ラッパーに転身して現実をプレイする──“天竜川ナコン”とは何者なのか?

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天竜川ナコン(てんりゅうがわ・なこん)
東京生まれ、東京育ち。YouTubeチャンネル『現実チャンネル』を中心に活動するクリエイター。2025年に長年勤めていた会社を辞めラッパーに転身し、人生初のHIP-HOPアルバムリリースに向けてクラウドファンディングを実施中。

2025年11月、「会社を辞めて、34歳からラッパーを目指します」と表明した“天竜川ナコン”。長年勤めた会社を辞め、ラッパーという新たな人生を歩み始めることを決意した。自らをインターネットピエロと称する彼は、YouTubeチャンネル『現実チャンネル』で、何気ない日常を「現実 実況プレイ」として、自身の哲学を語る動画シリーズや散歩動画を多数公開している。ラッパー、動画配信者、ブロガー……複数の顔を持つ天竜川ナコンに、彼自身初となるインタビューを敢行。「散歩もフリースタイルで」と語る天竜川ナコンとは、いったい何者なのか、インタビューを通してその謎に迫っていく。

10年勤めた会社を辞め、ラッパーに転身

──インタビューを受けたことって、これまでありますか?

ナコン まったくなくて、初めてです。普段、動画では人とおしゃべりすることも特にないので、すごく怖いですね。

──怖がらないでください(笑)。失礼ながら本日は「天竜川ナコンとは何者か?」というテーマで、ご自身について話していただければと思います。

ナコン はい、よろしくお願いします。

──YouTubeでいろいろな動画を拝見しました。最初は本当に何者なんだろう?という気持ちで見始めたんですけど、いつの間にか「めちゃくちゃいいこと言うなあ」って共感してハマってしまいました。

ナコン ありがとうございます。

──「自己紹介をお願いします」と言われたら、どんなふうに人に伝えてるんですか?

ナコン それが質問の中で一番難しくてですね(笑)。まあ普通に言うんだったら、ラッパーで、動画制作者で、ブロガーで、という感じで伝えています。親戚とかには「YouTubeでなんかおもしろそうなことやってるよ」とか、ちょっと漠然とした言い方をします。

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──ラッパーとして活動するために、勤めていた会社を退職されたそうですね。

ナコン 新卒から入って10年ぐらい働いた会社を辞めて、今ラップをしているっていう状態です。実は今、動画を週1で投稿しながら本も書いていて、それも並行してやってはいるんですけど、大部分の時間を音楽に使っている感じですね。

──音楽への思いものちほど伺いたいんですけど、まずはYouTubeチャンネル『現実チャンネル』について教えてください。登録者数が5万人以上の人気チャンネルですが、登録者数が増えたきっかけは何かあったんですか?

ナコン 5年ぐらいやってるんですけど、あんまりバズったことがなくて。このタイミングで伸びたなっていうタイミングもなく、徐々に増えていった感じで。動画で100万回再生行ったこともなくて、曲を投稿した動画がジワジワ伸びて、最終的に15万回になってるのが一番の再生数ですね。あと「現実 実況プレイ」っていう動画シリーズが、たまに10万回行くぐらい。

──これからバズる可能性を秘めたチャンネルなんですね。

ナコン すごく素敵な言い方を(笑)。ありがとうございます。

──そもそも動画配信をやるようになったのはどうしてなんですか。

ナコン 29歳ぐらいのときに『現実チャンネル』を開設したんですけど、そのとき一番最初に投稿した動画が、HIP-HOPのミュージック・ビデオ(「証明(prod.YONTZ)」)だったんです。そこから、曲に限らずいろんなことをやってみたいなっていう気持ちもあったので、チャレンジしたっていうかたちですね。一番初めに作った動画が、「現実 実況プレイ」っていうシリーズの「キムチ鍋攻略」というやつで。

キムチ鍋の食材をスーパーで買ってきて、それを作って食べて、最後に大声で何かを言うっていう(笑)。そういった現実をゲーム実況的に切り取ると、また違う感じなんじゃないかなと考えて、作ったと思います。

──反響はいかがでしたか。

ナコン そんなに驚くほど反応があったわけではなく……。ただ、そこまで労力がかかるものではないなと、無理なくやっていけるな、という感覚はありました。

──YouTuberとしてキャラクターを作って、というわけでもなく?

