“お笑い界の坂本龍馬”を目指す東京ホテイソン|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#2(後編)
岡山県の「備中神楽」にルーツのある独特のツッコミ芸で、若手芸人の中でも確固たる地位を築いている東京ホテイソン。
<First Stage>インタビュー後半では、一発屋に終わらないしたたかさや、初の『M-1グランプリ』決勝戦で味わった悔しさ、そしてテレビとYouTubeの間を行き来する“ニュー・コメディアン・ジェネレーション”としての思いを聞いた。
【インタビュー前編】
東京ホテイソン「たけるの声で絶対に売れる」確信を得た初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#2(前編)
「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。
一発屋になる気はさらさらなかった
たける
──東京ホテイソンは、たけるさんの備中神楽由来のツッコミで注目されました。それと同時に、“一発屋”というレッテルも貼られたんじゃないかと思うんです。ネタのフォーマットが確立しているぶん、勘違いされやすいというか。その不安はなかったですか?
ショーゴ 不安はなかったです。たしかにたけるの「い〜や! ◯◯の◯◯!」というフレーズでプチブレイクしましたけど、同時に別のネタも温存していたので、まだまだいけると思いながらやってました。ただ、あのネタでテレビに繰り返し出るうちに、お客さんも僕たちもネタに飽きていったのは感じましたね。
たける 飽きたけど、どのタイミングでやめればいいのかも難しかった。
ショーゴ 2018年にM-1で霜降り(明星)さんが優勝したとき、僕らと同じ若手が獲っちゃったし、このネタ続けても優勝はできないなと思って、あのフォーマットはいったん捨てようと決断した。
ただそのころちょっとしたスランプに落ちて、翌年のM-1予選が始まるころになってもなかなか新ネタが作れなくて……。そのタイミングで昔のネタ帳に温存されてた「英語」と「回文」を練り直したらめちゃくちゃ手応えがあったんですよね。
たける 「回文」は、ネタ下ろしが学祭だったのよく覚えてる。
ショーゴ そうだっけ?
たける 覚えてないのか(笑)。新宿カウボーイさんと納言さんと僕らで行った学祭で急にショーゴが「やろう」って言い出したんだよ。
ショーゴ いや、覚えてない……。ウケてた?
たける それがめっちゃウケたんだよ。間違った回文を逆から言うのは覚えるのもやるのもやっぱりムズくて、ネタ下ろしの日は全然言えてなかった。それなのに爆笑してもらったから、このネタは大丈夫だろうって自信持ったんだよ。
ショーゴ あの日か、たけるが言えてなかったの思い出した。
たける なんで僕の失敗で思い出すんだ!
ショーゴ 「回文」と「英語」って発想は簡単なネタなんだけど、意外と誰も手をつけてない盲点だった。あの年のM-1で決勝行ってたら東京ホテイソン、けっこういい線行ってたはず……。
たける 激アツなネタ2本そろってたからなぁ。
ショーゴ 時間が足りなくて仕上がりきらなかったのが未だに悔やまれるな。
千原ジュニアの片手と中腰
ショーゴ
──話は前後するんですが2015年に結成した東京ホテイソンがテレビに初めて出演したのはいつですか?
