ネガティブなことも全部エンタメで消化したい──イラストレーター・タレントとしての鹿目凛が描く“第二章”

鹿目 凛(かなめ・りん)
1996年9月21日生まれ、埼玉県出身。2014年にアイドルとしてデビュー。いくつかのグループを経て、2018年1月より2025年1月のエンディングまで「でんぱ組.inc」に所属。イラストレーター・漫画家の「ぺろりん先生」の活動でも名を馳せ、マルチな活躍を見せるクリエイターとしての顔も持つ。
2025年1月にエンディングを迎えたでんぱ組.incの元メンバー、愛称“ぺろりん”こと鹿目凛。所属していた事務所を6月に離れ、フリーランスとして活動をスタートさせた彼女が立ち向かう新しい挑戦について話を聞いた。アイドル時代を第一章とするなら、イラストレーター・タレントとして歩むこれからが第二章だという彼女にとって、今後描きたい未来はどのように彩られていくのか?
目次
フリーランスとしてイチから勉強──“飼い犬が森に放たれた”
──5月31日に事務所を退所されて、6月からフリーランスになられましたが、新しい一歩を踏み出された心境はいかがですか?
鹿目 ちょっとサバイバル的な感じで(笑)。今までアイドルとして、でんぱ組.incとして、事務所に守ってもらっていたというのがすごく大きいなと思っていて。でも、これからはそういうものも一切なく、自己責任になっていくから。飼い犬が森に放たれたみたいな(笑)。
──自由になった反面、不安が大きくなりますよね。
鹿目 はい。自分から動かないと本当にもう息絶えてしまうというのがあって。
──今日も現場にひとりで入られていました。これまではそういったことは少なかったですよね?
鹿目 そうですね。今までと違うことがいっぱいです!
──これまでと違うことがひとつ入ることで、また違う脳を使いますよね。これまでの自分とは違う一面が出てくるというか。フリーランスになってどんな気持ちが一番大きいですか?
鹿目 ワクワクな気持ちが大きいです。
──全部自分で決めなきゃいけない責任感もあるけど、それを含めても?
鹿目 そうですね。フリーだと全部自分の責任で、全部自分で決めて。あと、先方とのやりとりなども直接になったので日々勉強です。今まではマネージャーさんにやりとりをしてもらっていたので、そういった社会経験はすごく少なかったと実感しています。それも含めて楽しんでいます。

──アイドルをやられていたという部分で、ほかの人とは違う経験を積んでいるから、それは鹿目さんにとっての大きな武器だと思います。でも、謙虚な気持ちでイチから進められているんだなと思いました。少しは慣れましたか?
鹿目 ちょっとは(笑)。メールの書き方とか、「お世話になっております」という世の中で当たり前のように使われている用語にもだんだんと慣れてきました。
──ネットで調べながらですよね。
鹿目 最初はわからなすぎて「これをビジネス用語にして」とChatGPTに添削してもらったり(笑)。AIから学んで、「なるほど、こういうときはこういう書き方なんだ」って。
──ちゃんとひとつずつ確認しながら進められているところを見ると、まじめな性格なんですね。
鹿目 良くも悪くもまじめだと思います(笑)。ようやく社会人1年目のような気持ちです。
──フリーになって、一番大変なことってなんですか?
鹿目 ありがたいことに、いろんなお仕事をいただいていて。もちろん気持ち的には全部やりたいんですけど、「なんでもやるぞ!」というスタンスも持ちながら、ブランディングだったり、方向性だったり、スケジュールだったり……そういう全部のバランスを見て決めなきゃいけない部分は少し大変なところかもしれないです。なので、なんでもかんでもがむしゃらにやる、ではなく自分なりに一つひとつ向き合いながらしっかり考えることを大事にしようと日々思っています。
──これは正しいのか、と思いながら?
鹿目 そうですね。もともと良くも悪くもまわりがしっかり見えるタイプではないので。考えず突っ走ろうとする前に、ひと呼吸置かないといけないなと。
──アイドル時代とは違うジャンルの方とも関わりますし、いろんな意味で人を見る目を養っていかなきゃですもんね。
鹿目 はい。相手は自分の何に魅力を感じてくれて、何を求めてくれているのだろう?とか、そういうのもちょっとずつ見られるようになっていけるといいなと思っています。
──YouTubeチャンネル『ぺろりんチューブ』でおっしゃっていた、仕事で必要な資料をコンビニで印刷することなど、地道な作業も楽しめていると。
鹿目 昔はコンビニでコピーもできなくて。そういう事務作業も機械も苦手だったんですけど、なんとか自分でできるようになると「レベルアップした!」と、どんどんゲームをクリアした感じがして。苦手なこともゲーム感覚で楽しめるようになりました。

