「ネタが弱くなったら辞める」コントに心血を注ぐファイヤーサンダーが抱く野望とは?|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#41

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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『キングオブコント2025』、ファイヤーサンダーは芸能人の復帰を風刺したブラックなネタで話題を呼んだ。

2023年から3年連続ファイナリストとなり、すっかり『KOC』の常連となったが、ここまでくれば勝負は時の運。その一歩が、遠い。

しかし、きっとまた不死鳥のごとく決勝に舞い戻るであろう彼らは言う。目標は「KOCで2回優勝」だと。

ネタ作りを担当する﨑山祐の自負。ストイックな相方に食らいつくこてつ。ネタ狂いのふたりに『ABCお笑いグランプリ』優勝から、『キングオブコント』決勝までの話を聞いた。

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『ABC』優勝も総スカン

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左から:こてつ、﨑山祐

──2015年に上京し、ワタナベエンターテインメントに所属が決まったファイヤーサンダーですが、それからの活動はいかがでしたか?

こてつ 2018年に『ABCお笑いグランプリ』で優勝するまでの時期が、芸人として一番しんどかったですね。バイトもしながら毎日ネタ合わせ。今でこそ﨑山が100%ネタ作りをしてくれてますけど、当時は僕も5%くらい考えなきゃいけなくて、プレッシャーがすごかった。

﨑山 大げさですよ、設定のタネを考えてもらってただけですから。

こてつ でも「家族会議」とか「節分」とか1日10個も出さなきゃいけないんですよ。合計2000個くらい送ってますから。あのリスト、売れたら絶対公開しようと思ってたのに、ケータイ壊してデータが全部消えたんですよ。悔しすぎる……。

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﨑山 そんな重たい注文はしてないし、何も間違ったことしたと思ってないんですけどね。

こてつ いやいや、毎日10個って大変やで!

﨑山 さっき自分でも言ってましたけど、こてつは5%ですからね。僕が95%ってことは、こてつの何十倍も大変ってことじゃないですか。そういえば、僕がちょうどネタにしようと思ってたアイデアをこてつが送ってきたことがあって、こいつの手柄だと勘違いされたらイヤやなってネタを捨てたこともあります。

こてつ ヤバっ! 最悪や……。俺が送った意味ないやん。

﨑山 まぁ本当はあるある的なシチュエーションを出してほしかったですよ。でもさすがにこてつにはムズいのがわかってたんで、その手前でお願いしてたんです。

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──こてつさん的にはつらい3年間を乗り越え、2018年には『ABCお笑いグランプリ』で優勝しました。この大会で非・吉本&松竹の芸人が優勝するのは史上初の快挙でしたね。一度は大阪を出て、下剋上を果たした。

﨑山 優勝できるわけないと思ってたんで「ラッキー」くらいの感じでしたよ。どうせ、からし蓮根が優勝するんでしょって。下剋上なんて少しも考えてなかった。

こてつ 「やった! お祭りに参加できる!」と思ったら優勝。ひとつも心の準備ができてなかったです。

﨑山 こてつは「これで売れてしまう! どうしよう!」ってテンパってましたね。

こてつ 思ってました。人間としてはなんにもおもしろくないから、テレビに出されても何もできないって焦ってて。

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﨑山 でも結局、ほとんどテレビに出なかったんですよ。東京の事務所の芸人だから、大阪の番組にも呼ばれなくて。ABC製作の深夜ドラマにちょろっと出たくらい。

こてつ あと、ダイアンさんのラジオ『よなよな…』にも出たよ。

﨑山 それもABCの打ち上げで僕が「ダイアンさん好きで……」って言ったらその場で決まって翌日出させてもらったんですよね。僕も優勝直後は「これでなんか変わったらイヤやな」って不安でしたよ。「家のある阿佐ヶ谷に今すぐ帰りたい!」って思ってました。打ち上げにいた、さや香の新山にも「テレビってどうすればいいの?」って聞きましたもん。

こてつ これは売れてない芸人、誰もが感じる不安なんですよ。「急にテレビ出てもなんもできん!」っていう。

﨑山 まぁ僕らには完全にいらない心配でした。

焦るこてつ、冷静な﨑山

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こてつ 僕は今でも思ってるんですよ、『ABC』で披露した『無人島』と『ダイイングメッセージ』のネタは『キングオブコント』(KOC)で優勝できるネタだったって。あそこで出してなければあの年の『KOC』で優勝できたんじゃないかっていまだに後悔してます。

﨑山 いや、今のネタのほうが全然おもしろいよ。相方がそこわかんないんだ……って感じですよ。

こてつ もちろん今のほうがおもしろいけど!

