誰しも愛せる魅力がある──漫画家としての文野紋を作り上げた作品たち

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文野 紋
(ふみの・あや)漫画家。2020年『月刊!スピリッツ』(小学館)にて商業誌デビュー。2021年1月に初単行本『呪いと性春 文野紋短編集』(小学館)を刊行。同年9月、『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)で『ミューズの真髄』を連載スタート。単行本『ミューズの真髄』1巻&2巻は重版がしており、3月10日には最終3巻が発売された。

『logirl』記事コンテンツのコラム連載として、ドキュメンタリーへの愛を語っている漫画家・文野紋。今年3月に美大受験をテーマにした『ミューズの真髄』最終3巻が発売され、作品は完結を迎えた。そこで、彼女が『ミューズの真髄』を描くきっかけや漫画家となった経緯、また、並々ならぬ“ドキュメンタリー愛”を持つ理由など、話を聞いた。

『ミューズの真髄』キャラクター紹介

 

瀬野美優(せの・みゆう)seno一般企業に勤める23歳事務職。美大受験に失敗してから5年間、大好きな絵を描くことを諦め、母親の敷いたレールの上で生きてきた。合コンで鍋島に出会い、再び絵を描くことを決意し家を飛び出すのだが……。

 

鍋島海里(なべしま・かいり)nabe 広告代理店勤務。美優とは合コンで知り合い意気投合するが、心ない言葉で傷つけてしまう。

 

月岡未来(つきおか・みらい)tsuki 東京藝術大学に通う学生。東中野美術予備校で油絵科夜間部講師のアルバイトをしており、美優のクラスを受け持つ。

 

龍円草太(りゅうえん・そうた)ryu高円寺のバーの店主。家出をして行き場のない美優に、救いの手を差し伸べる。

 

いまだに夢に出てくる、美大浪人時代

 

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──『ミューズの真髄』が全3巻で完結となりました。美大受験をテーマにしたこの作品を描いたきっかけを教えてください。

文野 そもそも私が美大浪人を経験していまして、結局は美大に行けなかったんですけど……そのころの夢をいまだに見るんです。あまりにも何度も夢を見るので、これは何かかたちにしたほうがいいのかなと思っていて。ちょうど『月刊コミックビーム』の編集さんから連載をしませんか、と声をかけていただいていたので、この題材を選んで描きました。

──どんな夢ですか?

文野 今の私が美大予備校に通っていて、マンガを描きながら受験とかできるのかな……と悩んでいたり、予備校講師の先生に「仕事は辞めたくないんですけど」と相談しながら受験をしたりする夢を見ます。

──なるほど。『ミューズの真髄』は3巻で完結しましたけど、もともと青図として描いていたストーリーどおりに進みました?

文野 当初は美優がもう少し、いわゆるマンガ的なハッピーエンドになるようなかたちを想定していたんですけど、美優がキャラクターとして動いていくなかで、その終わり方だとちょっとわだかまりが残るかもしれないなと感じたので、一番最初の想定と比べると、ラストはけっこう変わっていきましたね。

──マンガ的なハッピーエンドというと、美大に合格するということですか?

文野 もともと東京藝術大学には合格できないイメージはあったので、第2志望の地方公立の美大に受かるとか。そういう結末を当初は考えていました。ただ、2巻ラストで美優が髪型を憧れの月岡さんに寄せるというシーンで、これはすごい展開になるのかな?と思って、美優なりのハッピーエンドにしようと決めました。

──その月岡さんに憧れて髪型を変えてピアスを開けるというアイデアは、月岡さんを描いていくなかで出てきたのですか?

