き。インドカレーのお店によく行きます、ナンが食べたい日がかなりある。 「カレー」とひと言でいえど、さまざまな種類がありますよね。日本風のカレーライスから、ナンで食べるカレー、タイカレーなど。 近年流行っている「スパイスカレー」も名前としては知っていましたが、それがなんなのか聞くことができてよかったです。関西が発祥というのは初めて知りました。 カレー屋さんは東京が栄えているのだと思っていたのですが、関西のほうが名店がたくさんあるとのことで、次に関西に行ったら必ずカレーを食べようと心に決めました。 インドカレーにも種類があるらしく、たまにカレー屋さんで見かける、銀のプレートに小さい銀のボウルで複数種類のカレーが乗っていてお米が真ん中にあるようなスタイルは、南インドの「ミールス」と呼ばれるものだそうです。 今まで、ミールスは食べる順番や配分が難しい印象だったのですが、桑原さんから「混ぜて食べてもいい」というお話を聞き、衝撃を受けました。銀のプレートにひっくり返して、ひとつにしてしまっていいらしいです。 違うカレーの味が混ざることで新たな味わいが生まれ、辛さがマイルドになったり、別のおいしさが感じられるようになったりするとのこと。次にミールスに出会ったら絶対に混ぜます。 ランキングは「オススメのレトルトカレー」という実用的な情報でした。 レトルトカレーで冒険できないのは私だけでしょうか。最近はレトルトでも本当においしくていろいろな種類が発売されているようで、3つとも初めてお目にかかるものでした。 自宅で簡単に食べられるおいしいカレー、皆さんもぜひ参考にしてみてください。 9月のW杯に向けて「ラグビー」を学ぼう! (写真:奥森皐月の公私混同 第40回「ラグビー、私に教えてください!」) 8月最後の配信のテーマは「ラグビー、教えてください!」で、ゲストにラグビー二郎さんにお越しいただきました。 9月にラグビーワールドカップがあるので、それに向けて学ぼうという回。 私はもともとスポーツにまったく興味がなく、現地観戦はおろかテレビでもほとんどのスポーツを観たことがありませんでした。それが、この『公私混同』をきっかけにサッカーW杯を観て、WBCを観て、相撲を観て、と大成長を遂げました。 この調子でラグビーもわかるようになりたい。ラグビー二郎さんはラグビー経験者ということで、プレイヤー視点でのお話もあっておもしろかったです。 ルールが難しい印象ですが、あまり理解しないで観始めても大丈夫とのこと。まずはその迫力を感じるだけでも楽しめるそうです。直感的に楽しむのって大事ですよね。 前回、前々回のラグビーW杯もかなり盛り上がっていたので、要素としての情報は少しだけ知っていました。 その中で「ハカ」は、言葉としてはわかるけれど具体的になんなのかよくわからなかったので、詳しく教えていただけてうれしかったです。実演もしていただいてありがたい。 ここからのランキングが非常によかった。「ハカをやってるときの対戦相手の対応」というマニアックなベスト3でした。 ハカの最中に対戦相手が挑発的な対応をすることもあるらしく、過去に本当にあった名場面的な対応を3つご紹介いただきました。 どれも破壊力抜群のおもしろさで、ランキングタイトルを聞いたときのわくわく感をさらに上回る数々。本編でご確認いただきたい。 今年のワールドカップを観るのはもちろん、ハカのときの対戦相手の対応という細かいところまできちんと見届けたいと強く感じました。 『奥森皐月の公私混同』は毎週木曜18時に最新回が公開 奥森皐月の公私混同ではメールを募集しています。 募集内容はX(Twitter)に定期的に掲載しているので、テーマや大喜利のお題などそちらからご確認ください。 宛先は s-okumori@tv-asahi.co.jp です、たくさんのメールをお待ちしております。 logirl公式サイト内「ラジオ」のページでは毎週アフタートークが公開されています。 最近のことを話したり、あれこれ考えたりしています。無料でお聴きいただけるのでぜひ。 (写真:『奥森皐月の公私混同 アフタートーク』) 『奥森皐月の公私混同』番組公式X(Twitter)アカウントがあります。 最新情報やメール募集についてすべてお知らせしていますので、チェックしていただけるとうれしいです。 また、番組やこの収録後記の感想などは「#奥森皐月の公私混同」をつけて投稿してください。 メール募集! 今週は!1年間の振り返り放送です!!! コーナーリスナー的ベスト3 奥森さんへの質問、感想メール募集します! ▼奥森!コレ知ってんのか!ニュース▼リアクションメール▼感想メール 📩宛先は s-okumori@tv-asahi.co.jp メールの〆切は9/19(火)10時です! pic.twitter.com/nazDBoFSDk — 奥森皐月の公私混同は傍若無人 (@s_okumori) September 18, 2023 奥森皐月個人のX(Twitter)アカウントもあります。 番組アカウントとともにぜひフォローしてください。たまにおもしろいことも投稿しています。 キングオブコントのインタビュー動画 男性ブランコのサムネイルも漢字二文字だ、もはや漢字二文字待ちみたいになってきている、各芸人さんの漢字二文字考えたいな、そんなこと一緒にしてくれる人いないから1人で考えます、1人で色々な二文字を考えようと思います https://t.co/dfCQQVlhrg pic.twitter.com/LMpwxWhgUF — 奥森皐月 (@okumoris) September 19, 2023 『奥森皐月の公私混同』はlogirlにて毎週木曜18時に最新回が公開。 次回は、なんと収録後記の最終回です。 番組開始当初から毎月欠かさず書いてきましたが、9月末で番組が終了ということで、こちらもおしまい。とても寂しいですが、最後まで読んでいただけるとうれしいです。
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宮下草薙・宮下と再会!ボードゲームの驚くべき進化|『奥森皐月の公私混同<収録後記>』第28回
ドライブがしたいなと思ったら車を借りてドライブをします、大人です。奥森皐月です。 私がMCを務める番組『奥森皐月の公私混同』が毎週木曜日18時にlogirlで公開されています。 このブログでは収録後記として、番組収録のウラ話や収録を通して感じたことを奥森の目線で書いています。 今回は『奥森皐月の公私混同〜ソレ、私に教えてください!〜』の7月に配信された第32回から第35回までの振り返りです。 月額990円ですが、logirlに加入すれば最新回までのエピソードがたくさん視聴できます。『奥森皐月の公私混同』以外のさまざまな番組ももちろん観られます。 かれこれ2年半もこの番組を続けています。もっとがんばってるねとか言ってほしいです。 宮下草薙・宮下が「ボードゲームの驚くべき進化」をプレゼン (写真:奥森皐月の公私混同 第32回「ボードゲーム、私に教えてください!」) 第32回のテーマは「ボードゲーム、教えてください!」。ゲストに、宮下草薙の宮下さんにお越しいただきました。 昨年のテレビ朝日の夏イベント『サマステ』ではこの番組のステージがあり、ゲストに宮下草薙さんをお招きしました。それ以来、約1年ぶりにお会いできてうれしかったです。 宮下さんといえばおもちゃ好きとして知られていますが、今回はその中でも特に宮下さんが詳しい「ボードゲーム」に特化してお話を伺いました。 巷では「ボードゲームカフェ」なるものが流行っているようですが、私はほとんどプレイしたことがありません。『人生ゲーム』すら、ちゃんとやったことがあるか記憶が曖昧。ひとりっ子だったからかしら。 そんななか、ボードゲームは驚くべき進化を遂げていることを、宮下さんが魅力たっぷりに教えてくださいました。 大人数でプレイするものが多いと勝手に思っていましたが、ひとりでできるゲームもたくさんあるそう。ひとりでボードゲームをするのは果たして楽しいのだろうかと思ってしまいましたが、実際にあるゲームの話を聞くとおもしろそうでした。購入してみたくなってしまいます。 ボードゲームのよさのひとつが、パーツや付属品などがかわいいということ。デジタルのゲームでは感じられない、手元にあるというよさは大きな魅力だと思います。見た目のかわいさから選んで始めるのも楽しそうです。 ランキングでは「もはや自分のマルチバース」ベスト3をご紹介いただきました。宮下さんが実際にプレイした中でも没入感が強くのめり込んだゲームたちは、どれも最高におもしろそうでした。 「重量級」と呼ばれる、プレイ時間が長くルールが複雑で難しいものも、現物をお持ちいただきましたが、あまりにもパーツが多すぎて驚きました。 それらをすべて理解しながら進めるのは大変だと感じますが、ゲームマスターがいればどうにかできるようです。かっこいい響き。ゲームマスター。 まずはボードゲームカフェで誰かに教わりながら始めたいと思います。本当に興味深いです、ボードゲームの世界は広い。 お城を歩くときは、自分が死ぬ回数を数える (写真:奥森皐月の公私混同 第33回「城、私に教えてください!」) 第33回は、ゲストに城マニア・観光ライターのいなもとかおりさんお越しいただき、「城、教えてください!」のテーマでお送りしました。 建物は好きなのですが歴史にあまり詳しくないため、お城についてはよくわかりません。お城好きの人は多い印象だったのですが、知識が必要そうで自分には難しいのではないかというイメージを抱いていました。 ただ、いなもとさんのお城のお話は、本当におもしろくてわかりやすかった。随所に愛があふれているけれど、初心者の私でも理解できるように丁寧に教えてくださる。熱量と冷静さのバランスが絶妙で、あっという間の1時間でした。 「城」と聞くと、名古屋城や姫路城などのいわゆる「天守」の部分を想像してしまいます。ただ、城という言葉自体の意味では、天守のまわりの壁や堀などもすべて含まれるとのこと。 土が盛られているだけでも城とされる場所もあって、そういった城跡などもすべて含めると、日本に城は4万から5万箇所あるそうです。想像していた数の100倍くらいで本当に驚きました。 いなもとさん流のお城の楽しみ方「攻め込むつもりで歩いたときに何回自分がやられてしまうか数える」というお話がとても印象的です。いかに敵に対抗できているお城かというのを実感するために、天守まで歩きながら死んでしまう回数を数えるそう。おもしろいです。 歴史の知識がなくてもこれならすぐに試せる。次にお城に行くことがあれば、私も絶対に攻める気持ち、そして敵に攻撃されるイメージをしながら歩こうと思います。 コーナーでは「昔の人が残した愛おしいらくがきベスト3」を紹介していただきました。 お城の中でも石垣が好きだといういなもとさん。石垣自体に印がつけられているというのは今回初めて知りました。 それ以外にも、お城には昔の人が残したらくがきがいくつもあって、どれもかわいらしくおもしろかったです。それぞれのお城で、そのらくがきが実際に展示されているとのことで、実物も見てみたいと思いました。 プラスチックを分解できる!? きのこの無限の可能性 (写真:奥森皐月の公私混同 第34回「きのこ、私に教えてください!」) 第34回のテーマは「きのこ、教えてください!」。ゲストに、きのこ大好き芸人・坂井きのこさんをお招きしました。 きのこって身近なのに意外と知らない。安いからスーパーでよく買うし、そこそこ食べているはずなのに、実態についてはまったく理解できていませんでした。「きのこってなんだろう」と考える機会がなかった。 坂井さんは筋金入りのきのこ好きで、幼少期から今までずっときのこに魅了されていることがお話を聞いてわかりました。 山や森などできのこを見つけると、少しうれしい気持ちになりますよね。きのこ狩りをずっとしていると珍しいきのこにもたくさん出会えるようで、単純に宝探しみたいで楽しそうだなぁと思いました。 菌類で、毒があるものもあって、鑑賞してもおもしろくて、食べることもできる。ほかに似たものがない不思議な存在だなぁと改めて思いました。 野菜だったら「葉の部分を食べている」とか「実を食べている」とかわかりやすいですけれど、きのこってじゃあなんだといわれると説明ができない。 基本の基本からきのこについてお聞きできてよかったです。