ナコン そうですね、基本的に現実で起こったことしかやってないので。しゃべり方とかは自分なりに気をつけたり、キャラクターを作ったりしたところではあるんですけど──ヤンキーマンガがすごく好きだから「べらんめえ口調」がなんか好きで(笑)。そういうパワフルなしゃべり方に憧れて、ああなっているのかもしれません。

──それは現実の自分とは違うんですか。

ナコン 真逆だと思います。

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──ご自身を「インターネットピエロ」と称してますよね。それはどういう意味なんでしょう。

ナコン 自虐的な意味が込められてますね。結局、僕が今インターネットでこういう“出し物”をやってるのって、インターネットの「いいね」のシステムだったりとか、そういったものに踊らされているなという自覚が薄々あるんです。そういうシステムに乗っかって、そういうことをやってるのって恥ずかしいという前提があるので、「インターネットのいいねが生んだピエロおじさん」っていうことをたまに言ったりするんですけど(笑)。それを略した言葉が「インターネットピエロ」です。

──動画を拝見すると、自虐的なことを言っている半面、何か物事に対するアンチテーゼとして言葉を発しているようにも感じました。

ナコン ああ、それはそうですね。そこに対しては自覚的になったほうがいいかなと思うので、アンチテーゼ的な意味も込めて、あえて言うようにしてます。

「嫌」と言えずズルズル続けた少年野球

──動画制作を始めてから、こういうことを目的に、こうやっていこうという筋道みたいなものは、何かできていったのでしょうか。

ナコン 大枠はあんまりないですね。たとえば登録者10万人とか100万人に行きたいという目標を持ってるわけでもないですし、お金がいくら欲しいとかいうのも正直あんまないんです。でも「こういうふうになりたい」という気持ちは漠然とあるような気がするんですよね。

──そういう漠然とした思いが、noteで発表していた「「想像上の妻子」と結婚したら、自己肯定感が上がった話」みたいなことにつながるんですかね。ああいう発想ってどんなときに生まれるんですか?

ナコン 一週間のうちで「何か新しいことやりたいな、考えたいな」と思う時間があって、そういうときに、ざっくばらんにノート帳みたいなところに書いたりはしています。その中で、やってみたいことをもうちょっとふくらませたりとか、電車の中で何気なく思いついてずっと覚えてることだったりとかを出し物にしたりして、企画は考えてます。

──「現実さんぽ:昭和記念公園編」で、「内向的で誰ともしゃべりたくないという気持ちと、とはいえなんとかなるだろう、という自分が共存している」という言葉が印象的でした。もともと内向的な人なんですか?

ナコン めっちゃくちゃ内向的ですね。やっぱり人の集まりが苦手というか。だから小学校から大学まで、会社に入っても、あんまり「集団になじむ」みたいな感覚を持ったことは今までなくて。たとえば、みんなで集まって(サッカー)ワールドカップとか見たりするじゃないですか? そういうことにも、いまいち乗りきれない自分がいるんです。それをひと言で表すと「内向的」になるのかなっていう感じがしてますね。

──今は人前に出るわけではないにしろ、人に何かを伝えているわけじゃないですか? 何かをクリエイトしていくことに関しては、そこに自分じゃない自分がいるんですかね。そういう葛藤があるから「自分の悪いところ自覚王 選手権」みたいなことをやって、自問自答していらっしゃるのかなと思ったんですけど。

ナコン あれは元気がないときにやった出し物で。どうしても気持ちが落ち込むときはあるじゃないですか? そういうときに自分の場合は、「これも出し物にしちゃいたいな」という気持ちがあったりして。そのひとつとして、自分の悪いところを100個言うっていうことをやってみました。

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──そういうことをやって、自分自身で気づくことはありますか?

ナコン 企画自体がチャレンジングだったし、それで若干元気になったところはありました。「意外と俺、悪いところ100個言えるんだな」みたいな(笑)。ちょっとベクトルが違うかもしれないけど、謎の達成感とかはあったりします。

あと、街を長距離歩く動画とかも撮ってるんですけど、実際1日で50キロ歩いてたりするので。その中で歩きながらしゃべったりしてると、どんどん考え方が整理されてく感じがしますね。本当はこういうことが言いたかったけど、こういうふうに言えたとか。

──今のナコンさんになるまで、小さいころから振り返ってみると、あんまり変わってないですか?

