「楽しめるうちは、全力で楽しみきる」MBのサボり方
クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト〜あの人のサボり方〜」。
今回お話を伺ったのは、ユニクロの商品解説や着こなし術など、ファッションを苦手とする人たちのための情報を発信し続けているMBさん。ファション業界を盛り上げようと動き続けるMBさんの多岐にわたる活動や、心休まる時間などについて語ってもらった。
MB えむびー
ファッションバイヤー/ファッションアドバイザー/ファッションブロガー/作家。ユニクロをはじめとするファストファッションを対象にした論理的な「お金を使わない着こなし法」が注目を集め、書籍、ブログ、メルマガ、YouTubeなど、さまざまな媒体で情報を発信。著書『最速でおしゃれに見せる方法』やマンガ『服を着るならこんなふうに』(企画協力)など、書籍の発行部数は累計200万部を突破し、有料メルマガは配信メディア「まぐまぐ!」にて個人配信者として1位をマーク。2022年1月29日には、新刊『MBの偏愛ブランド図鑑』が発売される。
楽しめるうちは、ひたすら突っ走る
──動画を拝見することが多いので、YouTubeの印象が強いのですが、幅広いメディアで活動されていますよね。
MB YouTubeはほぼ毎日更新していて、登録者数も37万人を超えましたけど、始めたのは2年前くらいなんですよね。この仕事を10年ほどやっていて、主な実績となると書籍のほうが強いかもしれません。本は30冊ぐらい出版されていますし、マンガやライトノベルを監修したり、ビジネス書を手がけたりもしているので。
ほかにも有料メルマガやオンラインサロン、オリジナルブランドの販売、アパレルとのコラボレーション、講演会、メディア出演などもやっています。だから、とにかく打ち合わせが多くて。あとは執筆や撮影でスケジュールが埋まるので、年間ほぼ休みなく活動しています。
──サボるヒマなんかないですね……。
MB 旅行が好きなので、コロナ前は国内海外、いろんなところに出かけてはいましたけどね。旅先でもほとんどパソコンに向かっているんですけど、場所が変わるだけでも気分転換になって楽しいんです。飛行機に乗るのも好きですし。
自分としては洋服が好きでやっていることであって、そこまで仕事をしている感覚もないんですよ。「休みがない」と言うと驚かれますが、精神をすり減らしながら働いている感じではないというか。
──好きなことを楽しんでいる感覚に近い。
MB そうですね。だから楽しくなくなったら、スパッとやめてしまうかもしれません。無理して続けるつもりはないですね。
日本一、「ファッションに興味のない人」のことを考えた
──ユニクロを扱ったアドバイザー的な活動を始められたのは、どんなきっかけからなんでしょうか?
MB パリのファッションシーンが好きで、コレクションを20年ぐらい追いかけ続けているんです。革新的で新しいトレンドを生み出すのは、やっぱりパリなんですよ。ただ、そんな話をしてもわかってくれる人は限られてくる。だったら、ファッションに興味を持ってくれる人を増やして、全体のレベルが上がっていい服が市場に出回るようにしよう、パイを増やそうと考えたんです。
でも、そこで着こなし法やおすすめのアイテムを紹介しても、商品を手に入れて実践できなかったら意味がない。実際に着て「たしかにカッコいい」「褒められた」と実感する体験がないと、市場はふくらまないはず。だからユニクロなんです。47都道府県津々浦々に店舗がしっかりあって、なおかつ同じアイテムを展開しているとなると、ユニクロしかないんですよね。
