テレビ朝日スタッフが、テレビ局の仕事を一般の方々に分かりやすくお話しする【テレビ塾】。
12月9日(火)、「事件記者の仕事~夜討ち、朝駆け、サツ回り…正しいニュースを出す力とは~」と題し、報道局の中でもニュースの最前線である社会部・事件記者の仕事に迫りました。
講師は、報道局ニュースセンター社会担当部長の高石憲一
報道局社会部「警視庁クラブ」キャップの神保修麻
司会は村上祐子アナウンサーです。
記者志望の学生から年配の方まで、大勢の受講者が見守る中、講義スタート。
◆報道局の組織・社会部の役割
まず高石講師から、報道局の組織について、また、その中での社会部の役割について話しました。
政治部・経済部・外報部・社会部といった、いわゆる出稿部が取材をし、テレビ朝日の番組や定時ニュースに情報の供給を行っていること。 そして、警視庁、東京地裁、東京地検特捜部、文部科学省、宮内庁などを担当している「社会部」では、「事件事故だけでなく、裁判、教育、医療、自然科学、原発など・・・幅広い分野を担当」していることを話しました。
また、官公庁や政党など各所には、「記者クラブ」という取材拠点となる場所があります。
現在、社会部にいる記者は約40人。
そのうち9人がいわゆる事件記者として、警視庁にある記者クラブで働いています。
事件事故のニュースは視聴者にとって身近なもので注目度も高くなるため、「情報の鮮度、映像のインパクト、分かりやすい言い回し」など、工夫を凝らしながら日々伝える努力をしています。
◆「事件ニュース」放送まで
次に、神保講師が、ニュースが放送されるまでの基本的な流れを説明。
まず、警視庁クラブでは民放各局が揃って放送するお昼のニュースなどに向けて動きます。
事件が発生したとなれば、すぐに記者が出動。
テレビのニュースは映像と音声がないと成り立ちませんので、すぐに「取材部」のカメラマンと連絡をとり、現場で合流します。
現場に着いてまずやることは現場を撮影し“目撃者”を探すこと。
「発生時の証言を得たり、最近ではスマートフォンなどで撮影していることも多いので、撮影した人がいないかどうか聞き込みをします。同時に、記者クラブでは事件の管轄警察署に“何が起きたのか”取材。それらの情報をもとに記者は分かりやすく整理し、リポートを撮影。その映像素材と原稿を本社へ送り、編集作業・デスクのチェックを経て放送されます。」
◆記者の一日
続いて、「事件記者の一日」を追ったVTRを紹介。
情報をとり、他社に先駆けて行動をするのが事件記者の使命。
早朝4時40分「朝駆け」。
まだ夜が明けない中、出勤前の捜査関係者に話を聞くため気を引き締める記者。
緊張が画面から伝わり、会場も少し張りつめた空気に包まれます。
この日は大きな情報はなかったと言いながらも、すぐに取材状況を書きとめる記者。
「たわいもない会話に何かヒントがあるかもしれない。記者ひとりひとりがとってきた断片情報もパズルみたいにピースが当てはまると、一つの事件が浮かびあがったりするんです。仲間と情報共有し、事件の全体像に迫る。地道な作業が大切」といいます。
午前8時。次に向かったのは渋谷警察署。
前日に起きた「土砂崩れで作業員が生き埋めになった事故」について、新しい情報がないか取材する、いわゆる「所轄回り」
取材状況を捜査一課担当のまとめ役である「仕切り」に連絡。
仕切りからは「工事現場の安全確認が十分ではなかったという情報がある。確認できれば昼ニュースで放送したい」と指示をうける。
記者はカメラマンと合流し、現場で取材を進めます。
事件記者の仕事で何より大切なことは現場の情報収集。仕切り・キャップと密に連絡をとり、情報を確認していきます。
本社では、警視庁クラブがまとめた原稿をデスクがチェックし仕上げます。
このニュース原稿をもとに、編集室では撮影現場から届けられた映像のVTRの編集が行われるのです。
11時58分。ANNニュースで無事に放送することができました。
記者も移動するタクシーの中で放送を見てホッと一安心!
