「ウソとホント、仕事とサボり、あいまいだからおもしろい」吉田悠軌のサボり方

サボリスト〜あの人のサボり方〜

 

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クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト〜あの人のサボり方〜」

今回は実話怪談界をリードする怪談・オカルト研究家の吉田悠軌さんに、怪談との出会いやこれまでの活動、実話怪談の魅力などについて聞いた。「虚実のあわい」にあるという怪談が、なぜブームと呼ばれるまでに広まっていったのだろうか。

吉田悠軌 よしだ・ゆうき
怪談・オカルト研究家。早稲田大学卒業後、ライター・編集活動を開始。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長として、オカルトや怪談の研究をライフワークにしている。TBS『クレイジージャーニー』など、さまざまなメディアに出演。テレ朝動画『あなたのまだまだ知らない世界』ではナビゲーターを務めている。怪談に関する著書も多数。近著として、『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』、『現代怪談考』などがある。

好きで始めた怪談が、やがて仕事に

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──吉田さんが怪談の道に進んだのは、稲川淳二さんの怪談に出会ったのがきっかけだそうですね。

吉田 はい、2005年ですね。もちろん、小さいころから怖い話などには触れてきてはいましたが、「怪談をやりたい」と思ったのは社会人になってから、まあ、就職できず社会人にはなれなかったんですけど(笑)、稲川淳二さんのライブを観たのがきっかけですね。それで、一緒にライブに行った今仁(英輔)さんという人と怪談サークル「とうもろこしの会」を立ち上げました。

最初は仕事にしようとか、お金にしようとかいう気持ちもなく、怪談好きの人とただ飲み会をやっていた感じで。当時は今ほど怪談が一般に浸透していなかったので、普通の飲み会で怪談の話をすると引かれたというか……まあ、今でもそうでしょうね(笑)。それで、数少ない同好の士と怪談について語り合っているうちに、だんだんLOFT(新宿などにあるトークライブハウス)なんかでイベントをするようになったというか。

──だんだんお仕事として活動できるようになっていったと。

吉田 時代がよかったんですよね。業界で怪談のプレイヤーを育てようという動きが起こったタイミングだったので。怪談をリードする出版社の竹書房が新人発掘のために『超-1』という実話怪談著者発掘の大会を始めたり、LOFTでも若手の怪談プレイヤーで新しいイベントを企画していたり。それがちょうど2005~2006年くらいだったんです。

私も書き手と語り手の2本柱で活動するようになりましたが、それでも職業にできるほど稼げるまでには7~8年かかっています。その間はずっとバイトをしていました。営業前の居酒屋を借りてイベントをやっても、お客さんがふたりだったこともあって……それこそ『浅草キッド』みたいな状況でしたね(笑)。

30年以上の歴史の中で広がっていった「実話怪談」

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──そこから吉田さんが怪談を仕事にできるようになったのは、何か転機などがあったのでしょうか。

吉田 ある時期を境に大きな変化が起きたわけではなくて、怪談がだんだん社会に受け入れられ、仕事が増えていったという感じですね。やっていることは変わらないのですが、本を出したり、イベントをやったり、メディアに出たりする機会が多くなった。

昨今の怪談は主に本当にあった怖い話である「実話怪談」と呼ばれるものなのですが、私はその動きを15年スパンで3期に分けています。第1期は1989年~90年くらい、平成とともに始まっていて、私は第2期が始まる2005年くらいから活動を開始しました。そして、平成とともに第2期が終わり、令和とともに第3期が始まった。こうしてゆるゆるとシーンの裾野が広がっていったというイメージですね。

──3期の違いというのは、どういったところにあるんですか?

