栗谷が「幸せな朝」を迎えても勢いの衰えない強運コンビ・カカロニの次なる展開とは?|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#36

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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カカロニのふたりは、なぜか、朗らかとしている。そして、自信に満ちている。撮影中の佇まいを見てそう思った。

彼らがまとう、余裕のオーラ。その秘密を知りたくなった。

芸人の初舞台について聞くインタビュー連載「First Stage」。今回はカカロニのふたりに、テレビでの初舞台や、ブレイクの舞台裏を話してもらった。そこで見えてきたのは、チャンスをものにするための徹底的な準備と、幸運を信じる前向きな姿勢だった。

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「グレープカンパニーは各々なんです」

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左から:栗谷、すがや

──2016年に結成したカカロニは、その後すぐに人力舎を退所してフリーになった。

すがや そうですね。1年間くらいですけどラスタ原宿を中心に、寄席にけっこう出てました。よかったのは、あの時期に栗谷さんが「カッコつけるキャラやってるけど、俺、本当はこういうこと思ってないんだよね」って言い出したことで。

──どういうことですか。

すがや 「俺は落とし方とかは考えるけど、実践はできないんだよ。勇気がないから」って言われたんです。

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栗谷 「そういう俺の性格で、漫才をやったほうがいいんじゃないか」って提案しました。それでナルシストにネガティブな要素を入れたらウケたんです。あと俺と組む前のすがやはずっとボケをやっててツッコミに慣れてなかった。だから俺がまっすぐナルシストすぎると全力でツッコまなきゃいけなくて、しんどかったんです。でもそれもネガティブ要素を入れれば、俺で落とせるようになる。

──コンビの課題を一気に解消する提案だったと。その後どうやってグレープカンパニーに入るんですか。

栗谷 2016年の『M-1(グランプリ)』決勝で、「カミナリさんおもしれぇ!」ってなって、グレープカンパニーを知って。そこからサンドウィッチマンさんいる事務所じゃん、ここ行きたいってなって、メールを送りましたね。

すがや それまでは浅井企画のオーディションを受けてたんですけど、グレープにメールを送ってから数カ月後に「今ならオーディションできます」って返信があったので、浅井にはお断りを入れて。それでわりかしすぐ所属させてもらいましたね。

──そもそも2016年のグレープカンパニーは、芸人ですらピンとこない事務所だったんですね。

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すがや そうですね、カミナリさんもライブシーンで会うことってなくて、いきなり出てきた感じで。サンドさんも売れすぎてもはや事務所名で把握してなかったですし、永野さんもすでに入ってたんですけど事務所は意識してなかった。あ……でも(お見送り芸人)しんいちさんがいたから、グレープの名前は知ってたんだ。

──2016年のしんいちさんとは知り合ってた?

すがや しんいちさんとバイト先が一緒だったんですよ。まぁでも今の歌ネタをやる前のしんいちさんの事務所に行こうとはなかなか……(苦笑)。

栗谷 それまで腐っても人力舎とワタナベにいたんで、無名すぎる事務所はっていうのもありましたよね。今でこそ(東京)ホテイソン、ティモンディ、ランジャタイ、わらふぢ(なるお)さんとかいるけど、当時はサンドさん以外、誰もいなかったから。

──その面々で一致団結してグレープカンパニーもここまで大きく……。

すがや 力を合わせた記憶はまったくない(笑)。

栗谷 各々がんばってた。グレープカンパニーって各々なんですよ。

コロナ禍のサッカー

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──実際所属してどうでしたか。

すがや 「なんていい事務所なんだ!」って思いました。グレープの芸人がちょっと不満に思ってることも、いや、ワタナベと人力舎に比べたらだいぶ恵まれてる(笑)。めちゃめちゃオーディション多いですし。

栗谷 コロナ以降はYouTubeでネタが見られるようになったんで、オーディション自体減ってるんですけど、コロナ前はオーディションだけで忙しい時期とかあって。テレビにはまったく出てないし金も稼げてないのに、オーディションのはしごでした。月20日オーディション入ってた。

