「好きなことでムリなく働くために努力する」佐久間宣行のサボり方
クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト~あの人のサボり方~」。
今回は、テレビ東京で多くの人気バラエティを手がけ、現在はフリーのテレビプロデューサー、ラジオパーソナリティとして活躍する佐久間宣行さんが登場。クリエイターとしてのルーツや、ほかとは違う番組の作り方、仕事との向き合い方とサボり方などについて聞いた。
佐久間宣行 さくま・のぶゆき
テレビプロデューサー/ラジオパーソナリティ。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』(ともにテレビ東京)などを手がける。元テレビ東京社員。2019年4月からニッポン放送のラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。近著に『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す』(扶桑社)がある。
SF小説、ドラマ……ルーツを掘り下げ、過去から学んだ
──佐久間さんは、コンテンツの作り手である一方、エンタメ好きとして映画、マンガ、演劇など、さまざまなジャンルの作品を幅広い媒体で紹介していますが、エンタメ好きになったきっかけは、どんな作品との出会いなんでしょうか?
佐久間 やっぱり、中学のころにSFを好きになったのが大きいですね。SFって、ストーリー以前に作品の世界観や仕組みから作っていくんですよ。構造の部分で大きなウソはつくけど、それ以外のディテールはリアリティで埋めていく。そういった世界の仕組みごと作るような作品を好きになったことで、自分がものを作る上でもルールが美しいものや、どこかに新しさがあるものを目指すようになった。SFからの影響は大きいですね。
衝撃的だったのは、中学1年くらいのときに読んだ士郎正宗さんのマンガ『ブラックマジック』。その世界観にびっくりしたのと、まわりの同級生は読んでいなくて、僕だけが出会ったという意味でも特別な作品です。
──そこからSF小説なんかも読むようになったんですか?
佐久間 中学高校のお小遣いだと、なかなかハード系のSFには手が出せなくて。大学受験が終わったあたりから、よりハードなSFを好きになっていった感じですね。僕が青春時代を過ごした1990年代前半は、音楽でもルーツをさかのぼることが盛んに行われていて、僕は小説やドラマのシナリオなどで過去の作品に触れ、ルーツをさかのぼっていました。古典といわれるSF作品を読むと、「(現在の作品につながる世界観、設定などが)ここに全部あったんだ」といった発見がたくさんあるんですよ。
──お笑い系のカルチャーも当然好きだったんですよね?
佐久間 もちろん。僕が中高生のころはダウンタウンさんの勃興期で、みんなヤラれてましたから。でも、個人的に大きかったのは、雑誌カルチャーと深夜ラジオですね。特に深夜ラジオは、中学1年でオールナイトニッポン(ニッポン放送)の2部に出会って、毎日聴くようになって。そうすると日曜だけ放送がないから、チューニングをして放送している番組を探していたら、大阪の『誠のサイキック青年団』(ABCラジオ)を見つけたんですよ。海沿いの街だからか、福島県のいわき市でも聴けたんです。
北野誠さんがパーソナリティのすごくカルトなラジオで、番組を通じて大阪のお笑いに詳しくなっていきました。あとは、大槻ケンヂさんや水道橋博士さんといった方々が出ていて、サブカルチャーにも触れられた。深夜ラジオが、地方で暮らすカルチャー不足の僕を救ってくれたんです。
番組作りに必要なのは、仮説の構築と少しのセンス
──佐久間さんのテレビ番組作りについて伺いたいのですが、企画についてはMCとなるタレントありきで考えていると言われることも多いと思います。そうなった背景などはあるのでしょうか?
佐久間 それはあくまでアプローチのひとつなんです。ほかと被らない番組を作ろうとしたときに、ジャンルから考えることもあるし、社会でまだ気づかれていないものから考えることもあるし、そのタレントがほかでやっていないことから考えることもある。
企画を考えるときはだいたいそうですね。自分を掘り下げるか、社会を掘り下げるか、パートナーとなるタレントや企業を掘り下げるか。そこから「このタレントのこういう面って取り上げられてないよな」といった仮説を立てていくんです。
──仮説を立てるまでが大変そうですね。
佐久間 大変ですけど、日常的に疑問を持ったり、考えたりしているので、そこから仮説が生まれる感じなんですよね。たとえば、「NFT(偽造・改ざんできない、所有が証明できるデジタルデータ)がブームになるって言われてるけど、いつもの怪しい人たちが持ち上げているだけなのか、文化になっていくのか、どっちなんだろう?」とか。
タレントに対しても同じです。フワちゃんがテレビに登場したときは一過性のタレントだと思われてましたけど、仕事をしてみたらそうは感じなかった。きっとそうやって人を油断させながら、しっかりした仕事をしていくんだろうなって。だから、フワちゃんに番組に出てもらうときは、単なる賑やかしじゃなくて、芯を食ったことを言ってもらうようにしています。
──そういったご自身の見方・価値観と、世の中の価値観とのバランスについては意識しますか?
佐久間 世の中で流行っているものをそのまま扱うことはまずないですね。それは別に僕がやらなくてもいいというか、マーケティングで企画を作れる人が、どんどんアプローチするだろうから。流行っているものの中に、僕が好きになれたり、おもしろがれたりする要素が見つかれば企画にしますけど。
それは、僕がテレビ東京出身だからかもしれません。フジテレビとか電通出身の人なら、人気者のイメージをうまく利用してコンテンツが作れると思うんですけど、かつては、いろんな局の番組を2〜3周してからしか、人気者はテレ東に出なかった。だから、人気者の人気者たる要素から企画を考えるクセがついてないような気がします。
──自分の価値観をもとに企画を考えると、自分がおもしろいと思うものと、世間がおもしろいと思ってくれるものとでギャップが生じたりしませんか?
