なぜガンダムは長く愛されるのか?サブスク時代のアニメ新常識とムーブメント──DJ・KO KIMURA×アニメ評論家・藤津亮太

Dig for Enta!

kk-fr_3_th

KO KIMURA 木村コウ(きむら・こう)
国内ダンスミュージック・シーンのトップDJ。クラブ創成期から現在までシーンをリードし、ナイトクラブでの活動のみならず、さまざまなアーティストのプロデュース、リミックス、J-WAVE『TOKYO M.A.A.D SPIN』(毎月第1金曜日27:00〜29:00)にてラジオDJとしてなど、国内外で活躍中。2025年、DJキャリア40周年を迎えた

藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。地方紙記者、週刊誌編集を経てフリーのライターとなる。主な著書として『「アニメ評論家」宣言』(2003年/扶桑社、2022年/ちくま文庫)、『アニメと戦争』(2021年/日本評論社)、『アニメの輪郭』(2021年/青土社)などを出版。最新刊は2025年3月刊行の『富野由悠季論』(筑摩書房)。

2025年春アニメの注目作品は?

──前回から1年ぶりの対談になります。また春アニメの時期がやってきましたが、今年も豊富なラインナップです。さっそくおふたりの注目作を伺えますでしょうか?

木村 最近は、おじさんが活躍するアニメを好きになってしまいますね(笑)。

藤津 『片田舎のおっさん、剣聖になる』は評判いいんですよ。

木村 勢いでどんどん話が進んでいくから観やすいですよね。再放送の作品もありますが、次シリーズを予定しているから予習っぽい感じなんですかね?

藤津 『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』も7月に新シリーズ『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない』を放送するし、『その着せ替え人形は恋をする』も、この次があるので新作に向けての“つなぎ”ですね。

──藤津さんはどうですか?

藤津 オリジナルを中心に上げると『アポカリプスホテル』と『LAZARUS ラザロ』は、タイプは違う作品ですけどツカミはじゅうぶん強く、オリジナルアニメのおもしろさ──デザインやアイデアのユニークさを含めた目新しさ──を実感しています。『アポカリプスホテル』は人類が地球からいなくなっちゃってロボットだけがホテルを守っていて、そこに宇宙人がやってくるという設定。コメディではあるんだけれどもロボットが来るか来ないかわからないお客さんをずっと待っているという、ちょっと物悲しい要素が軸にあることで、すごく独特な味になっていますよね。

『LAZARUS ラザロ』は渡辺信一郎監督のアクションモノ。しかも『ジョン・ウィック』のアクション監督が協力していて、普通のアニメよりも、手の動きや足さばきとかが複雑で細かく、本当のアクションスターがやっているような仕上がりです。しかも主人公は驚異的身体能力があるのでパルクールみたいな動きができるという設定で、アクションだけでも話が持つというか、番組のウリとして成立しているんですよね。

木村 音楽とかもちゃんとしていて、海外で売るために作ったのかなあと観ながら考えていました。

藤津 もともと勧進元がカートゥーン ネットワークなので、そういう意味では海外の企画なんです。プロデューサーはJoseph Chou氏で、最近だと神山健治監督の『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』(2024年)をプロデュースしています。もともとはアメリカで働いていて、OVA『アニマトリックス』のプロデュースとかをしていたんです。その方が日本で会社を作り、プロデュースと実制作を手がけています。渡辺さんにアクションモノをやりませんか?とだいぶ前に声をかけたのもChouさんだと聞きました。そういう流れの中の企画なので、海外へのアプローチも最初から頭に入っていると思います。

木村 『サムライチャンプルー』(2004年)や『カウボーイビバップ』(1998年)とかも海外でのウケがいいですよね。

藤津 そうそう、海外で愛されています。映画『ブレードランナー 2049』(2017年)に合わせて短編『ブレードランナー ブラックアウト2022』(2017年)を監督したり、クランチロールなどでリリースされた『ブレードランナー』のシリーズ作品にクリエイティブプロデューサーでも参加していて、海外との関係性がけっこう深いんですよね。