菌類には分解する力があって、きのこがいるから生態系は保たれている。命が尽きたら森に葬られてきのこに分解されたい……とおっしゃっていたときはさすがに変な声が出てしまいました。これも愛のかたちですね。 ランキングコーナーの後半では、きのこのすごさが次々とわかってテンションが上がりました。 特に「プラスチックを分解できるきのこがある」という話は衝撃的。研究がまだまだ進められていないだけで、きのこには無限の可能性が秘められているのだとわかってワクワクしちゃった。 この収録を境に、きのこを少し気にしながら生きるようになった。皆さんもこの配信を観ればきのこに対する心持ちが少し変わると思います。教育番組らしさもあるいい回でした。 「神オブ神」な花火を見てみたい! (写真:奥森皐月の公私混同 第35回「花火、私に教えてください!」) 7月最後の配信のテーマは「花火、教えてください!」で、ゲストに花火マニアの安斎幸裕さんにお越しいただきました。 コロナ禍も落ち着き、今年は本格的にあちこちで花火大会が開催されていますね。8月前半の土日は全国的にも花火大会がたくさん開催される時期とのことで、その少し前の最高のタイミングでお越しいただきました。 花火大会にはそれぞれ開催される背景があり、それらを知ってから花火を見るとより楽しめるというお話が素敵でした。かの有名な長岡の花火大会も、古くからの歴史と想いがあるとのことで、見え方が変わるなぁと感じます。 それから、花火玉ひとつ作るのに相当な時間と労力がかけられていることを知って驚きました。中には数カ月かかって作られるものもあるとのことで、それが一瞬で何十発も打ち上げられるのは本当に儚いと思いました。 このお話を聞いて今年花火大会に行きましたが、一発一発にその手間を感じて、これまでと比べ物にならないくらいに感動しました。派手でない小さめの花火も愛おしく思えた。 安斎さんの花火職人さんに対するリスペクトの気持ちがひしひしと伝わってきて、とてもよかったです。 最初は、本当に尊敬しているのだなぁという印象だったのですが、だんだんその思いがあふれすぎて、推しを語る女子高校生のような口調になられていたのがおもしろかったです。見た目のイメージとのギャップもあって素敵でした。 最終的に、あまりにすごい花火のことを「神オブ神」と言ったり、花火を「神が作った子」と言ったりしていて、笑ってしまいました。 この週の「大喜利公私混同カップ2」のお題が「進化しすぎた最新花火の特徴を教えてください」だったのですが、大喜利の回答に近い花火がいくつも存在していることを教えてくださっておもしろかったです。 大喜利が大喜利にならないくらいに、花火が進化していることがわかりました。このコーナーの大喜利と現実が交錯する瞬間がすごく好き。 真夏以外にも花火大会はあり、さまざまな花火アーティストによってまったく違う花火が作られていることをこの収録で知りました。きちんと事前にいい席を取って、全力で花火を楽しんでみたいです。 成田の花火大会がどうやらかなりすごいので行ってみようと思います。「神オブ神」って私も言いたい。 『奥森皐月の公私混同』は毎週木曜18時に最新回が公開 『奥森皐月の公私混同』ではメールを募集しています。 募集内容はTwitterに定期的に掲載しているので、テーマや大喜利のお題などそちらからご確認ください。 宛先は s-okumori@tv-asahi.co.jp です、たくさんのメールをお待ちしております。 logirl公式サイト内「ラジオ」のページでは、毎週アフタートークが公開されています。 ゆったり作家のみなさんとおしゃべりしています。無料でお聴きいただけるのでぜひ。 (写真:『奥森皐月の公私混同 アフタートーク』) 『奥森皐月の公私混同』番組公式Twitterアカウントがあります。 最新情報やメール募集についてすべてお知らせしていますので、チェックしていただけるとうれしいです。 また、番組やこの収録後記の感想などは「#奥森皐月の公私混同」をつけて投稿してください。 メール募集! テーマは【カレー🍛】【ラグビー🏉】です! ▼奥森!コレ知ってんのか!ニュース▼ゲストへの質問▼大喜利公私混同カップ2▼リアクションメール▼感想メール 📩宛先は s-okumori@tv-asahi.co.jp メールの〆切は8/22(火)10時です! pic.twitter.com/xJrDL41Wc9 — 奥森皐月の公私混同は傍若無人 (@s_okumori) August 20, 2023 奥森皐月個人のTwitterアカウントもあります。 番組アカウントとともにぜひフォローしてください。たまにおもしろいことも投稿しています。 大喜る人たち生配信を真剣に見ている奥森皐月。お前は中途半端だからサッカー選手にはなれないと残酷な言葉で説く父親、聞く耳を持たない小2くらいの息子、黙っている妹と母親の4人家族。啜り泣くギャル。この3組がお客さんのカレー屋さんがさっきまであった。出てしまったので今はもうない。 — 奥森皐月 (@okumoris) August 20, 2023 『奥森皐月の公私混同』はlogirlにて毎週木曜18時に最新回が公開。 次回は「未体験のジャンルからやってくる強者たち」を中心にお送りします。お楽しみに。
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生きづらさを乗り越える「大人のためのマンガ入門」
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「才能」という呪縛を解く ミューズの真髄
【連載】生きづらさを乗り越える「大人のためのマンガ入門」 仕事、恋愛、家族、結婚……大人のありきたりでありがちな悩みや生きづらさと向き合い、乗り越えていくためのヒントを探るマンガレビュー連載。月1回程度更新。 『ブルー・ピリオド』をはじめ美大受験モノマンガがブームを呼んでいる昨今。特に芸術というモチーフは、その核となる「才能とは何か?」を掘り下げることで、主人公の自意識をめぐるドラマになりやすい。 文野紋『ミューズの真髄』も、一度は美大受験に失敗した会社員の主人公・瀬野美優が、一念発起して再び美大受験を志し、自分を肯定するための道筋を探るというストーリーだ。しかし、よくある美大受験マンガかと思ってページをめくっていくと、「才能」の扱い方に本作の特筆すべき点を見出すことができる。 「美大に落ちたあの日。“特別な私”は、死んでしまったから。仕方がないのです。“凡人”に成り下がった私は、母の決めた職場で、母の決めた服を着て、母が自慢できるような人と母が言う“幸せ”を探すんです。でも、だって、仕方ない、を繰り返しながら。」 (『ミューズの真髄』あらすじより) 主人公の美優は「どこにでもいる平凡な私」から、自分で自分を肯定するために、少しずつ自分の意志を周囲に示すようになる。芸術の道に進むことに反対する母親のもとを飛び出し、自尊心を傷つける相手にはNOを突きつけ、自分の進むべき道を自ら選び取っていく。しかし、心の奥深くに根づいた自己否定の考えはそう簡単に変えることはできない。自尊心を取り戻す過程で立ち塞がるのが「才能」の壁だ。 24歳という年齢で美術予備校に飛び込んだ美優は、最初の作品講評で57人中47位と悲惨な成績に終わる。自分よりも年下の生徒たちが才能を見出されていくなかで、自分の才能を見つけることができない美優。その後挫折を繰り返しながら、予備校の講師である月岡との出会いによって少しずつ自分を肯定し、前向きに進んでいく姿には胸が熱くなる。 「私は地獄の住人だ あの人みたいにあの子みたいに漫画みたいに 才能もないし美術で生きる資格はないのかもしれない バカで中途半端で恋愛脳で人の影響ばかり受けてごめんなさい でももがいてみてもいいですか? 執着してみていいですか?」 冒頭で述べたとおり、本作の「才能」への向き合い方を端的に示しているのがこのセリフである。才能がなくても好きなことに執着する──功利主義の社会では蔑まれがちなこのスタンスこそが、他者の否定的な視線から自分を守り、自分の人生を肯定していくためには重要だ。才能に執着するのではなく、「絵」という自分の愛する対象に執着する。その執着が自分を愛することにつながるのだ。それは「好きなことを続けられるのも才能」のような安い言葉では語り切れるものではない。 才能と自意識の話に収斂していく美大受験マンガとは別の視座を、美優の生き方は示してくれる。そして、美優にとっての「美術」と同じように、執着できる対象を見つけることは、「才能」の物語よりも私たちにとっては遥かに重要なことのはずである。 文=山本大樹 編集=田島太陽 山本大樹 編集/ライター。1991年、埼玉県生まれ。明治大学大学院にて人文学修士(映像批評)。QuickJapanで外部編集・ライターのほか、QJWeb、BRUTUS、芸人雑誌などで執筆。(Twitter/はてなブログ)
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勝ち負けから離れて生きるためには? 真造圭伍『ひらやすみ』
【連載】生きづらさを乗り越える「大人のためのマンガ入門」 仕事、恋愛、家族、結婚……大人のありきたりでありがちな悩みや生きづらさと向き合い、乗り越えていくためのヒントを探るマンガレビュー連載。月1回程度更新。 30代を迎えて、漠然とした焦りを感じることが増えた。20代のころに感じていた将来への不安からくる焦りとはまた種類の違う、現実が見えてきたからこその焦りだ。 周囲の同世代が着々と実績を残していくなか、自分だけが取り残されているような感覚。いつまで経っても増えない収入、一年後の見通しすらも立たない生活……焦りの原因を数え始めたらキリがない。 真造圭伍のマンガ『ひらやすみ』は、30歳のフリーター・ヒロト君と従姉妹のなつみちゃんの平屋での同居生活を描いたモラトリアム・コメディだ。 定職に就かずに30歳を迎えてもけっして焦らず、のんびりと日々の生活を愛でながら過ごすヒロト君の生き方は、素直にうらやましく思う。身の回りの風景の些細な変化や季節の移り変わりを感じながら、家族や友達を思いやり、目の前のイベントに全力を注ぐ。どうしても「こんなふうに生きられたら」と考えてしまうくらい、魅力的な人物だ。 そんなヒロト君も、かつては芸能事務所に所属し、俳優として夢を追いかけていた時期もあった。高校時代には親友のヒデキと映画を撮った経験もあり、純粋に芝居を楽しんでいたヒロト君。芸能事務所のマネージャーから「なんで俳優になろうと思ったの?」と聞かれ、「あ、オレは楽しかったからです!演技するのが…」と答える。 「でも、これからは楽しいだけじゃなくなるよ──」 「売れたら勝ち、それ以外は負けって世界だからね」 数年後、役者を辞めたヒロト君は、漫画家を目指す従姉妹のなつみちゃんの姿を見て、かつて自分がマネージャーから言われた言葉を思い出す。純粋に楽しんでいたはずのことも、社会では勝ち負け──経済的な成功/失敗に回収されていく。出版社にマンガを持ち込んだなつみちゃんも、もしデビューすれば商業誌での戦いを強いられていくだろう。 運よく好きなことや向いていることを仕事にできたとしても、資本主義のルールの中で暮らしている以上、競争から距離を置くのはなかなか難しい。結果を出せない人のところにいつまでも仕事が回ってくることはないし、自分の代わりはいくらでもいる。嫌でも他者との勝負の土俵に立たされることになるし、純粋に「好き」だったころの気持ちとはどんどんかけ離れていく。 「アイツ昔から不器用でのんびり屋で勝ち負けとか嫌いだったじゃん? 業界でそういうのいっぱい経験しちまったんだろーな。」 ヒロト君の親友・ヒデキは、ヒロトが俳優を辞めた理由をそう推察する。私が身を置いている出版業界でも、純粋に本や雑誌が好きでこの業界を志した人が挫折して去っていくのをたくさん見てきた。でも、彼らが負けたとは思わないし、なんとか端っこで食っているだけの私が勝っているとももちろん思わない。勝ち/負けという物差しで物事を見るとき、こぼれ落ちるものはあまりに多い。むしろ、好きだったはずのことが本当に嫌いにならないうちに、別の仕事に就いたほうが幸せだと思う。 私も勝ち負けが本当に苦手だ。優秀な同業者も目の前でたくさん見てきて、同じ土俵に上がったらまず自分では勝負にならないということも30歳を過ぎてようやくわかった。それでも続けているのは、勝ち負けを抜きにして、いつか純粋にこの仕事が好きになれる日が来るかもしれないと思っているからだ。もちろん、仕事が嫌いになる前に逃げる準備ももうできている。 暗い話になってしまったが、『ひらやすみ』のヒロト君の生き方は、競争から逃れられない自分にとって、大きな救いになっている。なつみちゃんから「暇人」と罵られ、見知らぬ人からも「みんながみんなアナタみたいに生きられると思わないでよ」と言われるくらいののんびり屋でも、ヒロト君の周囲には笑顔が絶えない。自分ひとりの意志で勝ち負けから逃れられないのであれば、せめてまわりにいる人だけでも大切にしていきたい。そうやって自分の生活圏に大切なものをちゃんと作っておけば、いつでも競争から降りることができる。『ひらやすみ』は、そんな希望を見せてくれる作品だった。 文=山本大樹 編集=田島太陽 山本大樹 編集/ライター。1991年、埼玉県生まれ。明治大学大学院にて人文学修士(映像批評)。QuickJapanで外部編集・ライターのほか、QJWeb、BRUTUS、芸人雑誌などで執筆。(Twitter/はてなブログ)
