そこにはいつもアスリートがいる
2026年02月17日

 今回は少し日記風に…

2月14日(土)
 久々に何も用事のない土曜日を過ごしている。ゆっくり起きて来て、朝昼兼用で食事をすませ、日当たりの良い居間で新聞を広げていたら、また1時間ほど寝てしまった。ネコの小夏がいつの間にか僕の傍らで横たわり、僕が目覚めた後もしっかり昼寝を続けている。

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 こんなふうにゆったり時間が流れたのは久しぶりだ。金曜日の放送を終えて帰宅したとき、「明日はこれといった用事もない。今夜は徹夜してオリンピックを見るぞ」と意気込んでみたものの、やはり睡魔には勝てなかった。とにかく疲れていた。無理をするなと、脳ミソが身体に命じたのかもしれない。
 朝、目が覚め、スノーボード・男子ハーフパイプ決勝で金と銅、フィギュアスケート男子シングルで銀と銅という、日本人選手のメダルラッシュだったことを知る。脳細胞が一気に活性化した。骨折をおして出場したわが郷土の英雄・平野歩夢選手も最後までやり通したようだ。
 スポーツの技量は再現性の高さにあるという。高難度の技を何度も決めて見せるのは、つまりそれだけの猛烈な練習量を積んだということに他ならない。

2月15日(日)
 92歳の新潟の母を日帰りで訪ねた。ぽかぽか陽気で市内の雪はほとんど消えていた。駅でレンタカーを借り、母を買物とランチに連れ出す。年齢の割には母の足腰はしっかりしている。母の手を取った妻も「お母さんの歩き、力強い」と驚いていた。雪に閉じ込められて憂うつそうだった母も、「楽しい」という言葉を連発してくれた。
 最近はさすがに無理だが、以前は父と共に登山にいそしんだ人だ。父の没後も、弥彦山、角田山、国上山といった山々(新潟の人ならご存じのはず)をひたすら歩いた。立ち止まっては俳句を詠み、詠んではまた歩いた。まるでクロスカントリー競技の間に射撃を組み込むバイアスロンのようだ。母もまたアスリートだったのだ。

2月16日(月)
 五輪観戦で興奮し、母と会い、疲労も回復した。
 それにしても、この疲労感は何だったのだろう。先日の衆議院選挙の結果に我ながら驚いてしまい、平静を保つのに苦労したからだろうか。高市早苗首相率いる自民党が316議席と、単独で衆議院の3分の2の勢力を獲得した。おととし10月の衆院選で自民党は191議席にとどまり、少数与党に転落した。そのことを思うと、わずか1年3か月の間に起きた劇的な変化に、うまく感覚がついていかない。

 ちょっと気取った分析を試みるならば、これは自民党の巧みな生体反応ということはできる。参政党など、保守層の新たな受け皿が躍進した昨年夏の参院選を経て、自民党は保守的な政治信条で知られる高市氏を総裁に選び、党全体を右側に体重移動させた。この天然技巧のサバイバル術が功を奏し、一定の保守層の回帰に成功したと言える。
 それに加え、高市氏というガラスの天井を破った初の女性首相の新鮮さ、「日本列島を強く豊かに」と鼓舞する姿を人々にアピールした。いずれも、どこか自信喪失に陥りつつある国民の期待の受け皿となったのである。

 これに対し、ほぼ「焼け野原」状態と化したのが中道改革連合だった。急ごしらえの準備不足など敗北の原因はいくつもあるだろうし、ここで多くは語るまい。ただ、野田佳彦、斉藤鉄夫の両共同代表の敗北会見の中で、野田氏は「どうしても時代遅れ感が、ふたりにはつきまとった」と自嘲気味に語ったのは象徴的だった。
 気持ちは分かるが、同じ60代男性の僕にとってそれは、そぞろに切ない光景でもあった。前回選挙で敗北した石破茂前首相の姿もそこに重なって見えた。党派を超えた昭和のおじさんの悲哀。いやいやご同輩よ、このまま退場してなるものか。

 この日はフリースタイルスキー・男子モーグルのエース、堀島行真選手の中継インタビューに臨んだ。男子モーグルでは北京に続く銅、今大会から採用されたデュアル・モーグルでは銀メダルに輝いた。だが、堀島選手は歩みを止めるつもりはない。五輪の頂点に立つという未達の目標に向かって前進することを、力強く誓ってくれた。
 それにしてもこの堀島選手の端正で力強い滑りと、豊かで深遠な言葉に、僕を含めてすっかり虜になった人は多いようだ。素晴らしいアスリートに出会える五輪という祭典に、僕は感謝しかない。

2月17日(火)
 この日も徹夜も辞さずとテレビ画面に向かったが、スケルトンの混合団体で力尽きた。しかし、スケルトンという競技には毎回驚かされる。思い切り助走をつけてそりに乗り込むのはボブスレーやリュージュと同じ理屈だが、スケルトンはうつぶせになって、頭から氷のコースに突っ込んでいく。時速は120キロを超え、まさに100分の1秒が勝敗を分ける。人はいかにしてスケルトンに出会い、危険と背中合わせのこの競技を選択するのか。深い。あまりにも深すぎる。

 朝起きると、フィギュアスケート・ペアで、りくりゅうペアが逆転で金メダルを獲得したとのニュース速報で、スマホがいっぱいになっていた。動画でフリーの演技を再生して見る。ショートでの失敗を取り返す完ぺきな演技だ。金が確定すると、木原龍一選手が大泣きに泣く。三浦璃来選手が「もう泣いてばっかり、ほんとに!」とからかいながら、こちらもやはり涙をこらえきれない。

 僕は比較的気楽に生きてきた人間だが、それでも、小さな山や谷はあった。ジャーナリストの端くれでありながら、世の中の動きに追い付けず、苦悩することだってある。だが、どんなときにもスポーツの力に励まされてきた。アスリートが教えてくれる人間の究極の可能性にインスパイアされてきたひとりである。きょうもまた背筋が伸びた。

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 コタローは押し入れの中が大好きだ。それも、衣装ケースと天板の間の狭い隙間に入り込むのが好みで、じっと人の世のドタバタを眺めている。
 18日には特別国会が召集され、高市首相が「国論を二分する」政策を、具体的に繰り出す段階に入る。選挙で大勝したとはいえ、有権者はすべてにおいて与党に白紙委任をしたわけではない。その政策は厳しく精査されなければならない。その判断材料を正確に提供していくのがわれわれメディアの務めだ。
 アスリートのように熱い思いで、しかしコタローのように冷静に俯瞰しながら、今日もこの仕事に向き合っていきたい。

(2026年2月17日)

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