木村 日本は“クールジャパン”と言ってアニメでアプローチしてはいるけど、10年前ぐらいはなかなか反応がないなと思っていたけど、今になってちゃんと反応がありますね。アニメだけでなく音楽も。YOASOBIやAdoはどっちかというとアニメの主題歌で向こうでウケた感じがありますもんね。

藤津 アニメとセットで認識が広がった感じですね。

木村 逆に、『LAZARUS ラザロ』は海外の音楽がそのまま鳴っているみたいなのもおもしろいですし。

藤津 『怪獣8号』はOP/EDに洋楽アーティストに書き下ろしでお願いをしていて。それには関係者のいろんなご苦労があったみたいですけど(笑)、そういうこともやれるような環境になってきたということですよね。向こうでもメリットがあるし、日本の視聴者も新鮮な気持ちになりますし。

木村 自分がDJだから気になるのかもしれないけど、音楽が違うとまた雰囲気がガラリと変わるから。あと、国でいうと中国と一緒になってきている作品も多いなと思っていて。それは中国が売る市場として大きいからもあるんでしょうけど。ただ『薬屋のひとりごと』はあっちからすると中国じゃないって言われているんですよね?

藤津 あれは中華「風」ファンタジーなんですよ! そんなに多くはないんですけど、日本の中で少女小説を中心に中華風ファンタジーのジャンルが成立していて、アニメ化された作品でいうと『十二国記』(2002年)とか『彩雲国物語』(2006年)とか。どちらも放送がNHKですね。あと少女マンガ原作だと『ふしぎ遊戯』(1995年)とか。

聞くところによると『薬屋のひとりごと』は、韓流ドラマファンも観ている人が多いらしいです。壬氏さまがわりと早い段階で猫猫にデレているんですけど、僕はもう少し緊張関係というかお互い嫌味なやりとりを延々とやっていてほしいなと思っていたのに……。それを女性ファンに言ったら、韓流ドラマの文脈で楽しんでいる人もいるから、お互い好きだということがハッキリわかっていたほうが盛り上がるんだという解説を受けて。そうか、そういうものなのかと(笑)。

木村 はははは、おもしろい!

藤津 そういう文脈で観ている人がけっこういると思うので、想像以上に視聴者の年齢層が広いみたいですよ。

木村 ストーリーもおもしろいし。そういえば15年くらい前にアニメ系の友人と話をしていたときに、その当時アニメを“難し系“と”空気系“で区別し出していて、世の中の大多数のアニメファンが“空気系“のほうに流れていってるので残念と話をしていて、当時、僕は“空気系“より圧倒的に“難し系“のほうが好きだったのでそれ推しだったのですが、今になって“難し系“を観なくなってきた気がして、いろいろ考えさせられます。

20250501_logirl_0026

サブスク時代に感じるアニメの当たり前

──今年の春アニメは、難し系と言われる作品がわりとあるような。

木村 たとえば『鬼人幻燈抄』は難し系に入るのかも。鬼が出てくる作品は昔からあるのに、『鬼滅の刃』の影響で定型が決まってしまって。もし『鬼滅』の前に放送されていたら、また反応が違っていたんでしょうけど。

藤津 鬼って、普通に怖く演出しようとするとストライクゾーンが狭くなっちゃうんでしょうね。しかも、ひとつ強い作品があると見る側も意識が引っ張られちゃいますよね。難し系でいうと『ムーンライズ』(Netflix)は原案が冲方丁(うぶかた・とう)さんで、がっつりSF。過去と未来が行ったり来たりしながら進んでいく語り口も特徴的で、難しいのは難しい。でもアクションシーンも多いし、WIT STUDIO制作なので絵のパワーがあって、牽引力は強いです。

