吉本芸人としてライブに目覚め、ネタを磨くシンクロニシティのこれから|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#38

2022年、シンクロニシティは社会人アマチュアコンビながら『M-1グランプリ』でセミファイナリストとなった。そしてプロの芸人として生きていくことを決断する。2017年の結成からわずか5年。社会人生活を送りながらプロの芸人たちに比肩する彼らは順風満帆に見えた。
しかし、いつも感情を排して無表情にボケるよしおかは、幾度となく「辞めたい」と口にしてきたという。
あれから3年が経とうとしている。吉本に所属したシンクロニシティは、劇場に立ち続け、単独ライブも打ち、精力的に活動する。芸人を辞めたかったのに、お笑いを続けられたのはなぜなのか。
シンクロニシティの歩みを、ふたりの言葉で振り返る。
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「本当に辞めたいです」

左から:西野諒太郎、よしおか
──社会人として働きながら、どうやって芸人活動をしていたんですか?
よしおか 最初のころは毎週土日、ライブに出てました。でも私が「しんどいな、なんでこんなに出なきゃいけないんだろう。休みたい」って思っちゃって……。
西野 ライブは月1回になりましたね。基本は『M-1』と『キングオブコント』の予選のために出てました。大学時代のつながりでライブに出させてもらって、魔人無骨(現・令和ロマン)、ナイチンゲールダンス、XXCLUBとかと一緒でした。
よしおか シンクロニシティとしての実績はなかったから、そのライブもいづらかったですよね。
──よしおかさんは「M-1で前年の結果を下回ったら解散します」と宣言していたそうですね。ネタを書いてる西野さんは、プレッシャーを感じませんでしたか?

西野 いや、僕と組んでくれた感謝のほうが大きかったんですよね。僕らが組んだとき、まわりから「よしおかさんは絶対、前のコンビのほうがいいのに」って言われてて。
よしおか 全員言ってましたね。
──よしおかさんは前のコンビで、大学生ながらM-1の準々決勝まで行ったわけですもんね。
西野 でもよしおかさんは「前のコンビのほうがいい」って声を全部「そんなことないですけど」って突っぱねてくれたんです。幸い、2017年は3回戦、2018年から2020年までは準々決勝まで行ってたので、下回ることはなかったですしね。

よしおか でもけっこう毎年辞めたかったです。3回戦まで行ったときは手応えを感じましたけど、それからは準々決勝で毎回スベり散らかしてたので。
西野 2020年の準々決勝終わりに「本当に辞めたいです」って言われました。
よしおか そしたら西野さんが「2年後には準決行くんで待ってください」って。
──すごい。有言実行じゃないですか。
よしおか 今思うと、あの自信ってどこから来てたんですか。
西野 なんにもないです。ただの延命措置、もっともらしく言っただけです(苦笑)。でも、よしおかさんは、毎回スベり散らかしてたって言いますけど、2020年はややウケはあったんですよ。だから2年後には僕らに順番が回ってくるかもってうっすら予感してました。
ネタは完成品を渡さないと失礼

──しかし2021年は、M-1もキングオブコントも出場してません。
西野 半年くらい、コンビ活動を休んでたんです。
よしおか お笑いじゃなくって仕事がつらくてちょっとお休みしてました。
西野 でも2021年に休んだことで、2022年は準決勝に行けたんです。休んだおかげでいいネタが溜まったんですよ。それまでは強いネタを2本そろえることができなくて、なんとか3回戦は突破できるけど準々決勝でスベる。
──3回戦と準々決勝で、同じネタをかけるわけにはいかない?
西野 3回戦の動画って全員アップされるからバレちゃうんですよ。だったら準々は、弱くてもまだ知られてないネタをやったほうがいいなって。今年から3回戦を勝ち上がったコンビのネタ動画はYouTubeに上げないらしいんで、当時もこのシステムだったら、もっと早く準決勝行けてたかもしれないです。まぁみんな同じ条件だから、わからないですけど。

