ザ・マミィのお笑いを届けるには賞レースで結果を出すしかない|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#3(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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逆境からスタートしたザ・マミィ。彼らはいつだってひたむきにコントを作ることでまわりに認められ、自分たちの居場所を作ってきた。

しかし、林田洋平はまだまだ満足していない。「お笑いを観ない人たちにザ・マミィを届けるには、賞レースで結果を出すしかない」そう語る林田と「バカ殿」になりたかったという酒井貴士。

そんなザ・マミィが、これまでとこれからを語るインタビュー後編。借金300万円の酒井が初めて借金をしたファーストステージについても聞いた。

【インタビュー前編】

ザ・マミィ「お笑いの世界は結果がすべて」と知った初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#3(前編)

「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

憧れの『オンエアバトル』で見せた“ラッキー涙”

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林田洋平

──前編では、トリオグループ卯月を解散し、ザ・マミィとして新たなスタートを切ったところまで伺いました。ザ・マミィの活動が軌道に乗ったターニングポイントってありますか?

林田 転機は吉住さんとのツーマンライブでしたね。たくさんネタをやりたいけど、自分たちだけじゃ集客できない。そこで吉住さんにお願いしたんです。そこで手応えのあったネタが『松ノ門』でした。

──酒井さんが霊能者・松ノ門を演じるネタですね。

林田 このネタを『爆笑オンエアバトル2019』(NHK/2019年3月23日)のオーディションに持っていったら、出演が決まったんですよ。ザ・マミィとして再出発してうまくいくのか不安でしたけど、俺たちはまだ死んでないんだって思えましたね。

──酒井さんはオンバトで号泣されてました。

酒井 いつか出たいと思ってた大好きな番組で、533キロバトル取ったんですから。そりゃあ思わず泣いちゃいますよ。

林田 酒井は未だにキロバトル言うんですよ(笑)。

酒井 小学生のときは、毎回ビデオに録ってオンエア芸人のキロバトルをノートに記録してましたから。芸人になったら絶対出たいじゃないですか。でも、いざ自分が芸人になったら番組がなくなってショックでしたよ。それがザ・マミィを結成した直後に復活して。出演できるなんてほんとラッキーだなぁと思いましたね。

林田 オンバトのエンディングで、わんわん号泣しながら楽屋まで戻るんですけど、スタッフさんやほかの事務所のマネージャーさんまで花道作って迎えてくださいましたね。

酒井 ほんとは僕、楽屋じゃなくて喫煙所目指してたんですけどね、わははは(笑)。

林田 一刻も早くタバコが吸いたかったんだね。

酒井 あの気持ちいい流れのまま吸いたかったんですよ。

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林田 しかし、あれは“ラッキー涙”でしたね。先輩にも「感動したよ」と言ってもらえて、またここにいていいんだと安心できました。

酒井 僕はあの録画を酒の肴にして、今でも泣いてますから。あれは永久保存版です、DVDにも焼きました。

林田 泣いてる自分で、また泣けるのがすごいんですよ。去年初めて『バナナサンド』(TBS)に出たときも、酒井は自分のVTR後のコント中に泣き出しちゃって、ろくにコントできなかったんですよ。

酒井 このインタビューの前編でも話したいじめの過去を紹介してもらうVTRで、それをフリにしてネタに入ったらおもしろくなるって思ったんですけど、VTRの時点で僕が一番感極まってしまうという。

林田 自分がインタビュー答えて感極まってるの観ながら嗚咽してましたから。最近は「酒井は泣きグセがついた、すぐ泣くんだから」って事務所の先輩の岡野(陽一)さんに言われてますよ。

──たしかに再出演でリベンジという回でも、コント前のVTRで「生まれてきてくれてありがとう」という母の言葉に泣いて、再びコントどころじゃなかった(笑)。

酒井 あのタイミングで僕を知って好きになった人は、僕のクズな部分を知って、今ごろ幻滅されてるでしょうね。

林田 僕らに興味を持ってラジオとか聴いてみたら、借金のこととかガールズバーの話ばっかり聴かされて、振り幅に混乱するだろうね(笑)。

借金300万円の男・酒井、初めての借金は?

