『THE W』王者・にぼしいわしが振り返る、人気者への対抗心がきっかけだった高校時代の初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#39

2024年、『女芸人No.1決定戦 THE W』第8代チャンピオンに輝いた、にぼしいわし。
このふたり、実は高校からの同級生である。結成は2010年、高校3年生のとき。『ハイスクールマンザイ』に出るためだった。
クラスの隅っこにいたふたりは、なぜ女子高生で漫才に手を染めたのか。14年かけて、ひとつの頂点を極めたふたりが、そのルーツである「初舞台」を振り返る。
若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。
『THE W』優勝から『すてきにハンドメイド』へ

左から:香空にぼし、伽説いわし
──『THE W』優勝おめでとうございます。
にぼし ありがとうございます!
いわし まわりからは「今年はいける」って言われてたんですけど、自分たちでは信じられなかったんですよ。去年の『M-1(グランプリ)』は3回戦で負けて、戦意喪失してましたし。
──事務所に所属しないフリー芸人の優勝は史上初。さらにファーストステージと最終決戦を2本とも漫才で勝ちきったのも初めての快挙でした。さらにネタも『シャネルのおばんざい』と『アイドルのうんこ』で、ぶっ飛んでいた。
いわし そうですね(笑)。『アイドル』なんて、アイドルのライブ現場でやらせてもらえましたからね。『シャネル』もTHE Wにハマってよかったです。こういうネタって設定から尻すぼみになりがちなんですけど、そうならなかった。
──偉業を成し遂げたにぼしいわしのふたりに「初舞台」をテーマに話を伺いたいのですが、そもそもどんな子供だったんですか。

いわし 私は小中のころはマジメな委員長キャラで、朝から晩までバレーボール部の活動だけしてました。朝6時に起きて、夜は9時に寝る生活。
──お笑いは見てたんですか?
いわし そのころはまったく見てないんですよ。ほんまに部活と勉強しかしてなかった。あとは友達とどう過ごすかにけっこう重きを置いてました。小中はけっこう目立つコミュニティにいてたんですよね。
──にぼしさんは?
にぼし 小学校のときはずっと空手やってて、途中から少年野球とミニバスをやり出して、中学高校はソフトボール部に入りました。
いわし 編み物もそのころからずっとやってるんよな?

にぼし 小4の冬休みの宿題で初めてやりました。自由学習みたいなんで、なんか作ろうかなと思ってマフラーを編んだんですよ。達成感あったんですけど、先生はみんなの提出物を「はい、はい」って(事務的に)集めてて。「よくがんばったね」とか褒められもしなくて、ちょっとショックやったっていう。
──でも、編み物にはハマったんですね。
にぼし そうですね。小学生のときから、夜中の2時くらいに急に目が覚めて「作りたい!」ってなっちゃって。押し入れガサゴソやり出して、毛糸出してきて暗闇で編むみたいな。
いわし それが今ではNHKの『すてきにハンドメイド』まで出させてもらうんやからすごいよ。
にぼし THE Wのおかげで夢が叶いましたねぇ。
委員長キャラとナチュラル迷惑の出会い

──ふたりは高校生のときに出会うんですよね。
いわし 最初の出会いからあり得へんかった。入学してすぐの健康診断で、みんなが体育館に行こうと廊下に並んでるとき、ずっと教室に居残ってカバンをガサゴソしてたのが、にぼしで。気になって「何探してるん?」って聞いたら「何も探してない」って返されて。
──初めて言葉を交わしたのに、ずいぶんぶっきらぼうですね(笑)。

いわし 私もまだ中学から上がりたてで委員長キャラだったんで「早よ、行かなあかんよ」って言ったんですけど、にぼしは「なんで?」って言ってくるんですよ(笑)。でもそれがなんかおもろいなぁってなったんですよね。変なヤツやなって。
期末テストとかも始まる直前に、ゆうゆうと遅刻してくるし。みんな、ギリギリまで教科書見てて、もう片付けてるから、早く席についてほしいんですよ。なんなら、こいつだけギリまで教科書をちらっと見てたりするし(笑)。
そんなにぼしを囲んだ6人組で、教室の隅っこに固まって仲よくやってました。まぁクラスの人気者を「あいつら、おもんないわ」って腐してる、最悪な感じでしたけど(笑)。にぼしは人にちょっと迷惑かけても、全然気にしてない感じがおもろかった。
──にぼしさん、トガってたんですね。
にぼし 全然トガってるとかいう意識はなくて、本当に自然体で生きてただけで……。でも、この人たちにイジられて初めて、うちってすごくアカンねやって気づきました。

