男女コンビという先入観と向き合う人間横丁の希望とジレンマ|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#24(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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「サンドウィッチマンさんに『付き合ってるの?』って聞かないじゃないですか」

人気の男女コンビ・人間横丁の内田紅多は、インタビューでそう語った。相方の山田蒼士朗のことを「私が男の人になったみたい」と語るほど、ふたりの雰囲気はぴったり合っている。でもそれはあくまでも相方として、だ。

男女コンビであること。キャラクターっぽく思われてしまうこと。人間横丁のふたりは、観客の先入観と向き合いながら、芸を磨いている。芸歴3年目のふたりの現在地を聞いた。

【インタビュー前編】

“すこしふしぎ”なコンビ・人間横丁の初舞台は賞レース|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#24(前編)

なんで男女コンビが仲いいと「付き合ってる」と思われるんだろう

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左から:内田紅多、山田蒼士朗

──コロナが始まった年に養成所に入ったおふたりは、どう過ごしていたのでしょうか。

内田 毎日一緒にいたよね。

山田 僕が土日だけバイトをしていて、それ以外はずっと会ってたね。

内田 養成所のときは、朝10時に会って終電で帰ってた。私は実家暮らしでコロナを家に持ち帰るのも怖かったので、バイトはしてなくて。その名残りで今もやってないです(笑)。

──その濃密な時間が、おふたりの親密な空気感を作ったんでしょうね。ちなみに前編で伺ったように、初舞台でかけたネタは「コールドスリープ」を題材にしたSFでした。そこから、“すこしふしぎ”な設定を日常に落とし込んだネタをするようになったのはいつごろですか?

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内田 それは最初にやった漫才からかも。「なんで爪を切ることになったんだろう?」っていうネタ。「きっと最初に爪を切り始めた人がいるから、みんなもマネして切るようになったんだよね?」って。

山田 そのネタが思い浮かんだときピーンときたのを覚えてる。設定とかも笑いながら一緒に考えてたね。

──こうやってお話ししても、漫才の雰囲気そのままの人柄だなと思うんですが、最初から自分たちらしい漫才をやろうと思っていたんですか。

山田 どっちもツッコミができないね、ってところからです。ツッコめないので、内田さんの言うことを訂正するみたいになって。

内田 最初はダブルボケっぽくやってたんだけど、やっぱりツッコんだほうがいいんだろうね、って。でもパンって叩くとかできないから、山田くんなりに訂正しようか、って。

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──養成所で、基本の型から覚えようとは言われないものですか?

内田 ちゃんとツッコミをやりなさい、とかそういうのはなかったです。でも、私と山田くんの関係性が気になるっていうのはよく言われてて……。そこが一番難しかったかもしれません。

山田 お客さんがふたりの関係性をわからないまま見ると、不自然に感じるってよく言われたね。

──男女コンビならではの悩みですね。

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内田 それはよく嘆いていて。たとえば、サンドウィッチマンさんとか仲いいですけど、でもあのふたりに「付き合ってるんですか?」って聞かないじゃないですか。なのに、なんで男女が仲いいと、そんなこと言われなきゃいけないんだろうって思います。

──男女コンビはそれを意識して、あえて女性が男性に強く当たるパターンがよくある気がします。それも先入観をかわすためなのかもしれない。

内田 そういうのもあるし、ネタに関してもたとえば「彼氏欲しいんだよね」って言うことで、お客さんが「あ、じゃあこの相方は彼氏じゃないんだ」って思えるとか。でも、男女だからってところにこだわるのは、ちょっと年齢上の人が多くて、同世代はそんなに気にしてない。もうちょっとの間、我慢すればいいことなのかなと思います。

「これでいつも一番ウケてます!」とキレてしまう

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──最近のネタを見ていると、内田さんの毒っ気が少しずつ強くなったように感じるのですが、そこは意識されていますか?

内田 もともとの性格なんです。以前は「サンドウィッチマンは仲がよくてもいいのに、なんで私たちはダメなの!」みたいなグチは、山田くんにしか言えなかったんです。どっかで「いい子でいなきゃ」っていう気持ちがあったんだと思う。でも、隠していてもどうしても出てきちゃうんです。

それに、ほかの芸人さんや仲いい人が、私のそういう部分を「全然いいじゃん」とか「おもしろいよ」って言ってくれることが増えて、かしこまる必要ないんだなと思えるようになりました。普段もそうだし、別にネタの中に入っててもいいんだなって。

──そうだったんですね。山田さんも「もっと自分を出せばいいのに」と思っていましたか?

