かが屋の働き方改革「週休2日でめっちゃ売れる」|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#1(後編)
かが屋の加賀翔は2020年8月にドクターストップを受け、8カ月にわたって療養に専念した。加賀は当時のことを「体が弱いのに、強い芸人に憧れてしまった」と振り返る。では、体の弱い芸人は、お笑いの世界で生きていけないのだろうか。
ふたりでの活動を再開したかが屋は、上手に休みながら、コントを作り続ける道を選んだ。「すべてはコントのために」。かが屋が目指すニューノーマルな芸人像は、これからファーストステージを踏む未来の芸人のみならず、若者たちにとっての道標にもなるはずだ。かが屋の「初舞台」からの歩みを聞くインタビュー後編。
【インタビュー前編】
「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。
「これくらいでいいや」と自分を許せるように
賀屋壮也
──前編でも少し触れましたが、加賀さんは2020年8月から今年4月まで約8カ月間休養されていました。
加賀 病院に行ったら「脳波が止まってる」って。「でも、僕めちゃめちゃしゃべってますけどね」って言ったら「お笑いやってるときのテンションのまま、ずっと余韻だけで話してる」と。脳の一部がほとんど機能してなかったらしいんです。
──当時の記憶もほとんどないと前編で語られていましたが、そんな状況から復帰されて本当によかったです。復帰後に初めてコントを披露されたのは、以前から番組レギュラーだった『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞!!』(テレビ朝日)でしたね。
賀屋 お客さんが爆笑問題さんと霜降り明星さんってすごいファーストステージですよね(笑)。それはもう不安でしたけど、ふた組とも優しいから笑ってくれて安心しました。
加賀 披露したネタは自分的には納得の出来ではなかったんですよ。役者オーディションの設定なんですけど、そこで役者の人が「最近あったおもしろい話お願いします」って要求されるのは、個人的にはちょっとリアリティが薄い。復帰前だったらここでもっと設定を詰めたはずなんですけど、今回は「この設定でもいっか」って自分を許せた。お腹いっぱいになるコントじゃないけど、味は悪くないと思えたというか。
コントに求めるリアリティのラインが下がったので、かが屋のネタの幅は確実に広がったと思います。
──太田さんのコメントも印象的でした。
加賀 「一番いいコンビだよ」って言ってくださったんですよ。太田さんって嘘はつかない人っていう印象だからほんとうれしかったですね。
賀屋 かが屋のためにみなさん用意してくれた舞台でありがたかったのと同時に、がんばってよかったなって思いました。がんばってなかったら、復帰後初めてのネタする場所はここじゃなかった。
加賀 そうだね、僕が戻ってこられるように、賀屋がひとりでいっぱいギャグして守ってくれたレギュラー番組。
賀屋 ははは(笑)。いっぱいやったなぁ。
──『シンパイ賞!!』を観るたびに賀屋さんが一発ギャグしてて、今までのイメージからは想像できない姿でした(笑)。
賀屋 そうですよね(苦笑)。ひとりになったおかげで、僕もちょっと変われたところはありますね。『R-1』にも挑戦しましたし。でも正確に言うと、変わったというよりも本当の自分を出せるようになったというか、本来の自分を思い出したってところもあった気がしますね。
加賀 『シンパイ賞!!』で復帰祝いにお花をいただいて、そこに「シンパイ賞一同 加賀さんおかえりなさい」ってカードが刺さってたんですけど、今、そのカード玄関に貼ってあるんですよ。帰宅すると「ただいま帰りました、ありがとうございます」って心の中で毎日感謝してます。配達員が来たときは剥がしてますけど(笑)。
「体の弱い人」なりの戦い方もある