ナコン 根本的には変わってないですね。あんまり人とお話しして、何か気づきや学びを得たとかっていう経験は比較的少ないなと思っていて。どちらかというと、自分の頭の中で良くも悪くもぐるぐる考えちゃってることが、ここ2年ずっと続いていて、それが動画というかたちで出てきてしまったみたいな(笑)。

──それが今のナコンさんなんですね。小さいころはどんな子供だったんですか?

ナコン 小さいころの自分は野球をやっていたんですけど、野球自体に興味がなかったりとか、内向的だったっていうこちもあって、毎週野球に行ったら怒られるみたいな日々がずっと続いてたんですよ。監督とかコーチは誰かの父兄がやっていたんですけど、その方がけっこうヤンキー上がりみたいな人で(笑)。その人が、僕がうまくできないとめっちゃ怒るみたいな状態だったんです。そのときから、「人って怖いんだな」っていう気持ちがあったんです。

──野球は好きで始めたんじゃないですか?

ナコン 親が野球をやっていて、「あなたもやりなさい」みたいに入れてもらった感じです。だから進んでやりたかったわけじゃないんですけど、小学校1年から中学1年の夏ぐらいまでやってたんですよ。そこで本当に嫌になって辞めたっていう感じです。

──そこまで嫌いだったら、普通はとっくに辞めてますよね。

ナコン そこが、僕の悪いところだなと思うんですよ。嫌なことを嫌って言い出せなかったんですね。本当は小3のときから嫌だったので、親に嫌って言えばよかったんだけど、それがどうにも言えなくてズルズル続けちゃったんですよ。中1のときは学校で陸上部にも所属していて、課外活動として野球部にも所属していたので、陸上部という所属組織がひとつあるんだから、課外活動の野球のほうは辞めてもいい、みたいな感じで辞めやすかったのかなと思います。

──スポーツ以外に好きだったものとか、趣味とかはなかったですか。

ナコン 高校のときも陸上部だったんですけど、途中で辞めて帰宅部になって。趣味といえるものが特になかったですね。強いて言えば動画を見るとか。“無”ですね。何もなく、“無”です。

──“無”を感じながら日々を過ごしていた?

ナコン 自分が「これだ!」と思えるものが、あんまりわからなかったんですよね。アイデンティティがないというか。だから本当に何もやることがなくなって、高2の終わりぐらいになぜか受験勉強をし始めるんですよ。別にそれまで勉強もやってなかったんですけど、「これだけはやっておかないとまずいんじゃないか」みたいな気持ちになって、受験勉強を始めて。それが、高校時代で唯一のアイデンティティですね。それ以外何もやってないです。

──そこから大学に進んで就職してっていう。

ナコン そうです。

“無”から芽生えたラッパーへの憧れ

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──“何者かになりたい”っていう言葉を見たんですけど、いつそういう気持ちが芽生えたんですか? それまでは“無”だったわけですよね。

ナコン もともとHIP-HOPが好きでずっと聴いてたんですけど、大学に入ったぐらいから「せめて音楽とかやってみようかな」みたいな気持ちになってラップを始めたんです。動画サイトにラップの曲を投稿するコミュニティがあったんですけど、そこで同世代の人が有名になったりとかしていて。それを見てうらやましいというか、同じことをしてるはずなのに自分はそんなに見てもらえないなっていうのがコンプレックスではあったんです。それがたぶん“何者かになりたい”みたいな気持ちだったのかなと思いますね。

──“無”と言いつつ、HIP-HOPという拠りどころはあったんですね。

ナコン それはおっしゃるとおりです。映画とか音楽とかも好きで、そういう受動的に見るやつはめちゃくちゃ見てました。

──影響されたラッパーっています?

ナコン KREVAさんにはけっこう影響を受けてるかもしれないです。シンプルな言葉なんですけど、ちょっと奥行きのあることを言っていて、音楽としてちゃんと成立しているようなしゃべり方、ラップをしてるし、そういう奥深さには惹かれました。こんなに簡単な言葉で人の心を動かせるんだって感銘を受けましたね。

──音楽以外で、おもしろいことを言うほうの文脈で、もともと好きな人っていましたか?

