『キングオブコント』常連の実力派コンビ・ファイヤーサンダーは、初舞台からストイック|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#41

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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『キングオブコント』では3年連続ファイナリスト。結成3年目で、大阪の賞レース優勝。

結成12年目のファイヤーサンダーは、抜群のセンスと、たゆみないストイックさで、コント師として着実にステップアップしている。

「まだ足りない」と息巻くふたりだが、キャリア初期は紆余曲折があった。かつて「引退」の烙印を押されたふたりの初舞台に迫る。

人生初舞台は体が痺れ、震える!?

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(キャプション)左から:こてつ、﨑山祐

──関西出身のおふたりにとって、お笑いはずっと身近なものでしたか?

こてつ 僕は大阪で生まれ育って、土日は(吉本)新喜劇を観るのが日常でした。小学校のころから背が低かったので、池乃めだか師匠に憧れていて。大人になっても小さかったら、めだか師匠みたいになろうって漠然と思ってましたね。

﨑山 僕は和歌山出身で、小学5年生のときに大阪から来た転校生が『爆笑オンエアバトル』を教えてくれて、お笑いにハマりました。高校生のときにジャルジャルさんとか天竺鼠さんらへんの当時の大阪の若手コント師も好きになりました。ラーメンズさんも好きでしたけど。やっぱり大阪というか。

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──芸人になろうと思ったのはいつごろですか。

こてつ 大学生のころは学校の先生になろうと思ってたんです。でも、そのタイミングで従兄弟が芸人になるっていう話を聞いて、「いいなぁ、俺もやりたかったな」と。その従兄弟は、さらば青春の光・東ブクロなんですけど。

﨑山 僕は高専に通ってて2年生くらいから図書館で、誰に見せるでもないネタ書いてました。卒業したら大阪吉本に入るつもりでした。

──2011年、ふたりは大阪NSCに34期として入学します。お互いの印象は覚えてますか?

﨑山 何も覚えてないですね。入学時は600人くらいいて、卒業時期でも半分くらいは残ってるんで。

こてつ クラスが違ったんで「いるな〜」っていう感じでした。

──NSCでの初舞台はなんでしたか?

﨑山 たぶん、みんな夏前の『キングオブコント』1回戦なんですよ。めっちゃ緊張して、体が半分痺れてました。若手のころたまにあったんですよね、痺れることが。でもトリオで出て、1回戦は通過したんですよ。たぶん、34期では7〜8組しか通過してないんでうれしかったですね。そのふたりはもう辞めましたけど。

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──なんでトリオを選んだんですか。

﨑山 別にトリオでやりたかったわけじゃなくて、まだ相方が見つかってなかっただけです。

──ファイヤーサンダーの同期・蛙亭に取材したとき、イワクラさんと中野さんは「相方探しの会」で出会ったと聞きました。そこには参加しなかった?

﨑山 ありましたね、僕は参加したことないです。

──﨑山さんはトリオでどんなネタをやったんですか。

﨑山 甲子園の砂を取り合う、みたいなネタでした。ふたりが砂を集めるところから始まって、ショベルカーまで出してくる。最後はもうひとりが、甲子園の歌「栄冠は君に輝く」を歌いながらご本人登場みたいな、変なオチでした(苦笑)。

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──こてつさんの初舞台は?

こてつ 僕は大学生のときの『M-1』なんですよ。マンガ『監禁嬢』や『夜者』の作者・河野那歩也と組んで、とんでもない下ネタの漫才をしました。大学生あるあるですけど「俺らめっちゃおもろい」と思って出て、とんでもないスベり方をするっていう。終わったあとも会場のトイレでふたり、ガタガタ震えてました(苦笑)。

プロ初ネタは「カニ」と「ガーゼ」

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──NSCは楽しかったですか?

﨑山 なんにも覚えてないです。苦しくも、楽しくもない、普通に過ごしてました。「わいわいやってるヤツらは、しょせん遊びなんやな」と思ってましたね。

こてつ 俺はわいわいやってた側です(苦笑)。もともと学校が好きで教師になりたかったくらいなんで、NSCも青春の延長でしたね。みんなが同じ目標を持ってて、ちょっと貧乏で、ひとり暮らしのヤツの家に集まって将来の話するとか、めっちゃ楽しかった。

──﨑山さんは、さや香の新山さんとコンビを組んでた時期があるんですよね?

﨑山 はい、NSCの11月から卒業して1年くらいですけど。

──卒業後の初舞台って覚えてますか?

