神保町の韓国書籍専門店CHEKCCORIを訪問!経営者・金 承福「行動ひとつが自分を変える」|「林美桜のK-POP沼ガール」マレジュセヨ編

「林 美桜のK-POP沼ガール」
K-POPガチオタク・林美桜テレビ朝日アナウンサーの沼落ちコラム
林美桜が話を聞きたい“韓国カルチャー仕事人”に突撃取材する「林美桜のK-POP沼ガール・マレジュセヨ編」。
第2弾は、最近K-BOOKがマイブームである林の強い要望で、神保町で韓国語原書書籍・韓国関連本を専門に扱う書店「CHEKCCORI(チェッコリ)」を営む、金 承福(キム・スンボク)さんが登場!
出版社の社長も務める金さんのキャリアにも興味津々。林は、いったいどんな学びを得るのか?
CHEKCCORIが作り出す「韓国文学を通じたコミュニティ」
林 美桜(以下、林) 営業時間外にもかかわらずお店を開けていただいて……本当にありがとうございます! まず店内がとても明るい雰囲気で、入った瞬間にとてもワクワクしました。
金 承福(以下、金) こちらこそありがとうございます。CHEKCCORIに来てくれてうれしいです! この場所ができてから、今年で丸10年になるんですよ。

林 10周年、本当にすごい。おめでとうございます。
金 なんだか100年くらいやっているような感覚です(笑)。
林 アハハハ! そのくらい、この場所でいろんなことを経験されているということですよね。そもそも韓国書籍専門店をオープンされた経緯を伺ってもよろしいですか?
金 まず私たちは、2007年に「クオン」という韓国文学を出版する出版社を作ったのですが、以前は今よりも韓国の本を取り扱っている書店はずっと少なかったんです。
韓国語を学び始める人も増えていたので、そういった方々が原文で韓国語の本を読む機会が少ないのは残念にも感じていました。であれば、自分たちで書店を作ってしまおうと思い立ったんです。

林 金さんは、いつから本がお好きだったんですか?
金 子供のころ、母が毎日おもしろいお話を聞かせてくれていたんですね。でもあるとき、それらは母の自作ではなく本から仕入れた物語だということを知った私は、まだ字が読めない年齢にもかかわらず「私も聞くだけじゃなく、本を読んでみたい!」と言って、文字を教えてほしいとせがみました。
林 すごい熱意! お母様はどんなお話をされていたんですか。
金 冒険物語とか、偉人伝が多かったです。そういった物語を通じて、新しい世界に飛び込むことに魅了されたことで本の魅力に目覚め、大きくなってからは詩人を志すようになり、韓国の芸術大学へ進みました。
林 ご自身で詩を書いていたこともあるんですね。そこからどのように、日本で出版社を立ち上げたのでしょうか?
金 当時、韓国の若者の間で留学ブームが起こって。特に私たちの世代にとって日本カルチャーは憧れの対象でした。今、日本の若い方たちが韓国カルチャーに対して抱いている気持ちに近いものだったと思います。
また、そのころは村上春樹や江國香織など、日本文学の注目度が高い時期でもありました。大学の先輩が、吉本ばななの『キッチン』を韓国語に翻訳してくれたノートを、みんなで回し読みしていたこともあったんですよ。それくらい人気があって、本好きとしてはぜひ日本に行かなければと決意し、大学に留学しました。
卒業後は日本の広告代理店に入社したのですが、やはり文学への愛は変わらなかったので出版社を作ろうと。ただ、イチから本を作ることは最初の段階では難しかったから、版権仲介のかたちで事業をスタートさせました。自分たちで新しく本を出すようになったのは、2011年になってからですね。

林 そしてクオンの記念すべき第1弾作品になったのは……。
金 『菜食主義者』(著:ハン・ガン/訳:きむ ふな)です。人間の内面を繊細に描く内容で、国を問わず文学が好きな人なら誰もが入り込んでしまう物語だと思い、一作目に選びました。
ただ、せっかく素晴らしい作品でも、読んでもらえなければそのよさを伝えることができない。最初にお話ししたとおり、当時はどこの書店も韓国文学の棚がない状況でしたから、まずは手に取ってもらえる機会を作ろうと思いました。そこで、私たちだけでなくいろんな出版社が韓国文学を出せるような環境を作る取り組みも始めたんです。
林 日本の韓国文学を取り巻く環境から変えようと。
金 そのとおりです。結果的に、今ではたくさんの韓国文学が日本語に翻訳され、人気を博すようになりました。『菜食主義者』著者のハン・ガンさんも本作で、2016年にアジア人で初めてブッカー国際賞を、そして2024年にはノーベル文学賞を獲得し、世界的に知られる作家となりましたね。
彼女の受賞が発表されるや、たくさんの方がCHEKCCORIへお祝いに駆けつけてくださったときは、「やはりいいものは、ゆっくり時間がかかっても必ず魅力が伝わるんだな」と感じてすごくうれしかったです。

