「一人でも多くの人命を助けるために」
テレビの災害報道の最大の使命ですが、簡単ではありません。
災害情報をいち早くキャッチして、正確に伝えるためにはどうすれば良いのか。
視聴者に適切な行動を促すための分かりやすいコメントとはどういうものか。
日々模索しています。
■今回の講師■ 久慈 省平(くじ しょうへい)
テレビ朝日 報道局ニュースセンター 災害報道担当部長
2001年、共同通信からテレビ朝日に入社。報道局社会部司法キャップ、
「報道ステーション」ディレクターとして主に警察、検察、裁判など
事件取材を担当。 東日本大震災では被災3県で現地デスクを務めた。
2012年から災害報道担当部長。
11月5日(木)夜、テレビ朝日系列の鹿児島放送(KKB)で行われた非常災害対策訓練に参加しました。
訓練というと、安全な場所に逃げる避難訓練を思い浮かべるかもしれませんが、自然災害が起きたときに緊急放送をスムーズに行うためのリハーサルのようなものです。 こういった訓練は、KKBやテレビ朝日だけでなく、全国のテレビ局が日常的に行っています。
訓練の想定は、「鹿児島・桜島で大規模噴火が発生し、連動して地震や津波も起きてしまう」という“最悪の“シナリオ”。
ちょっと大げさだと思うかもしれませんが、桜島では実際に過去に起きたことがあるのです。
この日は、桜島の噴火停止からちょうど50日目に当たりましたが、災害が起こった時に備えて、スタッフ全員が真剣に取り組みました。
●「速報スーパー」
訓練は夕方ニュースが終了した午後7時にスタート。
KKB報道局に「桜島で大規模噴火」という情報が入ると、まずは速報スーパーを出します。
テレビ画面の上部に文字で表示される速報は見たことがあると思います。
速やかにニュースを伝えることができる最も基本的な作業です。
●「L字」
5分後には「L字」を始めました。これも緊急対応のひとつです。
画面を縮小して、左縦と下部に枠を作り、重要な情報を流れるようにスクロール表示します。
速報スーパーは数秒で消えてしまいますが、「L字」はいつでも情報を確認することができます。
●「マスターカット」
午後7時10分、噴火に続いて、最大震度5弱の地震が発生、さらに津波警報も発表されました。
住民に危険が迫る緊急事態。KKBはすぐに「マスターカット」を始めました。
マスターカットとは、ドラマやスポーツなどの通常番組を中断して、重要なニュースを伝える、緊急対応で最も大事なものと言ってよいでしょう。
ヘルメットを被ったアナウンサーと記者がスタジオに入り、「降灰や噴火に注意」、「沿岸部の方はただちに高台へ避難」といった、噴火や津波に対する警戒コメントを繰り返しました。
◆訓練は報道だけではない!
訓練には報道だけでなく、編成、総務、技術といった様々な部署も参加しました。
報道フロアに津波の水が入らないように、警備担当が社内に坊潮板を設置する訓練も同時並行で行われました。報道局がニュースを出すためには、多くのスタッフの協力が必要なのです。
★30分を超える疑似放送★
30分を超える疑似放送は、スタジオに桜島のジオラマや地図フリップを持ち込んだり、噴火取材をした記者が解説をしたり、住民避難の想定場所からの生中継も行うなど、きめ細やかな報道内容でした。
訓練は1時間半ほどで終了し、それぞれの部署で反省会が行われました。
訓練はあくまでも訓練。
「本番」でも同じような動きが慌てずにできるのか、何か足りないものはなかったのか、今後に生かすために、多くの意見が出されました。
火山が噴火したときは、火口はもちろん、ときには周辺の住民も避難が必要になります。大きな噴石が数キロ先まで飛ぶ可能性があり、長時間にわたることが予想される降灰は安全だけでなく、経済活動にも影響があるでしょう。
自然災害はいつ起きるか分かりません。
日ごろから準備をしておかないと、信頼される災害報道はできません。
爆発的噴火を繰り返している桜島を抱える鹿児島ではなおさらです。
訓練に参加したスタッフのそれぞれが熱い思いを持って、夜遅くまで白熱した議論が続きました。
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