

ロシアがウクライナに全面侵攻してから4年が経った。
ニュースキャスターとしてずいぶん長いこと仕事をしているが、大きな時代の分かれ目に遭遇することがある。ウクライナの悲劇はまさにそのひとつだ。
報道に携わる者として自分の役割を深く自覚し、その責任の大きさに怖さすら覚えることがある。例えばNHK時代の東日本大震災がそうだ。おびただしい数の犠牲、原発事故がもたらす甚大な影響。日本の近現代史に大きく記される災害だった。いのちに関わる無数のドラマに触れ、僕は東京のスタジオで、あるいは被災地の現場でどれほど心を揺さぶられ、涙したか分からない。
ロシアのウクライナ侵攻は、報道ステーションで仕事をするようになってから最初の、まさに歴史の分かれ道とも言える出来事だった。コロナ禍の終わりが見え始めた4年前の2月、北京での冬季五輪の余韻が残る中だった。ロシアのプーチン大統領が「特別軍事作戦」と名付けて隣国の主権を、罪のない人々の命を踏みにじる暴挙に出たのだ。
「まさか本当に起こるとは」と、僕は信じられない思いだった。それまでもウクライナに緊張が走っているニュースは、現地からのリポートを交えて伝えてきた。だが、お腹に脂肪を蓄えた初老の男女を含め、ウクライナの普通の市民が銃をとって訓練に励む姿は、どこか現実離れして感じられたのも事実だった。ところがそんな僕の甘い認識など軽く踏み越えてプーチンは侵略し、その普通の市民が実際に戦火にさらされ、戦場で銃をとった。
ミハイロ・ポドリャク氏は、ゼレンスキー政権の大統領府顧問であり、大統領の最側近の人物だ。兵力に勝るロシア軍の侵攻で、海外脱出の観測すら流れたゼレンスキー氏が、「自分たちはここにいる」と首都キーウで自撮りした動画の中で、大統領の右隣に映っていた人物である。
そのポドリャク氏に24日、リモートで話を聞いた。これで彼とは4回目のインタビューである。初めてポドリャク氏に会ったのは、3年前、キーウを訪れた際でのことだった。政府スタッフと大統領府近くで落ち合い、迷路のような通路を案内されて部屋に通された。穏やかな表情で現れた彼は淡々と語った。ロシアの侵攻は国際法の明確な違反であり、これを許せば国際秩序の崩壊につながること。2014年に先んじて占領されたクリミア半島を含め、すべてのウクライナの領土からロシアが撤退しなければならないこと。そしてそれは妥協の余地がないことを。
そして4回目のインタビューで画面がつながった彼は、親しみを感じてくれていたのか、にこやかな表情だった。「良い笑顔ですね」と言葉をかけると、「珍しいことですけどね」と応じた。そうだ。ウクライナを取り巻く状況が厳しいことは否定しようがない。
ただ、インタビューを通じ、僕は今回も彼は「ぶれていない」と感じた。ぶれているのは、われわれ、ウクライナのパートナー国の人間の方ではないかと、襟を正された思いがしたのである。
ウクライナとロシアとの、優に1000キロを超える長い戦線は、地図上ではほぼ膠着状態に見える。厳しい戦いの長期化に、ウクライナは耐えられないのではないか、一定の妥協が必要な時期に来ているのではないか。質問するこちら側の、そうした心理を読み取ったかのようにポドリャク氏は言った。「ここ1か月半ほどロシアはほとんど前進していません。むしろ一部の方面ではウクライナが反撃に出ています。毎日150から250の戦闘が発生しているにもかかわらず、ロシアは成果を上げていないのです」。
戦線が膠着状態にあるというのは、主語を代えて言えばロシアが前進できていないことを意味し、ウクライナが確かに踏みとどまっていることを意味する。僕が、ウクライナは疲弊しているという前提で質問しているのに対し、ポドリャク氏は前進を目指すロシアの前に毅然として立ちはだかっている現実を見るべきだと言っているのだ。
その上でポドリャク氏は、ロシアの戦い方に看過できないもうひとつの問題があることを訴えた。「世界にはわからない人も多いので言っておきます。現代社会では一定のルールや条約があり、禁止されていることがあります。問題はロシアが一切ルールや条約を守らないことです。それが民間人に対する攻撃なのです」。
ウクライナは今、戦線を現状でいったん維持して停戦し、市街地への攻撃を止めさせると同時に、外交での協議も含めて占領された地域の回復を図る戦略だという。ただ、ロシアには戦争を継続する力はまだ十分あると分析し、戦争状態が続くことは覚悟している。領土奪還を諦めるという選択肢はないが、それはさらなる長期戦の忍耐を伴う。
「ウクライナは確かに疲れており、毎晩、友人や子どもたちの家にミサイルが飛んでいくのは非常につらいことです。同時にこれは単純なことでもあります。すべてに耐え抜き、この戦争で公正な結末を迎えるか、あるいは滅ぼされるかのどちらかだからです」。
日本を含むパートナー諸国も試される。ポドリャク氏はまず各国が連携してロシアへの経済制裁を徹底する必要性をあげた。そして、インタビューの最後をこう締めくくった。「ロシアが今ここで合意できるまともな国であるという幻想を捨ててほしい。ロシアが相手を恐れるようになった時にのみ、ロシアとは合意できるのです」。
少し難解な言い回しだが、ウクライナから見たロシア、つまりはプーチン大統領の本質を突いている。プーチン氏に侵略を諦めさせるには、彼の独特の支配欲はさておき、「この戦争を続けると経済的損失が大きい」という判断を優先させるか、さらには「負けそうだ」と本気で思わせることが必要だというのだ。
後者には当然、ウクライナに対する様々な武器の供与が不可欠な要素となる。そのあたりについて「日本は門外漢だから」という顔ができない情勢になりつつある。
政府与党は、武器輸出の目的を「救難・輸送・警戒・監視・掃海」に限定する5類型を撤廃する方針だ。高市首相のもと衆院選で圧勝した自民党は、党の安全保障調査会で、殺傷能力のある武器の輸出を原則容認することを確認し、すでに戦闘が行われていると判断される地域でも、特段の事情がある場合には輸出が可能とする方針を決めた。
ウクライナの現状がこれに重なる。ウクライナでの戦闘は世界の進路を左右するだけでなく、日本の国のあり方やその生き方を決める重要な岐路になる可能性もある。自分ごととして真剣に考えなければならない。
(2026年2月28日)