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酒井貴士

──今お話が出ましたけど、酒井さんといえば借金300万円のイメージも強いです。この連載は、芸人の初舞台=ファーストステージについて伺う趣旨でやってるんですけど、今回は酒井さんの借金のファーストステージについて伺えますか。

酒井 初めて借金したのは、大学1年19歳のときアロハシャツを買うためでしたね。クレジットカードを作って1万円くらいの買い物をしたのがスタートです。

林田 そこは普通バイトとかしてお金貯めるところじゃないの(笑)。

酒井 今すぐそのアロハが2枚欲しかったんですよ。当時はショッピング枠が20万くらいだったと思うんですけど、今はショッピングとキャッシング合わせて130万まで貸してくださるようになりましたね。元金は減らないんですけど、毎月ちゃんと利息は収めるから、ありがたいことに借りられる枠がどんどん増えていくんですよ。

林田 すごい信用されちゃってる。

酒井 でも、初めて50万くらいにふくれ上がったときは親に肩代わりしてもらって、全部返したんですよ。そのときアロハシャツも売っちゃいました。

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──一度ゼロに戻ったけど、再び300万円まで増えてしまったんですか。

酒井 はい。高校時代までの話はしましたけど、僕、大学時代も友達ができなかったんですね。学校がオタクの方々か、ヤンキーに二極化してて、どっちのグループにも入れなかったんですよ。

そこでパチンコにハマって、また借金しちゃうんです。50万円一括返済したものだから、信用も上がって借りられる額が増えましたし、ほかにもいろんな消費者金融から借りちゃって、あっという間にふくれ上がりましたね。
あとは、風俗というか……お姉ちゃん系ですね、わははは。

林田 ごまかしてももう遅いよ(笑)。

酒井 風俗系が好きだし、洋服も相変わらず好き。あと、地元の友達と飲むときに奢っちゃうんですよね。感謝されるのが気持ちいいんですよ、「ありがとう」って言葉がうれしくて。ほかにもスクーターをローンで買ったりして、気づいたら300万円になってましたね。今は5社から借りてます。

林田 でも、酒井は返済が遅れたりはしないんですよね。クズになりきってないところがある。

酒井 借金したおかげで楽しい思い出がいっぱいできたんですよ。女の子ともたくさんデートできたし。消費者金融さんには感謝しかないです。

林田 それは返済終わってから話すことじゃない?(笑)

「僕の頭の中を見たら、みんな痺れるはず」(酒井)

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──ザ・マミィはテレビで観る機会も着々と増えてますけど、テレビの世界で理想と現実のギャップを感じることはありますか?

酒井 僕はとにかく自分の狙いどおりのトークができないところですね。トークのおもしろい芸人になりたかったんですけど、一生懸命話すほど空回りして、用意したエピソードにたどり着く前につまずいてしまう……。その慌てっぷりを笑っていただけるのはありがたいんですけど、自分が求めてる笑いとは違いますね。

林田 酒井は意外とスマートなトークで笑わせたいタイプ(笑)。

酒井 頭いい感じの笑いが取りたいです。母ちゃんも「博多華丸・大吉さんみたいになってくれ」って言いますし。コントはともかく、自分はとにかくトークが苦手だなっていうのはテレビに出て実感してますね。僕、頭の中は芸術家さんなんですよ。

林田 うん? 違いますよ(笑)。

酒井 いや、感性はアーティストなんです。頭に浮かんでる絵(笑い)はすごいんですよ。これを世に出せれば、みんな痺れるはずなんだけど、テクニックが追いついてない。

林田 知らなかったな。相方として一度も伝わってきたことないからのぞいてあげたいよ(笑)。

──酒井さんの頭の中の景色をいつか観る日を楽しみにしています。林田さんは何かギャップって感じますか?

