「先輩を追い越したい」年間400本のライブをこなすブレイク前夜のコンビ・センチネルが目指す先とは|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#40

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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結成6年目のコンビ・センチネル。2020年のコロナ禍に誕生したコンビは、『ツギクル芸人グランプリ』や『ABCお笑いグランプリ』といった若手芸人の賞レースでファイナリストになった。

着実にステップアップし、大きな初舞台を踏んできた彼らは今、最初の壁にぶち当たっている。年間400本ものライブを重ねてきたセンチネルだからこそ気づけた漫才の奥深さ。芸事の深淵を垣間見た彼らは、もがきながらも楽しんですらいるようだ。

事務所の先輩の活躍に励まされ、さらなる高みへと邁進するセンチネルのふたりが、初舞台から現在に至るまでを駆け足で振り返った。ブレイク前夜の貴重な証言である。

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初舞台は「どーも!」で飛んだ

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左から:大誠、トミサット

──結成はコロナ禍の初期、2020年7月ですね。

トミサット そうですね。初ライブもアクリル板かマスクつけてやってましたね。

大誠 一発目は『モータースLIVE』でした。「新しいコンビ組んだんなら出ろ」ってヤマザキモータースさんが出させてくれて。トップバッターでね。

トミサット 前のコンビで勝ち上がってたし、正直余裕だろうと思ってたんですけど、不思議なもんでセンチネルとして初めて出ると緊張しちゃって。人間って今までの経験とかめっちゃリセットされるんですよね。ネタ飛んだもんね。

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大誠 それは富里がすげぇ厳しかったせいですよ。ネタ合わせで最初の「どーも!」を20回以上やらされましたもん、「キーが違う」って。

トミサット いまだに違います。

──ははははは(笑)。

大誠 いざ舞台上がったら「どーも!」の次のセリフから台本1ページ分くらい飛ばしたんですよ、「どーも!」の練習しすぎたせいで。

トミサット 上位3位までが上のランクに行けるライブでしたけど、ギリギリ通過って感じでしたね。

大誠 コロナで平場もなかったから、新コンビとしてイジってもらうこともなくて初舞台感はあんまなかったかも。

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トミサット 本当に新人になったような感じだった、全部ゼロになった。

──ネタはどうやって作ったんですか?

大誠 最初から富里が作ってきてくれましたね。

トミサット 作るっていっても箇条書きのメモを伝えていく感じですけどね。いいツッコミが出てきたらそれでお願いします、みたいな感じです。

──センチネルとして軌道に乗ってきたと感じたのはいつごろですか?

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トミサット 2021年の『ABCお笑いグランプリ』で準決勝に残れたんですよ。そこで「あれ、俺たちおもしろいの?」って思いました。

──結成2年目で準決勝はすごいですね。そこから着実に賞レースの成績も上がっている印象です。

大誠 たしかに一つひとつ確実に進んでるなっていう感じですね。

トミサット ずっと「去年より絶対おもしろくなりたい」「1年前と同じことしてちゃダメだ」っていう気持ちはありますね。

田中みな実と仮屋そうめんの言葉

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──2022年には『ゴッドタン』の「この若手知ってんのか!?」で紹介されましたね。

大誠 『ゴッドタン』はマジで追い風になりました。あそこからライブでも「応援されてる!」って感じるようになって。

トミサット 先輩がイジってくれるようになりましたね。東京のライブシーンは優しい先輩が多いんで、ムチャブリとか少ないんです。でも『ゴッドタン』でアレだけできるなら大丈夫だろうってイジってくれるようになった。

──そもそも『ゴッドタン』に出られたのはなぜだと思いますか?

トミサット 前のコンビが解散して悩んでるときに、青色1号の仮屋(そうめん)さんに「すぐ過去になるから、気にしないでガンガンやったほうがいいよ」って言ってもらえて吹っ切れました。

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──仮屋さんってそういうこと言うイメージないからよけいカッコいいですね。

トミサット 言ってくれましたね。僕が「前のコンビのイメージがなまじあるんで、この先どうするか迷ってます」って言ったら「お前が思ってるよりまわりはお前のこと気にしてないし、ライブシーンも早いからすぐ過去になるよ」って。実際、仮屋さんも前のコンビがめっちゃ調子よかったのに解散したけど、青色1号で上がってるところで。

