吉住「憧れは満員なのに出待ちのない芸人」|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#5(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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前編ではピン芸人・吉住が、生まれるまでの歩みを語ってくれた本連載<First Stage>。

後編では、ひとりになってからの苦労や初めてのテレビ収録の苦い思い出、優勝を飾った『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』のエピソード、そして意外な今後の目標を話してくれた。賞レースチャンピオンになっても尽きない悩み。未だ発展途上にある吉住の現在地を聞いた。

【インタビュー前編】

吉住「こんなんじゃダメだ」挫折を味わった初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#5(前編)

「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

初めてのテレビ収録で大失敗

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吉住

──テレビの初舞台は『新しい波24』(2016年12月28日/フジテレビ)ですよね。

吉住 はい。そのときはまだ相方を探してたんですけど、ネタ見せのお話が来たのでピンで行かせてもらったんです。そうしたら、あるディレクターさんがおもしろがってくださって。それでそのままひとりでやってるって感じですかね。

──初めてのテレビ収録はいかがでしたか。

吉住 ピンで初めて作ったネタをやったんですけど、思いっきりネタ飛ばしたんですよ……。ボディビルダーのネタだったんですけど、作って間もなかったし、一度客前でやったときもあんまりウケなかったので自信はなかったんです。でも本番の収録では予想外にウケて、それにビックリしてネタが飛んじゃったんです(笑)。

──オーディションには合格したのに、なぜ自信がなかったんですか?

吉住 ネタ見せでは別のネタをやってたんですよ。ただ、それがコンプラ的にどうだろうとなって。当時はピンネタが2本しかなかったので、急遽もうひとつのほうのネタをやりました。

──ネタが飛んだあとはどんな空気でしたか。

吉住 それが、平成ノブシコブシの吉村(崇)さんや岡村(隆史)さんたちが「がんばれ! 思い出せるぞ!」って応援してくださって、場を盛り上げてくださったんですよね。でも、逆に盛り上がりすぎたせいで、初めてのテレビ収録で大失敗する様子がオンエアされちゃいました(笑)。

自分としてはすごく苦い思い出で、当時は「もう二度とテレビ出られない」って落ち込みました。裏に戻った瞬間に膝から崩れ落ちましたし、それから3年くらいは時々その光景がフラッシュバックして。きつかったです……。でも今思えばあれでちょっと肝が据わった気もするので、結果的によかったのかな。

その番組のオーディションの日はいつも、森山直太朗さんの「どこもかしこも駐車場」を聴きながらお台場に向かってて。自分の中ではその番組といえばこの曲となってたので、収録でネタ飛ばしてからしばらくは聴けなかったです……。今はもう聴けますよ(笑)。

「どうも、石原良純です」の真相

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──『新しい波』や『おもしろ荘』(日本テレビ)に出演されて、ピン芸人になってからは、けっこう順調だったのかなと。

吉住 いや、相変わらず焦ってましたよ。『新しい波24』が終わって、そこから抜擢された若手たちで始めた番組『AI-TV』(フジテレビ)にも選ばれなかったですし、『おもしろ荘』も優勝はできなかった。若手発掘のチャンスを逃した上に、変にテレビ出ちゃったからフレッシュさもなくなって、もう売れることはないんだろうって思ってました。

でも、自分では、すごくテレビ出てるつもりでも、意外と誰も観てないんですよね。だから結局ネタを作り続けることが大事だってところに立ち返って。ちょうど『THE W』も始まったので。

──その『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』で吉住さんは優勝されますが、その前も相変わらずでしたか?

吉住 悩んでましたねぇ。直前の『ラフターナイト』(TBSラジオ)でも年間チャンピオンを逃したし、『NHK新人お笑い大賞』も勝てなくて、私は結局勝ちきれないんだなと思って。変な話、お笑いファンにもそんなに刺さってないし、私の芸風はムズいなぁと。そこは『THE W』優勝しても解消されてないんですけど……。

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──しかし『THE W』はそうそうたるメンバーの中、文句なしの優勝だったと思います。ネタ中から手応えはありましたか?

吉住 1本目の『女審判』は出ていったときに、ちょっと反応があったんで「これはやりやすい空気かも」って思いましたね。私の入ったBグループって「死のグループ」みたいに言われてたんで、みんなにも「決勝行けただけですごいよ」って言われてたんですよ。

でもひとりだけ「ゆりやん(レトリィバァ)さんとAマッソさんが肝になる。ゆりやんさんが勝てば、吉住にもチャンスある」って予想してる人がいて。だから出番直前にセットの裏でスタンバイしてたら、ゆりやんさんがAマッソさんに勝ったっていうのが聞こえてきて、「これはあるかもしれない」ってちょっとだけ思いましたね。

──優勝後のコメントでは泣きながら「こんな明るいところにいれる人間じゃないんです……」と言っていたのが、とても印象的でした。あれはとっさに出た言葉でしたか?