木村 最近は軽いストーリーが多くて、女子高生の日常とか。

藤津 軽いっていう意味でいうと、今回ど真ん中なのが『ざつ旅-That's Journey-』と『mono』かな。『ざつ旅-That's Journey-』は思いつきで旅をするというだけの内容なんですが、観光案内的なおもしろさがありますよね。ほかの地方の人間からすると「こんなものあるんだ」と、ちょっと驚けるような、地方にしかないちょっとおもしろいものも出てくる。

木村 町おこしの一環としてやっている感じもありますよね。そういえば僕の地元の岐阜県の陶芸アニメもちょい前にあったような……。

藤津 多治見でやっていた『やくならマグカップも』(2021年)ですね。15分アニメなんだけど、後半は役者さんが現地で陶芸体験をしたりする、実写映像がついていて。

木村 そうそう! あとは前回もお話しした『聲の形』(2016年)とかね。舞台は僕の地元なんだけど、商店街に行くと、そのキャラクターを使ったチラシがあって。「このキャラクターを使うのに100万円かかった」と店主が言うんですよ(笑)。

藤津 『聲の形』はプロジェクトが大きいので、大変だったと思いますよ。

木村 あと新海誠監督の『君の名は。』は飛騨高山の町おこしになっていましたし。

藤津 岐阜でいうと、今回は『ウマ娘 シンデレラグレイ』のカサマツトレセン学園になっているのが、笠松町の笠松競馬場で。

木村 そうなんですね。実は『ウマ娘』は1クールで観るのをやめてしまって。僕はおじさんだから、かわいいところについていけなくて(笑)。

藤津 ああ、でも『ウマ娘』って、シリーズが続くにつれて、かわいい要素が減ってスポ根度合いが上がっていくんですよ。もともとはレースが終わったらライブをやるという設定があったんですけど、今はそのシーンがなくはないけど、アニメ的にはメインではない状況です(笑)。『ウマ娘』がおもしろいのは、史実をもとにレースシーンが構築されているので、運命のいたずらを導入しやすいんですよ。普通のフィクションでそれをやると「そこでこの展開ってあざとくない?」となるけど、思いどおりにいかないことが実際にあった、ということがベースになっているので、リアリティが保証された上で、ストーリーにドラマチックさが出るんです。

木村 リアリティ要素が増しているんですね。

──今の話を聞いたら、『ウマ娘』を最初から観直したくなりました。ちなみに、今回『恋するワンピース』が深夜枠に移動となり、一部で話題になっていましたね。

木村 配信で観られるから、子供向けアニメも深夜にやってもいいだろうとなったのかな。これは深夜にやるやつ?夕方にやったほうがいいんじゃないの?と思ったり。

藤津 昔は時間帯で視聴者のセグメントを分けていたんです。たとえば深夜に起きているのは若者で、朝早く起きているのはお母さんと子供とか。今やタイムシフトで見るのが当たり前になっちゃったので、そのセグメントが無効化してきているんですよね。昔は小学校高学年ぐらいの子が夕方のアニメを見てアニメファンになっていくという回路が多かった。今はタイトルを検索して配信で観られちゃうので、たまに「子供のお前が見るには大人向けすぎるんじゃないかな?」という作品も混ざってくる可能性も(笑)。別回路ができちゃっているんですよね。

昔は小学生のころは大人向けで観られなかったけど、中学生になったら深夜アニメを録画して観るようになったという、階段を登るみたいにちょっとずつ大人っぽいものを観ていくような感じだった。けど、今はもっと自由に観られる時代になっているんですよね。それはそれで今の時代のアニメの楽しみ方ではあるけれど、同時に、ミスマッチが起きる可能性があり得るよなって。

20250501_logirl_0048

──TVerやサブスクと、いつでもアニメを観られる環境が増えましたもんね。

木村 そうですね。配信だと最近は30秒スキップやOP/EDをスキップする効果があったりして。作品によってはスキップされないようにわざわざ絵を変えていたり、主題歌と主題歌の間でストーリーを入れていたりと工夫していて。