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克明に記録されたコロナ禍の息苦しさ──冬野梅子『まじめな会社員』
【連載】生きづらさを乗り越える「大人のためのマンガ入門」 仕事、恋愛、家族、結婚……大人のありきたりでありがちな悩みや生きづらさと向き合い、乗り越えていくためのヒントを探るマンガレビュー連載。月1回程度更新。 5月に『コミックDAYS』での連載が完結した冬野梅子『まじめな会社員』。30歳の契約社員・菊池あみ子を取り巻く苦しい現実、コロナ禍での転職、親の介護といった環境の変化をシビアに描いた作品だ。周囲のキラキラした友人たちとの比較、自意識との格闘でもがく姿がSNSで話題を呼び、あみ子が大きな選択を迫られる最終回は多くの反響を集めた。 「コロナ禍における、新種の孤独と人生のたのしみを、「普通の人でいいのに!」で大論争を巻き起こした新人・冬野梅子が描き切る!」と公式の作品紹介にもあるように、本作は2020年代の社会情勢を忠実に反映している。疫病はさまざまな局面で社会階層の分断を生み出したが、特に本作で描かれているのは「働き方」と「人間関係」の変化と分断である。『まじめな会社員』は、疫禍による階層の分断を克明に描いた作品として貴重なサンプルになるはずだ。 2022年5月末現在、コロナがニュースの時間のほとんどを占めていた時期に比べると、世間の空気は少し緩やかになりつつある。飲食店は普通にアルコールを提供しているし、休日に友達と遊んだり、ライブやコンサートに出かけることを咎められるような空気も薄まりつつある。しかし、過去の緊急事態宣言下の生活で感じた孤独や息苦しさはそう簡単に忘れられるものではないだろう。 たとえば、スマホアプリ開発会社の事務職として働くあみ子は、コロナ禍の初期には在宅勤務が許されていなかった。 「持病なしで子供なしだとリモートさせてもらえないの?」「私って…お金なくて旅行も行けないのに通勤はさせられてるのか」(ともに2巻)とリモートワークが許される人々との格差を嘆く場面も描かれている。 そして、あみ子の部署でもようやくリモートワークが推奨されるようになると、それまで事務職として上司や営業部のサポートを押しつけられていた今までを振り返り、飲食店やライブハウスなどの苦境に思いを巡らせつつも、つい「こんな生活が続けばいいのに…」とこぼしてしまう。 自由な働き方に注目が集まる一方で、いわゆるエッセンシャルワーカーはもちろん、社内での立場や家族の有無によって出勤を強いられるケースも多かった。仕事上における自身の立場と感染リスクを常に天秤にかけながら働く生活に、想像以上のストレスを感じた人も多かったはずだ。 「抱き合いたい「誰か」がいないどころか 休日に誰からも連絡がないなんていつものこと おうち時間ならずっとやってる」(2巻) コロナによる分断は、働き方の面だけではなく人間関係にも侵食してくる。コロナ禍の初期には「自粛中でも例外的に会える相手」の線引きは、限りなく曖昧だった。独身・ひとり暮らしのあみ子は誰とも会わずに自粛生活を送っているが、インスタのストーリーで友人たちがどこかで会っているのを見てモヤモヤした気持ちを抱える。 「コロナだから人に会えないって思ってたけど 私以外のみんなは普通に会ってたりして」「綾ちゃんだって同棲してるし ていうか世の中のカップルも馬鹿正直に自粛とかしてるわけないし」(2巻) 相互監視の状況に陥った社会では、当事者同士の関係性よりも「(世間一般的に)会うことが認められる関係性かどうか」のほうが判断基準になる。家族やカップルは認められても、それ以外の関係性だと、とたんに怪訝な目を向けられる。人間同士の個別具体的な関係性を「世間」が承認するというのは極めておぞましいことだ。「家族」や「恋人」に対する無条件の信頼は、家父長制的な価値観にも密接に結びついている。 またいつ緊急事態宣言が出されるかわからないし、そうなれば再び社会は相互監視の状況に陥るだろう。感染者数も落ち着いてきた今のタイミングだからこそ本作を通じて、当時は語るのが憚られた個人的な息苦しさや階層の分断に改めて目を向けておきたい。 文=山本大樹 編集=田島太陽 山本大樹 編集/ライター。1991年、埼玉県生まれ。明治大学大学院にて人文学修士(映像批評)。QuickJapanで外部編集・ライターのほか、QJWeb、BRUTUS、芸人雑誌などで執筆。(Twitter/はてなブログ)
L'art des mots~言葉のアート~
企画展情報から、オリジナルコラム、鑑賞記まで……アートに関するよしなしごとを扱う「L’art des mots~言葉のアート~」
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【News】西洋絵画の500年の歴史を彩った巨匠たちの傑作が、一挙来日!『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』が大阪市立美術館・国立新美術館にて開催!
先史時代から現代まで5000年以上にわたる世界各地の考古遺物・美術品150万点余りを有しているメトロポリタン美術館。 同館を構成する17部門のうち、ヨーロッパ絵画部門に属する約2500点の所蔵品から、選りすぐられた珠玉の名画65 点(うち46 点は日本初公開)を展覧する『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』が、11月に大阪、来年2月には東京で開催されます。 この展覧会は、フラ・アンジェリコ、ラファエロ、クラーナハ、ティツィアーノ、エル・グレコから、カラヴァッジョ、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、レンブラント、 フェルメール、ルーベンス、ベラスケス、プッサン、ヴァトー、ブーシェ、そしてゴヤ、ターナー、クールベ、マネ、モネ、ルノワール、ドガ、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌに至るまでを、時代順に3章で構成。 第Ⅰ章「信仰とルネサンス」では、イタリアのフィレンツェで15世紀初頭に花開き、16世紀にかけてヨーロッパ各地で隆盛したルネサンス文化を代表する画家たちの名画、フラ・アンジェリコ《キリストの磔刑》、ディーリック・バウツ《聖母子》、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《ヴィーナスとアドニス》など、計17点を観ることが出来ます。 第Ⅱ章「絶対主義と啓蒙主義の時代」では、絶対主義体制がヨーロッパ各国で強化された17世紀から、啓蒙思想が隆盛した18世紀にかけての美術を、各国の巨匠たちの名画30点により紹介。カラヴァッジョ《音楽家たち》、ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》、レンブラント・ファン・レイン《フローラ》などを御覧頂けます。 第Ⅲ章「革命と人々のための芸術」では、レアリスム(写実主義)から印象派へ……市民社会の発展を背景にして、絵画に数々の革新をもたらした19世紀の画家たちの名画、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む》、オーギュスト・ルノワール《ヒナギクを持つ少女》、フィンセント・ファン・ゴッホ《花咲く果樹園》、さらには日本初公開となるクロード・モネ《睡蓮》など、計18点が展覧されます。 15世紀の初期ルネサンスの絵画から19世紀のポスト印象派まで……西洋絵画の500 年の歴史を彩った巨匠たちの傑作を是非ご覧下さい! 『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』 ■大阪展 会期:2021年11月13日(土)~ 2022年1月16日(日) 会場:大阪市立美術館(〒543-0063大阪市天王寺区茶臼山町1-82) 主催:大阪市立美術館、メトロポリタン美術館、日本経済新聞社、テレビ大阪 後援:公益財団法人 大阪観光局、米国大使館 開館時間:9:30ー17:00 ※入館は閉館の30分前まで 休館日:月曜日( ただし、1月10日(月・祝)は開館)、年末年始(2021年12月30日(木)~2022年1月3日(月)) 問い合わせ:TEL:06-4301-7285(大阪市総合コールセンターなにわコール) ■東京展 会期:2022年2月9日(水)~5月30日(月) 会場:国立新美術館 企画展示室1E(〒106-8558東京都港区六本木 7-22-2) 主催:国立新美術館、メトロポリタン美術館、日本経済新聞社 後援:米国大使館 開館時間:10:00ー18:00( 毎週金・土曜日は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで 休館日:火曜日(ただし、5月3日(火・祝)は開館) 問い合わせ:TEL:050-5541-8600( ハローダイヤル) text by Suzuki Sachihiro
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【News】約3,000点の新作を展示。国立新美術館にて「第8回日展」が開催!
10月29日(金)から11月21日まで、国立新美術館にて「第8回日展」が開催されます。日本画、洋画、彫刻、工芸美術、書の5部門に渡って、秋の日展のために制作された現代作家の新作、約3,000点が一堂に会します。 明治40年の第1回文展より数えて、今年114年を迎える日本最大級の公募展である日展は、歴史的にも、東山魁夷、藤島武二、朝倉文夫、板谷波山など、多くの著名な作家を生み出してきました。 展覧会名:第8回 日本美術展覧会 会 場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2) 会 期:2021年10月29日(金)~11月21日(日)※休館日:火曜日 観覧時間:午前10時~午後6時(入場は午後5時30分まで) 主 催:公益社団法人日展 後 援:文化庁/東京都 入場料・チケットや最新の開催情報は「日展ウェブサイト」をご確認下さい (https://nitten.or.jp/) 展示される作品は作家の今を映す鏡ともいえ、作品から世相や背景など多くのことを読み取る楽しさもあります。 あらゆるジャンルをいっぺんに楽しめる機会、新たな日本の美術との出会いに胸躍ること必至です! 東京展の後は、京都、名古屋、大阪、安曇野、金沢の5か所を巡回(予定)します。 日本画 会場風景 2020年 洋画 会場風景 2020年 彫刻 会場風景 2020年 工芸美術 会場風景 2020年 書 会場風景 2020年 text by Suzuki Sachihiro
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【News】和田誠の全貌に迫る『和田誠展』が開催!