吉住 そうですね。「あの言葉に自分を重ねて勇気もらえました」って感想とかもいただけたので、よかったなと思うんですけど、あのときって頭の中では岡野(陽一)さんから託された「石原良純」をいつ言うかばっかり考えてたので、狙ったものではなかったんです。

私の優勝を喜んでくれてる後輩たちの動画がTwitterに上がってて、この間ちょっと見返したんですけど、「どうも、石原良純です」って言った瞬間、後輩たちがシーンとしてて。

吉住 『THE W』が流れてるテレビの音声だけでも、後藤(輝基)さんが一瞬言葉を失ってるのがわかるんですよ。百戦錬磨のMCの方が絶句するって相当じゃないですか……。私の中では、優勝の達成感と、岡野さんからの課題をこなした清々しさとともに番組が終わってたので、「こんな空気になってたのか」と驚きましたね。

優勝しても、すぐに変わらなくてもいい

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──賞レース優勝からしばらく経ちましたが、最近はいかがですか?

吉住 『有吉の壁』(日本テレビ)とか『ネタパレ』(フジテレビ)、『にちようチャップリン』(テレビ東京)に出ると反響があるので、やっぱり私にはネタっぽいことのほうが向いてるんだろうなって実感してます。

「ネタはちゃんとやってるぞ」っていう自信がないと、『ロンドンハーツ』とか『アメトーーク!』(ともにテレビ朝日)みたいなトークバラエティでも、本音が言えなくなると思うので、そこはずっとやっていきたいです。

ライブもやっぱり好きで、直でお客さんの反応が返ってくるのがいいんですよね。舞台に立って「うわーたのしい!」って思うときもあれば、信じられないくらい叩きのめされるときもありますけど……。

──今でも叩きのめされることあるんですね。

吉住 普通にあります。この間も信じられないくらいスベっちゃいました……。最近は「ヘコんでやるもんか!」って変な意地が出てきてるんですけど、そう思うこと自体がヘコんでるじゃないですか(笑)。少しでも落ち込む回数を減らせるようになりたいです。

──優勝してすごく変わったことってありますか?

吉住 ちょっとしたことなんですけど、外食で冒険できるようになりました。今までは失敗したくなくて置きにいってたんです。だから自分にとっては大きな変化です。何かを作り出す上では、いろいろなことを知っておくのがすごく大切じゃないですか。だから初めての料理にも挑戦できるようになったのは、すごくいいことだなって思います。

でも一方で、そんなに急に変わらなくてもいいや、とも思うんです。この間錦鯉さんに「売れてからお金を何に使うようになりましたか?」って聞いたら、(長谷川)雅紀さんは「缶詰をふたつ買うようになっちゃった」。(渡辺)隆さんは「自転車買った」って言ってたんです。おふたりとも素朴だなぁと思いましたし、「そうだよな、そんなに一気に変わらなくていいよな」ってどこか安心させられたので、私もゆっくりでいいかって思いました。

憧れは満員なのに出待ちのない芸人

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──吉住さんの今後の目標ってなんでしょう。この連載では、コント師の方々から「全国ツアーが目標」だという話を何度か聞きましたが吉住さんは?

吉住 全国かぁ……。やりたいなとは思いますけど、私はそこまでの人気がないので、まずはしっかり人気のある芸人になりたいです。ちょうどこの間、芸人仲間と「ピンの女性芸人で全国回ってる人って誰だろう。目指すべきはそこなんじゃないか」って話になって考えたところ、目指すべきは清水ミチコさんだという結論に至りました。

──意外な感じがします。

吉住 芸風はたしかに違いますけど、武道館にひとりで立って、あれだけのキャパを埋めて全方位を満足させる清水ミチコさんのパワーに憧れるなと思って。あと、噂で聞いたんですが、清水ミチコさんは武道館ソールドアウトさせるほどの人気があるのに、出待ちがゼロらしいんですよ。かっこよくないですか? それを聞いて「そういう芸人になりたいなぁ」って思ったんですよね。

舞台上でやる自分の芸だけで完全に満足させて、お客さんは出待ちする必要ないくらい芸の余韻に浸りながら帰っていくって、理想じゃないですか。みんな清水ミチコさんの芸に惹かれてるってことだから。これまでにも何度か「どういう人になりたいですか」って質問されてきましたけど、最新は清水ミチコさんです。

──「文章を書きたい」ともおっしゃってますよね。

吉住 そうですね。でも、エッセイみたいに自分の知識や感情だけで書くと、誰かを傷つけるかもって思っちゃって、芸人のクセに当たり障りのない文章を書いてしまうんです。だったらゼロからの物語を作っちゃったほうが、そういうことを気にせずに書けるかもと思ったので、小説とか書きたいです。

──インタビューはこれで終了です、ありがとうございました。

吉住 ありがとうございました……。すみません、こんなにしっとりとした話ばかりしちゃって大丈夫でしたか……?

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吉住
(よしずみ)1989年11月12日生まれ、福岡県出身。2015年デビュー。2016年ムテンカナンバー解散後、ピン芸人として活動開始。『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』優勝、『R-1グランプリ2021』ファイナリスト。『吉住の聞かん坊な煩悩ガール』(ラジオアプリGERA)は毎週土曜日更新。第4回単独公演『生意気なトルコ土産』は9月24日、25日に開催予定。
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文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽

【後編アザーカット】

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