藤津 エンディングはスタッフのクレジットが載るので、自動的に飛ばされるとつらい。誰が担当してたんだっけ?と確認できなくて。設定で変えられるけど、デフォルトだとそうなっちゃう。映画もエンドロールを飛ばそうとするじゃないですか。

木村 そこ飛ばすのは寂しいですよね。この人が作っている作品だからこうなのかとかがあるから。そして話は飛びますが最近は音楽の制作をしているところがだいたい決まってきているので、タイアップでつけたみたいな感じが見えてしまうことも……。商業っぽさを感じて、逆に入っていけないものがあって。

藤津 大人の都合が見えちゃうとノリきれないんですね(笑)。テレビの話に戻ると、僕は東京工芸大学という学校で少しだけ教えているんですけど、毎年生徒にどういう試聴環境なのかの簡単なアンケートを取っています。それでいうとここ何年か傾向がはっきりして、基本的にひとり暮らしの人はテレビを持っていないから、タブレットかパソコンで観ている。実家で暮らしている子は、居間にテレビがあって録画機や再生機がある。じゃあ果たして、今この若い世代が大人になって家族を持ったとき、その居間にテレビを置くのかどうかという問題が見えるんですよ。

木村 買わないんじゃないですか? それかモニターとしてテレビを買う人はいるかもです。

藤津 そうなんですよね。あと、留学生の子が「うちの家は居間にテレビがありますが、誰もテレビを見ません」と。要は子供が成長すると自分用のテレビを部屋に置くか、PCやタブレットなりで各自が自分の機器で観ている。居間のテレビはよほどのことがない限りつけなくなるみたいで。ここから20年ぐらいテレビを持たない家がすごく増える可能性があるなあと。

木村 チャンネルの取り合いがないんですね……。よりいっそうネットの配信が重要になってきますよね。そうなるとその配信形態に合ったフォーマットが必要になってくるというか。音楽の場合だと、10年以上前にアメリカのスタンフォード大学で、レコードとデジタルデータのMP3の音はどっちがいいかというアンケートを取ったみたいで。そのころからもうほとんどの人が音楽をiTunesとかで聴いているからMP3のような圧縮音源に慣れちゃっていて。だから、若い子はレコードよりもデジタル圧縮音源のほうがいいと答えたみたい。なじみがあるから、そっちのほうがいい音だって。だからアニメもそのうち同じような感じになるのかも。最近は1.5倍速とかで観ている人も多いと思うので、それで本当のアニメの作家性というものが全部見られるかはわからないですけど。

藤津 ただ、内容をチェックするぶんにはいいのかもしれないですが。

作品が増えるにつれて、観ない理由を探す時代に

──タイパを重視する時代でもあり、視聴の簡略化が目立ってきていますからね。最近だと事前情報だけで観る観ないを判断する“ゼロ話切り”という言葉も聞きます。実際、どう思いますか?

木村 僕は、1話だけでも観てほしいかな。

藤津 最近は作品数が多いので、観ることにもなるべく努力しないといけなくて。2000年代初頭の時点であるアニメ誌の編集さんが言ってたんですけど、今や“観ない理由”を探す時代になったんだと。昔は観る理由を探していたけど、観ない理由を探すと。それが“ゼロ話切り”という言葉に置き換わったのかなって。

20250501_logirl_0063

──なるほど。時代によって視聴者の意識も変わってきますよね。作品のジャンルでいうと、一時期は異世界転生モノが増えていましたが、その時代の日本社会とも関係があったのでしょうか? 貧困などの問題でほかの人生を歩みたいという願望を異世界転生モノに重ねている人もいるという記事を読みまして。

木村 もちろん、人生うまくいかないこともあると思うんですけど──ここ数十年で世の中が変わっていてよりいろいろと抑圧されていることもあるし、それで自分が本当にやりたいことをやりたいという気持ちが異世界転生モノに惹かれるということになるかもしれないですね。

