

ちかごーろー わたしたーちはー いい感じ
悪いわね ありがとねえ これからも よろしくねー
高市早苗首相と韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領の、初めての首脳会談の様子をモニターしながら、PUFFYの歌が脳内に流れて来た。
言わずもがなのことだが、日韓両国の間には歴史認識の軋轢(あつれき)がある。特に、保守派と言われる政治家が日本の首相となり、革新系のリーダーが韓国の大統領となるとそれは激しくなり、最悪、首脳同士の対話まで閉ざされがちになる。
高市首相とイ大統領という組み合わせはまさにそれを想起させるものであり、多くの関係者が心配したのだが、実際は全くそんなことはなく、初の首脳会談は良好な関係をアピールして終わった。
それは、アメリカと中国という、2大国の指導者が登場した今回の東アジア外交での、必然のなせる業だったろう。日本も韓国もアメリカこそが最大の同盟国であり、自国に米軍基地を提供している。アメリカは安全保障上の頼みの綱なのである。
一方で中国という存在は、日本にとって、複雑な歴史の問題や、領土の帰属の問題を抱えているからこそ、なおのこと難しい隣人だ。かつ中国が圧倒的な生産量を誇るレアアース(希少金属)の輸出制限をちらつかせ、脅しをかけてきたりもする。
それに何といっても、巨大なハリネズミのようにして核武装する北朝鮮の後ろ盾となっているのが、この中国だ。北朝鮮は日韓共通の脅威である。その後ろ盾なのだから、中国はやはり巨大で厄介な隣人なのだ。
このように、日韓は共通する課題が多い隣国である。かつて、両国の関係がささくれだった時に、アメリカの大統領が仲裁に入る場面もあったが、トランプ大統領にそんな気配りがあるとは思えない。甘えられるような相手ではないどころか、怒らせたら後が怖そうだ。だから両国はトランプ氏に対して、「私たちはうまくやっていますからご心配なく」というサインを送る必要がある。「日米韓で手に手を取って、この東アジアの混乱は未然に抑え込みましょう」という願いを込めて。
だから、日韓関係はこんな感じなのだと思う。
お互いぶつかった部分もあったけど水に流そうよ…「わるいわね」。ご近所同士、良いこともたくさんあったしね…「ありがとね」。だから「これからも よろしくね」ということなのだ。でもしばらく笑顔で話していると、「近ごろ私たちはいい感じ」という気持ちになるから不思議なもので、笑いの効能というのはなるほど小さくない。
そんな日韓両国のトランプ大統領へのおもてなしぶりはすごかった。イ大統領が送った金の王冠は、かつての新羅時代の国宝のレプリカであり、荘厳この上ない。また、韓国の最高勲章である「無窮花大勲章」も贈呈する徹底ぶりだ。
日本の側も相当なものだった。それを象徴するのが、アメリカ大使公邸で開かれた夕食会だ。日米両政府は、先の関税合意で日本側が提案した5500億ドル(約80兆円)の対米投資について、投資先の候補となる21の案件をまとめ公表した。これに関心を寄せる日本企業の名前の列挙とともに。企業トップはこの日の夕食会で、トランプ氏との誓約書のような文書に署名し、大統領ご満悦のひと時に貢献した。
これについては、番組にしばしば登場してくれる、テレビ朝日・政治部官邸キャップの千々岩森生記者がうまい解説をしていたので、そのまま引用させてもらう。
「これはまさにトランプ氏を喜ばすためのお土産。日本側は大統領の今回のアジア・ツアーの最大の目的が、各国から投資やビジネス案件を獲得し、国内向けにアピールすることだと読んでいました。そこで各企業と打ち合わせて、80兆円の投資案件の具体化を水面下で進めていたのです。ふつう夕食会と言えば、時の総理が、お寿司屋さんでも炉端焼きでも、こちらが大統領をもてなすのが恒例ですが、あえてアメリカ政府主催という形をとり、夕食会を具体的な投資案件をアピールする場に、模様替えしたというわけです」。
なるほど。トランプ氏を心から喜ばせるのは、ビジネス面での具体的なディールの成果だというわけだ。
大統領を喜ばせたという点では、高市首相が大統領の専用ヘリコプターに同乗して横須賀に向かい、異例なことに、アメリカ海軍の原子力空母の艦上で、大統領と並んで演説したのもそういうことだろう。コンサート会場に招かれたゲストよろしく、跳ね上がるように喜びを表しながら、日米同盟の黄金時代を築く決意を強調した。
首脳同士の信頼関係を築くことになったのであれば、それは何にもまして喜ばしいことである。一方で、ここまで「トランプ推し」に全体重を乗せるのも、それはそれ危なっかしいのではないか、などと僕は考えてしまう。しかし、そんな懸念を見透かしたように、同業者の友人は言った。
「まあ、ここは割り切ってなんぼでしょ。ブッシュのときも、1期目のトランプのときも、日本はそうやって来たし、ここはプライドがどうのこうのいう場面じゃない」。
確かに、かつてブッシュ政権がテロとの戦いに踏み込んだ時に、世界で最初に支持を表明したのが時の小泉純一郎首相であり、その恩を忘れなかったブッシュ氏との間で、日米は極めて良好な関係を築いた。僕はその時ワシントン駐在だったからその空気感を知っている。
トランプ氏が1期目の当選を果たした後、これも一番乗りで彼に会いに行ったのが当時の安倍晋三首相だった。安倍氏の没後も、トランプ氏が「シンゾーは最高の友人だった」と何度も繰り返しているのを、多くの皆さんがご存じだろう。高市首相も、首相を支える官邸や外交スタッフも、その成功体験を生かさない手はないと、腹をくくったと見ていい。
それは分かるのだがと、なおぐずぐずと考える僕の脳内に、またもPUFFYの歌声が流れ出した。
そーれが わーたしのー 生きる道
武士は食わねど高楊枝、などと気位の高いことばかり言っても、国民の安全を守れないようでは本末転倒だ。よいしょ外交、お世辞外交という言葉がチラつかないわけではないが、ここはぐっと飲み込み、現実を見るとしよう。いまはそれが日本の立ち位置であり、生きる道なのだと。
それでーは さよーなーらー
(2025年11月1日)

