「やりたいこと以外のあらゆることをサボってきた」イラストレーター・大伴亮介のサボり方

サボリスト〜あの人のサボり方〜

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クリエイターの「サボり」に焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト〜あの人のサボり方〜」。

今回お話を伺ったのは、日常のちょっと残念な瞬間をイラスト化した「ワンシーン画」でにわかに注目を集めているデザイナー・イラストレーターの大伴亮介さん。肩の力の抜けたユニークな作品は、どのように作られているのだろうか。

大伴亮介 おおとも・りょうすけ
東京都出身。東京藝術大学デザイン科を卒業後、株式会社ナムコ(現・バンダイナムコ)のデザイナーになり、ゲームのインターフェースなどを手掛ける。現在はフリーランスのデザイナー・イラストレーターとして、広告などのビジュアルやイラスト制作、ロゴやキャラクターのデザインを行っている。

自分が勝負できるフィールドがデザインだった

──大伴さんは広告などのデザインやイラストを手掛けられていますが、デザイナーになったきっかけはあるのでしょうか。

大伴 デザイナーになりたいという気持ちよりは、「人をクスッと笑わせて、楽しい気分にしたい」という欲求のほうが強かったんですよね。子供のころから絵は得意だったので、漫画を描いて人に見せたり、図工の時間にみんなと違うものを作って目立とうとしたり。

それで美大にまで進みましたが、自分から何かを表現したいというタイプではなかったので、お題に対して答えていくというか、キャッチボールしながらビジュアルを作っていくデザインの道を選びました。だから、仕事をするようになってからも、自分の作風やタッチを際立たせるような絵の作り方とは別の道を模索することになったんですけど。

──図形や直線を使った簡潔なグラフィックは、そういった試行錯誤があってのものだったんですね。

大伴 そうですね。SNS上でも、ものすごい熱量で描かれた作品が次々と目に入ってくるじゃないですか。それを見て「いいなぁ」と思いながらモヤモヤしていた時期もありましたね。30歳ぐらいになって、諦めと開き直りの果てにたどり着いたのが今の形、みたいなところはあります。

「ワンシーン画」を描き始めたのも、「じゃあ、自分がSNSで発信するとしたら、どんな選択肢があるんだろう?」と考えたのがきっかけなんです。熱のこもった作品でもなく、おもしろいつぶやきでもなく、自分の得意なことでおもしろい発信ができないかなって。

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大伴さんの仕事例「六本木ヒルズクリスマス」のビジュアル

「ワンシーン画」は、走馬灯のNG集

──その発信が、なぜ「ワンシーン画」に着地したのか気になります。

大伴 まず、「走馬灯のNG集」みたいなアイデアがあって。死の間際に見るという走馬灯って、人生の素晴らしいシーンだけが編集されているじゃないですか。でも、そこでカットされたどうでもいいシーンのほうが多いわけで、そんな走馬灯から弾かれたシーンだけを集めたらおもしろいんじゃないかって、昔から考えていたんです。

そのアイデアを得意なグラフィックと組み合わせてみたのが「ワンシーン画」です。最初は2〜3コマの漫画にしたりもしていたんですけど、1コマで表現できることがわかったので、もう1枚の絵画ということにしてしまおうと、「静物画」や「風景画」のように日常のワンシーンを描いた絵画、「ワンシーン画」と名づけました。

──コンセプトや内容もさることながら、かなりの量の作品を発表していることもすごいと思うのですが、ネタはどうやって考えているんですか?