ナコン 『オモコロ』(※WEBメディア)はけっこう影響を受けてますね。実際にマネをしたりとかもしてましたし。それと、ラッパーのノリアキにはめちゃくちゃ影響受けてます。ラッパーとは真逆の出自の方が、首からチェーンをかけてラップをされているんですけど、その姿や姿勢にとても影響を受けました。

──曲作りって、どんなふうに始めたんでしょうか。

ナコン 安いマイクと録音機材を買って録音してみたり、当時ラップのうしろで鳴ってるような音楽を作れるアプリがあって、それで作曲をしたりしてました。ライブは誘われて2回ぐらいやったんですけど、考えてきたことを人前で発表するっていうのは、けっこう好きだなと思いました。

──それは、今の動画を作って発表することと同じ感覚ですか?

ナコン まったく同じだと思います。自分で考えて、それをそのとおりやるみたいなのが好きですね。

──ナコンさんにとってラップをやることと、動画で歩きながら話してることって、あんまり線引きがないようにも感じます。

ナコン 表現の仕方が違うだけで、言ってること自体、全部同じだと思います。なので線引きを設けたり、「こういうときはこういうことを言う」とかも変えるつもりがないです。ただただ、自分が言いたいことをいろんな表現を使って言っていくだけっていう感じではあります。

──noteでは「「新品の赤ちゃん」と伊豆を旅行したら、親の気持ちが少しわかった話」という記事を書かれていましたけど、街中で声をかけられたりしたんですか?

ナコン いや、意外とかけられなかったですね。無事ミッションはクリアしました(笑)。

──「【検証】ディズニーランドは1日で最大何周できるのか」とか、「自分の悪いところ自覚王 選手権」とか、観ていて正直きつそうだなというのがあるんですけど、これはもう二度とやりたくない、途中でやめたかったという企画はありましたか?

ナコン 「縛り旅」っていう動画シリーズがありまして、京都駅から大阪湾まで徒歩で歩いたり、異常な距離を歩く企画が多いんですよ。それをやってる途中で「もう二度とやらないな」って思ったりはします。すごくきつくて(笑)。

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──終電後に夜中の街を歩いてる動画を観ていたら、「どこにいても疎外感を感じる」「夜中の松屋にしか発せられないオーラがあんだよな」「夜が我々を主人公にしてくれる」とか、あ、これ自体がもうラップなんだなって。

ナコン ははははは(笑)。よく観ていただいて、ありがとうございます。マジでそうですね。本当にラップを書くときと同じような考え方で、いろんな動画を撮ってます。自分の言いたいことっていうのが、すごく領域が狭いんです。僕の中で「これは普遍的なんじゃないか」と思えることがあって、そういうことだけを言いたいなと思っていて。

──夜中に歩きながらポエムみたいなことを言ってたら絶対共感しないと思うし、普通に街で歩いて見たリアルなことを自分の感性で言葉にしてるから、共感するんでしょうね。

ナコン たしかにそうですね。散歩しながらしゃべるのって、フリースタイルみたいなもんですからね(笑)。

ヤフコメが怖い──やるからには誰かを傷つけたくない

──最初にアップしたMV「証明」は、「誰にもなれやしない日々」という歌詞から始まってますけど、「何者かになりたいけどなれない自分」が、すべての表現の核になっているのでしょうか。

ナコン それはめちゃくちゃあると思います。今はそうでもないですけど、昔は本当にそういった気持ちが強かったですね。「何者かになりたい」みたいな、ぼんやりとした気持ちがあって、それがコンプレックスになって創作に反映されていた気がします。今はありがたいことに動画を観ていただける方も増えて、そこの気持ちはある程度払拭はされたんですけど、「証明」を出した当時はそういう気持ちが一番強かった感じがします。

──「どこにいても感じる疎外感」という意味ではいかがですか?

ナコン それはやっぱりありますね。「天竜川ナコン」で出させていただくぶんには、僕のことをみんな知っているからまったく感じないんですけど、ひとたび本名で、たとえば同窓会とか、異業種交流会とか……。

──参加するんですか?