たける 最初は『勇者ああああ』(テレビ東京/2017年4月)で、『備中神楽ゲーム』っていうわけわかんないネタ披露したときですね。アルピー(アルコ&ピース)さんとは別撮りだったので、緊張とかはなかったんですけど……。
ショーゴ ギャラ見てびっくりしたね、こんなもんなんだ!って。
たける 僕らテレビの世界のこと何も知らなくて、深夜番組に1本でも出れば食えるようになると思ってたんですよ。数カ月後に出させてもらった『ネタパレ』(フジテレビ)も安かった。
ショーゴ でも、『ネタパレ』は緊張したな。今だったら3分あれば合わせられるような簡単なネタだったのに、延々練習して。
たける NEWSの増田(貴久)くん、南原(清隆)さん、陣内(智則)さん、(千原)ジュニアさんの前でやったんですよ。緊張しないわけがない。
ショーゴ 僕はずっとジュニアさんが好きだったんで、緊張ヤバかったです。昔『にけつッ!!』(読売テレビ)でジュニアさんが「楽屋挨拶で人柄がわかる」っていう話をしてたの覚えてたんで、楽屋挨拶も緊張してたんですよ。それなのにたけるがめちゃめちゃ乱暴にノックして……。
たける 乱暴じゃなくて、よく聞こえるようにしたんだよ。ノックしても中の人に聞こえなかったらダメじゃない。
ショーゴ ジュニアさんは「ノックの音が大きいヤツほど無神経」って言ってたんだよ。それなのにたけるは「ドンドンドン!」って思いきりノックしててイヤだった……。
たける 僕もジュニアさんの楽屋挨拶ってすごい覚えてるんですよ。ジュニアさんがとにかくかっこよかったんで。僕らが挨拶したら、ただ片手上げてくれただけなんですけど、すごい雰囲気あったな。
ショーゴ たけるは気づいてなかっただろうけど、あれ実は全然かっこよくなかったんだよ。ジュニアさん、ノックの音にビビって中腰になってた。座ってたけどびっくりして立ったんだろうなって想像がつくんです。
たける ファンなのに、あんまりそういうこと言うなよ! 僕にとっての初ジュニアさんが上げた片手はかっこいいままです。
M−1の映像はまだ観れてない
────東京ホテイソンは結成3年目の2017年から3年連続でM-1の準決勝に進出。昨年はついにファイナリストになりました。このスピード感は同世代の芸人さんの中でもずば抜けてますね。
たける 初めてM-1の準決勝行ったときはまだ大学生だったんですよ。当時はテレビ収録も少しずつ増えてたので、履修科目は水曜日に詰め込んで、そこだけスケジュール空けてもらってました。
──大学生にしてテレビに出て、M-1セミファイナリストって学校でも話題になりそうですね。
たける いや、それが全然なんです。むしろテレビって本当に観られてないんだなって実感したくらい。当時、知り合いの作家さんを介して、まだテレビに出てない時代のフワちゃんとご飯に行ったんですよ。その写真をインスタに上げたら、妹から「なんでフワちゃんとご飯いってんの!」って連絡が来て。YouTuberの知名度ってすごいんだなと改めて思いましたよ。
──M-1準決勝ってじゅうぶんすごいのに、現実は厳しいですね……。
昨年はついにM-1ファイナリストになりましたが、初めての決勝はいかがでしたか?
ショーゴ 僕はM-1観て芸人になろうと思った人間なんで、今でも決勝に行ったとは信じられないですね。結成5年以内に決勝行くって自信はあったんですけど、同時にM-1みたいな大舞台って最初から天才だったヤツが行くんだろうなという気持ちもあったので。まあ、僕たちはほんとにウケなかったし、実際最下位だったんでなんとも言えないです。
たける 僕は去年のM-1の映像まだ一度も観れてないです。M-1を優勝しないと上に行けないという気持ちがあります。芸人になったころは賞レースも別に売れるためなら出よっかってくらいのモチベーションでしたけど、今は賭ける思いが全然違う。リベンジしたいです。
「俺が“ニュー・コメディアン・ジェネレーション”の坂本龍馬だ!」
ショーゴ フワちゃんの話が出ましたけど、YouTubeで活躍してる人ってやっぱりおもしろいんですよね。芸人的にはYouTuberは素人芸だって無視したほうがカッコいいんでしょうけど、YouTuberがちゃんとおもしろいことを認めないと負けると思うんです。
あと、TikTokのスピード感とかネタの雰囲気も、これは若者ハマるわって納得しちゃうんですよ。実際、おそらくTikTokに合わせて、テレビのネタ番組もますます尺が短くなってる。この流れを予測して考え抜いて今の一発でも終われる型を作ったところはあるんですよ。