その後も仕事終わりの捜査関係者に話を聞く「夜討ち」取材など記者の一日は夜中まで続きます・・・。
◆「警視庁クラブ」の役割
記者クラブにいる9人の記者はそれぞれ役割があります。
「サブキャップ」=警備部、公安部
「捜査1課担当」=殺人、強盗、誘拐、凶悪事件など
「捜査2課担当」=贈収賄、背任、詐欺、選挙違反、暴力団など
「生活安全課担当」=危険ドラッグ、覚せい剤、風俗関連の事件など
そして、神保講師の務める「キャップ」は、警視総監など幹部を担当し、記者が取材した情報をとりまとめています。
ニュースとして放送するために、「どこに重点を置いて内容を深めていくか、また、どんな映像を撮影するべきかなどを調整している」といい、また原稿では「言葉の使い方、単語の意味、ニュアンスなど細かいチェックも欠かない」と力説。
神保講師からは実際に先日放送したニュースの裏話も飛び出し、「ニュースは速報性だけでなく、正確性も求められるので、今の段階で出していい情報なのか、踏みとどまったほうがいいのか、日々吟味しながら送りだしています。」と話しました。
◆「警視庁クラブ」と中継も!
この日は特別に通常は中継時の画面を通してしか見る機会のない「警視庁クラブ」の様子を大公開!!
いつもニュースで見る中継の映像がこちら
この画面の下には”意外なもの”が・・・。
記者が座っているのは椅子ではなかったのです。
そう。なんと、デスクで使っているキャスター付きの棚。
中継カメラの位置・机の高さにぴったり合うものがこの棚だったんですね(笑)
ほかにもラックには地震などで交通機関が麻痺したときのことを想定して、折り畳み自転車が備えられていたり、仮眠をとるためのソファベッド、引き出しの中に常備しているお菓子たちまで見せてくれました。
さらに、この日は比較的平穏な日ということで・・・
警視庁記者クラブと中継を結び、画面越しに井上敦記者も加わってみなさんからの質問に答えてくれました。
◆質問タイム
―――24時間体制でスタンバイしているなかで、ゆっくり眠れる時間はありますか?
“いつ何が起きるかわからない”という緊張感があるので、仮眠をとるとはいっても常に気を張っていますね。土日の場合はよる6時~翌日よる6時までの24時間を1人でクラブを守らないといけないので特に大変です。
―――食事はどうしている?
クラブを離れることができないので、土日の泊まり勤務は出勤前に3食分買い込んで行きます。
―――女性記者もいるかと思いますが、お風呂などはどうしているのですか?
湯船はありませんが、シャワーブースはありますので、本社の社会部に少し席を外すことを伝え、15分ほどでシャワーを浴びています。
―――昼ニュースと夕方・夜ニュースの取材で意識していることはありますか?
お昼のニュースは放送に結び付けることが大切ですが、出来る限り情報は集めて分かりやすく伝えることを意識しています。夕方・夜のニュースでは、お昼に伝えたニュースから情報を更新し、現場取材も加え、より深く、内容の濃いものにして伝えられるように意識しています。
最後は「事件記者の仕事のやりがい」について。
井上記者
毎日体もキツイですし、被害者への取材などで精神的にも苦しい思いをすることもありますが、事件の最前線の現場で実際に自分の目でつぶさに見ることができるというのが魅力だと思います。また、普段の生活では乗ることのないヘリコプターからリポートしたり、記者だからこそ経験できることがたくさんあります。
神保講師
記者はみんな朝回り、夜回りと現場を這いずり回っていて、家族と過ごすよりも長い時間を警視庁クラブで過ごしています。大変な仕事なので、任期は2年程度ですが、記者たちはこの2年間、警視庁クラブでの仕事にかけてくれていますので、私もキャップとして彼らの貴重な時間を預かる重み・責任を感じています。また、記者クラブに常駐している人はテレビ局も新聞社もほとんど同じ人数。同じ条件、同じ土俵での抜きつ抜かれつの戦いなのですごくやりがいを感じています。
次回のテレビ塾は
4月頃に開催予定です!お楽しみに♪