9月15日(火)、第39回テレビ塾【見せるスポーツvs魅せるスポーツ~純粋スポーツ中継から『スポーツ王』・『キリトルTV』まで~】を開催。数々の秘蔵映像とともに「スポーツ中継」から「スポーツバラエティー番組」まで制作の舞台裏に迫りました!
【今回の講師】
テレビ朝日のスポーツ番組を長年にわたり担当してきたスポーツ局次長・佐藤耕二
『とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』『ゴン中山&ザキヤマのキリトルTV』
などの担当プロデューサー・武田哲治
『とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』の演出・中澤誠二
『ゴン中山&ザキヤマのキリトルTV』の演出・絹山知康
司会は『TOKYO応援宣言』などを担当している宇佐美佑果アナウンサーです。
「スポーツ中継」放送の仕組み&演出方法の変化
佐藤講師より、まず初めにどんなスポーツ中継にも背景に「Storry telling=ストーリーを伝える」という考え方があると紹介。
スポーツは、もともとあるもの(試合)を見せればいいと考えられがちですが、それぞれのスポーツには、伝えるべきストーリーがあります。
ここで、一般的なサッカー中継で使用しているカメラポジションを紹介。
小さな試合でも、最低12台のカメラで様々な場所から選手を捉えています。その映像の中からディレクターは実際に放送する画を選ばなければなりません。
それでも、サッカーは1試合で1つのボールを追いかけているため、比較的映像の構成はしやすいスポーツだといいます。
たとえば、これがゴルフの中継となると、同時並行でそれぞれの選手がプレーしているため、一打一打どの選手をどういう順番で見せていくか、判断がとても難しくなるのです。
このように、どんなスポーツでも、「今伝えるべきものは何か」試合の情報なのか…選手の情報なのか…を考えて中継していると話しました。
また、5年後に東京オリンピックを控え、オリンピックの映像や放送の仕組みについても紹介しました。
(オリンピック放送の仕組みについては「課外授業」で紹介していますのでこちらをご覧ください。)
「スポーツバラエティー」というジャンル
豪華アスリートととんねるずが“対決”を繰り広げる『とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』と、読唇術を使い、中継の映像に隠されたストーリーを見つけ出す『ゴン中山&ザキヤマのキリトルTV』。
武田講師より、「スポーツ中継」と「スポーツバラエティー」の違いについて概要を説明。
一口に「スポーツバラエティー」といっても、『スポーツ王』のような対決もの、スタジオトークもの、『キリトルTV』のような中継映像を独自目線で取り上げるものなど色々なジャンルがあります。
中でも、『スポーツ王』は中継演出に一番近い番組ですが、中継と違う利点も。実際にある試合を伝える中継と違い、『スポーツ王』の場合は「誰と何をやるか」をマッチメイクすることが一番重要です。
見せ方も多くのカメラの映像を駆使し1プレーに対して同時多発的に起きる出演者のリアクションやスーパープレーを多角的に見せることができます。音的にも実況や音楽で大きなタメや間を作ることができ、よりドラマティックに演出することができるのです。
その後「中継の場合」と「スポーツバラエティーの場合」と、実際にゴルフのホールインワン映像を使い、2パターンの編集をした映像を比較して見せました。
『とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』の大切にしているポイント
続いて中澤講師が、『とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』を制作する上で大切にしている5つのポイントを説明しました。
本物のスケール感
番組を作る上でこだわってきた1つは「中継の本物のスケールになるべく近づける」ということ。
まず舞台は、野球なら「東京ドーム」、テニスであれば「有明コロシアム」と、その競技の聖地、中継でお馴染みの本物の舞台で、多少無理をしてでも試合をすることにこだわってきました。極端ですが、河川敷のグランドで試合をしたら、全く違うゲーム内容になり、視聴者の方に本物感が伝わりません。
続いて、中継と遜色のない収録体制。カメラポジションやカット割りなどは、「基本ルール」として番組では徹底されています。
更に、通常の中継とそん色のない本格的な収録体制をベースに、プラスαとして、打者を正面から煽るCCDカメラやお馴染みキャッチャー目線カメラなど「通常中継では撮れない迫力ある画」を差し込んでいくことにもこだわっています。なるべく本物のスケールに近づけることによって、一流アスリートも番組に信頼をもって出演して頂ける要素にもなっていると思います。
トップアスリートのブッキング力