大伴 もともとネットのネタ企画に投稿したりしていたので、日常のおもしろネタみたいなものをずっとメモしていたんです。その中から「ワンシーン画」になりそうなものを形にしていった感じですね。今のところの作品数は700くらいになると思いますが、新たなネタも仕入れているので、継ぎ足しの秘伝のタレみたいにストックが残っている状態です。

「よくこんなに思いつきますね?」なんて聞かれることもありますが、僕としては「メモるか、メモらないか」だけのことだと思っています。誰しもの人生に起こり得ることを題材にしているので、気づいたときにメモするかどうかの違いというか。だから、頭の中だけで考えたネタはなく、基本的にすべて自分の身に起きた実話をベースにしています。

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「ワンシーン画」より。左上:「ハムがちぎれて取れるシーン」、右上:「となりの切手の破片が付いているシーン」、左下:「ハンガーが1個だけ逆向きなシーン」、右下:「スライス卵の黄身が抜けたシーン」
「ワンシーン画」を展開しているTwitter

誰でも描けそうなものを、どうおもしろくするか

──では、ネタをビジュアル化するときのルールやこだわりはあったりするのでしょうか。

大伴 タイトルがなくてもいいくらい、伝えたいことを過不足なく表現したいとは思っています。あれこれいじったりせず、ひと筆書きみたいにパッとできたもののほうが満足度は高いです。「折れ飛んだシャーペンの芯を発見したシーン」なんかはそのひとつですね。机の上に折れたシャーペンの芯が落ちているシーンなんですけど、線をピッて描いただけで、通常15分くらいかかるところが15秒でできました。

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「折れ飛んだシャーペンの芯を発見したシーン」

──「ワンシーン画」に限らず、大伴さんの作品には再現性がありつつ、ユニークな視点や工夫のあるものが多いですよね。

大伴 そう思ってもらえるとうれしいですね。「誰でも描けそうなもの」がテーマというか、円や直線で構成し、数値で簡単に表せる色を使って、どうやっておもしろい絵を作るかが勝負どころかなと思っています。

「丸シールおばけ」っていうワークショップをやったことがあるんですけど、紙コップに事務用の丸いシールを貼ってキャラクターを作るというもので、子供から大人まで誰でもできるんですよ。そこでどんなものを作るか、どうおもしろみを出すかを考えるのが楽しいんです。

丸シールおばけ

丸シールおばけ

「サボり」をサボりと思わなくてもいいのでは?

──得意なことを見つけて楽しめるようになると、「サボりたい」という気持ちってあまり起きないものですか?

大伴 たしかに、好きなことを仕事としてやらせてもらえているので、サボりたいという気持ちにはなりませんね。ただ、好きなこと、やりたいこと以外のあらゆることをサボってきたとは思います。勉強したり、人の作品を観たりすることも、気持ちが向かなければやりたくなくて。

でも、それを「サボっている」とは思いたくない。「サボる」って気持ちの問題だと思うんですよ。罪悪感を覚えないように自分の心に働きかければ、「サボっている」ことにはならないというか。自分の場合は料理が得意ではないのですが、それをやらないことを、「サボり」と考えるか、別の得意なことに時間を使っていると考えるか、みたいな。いい方向に考えたほうがいいんじゃないかと思います。

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無心になれる、「トリ道具」の保護

──「サボり」は息抜きでもあると思うのですが、大伴さんが別のモードになれる、心が切り替わるような時間はあるのでしょうか。

大伴 当てはまるとしたら、「トリ道具」を探す時間でしょうか。鳥をモチーフにした道具、日用品をコレクションしているんですけど、探している時間も好きなんです。今はネットでいろんなサイトやオークションをチェックしていますが、自分の中では「保護している」という感覚で。

ほかの人がやっていないことも重要で、おそらく日本一のコレクターなんじゃないかと自負しています。趣味というよりは専門家として研究に取り組んでいるという意識でして。だから、欲しくないものでも見つけてしまった以上は保護しなくてはならないので、しぶしぶポチったり……。

「トリ道具」コレクションより

大伴さんが保護した「トリ道具」たち(撮影:大伴さん)

──でも、それが無心になって楽しめる時間なんですね。

大伴 そうですね。あと、無心になるといえば、「ワンシーン画」を描いている時間も近いかもしれません。コロナ禍でも、「ワンシーン画」を描いているときは心が常温に保たれているような感覚で、だいぶ助けられました。自分にとっては大事な時間ですね。

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撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平

サボリスト〜あの人のサボり方〜
クリエイターの「サボり」に焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載。月1回程度更新。

 

サボリスト〜あの人のサボり方〜