イラストレーター、グラフィックデザイナー和田誠わだまこと(1932-2019)の仕事の全貌に迫る展覧会『和田誠展』が、今秋10月9日から東京オペラシティアートギャラリーにて開催される。 和田誠 photo: YOSHIDA Hiroko ©Wada Makoto 和田誠の輪郭をとらえる上で欠くことのできない約30のトピックスを軸に、およそ2,800点の作品や資料を紹介。様々に創作活動を行った和田誠は、いずれのジャンルでも一級の仕事を残し、高い評価を得ている。 展示室では『週刊文春』の表紙の仕事はもちろん、手掛けた映画の脚本や絵コンテの展示、CMや子ども向け番組のアニメーション上映も予定。 本展覧会では和田誠の多彩な作品に、幼少期に描いたスケッチなども交え、その創作の源流をひも解く。 ▽和田誠の仕事、総数約2,800点を展覧。書籍と原画だけで約800点。週刊文春の表紙は2000号までを一気に展示 ▽学生時代に制作したポスターから初期のアニメーション上映など、貴重なオリジナル作品の数々を紹介 ▽似顔絵、絵本、映画監督、ジャケット、装丁……など、約30のトピックスで和田誠の全仕事を紹介 会場は【logirl】『Musée du ももクロ』でも何度も訪れている、初台にある「東京オペラシティアートギャラリー」。 この秋注目の展覧会!あなたの芸術の秋を「和田誠の世界」で彩ろう。 【開催概要】展覧会名:和田誠展( http://wadamakototen.jp/ ) 会期:2021年10月9日[土] - 12月19日[日] *72日間 会場:東京オペラシティ アートギャラリー 開館時間:11:00-19:00(入場は18:30まで) 休館日:月曜日 入場料:一般1,200[1,000]円/大・高生800[600]円/中学生以下無料 主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団 協賛:日本生命保険相互会社 特別協力:和田誠事務所、多摩美術大学、多摩美術大学アートアーカイヴセンター 企画協力:ブルーシープ、888 books お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル) *同時開催「収蔵品展072難波田史男 線と色彩」「project N 84 山下紘加」の入場料を含みます。 *[ ]内は各種割引料金。障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料。割引の併用および入場料の払い戻しはできません。 *新型コロナウイルス感染症対策およびご来館の際の注意事項は当館ウェブサイトを( https://www.operacity.jp/ag/ )ご確認ください。 ▽和田誠(1932-2019) 1936年大阪に生まれる。多摩美術大学図案科(現・グラフィックデザイン学科)を卒業後、広告制作会社ライトパブリシティに入社。 1968年に独立し、イラストレーター、グラフィックデザイナーとしてだけでなく、映画監督、エッセイ、作詞・作曲など幅広い分野で活躍した。 たばこ「ハイライト」のデザインや「週刊文春」の表紙イラストレーション、谷川俊太郎との絵本や星新一、丸谷才一など数多くの作家の挿絵や装丁などで知られる。 報知映画賞新人賞、ブルーリボン賞、文藝春秋漫画賞、菊池寛賞、毎日デザイン賞、講談社エッセイ賞など、各分野で数多く受賞している。 仕事場の作業机 photo: HASHIMOTO ©Wada Makoto 『週刊文春』表紙 2017 ©Wada Makoto 『グレート・ギャツビー』(訳・村上春樹)装丁 2006 中央公論新社 ©Wada Makoto 『マザー・グース 1』(訳・谷川俊太郎)表紙 1984 講談社 ©Wada Makoto text by Suzuki Sachihiro
logirl staff voice
logirlのスタッフによるlogirlのためのtext
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「誰も観たことのないバラエティを」。『ももクロChan』10周年記念スタッフ座談会
ももいろクローバーZの初冠番組『ももクロChan』が昨年10周年を迎えた。 この番組が女性アイドルグループの冠番組として異例の長寿番組となったのは、ただのアイドル番組ではなく、"バラエティ番組”として破格におもしろいからだ。 ももクロのホームと言っても過言ではないバラエティ番組『ももクロChan』。 彼女たちが10代半ばのころから、その成長を見続けてきたプロデューサーの浅野祟氏、吉田学氏、演出の佐々木敦規氏の3人が集まり、番組への思い、そしてももクロの魅力を存分に語ってくれた。 浅野 崇(あさの・たかし)1970年、千葉県出身。プロデューサー。 <現在の担当番組> 『ももクロChan』 『ももクロちゃんと!』 『Musee du ももクロ』 『川上アキラの人のふんどしでひとりふんどし』、など 吉田 学(よしだ・まなぶ)1978年、東京都出身。プロデューサー。 <現在の担当番組> 『ももクロChan~Momoiro Clover Z Channel~』 『ももクロちゃんと!』 『川上アキラの人のふんどしでひとりふんどし』 『Musée du ももクロ』、など 佐々木 敦規(ささき・あつのり)1967年、東京都出身。ディレクター。 有限会社フィルムデザインワークス取締役 「ももクロはアベンジャーズ」。そのずば抜けたバラエティ力の秘密 ──最近、ももクロのメンバーたちが、個々でバラエティ番組に出演する機会が増えていますね。 浅野 ようやくメンバー一人ひとりのバラエティ番組での強さに、各局のディレクターやプロデューサーが気づいてくれたのかもしれないですね。間髪入れずに的確なコメントやリアクションをしてて、さすがだなと思って観てます。 佐々木 彼女たちはソロでもアリーナ公演を完売させるアーティストですけど、バラエティタレントとしてもその実力は突き抜けてますから。 浅野 あれだけ大きなライブ会場で、ひとりしゃべりしても飽きがこないのは、すごいことだなと改めて思いますよ。 佐々木 そして、4人そろったときの爆発力がある。それはまず、バラエティの天才・玉井詩織がいるからで。器用さで言わせたら、彼女はめちゃくちゃすごい。百田夏菜子、高城れに、佐々木彩夏というボケ3人を、転がすのが本当にうまくて助かってます。 昔は百田の天然が炸裂して、高城れにがボケにいくスタイルだったんですが、いつからか佐々木がボケられるようになって、ももクロは最強になったと思ってます。 キラキラしたぶりっ子アイドル路線をやりたがっていたあーりんが、ボケに回った。それどころか、今ではそのポジションに味をしめてる。昔はコマネチすらやらなかった子なのに、ビックリですよ(笑)。 (写真:佐々木ディレクター) ──そういうメンバーの変化や成長を見られるのも、10年以上続く長寿番組だからこそですね。 吉田 昔からライブの舞台裏でもずっとカメラを回させてくれたおかげで、彼女たちの成長を記録できました。結果的に、すごくよかったですね。 ──ずっとももクロを追いかけてきたファンは思い出を振り返れるし、これからももクロを知る人たちも簡単に過去にアクセスできる。「テレ朝動画」で観られるのも貴重なアーカイブだと思います。 佐々木 『ももクロChan』は、早見あかりの脱退なども撮っていて、楽しいときもつらいときも悲しいときも、ずっと追っかけてます。こんな大事な仕事は、途中でやめるわけにはいかないですよ。彼女たちの成長ドキュメンタリーというか、ロードムービーになっていますから。 唯一無二のコンテンツになってしまったので、ももクロが活動する限りは『ももクロChan』も続けたいですね。 吉田 これからも続けるためには、若い世代にもアピールしないといけない。10代以下の子たちにも「なんかおもしろいお姉ちゃんたち」と認知してもらえるように、我々もがんばらないと。 (写真:吉田プロデューサー) 浅野 彼女たちはまだまだ伸びしろありますからね。個々でバラエティ番組に出たり、演技のお仕事をしたり、ソロコンをやったりして、さらにレベルアップしていく。そんな4人が『ももクロChan』でそろったとき、相乗効果でますますおもしろくなるような番組をこれからも作っていきたいです。 佐々木 4人は“アベンジャーズ"っぽいなと最近思うんだよね。 浅野 わかります。 ──アベンジャーズ! 個人的に、ももクロって令和のSMAPや嵐といったポジションすら狙えるのではないか、と妄想したりするのですが。 浅野 あそこまで行くのはとんでもなく難しいと思いますが……。でも佐々木さんの言うとおりで、最近4人全員集まったときに、スペシャルな瞬間がたまにあるんですよ。そういう大物の華みたいな部分が少しずつ見えてきたというか。 佐々木 そうなんだよねぇ。ももクロの4人はやたらと仲がいいし、本人たちも30歳、40歳、50歳になっても続けていくつもりなので、さらに化けていく彼女たちを撮っていかなくちゃいけないですね。 早見あかりが抜けて、自立したももクロ (写真:浅野プロデューサー) ──先ほど少し早見あかりさん脱退のお話が出ましたけど、やはり印象深いですか。 吉田 そうですね。そのとき僕はまだ『ももクロChan』に関わってなかったんですが、自分の局の番組、しかも動画配信でアイドルの脱退の告白を撮ったと聞いて驚きました。 当時はAKB48がアイドル界を席巻していて、映画『DOCUMENTARY of AKB48』などでアイドルの裏側を見せ始めた時期だったんです。とはいえ、脱退の意志をメンバーに伝えるシーンを撮らせてくれるアイドルは画期的でした。 佐々木 ももクロは最初からリミッターがほとんどないグループだからね。チーフマネージャーの川上アキラさんが攻めた人じゃないですか。だって、自分のワゴン車に駆け出しのアイドル乗っけて、全国のヤマダ電機をドサ回りするなんて、普通考えられないでしょう(笑)。夜の駐車場で車のヘッドライトを背に受けながらパフォーマンスしてたら、そりゃリミッターも外れますよ。 (写真:『ももクロChan』#11) ──アイドルの裏側を見せる番組のコンセプトは、当初からあったんですか? 佐々木 そうですね、ある程度狙ってました。そもそも僕と川上さんが仲よしなのは、プロレスや格闘技っていう共通の熱狂している趣味があるからなんですけど。 当時流行ってた総合格闘技イベント『PRIDE』とかって、ブラジリアントップファイターがリング上で殺し合いみたいなガチの真剣勝負をしてたんですよ。そんな血気盛んな選手が闘い終わってバックヤードに入った瞬間、故郷のママに「勝ったよママ! 僕、勝ったんだよ!」って電話しながら泣き出すんです。 ああいうファイターの裏側を生々しく映し出す映像を見て、表と裏のコントラストには何か新しい魅力があるなと、僕らは気づいて。それで、川上さんと「アイドルで、これやりましょうよ!」って話がスムーズにいったんです。 吉田 ライブ会場の楽屋などの舞台裏に定点カメラを置いてみる「定点観測」は、ももクロの裏の部分が見える代表的なコーナーになりました。ステージでキラキラ輝くももクロだけじゃなくて、等身大の彼女たちが見られるよう、早いうちに体制を整えられたのもありがたかったですね。 ──番組開始時からももクロのバラエティにおけるポテンシャルは図抜けてましたか? 佐々木 いや、最初は普通の高校生でしたよ。だから、何がおもしろくて何がウケないのか、何が褒められて何がダメなのか。そういう基礎から丁寧に教えました。 ──転機となったのは? 佐々木 やはり早見あかりが抜けたことですね。当時は早見が最もバラエティ力があったんです。裏リーダーとして場を回してくれたし、ほかのメンバーも彼女に頼りきりだった。