板橋ハウス、ルームシェアのきっかけは「お笑いが足りてなかったから」|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#14(前編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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お金のない若手芸人にとって、ルームシェアは打ってつけだ。最近は「ルームシェア芸人」がメディアに取り上げられることも増えた。

そんななか「お笑いが足りてない」危機感でルームシェアを始めた3人がいる。「板橋ハウス」だ。
彼らが何気なく始めた動画投稿がバズったのは2021年の初め。それからわずか1年半でYouTubeの動画総再生数は1億9千万回を超えている。

なぜ彼らの動画がこんなにも人を惹きつけるのか。動画初投稿からバズるまで、さらにはルームシェアのきっかけや今後の目標を聞いた。

若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

初動画は7いいね…しかしバズはすぐにやってきた

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左から:竹内智也(ピュート)、吉野おいなり君(めぞん)、住岡遼太(軟水)

──最初に動画を上げたのはいつごろですか。

吉野 2020年の10月に同居を始めて、2カ月くらい経ってからですね。

竹内 でも撮ってない間も、動画で出してるのと同じことしてた。まったくカメラを回さずにただ時間を浪費するという(笑)。

吉野 部屋から出ようとするんだけど、そのまま扉閉めて「いや、出ろよ!」っていうのをマジで朝5時くらいまでやってたんで、さすがにこの不毛な時間ヤバすぎ!ってなって撮りました。

住岡 でも最初の動画が7いいねしかつかなかった。

吉野 僕が提案したやつですね……。大喜利でスベったら服着たまま風呂に飛び込むっていうので。これ絶対バズると思ったんですけどね……TikTokの厳しさを知りました。

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──最初に手応えを感じたのは?

吉野 2021年の1月に初めてバズったときですね。

──挫折からバズまで早いですね。短い期間で試行錯誤を重ねた?

バズるまでは1週間に1本上げればいいほうだったので、実質4〜5本目ですね。「コンビニに絶対行く」っていうやつです。

吉野 正直これは来ないだろうって思って上げたんですよ。

住岡 僕と吉野で撮ったんですけど、「これおもろい?」って思ってましたね。

吉野 俺も同じ気持ちでした。何がバズるのか本当わかんないんですよね。

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──板橋ハウスは当然笑いが軸にあるんだけど、この3人と一緒にいたら楽しそう、仲間に入れてほしい、と思わせる力を感じます。

吉野 うれしいですね。幸せ空間に引き込むをコンセプトにやってるんで。

住岡 そうだったん?

竹内 そういう大事なことは先に言っといてくれ。

吉野 これからはそういうつもりでお願いします。

──板橋ハウスでいけるかもっていうのは、バズってから?

吉野 そうですね。更新頻度を増やそうと思いました。でも同時に、あんまり本気でやると、行き詰まったときに、3人の関係性が悪くなったらイヤだなと思ったんで、本気でやらないことは意識してます。

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──運営は主に誰の担当ですか。

住岡 吉野ですね。企画系はだいたいやってくれる。

竹内 「これ大丈夫か……?」って思ったやつがちゃんとバズるんで、文句言わないようになりました(笑)。

吉野 僕も「これ大丈夫か?」って言って、ふたりも「大丈夫か?」って顔して、でもバズって。何が何やらみたいなときが多々ありますね(笑)。

住岡 たまに僕と竹内のふたりで撮るときもあるんですけど、「これ大丈夫か?」って上げた結果はいつも全然ダメですね(笑)。

吉野 でも、編集はふたりがやってくれてたよね。

竹内 もともと僕がやってて、スミに教えてふたりでやるようになって。

住岡 でも、最近は知り合いの作家さんにお願いさせてもらったりしてます。

カジサックの導きで、吉本芸人は動画で稼げるように

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──ネタ作りというか企画は吉野さんがやられていて、収入はやっぱり変わるんですか?

竹内 そこはきれいに3等分ですね。

──ちなみに会社との配分はどれくらいになるんですか。

竹内 会社に2ですね。意外と割がよくって。

吉野 カジサック様のお導きで。

竹内 あの方が、芸人がYouTubeで食べていく道を舗装してくれました。

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──お金もきれいに3等分したり、TikTokやYouTubeを本気でやらなかったり、それが続く秘訣なのかもしれないですね。

竹内 たしかに。がっちり仕事な気がしてないです。そもそもバイト辞めれるくらいのお金がもらえるだけでありがたい。

吉野 がっちり仕事になったら、全部のアカウントを消します。

──家賃とかも経費で落ちそう。

住岡 お金のことすごい聞きますね!(笑)

竹内 どうなんですかね。普通に払ってますよ。一回僕が全額払って、2〜3週間遅れでふたりが渡してくれます。

住岡 またまたぁ〜。

吉野 でもそうですね、お金のことで仲悪くなるんだったら、家を解約します。

竹内 払えばいいんだよ!