加賀 翔
──テレビ出演も順調に増え、加賀さんも復帰されて、今後のかが屋の目標が気になります。
加賀 いろんな人に認めてもらうためにがんばるよりも、僕らを必要としてくれるファンに向けてコントをし続けたいです。
あと、かが屋がおじさんになってもいろんなことに挑戦し続ける姿を届けて「かが屋は見てて気持ちがいいな!」って思ってもらいたいですね。バナナマンさんとか東京03さん、バカリ(ズム)さんの単独を見ると、「この人たちはまだ先へ行くんだ」って圧倒されるんですよ。笑いを追求し続けて、制作チームも進化して、ますますおもしろいネタができる姿を先輩に見せてもらったので、そこはマネしたいです。
賀屋 昔はずっとぼんやりとバナナマンさんみたいになりたいって思ってたんですけど、今はもうかが屋を長く続けられればいいっていう気持ちですね。
加賀 目指す芸人像でいうと賀屋もっとすごいこと言ってたじゃん、働き方について。
賀屋 ああ、そうだね。たぶん僕らしかできないと思うんですけど、週に2日休みを取って、めちゃくちゃ売れてる芸人になりたいんですよ。
──なるほど! かが屋の働き方改革。
賀屋 そうですね。ちゃんと休んで、ちゃんと働いて、ちゃんとコントをやるサイクルを若手のうちに作りたいんです。今の時代、ちゃんと休みながら活躍してる人がカッコいいのかもって思いますし。そこを目指すのは、加賀が休養していろいろあった僕らのやるべきことなのかなって。
──芸人業界は忙しくて不規則だと思うので、かが屋が先陣切って新しい働き方を見せるのはすごく意味のあることですね。
賀屋 芸人さんってみんな基本とても優しいし、サービス精神がすごいんですよね。だから、なんでも仕事を引き受けてしまう。もちろん体力的にも精神的にもそれができちゃう人もいて、それはそれでかっこいいんですけど、疲れちゃう人もやっぱりいる。
それぞれの芸人に合った活動の仕方があるはずなんで、僕らは「週休2日の芸人」を提案したいな、と。
加賀 僕はもともと体が強くないんですよ。体が弱いのに、強い人たちに憧れたのが間違ってた。強い人たちと同じ体力ゲージだと勘違いして、ゲームを始めたから倒れたんです。だから、「体の弱い人たちに合ったやり方もあるよ」って伝えたいですね。
賀屋 ありがたいことにマネージャーさんもスタッフさんも僕らの考えを理解してくれて、今もちゃんと週に1回お休みもらってます。「あと2日がんばったら、休みだ」って思えることが大切なんですよね。ちゃんと休みが決まってれば、もうちょっとがんばるかって思えるじゃないですか。
「休む」を目的にするのも疲れるから
──お休みをもらう上で、心がけていることはありますか? たとえば「休みをもらいたいなら、そのぶん良質な仕事をすべき」とか「週2日休むからこそ、残りの5日間はこれだけ働けます!」ってアピールするとか。
加賀 そもそも「休む代わりに○○します」っていう交換条件を設けないことが大切だって思ってるんですよ。
賀屋 そうだね、その条件がプレッシャーになって無理しちゃうから。
加賀 そうそう。「一生懸命がんばったね」っていう最低ラインで、自分たちを褒めることを今は意識してます。「オーケーオーケー、焦るな焦るな」という感じで。
あと僕がそうだったんですけど、条件を引き換えに休みをもらうと「せっかくもらった休みは充実させなくちゃ」って緊張しちゃうんです。お仕事がんばったから休ませてもらえるんじゃなくて、仕事の出来不出来に関わらず、当たり前に週休2日ある生活にすることに意味があると思ってます。
──なるほど。休日の過ごし方についても聞きたいのですが、芸人さんって頭を完全にオフにするのが難しそうだなって思うんです。お休みの日もエピソードトークやコントの題材を自然と探してしまいそうだなと。
賀屋 そうですね。
──でも、完全オフにして休まないと疲れるじゃないですか。よりよく休むために気をつけてることはありますか?