我々も困ったときは早見に振ってました。 だから早見がいなくなって最初の収録は、残ったメンバーでバラエティを作れるのか正直不安で。でも、いざ収録が始まったら、めちゃめちゃおもしろかったんですよ。「お前らこんなにできたのっ!?」といい意味で裏切られた。 早見に甘えられなくなり、初めて自立してがんばるメンバーを見て、「この子たちとおもしろいバラエティ作るぞ!」と僕もスイッチが入りましたね。 あと、やっぱり2013年ごろからよく出演してくれるようになった東京03の飯塚(悟志)くんが、ももクロと相性抜群だったのも大きかった。彼のシンプルに一刀両断するツッコミのおかげで、ももクロはボケやすくなったと思います。 吉田 飯塚さんとの絡みで学ぶことも多かったですよね。 佐々木 トークの間合いとか、ボケの伏線回収的な方程式なんかを、お笑い界のトップランナーと実戦の中で知っていくわけですから、貴重な経験ですよね。それは僕ら裏方には教えられないことでした。 浅野 今のももクロって、収録中に何かおもしろいことが起きそうな気配を感じると、各々の役割を自覚して、フィールドに散らばっていくイメージがあるんですよね。 言語化はできないんだろうけど、彼女たちなりに、ももクロのバラエティ必勝フォーメーションがいくつかあるんでしょう。状況に合わせて変化しながら、みんなでゴールを目指してるなと感じてます。 ももクロのバラエティ史に残る奇跡の数々 ──バラエティ番組でのテクニックは芸人顔負けのももクロですが、“笑いの神様”にも愛されてますよね。何気ないスタジオ収録回でも、ミラクルを起こすのがすごいなと思ってて。 佐々木 最近で言うと、「4人連続ピンポン球リフティング」は残り1秒でクリアしてましたね。「持ってる」としか言えない。ああいう瞬間を見るたびに、やっぱりスターなんだなぁと思いますね。 浅野 昔、公開収録のフリースロー対決(#246)で、追い込まれた百田さんが、うしろ向きで投げて入れるというミラクルもありました。 あと、「大人検定」という企画(#233)で、高城さんがタコの踊り食いをしたら、鼻に足が入ってたのも忘れられない(笑)。 吉田 あの高城さんはバラエティ史に残る映像でしたね(笑)。 個人的にはフットサルも印象に残ってます。中学生の全国3位の強豪チームとやって、善戦するという。 佐々木 なんだかんだ健闘したんだよね。しかも終わったら本気で悔しがって、もう一回やりたいとか言い出して。 今度のオンラインライブに向けて、過去の名シーンを掘ってみたんですが、そういうミラクルがたくさんあるんですよ。 浅野 今ではそのラッキーが起こった上で、さらにどう転していくかまで彼女たちが自分で考えて動くので、昔の『ももクロChan』以上におもしろくなってますよね。 写真:『ももクロChan』#246) (写真:『ももクロChan』#233) ──皆さんのお話を聞いて、『ももクロChan』はアイドル番組というより、バラエティ番組なんだと改めて思いました。 佐々木 そうですね。誤解を恐れずに言えば、僕らは「ももクロなしでも通用するバラエティ」を作るつもりでやってるんです。 お笑いとしてちゃんと観られる番組がまずあって、その上でとんでもないバラエティ力を持ったももクロががんばってくれる。そりゃおもしろくなりますよね。 ──アイドルにここまでやられたら、ゲストの芸人さんたちも大変じゃないかと想像します。 佐々木 そうでしょうね(笑)。平成ノブシコブシの徳井(健太)くんが「バラエティ番組いろいろ出たけど、今でも緊張するのは『ゴッドタン』と『ももクロChan』ですよ」って言ってくれて。お笑いマニアの彼にそういう言葉をもらえたのは、ありがたかったなぁ。 誰も見たことのない破格のバラエティ番組を届ける ──そして11月6日(土)には、『テレビ朝日 ももクロChan 10周年記念 オンラインプレミアムライブ!~最高の笑顔でバラエティ番組~』を開催しますね。 吉田 もともとは去年やるつもりでしたが、コロナ禍で自粛することになり、11周年の今年開催となりました。これから先『ももクロChan』を振り返ったとき、このイベントが転機だったと思えるような特別な日にしたいですね。 浅野 歌あり、トークあり、コントあり、ゲームあり。なんでもありの総合バラエティ番組を作るつもりです。 2時間の生配信でゲストも来てくださるので、通常回以上に楽しいのはもちろん、ライブならではのハプニングも期待しつつ……。まぁプロデューサーとしては、いろんな意味でドキドキしてますけど(苦笑)。 佐々木 ライブタイトルに「バラエティ番組」と入れて、我々も自分でハードル上げてるからなぁ(笑)。でも「バラエティを売りにしたい」と浅野Pや吉田Pに思っていただいているので、ディレクターの僕も期待に応えるつもりで準備してるところです。 浅野 ここで改めて、ももクロは歌や踊りのパフォーマンスだけじゃなく、バラエティも最高におもしろいんだぞ、と知らしめたい。 さっき佐々木さんも言ってましたけど、まだももクロに興味がない人でも、バラエティ番組として楽しめるはずなので、お笑い好きとか、バラエティをよく観る人に観てもらいたいです。 佐々木 誰も見たことない、新しくておもしろい番組を作るつもりですよ。 浅野 『ももクロChan』が始まった2010年って、まだ動画配信で成功している番組がほとんどなかったんですね。そんな環境で番組がスタートして、テレビ朝日の中で特筆すべき成功番組になった。 そういう意味では、配信動画のトップランナーとして、満を持して行う生配信のオンラインイベントなので、業界の中でも「すごかった」と言ってもらえる番組にするつもりです。 吉田 『ももクロChan』スタッフとしては、番組が11周年を迎えることを感慨深く思いつつ、テレビを作ってきた人間としては、コロナ以降に定着してきたオンライン生配信の意義を今改めて考えながら作っていきたいです。 (写真:『テレビ朝日 ももクロChan 10周年記念 オンラインプレミアムライブ!~最高の笑顔でバラエティ番組~』は、11月6日(土)19時開演 logirl会員は割引価格でご視聴いただけます) ──具体的にどういった企画をやるのか、少しだけ教えてもらえますか? 浅野 「あーりんロボ」(佐々木彩夏がお悩み相談ロボットに扮するコントコーナー)はやるでしょう。 佐々木 生配信で「あーりんロボ」は怖いですよ、絶対時間押しますから(笑)。佐々木も度胸ついちゃってるからガンガンボケて、百田、高城、玉井がさらに煽って調子に乗っていくのが目に見える……。 あと、配信ならではのディープな企画も考えていますが、ちょっと今のままだとディープすぎてできないかもしれないです。 浅野 配信を観た方は、ネタバレ禁止というルールを決めたら、攻められますかねぇ。 佐々木 たしかに視聴者の方々と共犯関係を結べるといいですね。 とにかく、モノノフさんはもちろんですが、少しでも興味を持った人に観てほしいんですよ。バラエティ史に残る番組の記念すべき配信にしますので、絶対損はさせません。 浅野 必ず、期待にお応えします。 撮影=時永大吾 文=安里和哲 編集=後藤亮平
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logirlの「起爆剤になりたい」ディレクター・林洋介(『ももクロちゃんと!』)インタビュー
ももいろクローバーZ、でんぱ組.inc、AKB48 Team8などのオリジナルコンテンツを配信する動画配信サービス「logirl」スタッフへのリレーインタビュー第5弾。 今回は10月からリニューアルする『ももクロちゃんと!』でディレクターを務める林洋介氏に話を聞いた。 林洋介(はやし・ようすけ)1985年、神奈川県出身。ディレクター。 <現在の担当番組> 『ももクロちゃんと!』 『WAGEI』 『小川紗良のさらまわし』 『まりなとロガール』 リニューアルした『ももクロちゃんと!』の収録を終えて ──10月9日から土曜深夜に枠移動する『ももクロちゃんと!』。林さんはリニューアルの初回放送でディレクターを務めています。 林 そうですね。「ももクロちゃんと、〇〇〇!」という基本的なルールは変わらずやっていくんですけど、画面上のCGやテロップなどが変わるので、視聴者の方の印象はちょっと違ってくるかなと思います。 (写真:「ももクロちゃんと!」) ──収録を終えた感想はいかがですか? 林 自粛期間中に自宅で推し活を楽しめる「推しグッズ」作りがトレンドになっていたので、今回は「推しグッズ」というテーマでやったんですが、ももクロのみなさんに「推しゴーグル」を作ってもらう作業にけっこう時間がかかってしまったんですよね。「安全ゴーグル」に好きなキャラクターや言葉を書いてデコってもらったんですが、本当はもうひとつ作る予定が収録時間に収まりきらず……それでもリニューアル1発目としては、期待を裏切らない内容になったと思います。 ──『ももクロちゃんと!』を担当するのは今回が初めてですが、収録に臨むにあたって何か考えはありましたか? 林 やっぱり、リニューアル一発目なので盛り上がっていけたらなと。あとは、ももクロは知名度のあるビッグなタレントさんなので、その空気に飲まれないようにしないといけないなと考えていましたね。 ──先輩スタッフの皆さんからとも相談しながらプランを立てていったのでしょうか? 林 そうですね。ももクロは業界歴も長くてバラエティ慣れしているので、トークに関しては心配ないと聞いていました。ただ、自分たちで考えて何かを書いたり作ったりしてもらうのは、ちょっと時間がいるかもしれないよとも……でも、まさかあそこまでかかるとは思いませんでした(笑)。ちょっとバカバカしいものを書いてもらっているんですけど、あそこまで真剣に取り組んでくれるのかって逆に感動しました。 (写真:「ももクロちゃんと! ももクロちゃんと祝!1周年記念SP」) 「まだこんなことをやるのか」という無茶をしたい ──ももクロメンバーと仕事をする機会は、これまでもありましたか? 林 logirlチームに入るまで一度もなくて、今回がほぼ初対面です。ただ一度だけ、DVDの宣伝のために短いコメントをもらったことがあって、そのときもここまで現場への気遣いがしっかりしているんだという印象を受けました。 もちろん名前はよく知っていますが、僕は正直あまりももクロのことを知らなかったんですよね。キャリア的に考えたら当然現場では大物なわけで、そのときは僕も時間を巻きながら無事に5分くらいのコメントをもらったんですが、あとから撮影した素材を見返したら、あの短いコメント取材だけなのに、わざわざみんなで立ち上がって「ありがとうございました」と丁寧に言ってくれていたことに気がついて、「めっちゃいい子たちやなあ」って思ってました。 ──一緒に仕事をしてみて、印象は変わりましたか? 林 『ももクロちゃんと!』は、基本的にその回で取り上げる専門的な知識を持った方にゲストで来ていただいてるんですが、タレントさんでない方が来ることも多いんですよね。そういった一般の方に対しても壁がないというか、なんでこんなになじめるのかってくらいの親しみ深さに驚きました。そういう方たちの懐にもすっと入っていけるというか、その気遣いを大切にしているんですよね。しかもそれをすごく自然にやっているのが、すごいなと思いました。 ──『ももクロちゃんと!』は2年目に突入しました。今後の方向性として、考えていることはありますか? 林 「推しグッズ」でも、あそこまで真剣に取り組んでるんだったら、短い収録時間の中ではありますが、「まだこんなことをやってくれるのか」という無茶をしてみたいなと個人的には思いました。過去の『ももクロChan』を観ていても、すごくアクティブじゃないですか。だから、トークだけでは終わらせたくないなっていう気持ちはあります。 (写真:「ももクロChan~Momoiro Clover Z Channel~」) 情報番組のディレクターとしてキャリアを積む ──テレビの仕事を始めたきっかけを教えてください。 林 大学を卒業して特にやりたいことがなかったので、好きだったテレビの仕事をやってみようかなというのが入口ですね。最初に入ったのがテレビ東京さんの『お茶の間の真実〜もしかして私だけ!?〜』というバラエティ番組で、そこでADをやっていました。長嶋一茂さんと石原良純さんと大橋未歩さんがMCだったんですが、初めは知らないことだらけだったので、いろいろなことが学べたのは楽しかったですね。 ──そこからずっとバラエティ畑ですか。 林 AD時代は基本的にバラエティでしたね。ディレクターの一発目はTBSの『ビビット』という情報番組でした。曜日ディレクターとして、日々のニュースを追う感じだったんですが、そもそもニュースというものに興味がなかったので、そこはかなり苦戦しました。バラエティの“おもしろい”は単純というか、わかりやすいですが、ニュースの“おもしろい”ってなんだろうってずっと考えていましたね。たとえば、殺人事件の何を見せたらいいんだろうとか、まったくわからない世界に入ってしまったなという感じがしていました。 ──情報番組はどのくらいやっていたんですか? 林 『ビビット』のあとに始まった、立川志らくさんの『グッとラック!』もやっていたので、6年間ぐらいですかね。でも、最後まで情報番組の感覚はつかめなかった気がします。きっとこういうことが情報番組の“おもしろい”なのかなって想像しながら、合わせていたような感じです。 番組制作のモットーは「事前準備を超えること」 ──ご自身の好みでいえば、どんなジャンルがやりたかったんですか? 林 いわゆる“どバラエティ”ですね。当時でいえば、めちゃイケ(『めちゃ×イケてるッ!』/フジテレビ)に憧れてました。でも、情報バラエティが全盛の時代だったので、結果的にAD時代、ディレクター時代を含めてゴリゴリのバラエティはやれなかったですね。 ──情報番組のディレクター時代の経験で、印象に残っていることはありますか? 林 芸能人の密着をやったり、街頭インタビューでおもしろ話を拾ってきたりと、仕事としては濃い時間を過ごしたと思いますが、そういったネタよりも、当時の上司からの影響が大きかったかなと思います。『ビビット』や『グッとラック!』は、ワイドショーだけどバラエティに寄せたい考えがあったので、コーナー担当の演出はバラエティ畑で育った人たちがやっていたんですよね。今思えば、バラエティのチームでワイドショーを作っているような感覚だったので、特殊といえば特殊な場所だったのかもしれません。僕のコーナーを見てくれていた演出の人もなかなか怖い人でしたから(笑)。 ──その経験も踏まえ、番組を作るときに心がけていることはありますか? 林 どんなロケでも事前に構成を作ると思うんですが、最初に作った構成を越えることをひとつの目標としてやっていますね。「こんなものが撮れそうです」と演出に伝えたところから、ロケのあとのプレビューで「こんなのがあるんだ」と驚かせるような何かをひとつでも持って帰ろうとやっていましたね。 自由度の高い「配信番組」にやりがいを感じる ──logirlチームには、どのような経緯で入ったんでしょうか? 林 『グッとラック!』が終わったときに、会社から「次はどうしたい?」と提示された候補のひとつだったんですよね。それで、僕はもう地上波に未来はないのかなと思っていたので、詳細は知らなかったんですけど、配信の番組というところに興味を持ってやってみたいなと思い、今年の4月から参加しています。 ──参加して半年ほど経ちますが、配信番組をやってみた感触はいかがですか? 林 そうですね。まだ何かができたわけじゃないんですけど、自分がやりたいことに手が届きそうだなという感じはしています。もちろん、仕事として何かを生み出さなければいけないですが、そこに自分のやりたいことが添えられるんじゃないかなって。 具体的に言うと、僕はいつか好きな「バイク」を絡めた企画をやりたいと思っているんですが、地上波だったら一発で「難しい」となりそうなものも、企画をもう少ししっかり詰めていけば、実現できるんじゃないかという自由度を感じています。 ──そこは地上波での番組作りとは違うところですよね。 林 はい、少人数でやっていることもありますし、聞く耳も持っていただけているなと感じます。まだ自分発信の番組は何もないんですけど、がんばれば自分発信でやろうという番組が生まれそうというか、そこはやりがいを感じる部分ですね。 logirlを大きくしていく起爆剤になりたい ──logirlはアイドル関連の番組も多いです。制作経験はありますか? 林 テレビ東京の『乃木坂って、どこ?』でADをやっていたことがあります。本当に初期で『制服のマネキン』の時期くらいまでだったので、もう9年前くらいですかね。いま売れている子も多いのでよかったなと思います。 ──ご自身がアイドル好きだったことはないですか。 林 それこそ、中学生のころにモーニング娘。に興味があったくらいですね。ちょうど加護(亜依)ちゃんや辻(希美)ちゃんが入ってきたころで、当時はみんな好きでしたから。でも、アイドルに熱狂的になったことはなくて、ああいう気持ちを味わってみたいなとは思うんですけど、なかなか。 ──これからlogirlでやりたいことはありますか? 林 先ほども言ったバイク関連の企画もそうですが、単純に何をやればいいというのはまだ見えてないんですよね。ただ、logirlはまだまだ小さいので、僕が起爆剤になってNetflixみたいにデカくなっていけたらいいなって勝手に思っています。 ──最後に『ももクロちゃんと!』の担当ディレクターをとして、番組のリニューアルに向けた意気込みをお願いします。 林 『ももクロちゃんと!』はこれから変わっていくはずなので、ファンのみなさんにはその変化にも注目していただければと思います。よろしくお願いします! 文=森野広明 編集=中野 潤
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言葉を引き出すために「絶対的な信頼関係を」プロデューサー・河合智文(『でんぱの神神』等)インタビュー
ももいろクローバーZ、でんぱ組.inc、AKB48 Team8などのオリジナルコンテンツを配信する動画配信サービス「logirl」スタッフへのリレーインタビュー第4弾。 今回は『でんぱの神神』『ナナポプ』などのプロデューサー、河合智文氏に話を聞いた。 河合智文(かわい・ともふみ)1974年、静岡県出身。プロデューサー。 <現在の担当番組> 『でんぱの神神』 『ナナポプ 〜7+ME Link Popteen発ガールズユニットプロジェクト〜』 『美味しい競馬』(logirl YouTubeチャンネル) 初めて「チーム神神」の一員になれた瞬間 ──『でんぱの神神』には、いつから関わるようになったんでしょうか? 河合 2017年の3月から担当になりました。ちょうど、でんぱ組.incがライブ活動をいったん休止したタイミングでした。「密着」が縦軸としてある『でんぱの神神』をこれからどうしていこうか、という感じでしたね。 (写真:『でんぱの神神』) ──これまでの企画で印象的なものはありますか? 河合 古川未鈴さんが『@JAM EXPO 2017』で総合司会をやったときに、会場に乗り込んで未鈴さんの空き時間にジャム作りをしたんですよ。企画名は「@JAMであっと驚くジャム作り」。簡易キッチンを設置して、現場にいるアイドルさんたちに好きな材料をひとつずつ選んで鍋に入れていってもらい、最終的にどんな味になるのかまったくわからないというような(笑)。 極度の人見知りで、ほかのアイドルさんとうまくコミュニケーションが取れないという未鈴さんの苦手克服を目的とした企画でもあったんですが、@JAMの現場でロケをやらせてもらえたのは大きかったなと思います。 (写真:『でんぱの神神』#276/2017年9月22日配信) 企画ではありませんが、ねも・ぺろ(根本凪・鹿目凛)のふたりが新メンバーとしてお披露目となった大阪城ホール公演(2017年12月)までの密着も印象に残っていますね。 ライブ活動休止中はバラエティ企画が中心だったので、リハーサルでメンバーが歌っている姿がとても新鮮で……その空間を共有したとき、初めて「チーム神神」の一員になれたという感じがしました。 そういった意味ではねも・ぺろのふたりに対しては、でんぱ組.incという会社の『でんぱの神神』部署に配属された同期入社の仲間だと勝手に感じています (笑)。 でんぱ組.incが秀でる「自分の魅せ方」 ──でんぱ組.incというグループにどんな印象を持っていますか? 河合 僕が関わり始めたころは、2度目の武道館公演を行うなどすでにアイドルグループとして大きく、メジャーな存在だったんです。番組としてもスタートから6年目だったので、自分が入ってしっかり接していけるのかな、という不安はありました。 自分の趣味に特化したコアなオタクが集まったグループ……ということで、それなりにクセがあるメンバーたちなのかなと構えていたんですけど、そのあたりは気さくに接してもらって助かりました。とっつきにくさとかも全然なくて(笑)。 むしろ、ロケを重ねていくうちにセルフプロデュースや自己表現がすごくうまいんだなと思いました。自分の魅せ方をよくわかっているんですよね。 ──そういったご本人たちの個性を活かして企画を立てることもあるのでしょうか? 河合 マンガ・アニメ・ゲームなどメンバーが愛した男性キャラクターを語り尽くすという「私の愛した男たち」はでんぱ組にうまくハマった企画で、反響が大きかったので、「私の憧れた女たち」「私のシビれたシーンたち」と続く人気シリーズになりました。 やはり好きなことについて語るときはエネルギーがあるというか、とてもテンション高くキラキラしているんですよね。メンバーそれぞれの好みというか、人間性というか……隠れた一面を知ることのできた企画でしたね。 (写真:『でんぱの神神』#308/2018年5月4日配信) ──そして5月に『でんぱの神神』のレギュラー配信が2年ぶりに再開しました。これからどんな番組にしていきたいですか? 河合 2019年2月にレギュラー配信が終了しましたが、それでも不定期に密着させてもらっていたんです。そのたびにメンバーから「『神神』は何度でも蘇る」とか、「ぬるっと復活」みたいに言われていましたが(笑)。そんな『神神』が2年ぶりに完全復活できました。 長寿番組が自分の代で終了してしまった負い目も感じていましたし、不定期でも諦めずに配信を続けたことがレギュラー再開につながったと思うと、正直うれしいですね。 今回加入した新メンバーも超個性的な5人が集まったと思います。やはり今は多くの人に新メンバーについて知ってほしいですし、先ほどの「私の愛した男たち」は彼女たちを深掘りするのにうってつけの企画ですよね。これまで誰も気づかなかった個性や魅力を引き出して、新生でんぱ組.incを盛り上げていきたいです。 (写真:『でんぱの神神』#363/2021年5月12日配信) 密着番組では、事前にストーリーを作らない ──ティーンファッション誌『Popteen』のモデルが音楽業界を駆け上がろうと奮闘する姿を捉えた『ナナポプ』は、2020年の8月にスタートしました。 河合 『Popteen』が「7+ME Link(ナナメリンク)」というプロジェクトを立ち上げることになり、そこから生まれたMAGICOURというダンス&ボーカルユニットに密着しています。これまでのlogirlの視聴者層は20〜40代の男性が多かったですが、『ナナポプ』のファンの中心はやはり『Popteen』読者である10代の女性。そういった人たちにもlogirlを知ってもらうためにも、新しい視聴者層への訴求を意識した企画でもあります。 (写真:『ナナポプ』#29/2021年3月5日配信) ──番組の反響はいかがでしょうか? 河合 スタート当初は賛否というか、「モデルさんにダンステクニックを求めるのはいかがなものか?」といった声もありました。ですが、ダンス講師のmai先生はBIGBANGやBLACKPINKのバックダンサーもしていた一流の方ですし、メンバーたちも常に真剣に取り組んでいます。 だから、実際に観ていただければそれが伝わって応援してもらえるんじゃないかと思っています。番組も「“リアル”だけを描いた成長の記録」というテーマになっているので、本気の姿をしっかり伝えていきたいですね。 ──密着番組を作るときに意識していることはありますか? 河合 特に自分がディレクターとしてカメラを回すときの場合ですが、ナレーション先行の都合のよいストーリーを勝手に作らないことですね。 僕は編集のことを考えて物語を固めてしまうと、その画しか撮れなくなっちゃうタイプで。現場で実際に起きていることを、リアルに受け止めていこうとは常に考えています。一方で、事前に狙いを決めて、それをしっかり押さえていく人もいるので、僕の考えが必ずしも正解ではないとも思うんですけどね。 音楽の仕事をするために、制作会社に入社 ──テレビ業界を目指したきっかけを教えてください。 河合 高校時代に世間がちょうどバンドブームで、僕も楽器をやっていたんです。「学園祭の舞台に立ちたい」くらいの活動だったんですけど、当時から「仕事にするならクリエイティブなことがいい」とはずっと考えていました。初めは音楽業界に入りたかったんですが、専門学校に行って音楽の知識を学んだわけでもないので、レコード会社は落ちてしまって。 ほかに音楽の仕事ができる手段はないかなと考えたときに浮かんだのが「音楽番組をやればいい」でした。多少なりとも音楽に関われるなら、ということで番組制作会社に入ったのがきっかけです。 ──すぐに音楽番組の担当はできましたか? 河合 研修期間を経て実際に採用となったときに「どんな番組をやりたいんだ?」と聞かれて、素直に「音楽番組じゃなきゃ嫌です」と言ったら希望を叶えてくれたんです。1998年に日本テレビの深夜にやっていた、遠藤久美子さんがMCの『Pocket Music(ポケットミュージック)』という番組のADが最初の仕事です。そのあとも、同じ日本テレビで始まった『AX MUSIC- FACTORY』など、音楽番組はいくつか関わってきました。 大江千里さんと山川恵里佳さんがMCをしていた『インディーウォーズ』という番組ではディレクターをやっていました。タレントさんがインディーアーティストのプロモーションビデオを10万円の予算で制作するという、企画性の高い番組だったんですが、10万円だから番組ディレクターが映像編集までやることになったんです。 放送していた2004〜2005年ごろ、パソコンでノンリニア編集をする人なんてまだあまりいませんでした。ただ僕はひと足先に手を出していたので、タレントさんとマンツーマンで、ああでもないこうでもないと言いながら何時間もかけて動画を編集した思い出がありますね。 ──現在も動画の編集作業をすることはあるんですか? 河合 今でもバリバリやっています(笑)。YouTubeチャンネルでも配信している『美味しい競馬』の初期もそうですし、『でんぱの神神』がレギュラー配信終了後に特別編としてライブの密着をしたときは、自分でカメラを担いで密着映像とライブを収録して、それを自分で編集したりもしました。 やっぱり、自分で回した素材は自分で編集したいっていう気持ちが湧くんですよね。忘れかけていたディレクター心に火がつくというか……編集で次第に形になっていくのがおもしろくて。編集作業に限らず、構成台本を作成したり、けっこうなんでも自分でやっちゃうタイプですね。 (写真:『でんぱの神神』特別編 #349/2019年5月27日配信) logirlは、やりたいことを実現できる場所 ──logirlに参加した経緯を教えてください。 河合 実は『Pocket Music(ポケットミュージック)』が終わったとき、ADだったのに完全にフリーになったんですよ。そこから朝の情報番組などいろんなジャンルの番組を経験して、番組を通して知り合った仲間からいろいろと声をかけてもらって仕事をしていました。紀行番組で毎月海外に行ったりしたこともありましたね。 ちょうど一段落して、テレビ番組以外のこともやってみたいなと考えていたときに、日テレAD時代の仲間から「テレ朝で仕事があるけどやらない?」と紹介してもらい、それがまだ平日に毎日生配信をしていたころ(2015〜2017年)のlogirlだったんです。 (写真:撮影で訪れたスペイン・バルセロナにて) ──番組を作る上でモットーにしていることはありますか? 河合 今は一般の方でも、タレントさんでも、編集ソフトを使って誰でも動画制作ができる時代になったじゃないですか。だからこそ、「テレビ局の動画スタッフが作っている」というクオリティを出さなければいけないと思っています。難しいことですが、これを諦めたら番組を作る意味がないのかなという気がするんですよね。 あとは、出演者との信頼関係を大切に…..といったことですね。特に『でんぱの神神』『ナナポプ』といった密着系の番組は、出演者の気持ちをいかに言葉として引き出すかにかかっていますので、そこには絶対的な信頼関係を築いていくことが必要だと思います。 ──実際にlogirlで仕事してみて、いかがでしたか? 河合 自分でイチから企画を考えてアウトプットできる環境ではあるので、そこは楽しいですね。自分のやりたいことを、がんばり次第で実現できる場所。そういった意味でやりがいがあります。 ──リニューアルをしたlogirlの今後の目標を教えてください。 河合 まずは、どんどん新規の番組を作って、コンテンツを充実させていきたいです。これまで“ガールズ”に特化していましたが、今はその枠がなくなり、落語・講談・浪曲などをテーマにした『WAGEI』のような番組も生まれているので、いい意味でいろいろなジャンルにチャレンジできると思っています。 時期的にまだ難しいですが、ゆくゆくはlogirlでイベントをすることも目標です。logirlだからこそ実現できるラインナップになると思うので、いつか必ずやりたいと思っています。 文=森野広明 編集=田島太陽
大胆に予想!『美味しい馬券〜「美味しい競馬」スピンオフ〜』
仙波広雄@スポーツニッポン新聞社 競馬担当によるコラム。週末のメインレースを予想&分析/「logirl」でアーカイブ公開中『美味しい競馬』MC
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大胆に予想!『美味しい馬券〜「美味しい競馬」スピンオフ〜』(北九州記念)
今週から小倉、福島開催が始まり、いよいよ夏競馬も真っ盛り。今年は例年と小倉、中京の開催が入れ替わり、レース史上初となる北九州記念の6月開催。小倉芝は養生十分なのでコンディションはいいでしょうが、週なかばにはまとまった雨。開幕週、芝1200メートルのハンデ戦。YouTube(logirl 【テレ朝動画公式】YouTube)美味しい競馬#169)でも、タレントの成瀬琴さん、三谷紬アナウンサーとともに、6月30日(日)の小倉11R・北九州記念はいかに突破口が多いかを話しています。こういうレースは一点突破、全面展開です。 ◎③サーマルウインド。 人気は蓋を開けないと分かりませんが、葵S組の3歳馬に集まりそうな下馬評です。好タイムの決着で軽ハンデなので、むべなるかなとは思いますが、ここではいわゆる状況的に勝負がかりのサーマルウインドに◎。奥村武厩舎は、ノースブリッジをずっと在厩で使って結果を出すなど、調整スタイルがユニークで評価すべき厩舎です。今回は栗東トレセン入りしての調整で随分具合がいい。関東馬が栗東滞在込みの小倉重賞遠征ですから、勝ち負けを見込んでいて当然。鞍上も早い段階から前走に続き川田を確保。ゲートが良くない馬なので、継続騎乗はありがたいところ。出遅れればその時点でありませんが、千二でそんなことを言っていては馬券を買えないので、スタートは決まるものとします。ハンデ55.5キロは気持ち見込まれましたが、ハイペースの好位差しでチャンスありでしょう。 ○④グランテスト。 3勝クラス勝ち直後なので前走から3キロ減となる53キロ。2走前の小倉で4着に負けましたが、だいぶ窮屈なレースをしいられたもので、小倉が走れないわけではありません。隣枠のサーマルウインドと似た位置で競馬しそうという読み。 ▲⑨ペアポルックス。 5戦2勝2着3回とキャリア全て連対。好位に付ける脚があって立ち回りもうまく、安定感がある一方で少々勝ちみに遅いという印象。葵Sで先着されたピューロマジックと前走で2キロあった斤量差が1キロに。枠も真ん中で、うまく好位を取れそうなところなのは歓迎。 ☆⑫ピューロマジック。 二の脚が速くハンデも53キロ止まり。同型が多くとも行けそうな雰囲気はあります。行き切ってしまえば、そうそう止まらない馬場。いつまでもからまれると微妙ですが。 馬券は3連単2頭軸マルチ。 <軸>③④→<相手>②⑨⑪⑫⑬⑭。36点。 text:仙波広雄@大阪スポーツニッポン新聞社 競馬担当/【logirl】でアーカイブ公開中『美味しい競馬』MC
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大胆に予想!『美味しい馬券〜「美味しい競馬」スピンオフ〜』(宝塚記念)
宝塚記念が行われる6月23日は、今年の174日目。半分には少し足りませんが、宝塚記念の上半期締めくくり感は競馬ファンの共通認識。さあ一年の半分をいい形で締めくくりましょう。YouTube(logirl 【テレ朝動画公式】YouTube)美味しい競馬#168)は、6月23日(日)の京都11R・宝塚記念を予想しています。ゲストは成瀬琴さんです! ◎⑫ブローザホーン。 日曜の京都芝は蓋をあけないと分かりません。少々雨が降っても、改修後の京都はそれほど悪くならないくらい排水性も良く、極端な道悪とはなりづらい。それでも天気予報を当てにするなら、お湿りは確実でしょう。そしてブローザホーンはキャリア20戦のうち、半分の10戦がやや重、重、不良で占められる生粋の雨男。なおかつやや重~不良で【4/1/2/3】と雨が降った馬場をほぼ苦にしないので、陣営は雨ごいをしないまでも週末の雨予報は歓迎。というか、420キロ台の小柄な馬で良の切れ味勝負になると上位人気馬には及びません。雨でスリッピーな馬場になるか、大幅に湿ってかなり時計がかかる馬場になるかしないとチャンスは少ない。ブローザホーンのレインブリンガーぶりに期待の◎です。 ○④ドウデュース。 能力的に、そして実績的にもドウデュースが最右翼で、続くのはジャスティンパレス。これに異論は少ないでしょう。道悪想定で予想するならピッチ走法のドウデュースを上に取ります。 ▲②ジャスティンパレス。 やや重だった昨年の天皇賞・春を勝っていますが、良馬場の方がいいフットワーク。淀で滑りやすい馬場にならなければ力は発揮できそうですが。 馬券は3連単フォーメーション。 <1着>④⑫→<2着>④⑫→<3着>①②⑦⑩⑬。 <1着>④⑫→<2着>①②⑦⑩⑬→<3着>④⑫。20点。 text:仙波広雄@大阪スポーツニッポン新聞社 競馬担当/【logirl】でアーカイブ公開中『美味しい競馬』MC
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大胆に予想!『美味しい馬券〜「美味しい競馬」スピンオフ〜』(マーメイドS)