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﨑山 いや、どっちのネタも浅いです。『無人島』なんて「こんなん誰でもできるわ」って1時間半くらいで書いたネタですもん。『ダイイングメッセージ』もこんな発想あるでしょって感じだし。途中、好きなボケはありますけど、今のネタとはかなりの差があります。明確に!

こてつ いやいやいや、まだ色あせない衝撃があるよ。もし今新ネタとして出してもめちゃめちゃウケる。自信持っていいよ。

﨑山 いや、今のほうが全然おもしろいです。

──『ABC』優勝が2018年、そして『KOC』で初めて決勝に行ったのは2023年でした。かなり時間がかかった印象でしたが、むしろふたりは『ABC』がラッキーだったっていう認識だったんですね。

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﨑山 はい、だからそれから『KOC』までの5年間、僕はまったく焦ることなく一歩ずつ上がってる気持ちでしたね。でも、こてつはすごく焦ってたんですよ。

こてつ そうなんですよねぇ。『ABC』優勝したときって僕がちょうど30歳だったんですよ。親にも「30歳になって、なんの結果も出んかったら芸人辞める」って言ってて、あのタイミングで優勝したから親も喜んでくれて。でもその勢いのまま売れるつもりだったのが、5年間バイトも辞められなかったんで「いやもうしんど……」ってつらかったです。

──大阪吉本で一緒だった蛙亭やさや香が先に『M-1』と『KOC』の決勝に行って、それも焦りますよね。

こてつ そうですね。『でかぷっしゅ!!』っていう新ネタライブで一緒だった空気階段、オズワルド、真空ジェシカあたりがお笑いだけでごはんを食べ出したりして。俺らとあいつらで何が違うんやろってすごく思ってました。

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──逆に﨑山さんはなぜそんなに落ち着いてたんですか?

﨑山 おもしろいネタは全然できてたんで、このまま続けてればそのうち僕らの番が回ってくるでしょうと。自分がおもしろいと思えるネタが作れなくなったら焦ってたでしょうね。ただ、2020年に『キングオブう大』で、う大さんにめちゃめちゃ低い点数をつけられて、「﨑山のキャラクターとネタが合ってない」と言われたので、少しフォームを崩した気はしますね。

──そうだったんですね。

﨑山 そのアドバイスを意識して作ってみてもうまくいかなかったんですよ。『KOC』も2年連続で準決勝に行ってたのに、2021年は準々で負けましたし。でもそれで開き直ったんですよ。今までどおりいっぱいネタ作って、その中から俺のキャラとネタが合ったやつを選べばいいかって。その結果、あれから5年経って、自分のやれる幅も増えてきたんでよかったですよね。『KOC』の決勝行ってう大さんにも「これでいいね」って言ってもらえましたし。

KOC決勝、CM中の審査が命運を分けた?

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──2023年、ついに『KOC』の決勝に行きました。初決勝はどうでしたか?

こてつ 前日のカメリハから緊張してましたね。しかもあの年に披露した『日本代表メンバー発表』っていうネタで、僕が声をつぶしまくってたんですよ。だからまた決勝直前に喉を壊したらどうしようっていう不安もありました。四つん這いになって大声出すんで、負担がエグいんですよね。

﨑山 僕は当日、出番の2個前くらいから緊張してましたね。僕らの出番がけっこうあとのほうで、それまでは楽屋でモニター観てるんで、家でテレビ観てる気分でしたし。スタジオに降りてから、いよいよか……ってなりました。

