舞台で狂うために、常識人でいる。怪奇!YesどんぐりRPGのこれから|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#8(後編)
Yes!アキト、どんぐりたけし、サツマカワRPG。それぞれピン芸人として活躍する3人が『M-1』に出場するために結成したユニットが「怪奇!YesどんぐりRPG」。
前編では、怪奇!としての初舞台やその後の活動について聞いた。
後編では、3人それぞれの初舞台、彼らの出会い、そして3人の絶妙な距離感の秘訣について話してくれた。
【インタビュー前編】
即席ユニットでも、初M-1で“ボコウケ”怪奇!YesどんぐりRPGの初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#8(前編)
若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。
札幌の街でギャグを売っていたアキト
Yes!アキト
──後編では、3人それぞれの初舞台について教えてください。アキトさんは、地元の札幌で活動されてたとか。
アキト そうですね。高校生のころは、路上でギャグやってましたよ。僕、高校に5年通ってたんですけど……。
──5年はちょっと長いですね。
アキト 進学校に入っちゃったら授業についていけなくなったんですよね。授業がダルくて通わなくなり、高1を3年やってから、通信制に編入して。そこはストレートに卒業して、大学に行ったんです。
その通信に通ってるときですね。お金欲しいけどバイトは面倒だなと。そういえば俺にはギャグあるなと思い出して、路上でギャグを1個50円で売り始めたのが、初舞台です。
サツマカワ マッチ売り少女ならぬ、ギャグ売りのアキト。野良ギャガー。
──「俺にはギャグある!」とは?
アキト 中学のときからギャグを作って仲間内で見せてたんですよ。お笑いはずっと好きだったんで、そういうことしてましたねぇ。
──ちなみに1日の稼ぎってどれくらいになるんですか。
アキト これがですね、売れる日は1日7千円とかもらえるんですよ。
たけし すげぇ!
アキト 気前のいい人は千円くれたりするんで、一気に跳ねるんです。ギャグ売りを続けてるうちに、「本気でお笑いやってみるか」と思い、大学生のときに札幌吉本のオーディションを受けました。だから、大学生のときは学校に行きながら事務所ライブも出てましたね。
──上京は卒業後ですか?
アキト そうですね。札幌で半年間お金貯めて、事務所辞めて、東京に来ました。それが2015年末ですね。東京の初舞台は下北GRIP(下北沢)でした。
──札幌の路上で鍛えたギャグは通用しましたか。
アキト いや、全然通用しなかったですねぇ。手応えもないし。
サツマカワ たしかにお客さんにはウケてなかったけど、アキトは最初からすごかったよ。
僕が当時、下北GRIPにレギュラーで出てて、楽屋で「なんかヤバいギャガーが急に現れたぞ」ってざわつきましたから(笑)。普段は楽屋でぼんやりしてる芸人たちが、アキトのときはみんな裏まで観に行ってましたからね。それがアキトとの出会いです。
アキト 芸人に認めてもらえたおかげで、東京で折れずに続けられたんだよな。
──逆に、アキトさんはサツマカワさんの第一印象覚えてますか?
アキト 暗い人だなぁ……って(苦笑)。でも、北海道にいたときから、YouTubeでネタは観てて、サツマカワのことは知ってたんですよ。会う前から、若手の勢いある人だって認識してました。
当時はほんと暗くて、衣装もトレーナー。ステージにぼうっと出てきて「ショートコント……」ってつぶやく感じでした。
サツマカワ いかにも「センスありますよっ!」って雰囲気を出したかったんですよね。
お笑いオタクのサツマカワ「オンバトの点数は全部覚えてる」
サツマカワRPG
サツマカワ 僕の初舞台は、1991年の1月の山梨でした。生まれた瞬間、へその緒がおもしろく絡みついて、お母さんと医療関係者が笑ってくれて。
たけし 分娩台が初ステージ(笑)。
──当時の心境はいかがでしたか?
サツマカワ 当時の心境って……「おぎゃぁ!」ですよ。
──明確に物心ついてからの初舞台についても教えてください。
サツマカワ ……大学1年生ですね。嘘ついてすみません。
たけし わははは(笑)。
──分娩台から時間がかなり飛びました。ひょうきんな子供ではなかった?
サツマカワ そうですね、子供のころは思い出したくないくらいイジメられてたんで(笑)。めちゃくちゃ太ってて、小学校の3〜4年生のときは、「サツカワ菌だ〜」ってベタなイジメ受けてましたよ。
──今はむしろ細身ですよね。
サツマカワ 高校デビューしたくて、炭水化物抜きダイエットをめちゃめちゃがんばりまして。その甲斐あって痩せた状態で入学できたんですが、高校は普通にあんまりおもしろくなかったです。先生と仲いいタイプの優等生で、成績もオール5でしたよ。でも、テストはあまり得意じゃなかったんで、指定校推薦で明治大学行きましたねぇ。
──お笑いを好きになったのは?