たける えらい分析してるな(笑)。それにしても、最近ショーゴ芸人辞めたがってる節があるんですよ。こないだもラランドのサーヤにプロフ帳書かされたとき「将来の夢」のところに「社長」って書いてた。あれはボケだとしてもわかりづらいぞ(笑)。
ショーゴ 半分本気だったからかな……。僕はとにかく「芸人」という枠から自由になりたいんです。「芸人だからやっちゃいけない」っていう縛りを全突破したい。芸人だから漫才しなくちゃいけないとか、TikTokがんばるのはダサいとか、そういう固定観念に囚われてたら、これからの時代生き残れないじゃないですか。だから、え〜……。“ニュー・コメディアン・ジェネレーション”を、僕は目指してます。
たける ダサい名前だな。それにそのラインはすでに土佐兄弟さんのものだからな!(笑) しかも、こんな大きな話するわりに、ショーゴはSNSすらやらないじゃない。
ショーゴ ……すみません、人見知りなんでSNSできないんですよ(苦笑)。でも、このままじゃダメだっていう思いはあるんで。
たける 芸人の間違ったプライドで活動スタイルを選ぶんじゃなくて、おもしろいことならなんでもやりたいってことね。
──ショーゴさんって「芸人かくあるべし」っていうこだわりが強いイメージだったので意外です。
ショーゴ おっしゃるとおりで、僕はもともと「芸人とは〜」っていう執着心がカッコいいと思うタイプの人間なんですよ。だからこそ戒めてます。このまま芸人っていう狭い世界に安住してたら、ほかのエンタテインメントに負けてしまうという危機感はあるので。だから、僕は、坂本龍馬なんですよね。
──えっと……?
たける おい、ライターさんを困らせるな。ちゃんと説明してくれ!
ショーゴ いや、黒船が来たとき、龍馬って外国を打ち負かそうとしたり鎖国したりするんじゃなくて、同盟組んでうまくやろうとしたじゃないですか。その意識でほかのお笑いとかエンタテインメントを拒絶するんじゃなくて、うまく取り入れていかなくちゃと思ってるっていうことです。
──なるほど……!
ショーゴ 今って芯をついた毒のあるネタとか、切れ味鋭いツッコミだけじゃ全然足りない。お笑いだけじゃなくて、いろんな角度からおもしろがれるものを作らないと、人にはなかなか観てもらえない。
芸人のYouTubeがおもしろいのに伸び悩んでるのは、お笑いにこだわっちゃってるからだと思うんです。YouTuberがしっかり押さえてる映像や音声のクオリティとか、編集のうまさっていう基本を大事にすれば、芸人のYouTubeももっと観てもらえるはずなんですよ。
たける 語るねぇ(笑)。でもたしかに僕らもYouTube配信ラジオの収録機材はそろえたし、カメラもいろいろ検討してますよ。『東京ホテイソン オフィシャルチャンネル』は、ひとまず僕らの人柄を知ってもらうために、これからもコンスタントに更新していきます。僕らはやっぱりテレビ露出のわりにファンが少ないし、お笑いファンからも「漫才のイメージが強くて、どんな人間なのかわからない」って言われるので(苦笑)。
ショーゴ 個人チャンネルやるにしても、たけるだったら「備中神楽」やったり、僕だったら「筋肉」見せたり、お笑いに特化しないでそれぞれのキャラクターをアピールできるYouTuberっぽいものをやったほうがいいと思ってる。
たける そうね。ただ“ニュー・コメディアン”なショーゴとちょっと違って、僕はやっぱりテレビの世界へのこだわりが強いんです。華やかなこの世界で、芸能人を見ていたい。坂上忍さんを肉眼で見れる人って、ほとんどいないじゃないですか。僕は、芸能人を見られる世界にずっといたいんです。
【東京ホテイソン】
2015年結成。たける(1995年3月24日、岡山県出身)とショーゴ(1994年2月1日、東京都出身)のコンビ。『M-1グランプリ』は2017年から2019年までセミファイナリスト、2020年には決勝進出。TBSの朝番組『ラヴィット!』(月曜〜金曜 8:00〜9:55)の金曜レギュラー。YouTube『東京ホテイソン オフィシャルチャンネル』は毎週水・金・日曜21時に更新中。
文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=田島太陽
【後編アザーカット】
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