芸人でしか生きられない男と、奇妙なふたり  トンツカタンの初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#9(前編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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実力派コント師のトンツカタン。東京のライブシーンでは確固たる地位を築いている3人だが、メディアでの露出はまだ増え始めたばかり。

もともとはお抹茶と櫻田佑で組んだところに、森本晋太郎が合流したことでトリオとなった3人。今回は合流以前の3人が、芸人として踏んだ初舞台について聞く。

「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

トンツカタンは“都合のいい男“と組んだコンビだった

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左から:お抹茶、森本晋太郎、櫻田佑

──そもそもトンツカタンは、お抹茶さんと櫻田さんのコンビだったんですよね。

櫻田 はい。もともとは「トンツカタントンツカタン」って名前でした。僕の兄がお笑い好きで、名づけてくれました。でもちょっと長すぎるってことで、トンツカタンに変えて。

お抹茶 そうですね。大学生のころ、バイト先で出会った僕と櫻田が、人力舎の養成所JCAに入ったのがスタートです。僕は子供のころから『笑う犬の生活』(フジテレビ)とか『爆笑オンエアバトル』(NHK)を観てて、お笑い芸人になりたいと思ってて。でも、ひとりで養成所に行くのは嫌だったんです。櫻田はけっこうお笑いに詳しいし、雰囲気もおもしろかったんで、コイツとならいいかなと思って誘いました。

──櫻田さんもずっとお笑いが好きだった?

櫻田 そうですね。ずっとお笑いが好きで観てたので、芸人になることも選択肢にはありました。僕も、兄と姉の横で『オンエアバトル』をずっと観てましたね。

──当時好きだった芸人って覚えてますか?

櫻田 アメリカザリガニさん、ホーム・チームさん、コンビ時代のバカリズムさんですね。おぎやはぎさんも好きでしたねぇ。シュールというか、無理やり笑いを取りにいかないスタイルが当時から好きでした。

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──お抹茶さんと櫻田さんがもともと友達で、一緒に芸人やろうということで結成したのがトンツカタン。

森本 いや、そこが妙なんですよね。当時の話を何回聞いても、別に仲よくなさそうなんですよ。たぶん友達ではない。

お抹茶 そんなことないですよ。飲みに行ったり、映画も観に行きましたし……。

森本 その映画観に行ったってエピソードが怖いのよ。映画館で待ち合わせて、お互いに観たい映画が違ったから、別の映画観て、そのまま解散したらしくて。映画館前に集合、映画館内は別行動、映画館前で解散って、一緒に遊んだとは言わないよ。

お抹茶 でも映画を観に行くって約束して集合したんだから友達ですよ。ちなみに彼は『踊る大捜査線』観て、僕は『ハナミズキ』観ました。

森本 邦画と邦画っていうのも絶妙にズレてるんだよなぁ……(笑)。それにしても、お笑いを一緒にやるってけっこう重大な選択じゃないですか。人生を賭けるところあるから、「コイツじゃなきゃダメだ」って固いつながりがありそうなもんですけど……。

お抹茶 逆に親友だと、人生背負いすぎてて気が引けちゃうんですよ。その点、櫻田は末っ子だし、大学も一般入試じゃない。櫻田家の未来を少しも担ってない感じがしたので、ちょうどよかったんです。

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──櫻田さんは都合のいい男だった。

お抹茶 そうなっちゃいますねぇ。

──櫻田さんは、お抹茶さんと芸人をやることを、ためらわなかったんですか。

櫻田 そうですね。彼は当時からお笑いに対するガッツがありましたから。お抹茶は『めちゃイケ』(フジテレビ)の新メンバーオーディションにも行ったんですよ。

お抹茶 それはひとりで行ってさんざんでしたけどね。待ち時間が12時間くらいあってくたびれちゃうし、本番ではネタ飛ぶしで、「めちゃイケメンバーにエールを送ります」と言って「フレーフレー!」だけやって帰りました。

櫻田 でもバイト先では、出征して帰ってきたみたいな感じで英雄でしたよ。「めちゃイケオーディションどうだった?」って話で持ちきりでしたから。

芸人の肩書がないと生きづらい森本

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──ふたりと養成所で出会った森本さんは、当時コンビのトンツカタンをどう見てましたか?