林 今のお話を聞いて、クオンで新たな作品を発信するとともに、CHEKCCORIという場所で、韓国文学を通じて人と人がつながるコミュニティも作られているのだなと感じました。
金 そうですね。ここでは本を売るだけでなく、著者を招いたトークショーや楽器の演奏、映画やドラマの話をするイベントなどを週に2~3回は行っています。人の話を聞ける、そして自分の話もできる場所ですね。

お客様からの寄せ書きもたくさん!
林におすすめ!「シンクン」(=胸キュン)する韓国文学は?
林 最近はどんな本が人気なのですか?
金 K-POPファンの方にも来ていただけるようになったので、推しが読んでいる本が気になって……という声をよく聞きます。そのほか内容については、日本・韓国問わず、癒やしを与えてくれる本が好まれる傾向にあると感じます。林さんも、そういうテーマに関心がありますか?
林 癒やし、求めてますね(笑)。最近31歳になったのですが、働き方やひとりの人間としての生き方について悩むことも増えてきて、漠然とした不安に襲われることもあるんです。
金 それなら、2024年の本屋大賞で翻訳小説部門に輝いた『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(著:ファン・ボルム/訳:牧野美加/集英社)をオススメしたいです。この本の主人公も、林さんと同じくバリバリ働く女性なのですが、あるとき燃え尽きてしまって「何をすればいいんだろう」という状態になってしまうんです。
そんななかで彼女は、本屋を開くことになる。そこに集う優しい人たちと交流していくうち、心に変化が生まれていくといったストーリーです。大きな出来事は起こらないけど、些細なことがゆっくりと進んでいく様子が描かれています。

林 それは癒やされそう!! すぐにでも読んでみたいです!
金 林さんは韓国語を勉強されているということなので、原書と日本語版を読み比べてみるといいと思いますよ。ここに来ている多くのお客さんもそういう方法で勉強しているし、私自身も日本語を学んでいたときにそのようにしていたんです。
林 なるほど! でも、小説を原書で読めるか不安です……。
金 この本はあまり難しすぎない表現で書かれているから、きっと大丈夫です。それに、先に日本語版で内容をインプットしてから原書を読むと、イメージしやすくなりますよ。「この表現、韓国語だとこうなるんだ!」っていう発見が楽しいですし、読み終えたあと「韓国語の本が読めた」と大きな自信につながるはずです。

林 たしかに、そうやって考えるとなんだかできそうな気がしてくるし、やってみたくなります! そして今感じたのですが、このように、本を前にお話ししながらオススメしていただくって、すごく特別な体験ですね。まさに、先ほど金さんがおっしゃっていた「人の話を聞ける、そして自分の話もできる場所」としての魅力を実感しました。
金 人と話すことで思いがけない本との出会いもありますし、そういった体験をみなさんに提供できればと思っています。ほかにも、興味のあるトピックや読んでみたいジャンルはありますか?
林 やっぱり、キュンとするような恋愛模様が描かれた物語も読みたいです。「胸キュン」って、たしか韓国語で「シンクン(심쿵)」っていうんですよね。

金 そうそう。ただ、うーん……いわれてみると、韓国ってドラマは「シンクン」する作品が多いんですが、意外と小説はそこまで多くないのかも。
林 えっ、そうなんですか!
金 なので、なかなか難しいのですが……『アンダー、サンダー、テンダー』(著:チョン・セラン/訳:吉川凪/クオン)は、私の中で「シンクン」ですね。これも主人公が30代女性なのですが、高校時代の友人の動画を撮り溜めているんです。その中で、青春時代に好きだった人の話も出てきて、それがすごくいい話なんですよ。

