思いを馳せるふるさとの夜(山根千佳)
エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」
「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。
山根千佳(やまね・ちか)
1995年12月12日生まれ、島取県出身。「第37回ホリプロタレントスカウトキャラバン」ファイナリストとなり、デビュー。両親の影響で幼少期から相撲を見て育ち、自身も相撲好きとなる。相撲好き女性「スー女」の第一人者として、相撲関連の番組やイベントにも多数出演。また、相撲への愛と知識が詰まったコラムの連載や、音声配信なども精力的に行う。相撲を筆頭に駅伝、競馬、アイドル、怪獣などさまざまなカルチャーにも精通。5月9日に自身初となる書籍『山根千佳の大相撲の歩き方』(マイクロマガジン社)を発売。
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芸能のお仕事を始めて12年目。
東京での生活にもだいぶ慣れ、楽しく生活する毎日。
けれど、時折思い出すのは、やっぱりふるさとの鳥取のこと。
数えきれないくらい、たくさんの思い出が詰まっている場所。
中でも忘れられないのが、鳥取のレギュラー番組のMCをさせていただくことになり、新番組がスタートした、2年前のあの夜。
その日の夜は、共演者の方、スタッフさんたちと懇親会があった。
芸能を始めたころからの目標だった、ふるさとでのレギュラー番組が始まったこと(しかも私がMCで!)が、本当に、本当に、うれしくて、そして感慨深く、忘れられない一夜となった。
私も、まわりの人たちも、世界中の多くの人たちを苦しめたコロナ禍が、ようやく落ち着いていたこともあり、お酒も解禁!
デビュー当時から二人三脚でがんばってきた、同郷のスタイリストさんとも喜びを分かち合いながら乾杯をすることができた。
しかも地元のおいしいお酒で! 飲まずにはいられない(笑)。
番組のスタッフさんも、山陰(鳥取、島根)出身の方がほとんどで、方言で話せることがとてもうれしかったー!
標準語とはまた違う、懐かしいイントネーションから、「〜けん」、「〜だがん」、「〜だへん」など語尾が変わっとったり。
上京してから、苦労して直した方言を、当たり前に使える喜びが込み上げてきて、ほわっと温かい気持ちになる。
そして、注文した山陰の海鮮はどれも本当においしい〜!
改めて日本海側に生まれて幸せだと噛みしめる。海鮮のみならず、全国的に有名な大山鶏の料理も絶品。東京でも大山鶏の料理を見かけては食べるようにしているが、ふるさとに帰ってきて、地のもの、ソウルフードを食べられることがなによりうれしい(しかも圧倒的に安い!)。
ブランド鶏なのできっと同じものなのに、食べる場所が違うだけで、一緒に食べる人が違うだけで、こんなにも味がおいしく変わるとは。
飛び交う方言とおいしいお酒とソウルフード。
これで地元トークに花が咲かないというのは無理がある。「同窓会はどこでやった?」「あのホテル会場か! 同じだ!」などなど。
私も学生時代は「あそこのイオンにいつも遊びに行ってたなぁ」などと思いを馳せてみると、プリクラはみんな同じ場所で撮ってたり、フードコートに行くと必ず同じ学校の人に出くわしたり、細かい地元あるあるが次々とあふれ出てきて……。
それから、鳥取で開催される「がいな祭」という大きなお祭りの話に。地元の人たちは必ず誰でも一度は行ったことのある、歴史ある大きな規模のお祭り。私も毎年行くのが恒例だった。
幼いころは、祖母が浴衣の着つけをしてくれて、母にかわいい髪型にしてもらい、特別な気持ちで打ち上げ花火を見に行って、はぐれないようにと父が手をつないでくれたのも鮮やかに思い出すことができる。
小学生からは、ジャズヒップホップダンスを習い始めていた私。この「がいな祭」ではかなり気合いの入った特設ステージが設けられ、たくさんのダンスチームが出演する。小学生から芸能活動を始める高校生までの数年間は、幼なじみと同じ教室に通い、ダンスに熱中していた。