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山田 たしかにそうですね。養成所の講師の方に強く言うのはよくないと思うけど、へへへへへ(笑)。

──そんなことがあったんですか。

内田 これは本当に反省してるんですけど……。養成所の特別コースで、先輩の三福エンターテイメントさんが来てくださったことがあって、ネタ見せをしたんです。そのときに「いいと思う」って褒めていただいて。

でも、そのあとに「今はキャラクターっぽいのもあって調子いいだろうけど、養成所卒業したら急にウケなくなったりするからね」と言われたんです。それは私たちに対する言葉というよりも、みんなへのアドバイスだったと思うんです。

──「ほかの人はウケるために焦ってキャラ漫才しなくてもいいよ」というようなニュアンスだった。

内田 はい。でも、そのときの私は、「付き合ってるの?」とか「キャラクター漫才」って言われすぎて過敏になってたんだと思います。

山田 うんうん。

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内田 養成所のライブでのお客さん票も悪くなかったので、思わず「これでいつも一番ウケてます」って言っちゃって……。

山田 言っちゃったね(笑)。

内田 本当にいろんな気持ちになっちゃって、あのあとは死ぬほど落ち込みました。ネタ見せ終わって、自分の席に戻った瞬間から「あーやっちゃったな……」って。女子更衣室に戻っても、なんであんなこと言っちゃったんだろうって、しゃがみこんで「うわぁ~!」ってなっちゃった。

──三福さんの言葉で、内田さんの中に溜まっていたものがあふれ出した。

内田 三福さんの言葉はほかの芸人さんに向けたものだったので、びっくりされたと思います。

山田 うん、僕もびっくりしすぎてフォローできなかった……(苦笑)。

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内田 三福さん、私のこと怖いって思ってるよね……。本当にあれはよくなかったな。

──ふたりの本来の人柄が「キャラクター」だと思われてしまうのは悔しいですよね。もちろん漫才だからデフォルメしてる部分はあるでしょうが、それはあくまでも本来のおふたりの人柄あってのもの。それをキャラと言われると「それは違うよ」と否定したくなるのも無理はないだろうなと。

内田 うーん、そのときにそう思って反発したのかは覚えてないですけど、「キャラではないのにな」っていう意識はたしかにずっとありました。今なら私たちの感じを「キャラ」って言うのも全然わかるんですけど。

その点、まわりの芸人さんや普段のライブのお客さんは、いつもこのままの私たちを当たり前に受け入れてくれてるので、すごくやりやすいです。

「わかりやすい」は「誰でも思いつける」

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──芸歴3年目にもかかわらずメディア出演も増えていて、順調に活躍されています。一方で、賞レースで結果を出したいとも常々おっしゃっていますね。

内田 そうですね。そのためにはやっぱり万人にわかってもらえるようにならないといけなくて。このままで褒められることも多いし、私たちもこのままでいいんだって思えてるんですけど。

山田 たしかに若い世代、お笑いが好きな人はわかってくれるけど、そうじゃない人が見ると、「何やってるんだろう?」って思われるので、そこを超えたいね。

──M-1グランプリに合わせたネタ作りもしていますか。

山田 それはよく考えることで。賞レースで結果を出したいなら、寄せられるようにならなきゃいけないですよね。でも内田さんの意志が強すぎて、ね(笑)。

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内田 やっぱり観ている人に「自分でも思いつきそう」って思われたくないんです。賞レースでネタをやるってことは、多くの人の目に触れる機会が多いじゃないですか。だからよけいに寄せたネタはやりたくないと思ってしまう。わかりやすいってことは、思いつきやすいってことだと思うから。私はそれをすごく心配してしまいます。

──ジレンマですね。

内田 私は漫才のテーマの部分を考えるのが、すごく好きなんです。そこを誰も思いつかないものにしたい。でもそうなるとわかりやすさから離れてしまう。本当はテーマの部分で折れてわかりやすいものにして、ネタの中で自分たちにしかできないことをやるべきなんだろうけど……。

──いわゆるコンビニ店員とかデートとか、そういうテーマでの漫才に抵抗がある?

内田 「見たことある」「どっかにありそう」って思われちゃうのがイヤで。

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──前編で「きょうだいとも被りたくなかった」とお話しされていましたけど、それと通ずる話ですね。

内田 そうかもしれません。山田くんは「コンビニでも人間横丁らしいネタになるよ、大丈夫だよ」って言ってくれるし、そうだねって思うんだけど。

──ほかのお仕事についてはどうですか。テレビ出演は楽しい?

山田 すごくうれしいです。僕は小さいころからテレビっ子だったので、とても楽しい。

内田 お昼の番組とかもっと出られたらいいよね。

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──内田さんはゲーム好きとおっしゃっていましたが、ゲーム番組はまだ出てないですか?

内田 いやいやいや。ゲームのお仕事は全然したことないです。もっと強かったら出られるかもしれないけど。

山田 でも、『マリオパーティー』すごかったよ。

内田 たしかに。でもうますぎて、寒い雰囲気になったよね。

山田 内田さん、ミニゲームがうますぎて、誰も勝てなかった。

内田 あれはイヤな思い出ですね……。かといって手を抜いてやるのも違うし。勝ちすぎちゃった。でも、勝ちまくったときのリアクションがすべてだなとも思いました。そこは努力しないとな。本当どうしたらよかったんだろうね?

山田 僕にはわからないよ〜(笑)。

文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平、田島太陽

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人間横丁(にんげんよこちょう)
山田蒼士朗(やまだ・そうしろう、1999年7月23日、東京都出身)と内田紅多 (うちだ・べえた、1997年3月15日、東京都出身)のコンビ。人力舎の養成所であるスクールJCA29期生、2020年結成。YouTubeチャンネル『人間横丁のにんげんよこちゅ〜る』は不定期更新中。活動情報はXのアカウント@ningen_yokochoでチェックできる。

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【後編アザーカット】

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