林 気になります~! こちらも今日、購入します(笑)。
翻訳者を育成するコンクールも開催!
林 クオンさんとCHEKCCORIさんでは、翻訳者の発掘や育成も行っていらっしゃるんですよね。
金 プロから直接学べる『チェッコリ翻訳スクール』という講座を設けたり、『日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール』をK-BOOK振興会と開催しています。コンクールの受賞作品は、実際にクオンから出版されるんですよ。
第1回の受賞者である牧野(美加)さんも、今すごく活躍される翻訳者になられていて、先ほどご紹介した『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』の訳も手がけられているんです。
林 デビューまでサポートされているんですね。そうやって翻訳者の方が羽ばたくことで、日本での韓国文学界も豊かになっていく。
金 コンクールの翻訳対象となった作品に『ショウコの微笑』(著:チェ・ウニョン/訳:牧野美加、横本麻矢、小林由紀/クオン)があるのですが、212人の応募作が集まったんですね。
それについて著者のチェ・ウニョンさんが、「韓国語の『ショウコの微笑』はひとつしかない。だけど、日本語の『ショウコの微笑』の物語は212篇もあるんです」とおっしゃっていたことがすごく心に残っています。それこそが翻訳の素晴らしさだなと。

林 とても素敵な言葉……。また、そういった環境を整えられているのも、クオンさんが出版から書店まで行われているからこそだと思います。
金さんが31歳のとき、悩みは多かった?
金 ここまでのことは、とてもできないと最初は思っていましたが、経験を積み重ねていくうちに「自分たちはできるんだ」ということに気づいていって、今に至っています。
林 今日お話を伺って、金さんのバイタリティに感銘を受けました。私自身、今31歳で「何かやらなきゃ」と焦りつつ、頭で考えてばかりで行動に移せないので、すごく刺激になります。金さんも、私の年齢のときは悩むことが多かったですか?

金 もちろんありましたし、今も悩むことはあります。でもそれ以上にやりたいことがいっぱいでしたし、それが必ずしもお金にならないことでも、興味があるからとりあえずやってみるという考え方はずっと変わりません。
今振り返ってみると、その行動一つひとつが今を形作っているような気がしているんですよね。なので、頭で考えることがすべてではないと思います。
それに30歳でも40歳でも、新しいことに挑戦している人はいっぱいいますから、焦る必要はないですよ。そう思えたら、難しく考えずにとりあえずやってみようと感じられるじゃないですか。
林さんはせっかく韓国文学に関心を持って、今日ここへ足を運んでくれたんだから、これをきっかけに何か始めてみてもいいかもしれない。それくらいの気持ちで、まずは行動してみることが重要だと思います。

林 本当にそのとおりですね。韓国文学の発信という分野を開拓されて、人々に一歩踏み出すチャンスも届けている金さんの言葉だからこそ、よりいっそう刺さります。
金 ぜひ私たちと一緒に、何かやりましょう。アナウンサーさんだから、この場所で朗読会をやっていただくとか。すごくピッタリだと思いますよ。
林 うれしい……! 自分では考えてもみないことでしたが、そういったところから世界が広がっていくような予感がします。ぜひ、これからもよろしくお願いします!


韓国版の「指切りげんまん」。ふたりの約束が叶う日も近いかも?
林美桜の取材後記
金さんのお話に没頭した帰り、電車の窓に映った自分の顔が、充実感にあふれていてびっくり。久しぶりに見た表情でした。
それくらい、金さんから元気をいただいたんです。お話しさせていただけばいただくほどに、心が充電されていく新しい感覚でした。
今回の取材を通して、金さんのみなぎるパワーや行動力の源には「韓国文学」があるのではと感じました。
韓国文学にたくさん触れていらっしゃる金さんは、たくさんの世界、考え方をご存じです。
私は何かに行き詰まると、自分の世界だけで完結して限界を迎えてしまいますが、金さんにはその限界がまったくありませんでした。
「これがダメでも、こっちにはもっと楽しいことが!」「あっちもどうかしら?」と、限界突破!な考えがとめどなくあふれてきます。
それも、そのすべてがはつらつとしていて、ワクワクするような!!
「悩んでないでやってみようよ!」と、いくつもの出会ったことのない未来の扉を開いていただきました。
CHEKCCORIは本当に何時間でもいたくなる空間でした。ご紹介いただいた韓国文学を読むのが楽しみです。また新しい世界が見つかりそう!
いつか朗読会もさせていただきたいので、韓国語もがんばります!
店舗情報
CHEKCCORI
東京都千代田区神田神保町1-7-3 三光堂ビル3階
https://www.chekccori.tokyo/
文=菅原史稀 撮影=MANAMI 編集=高橋千里