林田 僕はあんまり「こうなりたい」って高い理想を描いたり、自分に期待したりしないので、ギャップに落ち込むことは、ほとんどないかもしれないですね。理想像や自分への過度な期待がないのっていいんですよね。養成所入る前も「俺以外、全員おもしろいんだろうな。怖ぇなぁ」と尻込みしましたけど、意外と「アレ? 思ってたよりおもしろいヤツ少ないな」って気持ちに余裕が生まれたり。

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──ザ・マミィとして今後の目標や悩みはありますか。

林田 うーん……。こういうとカッコつけてるみたいですけど、目標とか理想はあんまりなくて、ただ目の前にあることを一生懸命やってるだけですね。
ただ、その一生懸命作ったネタを、もっと多くの人に観てもらうには、どうしたらいいのかは悩みます。

ネタ番組にちょこちょこ出させてもらって、YouTubeでもネタ動画を上げてますけど、僕らってネタでバズったことはないんです。かといって、キャッチーな芸人ではないし、一発当てにいくのも向いてない。ネタをコツコツ磨いて、キングオブコント(以下、KOC)で結果残して箔つけないと、普段お笑いを観ない人たちにザ・マミィを届けるには、賞レースで結果を出すしかない。考えれば考えるほど、そう思いますね。

──たしかにザ・マミィは結成3年目にもかかわらず、勢いのあるコンビというよりは、安定感を覚えますね。経歴だけ見ると、KOCも2年連続セミファイナルまで行き、テレビにもコンスタントに出てトントン拍子なのに。

林田 たしかに「10年以上やってる30代半ばの中堅芸人かと思った」と言われることが多いんですよ。でも、芸歴はトリオ時代合わせて6年ですし、29歳と30歳で若手のほうなんですよね。裏を返せばフレッシュ感はないけど、安心できるコンビってことで、ポジティブに考えるしかないと思ってます。

「バカ殿になりたかったんです」

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──ザ・マミィは誰にも似ていないコンビだと思うのですが、理想の芸人像ってありますか?

酒井 僕はずっと『バカ殿』(『志村けんのバカ殿様』)が好きで、バカ殿になりたかったんですよ。子供のころ最初に観たコントなので憧れが強い。でも聞いたら、志村(けん)さんってすごい努力してたんですって。

林田 当たり前だろ(笑)。ほんとのバカだと思ってたの?

酒井 うん、すごくふざけていらっしゃったからさ。でも、ほんとは『8時だョ!全員集合』(TBS)のころから、裏でめちゃくちゃ努力してらっしゃったみたいで。それはできねぇなって。

林田 諦めたんだ。

酒井 うーん、そうだね。それで、ちょうど昨日、平成ノブシコブシの吉村(崇)さんに言われたんですけど、「酒井は蛭子能収さんだ」って。たしかにああいう生き様が変な人ならいけるかな、と自分でもしっくりきましたね。

──変な人だけど、本業のマンガでは評価されてるみたいな。

酒井 そうです。酒井って変なヤツだけど、コントさせたらすごいじゃんっていう。「生き様はめっちゃくちゃだけど、なんかほっとけないんだよね」って思われるタイプなんだと気づかされましたね。

林田 狙ってボケるでもなく、ずっと本音を言ってるのに、かわいらしくて笑えるというか。いいね、第2の蛭子さん。

酒井 まわりからはそういうふうに見えてるんだってわかったので、これからは自然体でやっていこうかなと思います。

林田 スマートなトークとか狙わずにね(笑)。僕の理想は……もともと、おぎやはぎさんが好きで入ってきたんですけど、蛭子さんと組んでるのに、あの感じは難しいですね(笑)。

結局、バナナマンさんとか東京03さんみたいに、いいとこどりしたいです。単独ライブも続けて、テレビにもちゃんと出ていきたい。舞台一本で生きていきますとは言いたくないというか……。せっかく酒井のキャラクターもあるんで、テレビでもちゃんと愛される芸人を目指せるはずなんですよね。ギリギリまで粘って、どっちも捨てずにやっていきたいです。

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文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=田島太陽

ザ・マミィ
2018年結成。林田洋平(はやしだ・ようへい、1992年9月10日、長崎県出身)と酒井貴士(さかい・たかし、1991年6月1日、東京都出身)のコンビ。『ツギクル芸人グランプリ2019』優勝。『キングオブコント』は2019年から2年連続セミファイナリスト。お笑いラジオアプリGERAで『ねずみの咆哮』のパーソナリティを務める。また、文化放送で9月28日にスタートする新ワイド番組『カラフルオセロ』の火曜パーソナリティに抜擢された。ザ・マミィ Official YouTube Channel

【後編アザーカット】

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