「コントでスベった傷は、演劇で癒やす」サルゴリラ、しずる、ライスが、演劇ユニット「メトロンズ」の活動にハマるワケ<First Stage>#17(後編)
サルゴリラ、しずる、ライス、そして作家・演出家の中村元樹による演劇ユニット「メトロンズ」。
昨年、第1回公演を行った彼らだが、今年11月にはもう第4回公演を行うという。名の知れた中堅コント芸人の彼らが今なぜ、演劇に打ち込んでいるのだろうか。
メトロンズでは笑いを取ることを我慢して、ストイックに演技に打ち込むという6人。「芸人活動もメトロンズに還元するため」とまで語るその情熱の理由を聞いた。
【インタビュー前編】
「お芝居でもコントでもないニュージャンルですよ!」後輩芸人に激賞され、自信をつけたメトロンズの初舞台<First Stage>#17(前編)
若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。
目次
笑わせるのを我慢して、演技に集中する
上段左から:中村元樹、関町知弘(ライス)、児玉智洋(サルゴリラ)、田所仁(ライス)
下段左から:村上純(しずる)、KAƵMA(しずる)、赤羽健壱(サルゴリラ)
──メトロンズは公演を重ねるごとに、演劇性が増してるなと思います。笑いどころを細かく作るより、ストーリーと演技で勝負してるというか。
児玉 作家の(中村)元樹が演劇をよく観てるから、そこは頼りきりです。最初のころは何もわからなかったから、そこから比べるとずいぶん変化したとは思います。
村上 第0回公演なんか、元樹に負担かけまくってた。
メトロンズ 第0回公演『KASAMATSU』
中村 完成台本を途中からどんどん変えられて(笑)。
KAƵMA 「ここは変えたほうがいいんじゃない?」とかみんな無責任に言っちゃうんですよね。で、元樹さんが書き直してくれたのに自分で意見したのも忘れて「なにここ? 微妙じゃない?」って言ったりして……。
中村 そうそう(笑)。
村上 真剣に取り組んではいるんだけど、方法がまったくわからないから、ひたすら元樹に頼ってた。最初はみんな本気で演技することの照れもあったけど、それすら踏まえて元樹が演出・作家として作品として仕上げてくれたのは大きかったよ。
中村 でも最近はみんなも慣れてきたよね。
赤羽 セリフ覚えも早くなった。
中村 ちゃんと稽古にも集中するようになって……。
村上 やっぱそう思ってたよね! ほんとに迷惑かけてきた……。
中村 芸人が6人集まったらすぐ遊んじゃうのはもうしょうがない(笑)。でも今は集中力も芸人の域を超えてきたなと思う。
──最近でこそ、ダウ90000の活躍だったり『キングオブコント』で演技要素が重視されたり、コントと演劇の境目が曖昧になりましたが、芸人ユニットで芝居に専念することに抵抗はありませんでしたか?
田所 芝居への抵抗感はあんまりないんですけど、芸人として我慢しなきゃいけない部分は大きかったです。
──どんな我慢をしてるんでしょうか。
田所 演技はもちろん楽しいんですけど、コント芸人として笑いを狙いにいくのを我慢するのが大変なんですよ。ここでアドリブしたら、笑い取れるぞっていうのは、芸人だったらわかる。でも、そこをこらえて演劇に徹せるようになりました。それが最後までできなかったのが、ウチの相方で……。
関町 まぁまぁ、ウチの相方もね。
児玉 ライスのふたりで足引っ張ってる(笑)。
関町 僕は言葉、相方は動きで笑い取りにいっちゃうんですよ。
村上 たしかにそうだねぇ。
関町 それを元樹が稽古のときに言ってくれるんですよね。「仁、今のコミカルすぎるでぇ」とか。
児玉 ありがたいんだよね、芸人同士だとなかなか言えないから。
関町 そうそう。
児玉 笑いを取りにいきたくなる気持ちはわかるんで、なんなら僕らも悪ノリで脱線していくんですよ。そこをちゃんと修正してくれるのが中村です。
ふざけちゃうライスと、かわいすぎちゃう赤羽
関町 本番ってウケを笑い声で実感するから、そっちに流れてっちゃうんですよね……。
村上 演劇では公演初日が終わって緊張感がふっと途切れて、2日目にダレることを「ニオチ」って言いますよね。俺たちの場合は、3日目でコントになっちゃう「サンオチ」。それはいつも元樹に注意されてました。尺も伸びちゃうし。稽古で1カ月作り込んだのに、公演でウケると、その後もコントの間でやっちゃったりするから、どんどん上演時間が伸びてく。
関町 お客さんもそれを知ってるのか、3日目が毎回売り上げ弱いとか……。
村上 メトロンズの3日目、ふざけすぎちゃうからダメだよって噂が広まってるかもしれない。
赤羽 そこまで知ってたら、だいぶ事情通だよ(笑)。
児玉 でも次回はそれも克服するので……。
赤羽 全日程まんべんなく来てください!