文野 まだこの作品が何巻で完結とかも決まっていないとき、美優と月岡さんを軸にしたストーリーを考えていたので、月岡さんとのエピソードではいくつかやりたいことがあったんです。その中のひとつが(美優が月岡に)容姿を寄せることで。結果、物語の中で美優がそれを選択するシーンを描きました。

──読者は途中で、月岡さんが実は浪人を重ねていることを知りますが、最初からそういう設定にしていたんですね。美優にはご自分を投影している部分もあるかと思うのですが、美優の人物造形のモデルがもしいたら教えてください。

文野 美優については、特定のこの人というのはなくて。自分と一緒に浪人していた仲間の話を参考にさせてもらいながら、自分の経験とをつなぎ合わせたキャラクターです。

作品の大きなテーマは“承認”

 

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──どの登場人物も他人から承認されるとか、自分で自分自身を承認するとか、何かを認める/認められるみたいなものがテーマとしてあるように感じられました。

文野 はい、それはすごく考えていました。多くの人が幼少期に、特に家族から承認される経験があるかないかが人格形成にものすごく関わると私は考えていて。それが得られなかった人の苦しみというのは、それを当然に得られている人からはわかりにくい。逆に得られなかった人はそれがわかりにくいってことがわからなくて暴走したことをしてしまう、というのが現実でもたくさんあるのかなと。

それは『ミューズの真髄』もそうですし、短編集『呪いと性春』も同じで、制作するにあたってすごく考えているテーマのひとつです。そういう承認の経験が乏しいキャラクターが、この作品だと“美術”っていう承認される/されないが漠然としている──たとえば100メートルを何秒で走ればいいとかそういう話ではない──そういうところに身を置いたときの話で。『ミューズの真髄』を書くにあたって、“承認”はすごく大事なテーマでした。

──明確な基準があるわけではなくということですよね。実際に美優とお母さんとの関係に、そういうところがあるのかと。最初に読んでいたときは、なんとなく“毒親”的な印象を受けていたのですが、読んでいくにつれて、それを超えているというか、毒親でもないのかなという気もしてきました。

文野 子供の精神的な影響において、悪影響を及ぼしているという面では毒親だと思うんです。ただ、性格が悪いから毒親というわけではなく、そういう人物にもほとんどの場合は原因や理由があってそうなっていて。親子関係に関わらず、全部そうだと思っているんですけど。鍋島とかも。

──たしかに、そういう意味では鍋島もそうですね。読者は美優が知らないであろう、鍋島の事情とかも知ることができますし。みんな何かしらバックボーンを持っているのは絶えず意識して描かれていたんですね。この鍋島のモデルはいるんですか?

文野 はい。もともと別の作品で古着について描こうと思っていたときに取材した方で、その方が「自分はUNIQLOの服を着るのが怖い」という話をされていたんです。なぜなら自分に自信がないから、その土壌に立つと、その勝負になってしまう。そういう理由で古着が好きみたいで。古着好きの人って一見するとオシャレで自分に自信がありそうって思うじゃないですか。明らかに都会的なイメージだけど、そこにある気持ちは傍から見るとわからなくて、実は自信がないからそういうトガった服を着ている人もいることを知りました。第一印象との違いがある人物はおもしろいなとずっと感じていて、今回『ミューズの真髄』でキャラクターとして入れられそうだったので、入れてみました。

──龍円に関しても、裏設定を考えていたんでしょうか?

文野 一応考えてはいました。一度ネームを描いたことがあるんですけど、担当編集さんに相談したら「美優との関わりが薄いから、今のタイミングで入れるのはどうなんだろう」という話になって。たしかに鍋島と違って龍円の過去のエピソードは美優の人生に影響しないから、それを見せる必要はないかもしれない。美優と近い部分はあるかもしれないけど、龍円はまったく違う価値観で生きているから。

──たしかに、読者からすると、龍円は最初はすごく協力的でいい人なのかなと思わせつつ、実はその場しのぎのドライな人だったりするので、「え?」と思うところもありました。美優の印象的なシーンとして、1巻の、お母さんとケンカをした夜にキャンバスを持って2階から飛び降りるシーンがありますが、あのシーンはどんなところから発想が生まれたんですか?