森本 すごい独特のコントするなぁと思ってましたね。みんながボケてツッコむスタイルでやっているなか、このふたりはボケっ放しでツッコミがなくて。おもしろいんだけど、わかりにくいからウケづらかったんですよ。そこで焦ったのか、お抹茶が無理してツッコみ出したんですけど、それがかなりストレスだったらしく。

お抹茶 ツッコミ向いてないですから……。

森本 やりたくないことをしないために芸人になったのに、性に合わないことばかりしてるから元気もなくなっちゃってて。

ちょうどその時期に、僕も当時組んでたコンビを解散したんですけど、お抹茶から「ツッコミとして入ってくれないかな」と誘われたんです。僕はもともとコンビで漫才がやりたかったんで、「トリオか……」と思いつつ、でもほかに組む相手もいないから、入れてもらいました。

お抹茶 森本と組めてほんと運がよかったです。彼はもともと大学お笑い出身なのもあって、養成所の中では“天才ツッコミ”だったんですよ。生徒はもちろん講師も一目置く存在で、養成所ライブをスキップして、『バカ爆走!』っていう事務所ライブに出そうかっていう話まであって。でも、結局彼が授業をサボっちゃってその話はなくなるんですけどね。

森本  そうなんですよ……。

お抹茶 とはいえ、やっぱり僕も「お笑い界を変えるのはこの男だ」と思ってましたよ。

森本 ウソつけ!

──お抹茶さんがまったくツッコミができない一方で、森本さんは、生まれながらのツッコミ気質だとインタビューなどで話されてますよね。

森本 そうですね。くりぃむしちゅーの上田(晋也)さんがピンでやってた『知ってる?24時。』(ニッポン放送)を中学生のときに聴いてて、「この人みたいになりたい」と思ったりしてました。

高校生までは中高一貫の男子校だったので、普段から友達にツッコんでも問題なかったんです。でも、大学でも「なんでだよ!」「うっせぇな!」とか言ってたら「なんでそんなに怒ってるの?」「怖いんだけど……」って人が離れていったんです。キャンパスライフもしばらくの間ひとりで過ごしてて、全然楽しくなかったですねぇ。今思うとあれが最初の挫折かもしれない。

──大学お笑い出身とのことですが、いつサークルに入ったんですか?

森本 2年のときです。僕が入学した年にサークルはできてたんですけど、特に活動していなかったので1年のときは入ってなくて。でも、サークルに入ってからは、人にツッコんでも「さすがお笑いサークルだね」ってむしろ褒められる感じに変わったんです。

お笑いっていう名刺があれば、僕みたいなツッコまずにはいれない人間も、人は安心して接してくれるんだなって気づいて、改めて芸人になろうと思いました。僕が生きやすい世界にするためには、芸人という肩書が必要なんです。

初舞台は覚えてないです

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──森本さんの初舞台はサークル時代になるんですね。

森本 そうですね。コント公演みたいなのが最初です。もう内容は覚えてないですけど、1時間半くらいかけて『流しそうめん部』とか『レジ打ちの神様』とか、いろんなコントをやりつづけて。

楽しかったんですけど、やっぱり思い描いていたお笑いとは違うなぁっていうのが正直な感想でした。ライブ後に「テレビのネタ番組みたいな感じで、各コンビがネタをするのはどう?」って提案しましたね。だから芸人としての初舞台って感じではないかもしれない。

櫻田 『巨人の村』はいつやったの?

森本  それはもうちょいあと(笑)。『巨人の村』っていうのは、僕の2個下の後輩の180センチの子と、30代で留学生のショーンさんっていう190センチ超の人とやったコントで。そのふたりがいる「巨人の村」に僕が取材に行く設定だったんですけど……。

今でもショーンさんとはSNSでつながってるんですけど、こないだ僕が『アメトーーク!』(テレビ朝日)でこの話をしたら、それ以降ショーンさんのアカウント名が「ショーン 巨人の村村長」に変わったんですよ。

──森本さんがあれが芸人としての初舞台だったなと思うのはいつですか?

森本 うーん……。大学お笑いの大会もありましたけど、基本的にお客さんもお笑いサークルの人たちなんですよ。養成所ライブも、お笑い好きは来なくて、養成所生の友達ばっかりで、初舞台っぽくないですし……。

お抹茶 ほぼ身内だから、お客さんの笑い方も普通のライブと全然違うんですよね。

森本 そうそう。普段お笑い見てない人が来るから、とにかく元気でわかりやすいネタがウケるんです。当時は養成所ライブのランキングで一喜一憂してたけど、今思うとあれは芸人としての評価とはそこまで関係なかった。

自分の色を出したネタをやる人のほうが、プロになったときはウケるんですよ。今でこそ客観的に見れますけど、当時はそういうのもわかってなかったなぁ。……結局、初舞台って覚えてないですねぇ。

コンビ時代のトンツカタンは兵士だった

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──櫻田さんとお抹茶さんの初舞台は、おふたりが組んでからになりますよね。

櫻田 いや、僕の初舞台は幼稚園のときで演劇をしたんですけど……。

森本 さかのぼりすぎだな! お笑いの初舞台だから。

櫻田 宿屋の主人役をさせてもらって。

森本 続けるのねぇ。

櫻田 「もう泊まれないよ」みたいなセリフでしたね。

森本 なんで満室なんだよ。

──櫻田さんはそのとき人前で表現をするのが好きだなと気づいたとか?

