僕のようにデジタルが苦手な人間にも、スマホのアプリは恩恵をくれる。最近ハマっているのが、植物をカシャッと撮影するだけで、その名前や特徴などの詳細を検索してくれるという優れモノのアプリだ。
もともと散歩が好きだ。暑さが和らいだこともあって、2時間くらいは平気であちこちを歩く。ウォーキングという横文字より、ほっつき歩くという日本語の方がふさわしい。
街歩きもいいが、やはり自然の中を歩くのがいい。ちょっと大きな川の岸辺には遊歩道が整備されていることも多く、季節の花が河川敷を彩るのを見るのがとても楽しい。大きな公園で整備された花壇を見るのも面白いが、ふと、道ばたの野草が花を咲かせているのを見ると、ちょっと得をした気分になる。
こんなとき、花の名前が分かればいいのにと常々思っていたのだが、手軽にそれを知ることのできるアプリの存在を知り、今やすっかりお世話になっているというわけだ。
この季節、まっすぐに上を向き、特徴的な赤い花をつけているのがヒガンバナだ。その名の通り、お彼岸の頃に咲く花である。さすがにこの花の名は知っていたが、念のためアプリで確認する。別名はマンジュシャゲ(曼珠沙華)だ。学名はリコリス・ラジアータというそうだ。
つきぬけて 天上の紺 曼珠沙華
中学校のころだったか、国語の教科書に載っていた俳人・山口誓子の句である。この日はあいにくの曇り空だが、晴れ上がった空に突き抜けるようなヒガンバナの姿が、17文字で余すところなく描写されている。
2時間の散歩は、50年近く前に学んだ名句を味わい直すという、副産物をもたらしてくれる。
お盆を越えたくらいから、河川敷で大いに活躍していたのがこの黄色い花である。9月も下旬になったが、いまもあちこちで鮮やかな色彩を放っている。
その名をキクイモ(菊芋)という。
可憐な花なのに、もう少しすてきな名前を付けてあげてもよいのでは、と思う。アプリでさらに調べると、キクイモはヒマワリ属の外来種で、地下茎が養分を蓄えて塊(かたまり)を作るそうで、イモという名前がつけられたのも納得がいく。繁殖力が強く、農地にも進出する。農家にとっては迷惑な存在だそうだ。すてきな名前が付けられなかったのはそのためだろう。
そのほかにも、よく見かける可愛らしい花の中には、アレチヌスビトハギ(荒地盗人萩)とか、ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い)とか、あまりにも気の毒な悪名を冠してしまった植物が少なくない。
そんなことに一喜一憂していると、2時間の散歩などあっという間だ。
テレビ朝日は、「未来をここからプロジェクト」と題して、SDGs(持続可能な開発目標)に関わるキャンペーンを展開していて、スタッフが、「大越さんは日常生活で心がけていることがありますか?」と聞いてきた。
「いやあ、人様に言えるようことは特に・・・」と口を濁したのだが、本当は心の中に浮かんだことがあった。それが「2時間の散歩」である。それがなぜSDGsに結びつくのか、うまく説明できなかった。
しかし、もう一度考え直してみても、この散歩は自分なりのSDGsなのだと思う。
まず、ただ歩いているだけだから食べ物を口にしない。同じ時間、家でごろごろしていたら、あれこれつまみ食いしたりして、たくさんのプラスチック容器をゴミに出していることだろう。
そして、程よい運動が健康の維持につながり、お医者さんの世話にならずに済む。医療器具なども使わないから電力の節約になる。そもそも、歩くことで贅肉が落ちてスッキリすれば周りも自分も暑苦しい思いをさせずに済み、冷房だって1℃くらい高めに設定できるかもしれない。これまた電力の節約につながるというわけである。ちょっと無理があるかな。
それよりなにより、たくさんの植物に接することで、自分もまた自然の一部分であることを実感する。地球に負荷をかけてはいけないと実感する。植物アプリはそんな僕の自覚を促してくれる大事なツールであり、その自覚は自分の様々な行動につながっていくはずだ。
心身ともにリフレッシュできる毎日の散歩を、これからも続けながら、毎日のニュースを伝えていこうと思う。
(2022年9月27日)