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──ネタ中はどうでしたか。

﨑山 ウケてたんで調子よくやれましたね。まぁもっと点数高くてもよかったですけどね。

こてつ 僕らの出順が8番手ですけど、ずっと1位から3位が固定だったところに3位で食い込めた。おかげで大会の盛り上がりを一個作れたのはすごくうれしかったですよ。

──2024年は惜しくも3位。そして2025年は5位でした。今回のネタが『復帰』というかなりブラックなネタで話題になりました。

﨑山 あれは3月くらいに作ったんですけど、『KOC』に持っていくようなネタじゃないと思ってたんですよ。それでYouTubeにもすぐアップしましたし。でも、準決前にもうストックがないなぁってことで『復帰』を提出してみたら通ったんです。それでやっちゃおうみたいな。

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──決勝審査員のかまいたち山内(健司)さんからは「ブラックなのを扱うときって、それで誰か笑ってない人がいるんじゃないかなっていう不安を、観てる人が抱く危険性がある」「自分はおもしろいけど、誰か大丈夫かなって思っちゃうところまで踏み込んでた」という評価でした。ああいう声が出てくることは予想してましたか。

﨑山 思ってました、思ってました。でもまぁ、「もうちょっと高くつけてる人がもうひとりくらいいてもいいんじゃないの?」とも思いましたけどね、めっちゃウケてたし。小峠(英二/バイきんぐ)さんなんて大好きで、97、8点つけてくれるんじゃないの、と思っちゃってました。

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こてつ 体感としてはめっちゃウケてたんです。でも、僕らのネタが終わったあとCMに行って、そこから会場全体が一回冷静になった気がするんですよ。お客さんがネタを振り返って「おもしろかったね、どこで笑ったっけ? うん? 殺人……? それって笑っていいんやっけ?」っていう顔に変化していくのがめっちゃわかった。それで俺らと目を合わせるお客さんがいなくなってって。

﨑山 音響さんのブースから審査員の手元が見えたらしいですけど、審査員の方々も点を入れては消して、とかやってたらしいですよ。

──長考されてしまったのが仇となった?

﨑山 いやぁ、どうなんでしょうね。それがどっちに転んだのかはわかりません。

ネタが弱くなったら芸人辞める

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──最後に、これから踏みたい初舞台を教えてください。

﨑山 『キングオブコント』2回優勝ですね。1回も優勝してないですけど、ここから2回優勝したいですね。

こてつ ……らしいです。

──普通、芸人は賞レースを卒業したがるのに、その意欲はすごいですね。

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﨑山 いや、僕も本当は辞めたいですよ、やっぱしんどいですから。ただ、賞レースを辞めると、本当にネタが弱くなるんです。それはもう仕方ないことなんです。たとえば今回の『復帰』も3月にでき上がった時点でもたしかにおもしろかった。でも、それから叩いていくなかで明らかによくなったんです。賞レースを辞めると、この「ネタを叩く」っていう作業をしなくなるんで、どうしてもネタが弱くなる。

──ネタが弱くなっても芸人を続けている人はいるわけですが、﨑山さんはそうしない?

﨑山 僕はネタが弱くなっちゃうくらいなら芸人辞めますね。後輩から「最近、ファイヤーサンダーのネタ弱くなったよね」とか言われたくない。やっぱ正直僕らもそういう話をしてるんですよ。だから、言われる側には絶対なりたくない。僕は一生、ムキムキでいたい。

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こてつ ……いや、すごい道行くなぁ(苦笑)。もちろん僕も一生ネタはやりたいんでついていくしかないけど。ただ、僕はいろんな人とネタやりたいな欲もあるんですよね。ユニットコントでもなんでも、いろんな人の表現に参加したい。

﨑山 まぁ僕もユニットはやりたいですけど、やっぱりコンビのネタ。ここが弱くなったら辞め時です。

文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平

ファイヤーサンダー
﨑山祐(さきやま・ゆう、1991年3月11日、和歌山県出身)とこてつ(1987年12月16日、大阪府出身)のコンビ。2014年結成。2018年『ABCお笑いグランプリ』で優勝。『キングオブコント』では2023年から3年連続ファイナリストとなった。2025年に開催した第3回単独ライブ『まだ足りない』のDVDが発売中

【後編アザーカット】

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