メンバー全員でコントをやってみたら、風向きが変わった──ダウ90000が「いけるな」と確信した瞬間<First Stage>#18(後編)
立ち上げからわずか2年で、演劇/お笑いの両面で大活躍の若手8人組・ダウ90000。
もともとは大学サークルだった彼らは、コロナ禍の中でもすぐに売れるために、ライブやYouTubeでコントを量産していた。
そんな彼らのターニングポイントとなったのは、第2回本公演『旅館じゃないんだからさ』だったという。初めて8人体制で行ったこの公演の裏側、そして今後の目標について聞いた。
【インタビュー前編】
「売れるっていうのはずっと決めてた」勝つために、会話劇に活路を見出したダウ90000の初舞台<First Stage>#18(前編)
若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。
決意を新たにした日
左から:中島百依子、飯原僚也、吉原怜那、忽那文香、蓮見翔、道上珠妃、上原佑太、園田祥太
──メンバーが8人になって初めての舞台はいつだったのでしょうか。
蓮見 演劇の第2回本公演『旅館じゃないんだからさ』ですね。あの公演の3週間前にふたり辞めたんですよ。ひとりは前もって「辞めます」と聞いてたんですけど、もうひとりは出る予定で脚本も仕上がってたんです。
──予兆とかはまったくなかった?
蓮見 誰も知らなかったです。それで3時間くらい話して「一度考え直してみて」って外歩いてもらったりして。俺らもなんとなく「戻ってくるだろう」って和んでたら「やっぱり辞めます」って言われちゃいましたね。
中島 覚えてる? 外歩いてもらってる間、もう大丈夫っていう空気になったときに、コント当てクイズしたの。
蓮見 自分たちのコントのセリフを言って、なんのコントか当てるやつな。
中島 それでみんなでセリフ言いながら、だんだん気持ちが高まってたところで、最後のコントタイトルがたまたま『脱退』になっちゃって。
道上 そうだった(苦笑)!
中島 その瞬間に戻ってきて「脱退します」って。
蓮見 そこで「俺もがんばって書き直すから、みんなマジでがんばろうな」ってなり、結果的に評判もよかったし、岸田(國士戯曲)賞の最終候補にも選んでもらえた。これは自分でもかっこいいと思ってる。
みんな (爆笑)
蓮見 短期間で根詰めて、異常なくらい書き直しましたから。結果、脚本もよくなった。
──危機を乗り越えて、8人の絆がより固くなったんですね。
蓮見 そうですね。たぶんみんな同じ気持ちだったと思います。
道上 あのとき区民館でメンバー各々、熱い思いを話したんだよね。そこで初めてみんなが真剣に話して、全員の意思確認もできた。
蓮見 あのときの忽那が今までで一番まじめにしゃべってた。「こうやってしゃべれる人なんだ!」って気づきました。
忽那 ふふふ……(笑)。
蓮見 園田はずっと「早く終わんないかな」って顔してました。
みんな (笑)
「おもしろい人は絶対に売れるんです」(蓮見)
──どうして蓮見さんは売れることをそこまで確信できてたんですか。
蓮見 お笑いがずっと好きで見てきたんですけど、おもしろい人は絶対に売れるんですよ。だからライブでウケてれば、絶対に売れるんだってピュアに思ってて。で、僕らもライブでは常にウケてたから売れることが信じられたんですよね。
──ダウ90000が売れると確信したネタとかライブはあるんでしょうか。
蓮見 ダウを始めてから、毎月『あの子の自転車』っていうコントライブをしていたんですが、その2回目のときに、『フロント』ってコントをやったんです。