──ファッションに興味がない人にアプローチするため、リサーチなどもたくさんされたのでしょうか。
MB たぶん、日本で僕以上にファッションに興味のない人のことを考えた人はいないっていうくらい考えました。死ぬほど考えましたね。アパレルの販売員だったころから、彼らがどんなことに困っていて、どんなところで服を買っているのか聞いたり、リサーチしたりもしていましたし。
自分のセンスを押しつけるのではなく、論理的な提案とターゲットの需要をつなげる作業が必要だと思ったんです。だから、リサーチをもとに「足が短くてパンツが似合わないと思ってる人には、こういう提案をすればいいかな」といった事例をひたすら考えました。あらゆる課題に応えられるように、すべて準備してからコンテンツを作ったんです。
──最初にブログを始められたそうですが、先々のコンテンツまであらかじめ用意していたんですね。
MB 本当はやりながら改善していったほうがよかったと思いますけどね。ヘンに完璧主義なところがあって(笑)。どんな疑問や反論にも、100%返せるようにしておきたかったんですよ。それに内容だけでなく、ファッションに興味がない人に届けるためのタッチポイントも考えていました。
みんなが洋服のことで悩むのって、主に結婚式やライフステージが切り替わるタイミングなどですよね。だから、「スマートカジュアル」「結婚式の2次会スタイル」「上司の着こなし」といった検索キーワードを押さえるようにしたんです。おかげで準備期間はすごく長くなりましたけど、ブログを始めて半年で月間40万PV獲得できるようになりました。
──「言われてみると当たり前のようだけど、そこまでやらないな」ということを徹底的に実行されているように感じます。
MB ブログに続いてメルマガも始めたんですけど、とにかく顧客を逃さないようにしていました。よく水とバケツにたとえられるんですけど、集客という水が流れても、バケツに穴が空いていると顧客にはならず、どんどん流れ出てしまう。僕の場合、水の量は少なくても、バケツの穴をふさいで確実に顧客になってもらうように努めました。僕にしか出せない情報を発信し、読者が1,000人規模になっても質問にはすべて返信するといった感じで。
たぶん、自分に自信がないんですよね。だから、人の3倍、4倍時間をかけて、できることをとにかくやる。それだけなんです。
一番の喜びは、「おしゃれが楽しい」と思ってもらえること
──入念にリサーチとシミュレーションを重ねてコンテンツを展開されたわけですけど、読者の質問に答えるなど、ユーザーと触れ合うことによるフィードバックもあったのではないでしょうか。
MB いっぱいありましたね。予想もしないことで悩んでいるんだと驚いたり、思った以上にこちらの言葉が伝わらず、繰り返し発信したり、書き方を変えてみたり。「僕は身長175センチなので、このアイテムはLサイズを選んでいます」と書いたら、「MBさんおすすめのLサイズを買いました!」と身長190センチ近い方からメッセージをもらったこともありました……(笑)。
それこそ、「コーディネートのバランスは、ドレスとカジュアルで7対3に」と10年間言い続けていますけど、「どうですか?」とメルマガに全身カジュアルの写真が投稿されるなんてこともけっこうありますから。でも、自分の中に「こういう言い方をすれば、みんなに届くだろう」っていうおごりがあったんだと思うんです。相手に届く言葉をちゃんと考えなきゃいけなかった。
──どのように伝え方を変えていったのでしょうか?