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──雲行きが怪しくなる前に、お金の話は以上です(笑)。ちなみにバイトも辞めたとなると、家でも劇場でも一緒の時間がすごく長いですよね。

住岡 そうですねぇ。

竹内 最高ですねぇ。

──たまに息が詰まることもありませんか。

竹内 全然。

吉野 ないですね。楽屋で見つけたらうれしくて近寄っちゃいますね。まさかの現象です。

住岡 僕は次のライブもあったから行かなかったですけど、この前ふたりでサウナ行ってました。

吉野 ははは(笑)。一緒にライブ行って、ライブ出て、楽屋で遊んで、終わったあとサウナ行って。

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竹内 サウナ行く前はメイド喫茶も行きましたね。

吉野 サウナから帰って板橋ハウスの配信もしました。

住岡 ずっと一緒。だいたい僕がなんかある日に、ふたりが「なんもなーい」って遊びに行ってるから、いいなぁって思ってます(笑)。

竹内 俺とスミは謎の居酒屋ふたりで行ったよ。

住岡 行ったなぁ、鳥貴(族)くらいうまくて、鳥貴くらい安い店。

吉野 それはもう鳥貴じゃない?(笑)

ルームシェアのきっかけは「お笑いが足りてなかったから」

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──そもそも3人は同じ神保町よしもとで活動する芸人です。一緒に住むようになったのはいつからですか?

竹内 最初は僕と吉野が、僕がもともと住んでいた家の近くの駐車場で2時間くらいお笑いの話をしたんです。

吉野 3時間だな。

住岡 どっちでもいいなぁ。

竹内 そこで足りてないよなっていう話になりまして……。

──足りてない?

吉野 お笑いが。

竹内 足りてないよなってことで24時間お笑いをしたほうがいいという話をして。結局ルームシェアしてるヤツのお笑い力は強いよなって話になり、24時間お笑いをしたほうがいいということで、僕が住岡を誘って……。

吉野 そこ本当なんで!?

住岡 竹内と俺がそれぞれひとり暮らししてたんですけど、同期と遊ぶときとかにお互い必ずおったんですよ。それで自然と一緒に住むかって話になった。

竹内 うん。あと、イメージですけど、吉野が生活をともにするってなると、まともに話が通じなさそうで困るなと思ってたんです。

吉野 「住むのはごめん、ムリ」感はたしかに出してたなぁ(苦笑)。

住岡 でも、僕と吉野は昔一時期ルームシェアしてたんです。「あんなにどこでも眠れる男、吉野しかおらんかぁ」と思って、家賃負担を減らすために誘いました。

吉野 前のルームシェアのときは1.5畳くらいの部屋で寝起きしてました。

住岡 盛りすぎ(笑)。3畳くらいはあったよ。

吉野 でも窓なしの独房みたいな部屋でしたよ。電気消したら完全な黒になる部屋。でもそれも苦じゃなかったんで、そういうところを買われたって感じです。住む部屋はこだわらないけど、家賃はみんなと同じ額払うヤツだから誘われた。

住岡 たしかに(笑)。

吉野 2LDKでひとりリビングで寝なきゃいけない部屋で。ちょうど僕がなんでもいい人間だったからよかった。

動画を撮る前からずっと同じようにふざけてた

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──プライベートな空間はなくて大丈夫?

吉野 僕は全然大丈夫なんですけど、むしろ住岡がリビングに人がいるのをイヤがる感じです。

住岡 家自体が変な作りで、リビングから直でお風呂なんですよ。風呂出ると、吉野が寝てる真横で体拭く感じになるんで、気色悪っ……って。

竹内 あれはたしかにイヤだなぁ。

──そして竹内さんは念願の24時間お笑いできる環境を手に入れた。

竹内 うれしかったですねぇ。本望でした。理想どおり、最高でした。

吉野 すごいうれしそう(笑)。初ルームシェアなんだよね。

竹内 そう。

吉野 住み始めたばっかりのとき竹内、ずっと「楽しいなぁ……」って言ってた。

竹内 「毎日修学旅行みたい!」とか言ってな。

──いつもシラフ?

竹内 吉野と住岡が飲めないんで、そうですね。

吉野 完全なシラフですね。ボケ続けて、竹内にツッコんでもらう。

竹内 普段と変わらないまま、動画回してるだけなんです。だから苦じゃないんですよ。本当にただの遊びです。

板橋ハウスでドラマに出たい

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──板橋ハウスの今後の運営方針ってありますか。

吉野 特にないですねぇ。

住岡 現状維持。

竹内 こんな感じで続けられれば。

──収入も安定して引っ越したくなりません?

吉野 いや、全然!