ナコン いや、参加しないですけど(笑)。仮にそういう場所があったとしたら、僕はすごく苦手だし、行きたくないなと思います。

──HIP-HOPの世界って「仲間が大事」みたいな感じがあるじゃないですか? ああいうのはどう思いますか。

ナコン 友達と一緒になってのし上がっていくみたいなのは、ラップ界隈だとスタンダードではあるんですよね。だからそれと真逆のことはしたいなって感覚はあって。まず僕にHIP-HOP的な仲間がいないし、その内容もまったく真逆に近いものを表現したいなっていう気持ちもあるし、差別化もできるかなと思って、そうしてる部分はあります。

──ラッパーとして「人生」を賭けたHIP-HOPアルバムを創るために、クラウドファンディングをやっていらっしゃいますが、その理由や原動力について聞かせてください。動画の中で、「恥ずかしいけど、はっきり誰かの助けになろうとしている」とおっしゃっていますが、抽象的な表現をするアーティストが多い中で、そういう明確なメッセージを口にしていることに、非常に感銘を受けました。

ナコン ありがとうございます。

──それは自分がある程度満たされたから、そう思うようになったのか、それともラッパーとして生きていきたいという原動力として、誰かの助けになりたいという気持ちがあったのか、教えてください。

ナコン 大前提として、創作というもの全般が人の助けになると思っているんです。絵とか小説とか音楽も、全部そうだと思うんですよね。その中で、いろんなアーティストが「自分がやりたいからやってるだけです」とか、抽象的なことをお話しされているとは思うですけど、やっぱりみんな恥ずかしいから言わないだけで、たぶんみんな誰かの助けになりたいとは思ってると思うんです。だから、逆にそれをちゃんと言っちゃったほうが誠実だなと思って言ったという背景はあります。

──現時点で、クラウドファンディングは目標の100万円を遥かに超えた金額が集まってますね。

ナコン めちゃくちゃありがたいし、ここまで行くとは本当に思ってなかったですね。なので、責任が重いなという感じはします。いい内容にして、ちゃんと届けたいです。

──アルバムのタイトル『人生』にはどんな思いが込められているのでしょうか。

ナコン アルバム自体が僕にとってそういうものというメッセージもあるし、内容も過去に何か思ったこととかを、ある程度整理して時系列のかたちで伝えていったりとかするものを想定しているので、そういう意味でこのタイトルがいいかなと思っています。

──今の段階で、アルバム制作はどれぐらい進んでいますか?

ナコン 9曲入れようと思っていて、そのうち2曲はほぼ完成してます。残りは、ほぼ歌詞とうしろに鳴ってる音楽がある状態で、あとはがんばって歌うだけという段階です。

──クラファンを始めたことは、Yahoo!ニュースでも取り上げられましたよね。どう思いました?

ナコン 怖かったですね。正直いうと、取り上げないでほしいなって(笑)。友達の友達とかがヤフコメで見たとか聞いたりとか……それがすごく怖かったです。

──今日のインタビュー記事が載ったら、もっと自分のことを知られるわけじゃないですか? それは怖くはないですか?

ナコン それは大丈夫です。インタビューの内容って、基本的には僕が話す内容でしかないじゃないですか。Yahoo!ニュースの記事の捉え方とコメントの捉え方って、僕はまったく知らないので、そこがめちゃくちゃ怖いっていうことです。

──実際、何かコメントが書いてあったんですか?

ナコン いや、何回か見たんですけど、今のところ書いてなかったです。それはそれで寂しいんですけど(笑)。

──ナコンさんは、自己顕示欲みたいなものはあるんですか。

ナコン めちゃくちゃあると思いますね。そうじゃなかったら、たぶんここにいないとは思います。ただ、その自己顕示欲の出し方には、けっこう気を遣ってます。「俺ってすごいだろ」とか、そういった自慢めいた顕示欲はまったくないと思います。

──自慢もそうですし、人に迷惑をかけるようなことはきっとしないようにしてるんだなって思いました。

ナコン 人に迷惑をかけることはしたくないですね。何か出し物を出している以上、見た人が傷ついてしまうことって絶対あると思ってるんですけど、意図して誰かを傷つけようとは絶対しないようにしています。

──そういえば、「AIに付き合って貰えるまでラブレターを送りました」という動画がありましたよね。AIってどう思ってますか?