揉まれて揉まれて、レベルアップして──自分のことを好きになれた、アイドル時代
──もしかしたらフリーは向いているのかもですね。ここでいったん、これまでのアイドル活動を振り返れたらと思います。アイドル活動を10年間されて、改めてどうでしたか?
鹿目 “ザ・青春”でした。世間でいわれる青春は、学生時代のことが多いじゃないですか。私は高校3年生のときにアイドルを始めてから、今が28歳で。青春時代を延長してたっぷり味わえたような気持ちです。
──やってよかったなと思う瞬間は、振り返るとどんなことがありますか?
鹿目 たくさんありますが、一番は自分をちゃんと好きになれたことですね。もともとはすごくネガティブで、自分のことを大切にしているくせに自分のことは好きじゃないという、こじらせ系だったので。それでもどうにかして自分を変えたい、自分のことを肯定したいと思い悩んでいたときに、でんぱ組.incの存在を知って、自分を変えるきっかけとなるアイドルの世界に飛び込むことができました。そのおかげでこの10年間があって、いろんな人と出会って好きになれる自分を見つけられたことはすごく幸せなことだと思います。
──人生楽しくなってきますよね。
鹿目 すごく楽しくなってきました。
──きっかけとなった言葉や、誰かに言われて心に残っていることはありますか?
鹿目 言葉もたくさんありますが、ファンの方の行動や考え方からよい影響をもらうことも多いです。みんな自分の機嫌を取るのがすごく上手で。たとえば、どうしても行きたかったイベントの抽選に外れて参加できなかったとき、普通だったら落ち込むはずなのに、抽選漏れしたファン同士で別のイベントを開催しようよって集まって。最終的に「むしろこっちのほうが楽しいかもね」と(笑)。自分で自分の機嫌を取って、自分が楽しめる生き方を見つけるのが本当に上手なんです。
──そういう人を間近で見ていると、悩んでいることがちょっと軽くなるというか。きっとファンの方は鹿目さんの言葉を聞いたらうれしいはずです。今回、事務所に所属するというかたちではなく、フリーランスになる決断をされましたが、かなり迷いもあったのかなと思います。
鹿目 でんぱ組.incがエンディングに向かっていくにつれて、次に私は何をしたいのか、たくさん考えてたくさん悩むようになりました。事務所のみなさんにも相談をしていろいろ考えていただいたり、移籍候補先を挙げていただいたり。ただそのときは”本業をこれにするならココかな?”というふわっとした感じで、当たり前のようにどこかに所属するというアイデアしかなくて。
そんななか、スタッフさんに「このままも移籍もいいけど、フリーランスという道もアリなんじゃない?」と言われて。考えてもみなかったことなので、最初は全然イメージが湧かなかったんですけど、あるとき直感的に、フリーになるということと、漠然としていたやりたいことの数々が自然と混ざり合う瞬間があって。まさに何かが降りてきたような感じでした(笑)。

──結果、いい選択肢だったのかなと。これまでも自身の直感に従ってよかったと思うことはありましたか?
鹿目 アイドルを始めたてのときは、今よりずっと視野が狭くて知恵もなくて、感覚だけを頼って動いていたんです(笑)。そんな自分が気づいたらでんぱ組.incに入っていて。そういった意味では直感に従ってよかったと思います。ただそういう動きのせいで、まわりに迷惑をかけてしまうことも多くて。自分の”普通”が”普通”じゃないというか。そしてそこに気づくようになると、だんだんと動物的なトゲが丸くなっていって、逆に考えすぎて萎縮してしまった時期も長かったです。
でも、そうなると今度は自分自身の個性というか長所も消えてしまったような感覚があって。時間はかかりましたが、まわりの助けもあって、ようやく常識との境目も少しずつわかるようになってきた感じで。そこから直感力も少しずつ戻ってきましたね(笑)。
──レベルアップした上で、本来の自分を取り戻したんですね。
鹿目 いろいろありましたが、揉まれて揉まれて、脱出しました(笑)。学ぶところは素直に学んで、自分のよいところはしっかり認めて、人のよいところはちょっとでも吸収する努力をして……と、みんなのおかげです。
──鹿目さんは、まわりからどんな人って言われますか?
鹿目 風変わり……? そういうことじゃないですよね(笑)。なんだろう……応援したいって思ってもらえる。最近も、番組で初めてご一緒させていただいた方に「応援したくなる」と言ってもらえて。だから、そういうところがあるのかな?
──わかる気がします。人をそういう気持ちにさせる魅力があると思います。
鹿目 あと、元でんぱ組.inc最年少メンバーの高咲陽菜ちゃんに言ってもらって、うれしかった言葉があって。「ぺろさんは私のことを年下だからとか、そういうのを思わないで、ちゃんと意見を対等に言ってくれて、聞いてくれる。そういうところすごいと思います」と言ってくれたんです。年下だから年上だからとか仕事だからとかではなく、その前に人として見てくれているというようなことも言ってくれて。
──それは素敵ですね。年齢を重ねていくと、損得勘定で付き合いをすることもありますし。ちゃんと信頼し合えている感じがあって、うれしいですよね。
鹿目 すごくうれしかったです。
ブログ、マンガ連載 etc──“続ける力”の先にある、叶えたい夢