﨑山 たぶん、5upよしもとであった『サードチャレンジ』っていう劇場で一番下のオーディションライブですね。2分ネタをやって、つまんなかったら途中で強制終了させられるんですけど、そのときの音楽がタッキー&翼の「ダーメダメダメダメダメダメ♫」(「×〜ダメ〜」)っていう曲でめっちゃイヤでしたね。でも僕と新山の組んでた「オリオン」は最初から2分間やりきって仮合格もらってたんですよ。ちょっとだけ注目されました。

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──どんなコントだったんですか?

﨑山 あれはたしか「足の速いヤツはモテる」っていうタイトルを最初に言うネタで。赤いランドセルを背負った新山の前に、ジェイソン(映画『13日の金曜日』シリーズ)のお面をつけた僕が出ていって、新山が「恐ーい」って言うんです。そこから僕が走り始めて「うわー、かっこいいー!」って新山が言い出す。

で、後半に僕がカニを持ち出してきて、新山が「ズワーイ」「カニかっこいい〜」って言うという。このボケ思いついたときに「これはイケる」って思ったの覚えてますね(笑)。今と芸風は違いますけど、小道具を使うコントが好きだったんですよ。

こてつ 前半はまぁまぁおもろいやんって感じだったのが、「カニ」が出てきた後半で「こいつらホンモノだ……」ってなったらしいですよ(笑)。僕は見たことないんですけど。

﨑山 当時のNSCで一世を風靡したネタでしたね。

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──なぜ新山さんとのオリオンは解散したんですか。

﨑山 1年前くらいに、改めて新山としゃべったんですけど、漫才をやりたくなったらしいですね。あと、僕の言うことを100%やってくれてましたけど、自分のやりたいことができたと。僕のネタで芸人を続けてたら、売れるまで時間かかるだろうなとも言ってました。

──こてつさんはNSC卒業後どう活動してたんですか?

こてつ 僕は「オストンプレス」っていうコンビを組んでて、初舞台は『NSC道場』だったかな。

﨑山 あぁ、それもあった。

こてつ 芸歴3年目までの芸人が、60組くらい出てベスト20が入賞するんですけど、いきなり11位だったんで自信がついたんですよ。でもそれっきりでした(笑)。最初はガンマンのネタをやりましたね。

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﨑山 ガーゼのやつだっけ?

こてつ そう。ガンマン同士が撃ち合いして、僕の相方が撃たれるんですけど、ガーゼを貼ったら治って「え、ガーゼでいける!?」みたいなネタでした。

──ふたりともお互いのネタを覚えているんですね。

﨑山&こてつ 覚えてますね。

──それはおもしろかったから?

﨑山 いや、こてつに対しては「小道具使って、俺らみたいなことしたいんやろうなぁ」って思ってました。「そこそこがんばってるな、筋悪くないじゃん」って。

こてつ どんなんやねん! でもたしかにアイデアはよかったけど構成は「カニ」に比べたら全然ダメでしたね(笑)。

初舞台は「なんじゃこいつ!」

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──2014年にファイヤーサンダーを結成したそうですが、きっかけは?

﨑山 僕が急にポケモンカードをやりたくなったんですよ。なんでやりたかったんでしょうね、理由は忘れましたけど……まぁオリオンを解散して、次のコンビもうまくいかないし、当時付き合ってた彼女にも振られて、時間ができたからかもしんないです。で、こてつがポケモンカードをやってたんで「教えてくれ」と頼みました。

こてつ 僕はずっとバイトしてたコンビニで、ポケモンカードのパックを見たのがきっかけですね。懐かしくなって始めたんですよ。当時はまだまわりでやってる人がいなくて、カードショップで小学生と対戦してました。大会にもひとりで行ってましたね。だから﨑山とかロングコートダディの兎さんとできるようになってうれしかった。

──どちらから声をかけてコンビを結成したんですか。

﨑山 こてつが声かけてきたんじゃなかったっけ。

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こてつ たぶんそうですね。僕もあんま覚えてないですけど。でも最初に出たライブが最悪やったんですよ。前のコンビでは僕もネタ書いてたんで、8本くらい案を持ってったのに「全部おもしろくない」ってハッキリ言われて。「なんじゃこいつ!」って思いましたよ。

﨑山 おもんないネタをおもろいフリしてもしょうがないんで。

こてつ それはまだわかるけど、演技指導がすごいんです。セリフも「てにをは」がちょっと間違っただけでやり直しさせられる。本番直前にも急にセリフを変えられたんですよ。「こんなヤツとできるか!」と思ってました。

﨑山 僕のほうは2分ネタでちょっとセリフ変えるくらいできるやろと思ってましたね。

こてつ 俺も意地があるんでやりましたよ。﨑山が怖すぎて何も楽しくなかったですけど。

──﨑山さんも最初は優しくしようと思わなかったんですか?

