ラランド「“M-1出場”は売れるためじゃない」|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#6(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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2019年、アマチュアながらもM-1セミファイナリストになり、注目を集めたラランド。その後もフリーで活動したが、今年、満を持して個人事務所「レモンジャム」を設立した。

過酷なお笑いの世界を、独立独歩で突き進むふたり。
しかし社長のサーヤによれば、相方であり社員でもあるニシダこそが、最大のリスクだという。

前代未聞の男女コンビ・ラランドに、前人未到の現在地を聞いた。

【インタビュー前編】

ラランド「今は振り返れない」快進撃の始まった初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#6(前編)

「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

賞レースは“売れるため”じゃない

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サーヤ

──前編では、サーヤさんが卒業して就職し、ニシダさんが学生のままでラランドを続けていたところまで話を聞きました。今のブレイクに至る転機はいつになりますか?

サーヤ 2019年のM-1ですね。それまでは1〜2回戦で負けてたんですけど、そこで準決勝まで行って。そこで一回負けるんですけど、敗者復活戦ってテレビでやるじゃないですか。あそこで初めてテレビに出て、仕事のオファーが来るようになりましたね。

──今までうまくいかなかったのに、2019年にいきなり敗者復活まで行けたのはなぜだったと思われますか?

サーヤ 私は新卒で広告代理店に入ったんですけど、その仕事を通じて、ラランドのことも商品として捉えられるようになったのは大きかったなと思います。

それまでは大学生のサークル活動の延長で記念エントリーしてたというか、自己満足のお笑いをやっちゃってたんですよ。「奇をてらったワード言ってやったぜ、どやぁ」みたいな。でも、仕事するようになって初めて自分たちの漫才を客観的に見られるようになりました。

そこで初めてニシダとも「ツッコミをこういうふうに変えてほしい」とか「こういう漫才をしよう」って話し合ってガッツリ向き合ったら、準決勝にいけたというか。

──仕事の経験が漫才にも活きたんですね。

サーヤ 結果的にそうなりましたね。ちゃんと大衆に届ける漫才を目指す方向にシフトしました。ワードひとつ取っても、これは観てる人を傷つけちゃいそうだな、とか意識するようになりましたし、自分たちにはなじみのある話題でも一般的には知られてないだろうからやめておこうとか。そういう意識の変化はありましたね。

 

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ニシダ

──ニシダさんは、ライブでの自分の好きなお笑いをやるのと、賞レースに照準を合わせて作り込むのとでは、どちらが好きですか?

ニシダ うーん、ライブと賞レースで違いを意識することはほとんどないですね。賞レースだからといって、やりたいことを完全に制限するわけではないですし。本当にちょっと表現に気をつけるくらいの差ですよね。

──今年のM-1に向けて、現在の手応えはいかがですか?

サーヤ こないだ大阪で単独やって新ネタも下ろしたんですけど、まぁこれから調整しつつという感じですね。

ただ、「売れてるし、どうせ出ないでしょ」って言ってくる人がいて、それがすごいイヤなんですよ(笑)。「ラランドはもう売れっ子だし、賞レースなんか出なくてもいいでしょ」って軽口叩くフリして、本音のところは私たちに出てほしくなさそうなヤツっているんですよ。そういう人たちの顔見てると、よけいに出てやろうって気持ちになるというか。

──ラランドが手強いから、ほかの芸人がそう言いたくなる気持ちもわかります(笑)。

サーヤ 売れることと、賞レースで勝つことって全然違うのになって思います。たしかにラランドは若手では売れてるほうですけど、M-1という大舞台で漫才やって、もっと多くの人に自分たちのネタを届けたいという思いは変わってないんで。

相方のスキャンダルで野垂れ死ぬことも考えてる

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──2019年末のM-1以降、メディア露出が増えたラランドですが、今年3月には個人事務所「レモンジャム」を設立されました。

サーヤ ラランドが注目され始めたころって、私は会社員だし、ニシダは学生だったので、活動スタイルが既存の事務所に合わなそうだなと思って、フリーで活動してたんです。

既存の事務所に入ると制約が多くて、二足のわらじでやっていくのが難しかったんですよね。事務所ごとにいろいろルールがあって、毎月必ず出なきゃいけないライブがあったり、先輩の単独を手伝わなきゃいけなかったり、あとチケットノルマがあったりするんですよ。