藤津 もともと異世界転生モノは、なろう系(※)なんていわれたとおり、小説投稿サイトを中心に広がっていって、当初の読者は氷河期世代が中心だったはず。その世代の「思いどおりにいかなくてつらいなあ」っていう気持ちを受け止めるフィクションだったと思うんです。そうしてその結果、あのジャンルが大量に生まれて、いろんなメディアに出ていったことで、今度は小学生とかも読むようになって。浸透と拡散とでもいえばいいんでしょうかね。スタートは世代の置かれている環境が反映されていたんだろうと思うんですけど、それがジャンルになってしまうと間口が広くなって、いろんな作品が出てきて、当初のターゲットとも異なる子供も読むようになっちゃう。『転生したらスライムだった件』なんかは今や小学生のファンがすごくいるんですよね。国作りの話だから、彼らはあの作品を『三国志』みたいな感覚で読んでいるんですよ。

(※小説投稿サイト『小説家になろう』発の原作の作品)

木村 短いエピソード内で事件とかいろんなことが起こりまくって、刺激が強いんですよね。子供たちも「次は何をやるだろう?」ってのめり込む。『片田舎のおっさん、剣聖になる』も同じで、どんどんいろんなことがあって、次の展開を楽しみだと思わせてくれる。ただ、あまりにもアニメの作品数が多すぎて……いい意味ですけど。これは数を作らなきゃいけなくて業界にプレッシャーがかかっているんですか?

藤津 難しいんですよ。制作会社は基本的には制作を請け負う側なので。『鬼滅』以降、原作側がアニメ化に対してのモチベーションが上がっているんですよね。一方で企画は、10倍の予算で1本作るよりは、10分の1の予算で作ったほうが絶対にリスクヘッジができるので「数は力」みたいなところがあって。だからお金を回している側からすると、数を減らす理由がないんですよね。しかも、原作元も意欲があるから。ただ作る側が過剰に大変だということに……

木村 そうなんですね。あと、前は少女マンガが原作のアニメがけっこうあった気がしましたけど。

藤津 前期だと『ハニーレモンソーダ』がそうですね。今回だと『謎解きはディナーのあとで』が「ノイタミナ」でアニメ化されています。これは小説原作ですが、キャラクターデザインや雰囲気は、コメディ寄りの少女マンガといったテイストで。気取った警察の警部の声優は宮野真守さんで。しかも、おもしろいほうの宮野さんでやっている。だから少女マンガそのものではなくても、「少女マンガっぽいもの」へのニーズはあると思うんですよね。

木村 やっぱり女性のアニメ視聴層は、パーセンテージ的に多いんですか?

藤津 多いと思います! あくまで傾向で例外もあると思うんですが、女性ファンって好きになると友達を誘いがちなんです。なので、熱気が盛り上がるときはS字曲線なんですよ。ちなみに下がるときは逆のプロセスになるので、そちらも早くて(小声)。

あの子が離れたなら私も離れようかなって。あくまで一般論的で例外もあるでしょうけど、マクロで見ると女性はそういう行動を取りがちのようです。男性は友人に布教しても、そこまでではないんですよね。わりとバラバラというか、“分子間力”が弱い感じ。女性は“分子間力”が強くて、「一緒に楽しもうよ!」となって塊が生まれる。だから女性ファンがつくとグッと温度が上がる。そういうことで女性ファンが目立って見えるというのがあるかもしれません。

木村 だいたい女の子のほうが先にハマって、そのまわりの男の子が釣られてハマっていく時期には女の子はもう飽きているという(笑)。男性のほうがハマっていったらわりと長く続ける人が多いのかなって。おもしろいものを見つけようという意識は女性のほうがすごい感じがしますね。

愛され続けるガンダムの魅力とは?