吉田 第1期はすでに名が売れている作家さんの本やイベントを楽しむような受け入れられ方でしたが、第2期になると、一般の人も「怪談をやろう」とプレイヤーとして動き出すようになりました。私も含め、名もない怪談好きたちがインディーズでバンドを始めるように怪談を語るようになったんです。

そして第3期になると、インターネット配信によってプレイヤー数が爆発的に増えました。YouTubeなどで手軽に配信・視聴ができるようになり、熱心な怪談ファンだけでなく、ライトユーザーと呼べるような人も増えたんだと思います。令和になってから、ほかの業界の方から「今、怪談ブームだよね?」と言われるようにもなりました。

虚と実のあわい……「実話怪談」の不思議な魅力

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──吉田さんの考える「実話怪談」の特徴や魅力などについて聞かせてください。

吉田 ジャンルとしては、実際に不思議な体験をした人がいて、その体験者への取材をもとにしたレポートであるというのが実話怪談です。怪談はそもそも、信ぴょう性やリアリティのグラデーションはあるにせよ、「本当にあった怖い話」のはずですよね。実話怪談はそれをより明確にし、少なくとも体験者は本当にいる、自分で取材したのでその点は担保します、というルールを徹底しています。

私は実話怪談を、書き手や語り手とその受け手が一緒に育てていった、ひとつの文化運動として捉えています。自分が2005年に出会ったときも、「これは新しい、来るな」と文化的な広がりを感じて、「一生やる仕事だな」と確信しました。自分がもっと深掘りし、広げていくべきだと。

──その新しさとは、どのようなところにあったのでしょうか。

吉田 実話怪談は人の体験談なので、小説のように作家がゼロから創造した作品ではありません。また、リアルなレポートではありますが、ドキュメンタリーやルポルタージュともちょっと違う。不思議な体験を扱うので、体験者はウソをついていなくても、結局、それが証明・検証できる事実かどうかはわからない。本当か事実かということを、きっぱり分けられない。そういった虚実のあわいが、魅力的で新しいと感じました。

私たち怪談好きは、不思議な現象を「本当にあるんだよ!科学的に証明できるんだよ!」と主張しているわけではないんです。証明できるとは思っていませんし、証明できちゃったら怪談じゃないと思っています。でも、不思議な体験をした人がいるのは事実で。私だけでも何千人と取材していますが、みんながウソをついているとは考えにくい。だったら、不思議な体験があるということを楽しみましょうと。肯定と否定の二元論ではなく、その先のステージで考えています。

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──受け手の人たちも、吉田さんのように「ウソかホントか」を超えて不思議な現象を楽しんでいるんでしょうね。

吉田 そうですね。社会におけるリテラシーが変わったというか、「どうせウソでしょ?」と、怪談は科学的思考ができない人が楽しむものだと切って捨てられるようなことが、だんだんなくなってきたと思います。

実話怪談を楽しんでいる人たちは、日常とは異なる世界、異界のようなものがあるかもしれないことに、恐怖やワクワクを感じている。それって、ある種の救いになったりもするじゃないですか。

──自分が知っている世界がすべてではない、という感覚が楽しみや救いにつながるのはわかる気がします。宇宙探査なんかもかつてはそういった魅力があったんでしょうね。

吉田 つまり「秘境」ですよね。ネット社会になって情報がグローバルに共有され、Googleマップが登場したことで、地理的な意味での秘境はなくなりました。日本でも、90年代までは山奥に誰も知らない村落があるんじゃないかという噂があったりしたんですよ。でも、実話怪談では誰かの身近な体験として不思議なことがある。今はそういう話が求められていると思います。

「俺がなんとかしなきゃ」怪談シーンは終わらせない

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──吉田さんは体験者に取材するだけでなく、現地を取材したり文献にあたったりと、怪談を研究するような活動もされていますが、活動としての違いはあるのでしょうか。

吉田 体験者に聞いた話を語ったり文章にしたりする表現的な活動も、現場や文献にあたる批評的な活動も、根本的には同じものだと思っています。実話怪談はそのすべてを組み込める、広がりのあるジャンルなので。誰かの体験談を語り、作品にするのもある種の批評行為なんですよね。人から聞いた体験談をこちらで再構成し、編集して世に出すわけですから。

