最旬女優・當真あみ──松岡茉優や広瀬すずとの共演で培った“演技力”と“人間力”
#20 當真あみ(前編)
旬まっ盛りな俳優にアプローチする連載「focus on!ネクストガール」。
當真あみ(とうま・あみ)。2020年に沖縄でスカウトされ、『妻、小学生になる』(2022年/TBS)でテレビドラマ初出演を果たす。その後、「カルピスウォーター」の14代目イメージキャラクターに就任、また、『パパとなっちゃんのお弁当』(2023年/日本テレビ『ZIP!』朝ドラマ)や『どうする家康』(2023年/NHK)、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(2023年/日本テレビ)など、ドラマへの出演を重ねる。2025年4月4日公開の映画『おいしくて泣くとき』では、複雑な家庭環境下にあるヒロイン・夕花を演じている。その作品に関する話から聞いてみることに。
心の「居場所」を意識して、作り上げたヒロイン像
──映画『おいしくて泣くとき』の話をもらったとき、いかがでしたか?
當真 お話をいただいてから、台本と原作を読んで、すごくあたたかい作品だなと思いました。ほっこりするあたたかさとは違って、人の優しさを知るというあたたかさというか……。私が演じる夕花と、長尾(謙杜)さんが演じる心也との初恋もそうなんですけど、それだけじゃない、人を思いやる気持ちというのがたくさん感じられる作品で、すごく素敵だなと思いました。
──ご自分の素のキャラクターと夕花とで、似ているところはありますか?
當真 夕花は家庭での複雑な事情があって、少し大人びているところがあるんですけど、その中での芯の強さと、本人のもともと持っている明るさが合わさったときの力強さは私にはないものなので、そこをしっかり出せたらいいなと思いました。
──撮影していて、特に印象に残っているシーンはありますか?
當真 ひとつだけ挙げるなら、雨の中を帰るシーンですね。実際、その日も雨が降っているというリアルな状況で、楽しいというよりは少し沈んでいる空気を雨が消してくれるみたいな、そういう心情になって。そのあたりの気持ちの作り方を考えて、監督とも相談しながら撮影したこともあって、印象に残っています。
──ほかにも撮影していて大変だったな、苦労したなというシーンはありますか?
當真 ラストの心也くんとのシーン……気持ちを作るのに少し時間をかけてしまったんですけど、このシーンが大変でしたね。たくさん言葉をかけてくれる心也くんに対して、振り切るかたちで夕花が行ってしまうという行動……すごく大切な部分なので、その気持ちを作るのに時間がかかりました。
──クランクイン後の最初の撮影、夕花の家でのシーン……けっこう激しいシーンでしたね。
當真 夕花の土台となる、この作品ですごく重要な要素でした。そういった家での状況が中心にあった上で、心也くんとの対話だったり、“子ども食堂”に行っていたりとかするので、重要な部分を最初に撮れたのは、すごくありがたかったなと思います。
──そこを基準に、役づくりをしていった感じでしょうか?
當真 そうですね。やっぱり家で起きていることが、どんなシーンでも頭をよぎるというか……ふと思い出したりすることができたので、そこはすごくありがたかったです。
──長尾謙杜さんと共演してみた印象は?
當真 横尾(初喜)監督と長尾さんと私の3人で話すことが多かったので、コミュニケーションを取る機会も多くて、演じる上ですごくやりやすかったです。
──撮影の合間は、どんな話をしましたか?
當真 撮影地が豊橋だったこともあって、豊橋のおいしい食べ物の話とか……初日は私が緊張しているので、撮影がスムーズにできるような気遣いをしてくださったり。合間では、本当にたわいもない会話や地元の話……図書館のシーンでは、文房具がいっぱい目の前にあったので絵を描いたりとか、そんなこともしていましたね。
──當真さん自身も、弟役の矢崎滉さんを引っ張っていかなきゃというような意識はありましたか?
當真 やっぱり夕花としては、小さい弟を守らなきゃ!みたいな気持ちもありますし、弟役の矢崎くんも撮影の初日は緊張しているかなとも思ったので、意識的に話しかけたりしました。
──その様子を見ていて、ご自分が初めて演技したときのことを思い出したりしました?
當真 しました(笑)! やっぱり緊張というか……監督から言われたことを、こうなんだろうか?と考えたりして、本当に難しいなと思っていたことを思い出しました。
──この映画で見てほしい、ご自分の演技のポイントはどのあたりですか?
當真 (自分の)家にいるときの夕花と、心也くんが作ってくれた居場所にいるときの夕花の違いです。やっぱり、自分にとっての居場所があるというのはすごくうれしいことだなと、撮影の合間にも感じていて……帰ってくることができるという安心感って、たくさんあればあるほどすごく安心できる。その居場所に対する夕花の違いを、見ていただければと思います。
──當真さんにとっての「居場所」、行き着く場所は、どこなんでしょうか?
當真 やっぱり仲のいい人といる場所……もちろん地元の沖縄のお母さんたち、おうちだったり、おばあちゃんだったり。それと東京に来てから仕事で仲よくなった友達と一緒にいる時間や空間というのも、私にとっての「居場所」だなと思います。
松岡茉優からもらった「卒業証書」に感銘を受けて
──今まで演じてきた作品の中で、一番印象に残っているものはなんですか?
