「結局、ネタがおもしろいのがカッコいい」青色1号のネクストステージ|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#30(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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2024年の夏に開催された『第45回ABCお笑いグランプリ』で準優勝になった青色1号。『M-1グランプリ』覇者の令和ロマンに惜しくも破れたものの、芸歴10年目以下の漫才師、コント師、ピン芸人が集う戦いで、確かな実力を見せ、爪あとを残した。

この取材は『ABC』の前に行われたが、3人は気負いを見せず、どこか肩の力が抜けた様子だった。

初の賞レース決勝で見た“地獄”や、いいネタが生まれないスランプ、『キングオブコント』の展望など、青色1号の現在地を語ってもらった。

【インタビュー前編】

コンビからトリオへ、コントのウケが一気に変わった青色1号の初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#30(前編)

バラバラの衣装は青色1号の象徴

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左から:カミムラ、榎本淳、仮屋そうめん

──今日は榎本さんだけ衣装ですか。

仮屋 いや、僕もですよ。

──失礼しました。あまりにナチュラルなので気づきませんでした。榎本さんはビシッと決まっているので。

榎本 去年の6月に衣装を作ったんですけど、3人ともすごいバラバラになっちゃって。ホントは青で統一したかったんですけど。

──青のトーンが全然違いますもんね。
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カミムラ 僕もいちおう買ったんですけど、あんまりしっくりこないっていうか。どうしようかなって感じで。榎本が予想外のものを選んできちゃって。もうちょっと抑えたかったのに失敗したんすよ。

榎本 仕立ててもらったんですけど、生地を見せてもらったときは、もっと抑えめの青だった気がしたのに、実際めっちゃ明るくて(笑)。

──インタビューでもよく「バラバラなのが青色1号の個性」だって言ってますけど、衣装もバラバラで見事に体現してますよね。

仮屋 そうですね。趣味もまったく違うし、性格もバラバラです。

賞レース初ファイナルは地獄のスベりよう

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──前編では芸人としての初舞台について聞きました。この後編では、賞レースの初舞台について聞きたいです。2022年にはABCお笑いグランプリの決勝に進出されました。大きな賞レースの決勝は初めてでしたが、いかがでしたか。

カミムラ かなりスベりましたね。

榎本 『財布』っていうネタはけっこう自信もあったし、予選でもウケてたから「かますぞ」って思ってたんですが、最初から受け入れてもらえなかった。

カミムラ 「これはマズいぞ」っていう焦りが、3人とも顔に出てましたね。東京でウケるところが全然ハマらない。

榎本 もう無理だ、地獄だと思って、とにかく大きい声でごまかしました。

仮屋 ファースト決勝であり、ファースト大阪でもあったんですよ。大阪が難しかった。

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カミムラ いや、でも東京のこたけ正義感とかちゃんとウケてたんで、僕らがただ実力不足だっただけです。お笑いは東京が一番おもしろいと思うんで、別に向こうに合わせなくてもいいかなと思いますし。でもあれ以降、「ネタ中に動揺しないでやり通す」っていう目標もできたんで、いい経験にはなったんじゃないですかね。

──今年のABCお笑いグランプリでもファイナリストになりました。この記事が配信されるころには結果も出てると思うんですが、直前に控えた今の心境はどうですか。

カミムラ 一昨年よりはうまくいくんじゃないですか? あのときは本当にゼロ笑いだったんで、今年はふた笑いくらい。

榎本 もっといくだろ! とにかくウケたいですね。

カミムラ あとラストイヤーなんで。

榎本 やることやるだけですね。

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──M-1王者の令和ロマンや、『(女芸人No.1決定戦)THE W』女王の天才ピアニストなど、すごいメンツですよね。

カミムラ ホントそうっすよね。なんでみんな出てんすかね。

榎本 まぁそのおかげで注目度も上がってるんで、ありがたいですよ。普通に令和ロマンが獲っちゃうかもしれないですけど(笑)。

(※)7月7日に行われた『第45回ABCお笑いグランプリ』チャンピオンは令和ロマン。青色1号は4点差で惜しくも準優勝となった

青色1号には分析屋がいない

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──青色1号はコント師で、キングオブコントに毎年挑戦されていますが、トリオになった翌年の2018年には準々決勝、2022年に準決勝まで行きました。

カミムラ 同期の中では初めて準々決勝に行けたんですよね。

榎本 当時は「2回戦行けたらすごい」と言われてたんでうれしかったですね。

仮屋 でもコロナ禍に入って、2回戦落ちが続いた。

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カミムラ KOCだけ負ける印象でしたね。ライブではずっと勝ってたんで。だから理由が全然わかんない。僕らデータ派がいないんですよ。分析できるヤツがまったくいないんで。

──ギャンブルも好きな仮屋さんは、分析も得意そうですけど。

仮屋 実はできてますけど、言ってないかもしれない。

榎本 なんでだよ! 教えてくれよ。

仮屋 いや、言いきる度胸はないです。外れたらイヤだし。

カミムラ 『月笑』っていう事務所ライブで、去年の年間チャンピオンを決める最後のネタは仮屋が決めたんですけど、それも大外れしましたから。活躍してるコンビは、けっこう分析力がすごいんで、そこは弱みです。

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──KOCの不振や、コロナ禍が重なって、不安はありませんでしたか?