──説得力ありますね。

トミサット それに、ライブのお客さんって一期一会だから、一回一回を大事にしないとダメだなって気づいたんですよ。それまでは正直ちょっと手抜いてるときもあったんですけど、毎回爪あと残そうってがんばるようになりました。そしたら先輩に「お前がんばってんな」って言ってもらえて。それが『ゴッドタン』につながりましたね。

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大誠 前に出てくれるのは頼もしいですね。富里って前のコンビのときは引き気味だったんですよ。

トミサット 性格的には引きのほうが合ってるんです。

大誠 アフロにサンダルだった芸人が「引きのほうが合ってる」って言っても説得力ないけどな。

トミサット ピンのころ、一度だけテレビに出させてもらったんですよ。そのとき田中みな実さんに「サンダル、ケガしますよ」って言われちゃって……。

大誠 はははは(笑)。

トミサット あれはターニングポイントでした。自分ではキャッチーなキャラクターだって思ってたんですけど、サンダルは大人として恥ずかしい格好なんだと気づきました。それで靴を履くようになりましたね。

ライブ年間400本の処世術

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──『ゴッドタン』以降も、2024年は『ツギクル芸人グランプリ』、2025年は『ABCお笑いグランプリ』で決勝に進出しています。若手の登竜門といえる大会で、一定の成果を出せている理由はなんだと思いますか。

トミサット 新ネタライブをひたすら欠かさずやってきたのは、結果につながってるのかもしれないですね。

──ABCでは年間400本ライブに出ていることがフィーチャーされていました。

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トミサット 専用の劇場がある吉本興業とは違って、太田にいる僕らが年間400本出てるのはすごいことなんですよ。ネタがおもしろいのはもちろん、社会性もあるからできることなんです。僕らがいかにロビー活動をがんばっているか!

大誠 まずはあいさつ!

トミサット 主催者に点呼取られたときに返事をする!

大誠 「よろしくお願いします!」

トミサット で、出番をトチらない。平場を一生懸命盛り上げ、主催者と仲よさそうな芸人がボケたら手を叩いて大笑いする。ライブのエンディングもダラダラせずに率先してはける。でも必ず告知はする。「ほかの芸人とは違うんだぞ!」っていうところを、ABCさんには強調してほしかったですね!

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大誠 言いすぎだろ!

トミサット これは事実だから。太田プロっていう第三勢力で劇場もないなかがんばってるのが一番カッコいいんだよ。

──2023年にスタートしたフジテレビの『ハチミツ』シリーズでも、活きのいい若手芸人がたくさん出ている中で、センチネルさんは爪あとを残してましたね。

トミサット あれでバラエティを学んだというか。若手がたくさん出てる中で「次の『めちゃイケ』(めちゃ×2イケてるッ!)になるために生き残らなきゃいけない」って必死でしたから。流れを壊してでも前に出ていかなきゃいけない。本当にまわりを押しのけていくんです。「ちょっと様子見て前に出よう」なんて考えてたら先にやられちゃう。みんなの野心が渦巻いていましたね。

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大誠 全員“かかって”た。

トミサット あそこでは吉本の団結力も見せつけられました。9番街レトロさんとか生ファラオさん、マリーマリーさん……。もちろん個の強さもめっちゃありますけど、チームプレーでほかのプレイヤーをつぶすんですよ。僕はその流れに乗るんじゃなくて、別のところで使われるようにしようってがんばりましたね。

大誠 僕は太ってるだけで終わってる回がたくさんありますね。気づいたら終わってる。いろいろ考えるキッカケにはなりましたね。あんまりいい思い出はないっすけど(苦笑)。

漫才の所作が足りてない

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──着実にステップアップしているなかで、『M-1グランプリ』だけが3回戦止まりなのが気になります。どう自己分析されていますか?

トミサット シンプルにネタの構成力は課題ですね。あと、僕らのキャラクターだとお客さんが気になるところが多いんですよ。なのにそこをカバーできてない。前に『有吉ベース』に出させてもらったとき有吉さんに「お前は顔でハードル上げすぎてるよ」って言われたんです。

──ふたりとも見た目にインパクトがありますもんね。

大誠 でも僕らはそう思ってなかったんです。僕はただ太ってるだけだし、富里もアントニー(マテンロウ)さんとか、植野(行雄、デニス)さんみたいにハーフっていう個性を使わないし。