當真 こういう現代の話とは離れたジャンルの時代劇『大奥』(2023年/NHK)と『どうする家康』は、すごく印象に残っていますね。それまでやってきたお芝居とは違って、セリフから所作から何もかも自分の中で新しくやることだったので、すごく難しかった記憶があります。
──なるほど。時代劇も、今後またやってみたいと思いますか?
當真 そうですね。『大奥』では、特に男女の設定を逆転させて女性のほうが強く押し切るという、実際の歴史とはちょっと違った描き方でしたし、これとはまた違うかたちでの時代劇にもチャレンジしてみたいです。
──當真さんのInstagramを拝見すると、いろいろな映画作品をご覧になっていますが、最近観た中で印象に残っている作品はありますか?
當真 昨年の12月に観た『侍タイムスリッパー』です。最近観に行ったばかりの『室町無頼』も、現代とはかけ離れた話で、アクションの迫力とか、そういう部分に圧倒されたり。『侍タイムスリッパー』にはコミカルでくすっと笑ってしまうような部分、すごく惹きつけられる部分がたくさんあったので、印象に残っています。
──以前、憧れている俳優は長澤まさみさんとおっしゃっていましたが、今、憧れている、目標にしている俳優はどなたですか?
當真 変わらずに、長澤まさみさん。それと、ドラマでご一緒した松岡茉優さん、よく出演作品を観ている杉咲花さんです。松岡さんは、ご一緒した撮影現場(『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』)で、すごく圧倒されました。先生役で、ワンシーンがものすごく長くて、セリフもすごい量だったんですけど、長回しで何回も繰り返す撮影でも、毎回ぐっと惹きつけられるお芝居で。観る人だけじゃなく、現場にいる俳優たちも圧倒するようなお芝居が、すごくエネルギーがあって素敵だなと思いました。憧れですし、私もそうできるようになりたいです。
──松岡さんとの現場での思い出はあります?
當真 松岡さんはすごく優しくて、クランクアップの日は、本当の卒業式みたいに卒業証書をくださいました。一人ひとりが(松岡さんから)ひと言をもらう時間もあって、そこは10話通して撮影してきた中でも本当にラストの卒業みたいな感じになって。撮影中、生徒と松岡さんが演じる先生との間には役柄的にも壁がある感じだったんですけど、撮影が終わると、笑顔で「おつかれさま!」と言っていただいたのも印象に残っています。
──デビュー以降、初期に演じた作品はいかがでしたか?
當真 長編映画だと最初に演じたのは『水は海に向かって流れる』(2023年)、短編だと『いつも難しそうな本ばかり読んでる日高君』(2022年)ですね。長編では、広瀬すずさんとご一緒しました。お芝居はほぼ初めての状態だったので、監督が撮影1カ月前に何回か個別にリハーサルを組んでくださって、そこでいろいろなアドバイスをもらいながら本番に臨んだので、すごく記憶に残っています。
──広瀬すずさんとの共演は、どうでした?
當真 一緒のシーンがすごく少なかったのと、映画の内容的にも、私の演じる「楓」が一方的に(広瀬すず演じる「榊千紗」を)敵対視している設定だったということもあって、現場であまりお話しすることはなかったんですよね。ただ、撮影したのが寒い季節だったので、待ち時間にちっちゃいストーブを私のほうに向けて「あったまって!」と言ってくれたりとか、そういう気遣いをしていただいたのは覚えています。
──実写映画以外では『かがみの孤城』(2022年)での声優経験もありますが、声優と俳優では、どんな違いがありましたか?
當真 声優は、セリフだけで表現しないといけないのがすごく難しいと感じました。俳優だったら表情でやるものを、アニメーションの表情に合わせるにはさらにテンションを上げたり抑揚をつける必要があって、そういう部分がすごく難しかったです。
──なるほど。ドラマ『ケの日のケケケ』(2024年/NHK)では、ちょっと難しい役柄にも挑戦されていましたが、役づくりはどうされたんですか?
當真 このドラマでは、私が演じた役が持つ「感覚過敏」の方とお話しする機会をいただきました。実際の感覚を教えてもらったり、撮影現場にも来てくださった方から話を聞いたりとか、いろいろと教えてもらいながらやりましたね。たとえば、音や光……駅の騒々しい感じはどれぐらいの大きさに聞こえるんだろう?とか、そういうことを常に想像しながら過ごして、自分の役に取り入れていました。
──『ケの日のケケケ』で母親役を演じていた尾野真千子さんは、『おいしくて泣くとき』でも大事な役どころで出演されていますね。
當真 ものすごくうれしいですね。尾野さんとまたこうやってご一緒できて。撮影のスケジュール的にはお会いできなかったので、会いたかったなぁ……という寂しい思いもあるんですけど、本当にうれしいです。
取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 編集=中野 潤
************
當真あみ(とうま・あみ)
2006年11月2日生まれ。沖縄県出身。『妻、小学生になる』(2021年/TBS)でテレビドラマ初出演。その後も『パパとなっちゃんのお弁当』(2023年/日本テレビ『ZIP!』朝ドラマ)や『どうする家康』(2023年/NHK)、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(2023年/日本テレビ)、『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(2024年/TBS)など、ドラマへの出演を重ねる。Netflix映画『Demon City 鬼ゴロシ』が配信中。2025年4月4日公開の映画『おいしくて泣くとき』では、複雑な家庭環境下にあるヒロイン・夕花を演じている。