佐久間 自分のセンスや価値観だけじゃ番組作りを続けられないだろうから、仮説をもとに仕組みから作ってるんですよね。それでたまたま続けていられるだけで。最終的に自分のセンスを信用しなきゃいけないんですけど、最初から自分のセンスを信用してるわけではないというか。
──ちなみに、最近では佐久間さん自身がメディアに出演するケースも多くなっていますが、タレントとしてご自身をどう捉えているのでしょうか。
佐久間 表に出ることは、自分では全然考えてないんです。番組の役に立てそうなら出る、くらいの感じで。ラジオは別ですけどね。パーソナリティを数年やってみて、やっぱりラジオが好きだなと思って。仮に『オールナイトニッポン0(ZERO)』が続けられなくなっても、どこかでラジオ番組を持って、しゃべり続けたい、リスナーと触れ合える場にいたい。だから、ラジオを続けるために努力する時間はとっておきたいし、もっと自分の価値観を込めてうまくしゃべれるようになりたい。ラジオパーソナリティであることに対しては、しっかりとした気持ちがあるんです。
エンタメはサボりのはずが、借金に
──佐久間さんは「仕事サボっちゃったな」と思うようなことはありますか?
佐久間 ありますあります。「結局寝ちゃったな」みたいなこともあるし。あとは、サボりとは違うかもしれませんけど、「ここでリフレッシュしないとちょっとしんどいな」と思って、計画的に仕事をしない時間を組み込むことは多いですね。
──そういった時間にエンタメを摂取しているんですよね。
佐久間 そうなんですけど、最近は観たいものが多すぎて追いつかないから、常に借金を抱えているような状態なんです。だから、サボろうと思って予定を入れるというより、その借金を返すために空いている時間が埋まっていくというか。「やべー、もう劇場公開が終わっちゃう……」みたいな感じで、映画館に行く時間を作ったり。
──もはやお仕事みたいですけど、やっぱりエンタメに触れる時間自体は別物なんでしょうか。
佐久間 そうですね。作品を観ることについては「勉強のためだ」とかまったく思わず、普通に楽しんでます。自分では、たまたまエンタメを作る側の立場にいるだけ、というイメージなんですよ。常に作品を作り続けなきゃいけない業を背負ったような人たちが、本物のクリエーターだと思うんです。でも僕の場合、一生ゲームをやったり、本やマンガを読んだりするだろうけど、クリエーターでいるのは人生の中で30年ぐらいだろうなって。
しゃべる自分も、しゃべらない自分にもムリはない
──エンタメ以外に、佐久間さんが純粋に好きなことはありますか?
佐久間 人とごはんを食べることですね。本当に少人数で、仕事の話もしないような感じで。一緒に行くのは、大学時代の友人、会社で仲のよかった同僚、あとは後輩数人くらいですけど、おいしいお店でごはんを食べてるときが一番リフレッシュできているかもしれません。
──仲のいい人といるときの佐久間さんは、どんな感じなんでしょうか。
佐久間 全然しゃべらないです。だいたい話を聞く側で。だから、みんな僕がラジオを始めたときに「こんなにしゃべるんだ!?」って驚いたと思います。誰かに言われたんですよね、「よく黙ってたね」って(笑)。そういう意味で僕のしゃべりに気づいたのは、秋元康さんですね。
秋元さんと『青春高校3年C組』(テレビ東京)という番組を一緒にやっていたとき、毎週定例会議があったんです。そこで秋元さんのひと言に対する僕の返しをおもしろがってくれたみたいで、秋元さんが『オールナイトニッポン』に僕を推薦してくださったんですよ。
──そうなんですね。打ち合わせのやりとりから、ラジオパーソナリティもできるだろうという発想につながるのがすごいと思います。
佐久間 秋元さんも確信はなかったんでしょうけど、まず『AKB48のオールナイトニッポン』に中井りかさんのサポートとして「出てよ」って言われて。それがおもしろかったということだと思うんですけど。そこはさすが秋元さんだなと。
そんな佐久間さんのラジオでのトークなどがまとめられている
『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す』(扶桑社)
──普段はあまりしゃべらないほうなのに、ラジオでは自然にキャラクターが切り替えられたのでしょうか。
佐久間 別にムリはしていなくて、キャラクターを作るというより「どの自分を出そうかな?」という感覚でしたね。そこでラジオ好きな自分を出していったっていう。ラジオでの人格も、自分の中にあるものではあるんです。年齢を重ねて、会社を辞めてフリーにもなって、自分にとって不自然なこと、メンタルにくるようなムリのある仕事はやめようと思って。できるだけ気が合う人と仕事をしていたい。そういう意味では、本当のプロフェッショナルではないかもしれません。イヤだったら辞めようと思って働いてるから。
──オンとオフがあって、オフの状態がサボりということではなく、オンの状態もムリのないようにしていく。それもある意味で息抜きというか、サボりの技術かもしれませんね。
佐久間 基本的に、自分が信用できないんですよ。逆境やストレスの溜まる場所でもがんばれる人間だとは思えないというか。自分をマネジメントするもうひとりの佐久間としては、「佐久間という人間はイヤなことから逃げ出すぞ」ってわかるんですよね。だから、自分で自分のダメな部分をマネジメントする。スケジュールなんかも、「いやこれ、佐久間ムリなんじゃない?」とか、「スケジュールは詰まってるけど、楽しい仕事だから大丈夫そうだね」とか、自分を客観的に見て考えていますね。
撮影=難波雄史 編集・文=後藤亮平