カミムラ 僕は平気でしたね。ふたりはどうかわかんないですけど。別にいいよと思ってた。どうにでもなれって。

仮屋 僕も特に不安はなかったです。

榎本 僕はヤバいなぁって思ってましたね。どうしよう、どうしようと焦ってました。でも、もうしょうがないかと。

──ちなみにお笑いで食べられるようになったのはいつごろですか。

全員 まだ全然食えてないです!

榎本 めちゃくちゃバイトしてます。

カミムラ 仮屋は死ぬほどバイトしてます。

仮屋 お笑いが副業です(笑)。

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──『ゴッドタン』の恒例企画「この若手知ってんのか!?」で「とにかくヤバい芸人部門」の1位に選ばれ、注目されたのは2020年ですよね。ネタにも定評があって、お笑いファンの間ではよく知られる存在なので、意外に思う人も多いんじゃないでしょうか。

榎本 それはよく言われますね。

仮屋 吉本以外はこんなんですよ。

榎本 吉本の人には「青色は食えてるよね」とか言われるんですよね。早くバイトせずにお笑いできるようになりたいです。

いいネタは一発目から雰囲気がある

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──ネタ作りはカミムラさんが担当されているんですよね。

カミムラ はい。よくて8割くらいの状態でふたりに見せて、榎本はあんま言わないですけど、仮屋からアイデアをもらって、ネタ合わせしながら仕上げていきます。

──YouTubeチャンネル『青色1号のホストクレープキッチン』でも再生回数1位と2位の『面接』と『ネギトロ王子』が個人的に好きなんですが、あのあたりのネタはいつごろできたんですか。

カミムラ けっこう古めなんですよね。最近はああいう勝負できるネタができてない。

仮屋 『面接』は新しいほうですけど、それでも2年前。『ネギトロ』も4年くらい前で。でもそれも何回も叩いているうちに、味がしてきたっていう印象ですね。

榎本 原型は全然違ったしね。

 

カミムラ いいネタって、一発目から雰囲気あるんですよね。いまだにネタおろしの時点で、話になんないくらいスベることもあるんで、そういうのはすぐ捨てちゃいます。いいネタだったら最初っからちょっとウケるんですよね。

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──ここ最近、勝負ネタができてない要因はどう分析されていますか。

カミムラ なんなんですかね、わかんないですね。なんだろう……(苦笑)。いいのが降りてこない感じですね。

──降りてくるタイプなんですね。

カミムラ まぁ降りてくるっていうとアレですけど、いいのができるときは、すぐできるんです。これいいなと思ったらオチまで一気に思いつく。でも最近はそれがないっすね。続きを考えないとダメなときってだいたいおもしろくないんだけど。

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──ふたりはカミムラさんを信じて待っている。

榎本 そうですね、待つことしかできないんで(笑)。

──去年は初の単独ライブ『ちょっとだけバカ』を開催しました。あれは新たな勝負ネタを生むためのキッカケとして必要だったんですか?

カミムラ いや、単純に「やりませんか?」って事務所の方から言っていただいたんですよ。2022年に初めてABCの決勝やKOCの準決に行けたから、一回やってみるかって。ネタも単独でできたものを叩くっていうよりは、普段から下ろしてくのが性に合ってるんで、「単独で代表作を作ろう」って意気込みではなかったです。

──近年「単独ライブで食えるようになりたい」というコント師が増えましたが、青色1号もそこが理想?

カミムラ そうなったらいいですけど……大変ですよね。

榎本 それはそれでねぇ(笑)。

コントは結局おじさんが強い?

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──KOCで優勝して売れる姿って、今どれくらいイメージできていますか。

カミムラ どうなんだろうなぁ……正直、優勝は大変だろうなと思ってます。でも決勝はまぁいずれ行けるっしょとは思ってますね。一回目の決勝でスベるイメージまですげぇできてる。

榎本 ははははは(笑)。最悪だな。

仮屋 まぁ最初は顔見せで。

カミムラ 2回目で優勝狙っていきてぇなって感じですかね。

──たしかにあのステージに一度立たないことには、優勝も見えてこないですよね。最近だと、ビスケットブラザーズ、空気階段、ジャルジャルは複数回決勝に出て獲りました。

カミムラ ABCの決勝でとんでもないスベり方を経験したから、そんなにヘコまないだろうし、とりあえずどうなってもいいから、KOCの決勝行きたいですね。

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──カミムラさんのこのイメージはふたりも共有してる?