いまだにダンスを発表したステージのある場所を通ると、楽しく踊っていたあのころの思い出が一気によみがえってくる。このお仕事をしていても、ダンスを習っていてよかったなぁと思うことが多い。たとえば人前で何かを発表したり、ステージに立ったりを堂々とできること。表現するということがなんとなく体験できたこと。習わせてくれた両親に感謝したい。
少し話はそれてしまいましたが、このレギュラー番組がきっかけとなり、地元でのほかのお仕事もさせていただく機会が増えてきた。
鳥取県は夜空に輝く星がとてもキレイで、「星取県」ともいわれている。その夜空とともにムービーの撮影ができたこと。これも忘れられない夜となり、とっても印象に残っている。
そうだ! 先日は高校のときの同級生と飲みに繰り出し、3軒ほど(!)ハシゴ酒した夜も強烈だった(笑)。
もう卒業して10年ほど経ちますが、出会ったころと何も変わっていない気がするんだよなぁ。時が止まった感じというのだろうか? みんなそれぞれお仕事をがんばっていたり、子育てしていたり、県外に出ていたり。今の生活環境はバラバラなはずなのに、いったん集まってしまうと、あの当時と同じ空気感に巻き戻っていく。
高校1年生でたまたま同じクラスになって、10年経ってもこうして当時のまま気軽に集まれる友人がいるって素敵なことだな。なんの気を遣うこともなく、大人になってもなんでも話せる人って貴重だなとつくづく思う。過去にすがりつくようなことはせず、自分の意見をしっかり持っていて、ポジティブな子しかいないので、本当に恵まれている。毎回集まる夜は楽しくって、時間があっという間に過ぎていく。
うれしいことに最近は、お店の中やみんなで歩いている帰り道、私に気づいて話しかけてくださる方もいらっしゃって。とーーっても温かい言葉をかけてくださる方ばかりで心がホッとする。そんなやりとりを誇らしそうにしながら見守ってくれる友人の表情にもまた心が温まる。
なんて素敵な地元なんだろう。
こうして声をかけてくださる方がいることで、またがんばろう!と思えてくる。
そして、そうこうしていると、そんなに大きな街ではないので、当時の学校の先生方にもばったり会ったりもして。
「ふるさとのみんなが応援してくれているんだ!」と帰るたびにパワーアップした気持ちで東京に戻ってこられる。
地元でのレギュラー番組が始まる前までは、年末年始やお盆のタイミングの、年に1、2回しか帰る機会がなく、こうして定期的に帰省もできて、本当にありがたい気持ちでいっぱいになる。
両親や愛犬とだらだら実家で過ごす何気ない夜も大好き。みんなで夜ご飯を食べながら、テレビで大相撲中継を観て、あーだこーだ言う時間。ごひいき力士が勝つとみんなで喜び、負けるとみんなでがっかり。私の家族はみんな相撲に詳しく、話していて本当に楽しいし、学びにもなる。
相撲を観終わるころには、夏は虫の声がよく聴こえてくる。東京では聴けない、極上のBGMだ。テレビを消して、素敵なBGMを楽しみながら、蚊取り線香をつけて、スイカを頬張るのも毎年恒例。いつも扇風機の前は愛犬の「むさしまる」が陣取っている。夏の夜に扇風機と柴犬、なんとも微笑ましい光景です。「これが"チルアウト"ということか」と、ひとりほくそ笑む。普段はひとり暮らしなので、地元で過ごす夜は最高の時間。
充実した時間を過ごし、また東京に戻る日々。
鳥取はまだ新幹線が通っていないから飛行機移動が基本なのだが、人生で初めて飛行機に乗ったのも、このお仕事を始めるきっかけとなったホリプロタレントスカウトキャラバンの合宿審査に向かうとき。何年経っても空港に着き、飛行機に乗り、窓から空を見ると「よし! 東京に行ってがんばろう!」と気合いが入る。
どんどん小さくなっていくふるさとを眺めては、最初は心細くなったときもあったけれど、今では飛行機の窓から見える夜空は、私の心を強く昂らせ、わくわくさせてくれる宝物だ。実はもともと飛行機は大の苦手なんですが(笑)、12年も経つと人は慣れるものなんだなぁ。
よし……! またがんばるか!
文・写真=山根千佳 編集=宇田川佳奈枝