サツマカワ 中1くらいからですかね。『爆笑オンエアバトル』(NHK)がめちゃめちゃ好きでした。お笑いオタクだったんで、全部成績覚えてますよ。
──ザ・マミィの酒井(貴士)さんも点数を全部記録してたと言ってました。
サツマカワ 復活した『オンバト』でザ・マミィが533キロバトル取ったのも知ってますよ(笑)。
サツマカワ 当時は三拍子さんがすごい好きでした、この取材がまさにサンミュージックなんでドキドキしてます。あと、ハマカーンさんとかタイムマシーン3号さんとかですね。
売れまくってる人より、オンバトに出てる勢いある若手のほうが好きだったんですよね。「俺しか知らないコアな笑い」みたいな気分で見てるめんどくさいファンでした。
──アキトさんのようにギャグを作ったりネタ書いたりしましたか?
サツマカワ お笑いファンだったので、自分でやることはなかったですね。でも、高校でイジメからイジられに昇格したときは、教室で『イロモネア』ごっこをやらせてもらったりしてましたね。やらされ組が3人くらいいて、クリアできないと肩パンされたりして。
たけし あはははは(笑)。
サツマカワ 教室イロモネアも、サイレントまでクリアしたら「すげぇじゃん!」って言ってもらえるんです。学園祭では漫才もやりましたね。もしかしたらあれが初舞台かもしれないです。あれがめちゃめちゃウケたんですよ。楽しかったなぁ。
──どんなネタやられたんですか?
サツマカワ 言わない言わない!
たけし なんだなんだぁ!?
サツマカワ いや、それこそオンバト出てた人たちのパクリみたいなことですよ。ほかの人はそんな深夜のネタ番組知らないからバレないじゃないですか(笑)。
それで高3のとき、大学にはお笑いサークルってものがあるらしいぞと知って、明治大学でサークルに入りました。当時はまだプロになりたいとかは思ってなかったんですが、なぜか「コイツは天才だ……」って高評価もらいまして。
ワタナベエンターテインメントが大学生の素人向けに開いてる大会『笑樂祭』に力試しで出たら大学2年のときに準優勝させてもらいました。
──4年生までいるなかで、2年生にして準優勝はすごいですね。そのとき優勝したコンビ・ダージリンのひとりが、現サスペンダーズの依藤たかゆきさん。
サツマカワ そうです。でも、ダージリンは優勝特典のワタナベコメディスクール無料入学を蹴ってましたね。僕も声かけてもらったんで、プロになるかどうかはともかく、せっかくのチャンスだし、入ったんです。
そのまま養成所からワタナベエンターテインメントに本所属になれたんで、これなら通用するのかなと思ったんですが、1年で辞めることになり(笑)。3〜4年フリーでやってたときに、アキトと出会いました。
「ちょっと紹介したいギャガーいるんだけど」
どんぐりたけし
──サツマカワさんとアキトさんの下積み時代の話に、どんぐりたけしさんは出てこなかったですね。
サツマカワ そうか。どんぐりはフリー期間ないもんね。
たけし そうですね。東京アナウンス学院にある養成所入って、そのままケイダッシュステージさんにお世話になりました。遡ると、僕の初舞台は高2の『ハイスクールマンザイ』です。同級生と「ATM」ってコンビを組んでました。
サツマカワ ATMってどういう意味だっけ?
たけし 相方の青木の「A」と、たけしの「T」プラス漫才の「M」でATMです。
アキト 漫才のMだったんだ(笑)。
たけし ATMの漫才のツカミまだ覚えてますよ。「僕らATMと言いますけどね。ATMのA!『あそこの』。T!『田んぼは』。M!『マジで臭い』」「違うだろ! 『青木』『たけし』『漫才』でATMだろ!」でした。
サツマカワ 最高じゃん(笑)。
たけし 茨城県だったんで、「田んぼが臭い」ってあるあるだったからそこそこウケたんですよ。
『ハイスクールマンザイ』は当時全国のイオンで予選やってて、買い物ついでのお客さんが観にくる感じだったんですけど、めちゃくちゃ緊張しましたね。2年生のころ初めて出たときは、えずきまくって、覚えてないほど緊張しました。レギュラーさんがMCやってましたねぇ。
──ネタは覚えてますか?
たけし ヤンキーがどうのこうのみたいな……。1個だけ覚えてるボケは、「ちょっと俺のバイクのうしろ乗れ!」って言われたヤツが、めちゃくちゃ離れたところに座るやつですね。「そんな長いバイクねえだろ!」ってツッコんで……。
アキト おもろいじゃん……。
たけし 高3でも挑戦したときは、千葉とか埼玉のイオンまで行って何回もチャレンジしました。『ハイスクールマンザイ』って、同じ関東エリアだったら、いろんなイオンの予選にエントリーできたんですよ。たしか水戸のイオンで優勝して、関東大会で負けちゃいましたね。
たけし それで「俺たちもっと上目指せそうだから続けようぜ」ってことで、相方が探してきた養成所、東京アナウンス学院に行きました。でも、相方は1カ月で辞めちゃって(笑)。
──それからずっとピンですか?