榎本 うん、決勝は行けるだろうとは思ってますね。

仮屋 決勝スベるだろうなっていうのもわかります(笑)。

カミムラ 一度、決勝に行けばテレビもちょっと出られたりするじゃないですか。そこで知られて、ネタの楽しみ方も伝わってからが勝負かなと。

──KOCって芸歴制限がないから本当に大変ですよね。

カミムラ 去年だったらラブレターズさん、ジグザグジギーさん、や団さんが出てますからね。

榎本 若手で勢いのあるコント師が決勝に行くケースって本当に少ないと思います。準決の顔ぶれ見て、今年は若いヤツ多いなって思うこともありますけど、結局決勝はおじさんが多い。それは毎回、思いますね。結局おじさんが強い(笑)。

三者三様の夢と、ひとつの目標

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──最後に、芸人としてのやっていきたいことを聞かせてください。仮屋さんはやっぱりパチンコですか。

仮屋 そうですね。お仕事でパチンコ、ボートレースやりたいです。早くバイトも辞めて、プライベートでもギャンブルしたいです。

榎本 お金貸さなくて済むんで、早くそうなってほしい(笑)。

カミムラ 勝手にやっててほしいですね。

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──榎本さんは、どうですか?

榎本 僕は映画、ドラマ、CMとかバンバン出たいんです。お笑い芸人が映画とかドラマに出てるのがかっこいいなと思ってて。でもなかなかチャンスがないんですよね。ふたりはドラマにも出たことあるのに、一番憧れてる僕には話が来ない。

仮屋 知り合いから頼まれる感じですけど。そこからおかわりみたいな感じでたまにあるんですよね。榎本は「普通の顔」すぎてよくないらしいです。

榎本 そうなんです。太田の俳優部のマネージャーさんに「ドラマ出たいんですよ」と伝えたら「いいけど、君だけ普通すぎて何もないから」って言われて。普通だからこそなんでも演じられるのかと思ったら、そうでもないらしいですね。ドラマ、映画、演劇、なんでもやりたいんで、業界関係者の方、僕を使ってください!

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──記事にもしっかり書かせていただきます。カミムラさんはどうですか?

カミムラ 「趣味人間」みたいな立ち位置の人いるじゃないですか。ああいう人になれたらいいですね。バイクと格闘技が好きなんで。ケンコバ(ケンドーコバヤシ)さんとかいいですよね。あと、さらば(青春の光)の森田(哲矢)さんとか。ネタがおもしろいからこそ許されるようなポジションなんで、そこがんばらなきゃですけど。

──今日ここまで話を聞いてきて、カミムラさんの肩の力が抜けてる気がしました。『ゴッドタン』での荒ぶるカミムラさんの印象が強烈だったので。

カミムラ マジっすか。いやでもやっぱムカつくことはいろいろありますよ。そりゃそういうヤツらは全員負かしてやろうと思ってる。そのあとでゆくゆくは趣味人間になりたいってだけです。

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──3人の目標はどうですか?

カミムラ やっぱりネタは続けていきたいですね。

榎本 カミちゃんも言ってましたけど、何やってても結局この人たちネタおもしろいからっていう存在になりたい。

カミムラ シティボーイズさんとかめちゃめちゃかっこいいじゃないですか。普段は全然違うことやってんのに集まったら、コントがおもしろいって最強ですよ。

──仮屋さんはどうなんですか?

仮屋 ずっとやっていきたいですよ、パチンコ。

榎本 3人での目標を聞かれてるんだよ?

仮屋 3人でもパチンコやりたいです。

榎本 巻き込むなよ!

カミムラ 仕事でできるんなら僕もやりますよ。趣味人間になりたいんで。

文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平

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青色1号
カミムラ(1990年6月7日、東京都出身)、榎本淳(1992年5月29日、神奈川県出身)、仮屋そうめん(1991年7月17日、福岡県出身)のトリオ。2014年、カミムラと榎本で結成。2017年にコンビ「フィルダースチョイス」を解散した仮屋が加入する。2024年、ラストイヤーで挑戦した第45回ABCお笑いグランプリで準優勝した。YouTubeチャンネル『青色1号のホストクレープキッチン』でネタ動画を公開中。

【後編アザーカット】

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若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>