 

muse_01_052文野 イメージ的には、映画の予告であったらおもしろそうなシーンが1話の中に入っていたほうがいいなと思っていました。映画の予告編でキャンバスを持って飛び降りるシーンがあったら、ちょっとは観たいと思ってもらえるかなって。

 部屋はギャップを描く大切な場所

──文野さんはこの作品に限らず、登場人物の部屋の中をすごく描き込むというか、わりと雑然と描くことが多いと感じています。そこにもこだわりはあるんでしょうか?

文野 そうですね。部屋は、キャラクターを言葉ではない部分で説明するのにすごく適している場所だと思っています。鍋島と美優に関しては、今時の感じがあるけど実は……という少し心が複雑なキャラクターなので、そのギャップを描くのに部屋は表現しやすくて大切な場所です。

 

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──なるほど。月岡さんの部屋は、まさにちゃんと絵を描いている人の部屋だなと。

文野 生活部屋とアトリエが一体化しているイメージで、家具や食べ物、化粧道具よりも画材とか絵の道具がいっぱいある部屋です。美優が自分の部屋との違いを感じるシーンとして描きました。

──文野さん自身が美大受験をしていたころは、どちらの部屋に近かったですか?

文野 自分はわりと雑然としてました……(笑)。そのころは実家から通っていたので、アトリエみたいにできなかったんですけど、美大生になったら月岡さんみたいな部屋にしたいなと考えてました。

──そうなんですね。あと、この作品だけではないのですが、表現としてものすごい量のセリフを一気に描き込む場面がいくつか出てくるじゃないですか。どういう効果を狙って作っているコマなのかを伺えればと。

文野 美優や『呪いと性春』に出てくる女の子は、抜けている部分と妙に理屈っぽい部分が同居していて、それが生きづらさや、難しさの理由のひとつだと思うんです。そういう人たちが感情が高ぶったとき、長文でしゃべってくれるのが、私はすごく好きで。なので、抜けているのに理屈っぽいキャラクターの表現として使っています。

──吹き出しにノイズを入れている場面もありますよね。

文野 あれはすごく長いセリフをしゃべっているのが、もはやBGMみたいな。読んでね、というセリフじゃなくてたくさんしゃべっているということが伝わってほしいなというときに使っています。

──絵としての表現ということですね。一番印象に残っているシーン、好きなシーンはどのあたりですか?

文野 3巻の試験のシーンですね。マンガのキャラクターとはいえ、美優みたいな人はものすごく現実にいそうで、2巻のラストから美優を苦手に感じる読者もいると思うんです。主人公は基本的に好感度があって、正しいことをする人が多いですし。けど、美優はそうではなく、わりと間違ったことをしてきているというのが1、2巻のストーリーで。それを踏まえた上で、美優が出す決断をどうしたらいいのかと悩んでいて。いわゆる王道のハッピーエンドではないんですけど、美優がやってきたことに対して誠実な答えを出せたのかなと思うので気に入っています。

──欲を言うなら、もうちょっとここを描き込みたい、描き加えたいなという箇所はありますか?

文野 エピソード的に足したいなと思うところは実はそんなになくて、3巻でキレイに完結できたなと感じています。ただ、もっとちゃんと伏線を張ればよかったなという部分はたくさんあります……。技術的な話になるんですけど、構図を描くときに手で窓を作ってのぞき込むっていうシーンが3巻にあって、この仕草は1巻から絶対描いておくべきだったよな……とか。

──これから『ミューズの真髄』を読まれる方には、どういうところに注目してほしいですか。

文野 読んだ方に、ここまで才能がない凡人にフォーカスしてる作品は珍しいと言っていただくことがすごく多くて。そういう才能がないと悩んでいる人がいたら、ラストで美優が導き出した結論で何かを感じていただけると思うので、ぜひ読んでもらえたらと思います。

SNSがきっかけで職業・漫画家の道へ

 

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──そもそも文野さんがマンガを描き始めるようになったきっかけを教えてもらえますか?