ナコン AIは、実は「現実チャンネル」という名前を付けた由来にもなっているんです。5年前ぐらいに、おぼろげながらAIの元みたいなものが世に出始めていたとき、当時「まずいな」と思ったんですよね。SFが好きなので、このテクノロジーは発展するだろうなと思っていたし、そうなると僕が大好きな文章を書いたりとか、動画を作るとかも、たぶんそれに代替されるだろうなって思ったんですね。

会社勤めをしていたとき、僕は大枠ではクリエイティブ関係の仕事をしていたんですけど、自分のYouTubeチャンネルとか自分が顔を出して発信する媒体がないと、僕が会社で創作をする機会っていうのは失われると思ってたんです。それで始めたのが『現実チャンネル』なんです。

今、僕たちが普通に過ごしている考え方自体や、何に幸せを覚えるかとか、全部変わっていくと正直思っていて。それぐらい危機感はあります。もう不可避的にAIは発展していくだろうし、その中で消去法的に、どういう考え方で生きていけば楽しく暮らせるんだろうっていうことはずっと考えています。

──個人個人が考えてやっていかないといけないということでしょうか。抗うわけでもなく、依存するわけでもなく。

ナコン 僕の考えだと、抗うことはできないと思います。だからどっちかというと、考え方を変えるほうにシフトしていく感じかもしれないですね。たとえば、僕がもともと自分しかできないなと思っていた音楽もAIはたぶん作れますし。そうなると多くの人が、アイデンティティを失いかねない。それってけっこう深刻だと思っていて。そうなったときに「自分って結局なんだったんだっけ?」みたいな気持ちにならない準備はしたほうがいいと思っています。

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──アルバムが世の中に出た先に、見据えている展望があれば教えてください。

ナコン あんまりないですね。アルバムの反応とかは、正直想像ができないと思っています。ただ、ライブは一回やりたいなと思っていて、その準備は並行して進めていきたいと思っています。あとは、HIP-HOP界みたいなところに今まで所属できたことがないので、有名なラッパーの方にも何か心に残ってほしいっていう思いはあります。「意外といいラップするね」って言われたいです。

──HIP-HOPクルーに加わらないか、みたいな声がかかったらどうしますか。

ナコン たぶん、人とチームになることはないだろうなと思います(笑)。

──すごく根本的なことを聞きますけれども、人にはあんまり興味がないですか?

ナコン 人に興味がないわけではないです。ただ、その人がどんな考えで今そういうことをしてるのかとか、そういった部分のほうにどちらかというと興味があるかもしれないです。

──「ナコンさん大好きです」っていう人たちが5人ぐらい来て、週末にバーベキューに行きましょうって言われたら?

ナコン 行きます! わざわざ好きだと言ってくれる人は拒絶したりはしないですよ。ただ、やっぱり大人数は苦手ではあるので、若干抵抗はあるんですけど……。

──何人ぐらいから大人数と考えてますか?

ナコン 4人以上ですかね(笑)。4人以上はちょっと苦手なんだけどっていう気持ちは若干ありつつも……でも行きます、行きます。

──今さらなんですけど、「天竜川ナコン」ってどんな由来があるんですか。天竜川っていうのは何か出身地とか想像しちゃいますけど。

ナコン ナコンは、「江戸川コナン」のもじりです。天竜川については、特にゆかりはなくて、カッコいいからつけました。竜がカッコイイし、天がついてるし(笑)。

──現実をプレイしていくなかで、ラップ以外に興味があることって何かあります?

ナコン 創作全般にすごく興味がありますね。動画も興味がありますし、本を書いたりするのも興味があるし。最終的には、映画とか小説を作りたいなと思っています。

──現実を生き抜く術みたいなのって何か見つかりましたか?

ナコン あんまり悲しい気持ちになりすぎないというか、絶望しないというか、それが大事だなと思います。僕自身がそういった悲しい気持ちとかを過大評価してしまうきらいがあるので、そういうのを意識して避けていくというか。嫌なことがあってもほかの人にとっては大したことないだろうとか、なんか今日生きていくお金はあるしとか、そういういい捉え方を選んでいくことが大事なのかなと思ってます。

取材・文=岡本貴之 撮影=Jumpei Yamada(Bright Idea) 編集=宇田川佳奈枝

 

天竜川ナコン クラウドファンディング

“ラッパーとして「人生」を賭けたHIPHOPアルバムを発売します”
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