関町 僕らはだいぶよくなりましたけど、まだ克服できてないのは、赤羽のかわいさでしょう。これはけっこう笑えない問題なんです。
赤羽 いや、笑ってくださいよ(笑)。たしかに初回と2回目ではバカキャラをやったんですけど、僕のバカキャラはどうしたってかわいくなってしまうんです。
──赤羽さんは、かわいさが抑えきれない……。
赤羽 第3回公演では、怖いキャラをやったんで、かわいさを抑えられて、元樹にも褒められたんですけど……。
児玉 それでも稽古中は注意されてたよ。
村上 「健、あそこはちょっとかわいいな」って(笑)。
児玉 元樹の台本にも「健、かわいい」って書いてあるし。
村上 そういう児玉も「健! ちょっとかわいすぎる!」って言ってたよ。サルゴリラのネタ合わせは、いつもああなの?
赤羽 そんなことはないですけど……(笑)。メトロンズでは、相方にかわいすぎるって言われちゃいますね。
村上 おじさん同士で「かわいすぎる!」「ごめん、かわいくなっちゃうなぁ……」って言い合ってる。
赤羽 それも真剣に。でも僕は無意識にかわいくなってしまうんですよね。
村上 かわいいの天才じゃん。
赤羽 僕がどうやってかわいいを封じるのかは、ひとつ見どころです!
児玉 自分で言うなよ。
KAƵMAの尋常ならざる承認欲求
──公演の準備はどれくらい前からするんですか。
KAƵMA 今回はチラシの準備とかもあって、脚本の締め切りが早かったんですよ。6月には脚本を書き始めましたね。
村上 本番は11月末だから、半年くらい前からやってる。
KAƵMA みんなに認められるなら、それくらいがんばります。
児玉 俺たちはとっくに認めてるよ(笑)。
赤羽 KAƵMAは承認欲求の塊。
村上 死ぬまで満足できないんじゃないの。
KAƵMA メトロンズやってる間は、みんなが褒めてくれるからいいんだよ。次回公演までの間に消耗する……。マジメな話、しずるは今でも平気でいろんな舞台でスベるんですよ。そうすると、「このままで大丈夫か……?」って不安になる。
それをメトロンズで挽回してるんです。コントでスベった傷を、演劇で癒やしてる。脚本にみんなが意見くれるのも、俺が持ってきたネタが、みんなを刺激できてるって安心するし。「俺はまだいいネタ書けてる、続けていいんだ」って思えるんだよ。
みんなには初めて言うけど、かなり助けてもらってます。
一同 はははは(笑)。
KAƵMA みんなもたくさん案くれるのに、脚本が自分の名前で出てるのもありがてぇなと思ってる。
田所 いや、95%はおまえが書いてるからだよ(笑)。
児玉 めちゃめちゃ謙遜してる。
KAƵMA でもほかの劇団だったらこんなふうに意見もらえたりしないと思うんだよ。
田所 あぁ、そこはたしかにそうか。脚本家に口出しって普通ならできないけど、同期芸人な集まりだから、言い合えてる。
──メトロンズはKAƵMAさんの脚本をみんなで叩き合う。民主的ですね。
KAƵMA そこは初回から変わってないですね。みんなで意見を出し合ったほうが絶対おもしろくなるっていうのは、メトロンズの立ち上げから共通認識です。全員ネタ書けるから、できることですけど。
田所 いや、関町は書いてないよ。そこはハッキリさせときたい。
関町 いや! 僕も書いたことある! 1回はある! 大丈夫です!
村上 そこ毎回食い下がるよね(笑)。
赤羽 品川(祐)さんにいつも怒られてるよね。
関町 「ネタ書いてる感じ出すなよ」って言われますね。(東京03の)飯塚(悟志)さんにも言われたな……。でもそこは、コイツ(田所)がネタ書いてる感を出さなすぎなんですよ。
赤羽 メガネかけてるから書いてる感出ちゃう。メガネが逆なんだよね、ほんとは仁がメガネかけるべき。
村上 そんな単純な話かな?(笑)
「チケット即完したら泣いちゃう」
──今後の目標はなんですか?
児玉 やっとチケットが売れてきたので、まずはこのまま継続することですね。
KAƵMA 伸びしろがある感じがうれしいよね。
村上 即完なんてした日には……。
児玉 泣いちゃうな。
村上 即完記念打ち上げするくらい。
赤羽 しちゃうね(笑)。
田所 芸人活動とは違う力の入れ方だから、メトロンズが認められたらうれしいっすよね。
──3組の実力、経歴、人気からいうと、即完してないのが意外です。
村上 いや、僕らみんな単独ライブも即完しないですよ。
田所 来年で芸歴20年ですけど、これくらいの芸歴の人たちが単独ライブやっても、なかなか売れないんです。そんななか、メトロンズが伸び始めてるのはすごくうれしい。
──中年になっても伸びしろを感じられる活動があるのはうらやましいですね。
赤羽 たしかに。おじさんの希望になりたいっすね!