函館スプリントSは◎☆△でした。どうしてこの印で3連単の目を引けていないのか…と頭を抱えましたが、「サウザンサニー いい脚で突っ込んで4着っぽい」で4着とか、「ウイングレイテスト 初千二、59でむしろ狙い目の感」で2着とか、全頭評価がさえていましたので報告します。読者の皆さんにおかれましては、こちらの全頭診評価を見て、競馬仲間にあのレースのあれは~やろ、という形でドヤるのに使える一言コメントとなっております。YouTube(logirl 【テレ朝動画公式】YouTube)美味しい競馬#167)は、6月16日(日)の京都11R・マーメイドSを予想しています。ゲストはギャンブル芸人じゃいさんです。 相変わらず勝者の余裕があります。 ◎①ベリーヴィーナス。 キズナ牝馬のパートナーといえばソングラインでG1を勝った戸崎や池添、アカイイトの幸が思い浮かぶと思いますが、筆者は藤懸です。ハギノピリナで2勝、オークス3着(16番人気)、シャムロックヒルでマーメイドS制覇(10番人気)、アネゴハダでCBC賞3着と、キズナ牝馬に乗せたら上々の成績。単勝回収率256%、複勝回収率194%。そんな藤懸の直近キズナ牝馬パートナーがベリーヴィーナス。下鴨Sで単勝8番人気、20.7倍で激走して相性の良さを発揮しています。単なる偶然と捉えることもできますが、違うと思います。キズナ牝馬は「前哨戦に強い、非根幹距離向き、ムラ、短縮や馬具装着が効く」などの特徴があります。厩舎スタッフとの密な連携や気性の理解が重要なタイプが多いため、調教技術が高く人柄に定評のある藤懸に癖はありつつ走るキズナ牝馬が集う…というわけです。あとタフで、詰めて使うのもプラスになるのがキズナ牝馬。中1週でも心配無用です。最内枠もハナを切るには絶好でしょう。logirlのコラムなので書いておきますが、ももクロをトレセンに広めたのは、栗東は藤懸貴志、美浦は嶋田純次です。 ○⑨コスタボニータ。 牝馬の2000メートル重賞なので、ペースはスローの見立て。ベリーヴィーナスとアリスヴェリテが競って流れが速くなれば、2頭とも沈んで馬券も外れますので、ベリーヴィーナスを◎にした時点で印もスロー想定です。後方待機組より先行勢を重視。コスタボニータは福島牝馬Sを4角4番手から押し切ったように、ある程度のポジションを取って、その利を生かすタイプ。出来も引き続き良く、重賞V直後なら56キロでも買いとみました。 ▲⑧セントカメリア。 牡馬相手の都大路Sで上がり3F33秒1を使って3着。評価すべきレースでしょう。どうにも乗り難しく、気性面でも安定しないのがつらいところですが、気分良くレースができればここでも上位争い可能です。 馬券は3連単フォーメーション。 <1着>①→<2着>⑧⑨→<3着>③④⑥⑧⑨⑩⑪⑬⑭⑮。 <1着>⑧⑨→<2着>①→<3着>③④⑥⑧⑨⑩⑪⑬⑭⑮。 <1着>⑧⑨→<2着>③④⑥⑧⑨⑩⑪⑬⑭⑮→<3着>①。54点。買い目にガチ感があふれています。ベリーヴィーナスが走った際に取り逃す気はありません。 text:仙波広雄@大阪スポーツニッポン新聞社 競馬担当/【logirl】でアーカイブ公開中『美味しい競馬』MC
その他
番組情報・告知等のお知らせページ
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Task have Fun Diary 公開収録<概要・応募規約>
テレ朝動画「Task have Fun Diary公開収録」番組観覧無料ご招待! 2024年4月27日(土)開催!「タスクダイアリーお笑いライブ」 logirl(ロガール)会員の中から抽選で100名様に番組観覧ご招待! 番組概要 テレ朝動画でレギュラー配信中!Task have Funの番組「Task have Fun Diary」初の公開収録!今回はTask have Funとオジンオズボーン篠宮暁の4人で初の試みとなる「お笑いライブ」を開催!漫才あり、コントあり、トークあり、さらにライブも特典会もありのスペシャルプログラムでお届けします。 日時:2024年4月27日(土) 開場18:00 開演18:30~20:10頃(その後特典会あり) 場所:浅草木馬亭 東京都台東区浅草2−7−5 出演者(予定):Task have Fun/オジンオズボーン篠宮暁/??? ※さらに出演者(キャラ?)が追加する場合も有ります。 【応募詳細】 応募期間:2024年4月6日(土)21:30~4月15日(月)23:59締切 応募条件:logirl(ロガール)会員のみ対象(当日受付で確認させていただきます) 下記「応募規約」をよく読んでご応募ください。 応募フォーム:https://www.tv-asahi.co.jp/apps/apply/post.php?fid=10786_d37bf ご応募お願い致します。 当選発表:当選した方のみ、当選メール(ご招待メール)をご登録されたアドレスまで お送りさせていただきます。 「Task have Fun Diary公開収録」応募規約 【応募規約】 この応募規約(以下「本規約」といいます。)は、株式会社テレビ朝日(以下「当社」といいます。)が 運営する動画配信サービス「テレ朝動画」における「Task have Fun Diary」(以下「番組」といいます。)に関連して実施する、公開収録の参加者募集に関する事項を定めるものです。参加していただける方は、本規約の内容をご確認いただき、ご同意の上でご応募ください。 【募集要項】 開催日時:2024年4月27日(土)18:30開始~20:10頃終了予定(その後特典会予定) (途中、休憩あり) ※スケジュールは変更となる場合があります。集合時間等の詳細は当選連絡にてお伝えいたします。 場所:浅草木馬亭(東京都台東区浅草2-7-5) 出演者(予定):Task have Fun/オジンオズボーン篠宮暁 ※出演者は予告なく変更される場合があります 募集人数:100名様(予定) ※応募者多数の場合は、抽選とさせていただきます。 【応募資格】 ・テレ朝動画logirl(ロガール)会員限定 ・年齢性別は問いません 【応募方法】 応募フォームへの必要事項の入力 ・テレ朝動画にログインの上、必要事項を入力してください。 【ご参加お願い(参加決定)のご連絡】 ■ご参加をお願いする方(以下「参加決定者」といいます。)には、応募フォームにご入力いただいたメールアドレス宛に、集合時間と場所、受付手続等の詳細を記載した「番組公開収録ご招待メール」(以下「ご招待メール」といいます。)を送信させていただきます。なお、ご入力いただいた電話番号にショートメールでメッセージもしくはお電話をさせて頂く場合がございます。非通知設定でかけさせていただく場合もございますので、非通知拒否設定は解除して頂きますようお願いします。 ■当日の集合時間と集合場所は「ご招待メール」に記載します。集合時間に遅れることのないようご注意ください。 ■「ご招待メール」が届かない場合は、残念ながらご参加いただけませんのでご了承ください。 ■「ご招待メール」の送信の有無に関するお問い合わせはご遠慮ください。 ■公開収録の参加は無料です。参加決定のご連絡にあたって、参加決定者に対し、参加料等のご入金のお願いや銀行口座情報、クレジットカード情報等のお問い合わせをすることは、一切ございません。「テレビ朝日」や本サービスの関係者を名乗る悪質な連絡や勧誘には十分ご注意ください。また、そのような被害を防止するため、ご応募いただいた事実を第三者に口外することはお控えいただけますようお願い申し上げます。 ■「ご招待メール」および公開収録への参加で知り得た情報、公開収録の内容に関する情報、及び第三者の企業秘密・プライバシー等に関わる情報をブログ、SNS等への記載を含め、方法や手段を問わず第三者への開示を禁止いたします。また、当選権利および当選者のみが知り得た情報に関して、譲渡や販売は一切禁止いたします。 【注意事項】 ■ご案内は当選したご本人様1名のみのご参加となります。(同伴者はご案内できません) ■未成年の方がご応募いただく場合は、必ず事前に保護者の方の同意を得てください。その場合は、電話番号の入力欄に保護者の方と連絡の取れる電話番号をご入力ください。(保護者にご連絡させていただく場合がございます。) ■開催当日、今回の公開収録の参加および撮影・映像使用に関しての承諾書をご提出いただきます。(未成年の方は保護者のサインが必要となります。) ■1名につき応募は1回までとします。重複応募は全て無効になりますので、お気をつけください。 ■会場ではスタッフの指示に従ってください。指示に従っていただけない場合は、会場から退去していただく場合がございます。 ■会場でのスマートフォン等を用いての録画・録音についてはご遠慮ください。 ■会場までの交通手段は、公共交通機関をご利用ください。駐車場はございません。 ■会場までの交通費、宿泊費等は参加者のご負担にてお願いいたします。 ■当日は、ご本人であることを確認させていただくために、お手持ちのスマートフォン等で表示または印刷した「ご招待メール」と、「身分証明書」(運転免許証・パスポート等、氏名と年齢が確認できるもの)をお持ち下さい。ご本人確認が出来ない方は、ご参加いただけません。 ■荷物置き場はご用意しておりません。貴重品の管理等はご自身にてお願いいたします。貴重品を含む持ち物の紛失・盗難については、当社は一切責任を負いません。 ■公開収録に伴い、参加者・客席を含み場内の撮影・録音を行い、それらの映像または画像等の中に映り込む可能性があります。参加者は、収録した動画、音声を、当社または当社が利用を許諾する第三者(以下、当社および当該第三者を総称して「当社等」といいます)が国内外テレビ放送(地上波放送・衛星波放送を含みます)、雑誌、新聞、インターネット配信およびPC・モバイルを含むウェブサイトへの掲載をはじめとするあらゆる媒体において利用することについてご同意していただいたものとみなします(以下、かかる利用を「本件利用」といいます)。なお、本件利用の対価は無料とさせていただきますので、ご了承ください。 ■諸事情により番組の公開収録が中止又は延期となる場合がありますのでご了承ください。 【開催日付近の新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、以下内容を実施する可能性がございます】 ■ご登録いただいたお名前、ご連絡先を、必要に応じて公共機関へ提供させていただく可能性がございます。 【個人情報の取り扱いについて】 ■ご提供いただいた個人情報は、番組公開収録への参加に関する抽選、案内、手配又は連絡及び運営等のために使用し、収録後に消去させていただきます。 ■当社における個人情報等の取扱いの詳細については、以下のページをご覧下さい。 https://www.tv-asahi.co.jp/privacy/ https://www.tv-asahi.co.jp/privacy/online.html
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新番組『WAGEIのじかん』(CS放送)
CSテレ朝チャンネル1「WAGEIのじかん」 落語・浪曲・講談など日本の伝統芸能が楽しめる番組。MCを務める浪曲師玉川太福と話芸の達人(=ワゲイスト)たちが珠玉のネタを披露します。さらに、お笑いを愛する市川美織が番組をサポート!お茶の間の皆様に笑いっぱなしの15分をお届けします。 お届けするネタ(3月放送)は、玉川太福の浪曲ほか、古今亭雛菊・春風亭かけ橋・春風亭昇吉・昔昔亭昇・柳家わさび・柳亭信楽の落語、神田松麻呂の講談などが登場します。お楽しみに〜!(※出演者50音順) ★3月の放送予定 3月17日(日)25:00~26:00 3月21日(木)26:00~27:00 3月24日(日)25:00~26:00 ⇩【収録中の様子】市川美織さん箱馬に乗って高さのバランスを調整しました。笑