UFOに翻弄される人々、「信じたい」気持ちの尊さを描いたヒューマンドラマ──小路谷秀樹『虚空門 GATE』

文野紋のドキュメンタリー日記 ~現実(リアル)を求めて~

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文野紋のドキュメンタリー日記 ~現実(リアル)を求めて~
人生を変えた一本、退屈な日々に刺激をくれる一本、さまざまな愛に気づく一本など──
漫画家・文野紋によるリアルな視点、世界観で紹介するドキュメンタリー映画日記

私はいわゆるUFOというものを信じていない性(たち)だ。地球外生命体の存在自体はあってもおかしくない、むしろあってほしいと思っているが、アブダクションとか空飛ぶ円盤とか言われると、「そんなテンプレ的な想像が本当に真実と一致するのだろうか?」と、どうしても疑いの気持ちを持ってしまう。

今まで「UFOを見た」と主張していた人の大半が嘘だった、という経験から来る疑いもある。地球外生命体は実在してもおかしくないが、SNSに上がっている映像やエピソードトークは99.99%フェイクだろう、というのが私の感覚だ。

私と同じような感覚の人は多いと思うし、本作に関してもUFOを題材にした映画といわれると、反射的に「うさん臭い」と感じる人もいると思う。

私も正直、仕事(角由紀子原作『トムライガール冥衣』作画担当)のための勉強という目的がなければなかなか手が伸びない作品だったと思う。私はUFOの真偽というSF的なテーマよりも、人間の人間らしさの部分に興味があるからだ。私は大半の心霊やオカルトを題材にしたドキュメンタリーに対して、普通であれば多少なりとも疑いの気持ちを持つものに対して「本物の前提」で進んでいくような……登場人物たちの気持ちについていけないような気がしていた。これは映画の質の問題ではなく、制作の目的が違うのだから当たり前だ。私はターゲットではないのだ。

だが、この映画は違った。この映画はUFO映画の皮を被ったヒューマンドラマなのだ。

2013年、本作の監督である小路谷秀樹はYouTubeで月面異星人遺体動画を発見した。小路谷は件の動画に強く興味を持ち、友人や専門家に意見を聞いて回るが、フェイク動画だと言われてしまう。

1995年に発見され世界を震撼させた「宇宙人解剖フィルム」(※)も2006年、制作者によってフェイク動画であったことが告白された。嘘だったのだ──UFO研究家、宇宙人研究家たちは慎重になっているという。だが、専門家たちは動画がフェイクだということと、宇宙人が実在しているかはまた別の話だともつけ加える。
(※イギリスの映像プロデューサーが世界中に公開した、異星人の死体解剖を撮影した記録フィルム)

★UFO撮影2

(C)Bride Works/『虚空門 GATE』

取材を続けていくなかで、小路谷は俳優である庄司哲郎と出会う。庄司は「自分はUFOを呼べる、UFOなんか当たり前に飛んでる」と主張する。小路谷は庄司含むUFO愛好家たちに同行し、UFO撮影を試みる。作中ではUFOを確認できたということになるのだが、映像に映るのは「あれあれ、出た出た!」「俺生まれて初めてUFO見た!」とはしゃぐ登場人物たちだけなので、我々視聴者には真偽のほどはわからない。また別の日、小路谷が庄司に同行すると、なんと庄司はUFOの撮影に成功したという。庄司が撮った写真にはたしかに空に浮かぶ円盤が写っていた。
「明日はどうしようかな」
「明日は晴れていればなんらかはあるんじゃないかと思うけど」
正直このシーンまで、私はこの作品もノットフォーミーなのかもしれない……という不安を持っていたのだが、ここで急展開が起こる。

撮影の約束の日、庄司は現場に現れずそのまま音信不通となるのだ。

そして2016年8月31日、庄司哲郎は覚醒剤取締法違反で逮捕された。

小路谷は庄司を慕っていたUFO愛好家たちに尋ねる。
「彼の能力は信じてるんですね?」
「断然信じてますよ」
「だからこそもったいないんですよ」
「覚醒剤とは別個に本当だったんじゃないかなと思ってるんです」

全員が庄司の能力は本物だと信じているという。
恋人である林泰子も、何度も手紙を送るなど献身的に庄司を支えていた。
いなくなった庄司の代わりに猫に餌をあげる彼女が、空を見て言った。
「あ! 地震雲!」

ここで私は、この映画はUFOを題材にした作品ではなく、UFO愛好家・庄司哲郎とそれを取り巻くUFO愛好家仲間たちのヒューマンドラマなのだと理解した。

約7カ月後、身柄の拘束が解けた庄司は身の潔白を証明するために控訴するという。
「いくつまで生きるかわかんないけど、人生。てっちゃんにとって大事なものを最優先に考えたら、戦うことじゃなくて、大切な人を守りながら二度とこんな目にあわないように生きていくことが一番大事なんじゃないの」
泣きながら訴える泰子の姿は胸を打つものがあった。