文野 大きなきっかけというのは特にないんですが、小学生のときから絵を描くのが好きだったので、“マンガを描いてみよう”みたいな本を買ってマンガを描いていました。

──当時から、まわりの人には「絵、上手だね」と言われてました?

文野 それがあんまり言われてなくて……。すごく記憶に残っているのは、兄や友達と絵を描いて、その中の好きな絵に投票するという遊びをやっていた時期があって。そのときの最下位が私で……。それがめちゃくちゃ悔しくて、そこから逆に練習しよう!と思ったのかもしれません(笑)。

──漫画家になろう、と職業として意識したのはいつぐらいからですか?

文野 村田雄介さんの『ヘタッピマンガ研究所R』(集英社)を読んだことがきっかけで「漫画家いいな〜」と思い始めました。ただ職業として意識したのは、デビューする半年前とかです。

──わりと最近なんですね。ちなみに好きな漫画家さんは?

文野 冨樫義博さんや浅野いにおさん、高屋奈月さんが好きです。

──冨樫さんは……『幽☆遊☆白書』(集英社)だったりとか。

文野 そうです! 『幽☆遊☆白書』だと“仙水編”が好きで、あと『レベルE』(集英社)も。

──『HUNTER×HUNTER』(集英社)とかも。展開、ついていけています?

文野 もちろん、読んでます! 『HUNTER×HUNTER』が休載している間にYouTubeで解説動画を10回ほど観たんですよ。なのに追いつけてないんです……みんな名前難しいから。

──登場人物もセリフも多いですからね。『レベルE』とかは世代的には上ですよね。

文野 そうですね。コインランドリーに『(週刊少年)ジャンプ』(集英社)が置いてあって、そこで『HUNTER×HUNTER』にすごいハマったんです。『HUNTER×HUNTER』のためにジャンプを買うようになったので、冨樫さん作品は全部読もうと思って読みました。

──なるほど。将来的にはSFやファンタジー要素が入っている作品も描いてみたいなって思っていたり……。

文野 はい、いつか挑戦してみたいです。鬼頭莫宏さんの『ぼくらの』(小学館)『最終兵器彼女』(小学館)にもハマりました。人間の感情を軸にしながら世界のことが関わってくるもの、いわゆる“世界系”はすごくいいな〜って思います。

──世界系の作品だと、アニメもわりとありますよね。

文野 『新世紀エヴァンゲリオン』や『コードギアス』シリーズとか好きです!

 

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──いろんな作品に触れていますね。実際に漫画家になる過程を伺えればと思うのですが、どういう経緯で?

文野 美大浪人を2年させてもらったんですけど、美大受験は学費だけじゃなくて、画材代とかでもお金がとてもかかるんです。とりあえずアルバイトをしながらSNSにイラストを投稿していたらフォロワーが増えていったことがあって。当時はまだSNSでマンガを投稿することがそれほど流行っていなかったからなのか、けっこう反応もよくて。同時期に『月刊!スピリッツ』(小学館)にも投稿したら“スピリッツ賞”で佳作をいただけました。コミティアで出展していたマンガを『月刊コミックビーム』の前の編集長が読んで、声をかけてくださって、商業誌で描くようになった、という経緯です。

──漫画家としてデビューが決まったときはどうでしたか?

文野 雑誌に載るというのはもちろんうれしかったんですけど、仕上げの原稿を送るときや見本誌が届いたときとか、自分の拙さにめちゃくちゃ落ち込んでしまって。すごくうれしい!というよりは、もっと練習しないとやばいな……という気持ちで。

──実際に読者の反応を見て、気にしたりします?

文野 気になるので見ないようにしてます(笑)。

──次はどんなテーマを描きたいですか?