蓮見 そのとき初めて、メンバー全員でやるコントを書いたんです。それまでは、3人とか5人とか分けて出してたんですが、最後に10人のコントやったほうがライブが締まるなと思ったんですよ。10人が立て続けにしゃべって、あるタイミングで俺がツッコむっていう変な前フリから話が展開していく。そのコントが変なウケ方して、自分の中で、この形いけるなって思いました。
──型ができた。
蓮見 そうですね。『顔合わせ』や『AED』、『まちがいさがし』は全部『フロント』の派生なんです。良くも悪くも大勢がわちゃわちゃコントしてるっていうイメージを作るきっかけになりましたね。それぞれの個性とか全然出てなくて、人数が多いということだけで笑ってくださいっていうネタです。
──評判もよかったですか。
蓮見 『テアトロコント』キュレーターの小西(朝子)さんやゼンモンキーの荻野(将太朗)さんが褒めてくれて。『芸人雑誌』編集長の福田(駿)さんも、「今これを観れたこと、のちに自慢できます」って言ってくれた。自分が信頼する人たちが、自己評価と同じことを言ってくれたので、方向性を信じられました。あと2本、ダウ90000の型になるネタができて、それでもう大丈夫だろうって。
──そのネタはなんですか。
蓮見 『元カノ』です。ボケでもツッコミでもなく、俺が元カノに結婚するって言われて泣き崩れるコントだったんですけど、それがすっごいウケたんですよ。
吉原 あれはすごかった。
蓮見 ゲストで来てくれたトリオ・ハチカイの警備員さんには「このネタ一本で営業回って食えますよ」って言われましたね(笑)。あと、『東京』ってコントを作れたとき、この3種類あれば、当分は大丈夫だろうって思えた。今年の単独も、この3種類を派生させた6本になってるんで、かなりでかかったですね。
「友達の月収がおもしろすぎる」(園田)
──最後に、これからダウの目指すところを伺っていきたいです。
蓮見 僕の言う「売れる」って全員がダウの仕事だけでメシが食えることだったんで、それはとりあえず去年末でクリアできた。だから現状維持ですね。ダウやりながら月収20万が死ぬまで続いて生活できればそれでいい。今はすごくもらっててうれしいけど……「ここまで働かなくてもいいかな?」って。半分の仕事量で半分の収入になっても全然いいし、空いた時間はみんなでラウンドワンとか行きたい(笑)。
園田 うんうん。
蓮見 まぁいずれ下の世代が出てきたり、俺もおもしろいこと思いつかなくなったり、メンバーの演技がこれ以上伸びなくなる可能性だってなくはないから、今の状況はとってもありがたいんですけどね。でもダウが下り坂に入っても8人で補い合って、ダウの公演だけはおもしろいっていう状態は保ちたいですね。
──園田さん、お金の話になってすごいうなずいてましたけど……。
園田 いや、蓮見のこの前の月収が……。
蓮見 言うなぁ!! お前バカじゃないの?
みんな (爆笑)
園田 それ聞いたときちょっと笑っちゃったんですよ。だって蓮見は友達なんで。友達の月収がそのレベルっておもしろすぎる……(笑)。
蓮見 1週間を残り400円くらいで生活しなきゃいけないとき、Tポイントで買ったパンを友達に食べられて俺がブチギレたのを園田は見てるから。
園田 そんなヤツが今やねぇ(笑)。だから僕の目標は今の蓮見くらい稼げるようになる、ですね。
蓮見 でも本当に、メンバーにはダウをホームだと思ってほしくて。ここで食えるだけの収入は確保できるようにするから、ドラマや映画の演技の仕事だったり、自分のやりたいことだったり、気負わずに思いっきりやってほしいですね。安心してほしい。
──園田さんは「蓮見さん並みに稼ぐ」ということなので、ほかのみなさんの目標もお聞きしていいですか。
吉原 私が小さいころからずっと憧れてるのは、ユニットのコント番組ですね。なので目標は「ああいうコント番組のレギュラー獲得」でお願いします!