﨑山 いや、そもそも最初はそこまで厳しくした覚えがないんですよ。

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こてつ たしかに今考えたらあれはまだゆるいほうだったかもしれない(笑)。でもあのときの僕はもうコイツとはやらんと思ってて、舞台終わりに同期の蛙亭・イワクラと飲みに行って「﨑山、マジヤバかったで。厳しすぎた」ってグチったんです。そしたら「そんなん、もとからわかってたやん。そんなんで辞めんの?」ってけっこうアツいこと言われたんです。それでもうちょい続けようかって思いましたね。

──今のファイヤーサンダーがあるのはイワクラさんのひと言だったんですね。肝心のファイヤーサンダー初舞台のネタはどうでした?

﨑山 あんまりウケなかったです。でもやる人がやったら今でもおもしろい気がしますよ。砂漠で遭難したふたりが水筒の水を分け合うんです。こてつが飲んだあと、僕がすごくおいしそうに飲むから、こてつが「もうちょっといい……?」って言い出すネタ。今話しててもちゃんと意味が通ってる。

こてつ ネタはおもろいけど、僕らの技術が追いついてなかったんでしょうね。

「引退を受け付けました」

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──結成の翌年には吉本を退所し、フリーで上京しました。それはなぜ?

﨑山 結成の前後に若手の劇場だった5upよしもとが、よしもと漫才劇場に変わって「全員漫才しなさい」って方針になったんですよ。それで上京する吉本芸人がけっこういて。僕らもコントがやりたかったんでその流れに乗った感じです。あと、個人的には失恋して大阪の街にもういたくなかった。

こてつ 街から離れたいくらいつらかったんや。

﨑山 つらすぎた。

──失恋とは無関係なこてつさんも東京に行くのは賛成だった?

こてつ 売れるためにはいつか東京に絶対行かなあかんと思ってたんで、いつ行っても一緒やと思ってましたね。

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──東京の吉本へ移ろうとは思わなかったんですか。

﨑山 できなかったんですよ。最初に何組か行って、たくさん行っちゃダメってなって。あと、そもそもコンビ結成届も出す前だったんで、吉本的にはピンで何もしてないヤツらが辞めたっていう扱いになってると思います。

こてつ 「引退を受け付けました」って通知が来ましたよ。

──大阪吉本を辞めることは、これすなわちお笑い界を離れることだと。

こてつ はい、お笑いを引退です(笑)。

──東京に来て、フリーで少し活動して、すぐワタナベエンターテインメントに所属します。なぜワタナベだったんですか?

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﨑山 最初はフリーでK-PROのライブに出させてもらってたんですが、K-PROの児島(気奈)さんが「今日ワタナベの人、観に来てるよ」って急に言ってきたんです。あとあと聞いたら「フリーでおもしろい芸人いない?」ってワタナベの人に聞かれた児島さんが、僕らを紹介してくれたみたいで。

──即決でしたか。

﨑山 いや、急だったんで、軽く決めていいのかって迷いました。ワタナベってタレントさんのイメージもあったし、ヤーレンズさんにも「向いてないんじゃない?」って言われたんで。

こてつ 僕のほうはブクロに相談して「ナベは絶対行ったほうがいいやろ。吉本の次くらいにええで」って言われましたけど。

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﨑山 いったん保留にしてたけど「とりあえずネタ見せ来てくんない?」ってことで3回くらい行ったんですよ。それで結局所属が決まりました。ワタナベの芸人って普通は養成所から入るんで、外から入ってきた芸人ってあんまいないんですよ。

こてつ でも、その所属の決定を俺が知ったのは、3日後だったんですよ! 﨑山がやりとりしてて僕に伝えてくれなかったんです。

﨑山 まわりの芸人とか親には伝えてて、相方は8人目くらいでしたね。まぁ会ったときに言えばいっかって思ってたんじゃないですか。いつ言ったって事実は変わらんし。

こてつ いや、相方を早くうれしい気持ちにさせろや!

文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平

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ファイヤーサンダー
﨑山祐(さきやま・ゆう、1991年3月11日、和歌山県出身)とこてつ(1987年12月16日、大阪府出身)のコンビ。2014年結成。2018年『ABCお笑いグランプリ』で優勝。『キングオブコント』では2023年から3年連続ファイナリストとなった。2025年に開催した第3回単独ライブ『まだ足りない』のDVDが発売中

【前編アザーカット】

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【インタビュー後編】

「ネタが弱くなったら辞める」コントに心血を注ぐファイヤーサンダーが抱く野望とは?|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#41

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