文野 テーマはまだ決まっていないんですけど、『ミューズの真髄』でキャラクターの人柄が誤解されて読まれてしまうこともあったなと感じてて。私はキャラクターを描くときに、それこそお母さんや鍋島とか悪者として登場したキャラについても、個人的には悪者を描くぞ!と考えて描いてはいなくて。いい人とはいえないけど知っていくとかわいい人、いろんな抱えているものがあって悪者だと一概にはいえない人。どのキャラクターにも魅力があることを伝えたいのに、それを伝えることは難しいなって。だから、次はもっとちゃんと伝えたいです。

あふれ出るドキュメンタリーへの愛

 

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──話は変わりますが、文野さんには現在『logirl』でドキュメンタリーについての連載「文野紋のドキュメンタリー日記 ~現実(リアル)を求めて~」を執筆いただいています。たしかSNSで「ドキュメンタリーのコラムどっかで書けないかな」とつぶやいていたのを見て、オファーさせていただいたのですが、ドキュメンタリーを好きになったきっかけを教えてください。

文野 一番最初はアルバイト先にサブカルチャーに詳しい先輩がいて、その方が原一男監督をすごい好きで、「『ゆきゆきて、神軍』は絶対に観るべきだ!」っておすすめしてくれたんです。それがきっかけでドキュメンタリーを好きになりました。

──最初が『ゆきゆきて、神軍』なんですね! 濃いですね。そこからは、どんな順番で?

文野 そこから原一男監督の作品をいくつか観ました。そのあとテレビ局に興味を抱くきっかけがあって、『さよならテレビ』(東海テレビ)を。上京してからミニシアターに行けるようになって、特にポレポレ東中野が好きで、新作は全部チェックしていてすごいハマって、過去作品も観るようになりました。

──中でも一番刺さったドキュメンタリーは?

文野 東海テレビの『ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~』がすごく好きです。それこそ一見すると悪役みたいな人がたくさん登場します。現実にいたら万人受けしない、マンガの主人公には絶対ならないようなキャラクターしか出てこない作品で。でも、単に悪者という描き方ではなくて、ちゃんと愛せるところがあるように映しているので、そのバランスがいい作品です。過激なキャラクターでもおもしろく映すことができるというのはすごいなと。

中盤で、理事長がカメラを回しているテレビ局の方に「金を貸して」と土下座するシーンがあって、それは衝撃的でした。撮られていることで、お金を貸してくれるかもしれないと思って頼むってけっこうすごいシーンですよね。普通はカメラと撮影対象者って交わらないものじゃないですか。それが交わることでおかしなことが起きてしまう、カメラの暴力性。ドキュメンタリーというものにおいてのカメラの位置、カメラが入っている時点でリアルではないということのひとつだと思うんですけど。それもあって、すごく印象的な作品だなと思いました。

──東海テレビのドキュメンタリーは、対象者との距離感がおもしろいですよね。

文野 『さよならテレビ』も、カメラがあることでのオチがあるというか。

──東海テレビの作品は、ほとんど観られているんですね。海外ドキュメンタリーはご覧になります?

文野 日本の方が撮っている『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』(テレビ東京)は好きで観たんですが、それ以外は、まだそんなに掘れていないですね。外国の方が撮られているとその国の文化や常識など、勉強不足のところがあるので。

──たしかに日本人の視点があるかないかで変わりますよね。連載では、直近だと『水俣曼荼羅』に触れていました。ボクも作品を観たんですけど、正直いうと6時間は長かった……。文野さん6時間全部観たんだ、すごいな、と思ったんですよね。

文野 私は映画館で観たんですけど、6時間は余裕でした。1部で出てくる大学教授の方は“マッド”と言われていて、いわゆる世間がイメージする科学者像とは異なるし、3部ではいろんな人に恋をする素敵な女性が出てきたり、登場人物がすごく興味深くておもしろいんです。

──そうなんですよね。ちなみに、ご自分で何か密着したドキュメンタリーを撮りたいと思ったことは?

文野 自分でドキュメンタリーを撮るというのは、あんまりイメージができないです。もし撮るとしたら、私は変な人が好きなので(笑)、刺激的な人に密着して、自分も刺激をもらいたいなって思います。

 

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取材=鈴木さちひろ 撮影=まくらあさみ 文・編集=宇田川佳奈枝

 

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