すがや 養成所の生徒向けに、オーディションでのハマり方で授業できるくらい必勝トークルートができ上がってました。

栗谷 こいつがここで暴露して俺がブチギレるとか。それで『ゴッドタン』の「この若手知ってんのか!?(2020)」もうまくいったんで。

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──オーディション地獄があったからこその成功だった。

すがや 俺らの感覚からすると地獄でもなかったんですよ。前の事務所ではチャンスすらもらえなかったから。

栗谷 売れてる感覚すらあったよな。売れてない芸人はテレビ局なんか行けないじゃないですか。でも今くらい行ってた(笑)。

すがや オーディションも二次、三次まであったし。

栗谷 夢に向かってがんばってる感じがあったよね。あれは青春だった。

すがや やっと軌道に乗ってきた手応えもあったし。テレビに出るまでではないけど、スタッフには気に入ってもらえて最終まで残るんですよ。だから一個番組に出たら、ほかのところも急に使ってくれるようになって。

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──おもしろいと思っても実績がないなかなかとキャスティングしづらい。そんなときにひとつハネると一気に連鎖する。それにしてもふたりになってからはわりとトントン拍子ですけど、うまくいかない時期はありましたか?

栗谷 コロナ禍ですね。なんにもなくなったじゃないですか。テレビに出てる人すら仕事がなくなって、再放送が流れてるみたいな。それだったらテレビにまだ出てない人はもう無理じゃんって。ずっと家にいてけっこう病んじゃって、とりあえず解散しようって思いました。

すがや それは初めて聞いたな(笑)。なんで解散の話しなかったんだろう。

栗谷 コロナ禍に事務所で久しぶりにネタ見せやりましょうってなって、すがやと前日にネタ合わせしたんですよ。そしたらこいつがサッカーボールを持ってきて、急にパスし始めて。

すがや ちょっと蹴ろうよって。

栗谷 それが楽しくて。で、じゃあちょっと……またがんばるかって(笑)。

すがや はははは(笑)。僕は僕で、家にこもっててしんどかったんで、ボール蹴りたかったんですよ。ネタ合わせよりも、一回リフレッシュしたかった。

栗谷 久々に外で笑ったな、笑顔になったなって思って、やっぱ悪くないなって。その直後に『ゴッドタン』に出られたんで解散しなくてよかった。

テレビに出た時期がたまたまよかった

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──カカロニがテレビに現れたのは、コロナ禍だったんですね。

栗谷 コロナ禍に出られたのはラッキーでした。僕らふたりともひな壇に座って「ちょっとちょっとー!」って前に出られるタイプじゃないから。

──たしかにテレビ収録も演者同士距離を取らなきゃいけないから、人数も限られてましたもんね。

栗谷 出演者が減ったぶん、1組を深掘りするようになった時期だったんで、ありがたかったです。僕は自分から行ける芸風じゃないんで。『ウチのガヤが(すみません!)』とか昔は30人とか出てたじゃないですか。それが5組くらいになったら、1組10分くらいプレゼンできるようになって。そこで掘ってもらって初めて僕はキャラを出せる。それでコロナが終わったら先輩にも知ってもらえてるから、『アメトーーク!』に出てもイジってもらえて。

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──ちなみにテレビの初舞台は『ゴッドタン』ですか?

栗谷 コンビでは『有ジェネ(有田ジェネレーション)』ですね。あれは2018年か。

──ふたりが最も敬愛するくりぃむしちゅー有田(哲平)さんの番組。

栗谷 めっちゃ緊張しました。

すがや 大部屋の楽屋だったな。

栗谷 いろんな人にあいさつして、この人は返事しねぇんだなとか思ってましたね。

すがや 『有ジェネ』はみんなレギュラー外されたくなくてバチバチだったからね(笑)。

栗谷 今はみんな優しいですけど、当時はめっちゃ怖かった。

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──ネタの手応えはどうでしたか?

栗谷 あんまりよくなかったですね。ちょうどオーディションに呼ばれまくってた時期なんで、ネタをこねくり回してたんですよ。同じ番組に同じネタは持っていけないので毎回、進化版を出さなきゃいけなくて。

──進化版なら、よりおもしろくなる気がするんですけど……。

栗谷 いや、スタッフさんに向けた進化版なんで、ちょっとわかりづらくなってるんですよ。初見の人にはもっとわかりやすいのを出したい。なので、これ伝わりづらいだろうなって思いながら本番やってました。

──憧れの有田さんとの初対面はどうでした?

