映画好きになる前に、映画作りが好きになっていた
──映像の世界でお仕事をされるようになったきっかけは自主映画だと思いますが、いつごろから映画を撮られていたんですか?
筧 15歳のときには撮っていましたね。たまたま付き合ってくれる友達がいて、家にビデオカメラがあったから、というだけで、編集の概念も知らずにただカメラを回したようなものでしたけど。ちょっとお調子乗りで、お山の大将的なところがあったんでしょうね。
25年くらい前なのでスマホもパソコンもなく、撮りながら映画の作り方を覚えていったような感じでした。「カット割りっていうものがあるんだ」とか。10本くらい撮って、ようやく人様に見せられるものになったんじゃないかな。今思うと不便な環境で面倒なことをしていたなと思いますが、それも含めておもしろかったんですよね。
──本当にゼロから作っていたんですね。映画好きになるよりも先に、映画作りが好きになっていたとか?
筧 まさにそのとおりで。作ることから始めたので、シネフィルと呼ばれるような映画オタクの側面がないんですよ。映画史的な文脈や発想というものが自分の中にはあまりなくて、そういう資質のある監督さんがうらやましく感じることもあります。
──それもひとつのスタイルなんでしょうね。では、ご自身の作風については、どのように考えているのでしょうか。
筧 ファンタジーやSFの要素が入っているものは得意なほうかもしれません。自分で映画を撮るだけでなくマンガも描いていたんですけど、賞に応募するにしても、寓話的な設定から始まったほうが読まれやすいというのがあって。リアリティのある設定は簡単に答え合わせができるぶん、ちょっとでも違和感があると逃げられてしまうんですよ。その点、寓話的な世界は知識や経験を想像力で補いやすいので、マンガによく取り入れていたんです。
映画にしても、自主映画の映画祭に寄せられる作品は自己を投影した内省的なものが多いので、少しファンタジーの要素があるだけでポップに見える。入口だけでもポップで入りやすいものにしておきたいなとは、自分で映画を作り始めたころから考えていました。
──人に届ける、ほかと差別化するための工夫が、いつしか武器になっていったんですね。
筧 映像の仕事をするようになってからも、企画として通りやすいもの、周囲からオーダーされやすいものは、ファンタジーやSFテイストのある作品ですね。ただ、長いことやっているうちに、それがやりたいことなのか求められているものなのか、どっちかよくわからなくなってきて(笑)。自分の個性というものをあまり意識しなくなってきました。
──いろんな条件で作品を作りながらも、にじみ出てくるものが個性だと言われることもありますからね。
筧 そうですよね。もちろん、いろんなジャンルの作品に取り組みたいという思いもありますし。今ちょうど、ファンタジー要素ゼロのドラマのお話をいただいていて、久々なのでちょっと張りきっているところです。
軸足にこだわらず、漂うようなスタンスで
──監督のほかに脚本やマンガ、イラストなども手掛けられていますが、考え方やアプローチの違いはありますか?
筧 意識的に別の仕事に取り組むことはありますね。5年ぐらい前までは監督に専念していたのが、最近はできるだけ脚本を書くようにしているとか。ずっと同じことをしているよりも、立ち位置を限定せず、いろんなところを漂うようなスタイルが好みなんです。映画監督がゴールで、「映画が一番!」みたいなスタンスがちょっと苦手で。筋の通った美しさはあると思うし、そうなれない自分にコンプレックスを抱いていたこともあるんですけど。
人に対しても、メインとなるA面よりも、別の顔、B面の部分が気になったりするんですよね。小柳ルミ子さんの熱狂的なサッカーファンの一面とか。今の仕事がベストなのかもわからないし、B面がメインの仕事に変わることだってあるかもしれない。そういう柔軟な部分は残したいと思っています。
──脚本をやることが監督の仕事にフィードバックされるような、軸足を定めないことのメリットはあるのでしょうか。
筧 ありますね。テレビシリーズの『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)は、もともと脚本のみの参加だったんです。映像のプロジェクトで脚本だけ書くのは初めてだったんですけど、現場を客観的に見ることができて、すごく新鮮でした。その体験は監督業にも活きていると思います。
──その後のVシネマ作品『ゼロワン Others』シリーズでは監督を務められていますよね。
筧 2作品監督しましたが、「仮面ライダー作品」として成立させるので日々、一生懸命でしたね。熱いファンの方々がいますし、シリーズを通じて俳優さんたちも役を理解していたし、仮面ライダーならではのフォーマットのようなものをスタッフさんたちも共有している。そういった流れを尊重し、自ら染まってみようと思っていました。その上で、自分の色も少しずつ添えています。戦闘中に一般市民が映り込むようなリアル感を出してみたり、ちょっとハードな大人っぽいテイストを加えてみたり。
──劇場上映を控えた『ゼロワン Others 仮面ライダーバルカン&バルキリー』では、筧さんらしい演出が見られるポイントはどのあたりでしょうか?