森本 無理して広げなくてもいいですよ。

櫻田 でも……緊張してたのかなぁ。ちょっと覚えてないですね。

森本 そりゃそうだろ。

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──その後も人前で発表したりパフォーマンスしたりする子供時代でしたか?

櫻田 普通の人よりは、やってたほうですね。中学生のときは学年集会で、サッカー部の人とお笑いっぽいことをしました。高校では生徒会長だったんですけど、毎回の挨拶では笑わせてやろうと思ってましたね。人前で何かすることへの抵抗はなかったです。

──今の寡黙な雰囲気からは想像できないくらいサービス精神があるというか。

櫻田 意外とそうですねぇ。あと、生徒会長のときに、文化祭でいきなり坊主にしてみんなの前に出て笑いを取ったんですが、実はお抹茶もそれと同じことを高校生のときにしたらしくて。

お抹茶 そうですね。僕は野球部だったんでもともと坊主だったんですけど、さらに短い5厘カットにするという気づかれにくいボケをしました……。

櫻田 「坊主はおもしろい」という感性が、お抹茶と僕で一致してるんですよね。

お抹茶 だから一緒に芸人になったのかもしれない。……あれ、なんの話だっけ?(笑)

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──初舞台の話でした。ふたりのトンツカタンの初舞台は覚えてますか?

お抹茶 初舞台は『キングオブコント』が先なのかな……。でもその前に出たテレビ番組『芸人たまご ~人力舎的お笑い芸人の育て方!?~』(フジテレビONE)が初めてかもしれないです。人力舎の先輩が講師として来て、そこでネタ見せして、合格したら出演できるという。

──最初がテレビだったんですね。

お抹茶 はい。それこそ森本のコンビも出てて。そのあとキングオブコントがあって、養成所ライブだったと思いますね。

──キングオブコントはどんなネタでしたか?

お抹茶 アメリカ軍のネタじゃないっけ? 櫻田が考えたやつ。

櫻田 あぁ。アメリカ軍に自分の母親が殺されるってネタで……。

森本 そんなネタ受かるかぁ!

櫻田 息子役のお抹茶が会話の中で英語を使うたびに、父親役の僕が仏壇の前で「ごめんなさい」って手を合わせるという……。

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お抹茶 あれ、それだっけ……? 『アメリカ軍』のネタ2個あるな……。

櫻田 そうだった。

お抹茶 アメリカ軍の格好でランニングしながら「アイ・アム・ナンバーワン!」って言うネタ。櫻田が教官役で……。

──『フルメタル・ジャケット』みたいな。

お抹茶 いい感じで言うとそういうことですね(笑)。でも全然ウケなくて、とにかく緊張したのはなんとなく覚えてます。初めてだったので基本に忠実にとにかく大きな声を出すことだけを意識して。

森本 大きな声出すだけじゃ、軍人のシゴキなのよ。

お抹茶 教官の指示にとにかく従い、音が鳴ったらすぐ退散っていうコントでした。

森本 ひとりの兵士としてキングオブコントに挑んだんだね。

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トンツカタン
森本晋太郎(もりもと・しんたろう、1990年1月9日、東京都出身)、お抹茶(おまっちゃ、1989年9月26日、埼玉県出身)、櫻田 佑(さくらだ・たすく、1989年9月4日、秋田県出身)のトリオ。2012年に結成。2016年、『第7回お笑いハーベスト大賞』優勝。『キングオブコント2021』では、5大会ぶりに準決勝進出。「聞くトンツカタン」(ラジオアプリGERA)は毎週日曜20時に配信中。『トンツカタンOfficial YouTube Channel』でネタ動画を随時アップする。
2022年1月7日(金)、東京・北沢タウンホールで新ネタライブ『新年のトンツカタン』を開催。会場チケットはLivePocketにて、配信チケットはZAIKOにて販売中。

文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽

【前編アザーカット】

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【インタビュー後編】

トンツカタンの向き合い方「各々のがんばりで未来とチャンスつかむ」|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#9(後編)

 

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>