「差し入れ番長」として『ももクロChan』名物企画に。プロデューサー・浅野崇インタビュー
ももいろクローバーZ、でんぱ組.inc、AKB48 Team8などのオリジナルコンテンツを配信する動画配信サービス「logirl」スタッフへのリレーインタビュー第2弾。
今回は『ももクロChan』で“差し入れ番長”としても親しまれている、プロデューサーの浅野崇氏に話を聞いた。
浅野 崇(あさの・たかし)1970年、千葉県出身。プロデューサー。
<現在の担当番組>
『ももクロChan』
『ももクロちゃんと!』
『Musee du ももクロ』
『川上アキラの人のふんどしでひとりふんどし』
等身大で、そのギャップもおもしろかった
——具体的な仕事はどのような内容になるのでしょうか?
浅野 番組の編集管理、スケジュール管理、クオリティー管理ですね。企画を出したり、ロケに行って自分でカメラを回すこともあります。わりとなんでもやっていますね。
——『ももクロChan』に参加した経緯を教えてください。
浅野 お世話になっていたテレビ朝日の先輩プロデューサーから声をかけていただいて、2012年5月から参加しました。ももクロのことはそれまであまり知らなかったんですけれど、『サマーソニック』にも出ていたので、音楽のアンテナの高い友達からは「やばいですよ」という話は聞いていました。
——当時のももクロにどんな印象を受けましたか?
浅野 本人たちに会う前に、まずライブを観たんです。1、2曲しか聴いたことがなかったんですが、これといったリサーチもせず『ももクロ春の一大事2012 〜横浜アリーナ まさかの2DAYS〜』の2日目を観に行ったら、やっぱりすごいなと思いました。
でも、そのあとに番組で実際にメンバーに会うとすごく等身大で、そのギャップもおもしろいなと。わちゃわちゃはしているんですけど、礼儀や気遣いがちゃんとできる子たちという印象でした。
(写真:『ももクロChan』#87)
──ずっと仕事を一緒にされてきて、印象は変わってきましたか。
浅野 メンバーが10代後半くらいから見てきましたから、すごく大人になったと感じますね。それはビジュアルだけでなく、話している内容からも思います。子供が大人の話をしていると背伸びをしている感じが出ますが、今は年相応に違和感がないというか。僕は20歳の娘がいるんですが、たまに娘のわからないところを(高城)れにちゃんに相談することもあるくらいで(笑)。
──『ももクロChan』以前から、アイドル関係の仕事はしていたのでしょうか?
浅野 いや、どちらかというと情報系のバラエティでした。でも、もともとアイドルにまったく興味がなかったわけではなく、僕の世代だとちょうどおニャン子クラブが全盛だったので、コンサートを観に行ってましたよ。
「差し入れ番長」として『ももクロChan』の名物企画に
──これまでの企画で印象的な回を教えてください。
浅野 やっぱり「ももクロ定点観察」ですね。差し入れ番長の企画は2017年の『ももいろクローバーZ ジャパンツアー「青春」ツアー シーズン2』のときに始めました。広島に行ったとき、たこ焼きの形をしたシュークリームを差し入れてカメラの前に置いてみたらおもしろかったので、そこからレギュラー化したんです。もともと差し入れ自体はずっとしていたんですけど、それが表立った企画になったので、思い入れは強いですね。
(写真:『ももクロChan』#338)
──同企画は、昨年10月には『「ももクロChan」プレゼンツ 差し入れ番長のよろこばれる手みやげセレクション』(JTBパブリッシング)として書籍化もされました。反響はいかがでしたか?
浅野 兒玉遥さんがやっているYouTubeの番組に呼んでいただいたことがありました。あとは、社内にもポスターが貼られていたので、知り合いから茶化されたり(笑)。
ネットがない時代のリサーチって本屋に行くことが基本だったので、AD時代に1日何回も足を運んでいた紀伊国屋書店や八重洲ブックセンターに自分の顔が載った本が置いてあるというのが、何よりも感慨深かったです。
──コロナ禍で差し入れ事情にも変化はありますか?
浅野 今はあえて持って行かないですね。オンラインイベントもあるので、顔を出す現場自体はいろいろあるんですが、なるべく行かないようにしていますし、仮に行ったとしても差し入れは控えています。
実は、番長本に載せさせていただいた「天外天」さんがお店を閉じられたんです。シェフは愛媛の実家に戻ったそうですが、日本の四川料理の本流の方たちでもそのような状況なので、想像以上に深刻だなとは思っています。
──『ももクロChan』で今後やりたいことはありますか?
浅野 やっぱりロケに出たいですね。今はスタジオの収録ばかりですが、ロケで弾ける彼女たちをもっと観てほしい。それで笑顔になる人も多いんじゃないかなと思いますし。もちろんスタジオ収録でもおもしろい番組は作れますが、「ぶらり高城れに」や「こってりパトロール」に早く行きたいですね。
(写真:『ももクロChan』#356)
かいた汗の量と番組のクオリティは比例する
——テレビ業界を目指したきっかけを教えてください。
浅野 大学2年生のときに制作会社でADのアルバイトをやっていたんです。フジテレビの深夜番組が盛り上がっていた時期に、『TVブックメーカー』や『料理の鉄人』、『とんねるずのハンマープライス』などに参加していました。
(写真:1995年に『料理の鉄人』を香港で収録したときのリハーサルの様子。浅野氏は左から2番目)
──今は環境が違うかもしれませんが、当時のADは寝られない、家に帰れないなどのイメージがあります。つらくはなかったですか?