──おもしろい傾向ですよね。話は変わるのですが、前回の春アニメ対談の際に、春アニメといえば『ガンダム』とふたりともおっしゃっていました。今春は新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』がスタートしています。さらに先日、藤津さんが『富野由悠季論』も刊行されましたので、ガンダム作品についてもたっぷり聞いていけたらと思っています。

藤津 ようやく映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』(2025年)と違う展開に。1クールだけという噂がありますが、これからどうなっていくのか楽しみですね。

木村 ガンダムなのに1クールって珍しいですよね。

藤津 その前の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022年)も結局2クールだったので、短かったんですよね。それまでは基本は1年ベースで作ってきたので。

木村 『機動戦士ガンダム00』(2007年)も途中で一回終わって、またやっていましたね。

藤津 あれはもともと1年の企画なんだけど、だんだん求められるものが高度になってきたので連続で制作するとすごく大変になっちゃう。なので、半年ブレイクを入れましょうとなったみたいです。

木村 そのころから、長い作品は途中で休むようになりましたよね。1クールとか2クール休んで。

藤津 分割4クールとか分割2クールといったパターンですね。やっぱり1年間は大変みたいで……マラソンなのでね。庵野秀明監督は「テレビシリーズというのは穴の開いた船みたいなもので。出航した瞬間から水が溜まり始めるから、沈むまでに目的地にたどり着けるかどうかが勝負。なのでダメージコントロールをしていかないと」みたいな話をされていて。なので、1年作り続けるってそれぐらい大変なんですよね。

木村 ただ、今回は12話で収めちゃうのはなかなか厳しいですよね。世界観も広がっているので。ファーストガンダム(『機動戦士ガンダム』/1979年)と同じだけど、違う話。頭から設定が変わっているから。あとは若き日のシャア少佐(シャア・アズナブル)の声が変わった時点で、だいぶ印象が違いますよね。

藤津 シャアっぽいお芝居ができる若手の方を選んだって感じですよね。

木村 サンライズにはないスタジオカラーっぽさが入っていて、新しい感じなのがおもしろいです。あとオリジナルストーリーだから、先がわからないところも。

藤津 オリジナルってそこがおもしろいところでね。あと、今回スタジオカラーが制作の中心なのがインパクトがある。サンライズといえばガンダムの会社で、ある時期までは社内である程度キャリアを積んできた人がガンダムの監督をやるということが普通だったわけで。たとえば、『機動戦士ガンダムSEED』(2002年)の福田己津央さんはサンライズの中で設定制作という仕事をやって、そのあと、演出家になり監督作『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』(1991年)をヒットさせた上での『ガンダム』でした。ある意味満を持しての登板ですよね。それで実際に実績を出したという。

そのあとから風を変えに行って、サンライズでは演出家にはなっていなかった水島精二さんとか長井龍雪さんとか、サンライズに縁はあっても、生え抜きという感じではない人を監督にするようになった。さらにはゲーム会社レベルファイブの日野晃博さんをシリーズ構成に起用したこともあった。あの時期は、次に進んだなという印象でした。『水星の魔女』もその延長線上の印象です。さらに今回の座組は『ガンダム』をどうやって長く生きたタイトルにしていくかというときに、サンライズはある意味ガンダムのプロデュースをすればいい。業界全体で見て、そのとき一番おもしろい人に作ってもらうということを考えているのかなと。

木村 だいぶ変わってきましたもんね。特に『新機動戦記ガンダムW』(1995年)あたりからは、もう全体が変わってしまって。僕は好きなんですが。

20250501_logirl_0075

──映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』は情報がないままでしたけど、観たときの印象はどうでした?

藤津 僕は前半のインパクトがすごすぎて、後半のマチュ(アマテ・ユズリハ)が出てきてからの記憶が飛んでしまいました(笑)。あと劇伴と効果音が元のシリーズと同じなのもインパクトが強かった。

木村 効果音、気になりましたよね! ちゃんとうまく使っていましたし。

──キャラクターデザインはどうでした?

