女優・志田彩良「今泉力哉監督の映画作品で主演をするのが目標のひとつでした」
#9 志田彩良(前編)
“今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載「focus on!ネクストガール」。
志田彩良(しだ・さら)。『ピチレモン』専属モデルとして活動後、映画『ひかりのたび』(2017年)で女優として長編映画初主演を果たす。その後、映画『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018年)、『mellow』(2020年)や、ドラマ『だから私はメイクする』(テレビ東京/2020年)などへの出演を重ね、大ヒットドラマ『ドラゴン桜』(TBS/2021年)では印象に残る「小杉麻里」役を演じた。今泉力哉監督映画作品への3作目の出演にして主演を務める映画『かそけきサンカヨウ』(10月15日公開)の公開を控える彼女へ、まずは今泉監督作品での来歴を中心に聞いてみた。
「focus on!ネクストガール」
今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。
まさかこんなに早く目標が叶うなんて
──今泉力哉監督作品を中心に、お話を伺います。映画『かそけきサンカヨウ』は、今泉監督映画作品としては3作目ですが、最初に話が来たときはどうでしたか?
志田 初めて今泉さんの作品に出演させていただいた『パンとバスと2度目のハツコイ』のクランクアップ後に、今泉さんから「いつか志田さんで主演作を撮りたいと思っているのでよろしくお願いします」とおっしゃっていただいて、そこから私の中でも「いつか今泉さんの作品で主演をする」ということがひとつの目標になっていました。
まさかこんなにも早く実現させていただけるとは思っていなかったので、とてもありがたかったですしうれしかったです!
──主演ということで、撮影中にチカラが入ったりしました?
志田 現場に入っている間は、あまりプレッシャーは感じていませんでしたが、クランクアップのときに一気に肩の荷が降りる感覚を初めて経験して……そのとき、自分でも気づかないうちにプレッシャーを感じていたんだなと思いました。
──前の2作品の現場と比べると、感じが違うという……。
志田 そうですね。『パンとバスと2度目のハツコイ』と『mellow』のときは、ただただ楽しんでやらせていただいたので。
──なるほど。『かそけきサンカヨウ』で演じた「陽」は、すごく気丈な子という感じの役だと思うのですが……役作りをするにあたって、今泉監督からアドバイスや演技プランに関する話はあったりしましたか?
志田 特に話していなかったと思います。今までの2作品では、こういうふうにやりましょうという話し合いをする機会が多かったのですが、今回の『かそけきサンカヨウ』の現場では、今泉さんと話をした記憶がありません。
少し不安もあったのですが……「今泉さんがOKっておっしゃるなら、絶対大丈夫だろうな」と思い始めてきて、安心してお芝居をすることができました。
井浦新さんの言葉で、肩の力が抜けて楽しく演じられた
──撮影現場に入る前に(窪美澄さんの)原作小説を読まれたりはしたんですか?
志田 はい。読みました。
──原作を読んでみていかがでした?
志田 原作を読んで、なんとなく作品全体のイメージも、(演じる)「陽」のイメージも自然と浮かんできて……すごく温かい温度を感じる作品だなと思いました。
──父親役を演じる(井浦)新さんとの共演はどうでしたか?
志田 撮影の前半で家族とのシーンを撮って、後半では友人たちとのシーンを撮影したのですが、友人たちとのシーンに入る前日に、新さんから「ここまでの撮影で陽の芯の部分だったり、強さや弱さなど、いろんな面が見られたと思うから、明日からのシーンは純粋に楽しんでおいで」とおっしゃっていただいて。
それまでは「明日からどう演じようかな」、「友達の前での陽って、どんな感じだろうな」って、すごく悩んでいましたが……新さんのお言葉をいただいて、学生らしく楽しめばいいんだなって吹っ切れました。おかげで肩の力が抜けてみんなと楽しくお芝居ができました。
──友人の中では、鈴鹿(央士)さんの演じる「陸」との微妙な関係性は、演じるにあたって難しかったんじゃないかと思ったんですけど、そのあたりはどうでしたか?
志田 央士くんとは『かそけきサンカヨウ』が初めての共演だったのですが、お互いに人見知りをしていて、なかなかコミュニケーションを取ることができませんでした(笑)。ですが、その関係性が「陽」と「陸」の絶妙な距離感につながったのかなと思っています。
この『かそけきサンカヨウ』のあとに(同じく共演した)『ドラゴン桜』の撮影をして、もし『かそけきサンカヨウ』が『ドラゴン桜』の撮影のあとだったら、また少し違う距離感になっていたのかなとも思っています。
──なるほど、撮影は『ドラゴン桜』があとだったんですね。今泉監督作品への初出演となった『パンとバスと2度目のハツコイ』の撮影時に、監督と会った第一印象はどうでしたか?