筧 「みんなが思う正義は、本当に正義なのか?」といった問いかけなども織り込まれているところでしょうか。子供たちには少し飲み込みにくいテーマですが、大人の世界に触れるドキドキ感が生まれるようなバランスを意識しました。
あとは、エンドロールに注目してほしいですね。実は、主演の岡田龍太郎くんと井桁弘恵さんも絶賛してくれまして。エンドロールは台本には含まれていないので、意外と監督の要素が濃く出せるんですよ。具体的には明かせませんが、本編としてのカタルシスと、「ゼロワン」としての幕引き。このふたつを盛り込んでいます。
『ゼロワン Others 仮面ライダーバルカン&バルキリー』
2021年8月27日(金)より新宿バルト9ほかにて期間限定上映開始
11月10日(水)Blu-ray&DVD発売
(©︎2021 石森プロ・ADK EM・バンダイ・東映ビデオ・東映/©︎2019 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映/配給・発売:東映ビデオ)
長きにわたってサボりの手法を編み出してきた?
──「サボり」について伺いたいのですが、仕事中、リフレッシュのために行っているちょっとしたサボり、息抜きはありますか?
筧 家で仕事をする機会も増えましたが、生活音などが気になってしまうタイプなので、気持ちを切り替える方法はいろいろ試してきたんですよ。やっぱり基本は場所を変えることですね。昼間はカフェ、夜はコワーキングスペースと、移動を繰り返しています。移動って、想像力と密接な関係があると思うんです。
あと、環境によって仕事の内容も変えています。台本のチェックはカフェのような少し騒々しい場所のほうがいいんですけど、台本を書くときは集中できる環境がいいとか。ちなみに台本を読むなら、風呂が最強ですね。長居ができないからさーっと読むんですけど、そうすると全体の構成が俯瞰で見えてくるんですよ。同じような意図で、ビールを飲みながら台本を読む知り合いもいます。
──すごい、飽くなき集中への探究心ですね。
筧 最近、妻もリモートワークになって「集中できない」とボヤいていますが、「甘いな」と(笑)。こっちは長きにわたるフリーランス生活で、いろんな手法を編み出していますから。場所だけでなく、メガネを変えるとか。度数やフレームが変わると視界も変わるので、モードが切り替えられるんですよ。「このメガネをかけているのに、お前は何をやってるんだ!」と集中できない自分に言い聞かせることもできます。
──では、仕事から離れて、何も考えずに楽しんでいるようなことはありますか?
筧 妻や娘と過ごす時間とか、サウナとかですかね。働き盛りだけど、40過ぎて体の変化もあり、お酒に弱くなってしまって飲む機会も減った。そんな大人の行き着くところって、やっぱりサウナなんじゃないかと思うんですよ(笑)。だから流行っているのはすごくわかります。
それと、料理。もともと好きだったんですけど、子供ができてから積極的に作るようになりました。というのも、1歳くらいだとあやすにも寝かしつけるにも、結局、最後は母乳なんですよ。自分には絶対に提供できないのが悔しくて(笑)。唯一、妻のため、子供のために安定的に供給できる育児が、ごはんを作ることだと発見したんです。
──なかなか変わった動機ですね(笑)。
筧 自分でも意外な気持ちでしたね。調べたレシピは小さなノートにまとめているんですけど、今ではノート2冊分ぐらいまとまりました。ほかのことを考えないで済むから、いい気分転換にもなっています。
こういう仕事をしていると、仕事が時間で区切れないじゃないですか。寝ていても仕事のことが頭の片隅にあったり。でも、整体師さんに「ずっと考え事してるでしょ。すごい凝ってる」と言われたりしたことで、無心になる習慣を作ることは大事かもしれないなと思い直しています。
撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平
「サボリスト〜あの人のサボり方〜」
クリエイターの「サボり」に焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載。月1回程度更新。