中島 私は演技のお仕事をたくさんやりたいんですけど、ひとつの役を長期間かけて演じてみたい。朝ドラでも大河でもじっくり演じてみたいなって。あと、おばあちゃんになっても役者をしていたいので、そこに向けて信頼を得られるようにがんばっていきたいです。
道上 2022年は蓮見さんのおかげでダウ90000がある程度のところまで行けたから、2023年は各々がんばってねって段階になる気がしてて。野放しになったとき、道上珠妃の個人力を痛感させられると思うんですよ。そこで、けちょんけちょんにされて、ダウに戻って還元していきたい。それを繰り返していきたいです。
──上原さんいかがですか。
上原 僕は本当に不安になっちゃうことが多くて、「次はもう無理だ」って思っちゃう思考の癖があるので、それをなくせたらいいなぁと思います……。不安を克服できたら、好きなことの話をずっとしてたい。僕、好きなものがたくさんあって、サッカーや嵐、アニメ、VTuber……ってキリがないんですけど、それについて誰かとずっとしゃべって笑い合えるようなことがいつかできたら……。
吉原 オフ会だ。
園田 オフ会開け! バカ(笑)!
上原 それが『アメトーーク!』みたいな仕事につながったらいいなって(笑)。自信持ってトークできるようになりたいので、そのためにドラマとかもがんばって出させてもらいたいです。ダウっていう場で自分の存在が不安になっちゃうので、やっぱり自信をもっとつけたいなって。演技はやっぱり楽しいですし。
──飯原さんはどうですか?
飯原 僕は映画に出ていきたいですけど、できたらヤクザ映画とかに出てみたい。
園田 好きだよねぇ。
飯原 『孤狼の血』の3作目には間に合わないんですけど、まだ続くんだったら出させていただきたいですね。あ、でも原作がそもそもこれ以上ないんだよな。じゃあ終わりか……。
みんな (爆笑)
飯原 全国の映画館でかかってるヤクザ映画ってもう『孤狼の血』くらいしかないからなぁ……。
吉原 蓮見さんに書いてもらうしかない。
道上 めちゃくちゃ会話してるヤクザ。
中島 会話と暴力。
園田 なんだそのキャッチコピー(笑)。
忽那 私は個人的なことになっちゃうんですけど……。
蓮見 みんなそうだぞ。
忽那 あ、そっか……。
蓮見 忽那は何か前置きをしておきたいんだよ。前置きがかっこいいと思ってる。
忽那 個人的な話になっちゃうんですけど!
中島 強く言った(笑)!
忽那 蓮見さんの脚本に出続けられることは確約されたんで、次は憧れの坂元裕二さん脚本の作品に出る。今はそれですかね、それができたらこの上ない幸せです……。
蓮見 泣くの?
中島 想像したらうれしくなっちゃった?
忽那 うん(笑)。それが叶ったらあとは余生ですかねぇ。
蓮見 でもわざわざ目標をひとりの脚本家に絞っちゃうとよくなさそうだよね。
忽那 たしかに。じゃあ……憧れの脚本家さんたちが書いてくださった作品で、120%すべて自分の力を出しきって、お芝居していきたいです!
中島 オーディションみたいになってるよ(笑)。
文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平、田島太陽
ダウ90000
2020年に旗揚げした8人組ユニット。メンバーは前身の「はりねずみのぱじゃま」加入順に、主宰の蓮見翔(はすみ・しょう/1997年4月8日、東京都出身)、園田祥太(そのだ・しょうた/1998年3月2日、東京都出身)、飯原僚也(いはら・りょうや/1998年6月2日、徳島県出身)、上原佑太(うえはら・ゆうた/1998年10月6日、神奈川県出身)、道上珠妃(みちがみ・たまき/1998年10月2日、タイ出身)、忽那文香(くつな・あやか/1999年4月10日、兵庫県出身)、中島百依子(なかしま・もえこ/1999年8月21日、福岡県出身)、吉原怜那(よしはら・れな/2001年2月22日、東京都出身)。第2回本公演『旅館じゃないんだからさ』が、第66回岸田國士戯曲賞の候補にノミネートし、『M-1グランプリ2021』に蓮見、道上、忽那、中島、吉原の5人で出場すると、準々決勝まで進出。『ABCお笑いグランプリ2022』では8人コントで決勝進出するなど、「演劇/お笑い」の垣根を超えて活躍する。YouTubeチャンネル『ダウ九萬』では、毎週火曜日に動画、金曜日にラジオを投稿し、不定期でコント映像もアップしている。
【後編アザーカット】
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