女優・見上愛「生活にも軸を置いていろいろな表現をしていきたい」
#7 見上 愛(後編)
“今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。
見上愛(みかみ・あい)ワタナベエンターテインメントのスクールへ通ったことをきっかけに芸能活動をスタート。2019年に女優デビュー後、映画『星の子』(2020年)、『恋はつづくよどこまでも』(TBS/2020年)、『ガールガンレディ』(MBS/2021年)、『きれいのくに』(NHK/2021年)など数々のドラマや映画、MV、CMに出演。今後も、『プリテンダーズ』(10月16日公開予定)、W主演『衝動』などの公開が控えている。前編でも垣間見られた、彼女の「舞台への思い」や普段の生活の話を中心に聞いていく。
【インタビュー前編】
「focus on!ネクストガール」
今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。
高校時代、同世代に演劇を広める活動をしていた
──見上さんが憧れている女優さん、好きな女優さんはいますか?
見上 好きという意味では、寺山修司さんがずっとあるんですけど……女優さんだとあまりいないかも……あ、でも舞台を観てすごいなと思ったのは寺島しのぶさん! 芸劇(東京芸術劇場)で唐十郎さんのお芝居(『秘密の花園』2018年)をやられているのを観て、すごいなあと思いましたね。全部脱いで、水で溺れてみたいな演技とか。自分がそうなりたいかというとまたちょっと違うんですけど……でもそこまでさらけ出せるのってすごいなという意味でも、尊敬してます。
──見上さんのインスタを拝見すると、お芝居をすごくたくさん観ていますよね。最近観た中で印象に残っている舞台はありますか?
見上 最近だと「NODA・MAP」! 「NODA・MAP」の『フェイクスピア』(2021年)を2回観たんですけど、やっぱりおもしろいなあ、ずるいなあ、そう来るかみたいな……もう敵わないなみたいな。ほかに、好きな劇団で言うと「マームとジプシー」さん。(主宰の)藤田貴大さんが大好きで……そうですね、基本は好きな劇団をけっこう追いかけたりします。(「ナイロン100℃」主宰の)ケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんは『百年の秘密』(2018年)という作品以降は、全作品を観ていますね。けっこう王道系も行くし、テント芝居なんかも行きます。それと、友達の芝居や先輩の芝居は基本、全部観に行きます。大学の友達の芝居は基本、全部行こうと思って。
──「NODA・MAP」の『フェイクスピア』(2021年)の最後の展開で出てくるモチーフは、世代的には、見上さんよりかなり上のような気がするんですが、あれって実感できます?
見上 そうですね、ニュースとして観ていたり本として読んでいたり、母の友達がそれで亡くなったりという話を聞いていたりしたので、実感として「あのときの」とまではならないんですけど、出来事として知っているものではあるので。
──なるほど、たとえば野田秀樹さんの芝居だと、テーマ、セリフ、動き……どの要素が一番刺さりますか?
見上 全部が総合芸術としてやっぱり素晴らしいなとは思うんですけど、役者が作った感じとかそういうものを超えた身体性でもって、それを超えた感情というか言葉が出てきてしまう感じがすごく好きで……藤田貴大さんにもそれが当てはまるなあという気がしていて、そういうものを観た瞬間が「演劇を観ているー!」という感じがして好きですね。
──「マームとジプシー」だと『cocoon』とかですか?
見上 『cocoon』は、生では観られていなくて。去年の7月にやる予定だったのを楽しみにしていたんですけど観られなくて……藤田さん演出の『ねじまき鳥クロニクル』(2020年)とか「ひび」みたいな「マームとジプシー」から派生したワークショップ系のものをけっこう観ています。
──野田秀樹さんの作品を藤田さんが芸劇でやった『小指の思い出』(2014年)とか。
見上 あー! 観られていないんですよ、それ。でも、寺山修司さんの芝居を演出した『書を捨てよ町へ出よう』(2018年)は観たりとか。そういえば学生のときに、東京都主催の同世代に演劇を広める活動みたいなものに入っていたんです。そこで、藤田貴大さん作演の『BOAT』(2018年)を観たあとに「演劇カフェ」といって、いろいろな人と感想を言い合ったりとか。ほかにも(演劇ジャーナリストの)徳永京子さんをお呼びしたりという活動の運営をしていて。そういうことで興味を持ったりとか……劇場へもずっと通っていました、高3時代とか。自分でも忘れていました、今日思い出しました(笑)。リポートなんかも書いていました、今思い出しました!
──ホントすごいですね。ちなみに、ケラさんだと……?