浅野 逆に、あのころはそれがすごく楽しかったんですよね。普通の仕事じゃないことが魅力だったというか。たとえば『TVブックメーカー』は翌週に起こる出来事をクイズにする番組だったんですが、「マクドナルドの新製品『マックチャオ』は今週、用賀店でいくつ売れたでしょうか?」というデータを、学生の僕らがずっとマクドナルドにいて、その場で数えていたんですよ。
今の時代だったら、企業にちゃんとお願いして数字を出してもらうけど、当時はコソコソ勝手に作ることがカッコいい、みたいな風潮があったんですよね。
ほかにも、私立の小学校受験で子供にチョッキを着させると合格率が上がるっていう都市伝説があって、ある大学幼稚舎の入学試験を張り込んで、何人着てくるかカウントしたこともあります。今だったら怪しくて捕まっちゃうと思うけど、当時は警察の人に「何やってるの?」って声をかけられても「『TVブックメーカー』っていう番組でカウントしてるんですけど」と言ったら「あ、そうか。じゃあ、がんばれよ」みたいなユルい時代でした。
──作り方としては、今とかなり違いますか。
浅野 良くも悪くもあまり断りを入れなかったり、とりあえずおもしろそうだからやっちゃえみたいなところはありましたよね。当時僕がやっていた番組は、どちらかといえばタレントに頼るのではなく、企画力や構成で見せていくものが多かったので、その時代の影響は大きかったかなと思います。今でもどちらかというとキャスティングというよりは、構成や演出のほうが得意かなと思うので。
──大学時代にテレビ制作に関わったのに、卒業後は別業種に就職をしているんですよね?
浅野 そうですね、商社に就職しました。でもバブルが崩壊したばかりで、どんどん景気が落ち込んでいって。CS、BS、インターネット動画など映像メディアがこれからどんどん必要とされていく予感はあったので、そこに将来性があると思いフリーでテレビ業界に戻りました。学生時代に『とんねるずのハンマープライス』の立ち上げに関わって、就職して辞めて『とんねるずのハンマープライス』の後期にまた戻ってきたという感じです。
「泣けるくらい一生懸命にやり切ろう」
(写真:『「ももクロChan」プレゼンツ 差し入れ番長のよろこばれる手みやげセレクション』より/撮影=時永大吾)
——これまでの仕事で、最も影響が大きかった出来事はありますか?
浅野 大学を卒業する直前に『料理の鉄人』で香港に行ったんです。向こうで本格的なキッチンスタジオを作って収録をしたんですけど、終わった瞬間にスタッフがみんな泣いていたんですよ。そのとき、僕はもう商社の就職が決まっていましたが、「泣ける仕事ってすごいな」って思ったんですよね。
“仕事”ってものにまだ漠然としたイメージしかありませんでしたが、そのことがずっと心には残っていました。だからテレビの仕事に戻ってきたときも、「自分が泣けるくらい一生懸命にやり切ろう」とは思いましたね。
そこは自分のモットーになっています。汗をかいたり、一生懸命やったことと、番組のクオリティーは比例するんです。「まあいいや」と思ったら、番組の完成度もそこまでになってしまうので。
──今の仕事をやっていてよかったなと思えるのはどんなときですか?
浅野 自分の仕事を人に見てもらえることが大きいなと思います。やっぱり配信や放送を終えたときの達成感は、何にも変えがたいですね。
——今後、logirlでやりたいことはありますか?
浅野 生配信をもっとフットワークよくやれないかなと思っているんです。今は一般の人たちのほうが、ミニマムな人数で生配信をやっているじゃないですか。そこには追いつきたいなと思っています。特に『ひとりふんどし』は、いろんな場所で収録するんですが、生でやったほうが絶対おもしろいと思っています。ただ、スマホからワンカメで配信するのではなく、ちゃんとした番組としていろんな場所から生配信できたらいいなと思っています。
──動画配信というものも変化していると感じますか?
浅野 かなり多様化してきていると思います。たとえばももクロの動画なら、ももクロが観たいからお金を払ってくれている人が多い。それはテレビとは違う感覚ですよね。だから映像も編集も、テレビとは違うものが求められています。
テレビなら番組MCが話していればその顔を映すけど、そのときにももクロメンバーはどんな顔をしているかを見せたほうがいいこともある。求めるカットが違うのかなと。もちろん僕の主観でしかありませんが、動画の目的や内容によって、企画や編集も撮り方も違っていい。これからもっと、いろいろと試していきたいなと思っています。
文=森野広明 編集=田島太陽
<logirl制作スタッフインタビューは今後も不定期で更新予定です>