──鹿目さんのブログの中で「私の歌の成長は、歌での才能ではなく続ける才能が評価されたのだ(と解釈している)」とありました。logirlの連載マンガ『ぺろりん日記』もそうですけど、“続けること”って実は難しいことで。“続けること”は鹿目さんにとって意識的にしていることなんでしょうか?
鹿目 意識したりしなかったりですが、ブログに関しては、まず習慣になるまで根性で毎日続けてみようと(笑)。習慣になったあとで、しっかりと思いを届けるという目的と、ファンの方のコメントを励みに継続していきたいと改めて意識し続けた結果、アイドルとしてのエンディングまでちゃんと続けられたんだと思います。
以前、信頼している方から「義務感で継続することと、意図を持って継続することの先は全然違うよ」と言われたことがあって。そこから私もちゃんと取捨選択というか、何を目的として続けるべきなのかを考えるようになりました。どんなことでも続けることはもちろんすごいことなんだけど、私の場合はただ続けることだけにフォーカスしたら、すぐ甘えが出てしまってダメだと思って。
──心に深く刻まれた言葉ですね。やはり鹿目さんの“続ける”は、レベルが高いです。ブログを続けてきたことの先で、得たものはありますか?
鹿目 文章を書く能力が以前よりレベルアップしたと思います。上手な文章を書けるわけではないんですけど、伝えるための読みやすい文章を書けるようになった気がして。今でこそ読むようになりましたが、もともとそんなに本を読まないタイプだったので、あんまり文章を読めなかったんですよ。だから、私のように文章を読むのが苦手な人も読みたくなるような文章を書くぞ、と意識していました。
──そんな努力が! たとえば、どんな本を読まれていたんですか?
鹿目 最近は……特に妖怪図鑑を(笑)。最初のほうは手に取りやすかったので、自己啓発本をよく読んでいました。私は読んだだけで成功した気になっちゃうタイプなので、それに気づいてからは少し控えてますけど(笑)。
──振り幅がすごい。努力を見せないのは、恥ずかしさからですか?
鹿目 そうですね、恥ずかしさもあるんですが、爽やかに結果を出せる人に憧れるので。過程も大事だけど、結果だけを見て納得してもらえるように努力するスタイルが、自分には向いているなと。過程を評価してもらえると、私はそこで満足しちゃう気がして(笑)。
──なるほど。ここまで話を伺っていると、誰かの言葉をちゃんと受け止めて、すぐ吸収されていて、常に学ぶ姿勢がありますね。
鹿目 これは自分のために言ってくれているんだ、自分の成長のためになるんだ、と思いながら受け止めています。
──大人になると、受け止めることって難しいですよね。そしてlogirlでの連載も2年が経ちました。4コマで起承転結を描くことはもちろん難しいですが、エピソードはどういうときに思いつくんですか?