いわし 私はバレーボール部で、にぼしがソフトボール部だったんですけど、部室がつながってたんですよ。それでよく、にぼしが先輩に「話聞いてる?」って叱られてるのが見えてました。
にぼし 3カ月前の洗ってない靴下が出てきたりして、怒られてましたね。3年生になっても、新1年生より先生に怒られてました。1時間半とかぶっ続けで……。
いわし にぼしは叱られても、響かないんですよね(笑)。
──いわしさんと出会う前はどうだったんですか?
にぼし 私の地元は難波の隣で、かなり都会だから子供がほぼいなかったんです。小学校は1クラスしかなくて、中学は2クラス。みんな小さいころから一緒なんで、誰かが変なことしてもツッコむ気も失せてるみたいな。高校に入って初めて知らない人と出会って、「うちはおかしいんや」って気づきました。
いわし おかしいっていうか、ちょっとズレてるんですよね。あまりにもありのままなんで、結果的に迷惑になってるっていう。
初舞台はウケすぎた?

──ふたりは『ハイスクールマンザイ』に出たんですよね。いわしさんはほとんどお笑いも見ていなかったのになぜ自分でやってみようと思ったんですか。
いわし 私たちが「あいつらおもんねぇ」ってうがった目で見てたクラスの人気者が、文化祭で漫才をしてたんですよ。それがトータルテンボスさんのネタを丸パクリ。関西の学校なのに関東弁でやってるのもイタいし、しかも2本もやってるんですよ(笑)。
「いや、お笑いするんやったら自分でネタ書けよ」「私らのほうがおもろいわ」って急に火がついて、なんか大会出ようやって探してたらハイスクールマンザイを見つけたんです。結局、クラスの人気者に嫉妬してただけなんですけどね(笑)。
──仲よしグループは6人組だったのに、なんでこのふたりで出たんですか。
いわし そのグループは、1年生のころは同じクラスで仲よかったんですけど、クラスが別れて、自然と離れていったんです。
にぼし 大人になってってんな。

いわし そうそう、年相応の高校生になってなぁ。でもうちらはずっと食堂でどれだけいっぱい食べられるかみたいな競争してた(苦笑)。なんとなくみんなの成長に追いつけてないふたりだったんです。だからその6人グループにも、部活の友達にも言わずに出ました。
にぼし 親にも言ってない。
いわし 親に言えなかったのは、にぼしの成績が悪すぎたからやろ。9科目中、8個赤点ってあり得へんよ。化学とか4点ですからね。そりゃ「漫才なんかするな」って言われるわ。
にぼし 「9打数8安打」とか言われてました。本当に勉強嫌いになってしまって……。
──逆にどの科目が大丈夫だったんですか。
にぼし 美術です。
いわし 副教科のテストなんて触りしかやらんから、あいさつ代わりみたいなテスト(笑)。

──話を戻すと、ハイスクールマンザイが初舞台になるんですか。
にぼし その前に一回練習で出ました。
いわし ワッハ上方(大阪府立上方演芸資料館)でやってたフリーライブみたいなのに出ましたね。「“にぼし”と“いわし”で“にぼしいわし”でーす!」って舞台に出ていって、当時、にぼしが学校でやってたインド人みたいに首を振る(※インド古典舞踊のアイソレーション「スンダリ」のマネ)っていうノリをやったんですよ。「覚えてね〜」って言いながら首を動かすっていう。
にぼし そしたらウケすぎて、びっくりしてネタが飛んじゃった(笑)。
いわし 授業中に先生が黒板になんか書いてるときに、バレないようにやってたノリが、あんなにウケるとか意味わからんかった。そのときは「そこまでおもろないで!」って思ったんですけど、たしかに私も初めて見たときは大爆笑してたわって(笑)。

──今はその首の動きやってないんですか。
にぼし やってないですね、首動くかわかんない……。「覚えてね〜」(首を左右に揺らすが、あまり動かず)。
いわし あぁ、全然違うわ。昔は肩くらいまで首いってたから。
にぼし (首を動かし続ける)
いわし あ、ちょっとうまくなってきてる。ここで感覚取り戻さんでよ。
──(笑)。ちなみに初めてやったネタはどんな感じでしたか?
いわし どれやったっけ。
にぼし ワッハは蚊ぁのネタで出たで。
いわし そうやったっけ。
にぼし 何やったっけ、蚊を叩きつぶすと……。
いわし にぼしが「うち、蚊ぁ殺したいねん」って言って、「どうしたらいい?」「叩いたらええねん」ってことで、私が蚊になりつぶされる、みたいな漫才コント。最後は歌声で殺すみたいな(苦笑)。
──ネタはすでにいくつかあったんですか。

いわし そうですね、とにかくいっぱい書いてました。
──ネタ作りに関して、にぼしさんはノータッチ?
いわし 基本、ないですね。「これ、どういう意味?」って聞かれたり、「やりにくいから言い方変えていい?」とかはありますけど。
にぼし 言葉なじみがないときは「私が言いやすいようにちょっとセリフ変えていい?」って言うくらいです。
いわし にぼしはお笑いがわからへんねんな。
にぼし だからお任せしてるんです(笑)。
──じゃあ『X』っていうネタのにぼしさんは、けっこうリアルなんですか。ネタツイにマジレスするみたいな。
いわし あぁ、まさに。普段からああいう感じですね。
ハイスクールマンザイで「もう、プロやん!」の洗礼