見上 ケラさんの作品は会話劇の最高潮だなって。よけいなことをしなくても、もう台本ですでにおもしろいし、演出も的確だし。けっこう不条理系の劇も好きで、終わったあとに「だから何?」とか「結局何も変わっていない」とかそういうのがけっこう好きなんです。ケラさんだと、すごくおもしろい飛んだ作品も好きですし、何も起きないじっとりとした不条理劇も好きですね。
──『百年の秘密』以降だと、一番刺さったケラさんの作品は何になります?
見上 何が好きだったかな……『百年の秘密』以降ですよね?
──この3、4年ぐらいの間に。
見上 そうですよね! ありすぎて……けっこうな数(舞台を)打ってますもんね。奥さんの緒川たまきさんとやられていた「ケムリ研究室」の公演なんかは、おもしろさが新しいところへいったなあと。
──会話劇系の。
見上 そうですね、あれはおもしろかったですね。あとは学生闘争の時代を描いた『睾丸』(2018年)……なんかなかなか言えない公演名ですけど(苦笑)とかも、おもしろかったなあ。
──安井(順平)さんや、ねもしゅー(根本宗子)さんが出ていた……。
見上 はい、それです。すごくおもしろかったです。
「職業:寺山修司」と言えるおもしろさに惹かれて
──この先、ご自身で、たとえば作演でもいいですし、自分で出るでもいいんですけど……もし舞台に関わるとしたら、どんなものをやりたいですか?
見上 どんなの、やりたいかなあ……? そうですね、作演はしれーっと打っておきたい(笑)。その、名前も出さずにしれーっとやっておきたいなというのが実はあって。名前を変えて、とか。本名で芸能活動を始めてしまったので、なんとなく切り替えがひとつあるとおもしろいのかなと思うんです。あと、出るとしたらどんな作品に出たいかなあ……。その、劇場としてKAAT(KAAT神奈川芸術劇場)とか芸劇(東京芸術劇場)がけっこう好きなので、そこでのお芝居とかも気になりますし、そういうところで。
──舞台での姿を、すごく観てみたい気がします。
見上 いやー、もう好きなだけで(笑)。観劇はただの趣味なので、何も考えずに観られるんですよ。演技がどうこうとか、演出がどうこうとかも、何も考えずに。
──一番ハマっていたという寺山修司さんは、どのあたりが魅力だったんですか?
見上 最初は『犬神』を観て、調べてみたら「なんでもやってるじゃん!」みたいな、そこのおもしろさです。「職業:寺山修司」と言えちゃうおもしろさにめっちゃ惹かれて。私もやりたいことが多かったので……あ、いろいろやるのってOKなんだ!みたいなことを感じました。映画は、『田園に死す』(1974年)とかからまず観ていって、それこそわけわからないんですけど……でもそれまでは何かをわかりやすく伝える映画ばかり観ていたので。たとえば、それまで日本の映画やドラマでは、メッセージ性とかセリフなんかを観ていたから……。そうじゃなくて、やんわりじんわり受け取れーみたいな感じで映画を作ってもいいんだみたいな。演劇では、なんとなくそういう感じが成立しているんだなということは、戯曲を読んだりしてわかってたんですけど。映像でもこんな感じでOKなんだ、って。それまで映画をあまり観ていなかったっていうのもあると思うんですけど、なんかそういう切り取り方とかがおもしろかったですね。
──ムービーで演技をするときに、こんなことを活かしているという点はありますか? お芝居を観てきた経験が、こんなところで活きているみたいな。
見上 脚本を読んだときに想像がつきやすいかもしれないです。演劇での戯曲の読み方のクセがついていて、まず全体で何を言いたいか、次にそのシーンが何で、その役は何をどんな役割としてやって……という読み方が基礎にあるので、なんとなく普通より読みやすさはあるのかもしれないですね。
──たしかに、戯曲で……わかる気がします。今後やってみたい役はありますか?
見上 それ、ずっと悩んでいて、今までは「なんでもやってみたいです!」とか言っていたんですけど、最近コメディに挑戦してみたいという気持ちがすごく強くなってきて……。実はやったことないなあっていうのと、けっこうおちゃらけて中高ふわーっと過ごしてきたので、本気でお笑いをするというか、本気でやるからおもしろいという意味でのコメディって触れ合っていなかったなと思って。それは挑戦として、すごくやってみたいです。
──どちらかというとガチなほうの……ナンセンスコメディではなくて。
見上 そうですね。そういう意味では、ケラさんみたいなシリアスなブラックコメディみたいなものを将来的にできたらうれしいんですけど。まずは王道コメディみたいなものをやってみたいです。
日記的な意味も込めて脚本を書いています
──ちょっと仕事の話から外れるんですけど、趣味として観劇はあると思うんですが、それ以外に普段ハマっていることや最近始めたことはあります?
