逃げ場のない夏
2023年07月16日

 いま、わが家の2坪ほどの家庭菜園はジャングル化が進み、すごいことになっている。その中でも、キュウリの化け方は油断ならない。
 ちなみに、きのうとれた大物のキュウリを、ノートパソコンの上にのせてみた。地中から養分と水分をたっぷりと吸収し、ずしりとした重みがあるキュウリたち。人造物の極みであるPCなど踏みつぶしてしまいそうな勢いだ。

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 先週は、ぶっ通しに近い形で大雨被害や猛暑のニュースを伝えた。気象はこのところ、完全にニュースの柱だ。それだけ、命に関わる切実な問題になっているということでもある。
 岡山での新人記者時代、土日が出番のときには、昼のローカルニュースのネタに窮することがしばしばだった。そんな夏、だいたいデスクから声がかかった。「おい、天気撮ってこい」。
 そこで、10時過ぎくらいにカメラマンと一緒に市内の大きな運動公園に出かけ、噴水で子どもたちが水遊びをする様子などを撮影し、気象台に電話して天気の概況を取材し、1分10秒くらいの原稿にまとめて昼のニュースに出す、ということをよくやった。
 「今日の岡山県地方は、太平洋高気圧の影響で・・・」という原稿を、ローカルのトップニュースでアナウンサーが読むときは、「今日の岡山県地方は平穏です」ということと、ほぼ同義だった。

 ところがいま、「きょうは天気で行くぞ」とデスクが判断するときは、つまりは命に関わる災害を伝えるということと、ほぼ同義だ。大学を出たばかりの大越記者が、還暦を過ぎた大越キャスターとなる間に、時代はずいぶん変わったのだ。

 太平洋高気圧がぐんと張り出す「本当の夏」なのかというと、その一歩手前の段階なのかもしれない。そのせいか、僕の家の周りではまだ、セミの鳴き声が聞こえない。
 ザックリ言うと、先週来の天気図の特色は、梅雨前線が依然として居座っているために、そこに向かって流れ込む暖かく湿った空気が悪さをした、ということのようだ。線状降水帯が発生して記録的な大雨を降らせるかと思えば、フェーン現象などによって40度近い猛暑をもたらす。大気をかく乱して、突風や雷で人々を驚かせもする。
 地球温暖化の影響はやはり無視できない。人間は産業革命後の祖先たち、そして自分たちがやって来たことの仕返しを、自然から受けているという構図である。

 実を言うと僕は、大雨災害の取材はあまり経験がない。新人記者時代に過ごした岡山は、日本でも有数の、災害の少ないところと言われており、4年間の岡山生活は、実際その通りだった。そのまま東京に異動し、十数年にわたってもっぱら政治の取材を担当していたので、現場は国会議事堂の赤じゅうたんの上だった。そこもまた、別の意味で汗まみれの取材現場ではあったが、自然災害を肌身で感じることは多くはなかった。
 本格的な災害の現場に自らしばしば入るようになったのは、記者生活も30年近くが経ち、自分が番組のキャスターを務めてからのことである。東日本大震災を経験し、できるだけ災害現場に足を運ぶように心がけた。

 2014年の広島市の土砂災害は衝撃だった。車が車庫ごとすっぽりと埋まってしまった男性が途方に暮れていた。土砂を掻き出そうにも、水分を含んであまりにも重い。
 そして、2018年の西日本豪雨で、岡山県倉敷市真備町がすっかり水につかってしまった光景は、災害に対する僕の認識を、すっかり変えてしまった。広島、そして自分が住んだ岡山という、比較的、年間降水量が少ない瀬戸内海沿岸であっても、このような豪雨災害は起きる。災害列島・日本にあって、もはや例外と呼べる地域などないのだと、認識を改めざるを得なくなった。

 いま(7月16日午後6時半現在)、東京の郊外にあるわが家は、夕暮れ時となっても気温が30度を楽に超えている。涼しくなったら散歩に出て身体を動かそうと思ったが、この暑さでは諦めることにした。その代わり、雑草でも抜こうと家庭菜園に出てみたら、またもキュウリがとんでもないことになっていた。

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 きのうの段階で、「もう少し収穫を待とうかな」と思っていた数本が、あっという間にとんでもない大きさに育っていた。きのうのうちにとっておくべきだった。キュウリという野菜はおなじみの夏野菜だが、それ自体が主役になる料理をあまり思いつかない。サラダにすることが多いが、それすら一級の主役を張ることは少ない。塩もみしたりしていい味を出すが、主菜としてはやや力不足は否めない。
 その控えめなキュウリが、これだけのパワーでわが家に攻め寄せた。2本は塩こんぶと混ぜてもみ込み、冷蔵庫に放り込むとしよう。2本は丸かじりでいいだろう。キュウリを刻んで焼酎の水割りにすると、メロンの味わいが出ると聞いたので、それにも使ってみよう。しかし、それでも持て余すには十分な量だ。

 人間は自然をコントロールできない。怖いほどに巨大化したキュウリを見ながら、そんなことを考える。ニュースでは秋田の豪雨災害をしきりに放送している。一方で、猛暑の中、熱中症で搬送された人も数多いという。そうした厄難は、今度はいつ自分のところに襲いかってきてもおかしくない。
 大雨も猛暑も、もはや「やり過ごす」ことができる存在ではなくなった。謙虚に、慎重に向き合おう。今週もおそらく、気象に関連するニュースが連続するだろう。相当の確率で。

(2023年7月16日)

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