──とはいえ、プロのお笑いの世界や芸能界に入ったばかりで、いきなり個人事務所でやっていくのは大変ですよね。

サーヤ そうですね。うしろ盾がないので、今後事件が起きたら野垂れ死ぬんだろうなと覚悟はしてます。

ニシダ 死ぬところまで想像してるんだ。

サーヤ 社長だから当然そこまで考えますよ。

ニシダ そうか……。

サーヤ また他人事のように言ってるけど、何かしでかすとしたらニシダだから(笑)。ニシダは女関係でいろいろやらかしてて……。私のインスタのDMに、ある女性からニシダの裸の写真が送られてきたこともありますし、先輩の彼女に手出したこともあって(笑)。

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ニシダ そうですね、はい……。

サーヤ でも私、地元ガチャ成功してるんでそこは心強いんですよ。

──地元ガチャ?

サーヤ 八王子出身なので、バックにヒロミさんがいるんです(笑)。ヒロミさんが八王子出身の著名人を集めた集団「八王子会」にも入れてもらったので、圧力かけられたりしたら、ヒロミさんにチクろうかなと。

──そういえばレモンジャムの事務所にあるテーブルも、ヒロミさんの手作りでしたっけ。

サーヤ そうなんですよ。あと、事務所の備品でいうと、さらば(青春の光)の森田(哲矢)さんからもソファーをいただいたんですけど、あの人もいろいろ乗り越えてきた個人事務所の先輩じゃないですか。森田さんの一挙手一投足はチェックしてかなり参考にさせてもらってます。

──東ブクロさんの相方としてはもちろん、事務所社長としても森田さんは大変そうですよね。

サーヤ そうなんですよ。あと、相方にスキャンダルがあったのに(アンジャッシュ)児嶋(一哉)さんみたいにブレイクできなかったところも、森田さんらしくて好きですね(笑)。

ニシダは何者?

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──事務所設立後、「大阪進出」も打ち出しましたね。

サーヤ 大阪の芸人さんが東京進出するなら、東京の芸人が大阪進出してもいいだろうってことで。お笑いを一からちゃんとやりたいなと思ったときに、お笑い濃度の高い大阪でも活動するのはいいかなと。

最近のラランドって全国区だと、私たちが望まないかたちのオファーも増えてきたんですよ。私だったら「代理店としてのひと言ください」って台本に書いてあって、「そういうことしたくて二足のわらじやってるわけじゃないんだけど」って思うことも増えてたんですよね。ニシダもクズエピソードが本気で引かれてしまったり(笑)。

──ニシダさんも大阪のほうが活きる?

ニシダ 単純に、俺が大学2度辞めてる話とか、さっきの女性関係の話とかクズエピソードって東京だと普通に引かれて終わっちゃうみたいなところがあるんですよ。でも、大阪の人はおもしろがってくれるんで助かります。

サーヤ 関西って変人に対する免疫がめちゃくちゃ強いので、ニシダを見ても「なんやねん、おまえ!」ってすぐツッコんでくれるんですよね。どんな人間でも笑いに昇華してくださる方が多いんです。

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──話を伺っていて、ラランドは経歴も活動スタイルも唯一無二だなという思いを強くしました。ちなみに理想の芸人っていますか?

サーヤ いないですねぇ……。もう令和なんで、既存の形に囚われずいろんなことやれたらなって思ってます。

ニシダ ……右に同じですね。既存の芸人さんで俺たちのモデルケースになる人っていないと思うんで、自由に楽しくできたらなと思います。

サーヤ ……ここまでニシダの話聞いてわかったと思うんですけど、コイツは本当に意志がないんですよ(笑)。

ニシダ ないんです。

サーヤ 志がないんです。

──たしかに、ニシダさんってメディアを通して観てても、クズだってことしか伝わらないというか。あんまり自我が見えてこないですよね……。

サーヤ あはははは(笑)。私とマネージャーも「ニシダは何者なんだ」ってずっと考えてます。どうやったらコイツを活かしてあげられるんだろうって。このインタビュー中もずっとかしこまったフリしてるじゃないですか。後編に至ってはここまでほとんど私がしゃべってますし(笑)。

令和のヤドカリ芸人

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──サーヤさんはニシダさんにどう変わってほしいですか?