──働きながらネタを作るのは大変ですよね。
西野 そうですね、ネタの案自体は、毎年100本くらいできるんですけど、月1回しかライブに出られないから、厳選した2本を叩くしかなくて、そこが大変でした。
──98本分のネタの種は、ストックしてるんですか。
西野 むしろ使ってないネタのほうがいい可能性もあります。前に一度捨てたネタをちらっと芸人仲間に話したら「それやれ」って言われて。結果、そのネタで初めてテレビに出られたんですよ。自分にはネタを客観的に見て選ぶセンスがないかもしれない。
──珠玉のネタが眠ってたらもったいないですね。よしおかさんに全部伝えないんですか?
西野 いや、よしおかさんには完成品を渡さないと失礼だと思うんで、全部は見せないです。生煮えの状態で相談しても「いやいや、考えてから来いや」って思われちゃう気がします。いや、実際によしおかさんがそんな言い方をしたわけではないんですけど。

よしおか たしかに今はネタ作りで活発にコミュニケーション取ってるわけではないですね。昔は「違うな」って思ったら削除してましたけど、今は全然ないです。
西野 よしおかさんのツボは、だいたいつかめてきました。
よしおか いや、でもちょうど昨日見せてもらったコントのネタは、ちょっとイヤだなって話しました。そのネタは私が高圧的なボケをしないといけないので、モラハラキャラはあんまりやりたくないって。
西野 僕もすねちゃって「じゃあいいっすよ、もうやんないっすよ!」「僕だってがんばって考えたんですよ!」って言っちゃいましたね(苦笑)。9年目でそんなこと言うことになるとは。
よしおか いいよいいよ、やっぱりやろうよ。
西野 もうやんないっすよ!(笑)
吉本芸人としての初舞台はシークレット?
──2022年に準決勝に行き、翌年、吉本興業に入ります。会社員を辞め、プロの芸人になった。
よしおか そうですね。M-1の敗者復活戦でまぁまぁウケたので、その場でプロになろうって思いました。日本国民のみなさんに受け入れられなかったら、どうせ芸人になっても人気は出ないから辞めるつもりでしたけど。
西野 準決勝に行った段階で、「解散」と「プロ」が五分五分でした。決勝に行ってもどうだろうって感じでしたよね。まぁいい思い出にはなるかって。
よしおか あのまま決勝に行けちゃったら「社会人漫才師」っていう肩書になっちゃうんですよね。それはむしろどうだろうって。私が前のコンビで準々決勝に行ったとき「女子大生コンビ」で消費されそうになったのと同じだから。

西野 M-1で密着してくれるスタッフさんに「もし決勝行ったらキャッチコピーどうしましょう」って聞かれたときも「『社会人漫才師』は絶対に言わないでほしいです」ってお願いしてました。さすがに「それはムリだよ」って怒られちゃいましたけど(笑)。前のコンビのときから担当してくださってるスタッフさんで、関係性があるからこその会話でしたけど。
──事務所に所属するのではなく、フリーでやるという選択肢はなかったんですか?
西野 なかったですね。事務作業がマジでムリなんですよ。敗者復活戦まで行くと、可能性として誰が優勝してもおかしくないから、いろんな番組から出演オファーが来るんです。自分の個人のメールアドレスにたくさん連絡が来て、昼休み中に全部電話で応対するのが本当に大変で……これは自分がさばくのはムリだなと。とりあえず全部の番組に「大丈夫です」って言ってたら「別の番組と予定が被ってるみたいなんですけど……」って折り返しが来たんですよ。
──ダブルブッキングになっていたと。

西野 でも、ほかの芸人さんも物理的には同じ条件じゃないですか。だから「ほかの方々と合わせます」って言ったら、「あっちの事務所はうちの番組を優先してくれて、別の事務所はあっちの番組を選ぶんですよ」って教えてもらって、「いや知らねぇよ!」ってなっちゃって(笑)。大人の事情とか汲むのは苦手なので、それなら事務所に入ったほうがお笑いに集中できるなと思ったんです。
──吉本芸人としての初舞台は覚えてますか。
西野 それは完全に覚えています。2023年4月1日、新井薬師前駅にある「中野シアターかざあな」です。でもその日、吉本が創業110周年を記念して、チケット代110円のライブを全国の劇場で行ったんですよ。それで「4月1日はそのニュース一色にしたい」と言われて……。僕ら4月1日から所属だったのに、そのニュースの告知が翌日の4月2日になったんです。だから吉本芸人としての初舞台は、それを世の中には明かさない状態でネタをやってました(笑)。
よしおか ライブが終わってから「これからやっていけるのかな……」って漠然とした不安を覚えながら駅に向かいましたね。
M-1がすべてじゃない