木村 後期の『新世紀エヴァンゲリオン』を彷彿させましたね。

藤津 竹さんというイラストレーターにお願いされてるんですけど、思いきったなと。記号化されたタイプの方だからリアリティが求められる世界観になじむか不安だったけど、動き出して声がつくとその世界にいるような感じになりました。アニメ化にあたって、斜めのアングルとか、影のつけ方を工夫して実在感が感じられるようにする調節をしているのもうまくいっているのかなと。木村さん、メカはどうでした?

木村 違和感はなかったですけど、細身で鋭角な感じが大河原邦男さんのデザインではなくて、全体がスタジオカラーのセンスだなと思って観ていました。

そうだ、ガンダムシリーズでずっと気になっていたんですけど、『GQuuuuuuX』って英語が不思議ですよね。たとえば、エグザベ・オリベというキャラクターがいますけど、スペイン語だと“シャビエル”で、英語だと“ザビエル”とかで。けど“エグザベ”はどこの言葉?みたいな……。

藤津 今となってはわりと忘れられちゃっているんですけど、最初『ガンダム』の設定では国家がなくなって「地球連邦」になったことで、人種もある程度混合されているんですね。だから言語もいろいろ変わっているであろうことが想定されていたっぽい。もちろん1970年代の作品なのでそこまで徹底はされていないですが。それがシリーズを制作していく過程で、だんだん現実味を増していくにあたって、用語も全部英語だったり、ドイツ語が入ってきたりした。でも富野監督自身は、いろんな固有名詞のモジリを使ったりして世界観を作ってる。「レコンキスタ」じゃなくて「レコンギスタ」にする、とか。だから「出雲(いずも)」じゃなくて「イズマ」にしたりするのは、ちょっと富野さんらしさに通じるものを感じる言葉遣いでもありますね。

木村 そうだったんですね。これは何語だろうな?といろいろと考えたりしていて(笑)。

社会現象を巻き起こす名ゼリフ

──そんな背景があったんですね……勉強になります。著書『富野由悠季論』では印象的な「富野ゼリフ」にも触れていらっしゃいます。記憶に残るセリフはありますか?

木村 やっぱりファーストガンダムの「坊やだからさ」かな。

藤津 『GQuuuuuuX』で、シャアがホワイトベースのブリッジを破壊するとき「運がなかったのだ」みたいなことを言うんです。最初の『機動戦士ガンダム』では、シャアは「私もよくよく運のない男だ」と言ってるんです。そのセリフの本歌取りとして『GQuuuuuuX』のセリフがあるのかなと。ちなみに、もともとの「運がよかった」のセリフは、脚本にはないので、富野さんが絵コンテで書いているセリフだと思うんです。そもそも敵・連邦軍の「V作戦」の秘密兵器であるホワイトベースを見つけちゃったんだから、本当はシャアは運がいいはず。なのにそれをわざわざ「よくよく運のない男だ」と。その持って回った感じが、少なくとも最初の『ガンダム』のシャアなんですよね。そこからすると、もういっぺんひねった結果、『GQuuuuuuX』で、ひねりのないストレートな発言になっているのがおもしろいですね(笑)。

……なので印象に残るセリフというと、第1話最後の「認めたくないものだな」もそうなんですが、この持って回ったシャアのセリフはまず頭に浮かびますね。富野ゼリフは耳に引っかかる言葉遣いが多いですよね。

木村 今の時代でも、なんかの拍子で使われることもありますからね。

藤津 一定世代までは、歌舞伎とか大衆演劇、その流れにある時代劇が基礎教養だったと思うんですよ。『国定忠治』の「赤城の山も今宵限り」とか『忠臣蔵』の「殿中でござる」とか。

──白浪五人男の「知らざあ言って聞かせやしょう」とか。

藤津 ある時期まではドリフ(ザ・ドリフターズ)とかがコントでパロディで使っていたりもしたので、歌舞伎を見たことがなくても「そういうものがあるんだなあ」と漠然とではあるけれど、教養として受け止めていたんですよね。それがどこかで『ガンダム』に置き換わったような印象です。

──アムロ・レイが殴られたときのセリフとかも、コントで使われちゃう時代ですからね。

木村 自分たちはファーストガンダムの影響を受けて育ってきていますけど、今の人たち、若い子たちはそうじゃないから。昔だと『スター・ウォーズ』とか『ターミネーター』とかの映画を元にした社会現象みたいなのがあったんですが、今は世の中すべてがそれになっちゃうことってあまりないですよね。今の子たちは『鬼滅』とかなのかな?