──初舞台でネタが飛ぶって、けっこう落ち込みますよね。
いわし 悔しかったですね。部活をちゃんとやってきたふたりなんで、「悔しい」に敏感なんですよ。それでハイスクールマンザイはちゃんとやるぞってなって。
にぼし 高3の夏休みで部活も引退してたから、毎日ネタ合わせしてた。
いわし 毎朝8時にチャリこいで、お互いの家の中間にある高台の上で、昼まで練習してました。午後は予備校やったから。
にぼし 今考えたら、ようやってたな。
──ネタはいわしさんが書いてた?

いわし そうですね、私が誘ったってところもあったんで、そこはやろうと。でも最初に言ったように、今までテレビでもお笑いを見てこなかったんでけっこう大変でした。それでbaseよしもとにも通ったり、NSCの先輩方のフリーライブに行ったりして勉強してました。
──熱心ですね。
いわし そこは小中学生のときの生真面目さが出てて、やるんやったらとことんやろうと、いろいろ見漁りました。
──しっかり準備をして挑んだハイスクールマンザイは、いかがでしたか。
いわし 予選、準決勝、決勝があって、準決で負けました。準決の時点で、今の霜降り(明星)のおふたりが別のコンビで出てらっしゃったり、レインボーの池田(直人)くんとか、隣人の橋本(市民球場)さんがいたりして。うちらが「どや! おもろいやろ!」って出ていったら、「もう、プロやん!」みたいな人たちがゴロゴロいたんです。そのときはレインボーの池田くんに負けましたね。池田くんは1個学年が下で、翌年に優勝してました。

──しかしすごいメンツですよね。
いわし そうですね。粗品さんはほかの高校生からあいさつされてたんですよ。すでに高校生だけでハコを貸し切ってライブやったりしてて有名人でした。
にぼし 粗品さんのコンビ「スペード」は舞台に出てきただけで「わぁ!」って沸いてたよな。
いわし せいやさんもうますぎた。
にぼし なのに、うちらにも話しかけてくれてな。「おもしろかったよ」って。
いわし 今も『(霜降り明星の)オールナイトニッポン』(ニッポン放送)で当時の思い出を話してくれて、ありがたいですね。
ちゃんと知った上で戦えていれば……

──そこで「いい思い出ができたね」と終わらなかった。
いわし 負けたことで、もっと火つきましたね。めちゃめちゃおもろい人を見て、「こんな世界があるんや」って初めて知った。それまでうちらは教室の隅っこから人気者を見て「あいつらより、うちらのほうがおもろいわ」と思ってきたけど、全然やった。
──井の中の蛙だった。
いわし この世界を知ってしまったんなら、やりきってから辞めたいなって思ったんです。それに、ちゃんと知った上で戦ってたら、もうちょっとうまくいったんちゃうかなっていう悔しさもあって。高校生のお笑いコミュニティに参加してネタを磨いていたら、もっといいとこまで行けたんじゃないかって。

──がむしゃらにやってるだけじゃダメだと。
いわし そうですね。努力以外の部分で負けたと思ってました。だから全部知った状態でやってみて、それでもダメならあきらめられるなと。それでハイスクールマンザイが終わってすぐ「NSCに入ろう」ってにぼしを誘って。
──プロを目指すのは大きな決断ですけど、にぼしさんの返事は……。
にぼし ええよぉって言いました。
──(笑)。
いわし いや、まだハッキリとは了承してないよ。ずっとなんとなくついてきてる(笑)。
にぼし そうやったっけ。はははは(笑)。
文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平

にぼしいわし
香空にぼし(きょうから・にぼし、1992年6月13日、大阪府出身)と伽説いわし(ときどき・いわし、1992年7月2日、大阪府出身)のコンビ。2010年、高校3年生で結成。2012年、大学在学中に大阪NSCに35期生として入学し、2013年にデビューするも、翌2014年に活動休止。『女芸人No.1決定戦 THE W』では4度ファイナリストとなった(2019年、2020年、2022年、2024年)。そして2024年、大会史上初めてフリー芸人として優勝を飾る。2025年10月28日には個人事務所「株式会社A-dashi」を登記申請し、同日に記念ライブを開催予定。にぼしは文筆業、いわしは編み物でも活躍する。YouTubeチャンネル『にぼしいわしの吹き溜まり』も更新中。
【前編アザーカット】




【インタビュー後編】
にぼしいわしが語る『THE W』優勝までの道のりと、次なる漫才のスタイル|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#39