東京ホテイソン「たけるの声で絶対に売れる」確信を得た初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#2(前編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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第七世代に先んじて売れた漫才師・東京ホテイソン。芸歴わずか6年目でM-1ファイナリストの称号を得た彼らだが、「い〜や◯◯の◯◯!」という、たけるの岡山県の伝統芸能「備中神楽」由来のリズムと声量が特徴的なツッコミが注目される一方、その素顔は広く知られていない。

目立ちたい一心でお笑いの世界に乗り込んだツッコミのたける。
お笑いの世界しか居場所がない“人間失格”なボケのショーゴ。

「知名度のわりにファンが少ない」と自ら語る東京ホテイソンのふたりに、彼らの<First Stage>を振り返ってもらった。

「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

掲示板で出会った“非人間”と“陽キャ”のコンビ

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ショーゴ

──おふたりはネットの「相方掲示板」で出会ったそうですが、ショーゴさんはもともと吉本興業の養成所・NSCに入られてたんですよね。

ショーゴ そうですね。でもNSCで早々に先輩芸人とケンカして辞めたんです。

──先輩芸人といきなりケンカってすごいですね……。

ショーゴ 先輩たちがテレビバラエティのまんまなノリでしゃべってるのが我慢ならなくて「おもしろくないですよ」って言ってしまった。思ったことをそのまま言っちゃうし、とにかく人付き合いができないんですよ。

たける これは否定のしようがないですね。

ショーゴ 人見知りな芸人って多いですけど、それでも舞台に上がったらプロだからある程度できるんです。でも、僕はそれすらできない。僕は人間じゃないんですよ。

たける それは言いすぎだろ(苦笑)。でもとにかくショーゴは表に出るのが向いてない。

ショーゴ たしかに、3人だけの密室とかラジオブースだったら自分勝手にやれて輝けるんです。でも、大人数だったり先輩がいるとしゃべれなくなる。人付き合いが本当に苦手で。バイトもろくにできたことないですし。東京ホテイソンの場合は、たけるが先輩付き合いをしてくれてるのでそこは本当に助けられましたね。

たける ショーゴは人間付き合いの基本すらできない。たとえば営業の帰りの、お土産屋で、先輩に「何か欲しいのある?」って聞かれても、ショーゴは断っちゃうんですよ。先輩がそう言ってくれるときって100%「買ってあげるよ」ってことじゃないですか。そこは「ほんとですか!? ありがとうございます!」って言えばいいのに……。

ショーゴ 本当にいらないから「いらない」って言っちゃうんだよ。

たける 先輩の好意を「いらない」で一蹴するなんて社会人としてアウトだぞ。僕は先輩と飯に行くのも楽しいから行くだけなんで、遊んでるだけでショーゴに感謝されたから気楽なもんでした(笑)。

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たける

──ショーゴさんとは対照的に、たけるさんは人付き合いが好きで明るい性格なんですね。

ショーゴ たけるほどの陽キャは芸人界にいないですよ。たけるって、もともと“芸人”じゃなくて“芸能人”になりたかったタイプなんです。

たける そうですね。学生時代からずっと生徒会長をやったり、バンドでボーカルしたり、漫才やってみたり……とにかく目立ちたがり屋で、その延長線で芸能界を目指してたんで。最初は読者モデルを狙ってたんですけど、ずば抜けて外見がいいわけでもないからダメだった。

じゃあどうやったら芸能人になれるかって考えたときに「芸人いいかも」ってひらめいたんです。そういえば昔から『レッドカーペット』とか『エンタの神様』などのネタ番組や『めちゃイケ』とか『はねトび』みたいなバラエティ番組は人並みに観てたから、「あれならできるかも」って。最初は別に漫才も興味なかったですし、なんとなく「MCになれたらいいなぁ〜」って考えでした。

ショーゴ ほんとなめてますよね。たけるは本当にお笑いのことを知らなかったんで、僕が教育したんですよ。

たける 僕はもう少し遅く生まれてたら、YouTubeとかTikTokでがんばってインフルエンサー目指してたかもしれないです。でも、編集とか企画とか出すのもひとりじゃできないから、そっち目指しても続いてたかはわからないです。

──たけるさんって漫才中のイメージと裏腹にけっこうおちゃらけてるんですね。ここまで話を聞いて、ショーゴさんとたけるさんが気の合うふたり、だとは思えないです。なぜコンビを組まれたんですか?

ショーゴ たけるが掲示板にアップしてた漫才動画を観て、「声もいいし、ツッコミもしっかりしてる」と思ったのが一番ですね。ネタはとても見られたもんじゃなかったけど、備中神楽仕込みの声のよさは魅力的だった。

ツッコミって結局、声が重要なんですよ。どんなに切れ味鋭いフレーズをいいタイミングで言わせても、声質が悪いとウケない。その点ネタを書く僕としては、たけるの声のよさは一番欲しい武器だったんです。

たける 僕はネタ書いてくれるまともな人間がよかったんで、お互いに求めるものが偶然一致したということでしょうね。

たけるの声で、売れると確信した

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──“人間ができてない”ショーゴさんと、“芸人界随一の陽キャ”であるたけるさんは、偶然お互いの弱点を補い合っていた。そんなふたりの初舞台はいつでしたか?

たける 2014年の9月21日ですね。出会ってから3週間後、とりあえず一回ライブ出てみようかって感じで。

ショーゴ 「新宿Fu-」(新宿永谷ホール)でやってた『天国と地獄ライブ』っていう企画です。お客さんは5人。主催者が“闇の世界の案内人”みたいな雰囲気のヒゲ爺でした。大塚駅北口のプリティガールっていう風俗店の受付やってた人なんですけど。

たける おそらく東京のライブシーンで最高齢の主催者。

──漫才をするのにいい環境ではなかったようですが、出来はどうでしたか?