賀屋 たしかに「完全オフ」だと心身ともに休まるとは思うんですけど、それを目的にするのも疲れると思うんですよ。
休日はあくまでも仕事のない日、丸一日自由な時間あるだけって発想に変えました。「休日だから休まなきゃ」「またネタ考えちゃった、やめなきゃ」って気持ちでいると、それすらプレッシャーになる。コント考えちゃってるときは「俺、結局今日もやっちゃってるな〜」って感じで、やっちゃう自分を許せればいいんですよね。
加賀 そうだね。僕が体調崩したのも考えてみると、コント作りすぎたからじゃなくて、仕事が忙しすぎて、コント100本作る時間を取られちゃったストレスのせいだから。
まわりの人は「これからは月にコント100本も作らないで、ほどほどにがんばってください」って心配してくださるんですけど、逆なんですよね。
賀屋 「ネタ考えちゃう」「仕事をやっちゃう」って人は、やっちゃってる状態が心地いいのかもしれない。加賀も自分にプレッシャーかけて月100本コントを作ったから精神的につらくなったわけじゃないんですよ。だから加賀がネタにかけてきた労力は否定してほしくないというか。
加賀 僕はずっとコントを作っていたいんですよ。去年はそれができないほど仕事が忙しくなってしまってバランスが取れなくなって変な感じになっちゃった。だから今は全然作ってます(笑)。
休日はただの「予定がない日」そこで何をしたくなるんだろう?
──加賀さんにとっては今のコント作りに専念できる働き方が気持ちいいってことなんですね。
加賀 気持ちいいですね。そもそも休むようにしたのもコントのためなんです。
ある研究論文を読んだら自営業の人は週休3日と週休2日だと、3日休むほうが、生産性が上がるっていうデータが出ていて。それを知ってから休みも大切にしようって。休みも結局コントのためっていう発想なんです。
賀屋 自分を肯定できるような考えが精神的にもいいと思います。繰り返しになりますけど、休日は「何がなんでも体と心を休ませなくちゃ」っていう考え方はやめました。
休日はただ予定のない日。やるべきことのない自由な時間の中に自分をぽっと置いたら、自分は何をしたくなるんだろう、って自分を観察してみる。自然にやってしまうことが、自分にとって心地いいことなんですよ。
休みの日に生産的なことしなかったなら「よく休んだー!」って充実した気持ちになる、休日にもしネタ書いちゃったら、それは超ラッキーって思えばいいだけ。
──なるほど。ライブなどの制作のために徹夜するなんてもってのほか。
賀屋 かが屋はもともと朝型なんですよ。
加賀 そうだね、朝は9時に集まって夜も早めに解散する。日付が変わる前には絶対に家にいたい。
賀屋 普通の芸人さんは規則正しい生活が苦手でこの世界に来るタイプが多いですしね(笑)。でも、かが屋の結論は、健康が大事ということ。
朝日が昇ったら起きて、夜暗くなったら寝るっていうのが僕らの体には一番合ってる。普通に働く人たちと同じ生活リズムでコントを作れたらいいなって思ってます。
加賀 曜日感覚はちゃんと持ちたいね。僕はどっちかっていうとアナーキーな芸人よりも、マジメな公務員に憧れてるんですよ。僕、幸せな家族を作るのが目標なんですけど、決まった時間に決まったことしてるほうが、子供の面倒も見やすいじゃないですか。いつか生まれる子供とコントのために、規則正しい生活がしたいですね。
【かが屋】
2015年結成。加賀翔(かが・しょう、1993年5月16日、岡山県出身)と賀屋壮也(かや・そうや、1993年2月19日、広島県出身)のコンビ。『キングオブコント2019』で決勝進出。賀屋は『R-1グランプリ2021』でもファイナリストに。『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞!!』(テレビ朝日)や『かが屋の鶴の間』(RCCラジオ)に出演中。「みんなのかが屋YouTube channel」も不定期更新中。
「かが屋の!コント16本!2」のアーカイブ配信が6月13日(日)まで販売中。
文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=田島太陽
【後編アザーカット】
東京ホテイソン「たけるの声で絶対に売れる」確信を得た初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#2(前編)