──今、シンクロニシティは神保町と渋谷漫才劇場を主戦場にしています。2年経っていかがですか。
よしおか お客さんからもちょっとずつ受け入れてもらえて、今は楽しいです。
西野 最初のころは若いお客さんにハマらなくて、なかなか難しかったんですよね。新宿近辺のライブハウスとはだいぶ文化が違ってて。
──シンクロニシティの芸は、若い人にハマらないんですか。
よしおか 全然。
西野 学生のときからお年寄りのほうが得意でした。ずっと年上を笑わせようってやってきたので、自分と同世代かそれより下の人たちに向けてどうすればいいのか、わかんなかったんですよね。

よしおか アマチュアのころは賞レースに来るお客さんだけをターゲットにしてたんで、劇場に来るようなお客さんのことを知らなかった。前は賞レースに来るお客さんってちょっと年齢層が上だったんですよ。
西野 でも最近は賞レースのファンも世代交代して若返ってきてて、劇場と年齢層が被ってきてて。だから劇場でできるのはありがたいですね。
──ちなみに吉本所属後の2023年、2024年はM-1が準々決勝敗退となりました。昔のよしおかさんだったら、前年の結果を下回っているから「解散」ということになりますが。
よしおか 実際、吉本に入って最初のM-1では心折れちゃったんですよ。
西野 よしおかさん「辞めます」って言ってましたもん。2023年のM-1準々決勝の結果が発表されたのが、大阪で3泊4日、合計12本ネタをやるイベントのときだったんですけど、初日の1本目と2本目の間に「敗退」って結果が出て。よしおかさんはそこで「辞めます」って言い出した(笑)。

──よしおかさんはよく「辞める」と言っている印象がありますが……。
西野 このときはなんかもう本当に辞める予感がして、僕もホテルに帰ってからバイト探しました。結局、よしおかさんは辞めなかったわけですけど、そのまま宅配便の仕分けバイトを決めちゃったんで、3〜4カ月は働きましたね。
よしおか ふふ(笑)。まわりの芸人さんが本当にいい方ばかりで、「辞める」って言った夜も楽しく過ごせて、やっぱり辞めないって思ったんです。去年も準々決勝で落ちましたけど、今はもう「M-1がすべてじゃないな」って思えるようになりました。フリー時代はM-1だけがお笑いをやる理由だったけど、今は劇場にも立たせてもらえるし、単独ライブもできる。吉本に入ってようやく、心持ちが変わった気がします。
──よしおかさんの「辞めたい」気持ちも落ち着いて、これからますますシンクロニシティの活躍が楽しみです。直近でいうと、漫才とコントの両方で闘う賞レース『ダブルインパクト』でも準決勝まで行きました。西野さんはもともとバナナマンやラーメンズといったコント芸人に憧れて芸人になったそうですが、コントという武器も手に入れたら強いですね。

よしおか 単独ライブでも毎回1本だけやってて、ダブルインパクトでそれなりのところまで行けたのは自信になりました。
西野 でも僕は、コントには手応えがなかったので、もしかしたら漫才にとんでもなく高い得点がついてるのかもしれない(笑)。
──最後にこれから踏みたい初舞台について聞かせてください。
よしおか 私はルミネ(theよしもと)で単独ライブをやりたいです。
──やっぱりネタなんですね。
よしおか たしかにあんまり「メディア、メディア」とは思ってないです。
西野 ネタをがんばりたいですね。
文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平

シンクロニシティ
西野諒太郎(にしの・りょうたろう、1994年3月23日、東京都出身)と、よしおか(1994年10月2日、神奈川県出身)のコンビ。中央大学の落語研究会で出会い、2017年に正式結成。『M-1グランプリ2022』では、ともに会社員ながら準決勝に進出し、注目される。翌2023年4月から吉本興業に所属する。公式YouTubeチャンネル『これはシンクロニシティのチャンネルです』は随時更新中。ABCラジオ『がっちゃんこ』(26:00〜27:00)では、カラタチとともに水曜レギュラーを務める。
【後編アザーカット】