MB 僕が言葉を届けようとしている人たちが、どんな暮らしをしていて、どんなことを考え、どんな言葉を求めているのかまで考えて、伝え方をブラッシュアップしていきました。「このパンツはシルエットも素材もよくて、どんなトップスにも合わせやすいです」といった言い方ではなくて、「家族と土日に出かけるなら、このパンツはぴったりなのできっと褒められますよ」などとシチュエーションも含めて伝えるとか。
ただ、僕が言ったことを100%忠実にやってほしいというわけではないんです。みんなにファッションに興味を持ってもらって、「おしゃれが楽しいな」って感じてもらうことがゴールなので。
──ユーザーの方々の変化を感じられることが、やりがいにつながっている。
MB はい。服に興味のなかった人が、今や服が趣味になってハイファッションを楽しんでいるなんて聞くと、やっぱりうれしいですね。うつ病に悩んでいたけれど、通販でユニクロの服を買ってみたことをきっかけに外出できるようになったという方もいました。人生を変えるお手伝いもできるかもしれないと思うと、やりがいを感じます。
いつかは「自分のための服作り」に没頭してみたい
──ご自身でも常にファッションに触れていかなきゃいけない部分もあると思うのですが、どのくらい商品を買ったり、展示会に行ったりされているのでしょうか。
MB 洋服には年間で2,000万円くらい使っています。個人的に好きなブランドのものもいろいろ買いますし、ユニクロが出しているメンズ服は、ほぼ全型買っていると思います。
──すごい……! 全部は着れないですよね。
MB 体はひとつしかないので、なかなか着れないんですよね。でも、みんなと同じ目線に立たないとわからないこともあると思うので、ユニクロの服も自分でお金を出して買って、自分で着てみることを大事にしています。
それに、ファッション業界に少しでも還元するために、僕ぐらいはきちんと定価で買って、業界にお金をまわしていかないとな、という思いもあります。これは僕だけでなく、アパレルに関わる人たちに共通する感覚だとは思うんですけど。
──MBさんの場合、商品を魅力的に紹介するだけでなく、ご自身がメディアに出演される機会も増えているかと思いますが、それもあくまでファッション文化を広めるため、ということなのでしょうか。
MB マスに文化を広めるためにも、お仕事をいただいた以上は一生懸命やっています。ただ、本音を言えば表に出るのは苦手で……裏方として自分でミシンを踏んでいたいという気持ちのほうが強いですね。自分で服のモデルをやるのも、体型の整ったモデルよりも説得力があるからという理由だけなんです。
──「スパッとやめるかもしれない」とおっしゃっていましたが、将来的なビジョンとしては職人的な働き方をされたいと。
MB そうですね。いつかは1日10人くらいしか来ないお店で、自分で洋服を作って販売するような活動にシフトしていきたい。社会のため、業界のためという“広げる”方向から、自分の価値観を“深める”方向に移していくというか。最低限生きていけるだけの売り上げでいいので、自分のこだわりを追求してみたいという思いはありますね。
運転しているときは、何も考えない時間を過ごせる
──現状、休みなく働いていらっしゃるとのことですが、「サボり」と言えそうなMBさんなりの気分転換、息抜きはありますか?
MB 車の運転はすごく好きですね。夜中に車を走らせて、首都高をぐるぐる回るだけでも気晴らしになります。以前は、ふらっと車で名古屋ぐらいまで行って、現地でホテルを探す、といったこともやっていました。6時間かけて大阪に行って、特に何をするわけでもなくそのまま帰ってくるとか。
──純粋に運転している時間が好きなんですね。仕事と同じで、好きだからこそできることだと思います。
MB そうですね。車を選ぶ基準も、あくまで乗り心地です。何も考えずぼーっと運転している感じが好きで。だから、いずれコロナが落ち着いたら、車で日本一周しながら自分の読者さん、フォロワーさんに会いに行くという、InstagramやYouTubeと連動させた企画をやりたいんですよね。
──日常のルーティンのような、生活のリズムを作ったり、頭を切り替えたりするために習慣化していることはありますか?
MB 瞑想ぐらいですかね。10年ぐらい続けていますが、瞑想も頭が空っぽになるからいいんです。ちょっとスピリチュアルな感じがしますけど、科学的にも効果が証明されているんですよ。
頭の中を空っぽにするのって、けっこうむずかしいじゃないですか。脳は常にアイドリング状態というか、何も考えていないつもりでも動き続けているので。その動きをある程度止められるのが瞑想らしいんですよ。
──趣味はドラムとのことですが、ドラムを叩いている時間は無心にならないんですか?
MB ドラムは違いますね。腕の動きなどを確認しながら、コツコツと技術を磨いていくというか、だいぶ考えながらやっています。小学生のときに始めて、プロを目指したこともありました。だから、今でも「プロになれないかな」って気持ちがちょっとあるんですよね(笑)。
撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平
「サボリスト〜あの人のサボり方〜」
クリエイターの「サボり」に焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載。月1回程度更新。