鹿目 本当に日常のシーンを切り取っていて。レポマンガに近い感じです。すごく継続しやすいテーマでやらせてもらっています。日常生活の中で、自分のこういう性格、やらかしも含め、イコールでおもしろいことが起きやすいというか。
──日常でこんなにいろいろなことが起きているんですね。
鹿目 そうなんです(笑)。ちゃんと全部実話です。
──締め切りギリギリに思いつく(起こる)ことが多いのか、起きた出来事のストックを溜めて小出しにしているのか、どちらですか?
鹿目 ストックしていた昔の出来事から消化するよりも、直近で起きたことのほうをなるべく選ぶようにしています。読者の方にはあまり関係ない部分かもしれないですけど、記憶が鮮明なほうがより伝わりやすいマンガになるかなと。
あとは日記というタイトルからも実体験が重要なので、行動的になったと思います。行動しないと物語って起きないから。
──人を楽しませようという気持ちがとても強くて、エンタメ精神がすごいです。イラストはもともと好きで描いていたと思うんですが、仕事になると向き合い方は変わりました?
鹿目 昔と比べて、特に線に気をつけて描くようになりました。もともとは趣味で美少女タッチのイラストを主に描いていたんですが、ヲタクイラストがバズってからは、デフォルメしたイラストばかりを描くようになったんです。当時は質より量という感じで、少し抜けている感じが味だと思ってそのまま出していて。たくさんの人に楽しんでもらえてよかったし、だからこその今があると思うんですが、アイドルという肩書がなくなってイラストレーターでやっていくぞ、となるとやっぱりまず絵が一番大事じゃないですか。
これまではアイドルが描いているから「いいイラストだね」と言ってもらえていた部分もきっとたくさんあっただろうなと。私のことを知らない人がイラストを初めて見たときに「おもしろいね」「いいキャラだね」「上手だね」と言ってもらえるようになりたいんです。logirlの連載も、初回から現在まで見直したら、全体もそうですけど、特に線はどんどん変わっていると思います!
──たしかに印象が違いますね。みなさんにもぜひ見返してほしいです。やっぱりイラストを描くことは楽しいですか?
鹿目 楽しいです。物心つく前から自然と絵を描いていたから。それが仕事になるのはすごくうれしいです。

──楽しんでできる仕事が一番幸せだなと思いますよね。logirlといえば、番組『でんぱの神神』も印象深いです。番組収録で記憶に残っていることはありますか?
鹿目 やっぱり旅行系のロケですね。でんぱ組.incのエンディングが決まってから、みんなで京都へ修学旅行に行ったこととか。おいしいごはんを食べて、屋形船に乗って──たくさん素敵な企画をしてくださって、ありがたいです。裏で支えてくださっていたスタッフさんの愛を感じて、グッときました。あと、USJとか。そういったごほうび企画は、感謝の気持ちも込めて特に思い出に残ってます。
──なかなかメンバーみんなで遊びに行く機会ってないですもんね。
鹿目 京都でみんなで夕ごはんを食べようとなったとき、スタッフさんに「食べながらでいいよ」と言われていたんです。けど、トークしないといけないからみんな食べものに手をつけないんですよ。めっちゃお腹空いているし、食べていいって言われたし……って、私だけこっそり食べてました。いまだに正解だったのかな?と思ってます(笑)。ひとりでエビの天ぷらをコソコソと。私が食べたからといってみんなが食べ始めるわけでもなく。私にそこまでの影響力はなかったです(笑)。
──(笑)。鹿目さんといえば、登山の山頂ビール回も印象に残っています。
鹿目 あれは初めてのひとりロケで、しゃべりながら登れるのか不安でした。ちゃんと番組として成り立たせることができるのかとか。ちゃんとしたきれいな言葉でのレポートはできないから、自分らしい表現で伝えていこうって。けど、楽しかったです。
──すごく楽しそうでしたよ。なんでしょう、鹿目さんの笑顔って元気になりますよね。つらいこととか大変なときってあると思うんですけど、鹿目さんが自分の機嫌を取るためにやっていることはありますか?
鹿目 今、自分に起きていることを映画にする──自分が主人公の映画作品にして、関わる方を登場人物にして、最後のシーンは全員が登場するハッピーエンドにしたいんです。アイドル人生は第一章で、今が第二章なんです。そう考えるとネガティブなことも全部エンタメで消化されるような気がして。バックでサントラが流れてるみたいな(笑)。そういうのがあるとネガティブなことも客観視できて、囚われずにいられるのかなって。
──素敵な考え方ですね。ゆくゆくは本当に自伝映画を作ってしまいそうです。第二章を歩み出されて、イラストレーター、タレントとして叶えたい夢を教えてもらえますでしょうか?
鹿目 まずイラストレーターとして、自分のメインとなるコンテンツを生み出さないといけないなと思っています。で、ショッピングモールでイベントしたいなと。子供から大人まで、幅広く好きになってもらえるようなキャラクターを作りたいです。
タレントとしては、CMに出たいです! 「ぺろりん売れたな」って思ってもらいたいですね。
──鹿目凛として、ひとりの人間としての夢はなんですか?
鹿目 自分が自分を、心からかっこいいと思える人間になることです。まだけっこう遠いんですけど(笑)。アイドルをやって少し近づけたんですけど、まだまだで。もっともっと近づけるようになりたいです。

取材・文=宇田川佳奈枝 撮影=まくらあさみ ヘアメイク=MAFUYU 編集=中野 潤

