続・第0章
その刹那、
手からブレイラウザーが滑り落ちる。
そこは橋の上。
父も私を背負った体では
到底ブレイラウザーの自由落下速度には
追い付けない。
そして私は手からすり抜けた宝物が、
うねる渓流に飲み込まれるまでを、
ただじっと見ていた。
現役のボクサーは、相手のパンチが
スローモーションに見えることがあるという。
極度の緊張と集中力で、
当時の岡園児の目にも
ブレイラウザーの落下が
スローモーションに見えていた。
そして騒がしいセミの声と、
川の流れの音にかき消され、
ブレイラウザーが着水する音は
聴こえなかった。
命ともいうべき剣を失ったことを実感し
ふと我に返った私はたまらず泣き出す。
───今怪人が襲ってきたら大ピンチじゃねぇか!
下山後、父を伴い必死に川を探したが、
ついぞおもちゃは見つからなかった。
私の人生初の挫折である。
不思議なもので、
おもちゃを買ってもらった喜びよりも
おもちゃを無くした悲しみのほうを
よく覚えている。
今の現場で聖剣を落とすことは
絶対にあってはならない。
敬意を払って”大人の宝物”を
楽しもうとおもう。
岡宏明