──たしかにトミサットさんはネタの中に出自の要素をあんまり入れませんね。

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トミサット 自分が軸になっちゃダメだっていうのはずっと思ってました。これからの時代、ハーフキャラのイジり方もどんどん変わっていくだろうなと思ってたんで、俺がフロントマンになるようなコンビは通用しなくなるだろうと。そもそもハーフ芸もアントニーさんたちにやり尽くされてるので勝ち目はないですし。

でもそれを意識しすぎて、お客さんからすれば僕らの見た目が引っかかるってことを忘れてたんです。自分たちのネタがお客さんを置いてきぼりにしてることにはABCの決勝で気づきました。僕らは初めて見る人に不親切だったんです。

大誠 マジな話をすると、所作も全然できてないなって痛感しましたね。僕らが普段やってる小っちゃい劇場と、M-1の予選とかテレビのスタジオって全然環境が違うんですよ。実際、普段のライブだとマイクが入ってない会場もあって。そういうのに慣れてるとサンパチマイクをうまく使えなくなる。

トミサット 去年のM-1の3回戦も、マイクから離れると声が聞こえないって言われてました。会場のうしろまで声が届いてない。そういうところは改善したいです。

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──細かなテクニックの点で、まだ適応できてない。

大誠 そうなんですよ。僕でいうと富里が動いてるときの自分の所作を全然意識できてなかった。富里に集中してほしいから動かないようにしてたけど、動かないなりに富里を目立たせるための所作があるはずだなって。そのへんは全然足りてないです。あとはシンプルに落ち着きがないですね。ABCはふたりしてガッチガチだったから。

トミサット 客席の浴衣の女の子たちが怯えてたもんな。

大誠 なんかコイツらミスってんだけど……みたいな(笑)。「どーも!」から「ありがとうございました」までの所作、舞台の使い方が課題ですね。

トミサット やっぱり適切な「どーも!」を出すところからですね。待ってるんですけど。

大誠 そっか、まだ始まってなかったのか(笑)。

先輩を追い越したい

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──最後に、この先踏みたい「初舞台」を聞いてもいいですか。

トミサット ドベタですけどM-1決勝です。青色さんが『キングオブコント』の決勝に行って高みを見せてくださったんで、俺たちも続きたいですね。っていうか追い越したい。

──たしかに青色さんの活躍を見て、いよいよ太田プロの若い世代が活躍する時期が来るのでは、と思いました。

大誠 太田プロの養成所出身の芸人が賞レースの決勝に行くのは初めてだったんですよ(「太田プロエンタテイメント学院」は2009年開設)。

トミサット これ、すごいことですよ。

大誠 僕、青色の榎本(淳)さんと一緒に住んでますけど、準決勝から帰ってきた日なんて家の中でスキップしてましたから(笑)。

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──そしてセンチネルは何年以内にM-1決勝に行くイメージですか?

トミサット もちろん今年行きたいですけど……。

大誠 でも今年のABCで負けたとき「再来年優勝します!」って言ったよな? そうなるとM-1はもっと先のイメージだけど。なんで来年じゃないんだっけ?

トミサット ABC的には来年は俺ら無理だから。僕はABCファンなんで傾向がわかるんです。だから来年はツギクルを獲って、再来年ABC。まぁ今年M-1で決勝行ったらツギクルもどうなるかわかんないけど。

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──M-1は芸歴制限がありますが、センチネルは同期よりも結成が遅いので、ラストイヤーはまだ先ですよね。

トミサット でも同期がいるうちに優勝したいですよ。

大誠 そうですね。あと、単独ライブをどのタイミングでやるかも迷ってますね。やってみたい。まぁ焦ってやるものじゃないんで、ゆくゆくですけどね。

──単独ライブも首を長くして待ってます。今回はブレイク前夜のタイミングに取材させてもらえて本当によかったです。ありがとうございました。

トミサット この先とんでもなく落ちぶれる可能性もありますが……。

大誠 そんなこと言うなよ!

文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平

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センチネル
大誠(たいせい、1993年11月25日、埼玉県出身)と、トミサット(1993年4月13日、東京都出身)のコンビ。2020年結成。2024年に『ツギクル芸人グランプリ』、2025年には『ABCお笑いグランプリ』でファイナリストとなる。ラジオ『センチネルのラジオ&ピース』(GERA)は毎週木曜日20時に最新回が配信。YouTubeチャンネル『チルチルセンチネル』も不定期更新中。

 

【後編アザーカット】

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