類似番組との差別化は、「どんなアスリートが出るか?」。この番組には、有難いことにそうそうたるトップアスリートの方々に出演して頂いています。これは、スポーツ担当者の地道な努力の賜物です。時間を費やし、培ってきた人脈を駆使し、何処よりも早く、本人及び関係者との信頼関係を構築出来たからこそです。担当者の「人間力」が番組の根本を支えています。
では、この番組を成功に導いてくれたアスリートは誰か?それは第1回に出演してくれたタイガー・ウッズ。当時、スポーツ界のトップだったタイガー・ウッズ選手を初回にブッキング出来た事が、全ての礎となりました。その後、イアン・ソープ選手など、一流アスリートとの出演交渉の場で「あのタイガー・ウッズが出演した番組なんですが…」と言えるのは、我々にとって何より信頼を勝ち得る、大変大きな武器となったのです。
とんねるずのタレントパワー
とんねるずさんの凄い所は、どんなアスリートでも必ず面白さを引き出す「天才的手腕」です。
勝つか?負けるか?だけを長時間続けていては、皆さんもきっと疲れてきてしまうかと思うんですが、必ず絶妙なタイミングで笑いを作ってくれます。編集でそれが本当にいいテンポになるのです。そして忘れてならないのは、とんねるずさんはスポーツが大好きだということ。ジャンルを問わずスポーツを沢山観ていますし、ビックリする程とても詳しいです。とんねるずさんの根底にスポーツへのリスペクトがあるからこそ、それが選手にも伝わり、理解され、いい関係性が築け、番組に還元されているのではないかと思います。
一流アスリートも、とんねるずも負けず嫌い
自分が思うに一流の人間に共通して言えることは「負けず嫌い」ということです。
この番組はそこがハマりました。テレビマッチだからと、対決をゆるく考えていたら、皆さんが釘付けになるほど見応えのある勝負は生まれません。ある一流アスリート側から「このハンデだったら不利になるからやりたくない!」と言われ、「世界一のアスリートはやはりここまで勝ち負けにこだわるんだ」と感動したことがあります。例外なく、スーパースターは負けることに人一倍敏感です。
また、とんねるずさんも最高に負けず嫌いです。今年のお正月も錦織圭選手との恒例テニス対決が盛り上がりましたが、テニス経験がなかった石橋貴明さんは、実は2010年の春から年末までの8ヶ月間、毎週2時間欠かさずテニスの練習をしています。もう今年で練習6年目になります。「何とか自分の技術を少しでも上げ、勝負を面白くしたい!」と地道に練習されています。こんな陰の努力を一切ひけらかさずビックリするほど真面目、つまり本物の負けず嫌いです。
木梨憲武さんも正月、スケートに初挑戦して頂きましたが、事前練習は勿論、「どうしたら面白くなるか」を制作スタッフだけに決して預けず、様々なアイデアを自ら提案してくださいます。自分たち自らも努力する、考える、汗をかく、だから見応えのあるゲームになるのだと思います。「負けず嫌い」のウラには、ちゃんとした努力があるのです。
演出の秘策は、双方を互角にする勝負ハンデの設定
この番組は、とんねるずさんが世界のトップアスリートと闘うわけですから当然、勝負が互角になる様々なハンデが必要です。一方的な勝負にならないよう、アスリートを本気にさせるギリギリのハンデ設定がカギを握っています。試合が始まるまで、もうハラハラ、ドキドキする一番難しいポイントです。
初めてやる競技・ゲームは、専門家やOBなどからアドバイスを頂くのは勿論、必ずスタッフでシミュレーションを重ねます。
本物の野球場に、70年代にヒットした野球盤ゲームをそのまま再現するという人気企画「リアル野球BAN」は、紆余曲折の末、まさに理想の形で仕上がったといいます。
『ゴン中山&ザキヤマのキリトルTV』の裏話
続いて、番組を立ち上げ、名物コーナーの「読唇術」を考案した絹山講師。
『ゴン中山&ザキヤマのキリトルTV』は、「スポーツのメインじゃないところに注目してみたら面白いんじゃないか」というのがコンセプト。
なぜ読唇術を思いついたかというと、「僕自身スポーツに一切興味がなかった」と興味深い発言が…!
縁あってスポーツ局で働き、番組を作ることになりますが、スポーツを見ないのにどうやって面白くしようかなと考えた時、「選手や監督が意外と試合中に喋っているな」と思ったそう。そこで、何を喋っていたのか気になり読唇術の方にひも解いてもらったら、想像以上に深いことを話していたことが分かり、この企画に繋がったと明かしました。
制作する上で大切にしていることは、嘘を放送してはいけないので、読唇術で解読したことをきちんと本人に確認をとること。
また、アスリートの信頼を崩さないことが前提で、解読できてもアスリートにとってマイナスになるそうなことは放送しません。
今後も少し違った視点からスポーツの面白さを見つけて伝えられたらと語りました。
普段見ることのできない映像や舞台裏の話に、受講者の方からは
◆中継とバラエティの2つの切り口の違いがよくわかった。これから違った視点でスポーツ番組が見られる。
◆テレビ局の持つ財産(コンテンツ・人脈など)を生かすことで、新しい番組が生まれることがあると感じた。
という感想をいただきました。
次回の「テレビ塾」は来年1月頃に開催予定。お楽しみに!