たけし いや、小河っていう巨漢と「ゴブリンマジック」っていうコンビを組みました。そいつは、プロ野球選手のカブレラと身長体重が同じだって自分で言ってましたね。
東京アナウンス学院は専門学校なんですけど、2年に上がるとき、小河が辞めちゃって、そこからピン芸人です。僕もアキトさんと同じで、中2くらいから趣味程度にギャグ作ってたんで、ひとりでもできるかなと思ったんですよ。
養成所在学中のオーディションで、ケイダッシュステージさんに拾ってもらいました。それが2013年ですね。
──サツマカワさんとアキトさんとの出会いは覚えてますか?
たけし いつだっけな……。
アキト 俺は覚えてますよ。ファミレスでギャグ芸人仲間と一緒にギャグ作ってたとき、「ちょっと紹介したいギャガーいるんだけど」って言われて、現れた男が「どんぐりたけしです」と。
サツマカワ ファミレスでギャグ作る気持ち悪い集まりに、さらに変なギャガーがやってきたんだ(笑)。ちなみに、ふたりをつないでくれたギャガーは誰?
アキト それがあの、「鼻矢印永井」さんなんですよ!
サツマカワ 読んでる人誰も知らないよ!
──みんなギャグで引き寄せられたんですね。
たけし そうなんですよ。
サツマカワ ギャグでつながってますねぇ。でも、これだけは言っておきたいんですが、僕はギャガーではないんですよ。よく誤解されるんですけど、ピンのときはショートコント中心でやってて。だから、ショートコンターです。まぁ、ギャガーって言ったほうがいいときは、そう名乗ってますけど(笑)。
アキト どんぐりとサツマカワの話を聞いて、俺も初舞台のネタ思い出しました。最初はギャグじゃなくて、『マージャンマン』っていうコントでした。
サツマカワ マージャンマン?
アキト これ僕が考えた架空の怪人なんですけど、体のいたるところに麻雀パイをつけたマージャンマンが、麻雀の役を1個ずつ紹介していくネタで。足元の白いソックスには赤丸をつけてて、点棒を模してましたね……。
──ウケましたか?
アキト ウケるわけないじゃないですか! 奇妙な格好でただただ役を紹介するだけですよ。「九蓮宝燈はこういう役で〜」って説明したら、お客さんは「へぇ〜」って顔してましたよ。
ステージで狂うために、常識人でいる
──3人とも個人の仕事も忙しくなるなかで、すれ違ったりケンカしたりしませんか?
アキト 全然ないですね。
サツマカワ こう見えても3人とも常識人なんですよ(笑)。怪奇!の活動は、僕がいろいろ方針を考えてふたりに頼むかたちなんですけど、ふたりとも「これは違うな」と思ったときは、はっきり言ってくれるというか、話し合いがちゃんとできるんですよ。
芸人ってやっぱり不まじめな人が多いけど、このふたりはまともなので、そこがすごくありがたいですね。
アキト 不満らしい不満もないんですけど、仕事観の違いでズレることはありますよ。僕、休みの日に例外的に仕事とかネタ合わせを入れられるのが苦手なんで。「休日は絶対に休むの!」って頑なに思ってるところがあって。
たけし たしかにそういうところありますね(笑)。
サツマカワ でもアキトは感情的に「俺は休むんだよっ!」って怒るんじゃなくて、「ちょっと休みたいんだけど……」ってまろやかに言ってくれる。そうすると「じゃあ別の日にやろっか」って円滑に話せるんです。
──舞台上ではあんなに狂気的なネタをする3人が、普段は常識人というギャップがいいですね。
サツマカワ ふざけたネタをするからこそ、まじめじゃないといけないんですよね。普段も狂ってたら、誰も相手にしてくれないじゃないですか(笑)。
でもやっぱり最近みんな忙しくなってきて、3人で会って合わせるみたいなことが難しくはなってきました。でも、売れるってことはそういうことなんで、割り切ってますね。
──3人がもっと売れっ子になって、年末特番や賞レースなど特別な舞台でしか見られないユニットになる未来もおもしろそうです。
サツマカワ いいですねぇ。でも、最終的には「俺が一番売れてやる! 俺だけ売れてやる!」って対抗心も強いんですよ。
アキト コイツらには、負けたくないですからね!
たけし いやいや、そこは仲よくいきましょうよ!(笑)
アキト お前はとにかく早くバイトを辞めろよ!
怪奇!YesどんぐりRPG
Yes!アキト(サンミュージック所属)、どんぐりたけし)、サツマカワRPG(ともにケイダッシュステージ所属)によるユニット。2018年、『M-1グランプリ』に出場するため結成。2018年から2020年まで3回戦敗退だったが、2021年は準々決勝に進出。今年10月『怪奇!YesどんぐりRPGのラジオばあちゃんの踊り場の間ん家のうさぎ』(ラジオ関西、金曜 20時45分〜21時)で初レギュラー番組を獲得。YouTubeチャンネルは『怪奇!YesどんぐりRPG』。
文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽
【後編アザーカット】
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