大越健介の報ステ後記

昼まで寝てしまった
2024年02月17日

 土曜日のきょう、久しぶりに昼まで寝てしまった。朝方、妻が家の外でお隣さんとおしゃべりしている声が聞こえて目が覚めたが、時計を見るのもめんどうで、そのまま二度寝してしまった。次に起きたのが11時58分だった。驚きである。こんなに寝たのは何年ぶりだろうと考えながらテレビをつけ、正午のニュースにチャンネルを合わせた。

 学生時代はこんなふうだったな、と思い出した。野球部の寮に入っていた僕は、体育会系のむさ苦しい暮らしがすっかり板についていた。最上級生の4年生ともなると怖いモノなしで、昼前にのろのろと起きだし、一階の食堂兼ロビーに降りていくのが常だった。
 食堂では、同じくむさ苦しいチームメイトたちが、いつもタモリさんの「笑っていいとも!」を見ていた。僕も一緒に笑いながら、寮のおばさんが作ってくれた朝食の残りで昼飯を済ませ、すぐ近くの球場へと練習に出かけたものだ。

 東京六大学リーグで最も弱いことで知られる野球部である。何とか汚名をすすぎたいと、みんな懸命に練習した。だが、投手というポジションは練習メニューに限界がある。何時間もバットを振り続けるとか、ノックを受けるということもなく、結局誰よりも早く練習を終えて寮に帰り、一番風呂に入って夕食を済ませる。家庭教師のバイトがある日以外は、テレビを見るか本を読むかして眠りにつく。そしてまた翌日、「笑っていいとも!」という毎日だった。
 大学もすぐ近くだったから、講義やゼミに出かけたこともあったはずなのに、全く記憶にない。よく卒業できたものだ。今のまじめな学生諸君にはとても顔向けできない。

 学生のとき以来、何十年かぶりに昼まで寝てしまったきょうの僕は、妻が作り置いてくれた朝食をぼそぼそと食べ、ネコと遊んだり新聞を読んだりしたのだが、早くも時計は午後2時を指している。そろそろ身体を動かさなきゃとスニーカーをはき、タッタカと散歩に出かけた。よく寝たせいか気分はスッキリしていて、春めいた気候も心地よく、1時間で終えるつもりが川沿いのコースを2時間も歩いてしまった。もう午後4時である。

 そうだ、髪がボサボサに伸びたので、きょう中に散髪に行かなければならないのだった。近所の理容店へと歩く。店主のSさんは僕を見て、「最近、耳の上あたりに白髪が目立つようになったねえ」と気にしている。何とか目立たないようにと、夫人(こちらも理容師である)とあれこれ相談しながら、時間をかけて髪を整えてくれた。

 感謝して店を出ると、もうとっぷりと日が暮れていた。
 いけない。昼まで寝て満足したのはいいが、このままだと散歩と床屋さんで一日が終わってしまう。貴重な「午前中」という時間を失っただけで、一日はこんなにも早く過ぎてしまうものなのか。

 夕食を終え、本当に焦ってしまった僕は、せめてきょう一日に何かを刻もうと、こうしてパソコンのキーボードに向かったのだった。だがそういう時には、えてしてネタに困るもので、「久しぶりに昼まで寝てしまった」などという、気の抜けた書き出しになった次第である。

 思えば、僕にとって睡眠は常に悩みのタネだった。子どものころから気が小さいところがあり、ちょっとした物音ですぐ目を覚ましたし、遠足や運動会の前の夜は眠れずに苦労した。昼まで太平楽に寝ていた大学時代は、野球しか打ち込むものがなくシンプルな毎日だったのだろう。

 就職して記者になると不規則な日々が続いた。理不尽な時間に目覚ましをセットしなければならない日も多く、僕にとって睡眠はありがたく、そしてまたもや厄介なものになった。ワシントン駐在となってから、睡眠はますます混乱した。アメリカ東部と日本は時差が大きく、昼夜がほぼ逆だ。日本の夜のニュースに中継でリポートしようとすると向こうでは早朝である。寝ずに準備をすることもざらだった。ようやくリポートを出し終えてほっとする間もなく、アメリカでは一日が始まる。睡眠のリズムは犠牲にせざるを得なかった。

 報道ステーションのキャスターになり、夜は遅くなった。ここに加齢という新たな問題が持ち上がる。夜寝るのが遅いくせに、朝、早く起きてしまうのだ。一度目が覚めてしまうと「ああ、もう眠れない」と絶望的な気持ちになり、焦り、結局それ以上眠るのをあきらめてしまっていた。

 ところが、である。この数か月、少しずつだが変化が起きていたのだ。未明に寝て、朝早くいったん目が覚めるものの、二度寝をして気がつくと9時や10時になっている、などということが珍しくなくなっていた。メイクの女性にその話をすると、「眠るにも体力を使うって言いますから、きっと身体が若返っているんですよ!」とほめてくれた。根拠は不明だが、なんだか嬉しい。
 番組キャスターを務めてまもなく2年半。ようやく水に慣れ、神経も落ち着いてきたということか(遅すぎるけど)。

 睡眠を十分にとることで、日々のスタジオさばきにもキレが出てくることを願う。ロシアでは反体制派リーダーのナワリヌイ氏が不審死した。ウクライナは東部戦線の要衝から撤退し、戦況は急を告げている。ロシアによる本格侵攻からもうすぐ2年だ。
 復旧がなかなか見えてこない能登半島地震の傷跡など、日本も世界もニュースに休みはない。

 覚悟を新たにしたところで、きょうは早めに眠りにつくとするか。
 と思ったら、自宅のネット回線がなぜか途切れてしまった。困った。僕はこの手のトラブルが圧倒的に苦手である。あすはこの問題を自分で解決するか、さもなければプロバイダーのフリーダイヤルに電話して自動的にたらい回しにされる、という大仕事が待っている。
 そう考えると心配になってきた。きょう寝坊した分、今夜は眠れない気がしてきた。少なくともあすは早く目が覚めそうだ。
 ああ、本当に僕は気が小さい。

(2024年2月17日)

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