サーヤ 単純にもっとやる気を出してほしいですね。「もうサークル活動は終わったよ。これは仕事だよ。お金もらってるんだよ」ってことを自覚してほしい。

ニシダ マジ説教じゃないですか……。

サーヤ 早く会社に売り上げをもたらしてほしいです(笑)。文章書いてみたいっていうから、社長命令でnoteの更新やってもらってるんですけど、それも全然マジメに続けないんですよ。ニシダの芽が全然見えてこない。

ニシダ 見つかってないか。

サーヤ 逆に見つかってると思ってた?

ニシダ 芽だらけだと思うけど……。文章もそこそこ評判いいし、ドラマにも出て俳優としても意外とがんばれたし……。

サーヤ なんで真っ先にお笑いがんばらねぇんだよ! 黙々と文章書いたり、演技したりしてないで、バラエティ番組でしゃべってくれよ!

ニシダ たしかに(笑)。

サーヤ お前が笑うのは絶対に違うからな。ニシダはいつもこうやって他人事みたいに笑うんです。

──サーヤさんの忍耐力が本当にすごいなと思います。

サーヤ まあもうこういう人間だってことはずっと知ってるので……。でも、コンビ解消しようと思ったことは何度かありますよ。ニシダが無断欠勤が続いた時期があったんですけど、それでも全然悪びれないんですよ。私が代わりにどれだけ頭下げたのかもニシダは知らない。あのころは「絶対コイツ切ろう」って思ってましたね。

ニシダ それは感じてました……。このままだと終わっちゃうな、と。

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──でもニシダさんも改心されたのか、今日は予定時刻の10分前に来てくれました。

サーヤ それは最近ニシダがヤドカリみたいに住み着いた家の女性が起こしてくれるからですよ(笑)。

ニシダ ヤドカリって言うな! 同棲です。

サーヤ 家賃払ってないんだからヤドカリでしょ。ニシダは令和のヤドカリ芸人ですよ。

ニシダ 平成のヤドカリ芸人は誰なんだよ。

サーヤ 今ツッコむところ絶対そこじゃないわ。とりあえず今はニシダの仕事量が少ないので、個人のYouTubeチャンネルと、noteの更新をがんばってくれ、というのが会社の方針です。

ニシダ 意志がないので、全部命令で動いてます。

サーヤ 本当にニシダが自主的にやったことってひとつもないよね。

ニシダ はい、ないです。もう奴隷みたいなもんです。サーヤさんに言われたとおり動いてる。

サーヤ 奴隷って、従っても見返りがないみたいな雰囲気出すのはやめてください。ウチ、売り上げもたらさない社員にも、それなりの給料払ってる優良企業ですから。

ニシダ そこまで言われたら何も言い返せないっす……。

サーヤ あはははは(笑)。ニシダの言うことは全部論破できますよ。

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ラランド
サーヤ(1995年12月13日、東京都出身)とニシダ(1994年7月24日、山口県出身)のコンビ。2014年、上智大学のお笑いサークル「SCS」で結成。2018年『お笑いサークル団体戦 NOROSHI』に「オデッセイ」として出場し、優勝。翌年末にはアマチュアながら、『M-1グランプリ』のセミファイナリストとして敗者復活戦に進出。2021年2月には個人事務所「レモンジャム」を設立。サーヤが社長に就任し、ニシダは正社員となった。YouTubeチャンネル『ララチューン【ラランド公式】』には、ネタ動画やさまざまな企画動画をアップする。『ラランド・ツキの兎』(TBSラジオ)や、『ラランドの声溜めラジオ』(GERA放送局)でラジオパーソナリティを務める。また、サーヤ単独のレギュラー番組に『トゲアリトゲナシトゲトゲ』(テレビ朝日)や『ラランド・サーヤの虎視舌舌』(文化放送)がある。

文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽

【後編アザーカット】

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