田所 この年齢で人気者になるにはそこしかないな。
村上 錦鯉的な感じでね。
──ゲストを呼んだ公演も観てみたいです。
田所 役者さん呼んで公演打てたらおもしろそうですよね。
赤羽 できたらいいね!
村上 でもそのためには、もっとでかくならなきゃいけない。役者の方に「メトロンズに出るの、すごい!」って思ってもらわないと。先方にメリットがないとしょうがないんで。
KAƵMA そういう意味でも今回の公演が正念場っすね。まぁ本番前はいつも同じこと言ってるんでしょうけど。それでも今回は今までと全然違うから、どう評価してもらえんのか想像つかない。怖いね!
村上 今までの3作品と違うから、元樹がどう演出するかも気になる。
中村 過去3作はひとまとまりにできるけど、次回は別のカテゴリーに入るくらい違うからね。難しくなりそうです……(笑)。
──楽しみです。やはり全国ツアーも目標のひとつですか。
村上 やりたいよー!
関町 こないだライブで呼んでもらって、福岡行ったのも楽しかったね。
KAƵMA やっぱ地方の人がどう評価してくれるかはすごい気になるんで、早くやりたいですね。
──ネタ番組にも出演されてますが、メトロンズでどのようにテレビに出ていこうと考えてますか。
田所 ネタ番組は、あくまでもメトロンズを知ってもらうために出させてもらってるので、僕はテレビ意識してないですね。
村上 ほんとの役者さんみたいな答え。
一同 あはははは(笑)。
村上 でもたしかに「SIX GUNS」時代に作った5分ネタのおかげでネタ番組に出れるのは、演劇ユニットとしては強みだね。
KAƵMA 今では芸人活動を一生懸命やるのも「メトロンズに還元するため」ってところあるよな。活動の中心はメトロンズ。
田所 少なくとももうひとつのコンビって感覚はある。同じくらい大事。
赤羽 うん。
田所 このメンバーがテレビ出てるの観ると、昔よりすげぇうれしいんだよ。
赤羽 わかる。「相方が出てる!」って思う。
田所 逆にサルゴリラが今年の『キングオブコント』で決勝に行けなかったのムカついたわ。
関町 俺も電話で児玉に怒っちゃった。最初は「惜しかったなぁ」って励ましてたけど、だんだんイライラしてきちゃって。「お前らが決勝行ったら、メトロンズも売れたのに! なんで落ちたんだよ!」って。
児玉 一番落ち込んでるときにその電話来たなぁ(笑)。
村上 それはひどい(笑)。でもみんなそれくらいメトロンズに賭けてるってことで。
KAƵMA こんなことになるとは思ってなかったなぁ。
村上 俺たちがここまで本気ってことが、なかなか伝わってないのが問題だわ。
関町 インタビュアーさん、ぜひこの機会にインタビュー記事で伝えてください。ちょっと盛ってでもいいんで……。
──盛らなくてもじゅうぶん伝わりますよ。
赤羽 そうだよ。本気度が伝わらないのは、大事なとこでふざけちゃうからなんじゃないの。
一同 あっはっは!(笑)
文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=龍見咲希、後藤亮平、田島太陽
メトロンズ
サルゴリラの児玉智洋(こだま・ともひろ、1979年11月14日、東京都出身)と赤羽健壱(あかば・けんいち、1979年4月6日、東京都出身)、しずるのKAƵMA(かずま、1984年1月17日、埼玉県出身)と村上純(むらかみ・じゅん、1981年1月14日、東京都出身)、ライスの田所仁(たどころ・じん、1982年10月28日、東京都出身)と関町知弘(せきまち・ともひろ、1983年3月2日、東京都出身)、作家・演出家の中村元樹(なかむら・もとき、1980年4月3日、京都府出身)の7人による演劇ユニット。2019年結成。『メトロンズ Official YouTube Channel』にて過去の公演映像をアップロードしている。第4回公演『Pump Up Boys!』は、11月30日から12月4日まで赤坂RED/THEATERで開催。チケットは前売当日ともに5000円で、FANYチケット、チケットぴあで販売中。初日公演の配信は1000円(1カメラ)、 千秋楽公演の配信は2500円(カット割り)で、FANY Onlineチケットにて販売中。
メトロンズ第4回公演『Pump Up Boys!』
11月30日(水)から12月4日(日)まで東京・赤坂RED/THEATERで開催。詳細はこちら!
『ももクロちゃんと!』にメトロンズが出演!
テレビ朝日にて12月3日(土)と12月10日(土)深夜3時20分~放送の『ももクロちゃんと!』にメトロンズが出演するので乞うご期待!
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