住岡 ははは(笑)。

竹内 僕らが背伸びして急に引っ越したらみんな引きますよ。

住岡 この状態もいつまで続くかわからないしな。

吉野 それに今のところこの家が最高なのよね。

住岡 騒音出してもいい物件っていうのはでかい。

吉野 外が信じられないくらいうるさくて。高速道路も近くて、窓開けると眠れないくらいです。

──3人がそれぞれ売れて、一緒に住めなくなるまでは一緒にいそうですね。

住岡 たしかに。

吉野 でも寂しすぎるんで、その日のことは考えたくないですね。もしそうなってもこの部屋は絶対契約し続けます。

竹内 そうなの!?

吉野 各々信頼できる後輩をあそこに住まわせて管理してもらう。

住岡 せっかくだから動画も撮ってもらって。

吉野 どこにも上げずに、僕らだけで観ます。

竹内 怖っ!

──3人でトークライブもされてましたが、たとえばユニットコントライブをやることはないですか?

竹内 照れちゃうかもしれない……。

吉野 けっこうやりたくないなぁ。

住岡 恥ずかしい。

竹内 こっちから「板橋ハウスです!」ってステージには上がりたくないですね。

──3人でネタ番組出てくださいってオファーもいつか来そうですが……。

竹内 あぁ……ギリ断るかもしれないです!

吉野 そうっすねぇ、いろいろ考えて、結果断る(笑)。

住岡 ドラマなら出たいですね。

竹内 それいいね。

──『健康警察』をドラマ化とか……

竹内 僕ら主体のドラマですか!? それは断るかもしれない、荷が重すぎるんで。

住岡 ちょい役で出るのに憧れますね。

吉野 それならめっちゃうれしいですね。板橋ハウスの当面の目標はドラマに出られるくらいまでいくってことですね。

板橋ハウスが注目され、コンビにもチャンス

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──3人ともそれぞれコンビで漫才やコントをしていますよね。コンビ格差が出てこないですか?

住岡 お金に関しては正味あります。

吉野 でも板橋ハウスがあることでのデメリットはないよねって相方が言ってくれてて、ありがたいです。YouTubeとかTikTokを観て、劇場に来てくれるようになったお客さんもいますし。

竹内 僕のコンビは「ピュート」っていうんですけど、板橋ハウスきっかけの仕事もありました。神保町よしもと漫才劇場のYouTubeに上げてるネタ動画の再生回数が一番多いご褒美で、『ポップUP!』(フジテレビ)に出させてもらったんです。それも板橋ハウスのおかげで再生回数が伸びたんで、相方も喜んでました。

吉野 仲悪くなるとかより、注目してもらってる今がチャンスって感じで3組ともがんばれてます。

──3組とも賞レースにも挑戦されてます。

吉野 そうですねぇ。賞レースはいかついっすね。

住岡 がんばらなあかんなぁっていう感じですけど……しんどいです!(笑)

吉野 僕は「めぞん」っていうコンビで漫才やってるんで、当然M-1出てるんですけど去年は2回戦負けで。なのに、普段コントしてる住岡のコンビ「軟水」が、M-1で準々決勝まで行ったんですよ! あれでけっこう賞レースのこと嫌いになっちゃいましたね。

住岡 へへへへ(笑)。

竹内 嫌いになんかなりたくなかったのに。

吉野 そうですね。ちょっと嫌いになっちゃったせいか、今年M-1の予選が始まる8月に、主催ライブを3つ打つことになっちゃいましたね。

──無謀ですね(笑)。最後に、賞レースは売れるための正攻法だったと思うのですが、3人はTikTokとYouTubeという売れる方法をすでに手にされました。それによる心境の変化はありましたか。

竹内 ありました……というか僕はもともと賞レース一本じゃなくていいと思ってます。テレビも宣伝媒体として出られたらいいなと。それこそ東京03さんみたいに全国ツアーさせてもらえたらうれしいですね。

吉野 SNSで観てくれる人を増やして、コンビとしてもバズっていきたいですね。僕はインターネットというかSNSが好きなんですよ。コンビの漫才も切り抜き動画たくさん上げたりしてて。その延長線上でテレビも出させてもらえたらいいなと思ってます。

住岡 僕はよくあるパターンで賞レースで結果出して、テレビに出るルートを目指したいですね。最後の最後にベタな感じで申し訳ないですけど(苦笑)。

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板橋ハウス
202010月にルームシェアを開始した芸人3人組。吉野(よしの、199423日、福岡県出身、コンビ「めぞん」)竹内(たけうち、199516日、愛知県出身、コンビ「ピュート」)、住岡(すみおか、1993622日、大阪府出身、コンビ「軟水」)からなる。2022720日現在、YouTubeチャンネルの登録者数は39万人、総再生数は19千万回超。TikTokのフォロワー数は59万人。毎週土曜23時からYouTubeライブを行う。

文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽

【前編アザーカット】

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【インタビュー後編】

“裏板橋ハウス”は無理?個性的な相方を持つ3人の目指す場所|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#14(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>