大越健介の報ステ後記

選挙は「いくさ」だ
2022年07月04日

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 ドサッというような音がしたかと思うと、高齢女性が歩道の上に倒れていた。近くにいた報道関係者が(たまたまわが報道ステーションのディレクターだった!)が頭を支え、声をかけている。意識はあるようだ。しかし、倒れる際に手をつくことができなかったのか、頭をコンクリートで打ったらしく、髪の下から出血していた。
 7月2日土曜日、参院選の街頭演説が行われていた京都駅前でのことだ。この日の京都は最高気温38度の予報。正午過ぎのこの時刻は、体感として40度近くはあったと思う。うだるような暑さとはこのことだ。
 
 女性が倒れた場所は、偶然にも、これから応援弁士として登場する岸田総理が、駅を降りて街宣車に乗るまでの動線(通過経路)上にあった。時まさに、倒れている女性の横を警護の警察官を先頭とした総理の一行が通り過ぎようとした。岸田総理が異変に気付き、声をかけていた。あたりはごった返していたが、女性は意識を保ったまま救急車に運ばれ、なんとか、総理の街頭演説も始まった。
 この女性は胸に応援バッジをつけていたから、候補の支持者なのだろう。灼熱の街頭に応援に出て、熱中症にやられた可能性がある。無事でいてくれればいいのだが。

 これだけ暑いと、選挙をする側も応援をする側も、大げさでなく命がけである。選挙戦という文字が示すとおり、まさに「戦(いくさ)」だ。
この日、京都のみならず、列島の各地で35度以上の猛暑日が記録されていた。東京は8日連続の猛暑日となっていた。
 例年より早く、あっという間に明けてしまった梅雨。身体の準備が整わないままに熱波に襲われ、各地の救急医療機関に搬送される熱中症患者が後を絶たない。医療ひっ迫という言葉はコロナ禍の中でさんざん耳にしたが、太陽までが嵩にかかって医療従事者や弱者をいじめるのか。

 とはいえ、こちらは仕事で京都に来ている。
7月10日投開票の参議院選挙で、京都選挙区は全国屈指の激戦区である。改選となる議席は、自民党と立憲民主党が持っていた2議席だが、日本維新の会の躍進で一気に混戦の度合いを増した。京都に伝統的に強い地盤を持つ共産党を含めて、2議席をめぐる争いは、し烈である。
 選挙は熱い。そして、ただでさえ暑い。
 こちらも、各候補の演説日程をにらみながら、市内各地を移動し、演説ポイントで待ち受け、候補の演説の内容を聞き、支持者の反応を見る。汗を拭き拭き、水を飲み飲み、首を冷やし冷やしと、取材する側も大変だ。
 ただ、選挙取材というのはこうして街頭演説をハシゴするのが効率的なやり方でもある。

 それは、われわれ取材者としての目線だけでなく、ひとりの有権者としても、投票先を決めるうえで同じことが言えそうだ。
 各候補者の選挙運動といえば、選挙カーに乗って名前を連呼するのが風物詩であると同時に、騒音扱いされることもある。ただ、候補者の多くは毎日、その日のポイントを決めて「辻立ち」をする。文字通りの街頭演説だったり、あえて田んぼの真ん中だったりもする。前日の夕方くらいにネットなどで公開されるので、可能な範囲で一度足を運び、肉声を聞いてみてほしい。そうすると、各候補や政党の訴えについて、単に字面で読むのとは違う新しい発見もある。できれば複数の候補の主張を聞き比べてみるのがなお良いと思う。

 しかしなあ、とも考える。この暑さでは「街頭演説を聞いてみよう!」と力強く呼びかけるのも気が引ける。京都駅前で熱心な高齢女性が倒れるところを目撃した身としてはなおさらだ。

 翌3日の日曜日、京都は一転、雨だった。今度は傘をさしながらの選挙取材。一方、東京都心は9日連続の猛暑日で、これは記録だという。取材を終えて新幹線で帰京すると、雨が追いかけてくる形で東京も雨が降った。
 翌4日月曜日、東シナ海を北北東に進む台風4号などの影響で、列島は広く雨雲に覆われている。東京も久しぶりに猛暑日を逃れたが、蒸し暑さは増した感じだ。そして何より、強い雨雲はすでに、九州などで被害をもたらしている。

 いやはや、忙しい夏である。梅雨が引っ込んで猛暑が続いたかと思えば今度は台風。いや、ちょっと待てよ。まだ7月に入ったばかりだ。早すぎないか。なんだかもうひと夏分を過ごしたような疲れを感じる。

 7月10日には参院選の投開票日を迎える。今回の選挙は、ロシアのウクライナ侵攻によって、安全保障上の危機感を肌身で感じながらの選挙だし、物価高も深刻だ。
 この日は特別番組「選挙ステーション」で、4時間以上にわたって日本の政治の今を伝えることになっている。疲れたなどと言っていられない。しゃんとしなければ。

 ただし、今年については、どこかの時点でしっかり夏休みを取ることにしよう。番組プロデューサー様。どうぞよろしくお願いします。

(2022年7月4日)

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