大越健介の報ステ後記

衝撃のbefore&after
2025年10月12日

 政治が一気に流動化した。
 公明党が自民党との連立政権から離脱すると表明した10月10日は、令和の政治史に大きく刻まれることは間違いない。12日付朝日新聞の「天声人語」は、長く連れ添いながら別れる熟年離婚を引き合いに、「26年にわたる自公協力の解消を表明した公明の斉藤鉄夫代表の言葉には、そうしたケースと、なにやら似た雰囲気を感じた」と記していた。例えが適切かどうかはともかく、政治とは詰まるところ人間模様なのだと強く感じさせる出来事だった。

 この衝撃の直前直後で、僕は渦中の主役とそれぞれ対面でインタビューすることができた。それはキャスターとして得難い経験だったし、長い政治取材の中でもこれほどのコントラストに面食らったことはないと言っていい。

自民高市総裁3

 9日の夜、自民党の高市早苗総裁は各放送局からの出演依頼に集中的に応じ、時間帯ごとに各番組への中継出演を「はしご」することになった。もちろん報道ステーションへの出演も組まれたが、僕としては直接、対面して話が聞きたかった。相手がこの国のトップになろうという人物ならなおのことだ。
 とはいえ、多忙な高市さんに、永田町から六本木のスタジオに来てもらうのは移動時間のハードルが高い。そこで僕の方から永田町に出向くことにした。国会に隣接する「国会記者会館」の一室にあるテレビ朝日のブースを、対面式インタビューができるように急ぎ改造してもらい、彼女を招き入れることにした。

 15分のインタビューは、公明党との関係が主なテーマとなった。公明党はこの日、自民党との連立を維持するかどうかをめぐって断続的に協議を行い、インタビューの直前に、判断を斉藤代表と西田幹事長に一任したとの一報が入っていた。高市さんとの党首会談は翌日に設定されたという。
 高市さんも公明党との連携を軽視していたわけではない。公明党との連立維持は「基本中の基本」だと説明し、誠意をもって党首会談に臨むことを強調した。僕から、10月下旬には外交日程が立て込み、物価高対策を含む補正予算案を審議する時間が限られてきていることについてたずねると、正直に「焦りはあります」と吐露した。そのためにも、改めて公明党との政策協定の締結を急がなければならないと。

 しかし、結果的に高市さんは読みを誤った。公明党が、自民党の政治とカネの問題にいかに苦しめられていたかを十分に認識できていなかった。企業団体献金の規制をめぐる公明党案を自民党に飲ませることが最低限のミッションであることについても。
 高市さんは、いわゆる「裏金議員」の要職への起用も、丁寧に説明すれば公明党の理解は得られると踏んでいた節があった。インタビューで、「とにかく働いて、働いて、働きまくる」と彼女は熱を込めた。一連の問題で処分を受けた人たちであっても、もう遊ばせておく余裕はない。自民党議員を総動員し、馬車馬になって経済対策などに取り組むことこそが、彼女にとっての解党的出直しなのである。
 
 インタビューの15分は、あっという間に過ぎた。思いのたけを伝えることができたと感じたのか、高市さんはピンマイクを外しながら、とても朗らかな表情だった。「ありがとうございました」と伝えると、「わざわざ出向いてもらって、こっちこそ嬉しいわ!」と茶目っ気たっぷりに返し、満面の笑みでその場を立ち去った。その時の僕もまた、翌日にどんでん返しが待っていることは想像できなかったひとりだった。

 永田町ではふつう、長い議論の末に「一任」を取り付けることは、物事が実質的に決着することを意味する。そこには「異論を唱える人に十分発言をさせ、いわゆるガス抜きをして規定方針に収める」というニュアンスが言外に含まれる。既定方針というのはこの場合、26年も続いた自公の枠組みを維持することになる。永田町の住人も、政治記者のような周辺居住者も、公明党の連立離脱はないだろうと、かなりが思い込んでいた。

 ところが、「一任」を受けた公明党の斉藤代表は、全く逆の決意を固めていた。政治とカネの問題をめぐる議論は、自民党総裁に就任したばかりの高市さんにとっては「スタート」であっても、斉藤さんにとってはもう「ゴール」の段階だったのだ。

公明斉藤代表3

 「私たちはこれまでずっと、自民党さんには何度も何度も伝えてきたんです」。
 斉藤さんはこの日の報道ステーションのスタジオで、切々と訴えた。国政選挙のたびに選挙協力の関係にある自民党候補を支援してきた。しかし、旧安倍派を中心とする政治資金の不記載問題が明るみに出て以降、クリーンさを掲げてきたはずの公明党が、不記載のあった自民党候補を擁護し、言い訳をして回らざるを得ない状況が生まれたという。せめてもと提案した企業団体献金の規制強化についても、「引き続き協議」という常套文句では、自民党との関係を維持することができなくなっていた。もう限界だったことがうかがえた。

 だが、僕はスタジオで斉藤さんに酷な質問もしなければならなかった。
 「与党としての責任は大きい。連立離脱は日本の政治の土台を弱体化させることになります。政治とカネの問題で自民党を説得できなかったことも含めて、斉藤さんも責めを負わざるを得ないのでは」。
 斉藤さんはその責任を否定しなかった。
 さらに僕が、「選挙協力が得られなくなる自民党は痛手だが、自民党の協力を得られなくなる公明党にとっても、存亡の危機となるのではないですか」と聞くと、そこでも斉藤さんは、「覚悟しています」と短く、深刻な表情で答えた。

 政治といえば駆け引き、最近で言えばトランプ流の「ディール」がモノを言う世界だ。しかしこうしてみると政治とは、政党同士、政治家同士の無数の関係性が織りなす紋様であり、極めて人間臭い営みであることが分かる。
 そして政治は小休止を許さない。10月20日以降に、石破内閣総辞職に伴う、新たな総理大臣指名選挙が行われる。比較第1党の総裁である高市さんが依然有利とはいえ、公明党という支えを失ったいま、野党連携の進展次第では状況が混とんとしてきた。
 
 永田町を舞台とする日本政治は今後、どのような紋様を浮かび上がらせるのか。ただひとつ言えるとすれば、その紋様は、一時期のような強固な一本線ではなく、これまで見たことのないような、とても曖昧で崩れやすいデザインとなる可能性が大きいということである。

(2025年10月12日)

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