すがや ずっと『オールナイトニッポン』を聴いてたから、有田さんがグイグイ来られてもあんま喜ばないのもなんとなく知ってて、ざっとあいさつしました。でもその時期、有田さんの番組の前説もちょこちょこあって、顔合わせる機会があったんです。僕たちがドッキリをかけられてる映像を有田さんが見てたこともあって、勝手に縁を感じてました。

栗谷 僕は今も『(全力!)脱力タイムズ』にカリスマ3(ぱーてぃーちゃん・すがちゃん最高No.1、リンダカラー∞・Denとのユニット)で、2週に1回お会いしてますから。

すがや 僕も半年に1回くらい『くりぃむナンタラ』に呼んでもらってますし、前編でも言いましたけど、有田さんとプライベートでゲーム大会してるんで夢のようです。

僕らは幸運である

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──カカロニ、順風満帆ですね。

栗谷 もちろん不安はありますけど、そうですね。

すがや 僕らは幸運であるということは、もう知ってるので。

栗谷 不安はありつつも大丈夫かもっていう自信はありますね。事務所もちゃんと仕事入れてくれるし、バラエティの現場でも誰かが僕のことなんとかしてくれますし(笑)。去年まではずっと不安で、今年になってようやく楽しいです。

すがや 僕はわりとずっと楽しいですけどね。

栗谷 いや、もちろん楽しいは楽しいですけど……前は「この『アメトーーク!』ハネないと次はない……」って思って緊張してたんです。今はなんとかしてもらえる状況ができたので。

──栗谷さんは2024年末に恋人ができたことを発表して、公私ともに順調ですもんね。

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栗谷 2年前まで女性とまともにしゃべれなかったのに、番組でマッチングアプリをやったのをきっかけにここまで来られましたね。

──どうやって苦手意識を克服したんですか。

栗谷 マッチングしたら1回は必ずランチするって決めて、60人ぐらいの女性と会ってたらだんだん楽しくなってきました。でも、なかなかモテないキャラという芸風があったんで、彼女作ったら仕事なくなるかもっていう不安はあって。いいなって思う子がいても、仕事を失ってまで付き合えないやって。

──今の恋人は、その不安も払拭するほどの出会いだったんですね。

栗谷 そうですね。去年の夏に出会ったんですけど、めちゃくちゃ楽しくて。どうやらこれ彼女できても仕事なくならないっぽいぞって秋くらいに確信して、11月に付き合って。

──どういう方なんですか。

栗谷 2歳年上で、僕が失敗してもなんでも笑って楽しくしてくれる。全部受け止めてくれる優しい人ですね。こんな幸せでいいんかって思います。結局仕事も減らず、なんなら増えてるぐらいですし。

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すがや 大変なのは漫才だけですね(笑)。前編でも言いましたけど、栗谷さんに彼女ができて、今までの漫才ネタは全部使えなくなったんで。

栗谷 でもそこもラッキーで、俺が童貞卒業したと同時に、今度はこいつのポンコツがバレ始めた。今までポンコツの部分は隠してくれてたんですよ。

すがや 栗谷さんのキャラを見せたいのに、僕が目立つとブレるんで。

栗谷 いやぁ隠しきって、今このタイミングでバレるって本当に俺たちは運がいいです。だからこの先も大丈夫じゃないですかね。

文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平

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カカロニ
栗谷(くりたに、1989年9月5日、神奈川県出身)と、すがや(1991年3月5日、東京都出身)のコンビ。2016年に結成し、2017年にグレープカンパニーに所属する。2020年には『ゴッドタン』の企画「この若手知ってんのか!? 2020」の“今の時代に売れそうな新世代芸人”部門で2位に入り、ブレイク。栗谷は、すがちゃん最高No.1(ぱーてぃーちゃん)とDen(リンダカラー∞)とのユニット「カリスマスリー」でも活動する。サッカー好きで知られるすがやは、2018年のサッカーW杯「日本対セネガル戦」をゴールネット裏で観戦している際、セネガル選手のシュートをヘディングした映像が話題になった。

【後編アザーカット】

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