庄司は泰子の説得を受け、控訴して戦うのではなく、警備員として働きながらUFO愛好家として活動する道を選ぶ。

この映画のテーマのひとつとして、人間の「信じたい」という気持ちの尊さがあると思う。専門家に否定されても「信じたい」気持ちで取材を続ける監督。逮捕されてもUFOに関する能力は本当だったと「信じたい」UFO愛好家たち。逮捕されたパートナーを「信じたい」一心で支える泰子。作中には何度か、UFOを信じていると楽しそうに語る人たちのインタビューも差し込まれる。

★UFO撮影4

(C)Bride Works/『虚空門 GATE』

物語後半、小路谷は庄司含むUFO愛好家たちの合宿に同行することになる。そこで小路谷は同行者のひとりから衝撃的な告白を受ける。彼は庄司が“こより”のようなものを使ってUFO写真を偽装しているところを見たという。
「これはもうある種の試練だなって。これでも信じるの?っていう思いが……」

その後、小路谷は偶然、庄司が“こより”を使ってフェイク映像を撮影している場面をカメラに収めてしまう。庄司の不正は本当だった。

カメラは第三者視点になり、これまで視点としてカメラを握っていた小路谷が被写体として映画の中に登場することになる。小路谷は庄司を問い詰めるが、庄司は記憶がないと否定する。泰子は心配そうに庄司を見つめていた。泰子は庄司の不正に気づいていたのだろうか。その答えが作中で明かされることはない。

ふたりはその後籍を入れ、小さな結婚式を挙げる。

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(C)Bride Works/『虚空門 GATE』

私事だが、少し前までオカルト作品(『トムライガール冥衣』)の作画を担当していた。私個人として大切に思っている作品であるものの、数字的にはあまり振るわなかった。

オカルトの専門家を原作に据え、しっかりとした知識に基づいてオカルト要素を扱う、という編集部としても気合いを入れた作品であったと思う。私がオカルトを信じていないことが作品にとって悪い影響を与えているのではないか、と何度も考えた。

だが、私は実在するかわからないもの、未知のものへの恐怖や興味で振り回される人間の心情にはすごく興味があるし、そういった人間の心情を丁寧に描いている作品が大好きだ。本作を観てその思いはさらに強くなった。やはり、UFOという存在を証明できないものに焦がれ、振り回される人間は尊く、おもしろいと思う。連載中不安になっていたなかでこの映画に出会い、その気持ちを再確認できて本当に感謝している。

結局、もろもろの都合からその気持ちを作品に活かすことはできず何も力添えができなかったため、作品に対しては大きな後悔と申し訳なさが残っている。

私は幼少期から母に「お天道様が見ている」というような理屈で教育されたことは一度もないし、幼少期近所にあった「おばけトンネル」と呼ばれる心霊スポット(?)も家族の中では「ゲジゲジが出るトンネル」という扱いに過ぎなかった。子供のころから幽霊よりゲジゲジのほうが怖かった。そんな家の中で、母が一度だけ幽霊の話をしたことがある。壁にかけていたカレンダーが揺れたのを「弟の命日が近いから来てくれた」と言ったのだ。私はもう十数年も前の母のその言葉が今でも忘れられない。

人があやふやなものを信じる理由はいろいろあるけれど、普遍的な理由のひとつとして、信じたいから、があるのだと思う。

だから作中でUFOについて語る人はみんな少年のようにキラキラしているし、庄司を見つめる泰子の目は愛にあふれているのだろう。好きなものを、好きな人を、信じたいから信じるのだ。

なぜ人は何かを信じるのか。信じたいと思うのか。

本作は宇宙人が「いる」のか「いない」のかがどうでもよくなってしまうくらい、大切な人間の感情を捉えたヒューマンドキュメンタリーである。

余談だが、監督である小路谷秀樹はAV監督出身で、「アダルトビデオ」という造語を生み出したAV史に残る人物でもあるらしい。

平野勝之といい、カンパニー松尾といい、AV監督の撮るドキュメンタリーは湿度のあるおもしろいものが多い。私は女性ということもありAVを通っておらず、監督方のビデオも見たことがないのだが、何か通ずるところがあるのだろうか。

文野 紋(ふみの・あや)
漫画家。2020年『月刊!スピリッツ』(小学館)にて商業誌デビュー。2021年1月に初単行本『呪いと性春 文野紋短編集』(小学館)を刊行。同年9月から『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)で連載していた『ミューズの真髄』は2023年に単行本全3巻で完結。2026年3月から『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)にて『今際の際のファムファタール』の新連載がスタートしている。
X:@bnbnfumiya

 

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『虚空門 GATE』
企画・制作:株式会社ブライドワークス MONALISA FILMS
監督:小路谷秀樹
撮影:小路谷秀樹、小路谷恵美
プロデューサー:小路谷秀樹、小路谷恵美
編集:小路谷秀樹
出演:庄司哲郎、林泰子、竹本良、巨椋修、大森敏範、宇宙大使くん、ほか
(C)Bride Works/『虚空門 GATE』

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