志田 すごくオシャレなホテルのカフェで、初めてお会いしたのですが、独特の雰囲気を持っていて不思議な方だなという印象でした(笑)。
──その後、演出を受けてみて、その印象はそんなに変わらず……。
志田 現場に入ると今泉さんのいろいろな面を見て、監督としてはもちろんですが、人としてもすごく素敵で尊敬しています。
撮影のとき、スタッフさんが少し失敗をして現場がピリっとなってしまったことがあって、そのときに今泉さんが「大丈夫、大丈夫! 気にしないで!」みたいな優しい声を率先してかけているのを見て、なんて素敵な監督なんだ!と。そんな温かい今泉さんだからこそ、作品自体の温度感も、あったかいんだなあって感じました。
“伝えること”と“思いやること”の大切さ
──『パンとバスと2度目のハツコイ』でも、今回の『かそけきサンカヨウ』でも劇中で「絵画」というファクターがあったと思うんですけど、プライベートで絵画を観たりはしますか?
志田 美術館に行ったりするのが好きで、ひとりでも行きますし、友人と一緒に観に行ったりもよくしています。自分で絵を描くことはないのですが、観るのは好きです。
──今回、役として、キャンバスに向かってみてどうでした?
志田 とても難しかったです。炭で描く絵をクランクインの前に練習させていただいたのですが、1本でも何回も重ねるとどんどん濃くなったり、色の光の加減など、色の出し方を表現することってこんなに難しいんだと思いました。
──あと今泉監督作品では、2作目となる『mellow』も、『かそけきサンカヨウ』も「告白すること」に向き合うシーンが印象的な気がするんですけど、『mellow』と今回とでは、演じるにあたって違いがあったりしましたか? 告白する相手も(『mellow』で田中圭さん演じる)年上の男性と、今回の同級生とで、少し違いますが……。
志田 どちらにも共通していることは「応え」を求めていないところで……ですが、伝えるけれど相手からの「応え」が欲しいというわけではなくて、相手に自分の気持ちを知ってほしかっただけみたいな部分は、すごく私も共感できます。
──『かそけきサンカヨウ』の現場で、ほかに何か印象に残っていることってありますか?
志田 妹役の「ひなた」ちゃんがパンを食べているシーンがあるのですが、カットがかかったときに新しいパンにスタッフさんが変えてくださって……ですが、その食べていたパンの形がひなたちゃんのお気に入りだったらしく「同じパンじゃないとヤダ!」と。劇中と同じように、かわいい怪獣で(笑)。「そのパンじゃないとヤダ!」って言うから、大人たちが総出で「同じパンを探そう!」って。
ですが、何カットも撮影していたので、どのパンかわからなくなってしまっていて、みんなで「あのパンはどこだ!」と大捜索して撮影がストップしたり……本当に、ほっこりしました(笑)。
──(笑)。では『かそけきサンカヨウ』を観る方へ、改めてメッセージをいただければと。
志田 コロナ禍ということもあり、メールやSNSを通してのコミュニケーションが増えてきて、直接相手に気持ちを言葉にして伝えるということが減ってきてしまっていると思うのですが、この作品を通じて、伝えることの大切さ、思いやることの大切さ、誰かに優しくしたいなという気持ちを、改めて思い出していただけたらうれしいです。
──ありがとうございます。引き続き、映画以外のことなど、いろいろと伺わせてください。
取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 編集=龍見咲希、中野 潤(BLOCKBUSTER)
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志田彩良(しだ・さら)
1999年7月28日生まれ。神奈川県出身。映画『ひかりのたび』(2017年)で女優として長編映画初主演を果たし、その後、映画『パンとバスと2度目の初恋』(2018年)、『mellow』(2020年)や、ドラマ『his~恋するつもりなんてなかった~』(メ〜テレ/2019年)、『だから私はメイクする』(テレビ東京/2020年)、『ドラゴン桜』(TBS/2021年)などへ出演。10月15日に公開する主演映画『かそけきサンカヨウ』では、複雑な家庭環境で生活する高校生「陽」役を演じる。
▼『かそけきサンカヨウ』10月15日より、テアトル新宿ほか、全国公開
STORY:高校生の陽(志田彩良)は、幼い頃に母・佐千代(石田ひかり)が家を出て、父・直(井浦新)とふたり暮らしをしていたが、ふたり暮らしは終わりを告げ、父の再婚相手である美子(菊池亜希子)とその連れ子の4歳のひなたと4人家族の新たな暮らしが始まった。そんな新しい暮らしへの戸惑いを、陽と同じ美術部に所属する陸(鈴鹿央士)に打ち明ける。実の母・佐千代への想いを募らせていた陽は、絵描きである佐千代の個展に陸と一緒に行く約束をする。