また、怪談イベントでは、誰かの話にほかの演者が「その話って、こういうことなんじゃない?」と感想を言い合うことがよくあるんですけど、その解釈、つまり批評自体が怖かったりもする。怪談というジャンルはクリエイション(作品)とクリティーク(批評)の境がないんですよね。だから、新しいんだと思いますし、21世紀になって流行っているんでしょうね。

──では、今後の怪談シーンはどうなっていくのか、またご自身はどう活動されていくのか、お考えを聞かせてください。

吉田 「業界がどうなるか」と受動的に眺めるのではなくて、「俺がなんとかしなきゃ」とは思っていますね。せめて私が老後を迎えるまでは、怪談業界を存続させたいので(笑)。若手も食っていけるようにするために、業界の整備、マネタイズできるような仕組み作り、後進の育成などに意識的に取り組んでいます。まだまだ怪談業界を盛り上げていきたいですね。

仕事の中の「快楽」を見つけてサボる

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──吉田さんの「サボり」についても伺いたいのですが、お仕事中についサボってしまうことはありますか?

吉田 自分の中では、ほぼサボってるなという感覚です。ちゃんと仕事をしているのは1日2時間くらいかもしれない。「もういいや、本でも読んでよう」って寝転んでサボっているつもりでも、読んでいるのは資料なのであいまいなんですけど。でも、調査も、文献にあたることも仕事としてカウントしていないんです。

すごい極論ですけど、全知全能の人なら何も調べなくても完全なる正解を書けるわけですよね。調べないで書けたほうが偉いんだけど、調べないと書けないから仕方なく調べていると自覚すべきであって、こちらから自慢してはダメというか。資料を求めて国会図書館に通ったりもしますが、手足を動かして、ひたすら調べればいいわけで。たとえば毎日20kmを血ヘド吐きながら走っているというのとは違う。他人に指摘されるならともかく、自分から「努力してる」「これだけ取材してます」とは言わないほうがいいなと思っています。あくまで好みの問題ですが。

──他人から見たら煩わしいことが苦にならないという意味では、調査などは向いていることなんでしょうね。

吉田 性には合っているんでしょうね。資料にあたるのが一番の息抜きだったりもしますし、単純に楽しいので。半信半疑で調べていたネタの気になる点を調べていくうち、その元となる情報が本当にあったんだと発見できたときは、めちゃくちゃテンションが上がりますよ。そういった意味でも、苦行に励む努力の類いではない。自分にとって、やっぱり努力ではなく快楽なんですよね。

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──では、怪談とは関係なく妙に好きなこと、ハマっていることなどはありますか?

吉田 歩くことですね。都内をあちこち歩いているうちに、結局、怪談につながってしまうことも多いんですけど。怪談がささやかれる場所は、たいていアップダウンのダウンに当たる地形で、かつて川だったのが暗渠(あんきょ)になっていたり埋め立てられていたりするような元水場、そういう場所ばっかりなんです。

でも、怪談に出会う前からめちゃくちゃ歩いてましたね。バイト中に電車賃を浮かせるために歩いたりもしていましたが、それも好きだから歩いていただけで。今でもよく歩いています。こんなご時世になる前は、よく缶チューハイを片手にラジオを聴きながら歩いていました。

──だいぶエンジョイしてますね(笑)。

吉田 いかがなものかとは思いますが……(笑)。私、お酒は好きなんですけど、お店にはあまり行かないんですよ。ひとりでは行かないし、人を誘って行くこともない。仕事のあとの打ち上げは大好きなんですけどね。だから、わざわざ外に出て歩いて飲んでいたんです。

──何か目的やゴールを決めることもないんですか?

吉田 そうですね。メンチカツのおいしい店を調査しているので、気になる店の近くを通ったら買ったりしますけど、基本的に何も決めていません。なんなんでしょうね、本当に単純に歩くのが好きなんです。

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撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平

吉田悠軌さんがMCを務めるテレ朝動画logirlの怪談番組
『あなたのまだまだ知らない世界』が「TVer」で配信中!
同じくテレ朝動画logirl『恋する怪』も「TVer」で配信中!

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