藤津 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)は興行収入400億円ぐらいなので、当時10歳ぐらいだった子にはでかいムーブメントに見えていたと思います。あと、今10代後半〜20代前半ぐらいだと『ハリー・ポッター』の存在感がすごかったはず。ただ、今のほうがコンテンツの数自体が多いので、昔のように大人が巻き込まれるほどではないのかも。

木村 大人にはでかく見えないけど、子供たちにとっては大きかったんでしょうね。自分たちも子供のころに見ていたものは、すごいものに見えましたもんね。

藤津 ですが、昔よりも国民的大ヒットは生まれにくくなってきていると思います。そこは昔と今との違いかもです。

木村 名ゼリフみたいなものも、大人たちは気づいていなくて。だけど若い子たちの間では名ゼリフになっていくのかなって。

藤津 『鬼滅』で、冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)が言っていた「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」とかは、おそらくその世代の子供たちだと何も言わずに通じているはずなんですよね。今の20歳ぐらいの子になるかな。彼らが40歳ぐらいになるころは、そのあたりがもっと広がっていてもおかしくないかなって。だから時間の問題じゃないですかね。

僕自身の肌感覚でも最初の『機動戦士ガンダム』がこんなに一般的にネタにされるようになってきたのは『∀ガンダム』(1999年)が終わったあとぐらいの印象なんです。21世紀になってから一般性を帯びてきて、風景になってきたというか。それまではマニアックなお遊びみたいだった。

20250501_logirl_0111

──この対談を読んで『GQuuuuuuX』だけでなく、これまでのガンダムシリーズも観ようと思う読者がいると思います。これからチャレンジしてみようかなと思っている人に、最低限ここを観ておいたらいいというシリーズがあれば伺いたいなと。

木村 『GQuuuuuuX』を観るんだったら、ファーストガンダム(『機動戦士ガンダム』)は観ないと。どこが変わったのかがわからないと思いますね。

藤津 『機動戦士ガンダム』は全43話あるから、その中でも絞るなら第39話「ニュータイプ、シャリア・ブル」、第41話「光る宇宙」かな。そこを観ておくと、元ネタがわかる。

──ファーストガンダム以外は?

木村 バトルという点では『機動武闘伝Gガンダム』(1994年)かな。ただ、ガンダムバトルでも少し違うし参考にはならないかもです(笑)。

藤津 ガンダムではないんですが、監督である鶴巻和哉さんの作風を知りたかったら、『フリクリ』(2000年)と『トップをねらえ2!』(2006年)かな。両方とも6話ずつなので観やすい。特に『トップをねらえ2!』は、前に『トップをねらえ!』(1988年)という作品があった上で鶴巻さんがどう捻ったかがポイントなので、これはけっこう『ガンダム』と『GQuuuuuuX』の関係と似ているところがある。あ、似ているという意味では『ガンダム』の第1話も必要かな。完コピ具合の驚きも含めて。そうなると、第1話、第39話、第41話かな。

木村 始めを知っていると楽しめますよね。ミノフスキー粒子のこととか、ファーストガンダムを踏襲していますし。あとは、『機動戦士Ζガンダム』(1985年)と『機動戦士ガンダムΖΖ』(1986年)ではニュータイプの苦悩なども出てきますから。ニュータイプを知っておかないと、話がわからなくなってくるので、勉強してもらいたいですね。

藤津 だから今回、ニュータイプをテーマにしてやるんだって驚きました。大変なところに手を突っ込んできたなと(笑)。

撮影=Jumpei Yamada 取材・文・編集=宇田川佳奈枝

Dig for Enta!