ショーゴ とにかくスベりました。「野球」を「のだま」って言い間違えるっていうオーソドックスな漫才コントなんですけど、シチュエーションを何回も変えるとか、変なことやっちゃってて、妙に難しいネタだったんですよ。

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たける 初舞台がよかったから「東京ホテイソンでテッペン獲ろう!」って雰囲気ではなかった。

ショーゴ でも僕は「ふたりで続けたら絶対売れる」って確信してました。

たける これ結成時から言ってるんですよ。

ショーゴ 結成したころ、「3年以内にテレビ出て、5年以内に『M-1』の決勝行くからね」ってたけるに話してたんです。実際、3年でテレビ出られたし、1年延びたけどM-1もファイナリストになれたんで、読みどおりでしたね。

たける 僕も「30歳までに結果出なかったら辞める」って言ってたんですけど、それよりずっと早く結果が出た。

ショーゴ たけるのツッコミがとにかくいいから、僕の書くネタさえしっかりしてれば間違いなく売れると思ってました。結成から3カ月目くらいでそろそろ事務所入りたいなってときに、ライブでウケるポップなネタにしようと思って作った「サッカー」ってネタが初めてウケたので、やっぱり不安はなかったですね。

たける これが2015年の初めか。「サッカー」から3カ月くらいでグレープカンパニーに入所させてもらいましたし、あのころはいろんなことがトントン拍子に決まってました。

女性にモテるより、芸人にウケたい

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──結成から3カ月で売れるためのネタに踏み切れるって思い切りがいいですよね。若手芸人って「僕たちのこだわりは絶対曲げない」って頑ななタイプも多いと思うんですが。

ショーゴ とにかく早く売れたかったんです。最初の僕らは軸がなくて、正統派のネタも、突拍子もやつも、いろいろ試してました。自分たちのお笑いを追求するというより、売れることだけ考えてちょっと迷走してましたね。試行錯誤した末に自分たちでも心からおもしろいと思った今のスタイルで売れたのは、ただただラッキーだったなと思います。

──芸人を始めたころのたけるさんは、眼鏡もかけてなかったし前髪も垂らしてたし、衣装もカジュアルでした。なぜ今のスタイルになったんですか?

たける 完全にショーゴの指示です。俺の言うとおりの格好すれば売れるって唆されました……。

──売れるためとはいえ、抵抗はありませんでしたか?

たける めちゃくちゃ抵抗ありましたよ! もともと読者モデル目指してたような男ですからね(笑)。ショーゴが「この古めかしいスーツを着ろ」「メガネかけろ」「前髪上げろ」って言われて、最初は渋々でした。

ショーゴ でも、この衣装にしたら芸人さんの評価がガーンって上がったんだよな。それで手応え感じたたけるが、突然「僕、100キロまで太って坊主にする」って言い出したときは、どうかしてるなと思いましたよ。

たける 芸人ウケの路線にどっぷり入っちゃったんです。この格好にして芸人さんにおもしろがられたから、もっと奇抜な見た目になったら、もっとウケると勘違いしちゃって。

ショーゴ そんな単純な話じゃないことくらいわかってくれよ。

たける いやぁ〜、芸人ウケの快感にハマっちゃった。それまでずっとあった女性にモテたいっていう気持ちはなくなって、芸人さんに「おもろかったわ」って言われたい一心だった。芸人になったときの「MCになりたい」みたいな漠然とした目標もなくなり、「舞台袖の芸人にウケるのが最高」みたいなモチベーションに変わってましたね。

──たけるさんって中学生で初めて彼女ができてから、その後もモテる人生を歩まれてきたんですよね。なぜ、それでもモテたかったんですか。

たける たぶん、承認欲求が強かったんですよね。逆に今は全然モテたいとかなくて、芸人さんに感心してほしい気持ちが圧倒的に強い。昔の「女性にモテたい」という承認欲求の強さが、お笑いに昇華されたんだと思います。でも、「人気者になりたい」とか「モテたい」っていう気持ちがなくなると、それはそれでポップさが失われてよくないなって最近反省してます。

──昔よりも芸人さんらしくなったのに、それがよくない?

たける 東京ホテイソンってテレビ出てる量と比較して、さすがにファンの数が少なくて危機感があるんです。その原因って、僕らふたりとも「人気者になりたい」っていうポップさを持ってないからなんじゃないかと思ってて。

でも最近はいろいろお仕事させてもらうなかで、「MCやりたいな」って気持ちが復活してきたんですよ。いろんなMCさんと絡ませていただくたびに「この人みたいになりてぇ!」って憧れが強くなってる。

──憧れのMCをおひとりだけ挙げるとしたらどなたですか?

たける オードリーの若林さんが今一番すごいと思ってますね。あの人は、芸人を誰も殺さない。エピソードトークしたりボケたりしても、絶対に笑ってくれますし、そのあとで必ずおいしくツッコんでくれる。要するに最強のキャッチャーなんですよね。若林さんみたいなMCになれたらって思いますよ。

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【東京ホテイソン】
2015年結成。たける(1995年3月24日、岡山県出身)とショーゴ(1994年2月1日、東京都出身)のコンビ。『M-1グランプリ』は2017年から2019年までセミファイナリスト、2020年には決勝進出。TBSの朝番組『ラヴィット!』(月曜〜金曜 8:00〜9:55)の金曜レギュラー。『東京ホテイソン オフィシャルチャンネル』は毎週水・金・日曜21時に更新中。

文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=田島太陽

【前編アザーカット】

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【インタビュー後編】

“お笑い界の坂本龍馬”を目指す東京ホテイソン|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#2(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>