見上 あ、バレエに4年ぶりに通い始めました。運動があまりにも続かないのと、今ジムも閉じたりしちゃっているので、バレエならレッスンだし続くんじゃないかと思って、週1くらいで行き始めました。あとはなんだろう……脚本を、ちょっと書いたり。なんとなく課題という面もありつつ、書いておいて損はないかなという。その時々で書けるものは違っていて、もう書けなくなっちゃうものもあるだろうから、今思うことを書いておこうという、ちょっと日記的な意味も込めて書いています。記録みたいな感じです。
──日記代わりに脚本というのはすごい……バレエ歴は、どれくらいなんですか?
見上 年数だけでいうと3歳から17、8歳までやっていたので、すごく長いんですけど、前屈がずっとつかなかったレベルのバレエなんですよ(笑)。すごくゆるーいバレエで、教室の先生も優しい人だったので。「楽しくやりましょう」というのが前提だったから、すごく身体も硬いままで。トゥシューズも履いてはいたけど「立ててるのか、それ?」みたいな(笑)。
──そのバレエを今、あらためて始めて……。
見上 そうなんですよね。ちょっとリフレッシュするかなとは思っていたんですけど、超リフレッシュできますね! なんにも考えずに済むみたいな。
──バレエの魅力はどんなところですか?
見上 舞台に立つということを置いておいてレッスンだけでいうと……あの心地よい音楽で、こう、酔いながら動くっていうだけで気持ちいいです。背骨1本1本を指示されるんですよね。なんか「この背骨のここがちょっと、どうこう」みたいな話になってくるので。この動きをすると、ここが……それをずっと考えていると、ほかの考え事ができなくて。なんか悩んでいることがあっても一回全部リセットされるという気持ちよさとか、普段しない動きができる気持ちよさみたいなのもちょっとあります。舞台に立つと、それはそれで人に観られながら踊るという高揚感もあったりするんですけど。
──もちろん全部が全部ではないですけど、なんとなくバレエはどちらかというと身体表現じゃないですか、それと対局にある、脚本を書いていますという行為。すごく対になっているなあと思うし、そこがおもしろいなあとも思うんですけど……。
見上 ホントいろいろと興味があって、手を出しすぎちゃうんですよね(笑)。
──(笑)。書かれる脚本は、ムービーの脚本、ステージ用、どちらのイメージですか?
見上 ステージです! ムービーはたぶん書けない。何もない状態で書けるほどの才能は全然なくて、いろいろなものを観て吸収して、ちょっとずつ要素として入ってくるという感覚をもとに、今は舞台をイメージして書いてます。
──なるほど、いつかそれを実際に演じる姿を観たいですね。なかなか想像できないかもですが……3年後5年後、自分がどんな感じになっている? あるいは、どうなっていたいなあみたいなイメージはあります?
見上 いい意味で今と変わっていなかったらいいなと思います。今後、がんばって露出が増えたとして、大学も卒業して仕事だけというふうにどんどんなっていくと思うんですけど……そうなったときに生活にも軸を持つというか、いい意味で仕事だけにならないように。それだけの人になっちゃうのが怖いなと思っているので。普通の感覚というか、生活に主軸を置きながらいろいろな表現ができていたらいいなという理想はあります。
──今の学生生活との両立が大変というより、2軸があるから逆に今がいいという……。
見上 そうなんです。わりと学生の友達も多いので、そこにちょっと軸を置きつつ、なんとなく普通の大学生の感覚みたいなものも常に持ったまま行動できているのが、今の自分にはちょうどいいのかなというのがあって。今、本当にバランスが取れていますね。
取材・文=鈴木さちひろ 撮影=大塚素久(SYASYA) ヘアメイク=ムロゾノケイト 編集協力=千葉由知(ribelo visualworks) 編集=中野 潤、龍見咲希(BLOCKBUSTER)
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見上 愛(みかみ・あい)
2000年10月26日生まれ。東京都出身。2019年デビュー。その後、CMやMV、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS/2020年)、『ガールガンレディ』(MBS/2021年)、『きれいのくに』(NHK/2021)、映画『星の子』(2020年)、『キャラクター』(2021年)などへ出演を重ね、今後も数々の主演映画の公開が控えている。
『GIRLS STREAM 04』発売中。
▼同世代の女優さんの中で、ミーハー系じゃない、こんなに多くの舞台を観ている人はいないですよね?の問いには「ミーハーなのも大好きですよ! ちゃんと2.5次元とかも観ますから(笑)。『刀剣乱舞』なんかも観に行っているので。ショーとしても大好きです」